日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「ヴィジョン」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:天国、テレビ、世界】


 皆、幻想(ゆめ)を見ていました。
 今日よりもきっと明日はよくなる筈だ。そうなってくれなければ困る。だからこそ、何時
しか目の前の現実がそうでないと痛感した時、彼らは憤懣をぶつけられる先を探しました。
自分達の幻想(ゆめ)を実現──見させてくれる誰かを探し続けます。

 彼らは気付いていませんでした。その顔が最早人間(ひと)のそれではない事にさえ。
 彼らは向き合おうともしません。自ら抜け出た所で良くなる保障などなかったから。

 彼らは皆、被っていました。見渡す皆が皆、幾つもの配線に繋がれた、四角い機械の箱を
被っています。顔面の液晶部分には時折ノイズが交じり、適宜デフォルメされた目や鼻、口
が表示されます。
 ある人のそれは迷彩色の緑色でした。機械の箱からは旧く懐かしい軍歌が流れています。
 ある人のそれは鮮やかな赤色でした。機械の箱からは人々の笑い声、平等の世界を報せる
メッセージが流れています。
 様々な色の箱を彼らは被っていました。配線も原則それらに倣っています。彼らは自身に
覆い被さったこの四角い機械へと届けられる映像、音声、臭い、感触、あらゆる“快”を浴
びながら暮らしています。
 気持ちのいいものでした。彼らの目の前には、彼ら自身にとってとても都合のいい世界が
広がっています。
 強く負けない国、万人が平等な理想郷、男を支配する女人の世界、偉大なる霊魂の導きに
全てを委ねた憂いなき世、或いは自分の「好き」が何者にも邪魔されない空間──。
 幸せな筈でした。
 流れてくる、時に流し合うその世界の中にいる限り、彼らは心地良い世界に居続けられた
筈だったのです。

 ……ですが彼らの世界に、彼らはちらつきます。
 たとえば迷彩色の緑の箱を被った人にとり、鮮やかな赤い箱を被った人は黄ばんだ灰色に
見えます。同じく鮮やかな赤い箱を被った人にとり、迷彩色の緑の箱を被った人も黄ばんだ
灰色に見えます。
 彼らには、それが許せません。
 折角心地良い世界に、幸せの道を進んでいるのに、お前は何故そうしてそこにいるんだ?
邪魔をするんだ? お前の色(すがた)は……間違っている。
 何時からかなど分かりません。もしかしたら箱を被る以前にも彼らは、こうして取っ組み
合い、或いは哂い合い、争っていたのかもしれません。
 少なからぬ彼らが、その相手に同じ箱を被るように迫りました。
 少なからぬ彼らが、その相手の言葉に強い違和感と敵愾心を抱きました。
 自分達の、心地良い世界。
 ただ流され受け取るだけだっただけの彼らが、お互いに同じ箱だと気付いた者同士で次第
にスクラムを組み始めました。ここをこうすれば、あれをああすれば、もっと素晴らしい世
界になる。彼らは互いにその思いを語り、その姿を送り、配線は益々数多く太く──そして
一層彼らが好む色のそれへと繋ぎ変わっていきます。
 色んなアプローチがあるでしょう。
 貴方は私とは違う色(はこ)を被っている。それは○○で△△で、だから間違っている。
愚かな考えだ。さぁ、すぐに私達と同じ色(はこ)を被りなさい──。
 でも、中々どうしてそれは上手くいかないものです。何せその人は浸っていた“快”を正
面から否定されるのです、その世界を侵されに掛かられるのです。説得とは、多くの場面に
おいて激突でした。互いに相手の箱を殴り、殴られ、壊されることでした。壊されたと思い
込み、発狂する事さえあります。
 何せその色の箱とは、彼ら自身にとって目に映るべき世界の全てなのです。そこから抜け
出すのはとても難しい事です。ましてや壊れたまま諦め、剥きだしのまま生きるのは辛い事
でしょう。彼らは知ってしまったのですから。その世界が心地良かったからこそ、自分を肯
定され、その中に収まれる余地が許されたからこそ、安寧であるのです。
 それが正しさでした。過程があったからその結果ではなく、その結果が心地良いからその
世界を守りたいと願う(おもう)のです。その世界を拡げたいと目論む(おもう)のです。
 では……どうすればいいか?
 必然といえば必然、根本的でないと言えば根本的ではなく。
 スクラムを組んだ彼らはそれぞれに、可能な限り頭「数」を揃える事に邁進するようにな
りました。事実、戦略としてはこちらの方が効果的ではあります。一の“敵”を改心させる
為に払う労力よりも、十の“中立”をこちらの色に染め上げる方がよほど容易く、また各々
にも達成感が期待できるからです。
 故に彼らは「狩り」をします。まだ色(はこ)定まらぬ人々を。
 彼らは繰り返し見つけ出します。繰り返し自分達の色(はこ)が素晴らしいと説きます。
 そして往々にして、それらは他の色(はこ)をこき下ろす言動とワンセットです。彼らは
解りません。止められません。それこそがこの無色で澱んだ色(はこ)をした定まらぬ人々
の心を荒ませ、折り、彼ら明確な勢力達から遠ざける元凶と言ってもいいのですが……。

 彼らは訴えます。或いは煽ります。
 ○○の存在を許してはならない。きっと貴方達の生活を脅かす。
 どうか○○の世界を信じてください。きっと安心と繁栄を勝ち取ってみせる──。
 彼らは解っていません。いえ、解っていたとしてもそう語るしかないのかもしれません。
 一の“敵”を改心させるよりも、十の“中立”を染め上げる。とにかく数だ。自分達が見
ているこの色(せかい)が多くを占めれば、それが「正しいということになる」のだから。
 ですが、それは大きなお世話なのかもしれません。皆を巻き込むことに、そもそも色定ま
らぬ人々は関心がないのでしょうから。
 ただ今此処が、自分の見るこの色(はこ)が在ればよかった。
 今此処で……生きる。
 実は彼らにとってそれが答えなのでした。迷彩色でもない、真紅でもない、金色でも群青
でも桃色でも何色でもない。
 故に彼らは逃げるばかりでした。今ある箱をもぎ取られ、迫ってくる者達の色(はこ)を
嵌められぬように足早に立ち去ろうとします。或いは遠く離れた場所に逃げおおせ、そんな
捕物帳を哂ってみせることで、要らぬ他色(もの)達を一時でも払い除けようとします。
 追う者達がいます。逃げる者達がいます。
 彼らは自分達が被るその色(はこ)の世界こそ至高だと思っていました。そしてその世界
に染まらない誰かがいる、妨げる誰かがいる。その事実に耐え切れずに動き出しました。
 彼らは自分が被るその色(はこ)の世界で満足でした。いえ、無闇に望みませんでした。
それでも奴らは追ってきます。液晶にデフォルメの笑顔を貼り付けて、隙あらばその顔面を
挿げ替えてやろうと目論んでいると知っています。
 二通りでした。
 片方はスクラムを組み、自分達の色(はこ)を広めたがる人々。
 もう片方はスクラムを嫌い、自身の色(はこ)に収まり、汲々と狭まる事を選んだ人々。
 ……いえ、他にもいます。時にはスクラムを組むそれらと重複してさえいる人達です。
 彼らは知性を標榜していました。今は○○が幅を利かせている。だから××が正しい姿な
のだと訳知り顔で語ります。
 彼らは狭まる彼らを哂います。貴方達がそうして染まらないから、○○が幅を利かせてし
まうのだと。先人達の血と汗、苦労の結晶を放棄している愚か者だと断罪します。
 或いはおもねります。今は○○が多くを占めている。ならその色(はこ)に似合う世界を
私も提供しようじゃないか──。
 ですが、そう知性を名乗る彼らもまた同じく色(はこ)を被っています。それはきっと、
鬱陶しいくらいの青色です。

 いつだって、誰かが何処かで箱を被せようとしています。誰かの箱を剥ぎ、新しい色の箱
を嵌め込み、その色の配線で彼らを満たそうとします。
 それでも長い時間が経ちました。今では人々は、自分からその配線を選べるようになって
います。尤もその内、彼らの少なからずが何かの色ばかりを選ぶようになり、それを他人に
も広めようとするのですが……。

 見渡す限り、広大な世界が広がっています。
 ですがそこに棲む彼らは誰一人、その生の姿を見ていません。彼らは皆、自分が心地良い
と思う色(はこ)に意識を沈め、繋がれた無数の配線を引き摺りながら息をしています。
 砂埃舞い散るそこに、点々と灯りが点っています。
 迷彩の緑や鮮やかな赤、金に群青に桃に、澱んだ灰。様々な色の四角い機械らが人々の頭
にすっぽりと嵌り、同じくそれら色に染まった配線が縦横無尽に人々に絡まっています。
 彼らは叫んでいました。何故解らないと。
 彼らは応えていました。お前は間違っていると。
 繰り返します。繰り返し、彼らは組み付いて引き剥がそうとし、或いはその魔手から逃げ
たのち、縮こまったまま遠巻きに立ち尽くします。
 彼らは観ていました。色(はこ)の中の世界を見ていました。
 彼らは知りません。多分これからも、彼らは自らその面を取ることは稀でしょう。

 広がっています。
 只々その足元には、新芽すらも寄り付かぬ不毛の地だけが茫洋として広がっています。
                                      (了)

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  1. 2014/12/15(月) 00:00:00|
  2. 週刊三題
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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