日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「悪人装置」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:恐怖、天使、悪魔】


 ある時代(とき)、ある国で。
 一人の科学者が一つの発明をしました。
 彼の名は座間博士。新進気鋭の若き脳科学(神経科学)者です。
 それはヘルメットの形をした、鈍色の装置でした。メタリックな網目に幾つもの配線が繋
がっており、ちょうどおでこの部分には大きな一つ目を模した文様が施されています。

“罪業走査装置(サーチャー)”

 博士は、この装置をそう呼びました。始め、彼の発明披露に招待された同じ研究所の関係
者たちは皆、その奇抜なフォルムを随分と訝しんでいたといいます。
 それでも博士は、持ち前の朗らかな笑みで彼らに促します。
 さあ、どなたかこれを頭に着けてみてください──。彼らは思わずお互いの顔を見合わせ
ていました。
 それでもやがて、一人の男性研究員がこれを装着する事になります。彼は内心、この博士
の研究を哂っていた、別な研究室(ラボ)を仕切る壮年博士の助手でした。
「……それで? これで何が分かるというんだ?」
 彼は言います。座間博士──この若き研究者を哂い捨てる意思が篭った言葉でした。装置
を被る直前、彼はこの助手に「上手くこいつの研究とやらを失敗させてやれ」と密かに耳打
ちしていたのです。
 それでも座間博士は静かに微笑んでいました。
 すぐに判りますよ──。鈍色のヘルメットに張り巡らされた配線群は、その後ろのデスク
で広げて動かしている彼のノートPCへと接続されています。
「……鹿取先生」
 ヘッドホンを付けたまま、彼は言いました。
「貴方は研究費を不正受給していますね?」
 その刹那、その壮年博士──鹿取の表情が強張りました。
「いきなり何を言っている。失礼だぞ、君」
 そして眉間に刻まれる深い皺と、浮き立つ血管。場の面々がにわかに色めき立ち、装置を
被された若い助手はそんな彼らの第一声に明らかに青褪めています。
「観えているんですよ。全部」
 座間博士(かれ)は言いました。言って、それまで自分が見ていたノートPCを彼らにも
見えるように向け直します。
 彼らが、鹿取本人が驚愕し、そして青褪めていました。
 ヘッドホンを外され聞こえ始めた音声。その映像は紛れもなく、鹿取(かれ)のラボにて
不正が行われている、まさにその現場と決定的なやり取りの瞬間だったからです。
 鹿取は戦慄いていました。ギロリと助手を──涙目になったこの使えぬ部下を睨み付けて
いました。
「この装置はですね。映し出すのです。装着者が持つ強い“記憶”を分析し、こうして映像
として再現する事が出来る」
 座間博士は言いました。そんな馬鹿な事が……。鹿取はゆっくりと首を横に振って呟きま
した。ですが映し出される映像は多少砂嵐(ノイズ)が混じっているものの、明らかです。
 少なくとも隠しカメラから撮った──事前の映像、ではありませんでした。
 彼が語る通り、それは一人称な映像だったのです。
 おそらくは今この装置を被っている本人、助手から見た、鹿取の一挙手一投足の姿だった
のですから。
「……上々ですね。これは僕の予想以上に効果覿面(てきめん)なようだ」
 そしてこのお披露目──もとい運用実験から数日後、鹿取とその取り巻きは研究費の不正
を詳しく調査・告発される事となり、その職を追われることになったのです。


 この発明に逸早く飛びついたのは時の権力、警察機構でした。
 曰く、この装置を使えば暴かれぬ裁き切れぬ犯罪を一網打尽にする事が出来る──彼らは
“サーチャー”の情報を聞きつけると、座間博士の下に足を運びます。
「ええ。元よりその為に開発したと言っても過言ではありません。是非協力させて下さい」
 座間博士(かれ)は快諾し、装置の説明と資金援助を求めました。警察及び政府は流石に
すぐその場でとはいかなかったものの、試験的に数台を配備する旨の約束を交わします。
 はたしてその効果は覿面でした。博士協力の下“サーチャー”は次々に世の難事件を解決
に導いたのです。
 ある時は連続強盗事件の犯人を、被害者の記憶から呼び起こして特定し。
 ある時は世を騒がせた一家殺人事件犯を、近所で飼われている犬の記憶から追い詰め。
 またある時は夫をひき逃げされた悲劇の妻が、実は保険金目的で彼を、金で雇った男に殺
させたことも明らかにしました。
 人々はその度に、高らかに拍手喝采しました。
 世に蔓延る“悪”が、これで根絶やしにされる。そう信じて疑わなかったのです。

 ……ですが警察は、政府は更にこの大いなる発明を活用する仕組みを作りました。
 潜在犯罪摘発法──通称・悪人法。これにより国中の人々が、定期的に“サーチャー”を
被る義務を負わされました。
 もし拒否すれば、その者に何かしら都合の悪い“罪”があるのだと仮定されます。
 政府(かれら)は言います。もし後ろめたい事があっても、それが法律に抵触するもので
なければ、罪に問われる事はない──。
 それでも、多くの人間がこの新たな法によって枷を嵌められていきました。ひた隠しにし
てきたその罪が、白日の下に晒される事となったからです。
 一見、仲睦まじいとある夫婦が崩壊しました。実は彼らは互いに不倫相手がいたのです。
 強豪で有名なとある高校野球の監督が追放に追い込まれました。数々の栄光の裏で、実は
選手らによる暴力的な指導が日常化していたのです。
 慈愛に溢れた、とある社会活動家が逮捕されました。彼女は多くの困窮した人々に住む家
や服、食事を提供していましたが、彼らが稼いできた金の半分以上をピンハネし、加えて支
援者らから送られた資金もその多くを私的に流用していたのです。
 特に政治家や官僚達は悲惨でした。彼らもまた“サーチャー”によって秘密裏の悪事を暴
かれてしまい、一人また一人とその職を追われるという事態が続いたのです。

 次第に、人々は畏れるようになりました。“サーチャー”と、その使用を強制する法に。
 悪とはあらゆる人間にあったのです。その大小・多寡を問わなければ、全くの「白」な者
などこの世にはいなかったのです。
 しかし“サーチャー”は機械です。そんな白と黒のアンビバレントを、彼は情の一つすら
なく見つけ出します。暴いてしまいます。
 そして悪なき理想郷(ユートピア)よりも、現実存在としての自分達が脅かされる恐怖が
勝った時、彼らは大きなうねりを持って動き始めました。

 サーチャー。座間博士。
 “悪”は、お前だ──。


 それは何度目かの総選挙の後でした。
 当初政権を握っていた、早くから“サーチャー”を見出し、悪人法の制定・運用を推し進
めていた与党がその多くの議席を失いました。野党が一致団結し、同法の廃止を公約に掲げ
て国民の大多数から指示を得たからです。
 尤もこの時の選挙も例に漏れず、与野党を問わぬ多くの政治家達が「選挙違反」という名
の悪を“サーチャー”に暴かれ、弾き出されたのですが……。
「──座間ァ!」
 そうして野党大勝、待ち望んだ政権交代に人々が沸き返る中、公安当局はある場所への突
入を敢行していました。
 今は寂れゆくばかりのとある研究所。
 そう、罪業走査装置(サーチャー)の生みの親・座間博士の本拠地です。
「おやおや……。随分と殺気立っているじゃないか」
 エージェント達がドアを蹴破った時、彼は至極落ち着いていました。
 まるで、この時が来るのを分かっていたかのように。
 彼は最初窓際から、木枯らしに散らされる庭先の木々を見つめていましたが、ややあって
静かに微笑(わら)うとゆっくり椅子を回転させてこちらに向き直ります。
「まぁ落ち着きたまえよ。別に逃げる気もないから」
 発明から、十数年が経っていました。
 博士はあの頃の微笑はそのままに、しかし見るからに年老い、その姿はすっかり白髪と皺
に多くを蝕まれてしまっています。
「……座間英一郎氏、ですね。警視庁公安部です。我々とご同行願います」
 そんな妙な落ち着きに気圧されつつも、エージェント達は身分を示す手帳を開いてみせ、
博士に促しました。
 しかし彼は動きません。さりとて抵抗するという意思には見受けられません。
 ふふふ……。すると彼は笑い出しました。
 デスクの上で両手を組んで肘をつき、潜めるような笑い。
 すると彼は幾分不快を──眉間に皺を寄せた彼らにちらっと見上げると、言ったのです。
「構わんよ。では先ず、貴方達の中で罪を持たない者が、私を連れて行きなさい」
                                      (了)

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  1. 2014/12/28(日) 18:00:00|
  2. 週刊三題
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

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