日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「凶室」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:地雷、高校、恐怖】


 その夜は、彼らにとって決して忘れる事の出来ない一時となった。
 場所は街の繁華街の一角にある雑居ビル。浅岡は最寄り駅でかつての旧友数人と合流し、
積もる思い出話を少々フライング気味に解きながらそこへと向かう。
「……此処で、合ってるよな?」
 ズボンのポケットからスマホを取り出し、地図アプリの表示とメモ紙を照らし合わせる。
 間違いない。このビルの四階にある居酒屋だ。他の面々とも頷き合い、彼は内心の不安と
都合のよい期待を共に抱きながら階段を上がっていく。
「いらっしゃいませー」
「何名様でしょうか?」
「あ、いえ……」
「俺達、同窓会に来たんですけど」
「ああ、はい。座敷席をご予約のお客様ですね? それでしたら奥の階段を上がった右奥に
なります」
 ビル内の店舗入口でそう制服姿の店員らに迎えられ、今夜の宴──団体予約の事を話すと
すぐに目的の部屋を示してくれた。既に日も暮れている。店内はカウンター席やテーブル席
を始め、多くの先客がめいめいに酒や肴を広げて愉しんでいた。
「お? お前は……もしかして浅岡か? 懐かしいなあ」
「……ああ。久しぶり」
 中階段を上がって突き当たりの和部屋。その障子戸を開けると、中には既に何十人もの男
女が集まっていた。
 少し逡巡する。
 だがそんな浅岡を目敏く、皆の中心で機嫌良く笑っている三人組が認めて呼び掛け、否が
応でも面々の視線はこちらへと向く。
 金井、堂本、そして知場。
 彼らないし彼女は、今回の宴──高校の同窓会の発起人及び幹事役だ。浅岡は若干引きつ
った表情(かお)をしながらも彼らに愛想を返し、靴を脱いで座敷内に入った。一緒に来た
他の旧友らも同様にして上がり、それぞれに親しかった者達との再会に興じていく。
「久しぶり~、元気にしてた?」
「……ああ。何とか」
「そんなに畏まらなくていいのに。今から固まってたら旨い酒も不味くなるぞ」
 のそりと近寄っていく。金井に続き、知場と堂本がそう言って努めてフランクに接してく
れようとしているのが分かった。
 ……だからこそ辛い。自分は偶々仕事のスケジュールが空いていたため、何となく今回の
誘いに応じたのだが、一度隔たった歳月に加え如何にも垢抜けたといった感じの彼らを見て
いるとどうしても気後れせざるを得ない。
 それぞれに卒業(あのひ)から歩んできた軌跡があった。きっと同じものは二つと無い。
 だが漠然とした不安はある。地味で平凡な──単調な勤め人として過ごしてきたばかりの
自分は、本当にここに来て良かったのだろうかと。堂本の“詰めて来る”語り口に対して、
浅岡は只々言葉もなく苦笑いを返す事しか出来ない。
「まぁ座れよ。にぃ、し、ろ……ちょうどこれで全員だ。ぼちぼち注文するからよ」
「全員? やっぱ四十人皆じゃないのか」
「ああ。だが仕方ねぇよ、忙しかったり都合の悪い奴だっているだろうし。来てねぇ奴は奴
で俺達が肴にして交ぜてやりゃいいさ」
 空いていた座布団の一つに座る浅岡に答えながら、金井がそう笑った。
 見れば確かに、今座敷にいるのは三十人弱だ。かつて同じクラスだった自分達メンバーが
一人残らず揃い踏みという訳ではない。
 やっぱこういうイベントは無理して来るもんじゃなかったかな……? そう歳月の流れを
思い、浅岡は改め自分の場違い感でそわそわとする。
「じゃあ皆、とりあえず適当に酒とつまみを頼むけどいいか?」
「種類と数確認するよー」
 幹事役らが呼び掛け、早速最初のリクエストが始まっていた。知場がビールに酎ハイ、或
いは飲めない者用に烏龍茶など飲み物を確認し、金井と堂本がメニュー表を見ながらあーだ
こーだと幾つかの小皿メニューを選んでいく。
「……最初はこんなもんかな? 知場、そこのボタン取ってくれ」
「はいはい。んしょ──」
 だがちょうどそんな時だったのだ。テーブルの上の呼び出しボタンを彼女が手に取ろうと
した時、がらりと部屋の障子戸が開いて一人の女性店員が顔を出してきたのだった。
「ご注文はお決まりですか?」
「お。ちょうどいい所に」
「ええ。第一陣お願いします。えーと、生中が二十二、酎ハイのオレンジ五つ、ライムと烏
龍茶が三つずつ。つまみは軟骨と酢だこ、枝豆、フライドポテト、出汁巻き玉子──」
(……ん?)
 営業スマイルというのだろうか。この線目の、何だか内心の読めないこの女性店員が慣れ
た手つきでタッチパネルの機械を操作しているのをぼうっと見ている内、ふと浅岡は部屋の
入口脇にある物が置いてある事に気付いたのである。
 それは小さな風呂敷包みだった。ちょこんと、丁寧に結ばれた白と灰のそれがこの自分達
とは隔絶するように置きっ放しになっている。
(誰かが持ってきたのか? それとも前の客の忘れ物……?)
 静かに目を瞬き、浅岡は暫しこれを見遣っていた。
「はい。ではご注文を繰り返します。生中が二十二──」
 しかし次の瞬間、この店員が確認の読み上げを行い始め、堂本からも「どうした?」と小
さく声を掛けられてしまった事で、結局「……いや、何でも」とこの時はそれ以上特に気に
止める事もしなかったのである。


「──お待たせしました」
 それから少しして、先ず飲み物が運ばれてきた。先程の女性店員とあと二人、計三人が盆
に乗せたビールや酎ハイ、烏龍茶につまみの一部をこの金井ら面々へと配っていく。
「よーし。じゃあ先に乾杯しとこうか」
「今日は皆集まってくれてありがとう。久しぶりに3-Bの面々が揃った。都合が合わなく
て来れなかった奴もいるが、そいつらも含めて肴にして、存分に楽しんでくれ」
「十年ぶりの再会に、乾杯!」
『乾杯~!』
 そして、店員らが辞したのを見計らって知場から堂本、金井と言葉を継いで乾杯の音頭が
取られた。浅岡を含め、この日この場所に集まった皆がグラスを高く掲げ、カチンカチンと
互いに持つそれを打ち鳴らしながら始まりの一口を口にする。

「……ご苦労さま」
「ええ。今さっき乾杯し始めたみたいよ。先に出るわ」
「……了解。約束の金は、明日の夜に」
「ええ。ふふっ、あのクソ店長、どんな顔するかしら……?」
 一方、他二人の店員がせかせかと厨房に戻っていく中、一人この線目の女性店員は人気の
無い通用口へと足を向け、暗闇から姿をみせるもう一人の女性とそうすれ違いながら報告を
交わしていた。
 ぱちん。互いの掌を打つ。
 暗闇から出た、この店の制服を纏った彼女。
 その手にはそっと、袖口に隠すようにして何やら怪しいスイッチが握られている。

「ほらほら、飲め飲め」
「とと……! はは、悪ぃな」
 そして同窓会は、程なくしてあちこちで砕けた飲み会へと変わる。
 酌をし合い、笑い合う彼ら。酒もまだ一杯目で肴も全部届いてはいないが、既に気分だけ
は上々になり始めていた。
 あんな事があったな、こんな事もあったな──。近況はそこそこに、語り合うのは専らか
つて同じ高校同じクラスで過ごした日々の思い出話だった。酒は進む。其々の現在(いま)
をこの瞬間だけは忘れたいと言わんばかりに、懐かしい記憶達は湯水の如く出てくる。
「そういや、結局今日来てないのって誰々なんだ?」
「ん? あー、えっと確か飯田に江藤、勝俣、佐村。田丸、橋詰に……日野か」
「日野?」
 その一齣だったのだ。旧友の一人に問われてスマホのメモを確認する金井に、訊いた彼や
他の何人かがついっと顔を向けてきたのだ。ちびちびと、浅岡も成る丈絡み酒に合わないよ
うに静かに飲みながらも、はて誰だっけ……? と密かに眉根を寄せて記憶を辿る。
「ほら、あいつだよ。日野冴子。“地味子”って言った方が分かりやすいか?」
「あ~……あいつかあ」
「いたな。そういや」
「だっけか? 俺、あんまり印象にねぇんだけど」
「仕方ないわよ。地味ちゃん、いつも一人で教室の隅にいたもん」
「根暗だったわよねえ。お洒落もしないし、黒ブチ眼鏡のガリ勉ちゃんだったしさあ」
 あははは! 場に居た少なからずが笑い始めた。浅岡も思い出す。そういえば、そう仇名
されていた女子がいたっけ。
 通称・地味子。かく言う自分も一年間同じクラスだったにも拘わらず、あまり話したりし
た記憶がない。強いて挙げるなら……その性質故に、クラスの、特に同じ女子から除け者に
されていたような印象がある。
(まぁ来なくて正解だったろうな。こういうイベントは基本、学校カーストで上だった奴ら
がわいわい楽しむ場だし……)
 だが──異変はちょうどそんな時に起こったのである。ふと突然酒を飲んでいた一人が目
を見開くようにしてグラスを落とし、急に喉を掻き毟って苦しみ始めたのである。
「えっ? ちょ、ちょっとどうしたの?!」
「おい、倉田! しっかりしろ、倉田!」
 しかし皆は何も出来ない。この一人が畳みの上でのた打ち回っている。加えてその一人が
一人では済まなくなった。まるでこの時を待っていたかのように、直後他の面々も次から次
へと喉元に異変を感じ、苦しみ出したのである。
「がっ……!? あ……ッ!」
「ぐ、ぐる、じぃ……!」
「おいおいやべぇぞ。お前ら、これ以上飲み食いするな! 何か中ってるのかもしれねえ」
「どうなってんのよ! よりによってこんな日に──」
 苦しみのたうち回る者、慌てて駆け寄るも何もできない者。金井が咄嗟にそう皆に指示を
出し、知場がこの事態を知らせスタッフに詰め寄るべく呼出ボタンを押そうとした。
「……あれ? 鳴らない?」
「え? 鳴らないってお前……」
 彼女の怪訝に、金井達が何度か押してみる。
 だがボタンが反応している様子は無さそうだった。厨房などで音が鳴るタイプだとしても
一向に駆けつけてくる気配がない。
「……おい。これ、電池ないぞ」
「え? あ、本当だ」
「はぁ!? 何で忘れてんのよ?! こっちは重症人が出そうだってのに!」
 にわかに場が緊迫し、何より鬼気迫る様相を帯びてきた。知場が、この続く不審な──杜
撰なサービスに怒り、ずかずかと歩いて出入口の障子戸を開けようとする。
「あ、あれ? 開かない……」
『えっ』
 しかし更に異変は続いたのだ。扉が開かない。知場だけでなく、浅岡を含む酒をまだ余り
飲んでいなかった面々と中心に一緒になって引手に力を込めるが……びくともしない。
「ちょっと! 一体何がどうなってるっていうの!?」
「向こうにバリケードみたいなのがある! 閉じ込められた……!?」
「何でだよ!? 何で店がそんな事するんだ?!」
 ぎゃあぎゃあ。怒りに駆られた知場を中心に、元3-Bの面々は我を失い始めていた。
 突然起こった旧友らの異変、危機。
 なのにこの店は、扉は、まるで自分達を捕らえるように閉ざされていて……。

「──死ね」
 刹那、暗闇に溶けていた女性が呟き、手にしていたスイッチを迷いなく押した。
 浅岡は見た。その瞬間、あの入口脇にあった風呂敷包みが大きく爆発し、巨大な爆炎と共
に自分達を容赦なく飲みこんでいくのを。
 彼女は暫し、そこにいた。
 通用口から非常階段を降りた路地裏の一角。そこで彼女は夜風に晒されながら、自身の一
手で燃え盛るこの雑居ビルを、かつて自分を苛め抜いた忌々しき旧友達が集まったあの場所
を睨んでいる。
「……私は許さない。お前達を、絶対に」
 同窓会がある(あつまる)と知った。だから予め内通者を得、確実に彼らに復讐できる環
境を整えた。
 憎しみの思い出を持つ者。
 彼女の名は、日野冴子という。

『○○町雑居ビルで爆発火災 居酒屋ほか二店舗が全焼』

 そして翌日。
 とある地域紙の三面に、密かにそんな記事が踊った。
                                      (了)


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  1. 2015/05/01(金) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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