日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「悪気」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:少女、意図、記憶】


 最初は、閑静なマンモス住宅街の一角だった。
 街の南部から突き出す峰の斜面を切り崩して造成した地域である。当初よりすぐ南の幹線
道路ともスムーズに連絡し、今や多くの住人達が暮らしている。
 ある日、その事件は起きた。
 住宅街を縦断する川の河川敷で、一匹の犬の惨殺体が発見されたのだ。
 第一発見者は「不憫だ」「不憫だ」と繰り返し話し、顔色を悪くしていたと記録には残さ
れている。白くふわふわした飼い犬が、真っ赤に染まって事切れていた。
 死因は、首を鋭利な刃物で切り裂いたことによる出血死。
 よほど殺意を込めて行ったのだろうか。傷はかなり深い所にまで達し、おそらく発見現場
と事切れた場所はほぼ同じだったと思われる。
 飼い主は、この住宅街に住むまだ年端もいかない少年だった。
 名を石黒君という。彼の話によると、その日もいつものようにこの飼い犬を散歩させてい
たのだが、つい手元が滑ってリードごと逃げられてしまったのだそうだ。
 勿論慌てて追いかけ、捜し回っていたという。
 だから……救われない。
 そんな一瞬の不注意の結果が、先の第一発見者の男性と共に見つけた、変わり果てた愛犬
の姿だったのだから。
 当初は近隣地域も、そう大騒ぎする程の事件とはならなかった。
 殺されたのが人間ではなく動物だというのがやはり大きいのだろう。物騒だな──そう彼
ら住人達が互いに眉根を顰めて雑談のネタにする事こそあったようだが、少なくともこの時
はまだ殆どの人間がこの先の展開を知る筈もなかった。

『ごめんね……。ごめんね……シロー。僕が、僕がちゃんと見てあげなかったから、こんな
事に……』

 だが一つの命が何者かに奪われたことは確かだったのである。
 所轄の若い署員が、この当事者である石黒少年の泣きじゃくるさまに同席していた。
 たかが犬一匹。
 しかし少年にとって、この一家にとって、愛犬とは即ち家族同然であった筈だ。


 次に起こったのは、動物ではない。
 場所はこの住宅街のある地区を擁する学校だった。小中高一貫式の、現代の気風を色濃く
持ち合わせる大きな学校である。
 そこでまた事件が起きた。中等部のとあるクラスにて、一人の男子生徒が遺体となって発
見されたのである。
 被害者の名は、三嶋和也。
 人当たりが良くクラスでも人気の爽やか系男子、だったらしい。
 死因は、これもやはり首を鋭利な刃物で切り裂かれたことによる出血死だった。荷物を取
りに戻って来た女子生徒の一人が、不幸にも教室で血塗れになって倒れている彼とばったり
出くわしてしまったのだという。
 当然ながら、学校は大騒ぎになった。
 何せ正真正銘の人殺しが起こったのだ。それも、人目多い筈のこの学校にて。
 当初学校側は、事件の揉み消しに躍起になっていたらしい。事件が明るみに出れば、有力
な進学校でもある同校のイメージは地に堕ちる。……子供の命よりも、そんな大人側の面子
を優先して憚らなかった時点で言わずもがななのだが。
 大人達は混乱した。子供達は不安に駆られた。
 先ず人々の間で想起されたのは、以前に同じ地区で起きた飼い犬惨殺事件である。
 この住宅区内で、且つ殺され方が同じ。素人でもその情報を知ってさえいれば否が応でも
結び付けて考えてしまう可能性である。
 結局、事件を成る丈穏便に処理しようという学校側の企みは破綻せざるを得なかった。
 名門校で起きた猟奇的殺人事件。マスコミがこんな“美味”を放っておく訳がない。当然
彼らも件の飼い犬惨殺についても併せて取り上げ、煽り立てた。

『何で……何で三嶋君が?』
『分かんないよ。でも彼、モテてたからなあ』
『え? 外の人間じゃないの?』
『何で? そもそもうちの学校って結構警備しっかりしてるじゃん。怪しい奴がいたらその
とっくに誰か捕まってると思うけど』
『それは、そうだけど……。でも聞いた事ない? 二ヶ月くらい前、大守川の方で飼い犬が
殺されたって。三嶋君と同じように首をざっくり切られて死んでたって』
『あ、知ってる。ニュースでやってた』
『だから同じ犯人じゃないかってこと? う~ん、どうなのかなぁ……』
『そもそも繋がりがあるかどうかはっきりしてないしね。先生達も事件の事、言わないよう
に触れないようにしてるじゃん?』
『バレバレなのにね~』

 どれだけ大人達が子供達を“保護”し、事件に蓋をしようとしても、彼らも彼らで暫くの
間は事件の噂話で持ちっきりだった。
 とりわけ今回の被害者が、彼女らの中でも人気があった男子だったことが、巷説を拡げる
のに一役買った。そして女子を中心とした噂は次第に、事件の残忍性や犯人についてではな
く、殺害された三嶋少年自身についてのものに変化していった。

『……死んだ人をこう言うのも何だけどさ。三嶋君って結構チャラかったよね』
『あ~、分かる。何かこう、自分がモテてるって自覚(わか)った頃から色々勘違いし始め
た感じ?』
『あたしは前々からえ~? とは思ってたよ。確かに顔はいいかもだけど、付き合うってな
るとなぁ……』
『ひょろっとしてて実はヘタレっぽいしね』
『ははは、かも~!』
『……まぁ、ああやって大騒ぎになったけど、やっぱ何れ痛い目を見る運命だったんだよ』
『うんうん』
『だよね~』

 だから署の後輩達が、ようやく口止めされていた生徒達から話を聞けるようになった頃、
とある男子生徒は思い出すのも忌々しいと言わんばかりにごちたものである。
 ──ああだから、女って怖いんですよ。
 犯人と女子連中と、一体どっちが悪いんだか。


 しかし恐怖はこれだけでは終わらなかったのである。
 この事件からおよそ一ヵ月半後、またしても凶行は繰り返された。
 現場はまたしてもこの住宅街の一角。被害者はこの街に引っ越してきてまだ間もない新婚
の女性だった。
 第一発見者である夫は、新天地で不慣れな仕事から帰って来て絶句したという。
 居間に妻(かのじょ)が倒れていた。まだ真新しいフローリングの上で首から大量の血を
流して既に事切れていた。
 彼の狼狽と怒りと、絶望のほどは筆舌に尽くし難い。
 実際事件発生の報を受けて現場──彼らの愛の巣だった筈の自宅に駆けつけると、この夫
は明らかに情緒不安定なままで聞き取りを受けていた。
 血の臭いがまだ周囲に残留している。
 時に何度も何度も頭を振り、かと思えば自分達に食ってかかるようにして訴えてくる。

『誰なんですか?! 智子を……智子を殺したのは誰なんですか?! 見つけてください、
捕まえて来てください。絶対に、絶対にぶち殺してやるッ!!』

 お、落ち着いて小鳥遊さん──! 初動の聞き取りも随分と難儀した。
 だが彼の無念と憎しみは当然の感情だろう。少なくとも捜査の中で、彼女が殺されなけれ
ばならない理由は何一つ見つからなかった。むしろよく夫を支え、これから始まる新婚生活
に幸せいっぱいだった、ごく普通の新妻であった。
 なのに、犯人はそんな彼女を殺した。何の謂われもない彼女を。
 ……故に、捜査本部は一つの方針を立てた。
 犯行の動機は怨恨ではない。
 少なくとも、一連の三つの事件が同一犯によるものだとして、繋がりが見えないからだ。
 愛犬を殺された石黒少年。
 学園中等部の人気者・三嶋君。
 そして新婚ホヤホヤだった小鳥遊智子。

 無差別な、快楽殺人事件だと判断された。
 そしてどの事件も同じ手口で、各現場で物証となるものが残されていた事から、犯行はあ
まり計画的ではなかった──雑な所があるとも分析された。
 三つの事件、失われた命でもって、ようやく捜査は大規模且つ本腰となっていった。
 そして遂に積み上げた情報が見つけ出したのである。

 木原恵。

 捜査線上に浮かんだ容疑者は……まだ中学生の少女だった。

 ***

「──まさか、ホシがまだ中学生だったとは思いませんでしたね」
「ああ。全く最近の若い奴は何を考えてるかさっぱり分からん……」
 所轄署内の取調室。
 そこに今、地域を巷を震撼させた猟奇殺人犯が座らされている。
 覗き穴を時折チェックしながら、一課の先輩刑事と後輩刑事がそう陰気な表情をして話し
込んでいた。間違いない。特に三つ目の事件で、室内に落ちていた毛髪が彼女に辿り着いた
大きな決め手となった。
 彼女と小鳥遊夫妻に接点はない。少なくとも家に上げて貰えるほどの交友はない。
 容疑者・木原恵は、この住宅街の住人だった。
「……本当に認めるのかい?」
「はい。バレちゃったらしょうがないですし」
 強面のベテラン刑事を中心とした一課の面々に囲まれながら、恵は尚もニコニコとした線
目の笑みを浮かべていた。
 演技か? それともこういう表情(かお)が地なのか?
 流石にベテラン刑事もこうもあっさりと自白されてしまうと拍子抜けだった。はてさて、
一体どんな人間が出てくるかと思いきや……。
「じゃあ聞かせて貰おうか。……何故殺した?」
「そうすれば、哀しむ人を見られると思って」
 は? 思わず場の面々が目を見開いて黙り込んだ。しかし恵は相変わらずニコニコとした
笑みを──破綻した心をそこに貼り付けている。
「ええと。何処から話せばいいかなぁ。半年ぐらい前にですね? 別のクラスの子がひき逃
げされて死んじゃったんです。私は直接面識はないんだけど、両親が凄く泣いて怒ってして
たってのは聞いてます」
「だったら! だったら何で──」
「落ち着け。……確かに半年くらい前、そういうヤマがあったな。だが犯人はもう捕まって
るぞ。それと君に、何の関係がある?」
「事件の後、全校集会があったんです。残念な事に○○君が先日亡くなりました。心ないド
ライバーによってひき逃げに遭いましたって。その時、校長先生が言ったんです。『命とは
取り返しのつかない何よりもかけがえのないものなのです』って」
 故に刑事達は益々怪訝な表情になった。
 話自体はよくある大人の説法だ。こうして哀しい事件が起こる度、大人達は繰り返し繰り
返しそうして“命の大切さ”を説くが、今日の所その成果はお世辞にもあるとは言えない。
「だから──私、思ったんですよね。“それだけ大切なものなら、奪ってやればどれだけ気
持ちいいだろう”って」
『……』
 言葉が出なかった。僅か十四歳ほどの少女がそんな事を、さも恋人の話でもするかのよう
に和やかに語り始めたのだ。
 何故、そういう理解になる……? ベテラン刑事達は開いた口が塞がらなかった。
 義憤(いかり)を通り越して呆れしか出ない。
 嗚呼そうか。
 この子は根本的に、何処かで壊れてしまっているのか……。

「最初は偶然こっちに走ってきた犬を殺してみました。林の方に隠れて見ていたら、飼い主
らしい男の子がわんわん泣いてて……もう最高の気分でした」

「それから暫くはその時の事を思い出しながら過ごしてたんですけど、段々物足りなくなっ
てきて……今度はC組の三嶋君を殺してみました。たくさんの女子にとって“大切”なイケ
メンなら、たくさん気持ちよくなれるかなって思ってたんですけど……いざ私が殺しちゃう
と皆、結構自分の中で切り捨てちゃうんですよね。ガッカリだったんです」

「だから、次はもっと確実に悲しむ人がいる人を狙いました。小鳥遊さん、でしたっけ? 
あの人あっさり家に通してくれましたよ。『ご近所さんのご挨拶』って事で訪ねたら、美味
しいお茶も出してくれて……。でも殺しました。旦那さん、すっごく泣いてたし」

 大切だから、侵さない。
 大切だから、守る。
 しかしこの少女は、そんな“常識”とは違う解釈をしたらしかった。
 それだけ彼・彼女にとって大切なものであるなら、もしそれらを奪い取ったらさぞ気持ち
いいだろうと、その重みを支配できたらさぞ愉しいだろうと考えたのだった。
「……よ~く分かった。その性根、ムショでしっかり叩き直させてやるから覚悟しとけ」
 ギリッ。ベテラン刑事は歯を強く噛み締めながら、今にもその血の気の多さに思わず殴り
掛かろうとした部下・同僚らを制して言った。
「……?」
 それでも恵は尚もまだ微笑(わら)っている。
 解らない。
 壊れてしまったものは──もう二度と戻らない。
                                      (了)

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  1. 2015/06/21(日) 00:00:00|
  2. 週刊三題
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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