日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「マス・プレッシャ」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:音楽、テレビ、憂鬱】


 少年達がいる。少女達がいる。
 彼らが生まれた時、セカイは既に大量の声(おと)で満ち溢れていた。

 街の至る所にそれはある。部屋に入れば、ややもすれば五分五分であるかもしれない。
 無数の色彩を組み合わせて像を作る金属の箱だった。
 始めこそ大きく太く、背に幾つもの管をぶら下げていたが、それも時代を経るごとに広く
細く──箱ではなく板に近くなっていく。
 日夜多くのものが映し出された。喧しく訴えて(つたえて)くる。

 今、世界ではこんな事が起こっている。
 今、この国ではこんな物が流行っている。
 今、世間ではこんな商品(もの)が生み出されている。

 皆必死だった。管を繋げたその箱の前に老若男女、人々を縛りつけ、刷り込ませる。

 世界ではあんな事が起こっている。物騒だな、けしからん。
 この国ではあんな物が流行っている。彼も彼女も体験したらしい。自分も続かなければ。
 世間ではあんな商品(もの)が出回っている。こんなにお勧めされている。買おうかな?

 必要なのかどうか、ではない。持っているからこそ他人と通じ合えた。知っていなければ
通じ合う切欠をふいにしてしまうのだ。
 だから、従う。
 皆がこの箱から流れてくる商品(もの)達をその財と交換していった。機を見て次々と。
持てない者も中にはいたが、それはそれで秩序が出来上がっていた。自慢する者と羨ましさ
で見上げる者。誰がそうしろと強いた訳でもないのに、その段々に乗っかることが何よりも
幸せで──“当たり前”だと皆は言う。

 だけど、あぶれる者達がいた。あの頃だって、きっといた筈だ。
 ただあの頃は、いてもいないものとして扱われた。繋がっている者達“だけ”がこの世界
そのものであった。
 従わない──否、立ち止まる者。疑問を持ってしまった者。
 少年は、皆とは違う「好き」を持っていた。少女は、群れを作っては云う皆の「絆」とや
らに至上の価値を見出さなかった。
 少年は、幼いながらに違和感を覚えていた。常に「友達」を作り、群れ、休日には一緒に
なって“遊ばないといけない”という母の言葉に何処かで不審を覚えていた。少女もまた、
皆の云う「友情」が隠すものに気付き始めていた。
 ……繋がっているけど、繋がっていない。あれは“空っぽ”だ。
 そう何処かで気付いてしまった、決めてしまった子供達は、自ずと辛く厳しい道のりを選
ぶことになる。

 同じではないこと。違っていること。
 賛成してくれないこと。味方ではないこと。
 何より「皆」が持っているものを、ないし持っていないものを、持たなかったり持ったり
していること。
 ──人という字は、互いに支えあっている姿をしている。
 ──穴の空いた靴下は、他がどれだけ繋がっていても駄目になる。
 彼らは散々に責めるのだ。どうして此方に来ないのかと、どうして“勝手”なことをする
のかと。
 果たしてそれらは彼ら互いの「溝」を埋めようとしたものだったのだろうか? 少なくと
も多くの結末はその問いには否と言い続けている。
 信じたかった。というより、自分達“以外”があるという状態(じじつ)自体が信じられ
なかった。認めたくなかったのだ。彼らは改めて引き入れようとした。もう一度チャンスを
与えてやると言わんばかりに。勿論、それに彼ら自らが気付くことなく。
 故に少年は、少女は、少なからずが拒んだ。拒み切れず取り込まれていった子らも、その
胸奥には言い知れぬ敗北感ばかりが残った。
 嗚呼、やはり違う。
 大事なものは枠組みで、もしくは一個の精神で。
 それは多くの彼らが語る「絆」のようだった。一個の精神を、さも掌握する。箱の向こう
から流れてくる事件に、流行りに、欲望に従順であるべきと云う。
 あの事件には○○と憤れ、あの流行りには△△と賞賛せよ、あの欲望には××と小馬鹿に
しながらも、精々利用し合っていればよい──。
 一個の精神が悲鳴を上げる。その声(おと)を、彼らは秩序や健全という重石によって塞
ぐことを恐れない。むしろその恐れこそ、この足元に在って討伐された(ただされた)もの
なのだと信じる。
 そう、繰り返し繰り返し「教えられて」いく。
 歳月が、只々皆々の間に通り過ぎていく……。

 子供達はどんな姿になっただろうか?
 ある者は、すっかり慣れてしまっただろう。かつて彼を引き込んだ多くのそれと共に、今
日も流される(つくられる)世界の中で生きている。
 またある者は、慣れることができなかっただろう。違和感の正体に何かしらの判断を、見
切りをつけ、茨の道を進む覚悟で歩んでいく。或いはその途上で多くの「皆」の中に戻って
いったかもしれない。……それは非常に難しいことだが。
 幼き日々、少し大人びて、やがて成熟の前後に至る。
 されど彼らの多くは脱落していった。目に見える・見えざるを問わず、その身に“烙印”
を背負った故に墜ちていく。
 詰られた。搾取された。ただ其処にいるだけで疎まれ、理不尽に拳を振り上げられた。
 誰も助けてはくれなかった。気付いても、見て見ぬふりをした。この少年へと己が軸を傾
けたが最後、その子もまた“無い”ものとして扱われる。絆とは誰かと結ぶことであり、同
時に誰かと結ばないことでもある。
 この時点で病んだ者もいた。閉じ篭ってしまった者もいた。もしかしたら思わぬ切欠で暗
がりに穴が空き、飛び出していく改変者もいただろう。
 ……だがその変質は、多くの場合「敵」と「味方」を入れ替え組み替えしただけの筈だ。
 その者はきっとこう云われるだろう。素晴らしい才能だと。──そして寝返り者だと。

 零れ落ちる。
 されど彼らを優しく包み受けるものはそう多くはなく、仮に巡り合えたとしても彼らは単
なる運の良さであるとしか思わない。
 慰められた。慰み合った。しかし何時の間にか背負った“烙印”はおそらく消えることは
ない。こと自らの意思で違うと決めた者にとっては、そうした僥倖は即ち罪の意識である。
(五月蝿い)
 いつの間にか彼は、耳を塞ぐようになった。
 幼子から少年、青年へと。それでもあの金属の箱(板)は謳い続ける。
 世界を伝えてくる。その多くは彼には直接関係のないものだ。しかし向こう側はこのよう
に思え、さぁ憤れと誘ってくる。
 流行りを布教する。その全てが彼ではない誰かが仕組んだものだ。しかし向こう側はまだ
そうではない(かもしれない)時分から、密かなブームなどと云って憚らない。
 欲望をもぎ取りたがる。その多くは彼が自ずと必要としてはいないものだ。しかし向こう
側は繰り返し繰り返し喧伝し、有用であると叫び、或いは流行りと結び付けて紐を緩めよう
とする。
(五月蝿い)
 だから彼は、耳を塞ぐようになった。箱から遠ざけ、或いは散々に打ち壊した。
 知りたい事なら自分の手で見つけ出す。誰かの思惑に乗せられたまま血肉になんてしたく
ない。たとえそれが結局他の誰かが打ち出す信号でも、己が「疑う」力を信じていた。否、
それ以外にもう拠り所にするものが無かった、とも言えた。
 職に就こうとしたが上手く行かない。あの日違(たが)ってしまった他人との溝は、もう
どうしようもない程に埋まらなくなって久しい。
 いや……こちらが埋めないのか? だが彼らに折れたくはない。さも今までの人生を、自
ら無意味だったと白旗を揚げるような気がして。
(俺は、間違ってない)
 巡る思考は、己への猜疑心は少しずつ錆び付いていった。少なくとも彼は、半ば無意識的
に己をそうする事で自分を──これまで積み上げてきた(ちっぽけな)自分を、何とか守り
続けていられたからである。

 さて……。彼(或いは彼女かもしれない)という人間は、何も一人ではなかった筈だ。今
もこの世界を探せばきっと、同じように潜んでいるかもしれない。否、潜んでいると断言し
ていいだろう。
 少なくともこの彼は、溺れた。理想(はんこつ)と現実を斜に構えて哂う営みが彼を支え
ていた。それは同時に彼を益々与せぬ者にしていったが……とうの昔にレールのスイッチは
切り替わってしまっていたのだろう。気付き、差し伸べられる手が無ければ、それは必然で
あるとも言えた。
 見も知らぬ相手に、反駁する。
 見も知らぬ誰かに、吐露する。
 しかし彼がそうであるように、少なからず何処かで似通った彼らは求めるばかりで誠に与
えるという発想、能力には乏しい。
 故に不足した。これだけ訴えても望んでも、返って来ぬことに彼はしばしば憤るようにな
っていった。故にその青白い光を浴びながらの反駁は、より一層鋭利さを帯びていく。
 彼は思った。何度となく蘇らせていただろう。
 何処で間違ったのか? 誰が間違わせたのか?
 否……自覚して(しって)いた筈だ。しかし認めてしまってはもう自分が自分では無くな
るのは明らかだった。
 何処で? 違和感を覚えたあの時。多くの“大人”達に囲まれた幼きものらの「絆」に、
高い価値を認められなかった時。それが始まり。
 誰が? その違和感──失望を深めさせる折々の悪童どもか。否、自分だ。どんなに一個
の精神が泣いても、自分はあの頃の何処か、成る丈早い内に「皆」の中に馴染んでいれば好
かったのだ。
 尤も、おそらくそうしてもじわじわと内から侵されたろう。だがそれが次善ではあった。
一度“舗装された”道を外れても、喰らい付き、もがきながら生きる。きっとそれが今も昔
も崇高なものとして輝かせ続けた「普通」なのだと思う。
 ……嗚呼。彼はキーボードを叩く。だが今ある眼前の輝きは白く明るくはない、暗く時に
青くもある光だ。
 たたんと。眼鏡越しに画面に目を凝らす。畜生、また俺に楯突く野郎が現れた……。
 彼はキーボードを叩く。反駁に反駁を返す。
 往々にして実りなき舌戦、争いと形容されて消費されるばかりとなった世界中の不毛。
 ちりちりと、その数え切れない程の繰り返しが、やがて彼という名の或る一人を確実に追
い遣り、自縛させ──その精神観念上、文字通り『自爆』させるのだ。


 この世界に、また一つ“事件”が起きる。
 それは幾つもの高慢と不運、そして歪んだ想いが重なり合って生まれるものだ。
 その日、とある繁華街が恐怖と絶望に包まれた。突如として現れた青年が、レンタカーで
人ごみに突っ込んだ挙句、何本もの刃物を用いて居合わせた人々を次々と惨殺していったの
である。
 一体何十人の犠牲者が出たのだろう。何百人何千人の心に影を落としたのだろう。
 この青年は程なくして駆けつけた警官達によって取り押さえられた。その時血みどろにな
っていた彼は、螺子が外れたように哂いながらこの世への憎しみを叫び続けたという。

 国家権力、ひいては社会秩序は彼を排除すると決めた。二度と世間には戻さない、その命
で以って償わせるとした。後顧の憂いを絶つとした。
 それでも、惨劇の事実は変わらない。失われた命があれば、損われた心もある。何よりも
あの青年は“何”だったのだろうと、長く人々の語り種となって──擁護してはならないと
「良識」達が釘を刺しつつも、刺すが故に──燻り続けた。

『最近の若者は恐ろしい。一体何処であのような凶悪性を身につけたのか』
『他人を巻き込んで死ぬなど言語道断。わざわざ国が死刑に処すことすら生温い』
『もっと浄化しなければ。更なる健全な社会を実現すべく、教育を強化すべきだろう』

 かくしてされど。
 大人達(ひと)は再び箱を通じ、明後日(あした)を語る。
                                      (了)

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  1. 2015/02/04(水) 00:00:00|
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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