日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「濁り女(にごりめ)」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:犠牲、幼女、恩返し】


 夜。小腹が空いた若葉は、一人近所のコンビニまで出掛けていた。
 通い慣れた道、見た目だけなら小奇麗に整備された石畳の歩道。
 日はすっかり落ち、辺りは競うように立つビル達が点す明かりやネオンを代わりとして働
き続けていた。
 それでも時刻は時刻である。車の往来こそあれ、通り過ぎる他人は昼間に比べればほぼい
ないと言っていい。ややあって尚も白く明かりの点く店内に入り、若葉は早速品数も疎らに
なっている商品だなを物色し始めた。
 親友の志穂から電話が掛かってきたのは、ちょうどその少し後である。
 お菓子を三つほど、気休め程度にパックの野菜ジュースを会計して店を出ながら、若葉は
耳に当てたスマホ越しにこの友とのお喋りに興じる。
『──そういやさ。若葉には話したっけ?』
「うん? 何を?」
『あ、まだだっけ。いやね? ここ最近の旬の都市伝説があるんだ~』
 ネオンの光と影が無言に交差する夜の歩道を歩きながら、若葉は親友のそんな何処か嬉々
とした声色に苦笑(わら)った。
 彼女は昔っからこうだ。オカルトからゴシップまで、とにかく噂話というものが大好きな
のである。時には諌めようかと思った事もあったが、現状別に自分に被害が及んでいる訳で
もないし一介の高校生の戯言だ。何より愉しそうな友に水を差すことをしたくなかった。
 ふぅん。それで?
 スマホ越しで表情が悟られないのをいい事に、若葉は話半分で促してみる。
『“濁り女(にごりめ)”っていうんだけどね。何でもその女に一つ恩を売れば、一つどん
な願い事も叶うっていうのよ』
「へぇ……」
 ありがちな、だけどもありそうで無かったタイプ。
 この手の話というのは一方的に奪っていくものが多い──気がするだけに、正直珍しいな
とは思う。
『あ、でも……。恩を売るっていうよりは対価に近いのかなぁ?』
 尤も志穂自身も、詳しく詰めた部分の話までは聞き及んでいないらしかった。
 無理からぬことではある。巷説とは、分析的にみれば、そうして少しずつ変質し、何かし
らは削ぎ落とされて抜け落ちていくものなのだから。
「対価?」
『うん。濁り女に会ったらね、先ずお願い事をするの。○○してください、とか、○○が欲
しいとか。そうしたら向こうからも同じように返事が返ってくるんだって。○○をください
って。その求められたものをあげると──恩を売ると、こっちの願い事が叶うんだよ』
「へぇ……。何だ、結構平等なんだね」
『う~ん。でもどうやらそれがそうでもないんだなぁ……』
 電話の向こうの志穂が、一層愉しそうにほくそ笑んだのが分かった。
 どうやら都市伝説の本題のようである。何となく若葉には、ざっくりとそれが想像できて
しまっていたのだが。
『これは他の子から聞いた話なんだけどね? 以前、濁り女にでくわした会社員が「金が欲
しい」って言ったら、彼女は「では、財布をください」って言ったの。カードとかも入って
るし、返って来なかったら困るしで最初は躊躇ってたんだけど、結局渡してみたの。そうし
たらどうなったと思う? そのすぐ後に、その人のいたすぐ道向かいに現金輸送車が突っ込
んで来て事故が起きたんだって。辺り一面に札束が散らばったそうだよ。で、その人は周り
の騒ぎに便乗してたんまりとお金を手に入れたって話』
「……それ、普通に泥棒じゃない? お札に書いてある番号を辿れば動かぬ証拠になっちゃ
うだろうし……」
『うっ。だ、だけどこれだけじゃないのよ。他にもね? 先生と仲の悪かった不良が濁り女
に会って、こう言ったの。「あの先公をぶっ殺したい」って。そうしたら彼女は「では、刃
物をください」って言ったの。ちょうどそいつは普段持ち歩いているサバイバルナイフを取
り出して渡そうとしたんだけど……その瞬間、ひとりでに刃先が出て、気付いたらその先生
が目の前にいて突き刺されてたんだって!』
「……瞬間移動でもしたって事? うーん、流石に無理あるんじゃない? その不良ってど
うなったの?」
『さぁ?』
「さぁって……。本当に噂レベルなんだね……」
『実際にあったら生徒が先生を殺した殺人事件な訳だからねー。何もニュースにならない筈
はないんだけど……。コホン。じゃあとっておき。別の時には好きな男性(ひと)とその彼
女を引き裂きたいっていう女の人が濁り女に頼んだのよ。そうしたら彼女は「では、小指を
ください」って言ったの。勿論女の人はびっくりして躊躇ったわ。でも次の瞬間、言葉通り
小指が根本から何かに真っ二つにされて、その人はのた打ち回ったそうよ。気付いたら濁り
女もいなくなってたって。……でもね? そんな事があった次の日、引き裂きたいって言っ
てた相手の女が変死したって話よ。それも、死亡推定時刻がこの女の人が指を持っていかれ
た頃とぴったりなんだって!』
「……」
『? 若葉?』
「あ、ごめん。想像したら気持ち悪くなって……。小指でも千切れたら血が凄いじゃない?
大丈夫だったのかなぁ……」
『あう。ごめんごめん。うーん、でも少なくとも千切れたせいで死んだって話までは聞いて
ないなあ。病院行きは確定だろうけど』
「だよねぇ……」
 都市伝説に興奮する親友(とも)と、妙に冷静で、だけどしっかり想像力の翼を羽ばたか
せてしまう自分。
 若葉は言って、しかし彼女を冷静にさせてしまったのを少し悔いた。
 白けさせて、ブルーにさせてどうする。お喋りの話題にと持ってきてくれた話なのに、自
分はついそういうものも重箱の隅を突くような無粋をしてしまう。
『……だからまぁ、そんな化け物が出るかもしれないから夜道は気をつけなさいって事さ。
実際最近は物騒だからねえ。この前も中学生だっけ? オッサンに連れ回されて殺されたば
かりじゃない』
「あ~、あれね。確かにそうだね……うん。ありがと。気を付けて帰ることにする」
 それから二人は暫く、色んな話題でお喋りをしながら時間を過ごした。
 学校での不平不満、他の仲間達の恋バナ、ファッションにイケメン俳優──その頃にはも
うすっかり先の都市伝説の話は抜け落ち、やがて若葉は通話を切る。
『じゃ、そういう事で。お休み~』
「お休み。また明日ね」
 ……それから、程なくしての事だったのだ。
 電話を切り、スマホをズボンのポケットの中に戻して、左手のコンビニ袋を揺らしながら
気持ち薄暗くなった通りの歩道を進んでいると、ふと横路地への入口に誰かが座り込んでい
るのを見つけたのだ。見つけて、しまったのだ。
 ホームレス? 半ば脊髄反射的に、いわゆる“良識”として関わらず、通り過ぎてしまお
うと考えた。
 しかし結局若葉は立ち止まってしまう。
 少なくともホームレスには見えなかったからである。何があったのかあちこちが汚れて、
掠れて破れた白いワンピースを着た、ぐったりとした少女だったからである。
「……嘘でしょ」
 思わず若葉は、呟いてしまっていた。色んな可能性が脳内イメージとなって過ぎる。
 誰にやられたのか? 何をされたのか? 先刻、志穂が冗談半分に言っていた中学生拉致
殺人の一件を思い出す。
 見た感じ中学生よりも更に幼い──小学生くらいの背丈に見えるが、それにしてはぼさぼ
さに伸びた黒髪が長過ぎるような気もする。彼女は路地の壁に背を預けて俯いていて、その
顔を確認することはできなかった。でも、このまま放っておく訳にはどうにもいきそうには
なかった。……もしこの子がこのまま野垂れ死にでもしたら、自分は。
「もう、何だってのよ。私はただ、平穏無事に暮らしたいだけなのに……」
 だから若葉はそう誰にという訳でもなくごちていた。ごくりと息を呑みながらもその場に
屈み、この少女をおっかなびっくりにも介抱しようとする。
「──に、──たい?」
「え?」
「平穏無事に、暮らしたい……?」
 しかし少女は辛うじて意識があったのだった。ぽつぽつ。彼女の口から返されたそれは、
紛れもなく今し方、若葉がつい口に出してしまった“願い”であって──。
「……ッ!?」
 濁っていた。
 思わず抱き寄せて起こした幼い少女の眼。
 その両目は、まるで死んだ魚のように“濁っていた”。

『ああ、何で濁り女(にごりめ)かって? 名前通りだよ。何でも見た目は普通の女なんだ
けど、目だけは死んだ魚みたいに濁ってるんだってさ』

 あの時、志穂(しんゆう)が電話越しに答えてくれたそんな素朴な疑問。
 まさか……。若葉は抱き寄せた手を話す事も、目を逸らす事もままならず、只々恐怖で全
身が凍り付くのを現在進行形に感じるしかない。
「では、首をください」
「えっ」
「あなたの、首をください」
 だから次の言葉は決まっていた。放たれたのは対価だった。
 濁った眼で、しかし声色も目の力もごくごく純粋なように聞こえて、そんな要求を。
「く──?!」
 次の瞬間。
 若葉の視界は、意識は。
                                      (了)

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  1. 2015/10/01(木) 18:00:00|
  2. 週刊三題
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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