日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「空(から)の剣士」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:鷹、役立たず、十字架】


 小奇麗に整えられた芝生に、ぽかぽかと日の光が当たっている。
 リィンはその上にどっかりと背中を預け、うとうと昼寝と洒落込もうとしていた。傍には
草刈り鎌や鋏、竹編みの籠などがほっぽり出されたままになっている。
「あ。あのおっさん、またサボってるよ……」
「まったく。昼間っから気楽なご身分なこった。ただでさえ俺らは高給取りだって、城下の
人間から陰口を叩かれてるのによぉ……」
「……」
 知った事か。そもそもばっちり聞こえてるぞ、お前ら。
 近くの石畳を若い兵士の二人組が通り過ぎていく。一応槍を担いでいるから、この城内の
巡回だろう。
 と思い、リィンはすぐに興味を失って「ふぁ……」と大きな欠伸をついた。
 言わせておけ。戦場で他国とドンパチやらなければならない、なんてことよりはよっぽど
マシなんだ。それだけ今この国は平和なんだというのに。
(眠ぃ……)
 こうやって陽だまりの中で安心して眠れるというのが、どれだけ恵まれたことか。彼らは
当たり前になり過ぎてちっとも分かっていやしない。

 この国の名はリトルウォールという。
 いや、歴史を遡ればリトルフール──愚者の国と呼んでいたそうな。こうなったのには幾
つか理由がある。
 一つは、この国の成り立ちがそもそも、近隣諸国から戦火を逃れてきた人々によって興さ
れたものであること。一つは、そんな経緯故に人々は戦を忌み、戦を繰り返すまいと敢えて
蔑称のような国名を自らにつけたという歴史にある。要するに自戒だったらしいのだ。
 武力でとにかく版図を広げ、そこから随時富を収奪していく。野蛮だが、現実それが今も
昔もこの世界の“当たり前”で。
 だけどもこの国の王達は、それを良しとはしなかった。たとえ勢力争いに後れを取ること
になっても、そのような拡大策にはおもねらない。ただ先祖から受け継ぎ、肥沃に作り変え
てきたこの土地をめいっぱい愛して、守る──。だから自分も、あちこちを旅してきたが、
結局こうしてこの国に何年も腰を下ろして久しい。
 ……平和だ。たとえそれが狭めた、城壁の内側(なか)の平穏だとしても。
 少なくとも自分はそれで良かった。そうであればいいと思っている。
 無理に手を伸ばさなければいい。皆が、その境界線の内側でゆったりと日々を歌ってくれ
れば幸せなんだ。
 ……あり過ぎたって、いい事なんてない。
 少ないくらいで、適正規模って奴くらいで、ちょうどいいんだ──。


「やれやれ。あやつ、また居眠りをしておりますぞ」
 王宮二階のテラス。
 今日は天気がいいからと執務室から少し足を伸ばして書類を片付けてたゼタは、そう柵か
ら眼下を見ろして嘆息を吐く大臣に、フット穏やかな笑いをみせた。
「はは、そうか。なら今日も平和だな」
「へ、陛下。笑っておる場合ではありませんでしょう?」
 大分頭の禿げてきた大臣が眉を顰めている。だが妙に微笑ましい思いは止まらなかった。
「陛下はご存じないのですか? あの者を庭師に迎えてからというもの、城内では兵やメイ
ド達があちこちでその怠けっぷりを噂しております。……もう少し、厳しく接してください
ませ。これでは皆の士気に関わりまする」
「ううむ? そう言われてもな。リィンは元々あれが本職という訳ではないしな」
 でしたら……! 大臣がまた一層説教臭くなる。だがゼタは飄々とし、変わらず机の上の
書類に判を押し続けていた。
 ぐぬぬ。大臣がようやく小言を止めて、片手で額を押さえながらふるふると頭を振る。
 これも、いつもの事だ。陛下はあの男を妙に重用している。
 何でも旧知の仲、恩人なのだそうだが、では何故あのような雑務係に……?
「……」
 澄んだ青空にそっと目を細める。
 ゼタは静かに微笑んでいた。ちらと視線を落として眼下の中庭の緑を見、そこでくかーと
寝息を立てているリィンを眺めている。

『おうおう。命が惜しけりゃ有り金全部持っていけや』
『おほっ? 兄貴、メイドさんがいるぜ、メイドさん!』
『メイドぉ? つーことはやっぱ金持ちか。こりゃついてるぜ!』
 もう何十年前の事だろう。まだ幼かった私は、僅かな供だけでふらっと、郊外の森までピ
クニックに出掛けていた。
 大丈夫さ。そう高を括っていた。
 大丈夫さ。この国はそこまで荒れちゃいないと思っていた。
 だけども実際は違った。どんな土地にも溢(あぶ)れた者はいて、往々にして彼らは賊と
なって人々から略奪の限りを尽くす。
『くっ……』
 若かったから。そんな言い訳をしたってどうなる訳でもない。
 ただ私達は、本来あのまま彼らに身包み剥がされ、嬲られていた筈だった。
『──おい。お前ら』
 しかしそんな時だった。ザリザリッと、道の向こう側から見知らぬ男が一人、こちらに歩
いて来ながら声を掛けてきたのだった。
 傭兵……だろうか? 背中には大きな黒い剣を背負い、ぼさぼさにツン立てた髪と頬傷の
痕を残す顔はお世辞にも一般市民とは言えない。
 あん? 賊達は全くの不注意で、彼に振り返っていた。
 一人なら大丈夫だと思ったのだろう。その表情はヘラヘラ、またカモが一人増えたと余裕
すら浮かべている。
『そいつらを離してやれ。仕事なんざ選り好みさえしなけりゃ何とでもなるぞ』
『はっ、うるせぇ! いきなり出てきて説教か? ああ?』
『あんま持ってなさそうだが……構わん。俺達と出くわしちまった事を恨むんだな』
 そして内何人かが得物の短刀を片手に踵を返し、彼に近寄っていった。
 あっ、待……。私は拙いと思った。何処の誰かは知らないが、こんなことで民を巻き込む
訳には──。
『……』
 だが、次の瞬間である。文字通り一瞬の出来事であった。賊達が自分に注意を向けたその
直後、彼は背中の剣に手を伸ばしたかと思うと、霞むような速さで駆け抜け、いつの間にか
その黒剣も抜いて賊達の間を通り過ぎていたのだ。
 ぐらり……。やや間を置いて賊達が次々に白目を剥き、どうどうっと倒れていく。
 それが彼による、賊達へ叩き込んだ峰打ちの早業だと気付くのにはたっぷりと十数秒を必
要とした。私やお付きの兵、メイド達が唖然と馬車の前で佇んでいる。
『……おい。怪我ないか』
『!? あ、ああ。すまない、助かった』
『き、君は何者なんだ? まるで太刀筋が見えなかったぞ……』
 助けられたらしい。それだけは分かって供の者達がお礼を言ったり、疑ったり。
 それでも彼は特にそうした問いに答えることなく、私の方へと近付いて来た。剣を背中に
収め直しつつ、上から下まで、その身なりを観察するように視線を移す。
『見た所、どっかの貴族だな。ちょうどよかった。この辺に町はないか? ぼちぼち宿を取
りたくってよ』
 傭兵、ではない? 旅人か?
 私は目を瞬いた。部下達も「はて?」と互いに顔を見合わせている。
 だが私はこの時既に何かを感じ取っていたのだろう。或いは単純に礼を、若さゆえに彼の
助力を心強く思ったのかもしれない。
『ああ、喜んで案内しよう。私はゼタ・リトル。このリトルウォール王国の第一王子だ』

「──申し上げますッ!!」
 しかしそんな時だったのである。ゼタは過去の思い出からふと、慌てて執務室に駆け込ん
できた衛兵の声に意識を揺り戻された。
「なんじゃ、騒々しい。陛下の前であるぞ」
「はっ。それはそうなのですが、緊急事態で……」
 ゼタは静かに眉根を寄せた。どうやら只事ではない。立ち上がり、向き直って促す。
「よい。申してみよ」
「はっ! ……先程、北部国境にてダノン王国軍が襲来! 同守備隊が苦戦を強いられてい
るとの事です!」


「ひ、怯むなー! 何としてでも防ぎ切れー!!」
 北部国境の砦。そこには北の強国、ダノンが軍勢を率いて押し寄せていた。
 砦を守るリトルウォールの守備隊は限られた兵力と城壁でこれを何とか押し留めている。
だが数の差が多過ぎる。破られてしまうのは時間の問題だった。
「さ、左翼前衛崩れました!」
「隊長、自分達ではもう持ちません!」
「頑張れ! 耐えるんだ! 伝令は走らせた。援軍が来るまで、何とか……」
 圧倒的な力の差。黒塗りの鎧の群れが、無慈悲に守備隊達を押し潰そうとする──その時
だったのである。
「? 何か来る……」
 ダノン軍の部隊が、はたと両軍の側面から駆けて来る一隊を認めたのだ。
 中隊一個ほどか。だが多くの兵が必死になって馬を走らせているが、その中で一人、唯一
悠々とどこか気だるげに鞍に跨っている男がいた。
「あれが、将か……?」
 他ならぬリィンであった。他の兵とは違ってろくに鎧もつけず、ただ背中に大きな黒い剣
を背負って馬を駆り、そしてこの両者の間に割って入るように横付けしてから、ひょいっと
地面に降りて来る。
「誰だ、あれ」「さぁ? でも援軍、だよな。少なくとも」
「なぁあいつって……」
「ああ、リィンだ。庭師のおっさんの、リィンだ……」
 仲間達も動揺している。特に王宮での彼の平素を知っている者達は、予想もしていなかっ
た男の登場に驚きを隠せない。
 何で庭師が? 畑が違うだろ。
 ざわざわと味方が、目の前のダノン軍がざわついている。
 コキコキとリィンはやはり気だるそうに首を鳴らしていた。実に面倒そうに、目の前で武
器をだらりあんぐりと下げているダノン軍の面々を睥睨している。
「……ったく、もうこういうのはヤだってあんだけ言ったのによう。性懲りもなくまた遠征
しやがって。お前らは全然“学習”してねぇんだな」

「──宜しいのですか? あの者に援軍を任せるなど」
 時を前後して玉座の間。臣下達はゼタ王に戸惑いながらそう何度も確認していた。
 だが返って来るのは鷹揚なる首肯。彼はにこやかに、安心し切った様子で彼らに語りかけ
ている。
「ああ、大丈夫だ。随分文句を言われてしまったが、彼が出てくれれば心配ない」

「……よく分からんが、こんな所にノコノコ出て来たという事は、死んでもいいという事な
んだよなぁ!?」
 そして痺れを切らして、前衛の騎兵らが数騎、襲い掛かる。
 守備隊らがハッと息を呑んで目を見開いた。鋭い銀閃がリィンに迫る。
「ぬぅッ?!」
「……あ~、面倒臭ぇ。分かってるよ。戦場(こんなところ)だなんて」
 だがその一撃を、彼は易々と受け止めていたのだ。いつの間にか、背中より抜き放った黒
剣でピタリと、この騎兵の剣を押し留めて。

「──彼は元々軍人だった。母国が繰り返す争いに犠牲者ばかりが増し、やっと落ち着いた
と思えば、今度は政治家達が醜い争いを繰り返す……。彼は徐々に見失っていったそうだ。
俺の剣はこんな奴らの為に磨いてきたんじゃない。こんな事の為に、振るうんじゃないと」
 ゼタ王は語る。それはかつて、自分を窮地から救ってくれたある男の昔話だった。
 これだけ話してくれるようになったのは、随分後になってからだがな……。彼は苦笑しな
がらも、懐かしみ、愛しげに微笑(わら)う。それは優れた武勇を持ちながらも、次第にそ
の大義を見失った男の、出奔と放浪の旅の物語だった。
「彼は言ったよ。もう軍人(そっち)で雇われるのはご免だ。でもまぁそれ以外なら、職に
就いてもいいぜ、とね」

「な、何がどうなってる……!?」
「見ての通りだと思うがな。そんなんで、俺は倒せない、ぞっ!」
「ぎゃあッ!!」
 黒剣をガリガリっと素早くずらして、よろめいた隙に一閃。鮮血を噴きながらこの騎兵は
地面に倒れた。この……っ! そんな展開に他の騎兵達が、今度は一斉に馬をいななかせて
襲い掛かる。
「──遅い」
 だがまるで歯が立たなかった。振り下ろされた刃は黒剣の腹でいなされ、あっという間に
懐に入られて斬り伏せられ。
 次々に騎兵達が倒れていった。ガッシリと鎧を着込んでいた筈なのに、それでも黒剣の重
みには耐え切れず、いや的確に鎧の切れ目・厚みの甘い部分を狙われ、ダノン兵達は次々と
リィンの剣の前に沈んでいく。
「な、何なんだ?!」
「おい、何をやってる! 相手はたったの一人だぞ!」
「……違う」
「? 隊長?」
「違う。あいつを、いち兵卒として扱っちゃいかん……」
 そしてそんな彼の姿に記憶を呼び起こされたのか、ダノン側のリーダー格がぶつぶつと全
身を震わせながら呟き始めた。
「聞いたことがある。盾なしの黒い剣を使う、我が国きっての猛将──」

「──彼の名はリィン。元ダノン王国軍上将軍の一人、通称《黒鉄》のリィンだ」
 ゼタ王は語る。この国に流れ着いた、元敵国将校の名。
 臣下達は目を見開いて硬直していた。
 まさか。あのサボリ魔の庭師が……?

「まだ息のある奴がちらほらいるな……。衰えたな。やっぱ歳は取りたくねぇや」
 どうどう。次々に倒れ伏し、ダノン兵の山が出来上がっている。
 それでも当のリィンは黒剣を肩に担ぎ、ぐるっと自身の戦果を眺めてからそう気だるげに
呟いていた。ひぃ……! 残った兵達はすっかり怯え、引け腰になってしまっている。
「……さて」
 ガチャリ。それでもリィンは剣先を向け直し、彼らに言い放った。
 それは一丁前な、リトルウォールへの忠義ではない。或いは自身を置いてくれたゼタ王へ
の仁義ではあったかもしれないが、戦いの空しさを知ってしまったこの元剣将にあるのは、
ただ日々をだらりと、たとえ小さな箱庭の中であったとしても過ごしたいという積極的な怠
惰である。
「お前ら、ただで済むと思うなよ? ったく、面倒な仕事させやがって……。俺はもう、糞
真面目に働きたくなんかねぇんだっつーの」
                                      (了)

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  1. 2016/02/21(日) 18:00:00|
  2. 週刊三題
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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