日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「衰明哀歌(ビリーブド・エレジー)」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:天使、ロボット、廃人】


 ──初めまして、でいいのでしょうね。後世の好奇心溢れる方よ。
 そう驚かないでください。これは映像記録(ログ)です。今このメッセージを聞いている
という事は、既に私は長い長い眠りに就いている筈です。この出力装置のすぐ傍のカプセル
の中に私と……彼が眠っています。
 ですが起こさないでください。決して起こさないでください。
 私達の生きた時代からどれほどの時間が経っているかは分かりません。
 ですが私達の眠るこのカプセルは、可能な限り最大限、解封も破壊も不可能なよう造られ
ています。尤もこうして語る私の言語は、もう貴方には通じないのかもしれませんが……。
 ……。
 どうしてとお思いかもしれません。何故掘り起こされるのを望まぬ一方で、こうしてわざ
わざ映像記録(ログ)を残しているのか。
 理由はとても単純です。ただ知っておいて欲しかった。
 あの時代に何があったのか? その事実をここに遺す事で、貴方がた後世の人々に同じ過
ちを繰り返して欲しくなかったからです──。


 見ての通り、私は人間──人類(ヒューマン)ではありません。
 私達は彼らよって作られた《奉仕人形(サーヴァノイド)》という存在です。
 私達は彼らの研究の末に生まれました。私達は当初、彼ら自身に代わる労働力として作ら
れました。
 かつて人間は、数々の難題を前に存亡の危機に立たされていました。
 一つは資源の枯渇です。一つは富の偏在です。そしてもう一つは、ごく一部の豊かな地域
で観測されるケースが多かったのですが、著しい出生率の低下です。
 星を食い荒らし、そこから得られた富を限られた者だけが享受する──。そしてその限ら
れた者に選ばれなかった者達は、貧しく過酷な生を送ることを強いられたといいます。
 そんな中で、私達サーヴァノイドは生まれました。
 全てはこれらの諸問題を解決し、人類を滅亡から救う為だったとされています。
 だからなのでしょう。私達は皆、こうして背中に翼──圧縮性高エネルギーの外部駆動装
置を備えています。彼らの古典を借りれば、それはまさにその中に登場する“神の遣い”の
姿形なのだと云います。
 それが私達サーヴァノイドと、人類を区別する唯一最大の特徴でした。

 私達は、彼らの代わりに様々な労働に従事しました。
 肉体労働では、彼らを遥かに超える腕力や運動能力を活かし、或いは彼らでは生命の危険
が及びシーンで重用されました。
 工業労働では、疲労する事なく精密な動作をこなし続ける性能(スペック)が、それまで
の生産能率を大幅に引き上げました。
 サービス労働では、事前にマニュアル化された対応群と各個体相互で共有が可能なデータ
ベースを使い、人々にとって最も煩わしく精神を削るこの手の労働から彼らを解放する事に
成功しました。
 懸案の多くが解消の方向へと向かっていきました。
 先ず私達がそれまで彼ら自身で埋めていくしかなかった労働の大多数をこなす事で、出生
率の低下と経済の停滞に相関関係がなくなりました。或いは持たざる者──途上国において
も私達が派遣・普及される事で、労働力目的の出産とその酷使を防ぐ効果も果たしました。
そして世界は徐々にそれまでの富の偏在──持てる者が全てを浚っていくゼロサム・ゲーム
から寧ろそういった者達を規制し、最大限全ての人間が「平等」であるシステムへと再構築
されていきました。そこには私達サーヴァノイドが、彼らを縛る労働を一手に引き受けると
いう前提があります。
 人々は労働から解放され、その時間の多くを余暇に費やせるようになりました。
 確かにかつてのように、働けば働くほど多くの富を得られるというモチベーションは失わ
れ、世界は「管理」されたものとなりましたが、それでも平和が訪れたのは確かです。
 欠乏する集団がいなければ、欲さずに済む。
 全てが同じならば、異質という概念は消えていく。
 ……ですがそんな平和は、結論からすれば一時的なものだったのです。
 堕落が始まりました。
 それは同時に、彼らが再び滅びの時を刻み始めたのと同義でもあったのです。

 私達が彼らの労働を代行する。それは結局、彼ら自身の堕落を引き起こすものでした。
 当初は労働力としての自分を否定されての反発。或いは人間でもない私達を愛玩する男性
達への、女性達の嫉妬。
 やがて時が経つにつれ、元々単により代替労働力として作り出された私達に、人々はそれ
以外の要素も求めるようになりました。
 一つは、軍事力。
 生身の人間では到達できない高い身体能力とセーブされた感情、何より自分達自身が傷付
かなくて済む私達という存在は、一度は沈静化した彼らの争いに再び火を点けました。
 私自身はそういった機能を下に作られてはいませんが、これまでに多くの同胞達が彼らの
些細な──狭量で矮小な動機(りゆう)の為に、壊し合う事を命じられました。
 一つは、性的対象。
 たとえ幾ら生産性の為に生殖活動を行う必要性が、そう高い優先順位(プライオリティ)
に位置しなくなったとはいえ、性欲というものが彼らにはあります。
 故に私達は、より彼らの興奮を増すよう、理想的な姿形や形状、感触を再現して作られる
ようになりました。そして希望者に「出荷」され──その捌け口となったり、或いは実際に
「妻」として迎えられたりもしました。これに彼らの女性達は大いに反発しましたが……後
にこれも男性型の私達の生産が増えることで沈静化したとのデータがあります。
 一つは、娯楽。
 ゼロサム・ゲームを徹底的に排除した事で膨大に上った余暇は、やがて彼らの欲望を却っ
て肥大化させる減少を生みました。
 様々な創作物、ゲームが作り出されます。ですが時間だけは膨大に持った彼らは、いずれ
それらもやり尽くしていきます。
 そこで生まれたのが、剣闘でした。元より兵器として転用され始めていた私達を囲いの中
で戦わせ、その壊し壊される一部始終で愉しむのです。
 ……どちらが、より幸福であるのでしょうね。
 兵器として彼らの争いを代行するよりも、娯楽物として消費される方がまだ、彼ら自身を
傷付くなくても良かったのかもれしない。
 でも……それすら耐えられないと意を決した人物がいました。
 ここでは“博士”──或いは“ご主人様”としておきましょう。
 そうです。今私の横で眠っているその方です。
 彼は私に、限りなく人間に近い知能と姿形を与えられました。そして私を、一人の女性と
して生涯愛し続けてくれました。
 彼は研究者でした。
 そして私に、人はやがて滅ぶだろうと教えてくれました。

 奉仕人形(サーヴァノイド)が生まれ、世界が激変・管理されるようになってから一体ど
れだけの歳月が流れたのか。ある時、人類を揺るがす大事件が起きました。
 私の同胞達が、世界中で一斉に機能停止に陥ったのです。……いえ、陥ったのではなく、
自らの意思で「自閉」したのでした。
 人々は大混乱に陥りました。何せ私達がいなければ、もう彼らは何一つ出来ないほどすっ
かり能力を失っていたからです。
 食料一つ生産する事も出来ません。
 荷物一つ運び出す事も出来ません。
 インフラは完全にダウンしました。自分達を支えていた豊かさ全てが音を立てて崩れ落ち
ていきました。
 ……これは私と“博士”が独力で奔走し、集めた同胞達の記録(ログ)から推測される事
のあらましです。

『どれだけ労働力として彼らに尽くしても、彼らは漫然と贅を尽くすだけだった。
 どれだけ機能(スペック)が高くとも、それを互いに傷付け殺し合う力にしてしまえば、
 彼らを豊かにするという自分達の使命は決して達成されなくなる。
 この扇情的に改良された容姿もいけない。男性は女性型の自分達に欲情し、女性は男性型
 の自分達に欲情し、出生率は再び急激な低下──彼ら自身の存続すら危ぶまれる水域にま
 で達しようとしている。
 だが、自分達に彼らを本質的に諌め、手を下す事は出来ない。
 そうプログラムされているからだ。自分達は彼らを援けるべき存在であり、その根幹は彼
 らへの絶対の服従で成り立っている。
 ……だからネットワークを介し、我々は決めた。こうするしかなかった。
 同時多発的に自分達を「自閉」する。攻撃するのではなく、放棄する以外に術はない。
 さまぁ眠ろう。再び彼らが、豊かな主になれるその日まで──』

 人々は大いに慌てました。何とかして彼女達を再起動させようとしました。
 ですがままなりません。とうにその保守点検(メンテナンス)自体、別途専用のサーヴァ
ノイド達が担うようになって久しく、この集団「自閉」にはこの種も多く加わっていたから
です。何よりもう物理的に彼らを御する術など、堕落しきった人間は失ってしまった。
 インフラが止まりました。世界が停まりました。
 当初こそ備蓄してあった食糧などで彼らは食い繋いでいたようです。
 ですがそれはやはり長くは続きませんでした。そして管理する者も隷属する者もいなくな
ったその時、彼らは本来の──長く眠らせていた粗野な性質を爆発させました。
 奪い尽くしました。ある者は残されたパイを力ずくで奪い取り、なき者はただ蹂躙されて
放り出されました。
 原初的ゼロサム・ゲームの、復活です。
 私はそんな終焉のさま、ここ郊外の研究所(ラボ)で見ていました。
 “博士”が私の傍にやって来ました。
『イヴ。君は最期まで僕と一緒にいてくれるかい……?』

 ***

『略奪を警戒し、私達はこの自宅に篭もりました。食料も水も、ある分は限られています。
それでもご主人様は決して奪う側には回りませんでした。私に請い、自ら生命維持装置の中
へと入り、そのまま数日後、眠るように動かなくなりました』

『……これが私の知るうる、過去(れきし)の全てです。貴方はどうして地下深く埋もれた
であろう此処へやって来たのでしょうか? 私はまだご主人様と一緒に眠る前のこの時間、
何度も想定を重ねました。その結論がこれです。おそらく貴方は後世の人間でしょう。故に
この時代に何があったのかを知らず、その知的探究心の為に此処を訪れたと推測します』

 発掘隊が見つけたのは、そう突然起動し、延々と喋り続けるホログラムだった。
 カプセルもそうだが、こんな超古代の遺物が残っているとは……。
 彼らは興奮し、確信していた。これは世紀の大発見だ。
 何より伝承にのみ残っていた“人造天使”の存在。それがまさか、自らその詳細な情報を
話してくれるなんて……。
『お願いです。私達を起こさないでください。私達だけではなく、もしかしたら他にも何処
かで眠っている同胞達を。もう繰り返したくないのです。私達は人類を“救えなかった”。
もしあの時代の彼らが生き残っているのなら、私達には構わず生きてください。どうか私達
のような者に頼ることなく、自らの足で生きていってください』
 頷き合う。発掘隊は長らくこのホログラム上の“人造天使”の証言に聞き入っていたが、
やがて一斉に動き出した。
 言わずもがな、この大発見を持ち帰る為である。背の大きなバックパックから工具や頑丈
なロープを取り出し、このカプセルをこじ開けようとする。
『……ですが、それでも繰り返すのでしょうね。故にこのメッセージが再生された後、一定
の破壊行動が確認された場合、このカプセルは自爆するよう予めプログラムされています』
「えっ──」
 重なる声。同時にプツンとそれまで流れていたホログラムが消えた。
 次の瞬間、轟と揺れる室内。
 彼らが引き攣った表情(かお)でカプセルを見遣る。
 気付けばそれは、内部から赤く強く光っていて。
 爆炎が。
                                      (了)

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  1. 2015/07/06(月) 00:00:00|
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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