日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「ブロンズメモリー」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:銅像、新しい、激しい】


 始め、その大地は緑に溢れ、何者にも破壊されていない場所でした。
 競うようにでもなくのんびりと背丈を伸ばす木々、その足元に広く広く茂る草花。動物達
は時にその葉や果実を、時に日陰として、何処からともなく現れそして束の間の安息を得て
帰っていきます。
 かつては、人もまたその営みの中に溶け込んでいました。
 何処から来たのか。長い歳月の中、気付けば彼らは点々と集団を作ってはこの恩恵にあず
かり、やがて一つまた一つと合流してより大きな群れとなっていきます。
 ──全ては、生き延びる為である筈でした。
 屈強な身体でもない、鋭い牙も持たねば全身を覆う毛皮もない。
 しかし彼らには知恵がありました。たとえ非力であっても力を合わせ、技術を磨き、何よ
りもそれらを皆で共有する事で最大限の生存を可能にしたのです。
 鳥獣を狩りました。
 荒ぶる命一つを止める危険を伴いますが、皆で力を合わせて仕留めたその肉は多くの仲間
達の文字通り血肉となり、姿形を変えて受け継がれていきます。
 作物を作りました。
 ある頃、他の地域から教わった術。ただ不確定に現れる命を追って住処を点々とするより
も、自分達で自分達が食べるものを作り出す事のメリットを学びました。
 されど始めは四苦八苦。ただ在る命を頂くのではなく、作り出して頂くというのは人々に
多くの試行錯誤を強いました。
 何度も育て方に躓き、枯れてしまう事もありました。
 何度も失敗を繰り返し、全く採れないなんて年も珍しくありません。
 だけども人々はただ生きたかったのです。成功も失敗も、全てを世代を越えて共有し、種
を文字通り次代に咲かせる。そんな研鑽の歳月のお陰か、やがて狩りと作物の比率は徐々に
逆転していきました。
 飢えから、少しだけ解放されました。寧ろ食料が余ることもありました。
 ──ですが、振り返ればそれが彼らを滅ぼす、滅ぼしかねない“業”の始まりであったの
かもしれません。
 持つ者と持たない者。
 文明の始まりです。

 到底一度には食べ切れないほどの食料──後の富が溢れるようになった頃、人々の関係は
少しずつ、しかし確実に大きく変貌を遂げました。
 言い換えれば、皆で足並みを揃えて生き抜くことから、如何に蓄えた富を分け合うかに最
大の関心が移っていったのです。
 大抵は腕っ節が強い──或いは頭が切れ、人々をまとめるのに長けた者がその采配を振る
う役目を任されました。歳月の中で磨かれた技術はこれら富を倉庫に保管し、より効果的で
広範な営みを可能としました。
 時折狩りはあります。ですが既に集落では広々とした田畑が広がり、四季折々に合わせて
様々な作物が実を結びます。
 女が唄を歌いながら一つ一つそれらを摘み取っていました。
 男はそれらでは摂れない肉を調達し、或いは諸々の力仕事に勤しみました。
 群れ(くに)の興りです。それぞれに営む者がいて、更にそれらを取り仕切る長が当たり
前の存在となるようになりました。
 緩やかな繁栄です。……ですが人はただそれだけで満足しようとはしませんでした。
『もっと寄越せ』
『俺が、皆の上に立つ』
『他の集落はもっと採れているのに……』
 欲望が人を進化させ、同時に内にある醜悪を色濃くしました。
 争いの始まりです。内側では富の分配に対してしばしば対立が起こり、或いは長の座自体
を巡って昂ぶった感情をぶつけ合う場面が幾度となく見られました。一方外側では他の集落
が、足りぬ富を更なる富を求めて攻め入り、激しい戦いとなっていました。
 守らねば。人々は農具を研ぎ、組み直し、武器を作りました。
 守らねば。皆が必死でした。より多くをより安寧を。正しさの理由など後世あとから幾ら
でも付け加えられます。内に足りず作れなければ出て行くしかなく、そうして外からやって
来た者達の為に、また別の集落は刃を並べるばかりです。
 言葉と交換を尽くして収まる事もありました。
 だけどもそれだけで全てが解決するほどもう人は穏やかではなく、あらゆる力を磨かねば
何時奪われるか分からない──そんな危機感の下に生きざるを得なくなりました。
 大きな諍いが起こりました。
 その大地で、ある集落で、遂に人々は決裂します。
 ある者達はより多くの富と自分達の自由を求めて集落を出て行き、またある者達は去って
いく彼らの背中を見送りながらこの地に留まり続けました。
 ……何もこの集落、彼らだけが特別ではありません。
 それはきっと、進みゆく時代の中、ごく普遍に起こっていた風景なのです。

 仮に残った者達を“ザンの民”、出て行った者達を“ユンの民”と呼ぶ事にしましょう。
 ユンの民──かつての同胞なき後、ザンの民らは縮小し、少なからず衰えざるを得なくな
ってしまったこの地で懸命に生き続けました。
 当然、といえば非情ですが、されどその力の低下を見逃すほど周囲の集落──国々は甘く
はありません。
 北から西、南から東。幾つもの国がザンの国へ戦を仕掛けてきました。
 全てはより多くを得る為。しかしザンの民らも負ければ只々喰い殺されるだけだと知って
いたため、文字通り死に物狂いで戦いました。戦い続けました。
 長い長い歳月が過ぎていきました。
 何度も剣は折れ、作物を育てる余力が削られ、人が死にました。
 どれだけ人は長を憎んだでしょう。どれだけ人は他人を憎んだでしょう。
 それでも……ザンの国は辛うじて喰われずに残り続けました。彼らは言います。ある時代
に現れた「英雄」が心折れかけた先祖らを励まし、その身を捧げてまで祖国の為に戦ってく
れたのだと。
 やがてザンの民の集落は一つの国として確かな形を成しました。
 切り拓かれた緑の中にぽつんぽつんと立ち並ぶ人間の巣。そこには何時からか、この英雄
を讃え、この地を守っていくという人々の決意を込めた像が建っていました。
 人々は仰ぎます。願います。
 この勝ち取ったようやくの平和が、末永く続きますようにと。

 一方その頃、世界はまた一つ大きな変化によるうねりの中にありました。
 産業の革命的な進歩。それまで人の手によってのみ為していた生産活動が、より複雑で正
確なキカイによるそれに代わっていったのです。
 国々は我先にとその技術をモノにすべく、競い合いました。そして生まれた更なる富を、
それでも尚足りぬ満ちぬと増やし続ける事に心血を注ぎました。
 持つ者と、持たぬ者。
 皆でこそ生き残るという理想は、時の流れに置き去りにしてきたようでした。キカイ文明
を維持する為に使役する他者、キカイに代替されその役目を失った弱者、どれだけその不遇
を彼らが嘆き、怒り叫ぼうとも国という名の欲望(かいぶつ)は未だ顧みはしません。
 謳歌する繁栄の陰で、不安がありました。
 力に劣れば……奪われる。
 人とその営みは繰り返します。求める事は更なる苦難を生むと何処かで分かっている、知
っている筈なのに、それを止める事はできない。たとえ自分達が厭気と理想に準じて止めた
としても、他の彼らが求めないなんて保証はないのだから。寧ろ、止めて開いた差を“隙”
と見て、やはり奪われるのがオチではないか……。
 革命的な進歩とは、同時に戻れぬ泥沼への進軍でもありました。
 ですが、この時代の中で大きく富を蓄え、力をつけた者達がいます。
 かつて同胞らと仲違いし、新天地を求めて旅立っていた者達の末裔──ユンの民でした。

 長い放浪の歴史の中、ユンの民は代々その商才を磨いて生き残って来たのでした。
 土地を持たない。だから持つ者達から買い取り、それらを仲介する事で自らの存在を必要
性を証明し続ける──。
 事実、目まぐるしい進歩を遂げていった世界において、彼らという存在は世の経済になく
てはならないものとなっていました。
 故に得た富。ですが、その当のユンの民達はずっと負い目に思っていたことがあります。
 即ち、土地を持たない。先祖が選んだ道だとはいえ、この頃になり、彼らは今こそ自分達
の原点に回帰する時だと考えるようになったのです。
 ……ですが、その機運と実際の行動に困惑したのは、他ならぬ現代のザンの民でした。
 歴史を辿ればかつての同胞だという。だけども富を蓄えどっぷりと肥えたユンの民達を、
彼らは中々“仲間”として受け入れる事が出来ませんでした。
 ただでさえ、防衛を繰り返し疲弊してきたこの土地は限られている。
 もうこれ以上、別の民族を移住させられるだけの余裕なんて無い……。
 何よりザンの民はこのユンの民の態度に苛立ちました。
 金さえ積めば何とでもなるさ。いいじゃないか、同じ民族だろう?
 勝手なことを……。お前達が出て行ったこの数百年間、自分達がどれだけ必死な思いでこ
の地を守り続けたのか、知らないだろう? それを今更、一緒にだなんて……。
 否。ザンの民はかつての同胞を拒みました。
 否。もう同胞ではない。分岐して別の者になった、当代の我々にとっては“余所者”だ。
 これにユンの民は怒り狂います。歴史を紐解いて語っても、金を積んでも迎え入れてくれ
ない彼らの頑なさに。
 そうか。あくまでそう応じるか。
 外の世界を知らない蛙(かわず)どもよ。我々がこの数百年間、土地(ルーツ)を持たぬ
事でどれだけ人々から見下され、それでも商いに縋って生き残ってきたかをお前達は知らな
いのだろう?
『……相分かった。では力尽くでも、我々はミグリの園に帰らせて貰う』
 戦争が、始まりました。

 情勢は当初から、ユンの民の軍勢が押しに押していました。
 元より長い放浪生活と商人として蓄えた富による、キカイ兵器揃いの軍勢。長らく手仕事
と晴耕雨読な暮らしを続けていたザンの民にとって、その威力はまさに自分達を蹂躙するに
は充分過ぎるほどのものでした。
 加えてこの軍勢に、大国や周辺諸国が我も我もと合流します。
 言わずもがな、より多くを得る為でした。遠方の大国らはユンの民に恩を売る為に、周辺
諸国はこれまでの長い歴史の中、中々屈さなかったこの豊かな土地に今こそ自分達の影響力
を及ぼす為。
 土地を切り開き、作物を育て、家屋を建てたが故の破壊とは比べ物にならない程のそれが
ザンの国中に広がりました。森は焼かれ、草花は踏み潰され、人や建物は次々と銃撃・砲弾
によって蜂の巣にされていきます。
 為す術もありませんでした。何故あの時迎え入れなかったのだろうと、悔いた事も一度や
二度ではありません。
 ですが時は、ただ何物にも構わず先に進むものです。半年も経たぬ内に戦いはユンの民と
連合軍の圧勝に終わりました。ザンの民らは次々に捕らえられ、敗残の者として勝者の嘲笑
を一身に受けました。彼らはその象徴として、ザンの民らが長く仰ぎ続けた「英雄」の像を
切り倒し、代わりにユンの民の──かつてこの地を出て行く時、仲間達を励まし導き続けた
リーダーの銅像を建てたのです。
 心は、一度折れました。
 たった一度の失策が、以降またしても人々を引き裂くのです。

 何故あの時迎え入れなかったのだろう──? そんなザンの民達の後悔は、戦後ザンの民
とそこに便乗した諸国の軍によって程なく甘い夢だったと思い直されます。
 意趣返しか、実験を握ったユンの民はことごとくザンの民らを冷遇しました。戦火により
焼け野原になった土地ばかりを彼らに割り振り、強制的に移住させ、自分達と共闘した各国
の人間には再び緑化して活気を取り戻していく土地を占有して。
 ザンの民は不満でした。ですが戦いによってコテンパンにされ、心折られた彼らの中で実
際に声を上げ、抵抗をみせた者はそう多くありません。
 それでもユンの民は神経を尖らせました。やがて自分達の土地と彼らの居住区、その双方
を隔てるようにぐるりと分厚い城壁を建設し、そもそもに彼らを視界に入れないようにさえ
したのです。
 強烈な隔絶でした。お互いがお互いに、もう相手をかつての“同胞”だとは考えなくなり
ました。そんな長い眼での、ルーツを遡る思考さえも麻痺していったのです。
『ザンの国は死んだ。負けたからだ』
 城壁が高々と積み上がって大地を見下ろしています。淡い緑と剥き出しの土色。色も民族
も互いの心も、気付けば深い深い溝で隔たれていました。
 ──ですがそんな抑圧的な統治が、長く続く筈もありません。
 十年、二十年。かつてユンの民らが放浪した歳月にさえ届かない内に、やがて虐げられた
ザンの民らは秘密裏に力を蓄えて蜂起します。
『ここは俺達の土地だ! ユンどもは出て行け!』
 憎悪を含めて受け継がれてきた記憶、歴史を辿ってみるが度に拗れてしまった関係。
 今やザンの民もユンの民も、相手側に歩み寄ろうと試みる、その気配すら“造反”と見な
され攻撃される危険(リスク)と為っていました。話し合いは交わりません。語られるのは
常に“自分達”というベクトルを伴う視点です。人を博愛ではなく峻別で量ろうとする時、
それは既に「詰み」でありました。
 そして再びの戦い──内戦が勃発します。
 ですが今度は、ザンの民にも味方がついていました。ユンの民の奪還戦において彼らに協
力した、周辺各国とそれぞれ暗に敵対するまた別の国々です。
 代理戦争でした。ですがそれでもザンの民らは構わぬとこの時は思っていました。
 この国を、取り戻す。敗者だからと頭を垂れ続けなければならないなど耐え難きものだ。
彼らの支配から同胞達を解放する。これは自衛と回復、反撃だと。
 数には劣るものの圧政に不満や義憤を抱く人々からの助力を得、ザンの民らは次々にユン
の民ら政権の中枢を落としていきました。火の手が上がり逃げ出す彼らを見つめて、解放軍
は高らかにその旗を掲げます。

 かつてそうされたように、ザンの民らは銅像を皆で押し倒し、破壊しました。
 ユンの民の先祖。放浪の旅を率いたリーダーの像。それを彼らは散々に槍や鎚で突いては
叩き、粉微塵に砕いて踏みつけながら勝利と正義の喜声を上げました。
 おそらくこの戦いが終われば、彼らはユンの民とその仲間達を追い出すでしょう。そして
この銅像に代わり、再び彼らの「英雄」の像が建て直されるのです。
                                      (了)

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  1. 2015/08/16(日) 00:00:00|
  2. 週刊三題
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
します。

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