日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「灰雪時代」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:花、戦争、雪】


 ずっとずっと昔、アオゾラという言葉があったそうですが、お空も地面も私達にとっては
灰色です。

 今日も朝から皆で村の外へと出かけます。
 毎日、一日の半分くらいは、こうして食べ物を調達してくるお仕事に使います。
 私達にとって、お空とは地面とは、見渡す限りの灰色です。
 もっとちゃんと言葉にするなら、ぼんやりと蒼い、くすんだ感じの灰色です。
 何処もかしこも、この大地はそんな灰色でいっぱいです。ボコボコと膨らんだり凹んだり
した土も、いつかには咲いていたのだろうお花も、私達にとっては等しくそんな灰色一色に
覆われてピタリと動きません。
 村のお爺ちゃんやお婆ちゃん、そのまたお爺ちゃんやお婆ちゃん達の話では、大昔はもっ
とたくさんの色があったそうです。
 アオゾラもそう、お山はミドリになったり、アカになったり、キイロになったり。
 だけども生まれてきてからずっとこの景色を見ながら、当たり前に育ってきた私達にとっ
ては、あまりピンと来ません。お爺ちゃんやお婆ちゃん達が時々見せてくる古い古い品物が
何とか灰色(ふつう)じゃない色を塗られて手の中に収まっているくらいです。
「……。はむっ」
 私達は、村のあちこちに広がる灰色を歩きます。
 見渡せば色んなものが、このぼんやりとした灰色を被って固まっています。
 それを千切って持ち運べるくらいの大きさにするのが、お仕事でした。私達の食べ物。少
しくらいなら先に自分の分を食べてしまっても構わないと言われているので、私ももしゃも
しゃと口にしてみます。
 味は、あまりしません。だけど私達の身体にはこれが一番です。
 感触も、見た目よりはそう固過ぎることはないです。しっかり歯を突き立てて齧ってやれ
ば、結構シャクシャクと歯ごたえのする食べ心地である事が多いです。
 でも……たまには違った味がいいなあ。お腹は膨れるけど、毎日同じようなものばかり食
べているから、飽きてきます。でもそれは贅沢というものなので、村の大人達が見ている前
では言ってはいけないと、誰から言われた訳ではないけど決められています。
 もしゃもしゃ。シャクシャク。
 この私達のごはんだけは、見渡す限りたくさんあります。千切っては背中の籠に入れて、
千切ってはちょっとだけもう少しだけと自分の口の中に放り込みます。
『ねえ。私達のごはんって、いつかなくなっちゃうの?』
『うん?』
『どういう意味だい?』
『……だって。こうやって毎日食べてたら、灰色さん達だっていつかはいなくなっちゃうと
思うの』
『ふ、ふふふ。あははは!』
『大丈夫、大丈夫だよ。この星全部のグレイを食べつくそうなんて俺達だけじゃどうやった
って無理だって』
『そもそも、全部でどれだけあるかすら判ってないんだぜ?』
『大体、こうしてる間も空からグレイの素は降ってる。少なくとも俺達が生きている間に空
っぽになることは先ずあり得ねーよ』
 ……昔、ハッと不安になってお兄さんやお姉さん達に訊いてみたことがあります。
 でも、皆に鼻で笑われました。心配しなくても食べ切れやしないと、ぽんぽん肩を叩かれ
て笑い者にされた事があります。
 お空。見上げれば、同じようにくすんだ灰色そこからちらちらと、ごはんの素が降ってき
ているのが分かります。これがいっぱいたくさん時間をかけて積もって固まったものが、私
達が灰色さん──グレイと呼んでいる食べ物。この地面を埋め尽くしているものです。
 もしゃ、もしゃ。
 籠がいっぱいになるくらいにそれを詰め終わって、私は自分の分を食べていました。とっ
くに慣れている筈の味なのに、今日はあの時のことを思い出して少し苦く感じます。
「おーい、皆ー!」
 そんな時でした。辺りを探していたお兄さんの一人が興奮したようです私達を呼んできた
のです。
「どうした?」
「今日はツイてるぜ。あっちに大ニン=ゲンのグレイを見つけた」

 大ニン=ゲンとは、ずっとずっと昔、この星にまるで王様のように暮らしていた動物だと
いいます。
 身体は私達よりもずっと大きく、だけど手先が器用で、その頃から色んなものを作っては
建てて、作っては建ててを繰り返していたみたいです。でもずっとずっと昔、この大ニン=
ゲン達は、お互いを殺し合った末にいなくなってしまいました。お爺ちゃんやお婆ちゃん達
の昔話では、灰色さんが降り始めたのはその頃からなのだそうです。
 その大ニン=ゲンのグレイを見つけた。私達はパァッと色めき立ちました。
 だって同じ食べ物でも、大ニン=ゲンが固まってできたそれは他のものよりもずっと大き
くて、味が濃くて美味しい贅沢品です。そもそも大ニン=ゲン自体が今では珍しいので、こ
うして調達に出かけても十回に一回見つかるかどうかというくらい。
 加えて大ニン=ゲンのグレイの近くには、殆どの場合、彼らが大昔に作ったおっきな何か
のグレイが並んでいる事が多く、つまりその時から暫くの調達は大漁になります。
「おい、村からもっと人手呼んで来い。ありったけ採るぞ」
「よしきた! 任せろ!」
 お兄さん達の何人かが、そうばたばたと来た道を引き返して行きます。村に戻ってこの大
漁を知らせ、この大量のグレイを何とかして持ち帰ろうとし始めます。
 皆ワクワクしていました。見上げたそれは私達よりも、大ニン=ゲン達のグレイよりも更
に高く高くそびえ立っていて、もしこれを全部切り出せればかなり長い間、私達は食べ物に
困ることはない筈です。
「ひゃっほぅ! 大漁だ大漁だ~!」
「な、なぁ。ちょっと……ちょっとくらい先に食べてても、いいよな?」
「ええ? でも……」
「いいじゃんよ。これだけの量、ちょっとやそっとじゃ食い切れねぇって。な?」
「……仕方ないわね。ちょっとだけよ?」
 ひゃっほーい! 今回の隊長さんを任されているお姉さんに許されたことで、お兄さん達
が大喜びしてこの大量のグレイに飛びついていきました。
 石斧(おの)などを使ってカンカン、切り出します。
 それを皆で囲んでぱくっと口の中へ。濃くて身体中に染み渡る味が興奮を誘います。
「カ~ッ! やっぱ美味ぇ!」
「ああ、堪んねえなあ。これだから大ニン=ゲンは止められねえ」
「お? お前も食うか? 滅多にないぞ」
「……うん」
 じっと見ていたら、お兄さん達が私にもくれました。
 ちょっと遠くからおっかなびっくりで見ていたのですが、口にこれを含んだ途端、そんな
遠慮も結構どうでもよくなりました。やっぱり大ニン=ゲンは美味しいです。
「ちょっと、あまり食べ過ぎないでよ?」
「分かってる分かってる。食いたいなら言やあいいのに」
「……しっかし。相変わらず大ニン=ゲンってのはよく分からん生き物だったんだなあ。こ
の辺に転がってるグレイも、普段見慣れてるのとは随分形も違うし……」
 応援の人達が来るまで、軽く切り出したグレイを皆で頬張ります。
 お兄さんの一人がぐるっと周りを見渡しながら言いました。確かに大ニン=ゲンは彼らが
作ったものらしきものと一緒に灰色さんに固められていることが多いのですが、何度見ても
その姿形、勿論その大きさも桁外れです。
 今回転がっていたのは、先っぽが尖がって捻れている、いくつかの大きな筒でした。
 更に一つ二つ、長い筒を頭にくっつけた、ごつごつした不自然な山が置いてあります。足
元には大きな板で繋がった輪っかの中にまた重そうな円い筒が何個もくっ付いていて、長い
筒に空いた穴は、見た目ですが、周りに落ちているこの大きな尖って捻れた筒が入りそうな
くらいの大きさです。
 一体、何に使っていたんだろうな……? また別のお兄さんの一人が言いました。
 だけど分かりません。誰も大ニン=ゲンが昔々に何をしていたのか、何の為にこれを作っ
たのか分かりません。私達が生まれた頃には、とうに大ニン=ゲン達は、こうしてグレイに
なっているものを除けば皆この星からいなくなっていたのですから。
「おーい、皆ー!」
「待たせたな!」
 そうして、暫くしていると村の方から応援の人達がやって来ました。
 ざっと三倍以上の人数。皆大きな石斧(おの)や籠を背負ったり担いだりしています。
「ちょっ、お前ら!? 先に食ってるなんてずりーぞ!」

 村の動ける人達総出で、この大ニン=ゲンとその他諸々のグレイを切り出す作業が始まり
ました。流石に舌鼓を打っている訳にはいきません。皆で石斧(おの)を振り、切り出した
塊をリレーして籠に詰めていって、どんどんそこには上質のグレイが溜まっていきます。
「オーライ、オーライ!」
「あんまり無茶はするなー。順繰りに足場は組んでいくからなー」
 同じく持ち込まれた木の棒を縄で結んで組み合わせて、作業の進みに合わせて足場がより
高く高くへと組まれていきます。どうんっ、何度か高い位置で切り出した塊が地面に落ちる
なんて事がありました。縄で結び付けても、途中で千切れてしまうのです。段々作業は高い
所の大人達に任せっきりになり、落ちてくる塊に巻き込まれないよう私達は離れた場所から
そんな様子を見守るしかありませんでした。
「……本当、大ニン=ゲンってすごかったんだなあ」
「そうね。元々私達より大きな身体をしていたからっていうのもあるけど、私達よりもずっ
と豊かな暮らしをしていたんじゃないかしら?」
 呟いた隣で応えてくれたのは、隊長のお姉さん。
 ちらり。私はこっそりとこのお姉さんの横顔を見上げていました。
 皆と同じで濃い灰色の毛、頭から膝まで貫き通した服。フッと苦笑(わら)うその口元に
は大人の証、立派な前歯がせり出ていて、ゆらゆらと細い尻尾が揺れています。
 いいなあ。私も、お姉さんみたいな素敵な女性になりたいなあ。
 胸元を触ってみます。だけどぺたんこです。……ぺたんこです。
「豊かって、何だろう? 大きいこと?」
 だから私がぽつりと言った言葉に、お姉さんはどう聞き取ったのか、何だか困ったような
表情(かお)をしていました。ぽむっ……。私を見て、優しく頭を撫でてくれます。
「そればかりとは限らないんじゃない? 実際大ニン=ゲンだって、あれだけ大きな身体や
ものを作ったのに、今じゃ全部グレイに埋もれて固まってる。まぁそのお陰で私達は食べ物
に困らずに済んでいるのだけど」
 ちう。撫でられるがまま、唇を尖らせていました。
 うーん……。そんなものなのかなぁ?
                                      (了)

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  1. 2015/11/15(日) 18:00:00|
  2. 週刊三題
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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