日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「廃棄街」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:地獄、墓場、機械】


 その日、カナメは棄てられた。
 どうっと、重い金属の箱の中から解き放たれ、他の誰か達や無数のガタクタと一緒にそこ
へ置き去りにされたのだった。
 全身に文字通り打たれたような衝撃が走る。肺の中の空気が短く吐き出された。
 背中から感じ取れる無機物の山、その無骨な凸凹。カナメの耳にはあちこちで痛みと嘆き
を吐き出すように叫び、その場でうずくまる人々の声や存在が届いていた。視界には自分達
が落ちて来た衝撃で舞い上がった粉塵でいっぱいになり、ただでさえ茫洋としたこの場を更
に途方もなくさせている。
「……」
 しかし襲った痛みこそあれ、カナメはその場から動くことはなかった。動けなかったので
はない、動こうとしなかったのだ。
 解っている。此処に捨てられた事の意味、運送船に詰め込まれる旨を言い渡された宣告。
自分は──もう彼らに“要らない”と切り捨てられたのだから。
 じんじんと身体を這っていく痛み。骨の一本や二本、折れているだろうか? それにさっ
きから妙に温かくて力が抜けていく部分がある。
 でも今更文句を言った所で誰も聞いてくれやしない。実際、自分達を捨てに来た運送船は
既にそのプロペラを激しく回転させて上昇、さっさとこの場を飛び去ろうとしている。
 風に煽られた。何者かも分からない者達のボロ切れが揺れ、一つまた一つとガラクタの山
から原形も定かでない残骸が転がり落ちていく。
 運送船の音がすっかり遠くなっていった。辺りに、さも当たり前のような冷え冷えとした
物静かさが戻ってくるかのようだ。
 ……嗚呼、本当に自分は世の中から消されたんだな。
 改めて身に沁みて辛いようで、だけども確かに諦観──安堵すら覚えている自分。
 消えてしまおう。
 文字通り、このガラクタの山の中に埋もれて、融けて無くなってしまえば──。
「皆、こっちだ!」
「おいおい。また増えたなあ……」
「感心してる場合じゃないぞ。さっさと探せ。何人いるかは分からんが」
 だが、意識が重い倦怠感と共に沈んでいくその最中。
 カナメは遠く下の方からやって来る者達の声を聞いていた。


「──お。目が覚めたようだな」
 何故まだ生きている?
 最初意識を取り戻した時、カナメが先ず思ったのはそんな疑問だった。
 開けるのも億劫な目を開いてみると、薄汚れた衣を着た老若男女が幾人、間近なり遠巻き
になり自分を覗き込んでいる。身体中に包帯を巻かれ、粗末だがベッドの上に乗せられてい
る状況からするに、どうやら彼らに介抱されていたらしい。
「よかった。君を含めて、今回の生存者は十人といなかったからね」
 特に線の細い、眼鏡をかけた青年は自分のすぐ傍に座っていた。言いながらそう僅かに苦
笑いを零し、赤の他人に安堵の息をついている。
「先ずは初めましてかな。僕はキリュウ。小さいがこのグループのリーダーをしている」
 何でも彼曰く、彼らは不定期にやって来る運送船を見つけてはガラクタの山々へ急ぎ、捨
てられた人々を助けているのだそうだ。
 随分とお人好しなんだな……。カナメは半分自嘲も込めて哂った。
 自分とて知らなかった訳じゃない。
 此処は《廃棄街》。
 世界中の要らなくなったヒトやモノが、誰に咎められる事なく捨てられていく場所──。
「そうだ。僕らは皆、世の中に不都合と断じられて此処に放り投げられた。理由は皆それぞ
れだが、こんな理不尽な事はないよ。……辛かったろう?」
 ……だから自分を助けたのか? カナメは一応訊いてみた。
 どちらにせよ、このキリュウという青年は変わっていると思う。此処に捨てられると宣告
された時点で、気力も何かも全部奪われるものだとばかり思っていたからだ。
「半分はそうだね。善意と、もう半分は僕自身の目的だ」
 眼鏡のブリッジを軽く触り、彼は言った。
 少なくともただのお人好し──ではなさそうだった。心なしか周りの彼の仲間達も真剣な
面持ちになっている気がする。
 キシッ。元はガラクタだったであろう丸椅子に座り直し、キリュウは思い切ったように、
否さも予定通りであったかのように打ち明ける。
「君は外から来たばかりで知らないだろうと思うけど、此処にも人々がいて、日々の営みが
存在するんだ。尤も外みたいにちゃんとした秩序もなければ法もない。ガラクタの山から使
えそうなものを引っ張り出して来たり、時には外の連中から堅気じゃ出来ないような仕事を
受けたり……。喧嘩なんて日常茶飯事さ。そもそも此処は世の中から追い出された者ばかり
が集まっている訳だしね」
 肩を竦めて一度言葉を切るキリュウ。だが見るに、彼自身はそう話すこの街の人間のよう
な荒々しさとは無縁のように思える。所謂インテリという印象だ。
「よく言われるよ。まぁ、でもそれだけじゃ世間様は渡っていけないって事だね」
 至極淡々と、だがその反応に反比例してきっとその経緯は重く。
 キリュウは続ける。外から騒々しいやり取りが聞こえた。あれも誰かの茶飯事(けんか)
なのだろう。
「話を戻そうか。だけどもね、僕らは別に世の中への復讐とか復帰をする心算はないんだ。
そもそも向こうが切って捨てたんだ。一度僕らに押した烙印をそう簡単に取り消すとは到底
思えない。それよりも──此処での秩序だよ」
 まだ傷は痛むが、ベッドから気持ち身体を起こした。キリュウが真っ直ぐに自分を見据え
て言葉を切り、数拍外の喧嘩の声がはっきりになる。
「さっきも言ったように、この街はまさに無法地帯だ。暴力が蔓延り、幾つものグループが
毎日のように争いを繰り広げている。一応街のリーダーとして年季の入った長老衆がいるけ
れど……はっきり言って何の抑止力にもなっていやしない。むしろ食料補給の多くを握って
いる分、自分達の保身にばかり現を抜かす役立たずどもさ」
「……」
 カナメは無言のまま眉に皺を寄せていた。
 だがそれは、キリュウの話すこの街の腐敗に嫌悪感を示したからではない。もっと今この
場の、その腐敗に対して持論を展開する彼そのものに向けてだ。
「僕らは長老衆に取って代わる。だが暴力で覇権をだなんて発想、野蛮さ。他の連中はまる
で解っちゃいない、無意味だ。必要なのは秩序だよ。もっと民主的に皆をまとめる仕組みを
作らなければ、抗争に明け暮れるこの状況は全く変わらない」
 そこでだ──。彼は言って、すっくと立ち上がった。
 心持ち、彼の仲間達も集まって来ている。外の喧嘩は……何処かに場所を移したのか気付
けば耳に遠くなっていた。
「僕らは地盤造りを進めている。人なら、外から今もやって来る。そんな君達をあの抗争に
巻き込まない為にも、こうして逸早く駆けつけて“回収(せっしょく)”しては一緒に活動
してくれないか頼んでいるんだ。どれだけ暴力を振るっても、長老衆が一応のリーダーでも
数の多さには勝てないからね。どうだろう? ここで会ったのも何かの縁、僕らと一緒に来
ないか?」
 そして、差し伸べてくる手。そこには間違いなく彼らの期待と様子見の眼差しがあった。
「……」
 だがカナメはすぐにその手を取り返す事はしなかった。その時はあくまで急な話で困ると
だけ伝え、そして手当てしてくれた礼も言おうと──して止めた。キリュウ自身が白状した
ように、見も知らぬ自分にそこまでしたのは、要するに自分を陣営に引き込む勧誘の一環に
過ぎないと思い直したからだ。
「そうか……。まぁいい、今は養生が先だもんな。返事ならその後でもいいだろう。……傷
が癒えるまでゆっくりしていくといい」
 そう言って微笑むキリュウ。
 だがカナメは、この時既に答えを持っていた。
 こんな捨てられたセカイに落ちてまで権力闘争だなんて……馬鹿馬鹿しい。無意味なのは
どちらだ。そもそもそんなエネルギー、自分にはもう残っていなかった。

 恩を仇で? いや、頼みもしないのに売って来たのは向こうだ。
 そして怪我も随分マシになった頃、カナメは夜中にこっそり、一人キリュウ達グループの
アジトを後にしたのだった。


 廃棄街は、確かに秩序というワードとは対極にある場所といっていいだろう。
 形容するならばスラム街。ガラクタばかりが山積みにされた中、点々と粗末なあばら屋が
建ち並ぶ。
 なので厳密には、街ですらないのかもしれない。キリュウ達の下で療養していた時にも聞
こえていた、気性の荒い男達の喧嘩がさも風景の一部であるかのようにあちこちで当たり前
のように繰り広げられている。
「……」
 カナメは、時折見つける配給で食い繋ぎながら、ぼうっとこの廃棄された筈のヒトやモノ
が此処でも尚営みを──酷く猥雑で無秩序だが──続けている事に正直驚きしきりだった。
実際道端で物乞いのようにぐったりと座り込んでいる者達も少なくないが、それでも同じ位
生きてやろうと荒々しく足掻く者達の存在に、カナメは言い表せない空虚さを覚える。
「くぅ……! 畜生、また負けた……」
「ははっ。俺を潰そう何て百年早ぇんだよ。失せな!」
 そんな中で、また一つ決着のついた大きめの喧嘩があったようだ。
 頭数は劣っていた、しかし個々の力で相手のそれを散々に打ち負かしたとあるグループが
敗走していく彼らを鼻で笑いながら道のど真ん中に立つ。
「ったく。張り合いのねぇ」
「な、ナガノさん」
「それよりも、いいんスか? 今日の分、だいぶ遅れそうですけど」
「ん? ああそうだな。急ぐか。行くぜ野郎ども!」
 ういっス! 二・三そんなやり取りを交わして、一行の頭目──ナガノと呼ばれた大柄の
男を中心としたこの一団が通り過ぎていく。カナメも周りの皆に合わせ、それとなく道端に
身を潜めてこれを避けると、暫しこの騒々しい彼らの背を眺めて立ちぼうけた。
「まーた、ナガノん所か」
「最近また力を増したな。この辺の勢力図も変わってくるんじゃねぇか?」
「どうだろうな。確かにあいつは腕っ節強いけど、馬鹿だし」
「……?」
 だからこそ、そう道向こうの軒下で話していたボロ切れの男達の話がふと、一際耳に届い
てきた。何も行く当てもない、目的もない。ただ流されるように、カナメの意識は自然と彼
らの雑談に向く。
「ああ、例の山掘りか。もしかしてまだやってんの? あれって」
「みたいだぜ? 一昨日も見たよ。あいつら、相変わらずガラクタの山を崩しては除けて、
道を作ってたよ。出れる訳ねぇのに」
「ホントだよ。廃棄街(ここ)の広さ、分かってんのかねぇ……? まぁ俺も実際あのゴミ
の山の向こうがどうなってるか知らねぇけどさ」
 目を瞬く。
 どうやらあのナガノという男のグループは、抗争以外にも妙な活動しているらしい。
 すっかり寂れた風に戻った道を渡り、カナメはその話を詳しく訊いてみる事にした。
 そもそも自分はあそこで融けて消えてしまう筈だった。戻る道を、把握しておいてもいい
だろう。
「妙な事訊くなあ、あんたも。ま、いいけどさ」
「仮に外まで貫通した所で、もう外(あっち)に俺達の居場所なんてねぇのによ」

 雑多で区画の概念もない廃棄街の中を、ひたすら進む。
 だが少なくとも目指す場所には近付いていた。自然と人々──この街に捨てられた人々は
あのガタクタの山々からは離れた場所に居を構えている傾向にある。
 最初落っこちて来た時には気付かなかったが、ガタクタの山々は想像していた以上に巨大
で且つ膨大だった。
 見上げるほど、人一人など簡単に埋もれて出られなくなるほどの圧倒的物量。長い歳月を
かけて世界が捨ててきたモノ。
 使えそうなガタクタを物色する者達を除いてはすっかり人気のなくなった場所で、カナメ
はぼうっと当てもなく歩いていた。最初自分が埋もれる筈だった山は、あるだろうか。
『いっせーのーせー!』
 そうしていると……いた。先刻の荒くれ達、ナガノのグループの面々が錆びたシャベルや
整地用具(トンボ)を手にガラクタの山を掘り進め、汗を流していたのである。
 確かに道だった。ずらりと並ぶガラクタの山の一角──おそらく彼らが外に近いルートと
踏んでいる一直線上にあるそれが面々によってパワフルに除去の対象とされ、抉られ真っ二
つにされたようになっている。
「ナガノさん、ちょっとこれ、重過ぎます……」
「分かってらあ。だがこいつを除けねぇと外に続かねぇだろ。もういっぺん行くぞ、おめぇ
ら気合い入れろ!」
 ウェーイ! ナガノを含めた男達が、一纏まりになって大きな廃トラックを押している。
そうだ細かい鉄屑はまだいい。問題はああいう大型のゴミなのだ。
 暫くカナメは、遠巻きにそれを見ていた。他の、ガラクタ漁りの面々も時折ナガノらの様
子を見遣っていたが、こちらはより明確な冷笑が見て取れる。
 二度、三度。それでもやがてナガノ達は廃トラックを掘り進む直線上から押し遣った。汗
を玉のように流し、一旦大きく肩で息をしながらその場に倒れ込む。
「ひ~……、流石にきっついな。一旦休憩すっぞ~……」
「りょ、了解ッス~」
「そりゃあ、勿論……」
「……」
 先の軒下の住人らの話では、彼らは以前から外の世界を目指して暇を見つけてはああして
ガラクタの山を崩して進んでいるという。
 カナメは哀しくなった。何故そこまで外の世界に戻ろうとするのだろう?
 彼らの話していた通りだ。自分達は“廃棄”されたのだ。もう帰る場所なんて無い。そも
そもこの廃棄街が、一体世界の中の何処でどれだけの広さを持っているのか……?
「──ん?」
 そんな時だった。ふと呼吸を整えていたナガノ達、カナメや漁りに来ていた者達に大きく
影が差した。
 何気なくつられて空を仰ぐ。そして……こと前者は絶望すらする。
 運送船が降りて来たのだった。すんぐりむっくりの期待に大小幾つものプロペラ。その底
からゆっくりとハッチが開き、だばっとまた新しい“廃棄物”が零れ落ちてくる。
「やべっ!!」
 下に人がいようと関係ない。どうせ捨てたゴミなのだから。そういう事か。
 次の瞬間、ナガノ達のいた場所にも無数のヒトやモノが落ちて来た。慌てて彼らは寸での
所でこれを駆け出してかわす。
『……』
 だけどもそれらは確かに棄てられた。こちらの存在など一顧だにせず、淡々と仕事を終え
て飛び去っていく運送船。その眼下には、ナガノ達のこの日の頑張りが文字通り物理的に埋
められた光景が広がっている。
「また、かよ……」
 埃まみれになりながら、ナガノが呟いた。彼の仲間達も少なからず肩を落としている。

 無情。
 されど、同じく廃棄の余波で汚れたカナメは、フッと口元に孤を描いてすらいた。


「全く……どいつもこいつも。君も災難だったね?」
 廃棄街はかくして暴力と無秩序に満ち溢れた街であり続ける。
 気のせいか、先日見たガラクタ山の一件から、街中での喧嘩がいつにも増して激しくなっ
ているように思う。
 事実、喧嘩に巻き込まれて少々怪我をしてしまった。今カナメは相変わらず拳で語り合う
男達から遠巻きに避難し、手当てや食料の補給をしてくれるとあるあばら屋に来ている。
 擦りむいたカナメの肘に赤チンを塗りながら、その女性は嘆いた。
 彼女はスグリという。この街では少数派の、女性でありながらグループリーダーを務めて
いる人物だそうだ。気のせいかメンバーも女性が多く、何となく居た堪れない。
「何でもここ暫くナガノの機嫌が悪いそうで。喧嘩も増えてます」
「あ~……あいつかあ。ただでさえ敵対関係が多い連中なのに……」
「オサダ、テシハラ、ジョウノウチ、フジ辺りが一番激しいですね。あとキリュウも見逃せ
ません。まだ確認中ですが、この状況を利用してナガノを潰させようと長老衆に掛け合って
いるとか何とか」
 だからその名前が出た時、カナメは思わずビクッと身体を強張らせた。
 キリュウ。以前自分を介抱してくれた──代わりに部下になれと言ってきた男。相変わら
ずこすい闘い方をしているのか……。
「? どうしたの? 随分と渋い顔してるけど。薬、沁みる?」
 そんな経緯を知る由もないスグリに、カナメは慌てて笑顔を繕った。普段から慣れぬもの
であるから酷くぎこちない。
 しかし彼女はそれ以上深くは追求してこなかった。手当てが終わる。元々簡単なものだ。
そっと布を敷いたテーブルの上から腕を除けると、彼女は何処か物寂しい様子で道具をしま
いながらごちる。
「……この街のって時点で無理難題とは分かってはいるんだけど、悔しいわね。何でもっと
仲良く出来ないのかしら? こうして生きている以上、私達は暮らしていかなきゃいけない
のに。インフラも何も無い分、もっと協力して生きるべきなのに」
「……」
 それは別段、自分に向けられた不平不満ではなかったのだろう。むしろ至って真っ当な感
覚ですらある。
 思う。他人と折り合えない不出来さと、他人と争いたくない心情は必ずしも矛盾はしない
筈なのだ。
 下手なのだと思う。ただ理想が高過ぎて、曲げられなくて。或いは世間と名乗る他者達と
は違うセカイをいつも視てしまっていて……。
 他人を壊す(ぼうりょくをふるう)不適合者も自分を壊す(なげきまもうする)不適合者
も、きっと皆両方を併せ持っている。外見上どちらが顕著であるかの違いだけなのだ。
 だから世界は、自分達を分け隔てなく棄てざるを得なくなったのではないか?
 一方では物理的に害を、一方では集団という精神に害を。時に両者の性質は行ったり来た
りを繰り返す事だってあるかもしれない。
 とにかくポンコツだった。
 とにかく自分本位だった。
 だからスグリさん。貴方は一つ勘違いをしていると自分は思う。
「……」
「? あら、もういいの?」
 去り際。
 応える代わりに言葉少なく小さなお辞儀を。

 この世界はそういう“リスクになる人間”も棄てる選択をしたのだ。
 だから、そもそも自分達は──。


「──」
 カナメは戻って来ていた。廃棄街の象徴でもあり、自身の始まりでもあるガラクタの山。
そこにカナメは独りよじ登り、ぼうっと空を仰ぐ日々を送り始めたのだった。
 時折ガラクタを漁りに来る者達が怪訝にこちらを見遣る。或いは気持ちを持ち直したのか
ナガノ達がまた、外を目指してガラクタの山を掘り進めている日もあった。

 此処に棄てられてから、幾つかのグループ──広義には同じ境遇の者達に出会った。
 この街の無秩序に失望しながらも、それを実現しようとしたキリュウ達。
 この街で抗争を繰り広げながらも、外に戻る夢を、欲望を忘れなかったナガノ達。
 この街に落された事を嘆くよりも、目の前の闘争が止んで欲しいと願ったスグリ達。
 だけど……カナメは結局そのどれにも与する事が出来なかった。
 暴力に身を任せて赴くままに狂う事も出来ず、かといって理想を抱きかかえたまま嘆きを
重ね、静かに狂う事も出来ない。
 何をやらせてもポンコツだった。どうにも言動が自分本位であり続けた。
 もし多少出来るヒトであれば、まだ許容されていたのかもしれないが……あの日突きつけ
られた宣告が、遅過ぎる事を知らしめた。あの時既に、自分は決定的に彼らのような、この
街でもがく者達とも違ってしまっていたのだ。
(……来た)
 そして、頭上から影が差す。何時ぞやかに訪れたあの運送船である。
 それでもカナメはその場から動かなかった。ガラクタの山の頂に座り込み、ただその時を
受け入れるようにして、ぼうっと虚ろな眼で天を仰いでいる。
(これで、いい……)
 そんな様子に、流石の漁り人らも遠巻きに慌て始めていた。
「お、おーい!」
「お前、何やってんだ!?」
「逃げろっ! 潰されるぞーッ!」
「……」
 だがカナメは動かない。聞く耳を持たずに、じっとその場に座り続けていた。
 運送船底のハッチが開く。だばっと新しい“ゴミ”が、カナメに向かって降ってくる。

“群れから要らないと放り出された人間が、何でまた群れなきゃいけないんだ──”

 轟。
 次の瞬間、大量のガラクタがカナメを呑み込み、押し潰した。
                                      (了)

スポンサーサイト
  1. 2015/02/08(日) 18:00:00|
  2. 週刊三題
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-Ⅴ〔60〕 | ホーム | (企画)週刊三題「マス・プレッシャ」>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://higurasisouann.blog27.fc2.com/tb.php/555-98462647
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
します。

訪問者累計

最新記事

最新発言

検索窓

月別履歴

09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -

分類/索引

【案内板】 (2)
【小説:短編】 (20)
本の蟲 (1)
硝子野不動産店 (1)
夏の日の幻影 (1)
四番線の彼女 (1)
夢視の宿 (1)
線を曳く町 (1)
炬燵の神様 (1)
三者三盗噺 (1)
色眼鏡 (1)
奴らは攻城戦師 (1)
詰め替える (1)
同じ籠の狢 (1)
二十年後の遺言 (1)
轍の先 (1)
水に流せば (1)
真夜中の御二柱 (1)
いつか見た夢 (1)
神様達の初詣 (1)
白い花束 (1)
丸の代償 (1)
【小説:長編】 (150)
Amethyst League (6)
アンティーク・ノート (3)
ユウキのヒカリ (5)
NIGHT GUNNERS (5)
レディ・ルーン-Bonds of RU'MEL- (6)
ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- (88)
死に損いのデッドレス (5)
Dear SORCERY (4)
サハラ・セレクタブル (28)
【企画処】 (344)
週刊三題 (334)
その他参加物 (10)
【資料庫】 (15)
【落書帳】 (6)
【詩歌帳】 (6)
【雑記帳】 (323)
【読書棚】 (30)
【遊戯倉】 (24)
path. (4)
decide: (3)
ユー録FW (16)

記事録

交友関係

このブログをリンクに追加する

(RSSリンク)

(QRコード)

QR

@long_month からのツイート