日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(雑記)メメント・モリ─哀悼に代えて

(※今回、本文は追記部分に収めてあります)


先日、我が家の愛犬が天国に旅立ちました。数え年で十五歳の雑種。おばあちゃんでした。
過去に二度内臓を悪くした事があり、その時に獣医さんからも「次激しい症状が出ればもう
駄目だと思っていてください」と言われていた通り、今までに無かった変調から始まって、
逝ってしまいました。
暫く前から足腰もすっかり弱っていたし、どうにも痩せるばかりで、もう長くはないんだろ
うなと覚悟はしていましたが……いきなりです。僕がお仕事から帰宅してみるともう既に息
が浅く荒く変わっており、いよいよかと用心して過ごしていた矢先でした。悲鳴のような僕
らを呼ぼうとしたかのような声を発し、駆けつけてみれば何とか立っていた身体が崩れ落ち
ていました。危篤でした。
最期の一時間弱、僕らはその徐々に薄れゆく意識や呼吸のさまを皆で囲んで看取りました。
家族全員──両親が仕事から帰って来るまで倒れなかったのは、もしかしたらあの子なりの
精一杯の気遣いだったのかもしれません。
亡くなったのが夜だった事もあり、翌日を待って僕が代表して葬儀場で弔って貰いました。
手元に残ったのは、手続きの為に記入した書類の写しが二枚──と、首輪や生前使っていた
お皿やリード、写真くらいなものです。

……ネットに、犬とはいえ他者の死を晒すなんて。そうまでして僕は文章を書きたいのか?

だから今回の雑記は、僕の記憶から風化して消えてしまわない内に今自分が抱いているこれ
らを書き留めておく為のものです。彼女への哀悼と、再三の自罰を込めて。

いよいよ危篤となった時、そこには僕と妹、両親の四人がいました。立つ事もできず横たわ
って苦しそうに血混じりの涎を漏らしているこの愛犬を皆で囲い、残り僅かな時間をじっと
寄り添い、声を掛けてあげて撫でてあげて、見守っていました。
母や妹はボロボロと泣いています。普段寡黙な父も、目頭が熱くなって目が赤くなり始めて
いました。
……なのに、最後の最後まで僕だけが涙を流さなかった。流せなかった。
父と同様、目頭はじわと膨れるように熱を帯びているというのに、二人のように素直な哀情
を表明できない。十五年。気付けば人生の約半分を一緒に過ごしてきた家族だというのに、
後年は専ら僕ばかりが朝夕のご飯や散歩といった世話を担当してきたのに、自然と目から涙
が溢れてくる、なんていう想像していた現象が自分だけには起こらなかった。
そういえば、以前もそうだったっけ。
祖父が死んだ時も、先代の愛犬♂が事切れていた時も、僕は泣けなかった。哀しかったけど
周りの皆のようにボロボロと涙を流すという芸当ができず、ずっとその空間において浮いた
存在になっていた記憶があります。……まぁ先代のワンコの方は老衰で、今回のように危篤
の瞬間を誰にも気付かれぬ内に夜中に逝ったし、祖父に至っては『封建的に凝り固まった頭
でもって母を苛めてきた敵』『妻(祖母)の傍若無人さを許して皆の不仲を作った悪人』と
いう認識が(今もあまり消えていないが)子供心にあったからというのもあるのですけど。

だからよくよく考えてみれば、今回のワンコの今際は、僕という人間にとっては人間も動物
も含めた初めての直接的な「死」の体験だったのです。
(祖父を含めてこれまで亡くなった親族は皆、入院中に臨終を迎えたので。当時まだ学生で
自身が遠方に暮らしていた事も大きいのでしょうね)
なのに、僕は情がいっぱい移っていた筈のこの子相手ですら涙を流せなかった。今回の今際
の間にあの時、他の家族がそれぞれ何を考えていたのかは分からないけれど、少なくとも僕
はこの子の死すら何処か一歩退いた所から“観察”していたような気がするのです。加えて
それを頭の中で文章に起こそうとさえしていた──創作中毒も、ここまでくればやはりと言
うべきか、非情の成す技ではないかと。

『涙を流すばかりが情じゃない』
『ずっと世話をしてきたという事自体、情が厚くないとできない』

そんな感慨について、とある物書き仲間さんからはこう言われましたが……どうなんでしょ
うね? あの子の世話をずっとしてきたのは歳波と仕事の移り変わりで難しくなった両親の
分も(当時在宅療養中だった自分が)引き受けて、気付けば日々の習慣の一つになっていた
それだけのような気もします。
何というか……戸惑っていると言うべきなのか。母や妹があんなに涙を流して必死になって
いたというのに、僕はというと存外に心の起伏が激しくなかった。その事が意外で、驚きで、
それでは薄情だという思考が先ず以って出てきているからなのかもしれません。
(尤も涙を流さずとも、こうして薄情では?と思考している時点で僕なりの情は、心は持っ
ているんだとも解釈はできる……?)

ただ見ていて思ったのは、死とはこうも汚いんだなということ。それでも必死に残る生にし
がみつくものなんだということ。そして何時間にも感じられたその苦しみの割には──事切
れる瞬間というのは、何てあっさり途絶えるんだろう、と。

何度呼びかけても動かなくなって、目に光が無くなって脈も確認できなくなって、僕は妹と
一緒に血や何やらでぐちゃぐちゃに汚れた顔や口を拭いました。口の中に力を失った舌をそ
っと収めてあげ、息苦しかったであろう液体諸々を取り除く。……この辺りはやっと情なの
か、ティッシュ越しとはいえ嫌悪という気持ちは感じなかったです。
少し体を丸めて箱の中に入れてやり、翌日の葬儀場への連絡を待ちました。
知識では知っていた死後硬直の硬さが、この子の肉感を奪っていっているのが否が応にも解
ってしまいました。納棺の前に好物だったお握りなど(そういえば赤ん坊の頃からパンでは
なく米派だった)を入れてやり、お礼を言って帰りました。もう二度と戻っては来ません。

初めは近所に迷い込んだ、野良の仔犬でした。
それを当時存命だった祖父が連れて帰り、うちで飼う事になりました。
先代のワンコも死に、この子も徐々におばあちゃんになっていって、いよいよ二人とも逝っ
てしまいました。人間の五倍の速さ──知識で知っていても、どうにもなりませんね。
「今までありがとう」「お疲れ様」家族が色々語り掛けていましたが、僕はその時も納棺の
時もこの言葉ばかりが脳裏に過ぎり、呟いていました。

「うちに来て、幸せだったか? もっと良い暮らしが出来たかもしれないしさ……」

どうも僕自身は、悔やむ言葉ばかりが出てきます。こうして文章にして、その死をインター
ネッツに遺す(さらす)ような真似をせずにはいられなかった事も含めて。

返事が聞きたかったな。

ゆっくり、お休み。

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  1. 2015/10/29(木) 17:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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