日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(書棚)感想:鈴木光司『リング』

書名:リング
著者:鈴木光司
出版:角川ホラー文庫(1993年)
分類:一般文藝/ミステリ・ホラー

──そのビデオを観た人間は、一週間後に死ぬ。
ご存知都市伝説系ホラーの金字塔。小説版。


今回は鈴木光司氏『リング』の読書感想です。一時社会現象?にもなった作品なので、名前
なら聞いた事もある方も多いでしょう。同氏はこれを始め、他にも様々なホラー作品を発表
しています。同じく映像化されたものも少なくありません。僕も実はその一人ですが、小説
の方は知らなくてもこちらでは記憶がある……という方もいるのではないでしょうか。
他の読書の例に漏れず、古本屋で積まれているのを見つけて手に取った一冊です。読了自体
は年明けすぐだったのですが、直後の私事(トラブル)と更にその後の執筆モードが重なっ
てしたためる時間が取れませんでした。一応をばm(_ _)m
物語の概要は次の通りです。

雑誌記者の浅川は、ある夜帰り道で偶々拾ったタクシーの運転手から奇妙な情報を耳にする。
それはこの運転手が遭遇したという、とある青年の不可解な死。
そしてこの青年の死に様と日付は、奇しくも浅川の姪が急死した際のそれと全く同じものだ
ったのだ。
……偶然の一致にしては引っ掛かる。
かつて同誌の記事にとオカルト現象を追いかけた苦い過去を持つ浅川。しかしそんなかつて
のリベンジか姪の真相究明か、彼は少しずつこの不意に浮かんだ奇妙な点と線を追い始める。
調査の中、浮かび上がっていく姪や青年の共通点──交友関係。
彼らがとあるコテージにて観たらしいという謎のビデオテープ。
その問題のビデオを入手した浅川は、不穏な予感を感じつつも件のコテージにてこのビデオ
を再生する。そこに映っていたのは一見関連性の薄い断片的な映像群と『この映像を観た者
は一週間後に死ぬ』と明言された不気味なメッセージ。しかも助かる方法?を示した部分の
映像は既に別番組で上書きされていて知る事が出来ない……。
……まさか。でも本当に?
半信半疑。しかし付き纏い始めた気配と仮に遺してしまう事になる家族を憂い、そこで彼は
旧友にしてオカルトマニアの大学講師・高山に助けを求めるのだが──といった内容。

先ず最初に言及しておかねばならない事は、この小説版と皆さんがよく知っている映像作品
の『リング』は、設定背景こそ共通すれど脚本がまるで違うという点です。
読み進めている最中から「うん?」と思って軽く調べてみたのですが、どうやら過去何度か
ドラマ版・劇場版が制作され、特に前者はかなりオリジナル要素が濃くなっているようです。
なのでこの小説版は最初期の原作、という位置付けとみておけば大よそ把握できるでしょう。
後年シリーズ化した続編も、基本はこの後日談ないし別視点バージョンとして描かれている
ものが多いようですね。
(例えば、皆さん印象的であろうあの“テレビから這い出てくる貞子”は、この小説原作に
は微塵も登場していません)

──と、話を感想に戻しましょう。
物語は大きく「浅川がビデオを入手するまで」と「浅川が高山と協力し一週間というタイム
リミットの中で真相を究明するまで」及び「解決後」に分ける事ができると思います。
主人公とでも言うべき浅川は記者ではありながら、かつての失敗もあって全編の多くを通し
て真面目で繊細な人物として描かれています。一方で相棒となる旧友・高山はその学生時代
のエピソードからして独立独歩で肝っ玉、観たら一週間後に死ぬビデオだと言われても観な
ければ調べようがないと笑う根っからの享楽者(オカルトマニア)です。実際、精神的に頼
りない浅川を彼は何度も(手荒だけども)後押しし、そして医学から哲学、論理学と幅広い
知識と分析眼でビデオの真相究明に大きな力を発揮します。

……それでも、もしかしたらと思う描写ではありました。確かに高山は旧友・浅川にはそう
いった「怖いもの知らず」な人間として振る舞っていますが、一方で同じ学識者とアポを取
って会う時には丁寧な口調になりますし、恋仲?である教え子に対しては威厳ある「先生」
として振る舞うさまが描かれているのです。
ただ単純に変人、という訳ではないように僕は思いました。この教え子も作中でそれとなく
話しているのですが、使い分けているのです。そうしなければ自分に居場所はない──そう
理解しているとも取れるのです。もしかしたら、ある意味で彼は浅川以上に“繊細”な人間
であったのかもしれません。まぁ、ごく普通の処世術だろ?と言われてしまえばそれはそれ
でぐうの音も出ないのですが……。

あと、これは僕自身が文字媒体でホラーを観るという場数を踏んでいないからなのかもしれ
ませんが、やっぱり小説で「恐怖を味わわせる」事は難しいんだなと思いました。僕も学生
の頃に文化祭のクラスの出し物でお化け屋敷を作ったことがありましたが、そもそも怖いっ
て何だよ……と当てもなく工具箱片手に唸っていた記憶があります。じわじわ、着実に内心
の疑心・恐怖心を抉られていく描写は確かに文字媒体だと俄然有利になるのですが……如何
せん直接視覚に訴えかける恐怖、インパクトでは映像には敵いませんね。
(wikiでも『ミステリ・ホラー』と明記されている辺り、ホラーを下地に謎解きを読み進め
るというのがそもそも楽しみ方の主眼に置かれている……?)

一週間(高山は浅川が視聴した後日に件のビデオを観たので更にもう一日)というタイムリ
ミットの中で、二人は唯一の手掛かりであるこのビデオに映ったものの中──方言から、そ
の起源がとある離島であること、そこがかつて世間を騒がせた超能力者・山村志津子の故郷
であること、その娘・貞子がこのビデオの“主”であることを突き止めます。
調査を進めていく中で二人はこの母子が辿っていた数奇で過酷な運命を知り、ビデオが人を
呪い殺す源泉が貞子の念であると気付きます。
──作中、それも初期段階で、浅川はこのビデオ(その段階ではビデオという媒体で死んだ
という事さえ知らないが)の持つ性質を『ウィルス』と仮定していました。
ウィルス。つまり“伝播する”。
不遇の中で散っていった山村志津子と、そのさまを見て育ち、自身もその超能力者としての
力を存分に受け継いだ貞子。彼女が抱き、期せずしてビデオに乗せた念は、それこそ次々と
死を不幸を“伝染”させるさだめを負った魔物と化しました。

あまり語り過ぎるとネタバレになるので、具体的には語りません。
しかし二人は、結局この呪いのビデオ──貞子の怨念が生み出した悪意の種(ウィルス)を
防ぎ切る事が出来ませんでした。自らにとって大切なものを守る為だったのです。
物語は綺麗さっぱり一件落着とはならず、続いていきます。何処かの誰かに“感染”し続け
“伝播”し続け、都市と人々の間に静かに蔓延していく……。恐怖という漠としたものの描
き方の巧みさ、一筋縄ではない切り口をこの小説の中で取り上げるなら、間違いなくこの〆
に向かう際の部分でしょう。決して終わらず、安寧はなく、何処かで蠢き続けている……。
その暗示が、僕からしてみれば、一番じわじわと効いてきた感じですかね。

恐怖(ものがたり)は続いていきます。

それは何も単純にこのシリーズが、引き延ばされる余地としてだけではなく、同時にそれ以
上に伝播していく呪(しゅ)が関わってしまった人々の数多の物語を生む、という意味合い
にもおいて。ぐるぐるとヒトの中を廻り続ける、それこそ輪(リング)のように……。

──しっかし、それにしたって(一部の)日本人は凄いよなぁ。
原作通りならば本来○○○○で×××××な筈の貞子を萌え化(美少女化)させてしまうん
だから……(苦笑)

<長月的評価>
文章:★★★☆☆(分量はやや多め。内面と情景に力。多少活字慣れしてないと厳しいか)
技巧:★★★☆☆(伏線あれど専門ミステリではないのでこの星で。読み解くのも楽しさ)
物語:★★★★☆(呪い云々を呑み込めるかが一つの壁? 恐れとはじわりと効くものぞ)

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Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

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