日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「負骸ナ詩」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:未来、テレビ、残骸】


 どさりとその子は落ちて来た。空の上から落ちて来た。
 天より生まれ落ちた。見上げるそれはどれだけ手を伸ばしても届く事はなく、ただ果てし
なく鈍い曇天をぶら下げているばかりである。

 足元は積もりに積もった瓦礫の山だった。いや、人はこれを連綿とした過去の集積──歴
史と呼ぶのだろうか。
 皆似たような姿の者達ばかりが錆び付き、動かなくなって久しくそこに埋もれている。
 頭は分厚く四角形の映像を映す機械。身体は四肢の、継ぎ接ぎだらけのブリキ造りだ。
 とにかく若き子らはこの山の上へと生まれ落ちる。彼らの頭は薄くて大きい映像を映す機
械で、身体の四肢はまだ真新しい発展途上のブリキ造りだ。
 山なのである。過去の集積、歴史の上に現在(いま)がある。明日へと続く。故に子らは
生まれ落ちた瞬間から平等ではない。
 運良く瓦礫の上に留まれた者もいる。運悪く瓦礫から零れ落ちた者もいる。
 見上げる天がそうであるように、見下ろす瓦礫の下、最も奥底である筈の旧き姿は今や見
通す事すら叶わぬ深い深い暗がりの中に溶けている。
 ……だがはてさて、留まれたからといって、零れ落ちたからといって一概に幸福なのだろ
うか? 不幸と断じえようか?
 暫くの後、こうして若き子らが生まれ落ちた。
 目覚めんとする。反応する。瓦礫の山を成すかつての人は、その衝撃に魘されながらギシ
ギシと蠢き始め、その古ぼけた顔の映像を点し、手を伸ばす。

 ある時は痛み激しいモノクロの世界だった。
 閉じ篭って久しかった内輪の「和」の中に外様の「洋」がなだれ込み、急速に強引に時代
が変革されていく頃の記憶。
 ある時は慣れ親しみ、それまでのように自分達にそぐう形に収斂した世界だった。
 過去は集積する。どれだけ抵抗し、翻弄されようとも、人は慣れる生き物だ。やがてもた
らされる多くの利便と塗り替えられた価値観に、彼らはその存在を疑う事すらしない。理性
が己の万能を錯覚させ、徒党を組めばどんな事でも叶うと信じた。名乗る王は偽物で、本当
の王とは自分達自身だと疑わなかった頃の記憶。
 ある時は疲弊し縋り、荒唐無稽な夢を追い求めて戦った世界だった。
 力が力とぶつかり合う。出過ぎ、敗れた側らは勝利したその側に打ちのめされ、数多の枷
を嵌められる。──故にその形ばかりの押し付けがましき均衡は破られた。澱みの下で育っ
ていた怪物は解き放たれ、或いは勝ちし者はより大きく新しき野望の為に取り囲んでは脅し
た事で、彼の者達を持たざる戦いに突き動かした。儚き武人の夢をみせ、散らせた記憶。
 ある時はやはり打ちのめされ、人々が長く引き裂かれたままの世界だった。
 勝ちし者の要求か、それとも負かされし者の従属と反省の表示か。
 儚き未来は破れ、反転する。ある者は二度と繰り返さないと誓った。時は流れ、その意味
がやがて目的そのものに変わっても。ある者は次こそは負けないと誓った。放逐された辛酸
を舐めつつ、いずれ人はそう遠くない未来に争い始めると識(し)っていたから。
 だが先ず闘わざるを得なかったのは、同胞同士だったのだ。
 反転し、引き裂かれた彼ら。相容れぬその者らは声を上げど荒げどおそらく二度とぴたり
と交わる事はないのだろう。
 故にある時は、以降の順列では、引き裂かれたままの世界だった。或いは引き裂かれた姿
それ自体を通常と思う者達で溢れかえっていたのかもしれない。
 傷跡はすっかりと消えた。一見すればかつての痛ましさは消えて癒えたように見える。
 だけども彼らのその内では決して傷は消える事なく。たとえその当人らが死せど、きっと
その想いだけは──まるで伝染したかのように受け継がれていく。
 憎いという感情。それらを理性で塗り固め、武装し、武力の虚しさを問う愚。矛盾。
 或いは辟易する。引き裂かれた者達の末裔を遠巻きに眺め、その終わらぬ闘いにせめて巻
き込まれぬようにと口を閉ざし、俯き、それぞれの営みへと狭く狭く己を絞っていく記憶。

 あの頃は良かった。今はすっかりと軟弱だ。
 あの頃は良かった。もっと我らを敬え。費やすべきだ。
 生まれ落ちたその若き子らに、今や錆び付いた旧き人らが、その瓦礫の山の中からじわり
じわりと手を伸ばす。
 頭部の映像は酷く痛んでいる。今はもう無い嘗ての姿だ。
 それでも嘗ては現在(いま)であった彼らにとり、其れが世界だった。手を伸ばしても届
く事の無かった未来、集積のより高き頂に気付けば全く異質──と見える若き子らが陣取っ
ては、自分達を過去の瓦礫(やま)へと押し沈めていく。
 怖かった。埋没する。自らが世界に消費されて消えていく事実が酷く恐ろしい。
 苛立たしい。足を取られる。とうに過去として消えていく瓦礫達が引きずり落とそうとし
てくるのが如何にしたって腹立たしい。
 若き子らは往々にして聞く耳を持たなかった。積み重ねた記憶はどうしても限られ、足場
は狭まるばかりで、必死にその頂に近辺に立ち続けるしかない。
 ……或いは、このまま零れ落ちてしまえば楽になれるのだろうか?
 じっと眼下を覗く。天が鈍い灰色をぶら下げるように、地は深い黒色を溜め続けてじわじ
わと人という連綿(やま)を侵し続けている。
 事実、落ちていく同胞らを見た。生まれ落ちた瞬間だけではない。途中で諦め、瓦礫の中
から伸ばす旧き手に抗う事も止めてしまい、力を失って早々に瓦礫(かこ)の一部と為る事
を選ぶ。或いは私は私という一人だと、違う場所に往きたいと、自ら深い黒の中へと飛び込
んでゆく者も少なくない。
 その顔面に映像を宿し続ける事を辞めた。ぷつんと途切れて真っ黒になり、力を失って人
の集積の際を転がり落ちていく。

 嗚呼、何て事だ。哀しき事件──否、軟弱な。
 嗚呼、お前達の所為だ。全(セカイ)が悪い。
 だが嘆いてみせても嘯いてみても、彼らは他ならぬ自分が悪いとは思わない。往々にして
自覚しようとはしない。
 旧き人も、若き子らも、初めは皆が未来を目指していた筈だった。
 よく遠くへより高くへと。どれだけ果てがなくとも、この身在るまで精一杯生きようと、
謳歌してやろうと願っていただろう。
 しかし山なのだ。過去の集積という他ならぬ自分達自身で成す山は、即ち頂になればなる
ほど狭くなる。そこに立てる者とは半ば必然的に限られてくる。
 ならばどうする? 意識無意識に問わず、取り得るものもまた限られる。
 一つは自らが礎になり、より身軽で研ぎ澄まされた子らをそこに送ってやる事だ。
 一つは他者を礎にして、自らがその頂に立つ事を何よりの目的とする事だ。
 ……さて、果たして彼らはその思弁でその情動に打ち克てるのだろうか?
 瓦礫(かこ)と云う人の山を見る。答えは否だろう。瓦礫はとかく積もり積もるばかりだ
った。
 押し合い圧し合い、だが人はやがて互いに力尽き、旧き者となってその山の一部となって
埋没し、終わる。その上にまた新しく若き子らが生み落ちる。更にその幾許かが初期中期、
あらゆる段階において零れ落ち、足場を追われるのだろう。
 錆びていくのだ。朽ちていくのだ。人のその映像が新鮮である時は限られ、器もろとも古
臭い過去と為っていく。気付き焦る頃には四肢は既にガタが来、埋もれていく連綿たる過去
の中から忌々しく物悲しく手を伸ばす他ない。
 そのさまを若き子らは忌々しく思うのだろう。まだ鮮明なその頭の映像を揺らめかせ、振
り解き、まだ其処に居られる事を疑う事すらしないままで。

 英雄とは何か? それは頂の上に、逸早く立つ事が出来た者を言うのだろう。
 豪傑とは何か? それは頂の上に、力を振るってでも登り詰めた者を言うのだろう。
 名君とは何か? それは頂の上に、多く旧き者達の理解を得て立った者を言うのだろう。
 凡人とは何か? それは頂の上に立つ寵児らとは違い、ただ静かに過去の集積という瓦礫
の中に埋もれ、一体となっていくばかりの大多数を言うのだろう。
 人は言う。未来は明るいものだ、ものであるべきだ、目指すべき理想だと。
 だがそこへ届く為の礎が膨大な過去という名の瓦礫の山ならば、その頂に立ち誇る事の何
と虚しく刹那の光景であることか。英雄も、豪傑も、名君も、やがては錆び付き旧くなる。
先にそう為っていった凡人達がそうであるように、彼らもまた畢竟やがて旧き者となっては
その同類へと埋もれていくのだ。

 どさり。暫くすればまた若き子が生まれ落ちる。たとえ頂の狭さ故に、結果その数が淘汰
されていくのだとしても。
 どさり。暫くすればまた旧き者達はこの子らの足場を造る。連綿と、自らの残骸を以っ
て時代と成し、過去の中に埋もれる他はない。

 ざしり。かくして或る若き子はその頂に立つ。
 しかしその栄光も美しさも、瓦礫の山全てから見ればほんの刹那でしかない。

 故に静かで虚しく、愚かで愛おしく。
 故に世とは、無尽の骸(むくろ)で出来ていた。
                                      (了)

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  1. 2015/07/26(日) 00:00:00|
  2. 週刊三題
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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