日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(書棚)感想:又吉直樹『火花』

書名:火花
著者:又吉直樹
出版:文藝春秋(2015年)
分類:一般文藝/純文学

それはさながら火花のように。
刺激し合い、ぶつかり合い、そしてやがて消えゆくものか。
これは「藝」を突き詰めんとした男達の断片(ものがたり)──交友の果て。

俺氏、流行りに乗っかってしまうの巻。


もの凄~くお久しぶりです。また放置してましたぁ!(平身低頭)
今回もまたざっと七ヶ月ぶりですか……アウトプットばかりに没頭して全然インプットして
いない。多分他の方法で半ば無意識に補完はしていたのだろうけど、よく今までネタが尽き
なかったもんだなぁと思います。はい。

さて今回は又吉直樹氏『火花』の読書感想です。
一時報道であれだけ持て囃されたのでご存知の方も多いと思いますが、今年の芥川賞受賞作
の片割れですね(もう一作は羽田圭佑氏『スクラップ・アンド・ビルド』)
又吉さんはお笑いコンビ・ピースの片割れとしても活動中です。僕はもう殆どテレビを観る
という習慣が失せて久しく名前くらいしか聞いた事はありませんが、この界隈から受賞者が
出るのは史上初なんだそうで。
それでは、物語の概要は次の通りです。

相方・山下と漫才コンビ「スパークス」を組んでいる弱小漫才師の徳永。
他の同胞らの例に漏れず、泣かず飛ばずの汲々とした日々の中、彼は夏祭り会場の傍で催さ
れていた漫才席で、とある強烈な個性を放つ先輩漫才師と出会う。
先輩の名は神谷。笑いの美学を突き詰めんとする生粋の“変人”だった。
しかし徳永はそんな彼の芸人として、人間としての在り方に強い憧れを抱き、殆どその場で
弟子入りを申し込んでしまう。
緩やかで且つ、濃密な二人の交流。
だがしかし、時の流れは世界は残酷で、二人を取り巻く環境はやがて──といった内容。

先ず僕から言えるのは、少なくとも、手に取った人間が“創る”側(作るにあらず)である
かどうかでこの小説に対する見方・感度が大分変わってしまうのだろうという事です。
言わずもがな、芥川賞は純文学の新人賞。なので当然同作もその括りに入れてしまって問題
なかろうと思うのですが、如何せんこの手のジャンルというのは「作者の心象」がより直截
的に描かれるものなので氏と同じ表現者──広義の創作人でなければ、作中の徳永達の締め
付けられるような苦心を理解できない可能性があります。それを、先ず言っておきたい。

頁を捲っていて、最初は少し気だるかったです。
何せ物語の序盤は延々、時を変え場所を変えて徳永と神谷が交流を重ねていく、その端緒を
淡々と綴っている感じだったので。
(加えて僕自身、ガッツリと「読書」をするのが久しぶりで活字に慣れるのに暫く時間を要
したという点も影響しているのかもしれません。追記程度に)
それでも、最初大阪を拠点に活動していた神谷とその相方・大林が徳永らのいる東京に上京
して来て二人がより頻繁に出会うようになったこと、そして歳月の経過でその立場が徐々に
逆転していくさまが描かれるようになると……文章を頭の中で起こす色彩も、頁を捲る速度
も増していきました。逆転。ある意味使い古されたシナリオ構造ですが、それが故に多くの
人々に当てはまり得り、藝に関わる者という大トピックが更にこの共感作用を(たとえ限定
的にならざるを得ないとしても)強くしているのでしょう。

神谷は、作中でも良くも悪くも「常識」に囚われず、只々面白い事を追求する「あほんだら」
として描かれています。当初徳永は、そんな強烈な個性の彼に憧れ、実際に交流し酒を飲み
交わし、笑いとは何ぞやという議論を何度も繰り返しながら少なくないものを得ていきます。
……ですが、これがこの物語の妙というか、純文学たらしめている要素というか、その徳永
自身がやがて己が少しずつ売れていくのに併せて神谷を盲目的に慕わなくなるんですね。
「理想が高過ぎる」「頑ななだけでは」「負けても負けたということを認めない」
作中決して彼を“見限った”という所まではいかないのですが、十年以上の付き合いを経て
徳永は一つの結論に至る事になります。
神谷のような天才性(阿呆さ)を、やはり自分は同じように獲得は出来ない。だけども一方
で巧く世の中を滑っていけるほど、自分も器用な人間ではない──。

僕はこの二人が対比されていると見ました。
神谷は「己の理想に準じ過ぎるが余り、人生を困難にしてしまうタイプ」。
実際作中での彼は荒くれ上がりで、借金を作っては自分の女に世話して貰っている、世間的
には駄目人間のレッテルを貼られる種類の人間です。
ネタバレになりますが、結局彼は(少なくとも作中では)芸人として大きく開花する事はな
かった。寧ろ、その現実と理想に引き裂かれて徐々に壊れて──落ちていきます。
徳永は「理想と現実に挟まれながらも、辛うじて後者に属する事が出来たタイプ」。
作中彼は、全体としてみれば僅かではありますが、最終的に有終の美を飾ってその芸人生活
を終える事になります。神谷、相方、出会った様々な人達。その全てを糧にし、感謝して、
決して器用とは言えないながらも芸人としての、その後の人生を生きていきます。

……解るかなぁ?
これ、ある程度創作(藝術)を齧ってその真髄に迫ろうと欲した人間からすれば、滅茶苦茶
しんどい姿なんですよ。
藝を究めること。それは往々にして世間一般の「普通」や「常識」から外れた所でなければ
ならない。ならざるを得ない。世の中の、敢えて言えば凡俗の営みをかなぐり捨ててでも、
究めんとするその営みにのみエネルギーを注ぎたくて注ぎたくて仕方なくなる。
でも、それは中々“許されない”んですよねぇ。
求道する創作者、その周りの人間が被る迷惑──物質的・体面的な損失は、どうしたって創
らない彼らにとっては害悪そのものでしかない。有り体に言えば金にならない。そんな色々
な理由で以って、究めよう究めようとする人間に、世は奇人狂人のレッテルを貼る……。

『反対されたから諦めるのなら、所詮その程度の覚悟だ』

夢に関し、よくこういう言い回しを耳にしますが、この物語にはそんな自他からの重圧に必
死で耐える彼らお笑い芸人と、そんな界隈内側の「沼」を知らない創作人ではない人々との
如何ともし難い溝がしばしば現れます。徳永は、終盤にこうしたある種の藝に対する無知・
無理解(誹謗中傷の類)を『笑わせてやれなくてごめんな』と寧ろ宥めているのですが、僕
は未だ青二才だからか、そこまでの境地には至らないなぁと思いましたね。

まだ、僕個人は神谷の“理想に殉じてしまった”落ちっぷりにより心を痛めます。まぁそう
やって自分に重ねて、ナルシストを気取っているだけかもしれませんが。
お笑い──演技にしろ、音楽にしろ、絵にしろ小説にしろ、藝としてそれを究めたいという
確かに業深き、だけどもある意味真っ直ぐな願いに、どうして世界はこんなにも冷笑であり
続けるのでしょうか? 一度メディアにでも取り上げれば殺到する癖に……。僕はしばしば
恨めしくなります。
好きなことをやりたいを許さない。それでもやろうってんなら、自己責任だぞ?
まるでそれは、各々の好きで生きられなかったこれまでの自身を繕うかのように、まるでそ
んな自分達とは逆の生き方をしたがる(している)求道者に嫉妬し、寄って集って引き摺り
下ろしているような、そんな風に思えて。
……だけどもまぁ、これも好きで生きたいという願いに駄々を捏ねている側の言い分でしか
ないのでしょうね。殆どの場合において好きと仕事は両立しない。給料というものは労働の
対価ではなく我慢料だ、なんていう斜に構えた云いもありますし……。
ただいち創作人、藝を突き詰めたいと欲望する一人としては、ただそれだけの理由で人生を
ハードモードにさせしむ世界というのは(それ以外の所で回っているシステム故)仕方ない
とはいえ、どうにも理不尽だ、解せぬという思いがありまして……。

──失礼。脱線しました。私怨に過ぎたかな……。

とにかくこの物語は「藝」を究めんとするが故の逸脱(くるしみ)と、それが為に転落して
いく・変遷していく人間の無常さを描いた一作であるように思います。

理想に殉じるか、否か?
変質していく他者達と、己自身への寂寥感。

作中自体はただ引き裂かれて破滅する──筋金入りのバッドエンドではなく、徳永も神谷も
一先ずの納得の後に先へ進み、或いは敗れても尚もがき続けるという本編後の連続性、所謂
ビターないしメリーバッドエンドの余地を残して結ばれています。

ただ絶望して終わり、では他人の評価は得辛いからかな?

メディアで見る又吉氏は神経質で、そこまで大手を振るって阿るような人には感じられませ
んでしたが。でもそこを抜きにしても文章の緩急(序盤から文章がぎゅうぎゅう詰めになっ
ていたのは純文学というジャンル故と、後の疾走感を出す為。伏線か?)や描写の豊かさ、
より深く読み手を抉る事のできるテーマ設定。どれも引っ掛かったマイナス点を打ち消すに
は充分でした。改めて僕も技術・心構え共々修行が足りないなぁと思います。

ご馳走様でした。
そして又吉さん。ようこそ新たな『沼』へ。

<長月的評価>
文章:★★★★☆(すし詰めの文章は素人には辛い?でも全体的に読み応えと易さが共存する)
技巧:★★★★☆(端々の情景描写が光る。言い回しに留意しないと粋をスルーしてしまう?)
物語:★★★★☆(藝を究めんとする人間の苦悩、出会いと別離が胸を抉る。創作人さん推奨)

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  1. 2015/08/24(月) 00:00:00|
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Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

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