日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「柱達の詞(ことば)」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:橋、猫、告白】


 私達はそこに立っていた。ただどうしようもなくそこに建っていた。
 橋桁。形容するならば私達は今、そんな存在である。
 暗いまどろみの中、私達は深く深い大地の底から組み上げられ、重武装の人間達と無数の
機械に取り囲まれ、異物を混ぜ込まれ、気付いた時には頼みもしていないこの姿形になり、
切り分けられて此処にいる。
 騒々しく慌しく、地面に穴が空けられた。そこへ私達を埋めていった人間達。
 どうやら此処は何処かの田舎町らしい。田畑や点々と建つ家屋を挟み、ずらっと一本の古
びた黒い道がそこには伸びている。
 私達はその旧道を跨ぐように、若干斜めから交わるようにして建っていた。等間隔に、土
と緑が野ざらしになっている空き地を縫うように、橋桁として此処に建っている。
 ……だけども、私達が肝心の『橋』になる瞬間は訪れずじまいだった。一通り私達がこの
田舎道を跨ぎ終えた後、どうやら工事は中断してしまったらしい。
 当時時折やって来ていた関係者らしき人間達のやり取りを聞くに、どうやら私達を建てた
時点で予算が尽きてしまったようだ。
 彼らは下っ端──作業員だったのだろう。
 これからどうするのかという内一人の問いに「俺が知るかよ。また“先生”が上に掛け合
ってるんじゃねぇか?」などと話していたなと記憶している。

 ただ私達は建たされていた。強引に呼び起こされ、捏ね繰り回された末に。
 何故私達は此処にいるのだろう? 此処に在る意味に、砕け散りそうになる。
 歳月ばかりが経つ。人間達の勝手な都合で逃げ去る事も叶わず、雨に打たれ風に削られ、
注ぐ日差しに日々少しずつこの身体は痛んでいく。
 怒りがあった。だけどそれで如何なるものか。やがて私達はそんな感情すら詮無いものと
考えるようになり、ただ虚しさの中で建ち続けるしかなかったのだ。
 人間なんて。そう思って──。

「そっちいったぞ~!」
「シュート、シュートぉ!」
 なのに不思議だった。私達はやがて平穏を得る事になる。
 確かに私達が“橋桁”として建ち続ける意味は日に日に薄れていったように思う。だけど
その代わりと言うべきか、私達の下に集まる者があった。
 一つは、無垢な魂だった。
 見上げる程に大きな私達という物陰、辺りの広い土地(スペース)に目を付け、いつから
か彼らはボールを手に遊びに来るようになった。駆け回っていた。笑顔を振り撒いていた。
 そこに私達を建たせた大人(もの)達のような身勝手さはない。
 確かに“大人でない”時点で、彼らは彼ら人間達の中で勝手気ままな部類に入るのかもし
れない。だが、少なくとも私達には、その今この瞬間を目一杯遊ぶこの子達の姿がとても輝
いているように見えた。ボール遊びだけではない。時には携帯のゲーム機で性別・年齢の枠
を越え、時にはそっと私達の下で背を預け、穏やかに人心地をつく事もあった。

「あ。にゃんこだ」
「捨てられちゃったのかな……? 可哀相に……」
 一つは、慈しむ心だった。
 風が吹き抜く、雨が降りしきる。だが私達の袂に身を寄せれば、少しはそんな雨風も凌げ
るだろう。
 何度か心ない者達がいた。犬を猫を、飼い切れないと色々な理屈を誰にともなく呟いて自
身を正当化しながら、置き去る者達がいた。
 小さな命。だけどもそんな彼らに手を差し伸べたのも、また人間であった。
 記憶の一頁。朝から雨降り続く梅雨の日。午後もだいぶ経ってきた頃、傘を差した一組の
幼い兄妹がこの段ボール箱ごと置き去りにされた仔猫を見つけ、近寄って来たのだった。
 少女(いもうと)の方が言う。少年(あに)の方がそっと私達の傍に傘を置き、このか弱
い命を抱え上げて見つめる。
 にゃあ……。弱々しい鳴き声。だが必死に生きようとするその姿を目撃しただけで、この
幼い兄妹らには充分であったらしい。
「家に連れて帰ろう」
「いいの? やったぁ。でも、お父さんとお母さんが……」
「話せば分かってくれるよ。僕達で、ちゃんと世話をすればいいんだよ」
 ちょん。妹が猫を抱えた兄の頭上に傘を掲げた。彼の傘も回収し、二人はそのまま多少な
りとも濡れてしまった事すら構わず帰ってゆく。
 正直少し不安ではあった。所詮は人間に、そこまで貫ける責務の念などあろうかと。
 だが、少なくともあのケースでは、私達の心配は杞憂だったようだ。
 後日あの兄妹は私達の下を訪れ、しばしば遊ぶようになった。
 赤い鈴付きの首輪をつけられた、あの仔猫と共に。

「あ、あの……。す、好きです! ずっと好きでした! 付き合ってください!」
 一つは、想いの力だった。
 どうやら私達の下というのは、立地的にもあまり目立たないスポットであるらしい。
 私達の中でも、その旧道と交わるラインからずいと遠く奥へと入っていた所、私達同士で
上手く死角が生まれている場所。
 どうやらそこは若い男女らにとっての密会の場として目を付けられたようだ。
 あの日も学校帰りなのだろう、自転車を押しながら共に歩いていた学生が二人、内少女か
ら促され、私達の下へといそいそとやって来ていた。
 何か予感があったのか、緊張してカチコチに立つ少年。
 それを真っ直ぐ見据え、顔を真っ赤に染めていく少女。
 暫くの沈黙──逡巡の後、彼女は言った。夏の暑さにキィンと秘めた想いが染み渡る。
 そしてまた二人は黙りこくった。言い切った故の羞恥と、この事象に対する自分なりの最
善解、行動。待つ者と待たせる者が私達の下で向かい合う。
「……。お、俺でよければ、喜んで。俺も……ずっと、お前の事……」
 伝わったようだった。私達はホッとする。そして一方でそんな自分が不思議でならなかっ
た事も今は懐かしい記憶だ。
 二人は顔を赤くして俯き合った。ぼそぼそ。よ、宜しくと拙いスタートを口にした。少年
の方が迷っていたが、意を決して彼女へと手を差し出し、少女もこれにもじっと応える。
 そんな事が何度かあった。
 勿論彼ら“つがい”の性質もその形もそれぞれに違うのだけれど、唯一共通していたのは
私達という物陰を憩いの場とし、しばしば彼らは強い日差しを避けるようにして道草を喰っ
ていたという点だ。
 春は穏やかに身を任せ、夏は熱射より逃れるように。秋は旬に舌鼓を打ちながら互いに寄
り添ってぼうっと涼しげな風に身を任せ、冬は凍てる外気であっても少しでも一緒にいたい
と願ってそこにいる。

 ……だから、とても不思議だった。
 私達は人間達(かれら)を憎んでいた筈なのに。望まぬまま、頼まれぬままに自分達を掘
り起こし、塗り固めてこの地に縛り付けた。
 だというのに。怒りを経て、虚しさを経て、私達は新たなこの感情を抱いている。
 愛しさ、というものか。
 私達は無意味だった。此処に縛り付けられて、なのに誰かの役に立つ事すらなくただ静か
に風化していくのかと絶望すらした。
 でも、そんな私達に彼らは寄り添ってくれる。
 勿論、私達の事を解ってそうしてくれた訳ではないのだろう。私達を建てた者達と同様、
その本質は人間(かって)であり、ただ便利だから都合がいいから集った。
 ……それでもいい。
 何もなくただ痛んで朽ちていくのなら、せめて彼らが営む小さな日常の傘になろう。君達
がそこにいて安息できる事が、私達の新しい意味だ。
 人間とは、不思議なものだ。
 大地の奥底に眠っていた私達を、歳月の堆積をその我欲の為に叩き起こしたかと思えば、
その傍で幸せそうに笑う。
 悔しいが分かるような気がする。何故その昔私達が滅び、代わりに彼らが今も尚この時代
を生き残っているのか。
 暴力的で、だけども豊かであったからだ。
 私達とは異質で、より複雑混沌とした危険性と可能性を孕むそれらを育ててきたからだ。
 ……もう少し。
 もう少し、このまま──。

「オーライ、オーライ!」
「手際よく頼むぞ。工期は待ってくれねぇからな!」
 なのに、人間達(かれら)はまた壊す。騒々しく忙しない大行列と共にやって来る。
 何年も野ざらしにしていた私達──旧道を跨ぐように敷設する、新しい幹線道路の建設が
再開されたのだ。彼らの言う“先生”が再び予算を勝ち取り、この町に戻って来たらしい。
 あの時と同じだった。
 何人もの無骨な人間達が私達を取り囲み、この大地に足場を組み上げていく。
 唯一あの時と違うとすれば、その“異物”の主体が私達自身ではなく、また新たに運び込
まれた新参者達であるという点か。ゴゥンゴゥンと騒がしい物音が意識をざわつかせる。
 ……いや、そうじゃない。
 私達は理解していたからだ。工事が再開される。その事により、もう私達の下に集ってく
れたあの子達が此処に近付けなくなるから。
 強い赤に塗られた柵がぐるりと私達を取り囲む。
 作業員らが入っていた。機材が日に日に多くなっていく。
 そこにあの子達が身を寄せる余剰は無い。ボールを蹴って遊んでいた子供達も、捨て猫を
拾って共に暮らし始めたあの兄妹も、青春の甘い一頁を刻むあの少年少女もこの工事を見た
のか聞いたのか、すっかり姿を見なくなってしまった。
 私達の中には「これでいいんだ。やっと私達がここに縛られまでした意味が完成する」と
最大限好意的に捉えようとする向きもあった。だがそれは結局後付けだろう。そもそも此処
に運ばれる前、掘り出される前の事を思えばそれは人間達(かれら)の手前勝手すらも弁護
するようなものだ。かつての怒りが──ぶり返す。

 長い間待たされた。でもこれでやっと、自分達は意味を得る事ができるだろう。
 遠ざけられていく。だけどその一方で、自分達はあの子らを失ってしまうのだ。
                                      (了)

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  1. 2015/06/01(月) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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