日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「遥かなる国」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:楽園、島、観賞用】


 その国は、文字通りほぼ世界の中心であった。
 領土自体はそう広い訳ではない。中央大陸から延びる楕円形のような半島をその主立った
支配領域としている。
 北は大昔の地殻変動によって高く複雑にそびえる山々が外敵を防ぎ、残り三方の海はこの
地に暮らす人々に様々な禍福をもたらしてきた。緑も豊かだ。本土内陸や近海に浮かぶ無数
の島々に点在する農場群は、人々の食糧を自給させて余りある。
 だが何よりも……この国を繁栄させているものがある。
 “魔道人形(マトン)”だ。
 人間よりも遥かに力持ちで、精密で、疲れ知らずの身体。更に人間には絶対服従。
 彼らがこの国で発明されてからというもの、肉体労働を中心とした仕事の多くが彼らによ
って代替されている。その分、人々はより高度な──文化的・政治的な営みに集中できると
いうものだ。全員が全員ではないが、この国は明らかに階層に分かれていた。
 輝ける繁栄を享受し、これを更に発展させる事に日々心を砕く市民。
 そしてその生産基盤を支える、無数の魔道人形(マトン)達。
 産業面でも、軍事面でも、この国は諸外国を圧倒していた。
 余力から生み出される多くの英知。人々から世界の中心と言わしめられる理由は、大よそ
この人と魔道人形(マトン)が共存──使役し、使役される関係が確立している点にあった
と言えよう。

「──では、ご確認ください」
 西岸のとある港。そこで一人の小太りの商人が他国からやって来た貿易商と話していた。
 その横で、着古した焦げ茶色のジャケットを着た青年がこれを静かに眺めている。
「確かに……。ではお納めください。支払いは今月締めで」
「はい。毎度有難うございます」
 交わされる書面と、布袋に入った支払額の一部。
 周りでは後ろ首の根本に宝珠(コア)が埋まった、一見人間とあまり大差のない者達──
魔道人形(マトン)らが山積みの品を軽々と持ち上げて運び、行き交っている。
 二人の商人は互いに握手を交わし、取引の成立に安堵しているようだった。貿易商の方が
自身の船に振り向き、積荷を運び出す魔道人形(マトン)達に二・三指示を送っている。
「……いやはや、助かりました。何せ急な注文で、人間の人足ではすぐに用意するには時間
が掛かってしまうものでしてな」
「いえいえ。お役に立てたのなら光栄です。うちのマトン達も、仕事が入ってきて喜んでい
ましたし」
「そうですか……。このお礼は必ず。しかし宜しいのですか? 報酬があの程度で? お気
を遣って貰わずとも、もう少し色を付けるのには吝かないのですが……」
「いいんですよ。当面の食費と、あの子達のメンテ費用があれば。下手に財を溜め込んでも
皆が富みません」
 はぁ……。商人が故に、この商人はそうにこやかに話す青年を少なからず奇異の目で見て
いるようにみえた。それでも取引相手は取引相手。そんな私情は決して表には出さず、ただ
今後の為にもしっかりと胡麻だけは摺っておく。
 青年は“人形師(マイスター)”だった。
 魔道人形(マトン)を造り、使役し、そのメンテナンス全般を担う、ある意味でこの国の
要ともいえる技能者だ。
 彼は微笑(わら)って商人に答えていた。返した言葉は決して嘘ではない。
 ──彼は知っている。魔道人形(マトン)は確かに非常に体のよい労働力である。しかし
その一方で、旧来の人間の労働者は今やすっかりパージされてしまった。多大な繁栄を成し
遂げた国と諸国は評するが、いちマイスターとして、それが必ずしも万人を幸せにしたとは
言えない筈だと彼は考えている。
 文化的・政治的に貢献できるだけの教養や才覚を持たぬ市民に、居場所はあるのか?
 或いはそんな難しい事を考えず、周囲に満ちている富を存分に浴びて優雅に暮らせばいい
のだろうか?
 そうは思わない。どれだけ魔道人形(マトン)達が人々を労苦から解放したとしても、全
く人々が遊んで暮らせる世界など無いのだから。
 事実、表面上それができる環境を維持しているのは、自分達マイスターの存在があってこ
そだ。商人だって要る、農園主だって要る。この国ではありふれた存在でも、一歩国外に出
れば魔道人形(マトン)は間違いなく珍しい部類だ。そうした先方に、魔道人形(マトン)
だけで応対していては信用されない。何処かで、生身の人が介在しなければならない。
 この国の繁栄とは、文字通り多くの支える者達があってこそ成立している……。
「──よう。此処に居たか」
 そして、ちょうどそんな最中だった。
 雑務があるからと会釈し、場を去っていたこの商人に代わり、青年の下へとある別の人物
がこちらへ向かって歩いて来たのだ。
 ローブに袈裟懸けの布を巻いた、小奇麗な青年。
 人形師(マイスター)の青年は気付いて「やぁ」と軽く手を挙げた。二人は幼少の頃から
の幼馴染である。
「もしかして仕事中だったか? すまん。さっき商人とすれ違ったが……」
「ああ。そうだけど、大丈夫。大体の仕事はもう終わってるから。今はちょうど、うちの子
達が荷物を倉庫に運んでいる所だよ」
「ふーん……」
 ローブの青年は少し困ったように苦笑(わら)い、ぐるりとこの交易港内を見渡す。
 魔道人形(マトン)達が黙々と身長大以上の荷物を持ち上げ、次々とその倉庫とやらにき
っちりと積み上げていた。出てきた何体かがこちらに──ローブの青年に気付いて会釈する
が、元よりそこまで細やかな感情はインプットされていないのか、あまり愛想のよい感じで
はない。
「お前も物好きだよなぁ。お前ほどの腕があれば貴族達のお抱えで充分食っていけるのに、
相変わらず市民街(こっち)でばかり仕事を受けてる」
「その方が性に合ってるんだよ。そういうのは他のマイスターでも足りるし、何より僕らは
市民(ここ)の出なんだから」
「……そう、だな」
 そう人形師(マイスター)の友に言われて、ローブ姿の青年は何だかばつが悪そうな表情
をして頬を掻いていた。対するこの彼も、ややあって気付いたのか、すまないと詫びる言葉
もそこそこに同じく苦笑を返して佇んでいる。
「それで、今日はどうしたんだい? 評議会の議員先生がわざわざこんな端(ところ)にま
で来るなんて」
「ああ。お前に会いにな。……だが、やっぱ用件の方は無理そうだなあ」
「……ごめんよ。僕はそんな器じゃないから。でもまぁ、皆の役に立つっていうのは、吝か
ではないんだけど……」
 だと思ったよ。ローブの青年──若いながらこの国の中枢に立つ人間の一人は、そう引き
続き苦笑を漏らして言った。今回だけではない。過去に何度も、彼は無二の友であり、腕利
きの人形師(マイスター)であるこの青年に自身のスタッフにならないかと持ちかけている
のだが、毎度その結果はこうしてやんわりと固辞される格好なのである。
「……そっか。そう言えばそろそろ次の選挙なんだっけ」
「ああ。三期目が掛かった選挙だ。ぼちぼち俺も要職を狙っていきたい。だから伝手も人材
も出来るだけものにしたいと思ってるんだがな……」
 ごめん……。友の苦笑いに対し、気にするなとこの青年は応じた。
 正直を言えば、組みたい。だけども友だからこそ、その信念と市井で築き上げたものを自
分の都合一つで壊してしまいたくないというのも、また本音であった。
 作業をしていた魔道人形(マトン)達が、一通りを終えて戻って来る。
 お疲れさま。使役者である人形師(マイスター)の青年がそう労をねぎらい、再び今回の
依頼者である商人に顔を出すと、彼はこのいつの間にか隣にいたローブ姿の青年とその護衛
数名の姿を見、にわかに緊張しながら送り出してくれた。マトン達は先に帰らせる。
 カツカツ。港から街中へ。
 整備された馬車用の石畳と、往来用の土の道路の上を二人して歩いてゆく。
「今日はこのまま帰りか?」
「うん。なんなら家に来る? ご飯くらいご馳走するけど」
「ありがたいが……遠慮しとくよ。こっちはまだゴチャゴチャと予定が詰まってるしな」
 通りを行き交う人の群れに混じりながら、彼らは歩き、語らった。馬車に乗って通り過ぎ
ていく上流階級も、市民も、魔道人形(マトン)達もここでは区別なく思い思いに用事なり
何なりの為に一堂に会している。
 友の申し出を、ローブ姿の青年はやんわり断った。護衛の者達にあまり怖い顔して歩くな
よと、周囲の往来に気を遣ってこそりと告げ、されどぼうっと北に向かって高く積み上がっ
ていく登り調子の街並みを眺めながら続ける。
「……お前は、この国の繁栄は表面的だって言ったよな」
「? うん」
「最初の頃、俺は正直何を言ってるか分からんかったが……今ならお前の見立ては正しかっ
たって思ってる。確かに魔道人形(マトン)達のおかげで俺達の暮らしは格段に楽になった
さ。でも、だからって問題の全部が全部、消えてなくなった訳じゃない」
「……」
「知ってるか? 移民を中心に、不満が広がってる。一応市民籍を取れれば衣食住の心配は
なくなるんだが、そもそもこの国は魔道人形(マトン)達がいるから単純労働での働き口は
先ず無い。居場所がないんだ。貴族連中みたいな贅沢まみれの暮らしが出来るでもなし、か
といって沢山働いてやりがいを得ようにも魔道人形(マトン)に取られてる。この間も陳情
が来てたよ。自分達にも仕事をくれってな」
 勤勉なこったよ。
 ローブ姿の青年は気持ち口元に手を当て、自嘲と、周りを警戒するようにごちていた。
 一見すればとても繁栄し、何一つ不自由のない国である。
 しかし魔道人形(マトン)は労働に伴う苦しみを肩代わりしたが、同時にそれに伴う喜び
もまた人々から奪っている。
「それに、だ。また評議会の爺どもが喧嘩してる。この前北の国境でドンパチがあったろ?
一部じゃ帝国(むこう)と戦いになるかもしれないって、軍用マトンの増強を主張してる勢
力がある」
「戦いって……。そこまでしなきゃいけない窮地でもないじゃない」
「ああ、全くだ。でもやっぱ連中は怖いらしいな。隣にユワン朝や共和国が在るにしても、
帝国はこの国を──魔道人形(マトン)の技術を欲しがってる」
「……基本的に輸出しちゃいけない決まりだからね」
 人形師(マイスター)の青年は睫を伏せる。
 魔道人形(マトン)の可能性は無限大だ。この国では主に人間に替わる労働力として活用
されているが、調整次第では同じく人間に替わる戦争兵器としても十二分に転用できうる。
 何せ人間に従順で、その身体能力は常人以上。生命を磨耗させ合う従来の戦いに革命を起
こすであろう事は明らかだった。
 ……だからこそ自分達人形師(マイスター)の組合は、軍事への必要以上の転用も、他国
への輸出も抑制に抑制を重ねている。精々、市中を守る衛兵や、抑止力としての国境警備用
の戦闘マトンくらいである。彼らの事を誰よりも知っている自分達だからこそ、その力が悪
用されるのを慎重過ぎるくらいに恐れている。
「時々思うよ。俺達は本当に、魔道人形(マトン)達を生み出してよかったのかなって。確
かにこうして色んな恩恵を受けてはいるけど、そうやって余力ができた分、色んな争いにも
力を注ぐ余力が出来ちまってるっつーか……」
「……」
 初めはもっと単純に自身の出世欲の為に、この国の人達の為に。
 だけども今は、変わっても変えられぬ多くの諍いを、評議会議員の一人として少しでも収
めていけたらなと思う。そうこのローブ姿の友は語ったのだった。
「凄いね、君は。そうやってめげずに困難に立ち向かっているんだ」
「お前に褒められると何かむず痒いな……。でもそんな大層なもんじゃねぇよ。結局やって
るのは机並べて、椅子の上に踏ん反り返ってあーだこーだ言ってるだけだ。俺にはお前の方
がよっぽど人の役に立ってるように思うぜ?」
 ざり、ざり。石畳から時々土の道路を。二人は暫し黙して歩いていた。
 背後気持ち離れて、この友の護衛役らの気配がする。人形師(マイスター)の青年はぼう
っと考えていた。
 そうだろうか? 君が言うように、そもそも魔道人形(マトン)がこの世に生を受けなけ
ればもっとこの国は、世界は違ったものになっていたかもしれない。それでも、やはり世に
争いが絶えないのは不変なのだろうけど……。
「──なあ」
 ざりっ。地面を踏み締める音。
 はたとローブ姿の青年が空を見上げ、そして“こちら”に向かって訊ねてくる。
「あんたの世界は、もっと良いものかい? それとも……」
                                      (了)

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  1. 2015/10/11(日) 18:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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