日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「世界絲」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:森、黄昏、糸】


 “糸”は紡がれる。
 それはあらゆるこの世界に遍在するものだが、同時のそこに息づく者達の殆どが見ること
も知ることも、触れることすら叶わないものだ。
 寿命が尽きる。他者の糧となる。ただ、他人の悪意によって殺められる。
 理由は実に様々だ。だが“糸”はそれらを区別する意思を持たないし、術を持たない。た
だ只管に平等に、表層上物質上逝った全ての者から等しく立ち上り、或いは地に潜るように
してゆらりと解き放たれていき、次の終着へと静かに紡がれていくのだ。

 数十年の時を生きた人が死んだ。それを妻、子供、親類や友らが囲んで泣き咽ぶ。
 その獣は息絶えた。矢を番えた狩人(ひと)の一撃に斃れ、彼らの食肉となる。
 彼らはとかく生存の為に戦い、敗れた。剣や弓と共に血汚れ、折れ、伏せっている。

 皆必死だった。必死に生き、その為に誰かから何かから奪うことを宿命づけられている。
 だが“糸”はそんな彼らの生に、老いに、病に、死に構わない。寧ろそうであってくれな
ければ困るのである。時は進む、様々な形態の死が積み重なる。しかし“糸”は他ならぬそ
うした彼らから解かれ、紡がれるのだ。その集合において一個の死とは全くの断絶では決し
てなく、寧ろ始まりですらある。

 いや……始まりとは何処か?
 その原初と云われた大地より、二足で歩き始めた猿が各地へと散り始めた頃か。熱砂から
温暖な海辺へ、冷たくも確かな実りへ。或いは更に砂を越え、山を越え、海原さえも越えて
彼らは遠きを高きを求めた。
 彼らを突き動かしたのは何か? ただ生存を、増え過ぎた群れが安心して暮らせる新天地
が欲しかったのか。或いは本能が命ずるままに冒険を求めたとでもいうのか。
 定住できた者もいた。だが、その道中で志半ばにて倒れた者も決して少なくはない。
 失意と残念と、骸。そこを“糸”は逃がさず立ち上り、紡いでいく。それこそより遠きへ
高きへと、未だ見ぬセカイの為に。
 全身の毛はやがて抜け落ちて、素肌となった。残ったのは大事な部分を残すのみで、黒に
白、やや赤みかかった黄色みかかった色で、その地その地に留まっていく。

 残ることを選んだ者達。彼らは長く在りしままのゆったりとした時間と生死を受け継ぎ、
やがて舞い戻ってきた──忘れ去ってしまった者達から蹂躙される未来。
 進むことを選んだ者達。陸続きでは中々線引きを確定させられなかった。窮して移動する
度に他の誰か達が半ば追い出され、征服され、多くの血が流れる。熱砂と冷山を越えた先で
は蛮が再び力をつける。己が全ての中心だと信じ、やはりここでも長い間争った。平穏無事
である時間は短く──それこそ全から観れば些細僅かな短さの中で、有る者を無かった者が
滅ぼし、有る者になる。有った者を蹴落とし、無かった事にする。陸続きとさてどちらが多
く血を流しただろう? 多寡を競い、誇るものではなかった筈だが、それでも間違いなく死
は彼らを滅したし、同時に様々に興したりもした。何より“糸”を紡ぐには格好の出元であ
ったのかもしれなかった。

 より効率よく、殺す。
 生存の為という大義はやがてやはり拡大に解釈され、人を一先ずの枠の中に捕らえ、互い
を競わせた。
 寿命よりも、頂くよりも。その為に一層多くの誰かを何かを奪うようになった。
 他人の労苦によって成り立つのは言わずもがな。金属の豪腕、無数にて彼らは掘り起こし
始めた。旧くの末に深く眠ったもの達を現在(いま)に引きずり出し、砕き溶かして、燃や
して彼らの効率よい生と死の為に使われた。
 次第次第。大量に放り込まれ、咀嚼される。
 加速度的。大量に打ち込まれ、破壊される。
 “糸”にとってはもう散々と繰り返された光景だが、はたして初めて、大よそその一回で
しかない人々にとり、それはやはり地獄だったのだろう。多くを奪って失って、ようやく彼
らは束の間の反省をした。何の為だったか。その限りある世界の中で、しかしやはり“悪”
を決めて押し付け、束の間の安息を。

 ゼロには出来ない。在るとすれば、それは単に忘れただけだ。忘れたかっただけだ。
 復讐が始まった。押し付けられた側からすれば、それこそ正義であったのかもしれない。
 いや、どちらに在るか。それはもしかしなくても大した問題ではないのだろう。
 “糸”は紡ぐだけだから。ただ再び、また別のそこで世界を編み直すだけだから。
 かつてより一層効率よく殺した。一層無慈悲に、冷酷で、錆鉄と汚泥に塗れた場所で人々
は向かい合う。
 しかしゼロに出来ない、無いものなど無いのなら、やはり有れば有るほど勝者は──善は
そちら側として上書きされるものだ。
 結局、復讐は叶わなかった。野望の残滓は野望を呼び、しかし夢だからこそ必ず綻び、終
焉する時が来る。たとえ“糸”に、全にとり当たり前の事でも──人は其処へ落ちていく。

 何だったのだろう? 結局、先に得た者が“悪”を決めるのか。
 ある者は彼らを無駄に散らした命だと言う。故に繰り返してはならないと言う。
 それでも、有る者がいて、無い者がいる。違うからこそ尊く、故に同等かそれ以上に欲し
くて憎くて堪らない。……それが、この大地を開拓した生命(いのち)の一族らの性だ。
 作る。造る。創る。
 規模こそ違うが、はたして本質は変わらなかったのではないか。
 寿命を迎える。糧となる為に逝く。何の意味もなく、些細な意味でしかなく、或いはその
誰かの意味の為に奪われる──奪われる。自分のものではない。全くのゼロになってしまう
のだという、認識(さっかく)。
 業火の弾であろうか、手前勝手に設えた大地が崩壊し、応報よろしく牙を剥かれる時か。
或いは見も知らぬ他種(なにか)に為す術もなかった時だろうか。
 やがて彼らの世界は、混乱と自業の末に、滅ぶ。

 ……これは一例に過ぎない。生は此処より以外にも在り、死も同じく。そして何処かから
紡がれて来たからこそ、彼らは彼らとしてその世界(フィールド)を得たし、生まれ出ずる
事ができた。
 “糸”は回収する。上下左右、無数の一と零の間を越えて。
 有るという事は、有ったという事だ。有った、即ち無くなった(と表層的物質的に観測さ
れる)者・物・もの、全てから立ち上り、循環の機構(システム)の中へ組み込まれる。

 同じように、猿から毛が抜け、知恵を得、故に栄華の果てに己も他者も滅ぼしていくよう
な一族かもしれない。
 或いは逆に獣のままで、その肉体で以って生き抜き、そして死ぬ一族が駆け回る大地であ
るのかもしれない。
 もしかすれば、そんな在り来たりすら越えた、金属・有翼・概念だけなどの一族かもしれ
ない。戦う事が存在意義で、他種を見下し、或いはただ観察することばかりにその存在期間
の大部分を費やすのかもしれない。
 これも、一例に過ぎない。一つがあれば十も百も千も、無限に在る筈だ。だけども同時に
無限に近いほど在るという事は、巡って一つしかないと言うこともできよう。

 “糸”は紡がれる。それは全て、遍在するあらゆる場所からの死より立ち上った糸だ。
 機構(ことわり)に於いて、彼らは終わりなどではなく、断絶でもない。寧ろそれをさせ
ず許さないものであり、再び新たにまた別の場所を、何者かを構築する為の材料であるのだ
から。
 例えば今、ここに紡がれているものを語り聞かせよう。今ここに“糸”で紡がれてようと
している一面の緑があった。空から大地から、無数の“糸”が降り、そびえる。
 まだ壊されていない。いや、壊れている・いないの定義を此処でしてしまうのは早急過ぎ
る作業ではあるのだろうが……。とにかく壊されていない、紡がれる途中の緑である。
 色彩も、形も、法則はない。
 ただ影響するのは“糸”として立ち上ってきた──集められたかつての何者か達の記憶で
ある。だからこそ彼らがかつて生きた場所とは全く違っていても、此処はやはりそれらに何
処かで似た姿形になっていくのだろう。
 森であった。
 いうなれば濃く絡み合うような緑、木々の群れで、何者にも邪魔をされずまだ在るがまま
に其処に在る状態だ。きゅる。持ち込まれた糸がいよいよ使い切られる。この場所は、世界
は構築されたのだ。また此処から、生が始まる。

 大地が紡がれた、海が紡がれた、空が紡がれた。きゅるきゅる。何処からともなく集めら
れた“糸”は、一つまた一つ塊としての外見を失い、この世界に解けていく。
 しんと。暫くは平穏そのものだった。
 だがやがて多くの種が動き始め、そこからこの世界を支配しうる一族が現れることで、時
は緩慢に、しかし着実に苛烈に回り始める。
 生存の為に。知恵と武器と、数と。彼らは獣を狩り、果実を採り、やがては土を耕してそ
の勢力をどんどんと増やしていく。
 生存の為に。集まった人々は他の集まった者達を襲った。より多く持とうと、持っている
者から奪おうとした。武器が磨かれた。血が流れた。それすらも“糸”は見逃さず、やはり
人々はそれに気付かないまま──彼らにとっては長い時間の間──争い続けた。
 殺し合いながら、富んでいく。
 遣い潰しながら、富んでいく。
 信仰はあったのだろう。だがそれでも圧倒的な現実の前に、彼らは無力だ。どれだけ知性
と制度を整えても、衝動と暴力と組み替えた理論があれば誰も阻むものはいない。殺め、殺
められたもの、奪い、奪われたものがその進化発展の過程でゼロに戻せない以上、彼らには
常に仇という記憶が追随する。たとえ平穏が訪れても、それはきっと少なからずの犠牲者の
声と魂を足元の大蓋に封じていられるからこそ成しえた状態(もの)だった。
 そして始まる。復讐と、正義と、個々別々な小さな誇りとやらの為に、彼らは誰かを切り
捨てる理論を武装する。

 ……何故、だ?

 少し驚くことがあったとすれば、天を仰ぐその血汚れの兵士だろう。
 彼は、他の連綿、数多の“先人”が思ったのと大よそ同じように、嘆く呪う。この戦いは
何だったのだろうと。目的は果たせたのだろうかと。何より大事なものを……守る為のそれ
とするには大規模(おおき)過ぎたのではなかったのかと。
 どうっ。傷付き、血だらけの身体で仰向けになる。辺りには同じく土埃と異臭、折れて錆
び、大地に突き刺さった武器の残骸が点々としている。
 少しずつ引き延ばされていく体感時間の中で、若き兵士は静かに息を切らした。
 もう、自分は死ぬのか。ここで、終わりなのか。
 故郷に残した大事な人達の姿が浮かぶ。共に戦い、散っていった仲間達の姿が浮かぶ。
 剣戟は、まだあちこちで鳴り続けている。やめてくれと思った。ゆっくりと、痛みと衰弱
で震えるその手を伸ばし、今や曇りがちでさえ眩し過ぎるように感じる空を仰ぐ。
 そして──彼は我が目を疑った。何やら、空に向かって細い光の糸……のようなものが何
本も立ち上っている。
 目を丸くし、しかしすっかり言う事を聞かなくなった身体を無理やりに捩り、彼はまさか
と辺りを見渡した。
 直感が告げた通り、はたしてそれらは敵味方、この戦場で倒れた亡骸達から立ち上ってい
るように見えた。死者の魂? ある意味順当だがその実何処か焼き切れた思考回路でそう仮
説を立てる。そして戦慄したのだ。──自分からも、この“糸”は上り始めている。

 嫌だ……!!

 死期を悟った。医務班とでも合流できなければ、このまま。
 しかし彼は確かにそう強く拒否したのだ。心の中で、身体の奥底からこの“糸”を拒む。
 何故だ、何故ここで自分は死ななければならない。まだやりたい事はたくさんあった。守
りたい大切な人達と、もっと平和な日々を過ごしたかった。それを邪魔する、敵国を止めた
いと願ったから、兵に志願した。
 ……英雄になりたい。そんな大層なものを望んだ訳じゃない。
 だけども無かった訳でもなかったのだろう。自分が特別でありたいことと、現実的に特別
になれる幾つかの選択肢。もしかしたら、自分は、それに何処かで気付いていたからこうし
て兵になったのかもしれなくて──。
 だが、もう彼にはそんな事はどうでもよくなっていた。それは生き残ったからこそ得られ
るものだ。死んでしまっては元も子もない。加えて戦友や敵兵らから立ち上るあの“糸”。
あれがもし霊魂を何処かへ連れて行ってしまう、頼んでもないものならば、自分はその力に
何としてでも抗いたかった。
 嫌だ……。這い蹲り、ほんの僅かな逃避行。
 血が零れる感触がした。枯れ草に傷が障る痛覚が奔った。
 何だっていうんだ? 何だって。
 争って、争って。放り込まれて死んで。
 自分達は一体何なんだ? 何の為に生まれてきた? ただ稼ぎ、戦い、誰かの──いけ好
かない権力者や見も知らない他人の為に使われる。ただ稼がなくてはならず、闘わなくては
ならず、しかしその果てに誰も誰からもきちんとした安息を得られる訳でもなく。
 ふざける、な……! 彼は累々の惨状の中でぐぐっと手の伸ばす。
 人は死んでいく。そこからあの“糸”は回収されるように立ち上っていく。
 理由ははっきりとしない。だけども絶対に嫌だという想いだけはあった。
 定められた連綿、許されない断絶、繰り返される死苦。
 彼一人の、彼一人という人間の記憶ではそこまで理解は及ばなかったろう。だがかくして
瀬戸際で“糸”を視、おぼろげながらも思い出す事が出来た誰かなら、内から込み上げてく
るその『絶対』に絶望すらした。

 嫌だ、嫌だ……。ふざけるな……。
 俺は……俺達は、こんな事の為に生まれてきたんじゃない──。

 “糸”は紡がれる。
 それはあらゆるこの世界に遍在するものだが、同時のそこに息づく者達の殆どが見ること
も知ることも、触れることすら叶わないものだ。
 それは言い換えるなら魂の再利用、時に「連綿」と呼び、時に「柵(しがらみ)」と人が
呼ぶものである。“糸”に意思は無い。ただその死を以って次へ向かうべく器から離れ、ま
た何処かの世界を造り成す材料になるのだ。

 “糸”は紡がれる。
 そこは名も無き世界だった。或いは貴方の世界かもしれないし、私の世界かもしれない。
 まだ侵されぬ、原初のままの森が広がっていた。まだそこは生命の気配もない、ただ鬱蒼
と「場」だけが用意される途中のフィールドであったが、此処もやがては多くの生命とそれ
らを支配せんとする一族の大舞台となるのだろう。

 “糸”は紡がれる。
 ただ繰り返すだけだ。拒もうとも関係ない。世界はそうして出来ている、そうして繰り返
しあらゆる場所に遍在してきたものだ。連綿とはそうした営みの全てであり、断絶とは些細
な「一」の、いずれ消えてゆき、材料へと還る何かのみた夢でもある。

 紡がれる。
 きっと何処かで。永久に。
                                      (了)

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  1. 2015/09/13(日) 00:00:00|
  2. 週刊三題
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
します。

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