日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「残すべきか」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:本、兵士、馬鹿】


 そもそも、一体何が原因でこうなってしまったのか?
 いつから、一体彼らは何度繰り返してきたのだろう?

 人々は原始の森を切り拓いてきた。食糧の為、より良い暮らしの為。切り拓きやがて更地
となったそこには集落が、時を重ねるごとに巨大な都市が形成されていった。
 見渡す限りの、広大な繁栄の象徴。
 自然にひれ伏すのではなく、自らの膝元に屈服させる。
 さもそれが当然であるかのように、人々の意識は時と共に改革され、都市は国家は成長を
続ける。人が増え、物が増え、都市は飽和していった。その度に都市は更なる四方へと延長
されていき、遥か遠くの大地までが人の手によって呑み込まれる。
 ……だが、それも今や昔の話だ。
 言ってしまえばその軋みが限界を超えたからか。繁栄を謳歌していた人々は、やがて互い
に争いを繰り返すようになり、遂には幾つもの勢力に分かれた戦乱の世を招いた。
 今は昔。かつての都市はことごとく破壊され、風が巻き上げる砂と荒地の中に辛うじて残
骸を残しつつ沈んでいく。
 廃墟となった国々で、それでも尚人々は殺し合った。
 物陰に隠れては飛び出し、銃撃を放つ。上手く敵兵を討ち、或いは逆に討たれ、そこかし
こで鮮血が飛んで一人また一人と兵が倒れていく。空では巨大な飛空艦が唸りを上げ、互い
に砲撃をぶつけ合う。或いはバラバラとまだ息を潜める地上へ無数の爆弾を投下する。
 常に幾つもの爆発が大地の上に圧し掛かり、その荒廃は悪化の一途を辿る。
 しかし人は戦うことを止めない。
 利権、思惑、或いは意地。様々な我執は人々に引き金をひかせ続け、地上は原初の、かつ
ての自分達の繁栄すら今や跡形も無くくすんだ黄色い大地の中に埋没していく。

 そんな最中、地下深く掘られたシェルターの中で喧々と議論を交わす者達がいた。
 戦火から逃れて移してきたのだろう。彼らの背後、正面奥の壁にはびっしりと書物を詰め
込んだ巨大な本棚がいくつも並び、議論の行方を見守っている。
 陣営は二つに分かれていた。
 一つはとある国の王と、主に若い学者達を中心とするグループ。
 もう一つはこの王の側近と、とある老学者を中心とするグループだった。

「──やはり私は反対だ! 折角ここまで逃がしてきた書物達を焼き払うなど……!」
「そうです! ここにあるのは全て、我が国が脈々と受け継いできた叡智の結晶ですよ!」
 議論の関心は、他ならぬこの膨大な書物──古代より伝わる様々なテクノロジーをどうす
るかという一点に尽きた。
 国王や若い学者達が大きく頭を振っている。この国は度重なる戦乱の中、とある強国に目
を付けられ、今まさに攻め滅ぼされる間近にあった。それでも命辛々、王ら要人達はこうし
て地下へと逃げ込み、母国が誇るこの無数の書物をどうするべきかと延々話し合っている。
「私達だけのものではない。これらは、人類の財産だ!」
「……じゃがそれを、五皇連邦(やつら)は狙っておる。このままでは儂らの命もろとも奪
われるのは必至じゃろうて」
 敵の手に落ちるくらいならいっそ……。そう提案したのは、他ならぬこの国でも屈指の頭
脳と謳われた老学者だった。だからこそ、彼を信じて共に研究に励んできた他の学者達は、
戸惑いながらも総じて断固拒否の姿勢をとっている。
 だがたっぷりと間を置き、酷く落ち着いたままこの老学者は言った。
 地上では、友軍兵たちが必死になって侵攻に抗っている。しかしその数も武力も相手に劣
っている現実がある以上、彼らが突破されるのも時間の問題だ。
「だ、だからといって、我々が燃やしてしまうなんて……」
「そうだ。文献の中には、太古の戦についても記述がある。この戦いもそう、我々は後生に
この争いも過ちも、伝える義務がある!」
「それでも貴方は学者か!? 王国一の賢者と呼ばれた貴方が、何故……?」
 煤と傷だらけの国王を取り巻くようにして、若い学者や多くの家臣達が並んでいる。
 その少なからずがこの老学者の──国が誇る賢者の“掌返し”ぶりに沸々と怒ってさえい
るようにみえた。裏切りだと思ったのだ。
 なまじ武力もそう優れている訳ではなく、学問を高めて治められてきた国だ。彼らにとっ
て知とは力であり、同時に自分達そのものだったのである。
「……儂らが少しでも生き残れば、書物は後から幾らでも書き残せよう。だが今、残されて
いるものを捨てなければ、先達の叡智は間違いなく奴らの手に渡る。そうなればより効果的
に効率的に、人が死ぬだろう。国が滅んでいくだろう。……奴らに勝てなくとも、その蛮行
の片棒を担ぐことくらいは、防げるのではないかの?」
「っ、しかし……!」
「屈せよというのか!? まだ地上では兵らが必死に戦ってくれているのに!」
「我らマギニカの誇りまで、貴方は捨てろというのか。私に、そんな決断を──」
「陛下、どうかご理解いただきたい。限られた人間達の意地とこの先の不確定無数の人命、
どちらが守るに値するか。賢明な陛下ならお分かりいただけると存じています」
 王が喉に想いを詰まらせながらも、悲痛な叫びを放とうとしていた。
 しかし無情にもそれを遮ったのは、この老学者の側についたかつての王の側近であった。
撫で付けれた薄灰の髪の乱れを時折直しながら、彼は淡々と迫る。
「っ、だが……」
「止められないのか、もう」
「お終いだ。もうこの国は、奴らに……」
 極限の状態で、二つを天秤にかける。
 時折遠く頭上で響く爆音が漏れ聞こえ、パラパラと天井の土が零れ落ちてきていた。決断
を迫られる。学者達も家臣達も、突きつけられた現実と次善に、がくりと大きく項垂れ始め
ている。
「……できるのか? 私達に。この連綿と続いてきたものを、絶やしていいのか」
「これらは、人類の財産なのに」
「後生に、伝えなければいけないのに」
「……」
 そんな最中だったのだ。項垂れた者達。長い沈痛が降りてゆく彼らとこの場に、それまで
一旦引いていた老学者が更なる言葉を投げ掛けたのである。
「本当にそうかの?」
「えっ?」
「本当にそうかの、と言っておる。お前さんらはこの書物らを大層重宝しておるが、本当に
儂らはこれらを“伝え続け”なければならんのかの?」
「? 何を……」
 だから最初、こと若い学者達は彼が何を言っているのかよく分からなかった。
 当たり前のことを。それが自分達の仕事であり、使命ではないのか?
 しかしこの老学者は、じっとそんな彼らの思考をまるで見透かしている。細めた目は何処
か嘲笑めいていて、しかしとても哀しくも映る。
「本当に儂らは“憶え続けて”なければならんのかのう。時には“忘れる”ことも必要では
と、この歳になって思うんじゃよ。……その意義を見失わぬならまだよい。じゃがただ忘れ
ぬことばかりが目的となってしまい、前(みらい)へ進ませぬ愚の方便となるのであれば、
寧ろ人にとって害悪じゃ。ただ徒に、かつての哀しみや憎しみを思い起こさせるだけで何も
生み出しはせん」
「それは……」
「で、ですが。記録が残っているからこそ、我々は知ることができるのです。同じ過ちを繰
り返さないことも、繰り返させないこともできる」
「ほほっ。教科書通りの回答じゃのう……。もしそんなに賢明なら、人はこんな大乱など起
こしはせんと思うがの?」
 力ない哂い。はたと漏れた正論に、若い学者達や王までが、ぐうの音も出ないほどに押し
黙ってしまった。
 老学者(かれ)は皺くちゃの頬を、白い顎鬚を撫でながら続ける。
 言ってしまえば諦観。歳月と共に観続けた、他人と己の性を告白するように。
「……のう、皆よ。儂らは随分と理想的思考(はこにわ)の中でばかり生きてきたような気
がしてならないんじゃ。特に儂ら学者という生き物はの。……思うに、内に向かうか外に向
かうかでしかないのではないかのう? 己の為に思考を捏ね回し、武力を振りかざし……。
その実、瑣末な差のように思うんじゃ。じゃから『繰り返させない』とは、儂からすればま
た随分と上から目線な気がするぞい。だから何も変わらん。ただ外に向けられたエネルギー
が人々を掻き回し、しかしいずれはそれも全て押し流されてしまう……」
『……』
 誰かを責めるでもなく。いや、自らを含めた全ての者達に等しくだ。
 しかしそこで彼らにその咎を背負わせようとは、彼はもう思わなかった。そんな営み、過
程自体が大よそ益体のないものだと感じるようになって久しい。王達も、そう遠く地上の方
を眺めている彼を見つめながら、じっと口を噤んでいた。ただ無力感だけが、各々を包む。
『──ッ!?』
「ま、また揺れ……」
「報告します! 連邦の飛空艦が我が国の制空権を突破、首都中心部への本格的な空爆を開
始しました! 陛下、急ぎ脱出の準備を!」
 そして響き渡った、今までにないほどの爆音と揺れ。
 地下通路から兵士が慌てて伝令に駆けつけ、事態の緊急を知らせた。
 王や家臣、若い学者達や老学者が互いに誰からともなく顔を見合わせる。
「……潮時ですな」
「陛下。書物を」
「仕方……ないのか」
 最後の最後まで口惜そうに王は呟いていた。しかし老学者と側近に押し切られる形で、愕
然とする若い学者達の前で彼は指示を飛ばした。護衛についていた兵が数名、ごくりと喉を
鳴らしながら擦って熾したマッチの火を本棚に近づけようとする。
「ああ、人類の財産が……」
「歴史的価値が……」
 だがその直後だったのである。
 敵国の放った爆弾の一つが、地下を貫き、彼らを等しく焼き尽くした。


「──はぁ、はぁ、はぁ……ッ!!」
 首都が轟々と燃え盛っている。
 荷物を抱え、一人の眼鏡の男性が妻子らと共に国を脱出していた。
 くすんだ黄色の砂地を、時折足元を取られながら駆け歩く。
 ちらと肩越しに振り返れば、もうかつての故郷は五皇連邦(てきこく)によって跡形も無
く焼き尽くされていた。
「私達の、国が……」
「お母さん?」「泣いてるの? どこか痛いの?」
「……大丈夫だ。もうここまで来れば──」
「おい、止まれ!」
 故郷を失った絶望感、その故郷を見捨てて逸早く避難したという後ろめたさ。
 しかし、少なくともこの男と妻子たちは、再び日の目を見ることはなかった。ザクッと砂
の大地を踏み締め、敵国の歩兵部隊が彼らを見つけてしまったのである。威圧的な叫びが耳
をつんざき、ガチャリと一斉に銃口が向けられる。
 に、逃げ──! 咄嗟に、男は妻子を逃がそうとした。自らが盾になって両手を広げた。
 だがそんな必死な思いも虚しく、引き金は一斉にひかれた。抵抗する意思あり。訓練を受
けた兵達は半ば反射的にこの動きに応じ、この家族を射殺したのである。
「……馬鹿な奴だ。大人しく捕まっていればまだ助かっていたかもしれないものを」
「おい。こいつ、何かどっさり本を持ってるぞ」
「本? 食料とかじゃなくてか」
「ちょっと見せてみろ。……うーん。よく分からんが、専門書の類だな」
 赤く染まった四つの骸。その内彼の引っ掛けていた鞄を物色し、兵士達は眉根を寄せて互
いの顔を見合わせる。
 何故? だが暫し考えて、彼らは今攻めているこの国の特色から、ある可能性に至る。
「まさかこいつ……」
「学者か!」
 そうなると兵達の動きは速かった。すぐさまこの鞄の中に押収した書物を詰め直し、無線
で本軍へと連絡を入れ始める。
「──はい、はい。こちら第七十一陸戦小隊。マギニカの学者と思しき者の書物を発見しま
した」
 殺してしまったことは咎められるだろうか? だが少なくとも、場に残された書物とそこ
に書き記された叡智は進撃を続けるかの国をまた一つ肥えさせるだろう。
 空爆は尚も続いている。学問を究めたこの国も、やがて廃墟と砂の中へと埋もれてしまう
筈だ。或いはその廃墟の上に、また新たな属国が建つのだろう。

 歴史は、繰り返す。
                                      (了)

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  1. 2016/03/13(日) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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