日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「眠るひと」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:戦争、過去、荒ぶる】


 水底に沈んで、一体どれだけの時が経ったのだろう?
 何時しか私という存在は、ゆっくりと静かにこの海に溶けてしまったかのような感覚に包
まれて久しい。
 戦艦ターギュソン号。私を他人が呼ぶ時の名だ。
 かつて私は、帝国の技術の粋を集めた最高の戦艦としてこの世に生を受けた。
 規格外の巨大さ、武装、戦闘能力。かつて技師達は、私が大海原で敵軍を千切っては投げ
千切っては投げする活躍を夢想していたのだろうか。
 実際、そんな時期はあった。他の戦艦(どうほう)達と共に帝国の領海を往き、祖国に仇
為そうとする全ての力をねじ伏せて──睨みを利かせてきたものだ。
 だが知っている。
 私達は負けたのだ。豊かな海こそあれ、燃料に乏しい祖国は外界へ出ていく他なかった。
 それはきっと、他国にとっては脅威だったのだろう。始めこそ大いに領土を広げ、栄華を
誇っていた我が国も、危機感に駆られた諸国の同盟──交易封鎖によって次第に追い詰めら
れていった。
 今でも覚えている。
 乗組員(みな)が次第に疲弊する横顔を見ていた。焦り、苛立ち、ギスギスした空気にな
っていくのを見た。
 帝国軍人。聞こえは誇り高くとも、その実際を動かすのは他ならぬ人である。
 食わねば飢える。暖まらなければ凍える。それらを全て“帝国軍人の精神”だけで解決し
ようとした上官達の虚勢たるや。
 ……兵器として生まれた私がこんな事を思うのは、可笑しいのだろうか?
 哀しかった。同胞(とも)らがああも辛苦を抱えるのに、戦わねばならぬという運命が。
 哀しかった。かつては私と共に在ることをああも誇ってくれていた同胞(とも)らの横顔
が、日ごとやつれ、文字通り必死になっていくさまが。
 ただ私達は豊かになりたかっただけだと思う。内に無ければ外に求めるしかない。交わり
取引出来るのならば何も奪う事はなかった。
 欲望、だったのか。流出する資金ばかりを見て、嘆き、ならばいっそかの地らを自分達の
ものにしてしまいたいと願ったからか。……でもあの時代、そんな奪い奪われはどの国にお
いても当たり前の闘争であった筈なのだが。

 いや……それはいい。もう詮無い事だ。
 時代は私達を“敵”とした。他国への拡張を繰り返す、倒すべき敵だと。
 幾つもの国が肩を組んで私達の祖国を攻め立てた。交易を断ち、窮する皆を見ながら彼ら
は言う。曰く軍を解体せよ。無条件に降伏し、我々の統治下に置かれよ──。
 そして帝国は決意した。彼らと戦うと。
 どちらが正義かなど後でいい。ただ、今ここで直ちに屈すれば、この国とこの国の民たる
心はきっと壊されてしまうだろうと。
 激しい戦いだった。私も、他の戦艦(どうほう)達も四方の海を奔走しながら戦った。
 だが如何せん、相手が多過ぎたのである。戦とは火力ではない。どれだけそれを維持でき
るか、その物量の削り合いと換言できる。
 その意味では……祖国に始めから勝機など無かった。あるものは限られ、補給する路は日
に日に限られていく。
 加えてこれまでの“帝国らしさ”が枷となった。かねてより各地へ広がっていた領土と、
不足する一方の物資では戦が長続きなどしない。
 何より私たち大戦艦は、気付けば時流にさえ置き去りにされていた。
 艦は巨大な者同士の撃ち合いではなく、より小型に、戦いそれ自体も海ではなく空の戦い
へと移り変わっていたのだから。
 帝国の皆が誇るあまり、乗り遅れた節もある。
 とにかく私達は、無数に飛ぶ戦闘機(それ)からすれば、無駄に大きな、格好の的にしか
ならなかった。
 ばら撒かれる爆弾、爆ぜて砕かれるこの身、何よりも散っていく船員達(ともら)。
 最期の記憶は、二重三重の苦しみだった。
 身体のあちこちを焼かれ、引き剥がされる痛みと、腹の底に溜まっていく大量の海水。
 何より私の胸の中で絶命していく友ら、堪らず海へと飛び込み、そのまま撃ち殺されたり
捕らえられ人数だけの苦難を歩んでいった友ら。そんな彼らに何も出来なかったこと。

 軋む。身体が、へし折れる。
 かくて私は沈んだ。敗北という戦績と共に。
 私は眠りに就くこととなった。あれだけ身体中が痛んだのに、いざ水底へ沈むと、その最
中は不思議とそんな痛みも苦しみも遠く水面(あちら)に置き去りになったかのようにすら
思える。


「──見えますでしょうか? あれが戦艦ターギュソンです! 今から百年近く前、旧帝国
の技術の粋を集めて作られたという大戦艦です!」
 なのに、もう私の役目はあの最期で(とき)終わったと思っていたのに、にわかに辺りが
騒がしくなる。
 どうやら私は引き揚げられたらしい。身体のあちこちに強靭な金属の鍵縄を引っ掛けられ
た私を、眼下で無数の人間達が見上げては興奮気味に何やらまくし立てている。
 眩しい光があった。それは何も私がずっと水底にいたからだけではないのだろう。
 ……そうか。あれが今の時代の写し箱(キャメラ)なのか。
「長らく海底に沈んでいたからでしょう。機体はすっかり錆び付いてしまっていますが、そ
の巨大さ・荘厳さはご覧の通りかと思われます。一世紀も前にあれほどの構造物が作られて
いた……驚きです」
 私達の敗北の後、帝国(そこく)が解体された事は知っていた。
 たとえ水底に沈んで長くまどろみの中にあっても、全てが知らせてくれた。
 流れゆく水の奏でと魚達、或いは時折、遥か頭上の水面を滑っていく船(こうしん)らの
声。その全てが時が確実に移ろっている事を知らせてくれた。
 だから、本音を言えば何を今更と思うのである。不意に眠りを妨げるように騒々しく私の
前に見慣れぬ機体(もの)が沈んできたかと思うと、一旦浮上し、また今度は何本もの鍵縄
を引っ下げて迫ってくる。
 少なからず名残惜しかった。長く沈んでいた水底、その包み込むような感覚が消え失せて
しまうと、妙に気忙しくなるようで。
 代わりに海鳥たちの声を聞いた。彼らもまた戸惑い、そして迷惑しているようだった。
 長年痛んだ身体の節々が潮風に沁みる。なのにこの時代の人間達は……何が嬉しいのか諸
手を挙げ、私を随分と輝く眼差しで見ているようだ。

『これこそ歴史の、漢のロマンだな! やっぱり凄いなぁ……』
『他の戦艦もだけど、これからどうなるのかな? また観に行ければ嬉しいんだけど』
『この国は昔こんなに凄いものを作ったんだ。もっと俺達は胸を張っていい』
『政府はちゃんと自治州のお偉いさん達と交渉すべき。下手に場所を知られたら、換金狙い
の輩がターギュソンを犯しに来るぞ』

『スクラップな船一つで騒ぎ過ぎ。何が誇りだ』
『何でわざわざ引き揚げたの? それこそ税金の無駄遣い。沈めておけばいいのに』
『歴史に学ばない人が多くて失望します。帝国が犯した過ちの最たるものじゃないですか』
『帝国時代の美化に断固反対! 即刻この船をスクラップにすべき!』

 でも……次第に聞こえてきた声は、必ずしも私を歓迎するものではなかったようだ。
 少なくとも私を水底から引き起こした者達は前者──歓迎したり、私達という存在を好意
的に捉えてくれる人間達だったけど、一方で私、帝国時代の戦艦というだけで眉を潜め、そ
の存在自体を否定したがる人間も少なくないと聞き及ぶ。
 かつての祖国が解体され、人々が以降幾つかの国に分かれたらしいとは判ったが、その事
に関して「過去の屈辱」と感じている人間もいれば「当然の報い」と受け取っている人間も
またいるらしい。
 私は、それが辛かった。
 あの時代を栄光とみるか、邪悪とみるか。そこに定まった解は無いと思う。
 その意味では同じだ。あの時と同じ、私達の祖国を“悪”と決め付けた彼らと、その眼に
あくまで抗おうとした帝国人達。結果両者は戦い、私達が負けた──それだけなのだから。
 だから、その延長で言えば、あの時代は“悪”だったのだろう。一先ずより全体にとって
は、そういう事になるのだと思う。
 でも……かといって全て割り切れる話か? と訊かれれば私はノーだ。
 何の為の戦いだったのだろう?
 百年か。そんな──人間にとっては世代が一つ二つ変わるであろう時の流れを経ても、変
わらず私達が正しい、正しくないと仲違いをしている。加えて横槍を入れるように主張して
くる他国も混ざってくる。
 変わらないな……。良くも悪くも私は思った。
 人間は、こうして私達亡き後の百年を生きてきたというのか。
 哀しくなる。それこそ私というモノを、重んじるか軽んじるかで血を流すような事件すら
起きるのであれば。未だもって解り合えないというのならば。

(すまない……)

 私は、引き揚げられるべきではなかったのかもしれない。眠り続けていればよかった。

 ──すまない。戦友達(とも)よ。
 私は再び、彼らに嬲られてしまうようだ。
                                      (了)

スポンサーサイト
  1. 2015/03/08(日) 00:00:00|
  2. 週刊三題
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-Ⅴ〔61〕 | ホーム | (雑記)明暗逡巡─悪人とは誰か>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://higurasisouann.blog27.fc2.com/tb.php/564-9dd2579f
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
します。

訪問者累計

最新記事

最新発言

検索窓

月別履歴

04 | 2017/05 | 06
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -

分類/索引

【案内板】 (2)
【小説:短編】 (20)
本の蟲 (1)
硝子野不動産店 (1)
夏の日の幻影 (1)
四番線の彼女 (1)
夢視の宿 (1)
線を曳く町 (1)
炬燵の神様 (1)
三者三盗噺 (1)
色眼鏡 (1)
奴らは攻城戦師 (1)
詰め替える (1)
同じ籠の狢 (1)
二十年後の遺言 (1)
轍の先 (1)
水に流せば (1)
真夜中の御二柱 (1)
いつか見た夢 (1)
神様達の初詣 (1)
白い花束 (1)
丸の代償 (1)
【小説:長編】 (142)
Amethyst League (6)
アンティーク・ノート (3)
ユウキのヒカリ (5)
NIGHT GUNNERS (5)
レディ・ルーン-Bonds of RU'MEL- (6)
ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- (83)
死に損いのデッドレス (5)
Dear SORCERY (4)
サハラ・セレクタブル (25)
【企画処】 (320)
週刊三題 (310)
その他参加物 (10)
【資料庫】 (15)
【落書帳】 (6)
【詩歌帳】 (6)
【雑記帳】 (306)
【読書棚】 (30)
【遊戯倉】 (23)
path. (4)
decide: (3)
ユー録FW (15)

記事録

交友関係

このブログをリンクに追加する

(RSSリンク)

(QRコード)

QR

@long_month からのツイート