日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「死亡難義」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:パズル、先例、真】


 気が付いた時、彼らはそこに閉じ込められていた。
 ズキリと鈍い痛みが後頭部に残ったまま、おもむろに手を当ててつつ起き上がる。
『──』
 そこは冷たい打ちっ放しの、コンクリートで固められた部屋らしかった。
 部屋は多少薄暗いものの、高く天井付近に小さく空けられている採光窓から光が差して全
く見えないという訳ではない。ただ、取っ掛かりも無いこの場からそこへ飛びつくのも無理
そうだし、何よりあの小ささでは子供一人出入りする事も叶わないだろうと思われた。
「……何なんだ、ここは?」
 この時目覚めたのは五人。一人はTシャツとジーパン姿の気だるい感じの青年で、二人目
と三人目は彼と年格好の似た薄眼鏡の青年と女性、四人目は気の強そうな中年女性で、五人
目は一見すると厳つい顔立ちをした壮年男性だった。
「何? 何なの!? 何で私、こんな所にいるの? 買い物に出ていた筈なのに──」
 五人はめいめいに鈍く痛んだ頭を振り払い、互いの顔を見た。
 最初に口を開いたのは壮年男性だった。次に中年女性が、ヒステリックに喚き出す。
「……」
 それを、気だるい青年はぼうっと見ていた。内心五月蝿くて苛々した。
 自分だって分からない。確か朝勤のバイトが終わり、部屋に戻る途中だった筈だ。
 なのに気が付けば前後の記憶も無く、こうして見知らぬ四人と一緒に、やはり見知らぬ打
ちっ放しの部屋にいる。
「ひっ……」
「大丈夫。僕がいるから。……皆さん、お怪我はありませんか?」
 一方で喚き出した中年女性にもう一人の──女子大生らしき彼女はビクリと怯えていた。
 元から気が小さい性格なのだろう。だがそんな彼女に、まるで恋人のように寄り添いなが
ら、薄眼鏡の青年が一同に話し掛けてくる。
「ああ。特には……。あるとすりゃあ頭をガツンとやられたっぽいが」
「みたいですね。ここにいる全員が、おそらく」
「何なのよ……。一体誰の仕業? 何のつもり? 出て来なさいよ! 訴えてやる!」
 また中年女性が叫んでいた。負けん気というか、単にプライドが高いだけか。
「……」
 気だるい青年は特に発言する事もなく、密かにため息をついていた。
 一体何だっていうんだ?
 その点だけに関しては、このオバサンとは同意見だが──。
「うん?」
 そんな時だったのである。何となく座り込んだまま後ろ手をついた青年の掌に、にわかに
グチュッとした感触が襲ってくる。
 咄嗟に青年は頬を引き攣らせていた。中途半端に柔らかく、生温かく──心地が悪い。
 残り四人がその変化に気付いてこちらを見遣っていた。薄暗い室内。この気だるい青年を
始め、一同がじっとこの手元にある“何か”に目を凝らす。
「……ひぅっ!?」
「ッ!?」
「おいおい。マジか……」
 女性二人が恐怖及び嫌悪感で引き攣っていた。薄眼鏡の青年が険しい表情を帯び、壮年男
性がそう言葉を漏らす。
「なん、で……」
 人間だった。いや、人間だったものというべきか。
 死体だった。つい今の今まで薄暗さと目覚めの混乱で気付かなかったが、自分達の周り、
部屋のあちこちには赤黒い肉塊と化したそれがごろごろと転がっているではないか。
 気だるさもこの時ばかりは吹き飛び、青年は飛び退いた。されど手にはべたりと血肉の感
触は残っている。
 女子大生な彼女はすっかり怯え、涙を流しながら震えていた。今にも吐きそうになるのを
眼鏡の青年が優しく支え、自身も辛かろうに背中を擦ってあげている。
「ちょっと! どうなってるの!? 何で人が死んでるのよ!? 警察は? こんなのを放
っておいていいの!? そもそもここ何処よ?!」
 一方で中年女性は喚き散らす事でこれに抗おうとしていたようだ。ぶんぶんと首を横に振
り乱し、気だるい青年が横目で睨むのも構わず立ち上がり、うろうろと歩き出し、ややあっ
ておそらく出入口と思われる冷たい金属製の扉を叩き始める。
「一体何のつもりよ! 誰かいないの!? 出しなさいよ! こんな事してただで済むと思
ってるの?!」
 だがどれだけ彼女が叫び、叩いても扉はびくともしなかった。
 やがて息切れした彼女に代わり、壮年男性が歩いて来て扉を見てみる。ドアノブや取っ手
らしきものは一切なかった。スライド式の物のようだ。途中気だるいながらも渋々青年が加
わって二人で扉に体当たりしてみるが……やはり凹み一つしない。
「駄目だ。完全に閉じ込められてる。兄ちゃん、此処や犯人に覚えは?」
「……ある訳ないッスよ」
「……。だよなあ」
 気だるいまま、忌々しく扉を見つめ返す青年に、そう壮年男性がため息をついて残りの面
子を見遣る。
 眼鏡の青年も、彼に抱き寄せられている彼女も首を横に振っていた。
 中年女性の方は言わずもがな論外といった所か。こんな時でも、部屋の方々に転がってい
る遺体をまるでゴミでも見るかのように、仮に近付けば足蹴にでもしそうな風に忌々しく見
下ろしている。
「何で? 何で私がこんな所に放り込まれなきゃいけないの!? そこが開かないなら出よ
うが無いじゃない!」
「……俺達を放り込んだ奴の目的が何かは知らんが、出る方法はある筈だ。放り込まれたっ
て事は、少なくとも一度扉か何かが開いてたってことだからな」
 だから壮年男性とこの男女、そして青年は誰からとも無く視線をゆっくりと部屋の最奥へ
と移していたのだった。
 方法──少なくともギミックらしき何かが、そこにはずっと鎮座していたからだ。
「こ、これの他は何もないね」
「ああ。多分、これで正しい数列を入力すれば扉が空くんだと思う」
「正しいって……。そんな分かりようがねぇんじゃ……?」
 鏡と、その下に数字を入力する為の装置が置かれていた。
 部屋の奥の壁に埋め込まれるような形。その鏡の下に、電卓のように配置された数字キー
と横長の液晶画面、そして確定用と思しき文字なしのキーが一つ備え付けられている。
 また死体の中を戻るのが嫌そうな中年女性も含めて、五人全員が一旦この装置の前に集ま
っていた。
 女子大生の彼女が言葉を振るわせるように、この部屋にはこの装置以外何もない。あるの
はあちこちに転がる死体と、規則的にタイル分けされたコンクリート壁だけだ。
 暫し一同は、この装置の前で黙り込んだ。唸った。
 特に年齢から自然と面々のリーダー格になった壮年男性は、薄眼鏡の青年と食い入るよう
にこの装置を見渡し、必死に何か手掛かりは無いかと探している。
「……なあ、これ何だ? 鏡の端に、何か書いてあるような……」
「鏡……? えっと“memento mori”──“死を想え”という意味ですね」
「死を? 何だそりゃ」
 そして二人は見つけ出す。青年と、女性陣二人もついっと覗き込む。
 暗がりで見落としそうだったが、壮年男性が指摘したように確かにそこにはインクか何か
で書きなぐったようにそう記されている。
「いつか自分が死ぬことを忘れるな、とか、死を記録せよという警句です。確か元はラテン
語の古い言葉だったと思いますが……これがヒント、なのかもしれませんね」
 ふむ……。ざりざりと顎を擦り、壮年男性が考え込んでいた。青年がちらとこの薄眼鏡の
同年代を見遣る。
 やはりこいつは学生か。インテリ臭いと思っていたが、こんな状況では役に立つか。
 ……それにしても、自分と同じくらいの年格好でこんなに差があるものなのか。もう珍し
くはないが、腹が立つ。こっちは高卒の工場勤務で毎日ヒーコラいっているのに、こいつら
は親の金でぬくぬくと、キャンパスでイチャコラまでして──。
「よし! 分かった!」
 だがそんな時だった。気だるくも悶々と、この同年代のカップルらしき寄り添う二人を見
て青年が内心沸々と不満を反芻していた中で、はたと壮年男性が思い立ったように一旦装置
の前から離れた。
 何をする心算だろう? そう青年以下四人が視線を彼に移していく中で、当の本人は何を
思ったのか部屋のあちこちに転がる死体の数を数え始めたのだった。
 ひい、ふう、みい……。中にはどこから死体Aでどこからが死体Bかも分からないような
状態な者もいたが、それでも彼は慎重に、だけども内心思いついた興奮と一縷の希望を抱い
たまま、暫しそれを続ける。
「死を想え──それ以外に手掛かりらしきものはない。で、何故かここには仏さんがごろご
ろと転がってる。となれば、答えは限られてくるんじゃないか? 要するにこいつに、転が
っている仏さんの人数を入れてやればいいんじゃないか?」
 なるほど! そう真っ先に反応し、喜色を上げたのは中年女性だった。改めて装置の入力
キーの前に立つ彼にエールを送る。
「……」
 だが気だるく青年は遠巻きに、何より薄眼鏡の青年はまだ怪訝のままで口元を押さえたの
である。
「待ってください。そう簡単な答えであるとは──」
 しかし彼が止めようとするにも拘わらず、壮年男性はキーを操作していた。三十四。念入
りに数えたこの部屋の死体の数を入力し、空白の確定キーを押す。
「が……ッ!?」
 されど結果を言えば、それは間違っていたのである。
 次の瞬間だった。男性が確定キーを押した瞬間、ちょうど彼の腹を狙うように装置真下の
壁がスライドし、大きなトゲ付きのプレスが飛び出てきたのだから。
 避ける暇も、助ける暇も無かった。
 ただ彼は、四人が目を見張った中で激しく体を突き刺されながら吹き飛ばされ、どうっと
部屋の出入口方向へと転がり込んだのである。
「お、おじさん!」
「くそっ、そういう事か……。こんなに死体があるというのは、もしかして──」
 薄眼鏡の青年とその彼女、そして気だるげな青年がやや遅れ、慌てて彼の下へと駆け寄っ
ていく。中年女性は目の前で起きた事に怯え、足が竦んでしまっていた。
「げほっ……。悪い、しくじったみたいだな」
「と、とにかく大人しくしてください。ち、血を……」
 駆け寄る若者二人に、男性は仰向けに倒れたまま息を荒げて苦笑(わら)っていた。涙目
になりながらも、彼女が自分のハンカチを取り出し、赤く染みていくのも構わず止血しよう
としている。
「どど、どういう事!? 死体の数じゃないの?!」
「不正解って事だろ。趣味が悪ぃ。ミスったらトゲ板でざっくりか」
「ええ。そういう仕掛けなんだと思います。ヒントの為の死体なんかじゃなかったんだ。彼
らは皆、もっと前に僕らと同じくここに閉じ込められて、力尽きた人達だったんだ……」
 すみません。薄眼鏡の青年はそう声色が落ちて言い、男性に謝っていた。
 はは。気にするな──。しかし当の本人に、怒り返すような余裕はもうない。彼女がハン
カチで血を止めてくれていたが、負傷は既に彼の身体の内部を痛めつけてしまっているよう
だった。
「死体が関係ないって……じゃあどうするのよ。総当りで入れていけって事!?」
「無理だろ。一回でも間違えばこうなる」
「入力し終わった瞬間に逃げる、という手も無くはないですが……この部屋にさっきのよう
なトラップが他に無いとも言い切れませんしね」
 故に、暫く一同は押し黙ってしまった。中年女性が発狂しそうなほど歯軋りをしているの
に、青年二人はにべもなかった。或いは真面目にこの部屋に潜む可能性を考え、やはりその
やり方のリスクに同意する。
「嫌よ、嫌よ嫌よ嫌よ! 何で私がこんな所で死ななきゃいけないの!? 何の恨みがある
っていうのよ! 出しなさいよ! 何処の誰!? 此処から出しなさいよッ!!」
 中年女性はだからこそ叫んだ。激しく首を横に振り、髪を振り乱し、カツカツと扉の方へ
と戻ると再び激しく扉を叩いていた。
 罵倒、喚き声。
 ヒステリックなその性質は、更に増していく。
「……五月蝿ぇな。それで開けば誰も苦労しねぇだろ」
「ッ、何よ偉そうに! じゃあ貴方は開け方が分かるっていうの? まさか犯人でしたって
オチじゃないでしょうね? そうよ。その可能性もあるわ。大体、そのみすぼらしい格好は
何? どうせ外でもろくな事してないんでしょう?」
「ッ! てめぇ──」
「ま、待ってください。ここで喧嘩しても何も解決しませんよ」
「そうですよ! それに、今は怪我人が──おじさんがいるんですよっ!」
 あくまで高慢な態度のままの彼女に、気だるい青年の堪忍袋が切れそうになった、その時
だった。薄眼鏡の青年、いやひたすら純朴に訴えかけた彼女の声に、二人の振り上げかけた
拳が止まっていたのだ。
 詰め寄りかけていた青年の踏み出した足。
 ふんっと。それでも尚、この中年女性は自身が悪びれる様子はない。
「……だったら」
「?」
「だったら、お前が正解だと思うナンバーを言ってみろよ。俺が入れて来てやる」
「は? 貴方正気?」
「正気も何も、やらなきゃ始まんねぇだろーが。力ずくでこじ開けられないんなら、やっぱ
このあの装置をどうにかしないと出られねぇんだしよ」
 だから、それまで気だるかった青年がそう志願して来た時、中年女性は勿論、他の三人も
驚いていた。
 それはそうですけど……。女子大生の彼女が言う。
 いくら何でも無茶だ。実際、その身にペナルティを受けた壮年男性が弱々しく首を振る。
「……」
 だが青年は、別の事を考えていた。
 少なくとも今のままで、残り四回、四人分で正解とやらに辿り着くのは不可能だ。キーを
入力すれば、少なくともその人間はそこであのトラップに串刺しにされる。
 しかし……構わないのではないか。ここでこの性悪ババアのリクエストした数字を入れて
みて、間違って、自分が怪我をしたり或いは死んだりしたら。
 意趣返しにはなる。それも後々まで残るとっておきの。尤もあの厚そうな面の皮で罪悪感
と面と向かってくれる保障はないが。

“どうせ外でもろくな事してないんでしょう?”

 ああそうさ。俺がいなくたって、工場は回る。世の中は回る。詰まる所それでも働いてい
るのは、食うに困りたくないからだ。路頭に迷って死なないようにする為だ。
 でも……いいかなって思う。
 何の因果か知らないが、こんな場所に放り込まれた。これだけ死体が転がっているって事
は、助けも来ないんだろう。

 いいかなって思う。
 もう、此処が最期で。

「言えよ。少しでも長生きしたいんだろ?」
「……」
 だから促していた。青年は気だるく、しかし有無を言わさぬようにこの中年女性を睨み付
け、他の三人がそわそわするのも気に留めずに迫っていた。
 ごくり。彼女がこの相手、青年の内心など知る由もなく後退っている。何故そこまでして
死に急ぐのか心底理解できないという感じだった。
「だからって、考え無しに……。っ!? そうよ、一つあるわ。ゼ、ゼロを入れなさい。さ
っきは死体の数を数えて間違った。でもよくよく考えれば元はこの人達自体いなかった筈よ
ね? ならゼロよ。ゼロ人なのよ。死んだ人間は、此処にはいなかった!」
 故に内心、そうはたと思いついてその回答に酔い始めた彼女を見て、青年はあまり面白く
なかった。
 要するに逃げ口上だ。理屈だけ先に作っておいて、予防線を張ってやがる。仮に間違えて
自分が犠牲になったとしても、それは言い出した貴方の自己責任、とでも言い聞かせる心算
なのだろうと。
「……分かった。ゼロだな」
 しかし青年の方ももう退く訳にはいかなかった。実際、半分以上自棄になっていたという
部分もある。
 止めろ! 薄眼鏡の青年達が制止の声を上げる。だが彼は微塵も気に留めなかった。のた
っと歩いて装置の前に進み、ぽんとゼロのキーを押して液晶に表示させてから、数拍の間を
置くのもそこそこに確定の空白キーを押す──。
「ベッ?!」
 吹き飛んでいた。だが青年ではない。次の瞬間、装置とは真逆、扉近くの壁際にいたこの
中年女性の頭が文字通り吹き飛んでいたのだ。
 生々しい肉塊を砕き千切る音に、飛び散る鮮血。
 薄眼鏡の青年が、女子大生が、解放されていた男性が、そしてまさかと振り返った青年が
この光景をさもスローモーションの世界の中で目撃していた。
 トゲ板のトラップは、やはり装置以外の場所にもあったのだ。ちょうど彼女の真後ろ、そ
の首筋を狙うようにスライドした壁から飛び出し、誰にも止められる事なくこの五人最初の
犠牲者を生み出す。
「ひっ──!?」
「な、何、で……?」
「……まさか、把握されているのか? 誰の意思で入力するナンバーを決めたのか」
 その場で崩れそうになる彼女をはしっと背後より支え、薄眼鏡の青年は改めて厳しい表情
になって周囲を見渡した。
 壮年男性も仰向けで動けぬまま、視線だけそれに倣う。だが室内は相変わらず打ちっ放し
のコンクリート壁で全面統一されており、監視カメラの類が取り付けられているとは確認で
きない。
 気だるげな青年も唖然としていた。死んだのは、あのババアじゃないか。
 把握──監視されている? この部屋を作って閉じ込めて、自分達のさまを見物している
奴らが何処かにいる……?
「……益々拙い事になったぞ。機械的なトラップじゃない。となれば、その気になれば僕達
はいつでもトラップの餌食になりうる……」
「そ、そんな」
「……」
 青年は舌打ちをした。この薄眼鏡の彼の読みは正しい。奇しくもあの女の我がままと犠牲
で一つその事実が明らかになったとも言える。
 女子大生っぽい彼女は最初よりも震えが激しくなっているように思う。やはりなのか彼氏
であるこの眼鏡野郎はそんな彼女を何度も何度も励まし続けている。
(どっちかが死んだら、アウトだな)
 そう直感した。現実の色恋なんて、創作の中のそれに比べたら──特に女はスッパリ上書
き保存して忘れてしまうんだろうけど。
 でも、思った。
 少なくとも生きなきゃいけない理由があいつらにはある。一緒にいなきゃ、駄目だってい
う繋がりがある──。
「なあ。お前らって付き合ってるのか?」
「えっ」
「は、はい。そう、ですけど……」
 この状況下でわざわざそんな質問をする意味が分からない。
 そうとでも言いたげに彼らはきょとんとしていた。二人に解放されている壮年男性も目を
何度か瞬きながらこちらを見ている。
 そうか。気だるく青年はそう呟いた。
 振り向く。目の前には変わらず入力装置。おそらくこのとち狂った部屋から出る為の唯一
の鍵なのだろう。
 memento mori──死を想え。
 そう端に走り書きされた鏡が、自分の顔を映している……。
「……そういう事か」
「? ま、待ってください! 今度こそ適当に入れたら──!」
 彼氏の方が止めようと駆け出してくる。だがこの青年は入力の手を止めなかった。
 押すキーは九。それをひたすら押し続ける。三十回、四十回、五十回……。
 この薄眼鏡の青年ががしりと、彼の背後から両手を捉えて来た。だが彼は軽くこれを振り
解き、背を向けたままの肘鉄でこれを弾き飛ばし、横長の液晶いっぱいに表示されたその数
字列を確認して、確定の空白キーを押す。
「や、止め──」
 しかし次の瞬間、飛んで来たものはトゲ板ではなかったのである。
 ガコン。はたと出入口を塞いでいた扉がスライドし、薄暗かった室内に眩しいほどの光が
差し込んでくる。
 薄眼鏡の青年は目を丸くして振り向いていた。女子大生も、彼女の傍で倒れていたままの
壮年男性も、その眩しさに目を細めながら今起きた奇跡に言葉が出ないでいる。
「……ビンゴ」
 カツン。呟いて、少しだけ嬉しそうに青年は気だるさを纏って歩き出した。
 ほれ、行けよ──。尻餅をついていた薄眼鏡の青年の手をむんずと取って拾い上げ、やっ
と自分達が助かったのだと涙を零し始める彼女の下に連れて行ってやる。
「……どうして」
「ん?」
「どうして、正解が分かったんですか?」
 頼まれもせず、だが自然と身体が動いた。自分でもらしくないとは思っていた。
 怪我をしたままの壮年男性。彼に肩を貸してやりながら歩いていく。出血はまだ続いてい
るが、急ぎ病院に行けば命を失う事はないだろう。
「……分かったっつーか、そもそも分かりようがないっつーか」
「??」
 後からついていくる彼と彼女に一度肩越しに振り返り、しかしすぐに何処か照れたように
視線を前に戻してから、この青年は言う。
「オッサンとあのババアが試した感じから、死体の数じゃあない。じゃあ“何の死”を言っ
てるんだろうと思ってな。……そしたら映ってたんだよ。俺の顔が。俺の死。でも俺はまだ
死んでねぇから、もしかして俺の為に死んだものの数なのかな? ってさ」
 薄眼鏡の青年が目を丸くしていた、驚いていたのが分かった。
 そうか。だから鏡が……。ぶつぶつと呟く。
 そう、無駄なものなんて何も無かった。
 何よりもオッサン(とババア)とあんた達と。あんたらが色々試して選択肢を消してくれ
たからこそ、俺みたいな平凡な馬鹿でも、何とか解けたんだなと思う。
「分かる訳ねぇよ、具体的な数なんて。でも滅茶苦茶多いのは確かだろ? 今まで食ってき
た飯の為に死んだ動物やら何やら、俺が産まれるまでに死んでった先祖やら何やら。だから
あそこに打ち込める内の最大の数を入れてやったんだよ」
 眩しい。
 そうこの世界の何処かで誰か達は、素直に恥じなく素晴らしいと思っているのだろうか。
                                      (了)

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  1. 2015/02/22(日) 18:00:00|
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
します。

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