日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「厭威語(きらいがたり)」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:地雷、意図的、憂鬱】


 ──この世界は、クソッタレだ。

 バイトの空き時間、店舗のすぐ脇にあるスタッフルーム(とは名ばかりの小部屋)で一人
黙々とスマホを弄っている。
 小さな画面から無節操に延びる広大な世界。
 だけどもその物理的な広さは必ずしも、俺達ヒトの精神的な広さを意味はしない。
 時間の経過と共に上から下へと流れていく無数の言葉。
 時間の経過こそあれど、じっとその頁(ばしょ)に留まっている無名の言葉。
 気のせいなどではない筈だ。往々にしてそれら誰が放ったとも知れない声は、右に左に偏
見と嘲笑と、対立の感情で満ちている。
 ……醜い。
 誰かがAと発すれば、いやBだという誰かが何処からともなく現れる。或いはCだとか、
全然関係ない罵倒だけを残して音沙汰もないガヤだけがそこには刻まされている。
 よく『政治、宗教、野球は話題にしちゃいけない』なんて云う。少々極端に纏められた弁
だが、実際それは今も昔もあながち間違っていないのだろうなと俺は思う。
 いわばそれは、触れただけで険悪になる「爆弾」だ。
 そこに純然とした“会話”は存在しない。し難い。皆どちらか、どれかを選ばなければな
らなくなるからだ。AとB、或いはC。互いに相容れず“議論”をして歩み寄ろうとでもし
なければ、やはり結果はどちらにせよ極端──互いに罵倒し合って不毛になるか、その主義
主張の合う者同士の内輪で外側の人間達を貶し、嬉々とする愚を晒すしかない。そして大抵
この手の連中は、それが傍から見て酷く醜い姿の繰り返しであるという事にすら気付いてい
ない。──自分は“正しい”と信じているからだ。逆を言えば、その“正しくない”他人や
認識を自分の世界から排除するからだ。
 俺は思う。
 まぁ、百歩譲って世の中色んな考え方の人間がいる。それはもう仕方ないと割り切るにし
ても、画面の中(こんなせまさ)ですら穏便に済ませられないなんて。
 もしこれが彼らの「本音」なのだとしたら、一体俺達はこの日々の現実(リアル)で、ど
れだけ互いに危険なものをぶらさげて歩いているのだろう。爆弾同士なのだろう。
「おい、魚住。そろそろ出ろ。客が増えてきた」
「……ういッス」

 例えば、自分が働いているこの夜のコンビニですらも。
 カウンター越しに店内を見渡せば、ぐるぐると何を喋るでもなく数列の商品棚の周りを作
業着からスーツ、私服まで、色んな格好の老若男女が歩いている。商品を見ている。時間帯
が時間帯だけに疎らになった品揃えだが、それでも小腹が空けば弁当や惣菜を手に取るし、
暇潰しであれば窓際で暫くぱらぱらと雑誌を捲っていたりもする。
 ──あの一人一人が、何を考えているかなんて分からない。
 普段は特に気にする事も、必要性すら感じなかったのに、ふと先程まで弄っていたスマホ
の画面を思い出し、密かに眉間に皺を寄せた。
 あの客達の中に、もしかしたらいるのかもしれない。
 インターネットという空間を覗き見、気に食わない相手や言葉があれば罵倒し、同じよう
なことをしている他者がしれば“仲間”意識を感じて緩いスクラムを組む。自分達の“敵”
を論破した心算で(わらって)悦に浸る。或いはその結束の緩さがそんな言動の繰り返しの
末に頑なに硬くなり、戻ることも戻る心算もなくなり、AならAを補強する人やモノをBな
らBを補強する人やモノを“信仰”する輩であるのかもしれない。
 眉を潜めて、しかし内心恐ろしくすらあった。
 触れてはならない。彼の、彼女の「爆弾」に触れた瞬間、その罵倒はインターネットなど
通り越してリアルに今ここにいる自分へと直接投げ付けられる筈だ。
 分かりやしない。まぁ、それは多分お互い様で、大抵今この時はそう意識してはいないの
だろうけど。
 スイッチが切り替わるというか。
 即ち彼、彼女にとっての「爆弾」に誰かが触れるまでは、彼らもその大半が世間という群
れの中に埋没しているのだろう。勿論、自分も。
「……三点で七十四円になります」
 ピコッとレジを打つ。向かい合うのは冴えない感じの中年サラリーマンだ。
 仕事。必要な言葉以外は発さず、ただそれだけを告げて相手が財布から代金を出してくる
のを待つ。端数までキチンと出してきた。神経質だなと思いつつ、レシートだけを渡す。
「あざっした~」
 何も言わずに踵を返した、その背中が妙に悲壮感を漂わせていた風で辛い。
 ……解ってはいるんだ。何も、誰しも心から好きでその胸の中に「爆弾」を抱えるように
なった訳じゃない。多分だけれど、テンプレなイメージだけど、この世の中に生きている人
間の少なからずがクソッタレと思っているんだ。切欠は凄く個別的個人的な鬱憤で、ままな
らぬ現実への嘆きで、それが独り画面を前にしていると憎々しさになってろ過されるんでは
ないかと思う。
 正しいのはAだと云う。正しいのはBだと云う。
 或いはAもBも、Cすらその人間にとっては只々嘲笑するだけの対象であって、その行為
を態度を取っている時だけが束の間、自分が優れていると錯覚できる瞬間なのだ。
 多分、AなのかBなのか、純然としてその正しさに拘る人間なんていない。
 ただ晴らしたいだけだ。自分の与したそれが正しいと、大勢の支持を得られると、自分が
間違っていないんだと思える。
 邪魔する奴らは気に食わない。仲良く──そもそも自身の現実(リアル)で散々コケにし
てくる他人がいるのに、何故自分ばかりが、そいつらばかりに譲らなきゃならない? 俺に
従え。俺が正しい。……そうして、爆弾は形作られていく。
「……」
 だから、大抵何か大きなことを言っている人間には、近付かない方がいい。
 爆弾に触れぬように、口撃の切っ先がこちらに向かぬように、だから大多数の俺達はそれ
が賢明だと原則口を閉ざすのだ。センセイ達の逆鱗に触れぬように、その話題には関わらな
いし、考えない。彼らがかつてそうだったように、自分達はその個々人の生活に汲々として
全てであればいい。それで結局、場に残るのはそんな“声の大きい”連中ばかりになってし
まうとしても、今更そこへ舞い戻る訳にはいかないのだから……。
「魚住。顔が死んでるぞ。接客業なんだから、笑え」
「……ういッス」
 街中とはいえ、こんな夜中のガラガラのコンビニに、そこまで求める客など来るものか。
 それでも今夜同じシフトの先輩にわざわざ逆らうのも面倒なので、上っ面だけはちゃんと
従っておく。
 そう、上っ面。
 俺達は皆、腹の中に「爆弾」を抱えている。沸々とした個人的な感情、鬱憤。
 だけどそれらを苛立つ都度表に出していてはトラブルにしかならないと解っているから、
大抵の場合はこれをひた隠しにして只々じっと毎日をやり過ぎすのが大人の態度だとされて
いる。……まぁ世の中には、周りの迷惑なんぞ何処吹く風でそういうものを好きな時に好き
なだけ吐き出すド阿呆も割とゴロゴロいるんだけども。
 苛立ちはしないのだろうか? あんただって、毎日鬱憤の一つや二つ、あるだろうに。
 それでも彼があくまでその役職を全うしようとするのは、義務感か。それともそういった
我慢料を含めての給料だと、割り切っているのか。……尤も、そういう心持ちを要求される
仕事ほど、振りかかる負荷とその金額が釣り合わないなんて事はざらにあるのだけど。
 ちらと横目にこの先輩を見た。カウンターに立ち、じっと客の捌けた店内を眺めている。
 この人も、なのだろうか。この人も、一度家に帰って端末を開けば、感情を剥き出しにし
た愚痴やイデオロギーの徒党に染まっているのだろうか。或いは、そんな人間を哂ってやる
ことで自身を慰めているのだろうか。
「いらっしゃいませ~」
「……らっしゃーせぇ」
 またぽつぽつと、客が入って来た。女子高生と思しき三人組と、作業着姿のおっさん。
 三人組はもうすっかり夜だというのに店の一角でかしかましくお喋りをしており、このお
っさんは暫く店内をうろうろ、何やら探し回った後、何かと思えば随分不機嫌な表情をして
こちらに近づいて詰め寄ってくる。
「おい、弁当一つもねぇじゃねえか。品モン入れとけよ」
「……すみません。こちらも仕入れの回数と時間帯は決まっているものでして」
「ンなモン知るか! こっちはやっと仕事が終わって、クタクタなんだ! 飯も置いてねぇ
なんぞコンビニかよっ、クソが!」
 運というか、時間帯が悪かったんだろうが。解れよオッサン。
 そもそも何で先輩じゃなく、明らかに年下の俺の方に向かってきた? ああ、そうか。そ
の方が文句を言っても自分が無事で済むからか。……糞野郎が。
「申し訳ございません。次の仕入れは二十一時過ぎになります。お手数ですが、もう十分ほ
ど、お待ちいただければ……」
「なら別ンとこ行くよ。ああそうだ。始めっからファミレスにでも行きゃあよかったんだ」
 なのに、先輩がそうやって隣でフォローを出してくれても、この男の怒りは止まる様子は
なかった。まだ自分に比べて丁寧に応じているからか、声音が抑えられている。やっぱり間
違いなくこの野郎、相手を選んで怒鳴ってやがる。
「申し訳ございません。……魚住、お前も」
「……申し訳ございません」
 何で俺まで。
 結局、俺達はこのクレーマーに頭を下げ、その後ろ姿が店のドアを潜っていくのを見送る
しかなかった。まだ店内にいた女子高生らしき三人組がこちらを見遣って、またヒソヒソと
話している。スマホがちらとその手の中に見えたので、多分SNSで呟かれるのだろう。何
気にこっちのストレスに追い討ちを掛けてくる真似をしやがる。
「悪いな。もうそろそろ次の弁当、来ると思うんだが……」
 先輩に苦笑い。別に訊いてないし、そんないい人ぶったフォローなんてしなくていい。余
計に癪に障るし、惨めになる。
 向こうの三人組もそうだが、あのオッサンも今日明日辺りには今回の愚痴をインターネッ
トにばら撒きやしないか。そうなると店の評判が──というのはまぁ正直どうでもいいが、
嗚呼こうやって人は自分の「爆弾」をどんどん大きくしていくんだなと思う。何でもかんで
も自分鬱憤──義憤を正当化するのに結び付けて、吼えるんだなと。
「平気ッス。もう慣れっこですから」
 だから言った。他人の爆弾を踏まないように、自らの感情を封じる。言論を封じる。それ
が辛うじて、このクソッタレな世界を生き延びる次善──の次善くらいの策だと信じて。
 糞野郎が。あの作業着の男を思い出し、静かにぎゅっと口の中を噛んだ。忘れろ。他人の
喧しさに一々反応しているようなら、死ぬぞ。
「……慣れっこですから」
 嗚呼、本当に。
 何時何処で爆発するか分かったもんじゃない。
                                      (了)

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  1. 2015/11/08(日) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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