日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「老竜の哮(こえ)」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:竜、危険、幼女】


 永い永い、時が過ぎた。
 過ぎ去った日々はおぼろげに。しかしあの頃置き去りになった日々は、今も折につけ遠く
から自分を見つめているような気がする。
「……」
 その日は朝から雨だった。いつもなら静けさの中にも生き物の気配をそこかしこに感じる
この森だが、どうやら今日ばかりは誰も彼も好き好んで駆け回りはしない。
(む──?)
 なのにだ。この日は何時もの雨模様とは少し違っていた。
 ガサガサッ、びしゃびしゃ。それまでの静寂を破り、横切っていくような足音が耳に届い
たのだ。
 誰だ? 獣ではない。同胞でもなさそうだが……。
 少々耳障り。今日も今日とてねぐらの中でだんまりを決め込んでいたつもりの彼も、流石
にこの何者かの接近には意識を研ぎ澄ませ、警戒せざるを得ない。
「ふぇ~、びしょびしょだよぉ……」
 幼子だった。
 近付いて来た足音。あろう事かその足音の主は、彼がねぐらに使っているこの洞窟へと駆
け込んできたのである。
 人間だ。人間の少女だ。背格好からして十に届くかどうかといった所か。
 ねぐらの奥で、彼はじっとこの幼子を睨んでいた。背中には小さな籠を背負い、羽織った
衣は打たれた雨ですっかり塗れてしまっている。
 これ幸いと雨宿りに来たのだろう。
 しかし、こんな子供がこの森の奥に来るなど──。
「……うん?」
 そして、目が合った。洞窟の入口軒下にいた彼女が何となく振り向き、奥に鎮座していた
彼の金色の双眸に捉えられたのである。
 一拍、二拍、三拍。随分と幼子はその場で固まっていたように思う。
 ぽたっ、ぽたっ。その衣から数度水滴が滴り落ちる。
「りゅっ──」
『Uyr?』
「竜さんだー!?」
 やがて、彼女はそんな叫びを。
 無理もないだろう。何故なら彼は──人ではないからだ。
 穴ぐら一杯にその巨体を潜ませた、老竜であった。
 鋭い牙、爪、隆々とした四肢と肉体からは強靭な尾と翼が延び、小さな人間など容易く押
し潰してしまえる程の迫力がある。
 全盛期はとうに過ぎていた。白亜の身体にも顔も、今や無数の深い皺が刻まれている。
 だがその眼力だけは、尚も人ならざるもののそれだった。
 淡い金色の瞳。その両の眼が、今じっと──何故か目を輝かせているこの眼下の少女の姿
を捉えている。
『Adnan Eamo, Isataw Ow Etim Akonianaragawok(何だお前、私を見て怖がらないのか)』
「ふぇ?」
『……Aa Akuos. Agabotok Anattadonianijuut(ああそうか。言葉が通じないのだったな)』
 なのに通り過ぎていった言葉。すると彼はすぐに何かを思い出し、スウッと一度軽く目を
閉じて頭の中の記憶・知識を取り出し直す。
『……。これで解るか、娘? 私を見て怖がらないのか?』
 あくまで見下ろし、さっさと追い払ってしまうつもりだった。
 なのにこの少女は、彼が自分と同じ言葉を放った次の瞬間、更にぱぁっと表情を輝かせる
とぎゅっと両拳を胸の前で握り、ずずいとこちらに進み出てくる。
「解ります、解ります! すっごーい! 本当だったんだ。本当に人間の言葉も解っちゃう
んだー!」
 彼は思わず眉間に眉を寄せた。彼女のそれは……畏れではない。
 むしろ羨望の眼差しという奴だろうか。しかしこいつは、自分の置かれた状況を理解して
いないのか……?
『こんな場所で何をしている? この森は我々原初の民が棲む地。人間が安易に立ち入って
はならぬ』
「あ、はい。それは。村の皆からも魔物が出るから近付くなって言われてます。でも……」
 そこでようやく初めて、彼女の表情が曇った。握ったままの拳を下ろし、一度俯き加減に
なったものの再びこちらに顔を上げて訴えかけてくる。
「お父さんが病気になっちゃったんです。でも、ここには珍しい薬草がいっぱいあるって聞
いてたから、それで……」
 そういう事か。彼は金色の目を細めた。
 魔物──人間がそう呼ぶ自分達が潜み棲む地だと知りながらも、この少女は踏み入ったと
いう訳だ。父の病を治す為に、薬草を捜し求めて。
『無謀過ぎる。よく他の同胞に襲われずに済んだものだ。私はともかく、他の者達に見つか
れば命の保障はなかったぞ?』
「あ、それなら大丈夫です。……ほら。オババ様が作ってくれたお守りがありますから」
 言って、少女は首から下げていた紐を手繰り寄せてみせた。
 その先には刺繍された小さな巾着袋が繋がっており、確かに中からは練られた魔力が感じ
られる。
『……なるほど。道理で森の者達が大人しかった訳だ』
 まだ雨脚が弱まる様子はない。彼は呟きながら、さてどうしたものかと考えた。
 元来、人間と自分達は分かり合えないのだ。それは数百年、無数の争いを繰り返して辿り
着いた事実である。自分達は、あの大戦(いくさ)に負けたのである。
 故に棲み分けるしかなかった。どれだけ人間達がその入植を拡げ、この大陸を我が物顔で
闊歩しようとも、自分達は残された辺境にて身を潜めるしかなかったのだ。
 中には憎悪に駆られて闘い続けている同胞もいると聞く。しかしその多くは、ことごとく
討ち滅ばされる末路を辿るだろう。だからこそ自分は、そういった血気盛んに過ぎる同胞達
から距離を置き、こんな場所まで住処を移したのではないか。
「……?」
 解っている。この幼子に罪は無い。我々の歴史を伝えた所で、何になるか。
 簡単ではあった。軽く尾を一薙ぎすれば、爪を突き立ててれば、容易く殺れる。人間とい
うこの部外者を排除できる。
 だが、その後どうする? 行方知れずとなれば彼女の両親や集落の者が黙ってはいまい。
最悪の場合、軍隊を呼んでこの森一帯を焼き払いにくるやもしれぬ。
 詮無いのだ。殺ったとて、まったく。
 それにこの子は嘘を付いているようには見えない。真っ直ぐな目だ。
 今もこうして、不安そうな、しかし意を決した瞳で私を──。
『……全く、命知らずな』
 ごそっ。彼は言いながらその巨体を動かした。
 洞窟内の空気が揺れる。ただそれだけで、力ないずぶ濡れの少女には圧倒的な迫力に感じ
られる。
 しかし──その見上げた視線は次の瞬間、おもむろに下へ下へと下がったのだった。
 深く呼吸を整えた刹那、彼はその姿を白亜の老竜から白髪の壮年男性──人間へと変化さ
せたのだから。
『こちらに来い、娘。そのままでは風邪をひくぞ』
 一見すると隠遁した仙人のような。
 そんな唖然としていた彼女に、彼は踵を返しながら洞窟の奥へと進むと、片隅に積んであ
った薪の束を一つ取り、そこに魔力で火を熾して暖を取り始めた。
 おずおずと、恐る恐る中へ入ってくる少女。
 石塊の一つに腰掛けながら、彼は問う。
「あ、あの……」
『父親の病とはどういうものだ? 熱はあるか? 肌に異常はないか?』
「え? あ、はい。熱は汗だくになるくらい凄いです。なのに肌は真っ青で、一日中魘され
てます」
『……魔毒だな。そいつ、余所の土地の食べ物を食わなかったか?』
「!? はい! そ、そうです。一週間くらい前かな? 旧大陸に住んでる叔父さんから、
季節の贈り物があって、それで……」
『ふむ。間違いない。それが原因だ。お前達はこの大陸に住み、この大陸の魔力に適応した
分、余所の土地の魔力とは時に干渉し合うことがある。今度からは一度天日干しにするか、
この土地の水でしっかり洗い直せ。それで同じ轍は踏まなくなる』
 少女はとても驚いているようだった。
 そろっと、薪を囲んで彼と斜めに向かい合って座る。竜──魔物の中でも最も強く、高い
知能を持つとされる存在が、少しの話だけで父の病の正体を突き止めてしまった。
「……あ、ありがとうございます!」
『勘違いするな。二度三度とお前達に入って来られるのが面倒だからだ。雨が止んで、服が
乾いたらついて来い。魔毒に効く薬草なら、もう少し奥の湿地まで行く必要がある』
「……はいっ!」
 やれやれ。
 外の雨音とぱちぱちと鳴る薪の音を聞きながら、彼は事が早く済んでくれるのを待つ。


「お~じさ~ん!」
 繰り返すが、用を済ませてさっさと、穏便に帰すのが目的だった。
 なのにあれ以来、彼女は何かと口実をつけてはねぐらに遊びに来るようになった。草むら
を突っ切り、ズザザザッと坂を駆け下りて来ては。
『……またお前か。安易に人間が立ち入る場所ではないと言っておるだろう』
「でも大丈夫ですよ? あれから今まで、一回も襲われてませんし」
『それは私が──いや、いい。とにかく何の用だ。早く家に帰りなさい』
「そう遅くはならないですよ~。はい、どうぞ。クッキーです。今朝焼いたのでおじさんに
も食べて貰おうと思って」
 彼は頭を抱えた。毎度応対するのに人間の姿に化けている時点で甘いのかもしれないが。
 気付けばすっかり懐かれている。この森は、人の手が入っていない場所は危険なのだと繰
り返し叱ってやっても、この幼子はニコニコ笑ったまま堪えない。むしろこうして会話が成
立している事自体に喜んでいるような節すらある。

“だって私、まだおじさんにお礼をしてなかったですから”

 二度目、自分のねぐらにのこのこと現れた時、彼女はそう言った。阿呆だと思った。
 曰くあの後、湿地方面で取った解毒草のおかげで父親はすっかり治ったらしい。加えてこ
ちらが教えた下処理法で、身体を壊す村人達が頻度・人数とも大幅に減ったとも。
 ……そうか。彼は短くそう答えるしかなかった。
 彼らはまだ知らない部分が多いのだ。自分達からこの土地に押し入っておいて、肝心の生
きる術をなおざりにしてきた。殺す術ばかり磨いてきた……。
「どうですか? 美味しいですか?」
『……不味くはない。まったく、人間というのは無駄な手間をかけたがるな……』
 なのに、何なんだ?
 この子は何故、私の下へ足しげく通う?
 失敗しただろうか。彼はもしゃもしゃとクッキーなるものを齧りながら思っていた。あの
日下手に打算的にならず、さっさと殺してしまえばよかったのか。
 折角静かに暮らせるようになったと思ったのに、これではまた同胞達からの眼が冷たくな
るではないか。
「えへへ……」
『……お前は、変わっているな』
「へ?」
『変わっていると言ったんだ。私が魔物だと、竜族だと最初の時点で分かっていたろう? 
なのにこうして性懲りも無くやって来る。お前達の常識でも、我々と関わるのは御法度では
ないのか?』
「ゴハット? よく分からないですけど……。だっておじさんは、いい人じゃないですか」
『──』
 深く深く眉間に皺を寄せて、そして彼はまた大いに頭を抱えた。
 嗚呼、阿呆だ。やっぱりこいつは何も分かっちゃいない。
 魔物だぞ? 人間だぞ? 我々は数百年にも渡り、互いに殺しあってきたじゃないか。
 子供だからか? 時の流れのごく一部にしか生きていないからか? それにしたって、集
落の大人達はどんな教育をしているんだ……。
『……いいか、娘。我々原初の民と人間は、もう長いこと争い続けている』
「聞いた事はありますけど……。そんなに長いんですか?」
『八百年だ』
「はっぴゃくねん!?」
『そうだ。正確には八百十六年と八ケ月か。そもそも、お前達は我々が暮らしていたこの大
陸に突如やって来た。新大陸開拓と称してな。そして我々を、異形の蛮族として討伐し始め
たのだ』
 それからは殆ど、衝いて出た言葉で占められていたと記憶している。
 彼はつらつらと語っていた。
 歴史の真実、人間(しょうしゃ)が決して語らぬ内実。一方的な来襲と破壊の全て。
 自分達はただ守りたかった。この地での今までを守りたかった。
 見た事もないこの小さな種族を、最初の内は取るに足らぬ異形の民とみていた。
 しかしその目測は大きく間違っていたと知る。彼らは自分達が「上」であると証明しない
限り決して屈しなかったのだ。
 見た事もない武器を使ってきた。爆ぜる粉末を使い、金属の弾を飛ばしてきた。
 ことごとく焼き払ってきた。自分達が住むべき土地を丸裸にして、その上に家や畑をこし
らえていった。
 同じ者達がいた。その絶対数こそ少ないが、神官騎士と呼ばれる人間らは自分達と同じく
魔力を操る術を持っており、その武力で以って多くの同胞を殺していった。
 何よりも──多過ぎたのである。
 倒しても倒しても、殺しても殺しても、奴らは海の向こうから次々とやって来る。自分達
はいつしか、その根本的な数の差に押されるようになっていた。
 特に痛手だったのは、戦の最中、王を討たれたことである。
 それまで幾つもの部族に分かれていた自分達を統率していた王、人間達が“魔王”などと
呼んだあのお方を、奴らは夜の闇に紛れて押し入り、寄って集って殺したのだ。
 故に、戦況は一変する。一枚岩ではなくなったのだ。
 ある者達は亡き王の弔い戦と息巻き、銃弾飛び交う人間達の前に骸と貸し。
 またある者達は次代の王を名乗り、己が版図の拡大と抗争に明け暮れた。
 また或いは、そんな勝手者を鎮めるのが“正義”と信じ、一族と共に戦った者達こそいた
のだが……その末路も、また決して報われることはなく。
 後は、瓦解していく一方だった。やがて人間達は宣言する。
 人類の勝利を、開拓の継続を。
 そして自分達は敗者となり、大陸の端へ端へと追い遣られ続けている──。
「おじ……さん」
 少女が涙ぐんでそう漏らしたのを聞き、ようやく彼は我に返った。後悔した。
 馬鹿野郎。旧敵の一族とはいえ、こんな年端もいかぬ少女に恨み節をぶつけて何になる?
大体自分はそうした戦いの連鎖に疲れ、わざわざ人間達の開拓前線(さいぜんせん)から遠
くれたこの地に移ったのではないか。
「……私達が、悪いの? 騎士様の魔王退治は知ってるけど、それは間違いなの?」
『いや、間違いとは言い切れんさ。人間達にも事情はあったろうからな。それに、お前達は
切欠であっても、残り半分は我々自身によるものだ。あの戦いは、我々の自滅なんだ……』
 彼女が持って来てくれたクッキーは、包みの上からすっかり無くなっていた。
 薬草を煎じて淹れた茶もすっかり温い。只々気まずい空気だけが二人の間に、住まいたる
洞窟の中に横たわっていく。

『──N, Nnassayao!(お、おやっさん!)』
『Ad Nehiat!(大変だ!)』
 そんな時だったのである。薄らと曇った空。静かに風に揺らめく洞窟外の草木。
 そこへにわかに、泥色の猿やでっぷりと太った鳥──顔見知りの魔物達が大慌てで転がり
込んで来たのだった。
『? どう──Iraniki Ataisuod?(どうしたいきなり?)』
『Agaiatnug Oyadnnaitk, Ik!(き、来たんだよ、軍隊が!)』
『Ureteikettakum In Ittok! Ad Omodisikinaknis!(神官騎士どもだ! こっちに向かって
来てる!)』
 何……。そう彼が言い掛けた、次の瞬間だったのだ。
 鳴り響いたのは、銃声。刹那そう危機を知らせに来てくれたこの二人の魔物達がどうっと
前のめりに倒れて動かなくなる。
 彼は、少女は咄嗟に顔を上げて洞窟の向こうを見た。
 そこにいたのは、村人達と──硝煙燻らす長銃を構えた甲冑姿の一団で。
「お父……さん? お母さん?」
「リコ! 良かった、無事で……」
「やっぱりそうか。おかしいと思っていたんだ。魔物に、化かされていたんだな」
「もう大丈夫だぞ! 都から騎士様たちを呼んできたんだ! 今、助ける!」
「ち、違っ──」
 少女が口を開こうとする。だが一団の後ろについてきた、彼女の両親や村人達がそう口々
に非難の声を上げていた。
「……」
 その怒声の全て。
 それらが向けられたのは、他ならぬ傍らにいた彼で……。
『Ahitateamo, Anadnnianarawak(変わらないんだな、お前達は)』
 気付けば彼は跪いていた。背後から撃たれた同胞の、血を流す身体をそっと抱き寄せて。
 彼女は身体を強張らせていた。
 怖い。おじさんから、得体の知れない恐怖を感じる……。
『行ってやれ。私のミスだ。もっと早く、お前を追い払っていれば……』
 とん。背中を押された。耳元に届くようにそうストンと声が落ちる。
 哀しかった。少女の瞳に涙が溜まっていく。
 ふらり、数歩また数歩。彼女は「さぁ早く!」と待つ両親の下へと送り返されて──。
「がっ?!」
『──ッ!?』
 なのに、屍がまた一つ増える。
 彼らの下へ、ふらふらと少女が辿り着こうとしたその刹那、副官と思しき神官騎士の剣が
抜き放たれ、彼女の胴を真っ直ぐに薙いでいた。
 鮮血が飛び散る。彼が、両親達が声も出ずに目を丸くした。
 どうっ。少女はその場に崩れ落ちた。
 彼は洞窟(ねぐら)の前で立ち尽くすしかなかった。
 リコ! 駆け付けようとする両親。
 だがそれを、いかにも仰々しいといった様子で、沈痛な表情を作ったようにして、他なら
ぬ彼ら自身が連れて来た神官騎士達がそっと片手でもって遮る。
「お許しください。ですが、もう手遅れだったのです」
「娘さんは、もう魔物に魅入られていました。あのままこちらに遣らせては……皆さんまで
もが犠牲になっていたかと」
 ゆっくりと魔力を帯びた剣を鞘に収め、副官とリーダー格が順繰りに言う。
 両親は泣きじゃくっていたが、彼らの言葉に疑いを持つ様子はなかった。ただ点になった
目のまま切り伏せられた娘を前にして膝を付き──そして向こう側にいる白髪の彼へと、そ
の憎しみの眼を向けてくる。
『……』
 彼は唇を噛んでいた。金色の双眸が、滾るように輝きを増していた。
 Adnnanakoro Edamokod……(どこまで愚かなんだ……)
 忌々しげに彼は呟く。ざらり、ガチャリ。神官騎士らが剣を抜き放ち、部下の兵士らが銃
を構えて自分を攻撃する体勢に入っていた。
 魅了の魔力など使っていない。
 まさかこいつら、始めから口封じの為に(そのつもりで)──。
『……Ahonutatagaraha Inannnok. Adirubisasih(久しぶりだ。こんなに腹が立つのは)』
 刹那、彼は決意する。
 やはりこいつらは──敵(あく)だ。
 ひっ!? 素人ながらにも本能が察したのだろう。両親を含めた村人達や、下級兵士らが
次々に戦慄し始めた。
 軽く横に振った片腕、巻き起こった一陣の風。
 するとどうだろう。それまで白髪の男性の姿を取っていた彼は、変身──本来の白亜の老
竜の姿へと戻って凄まじい咆哮を放つ。
「……流石は最強クラスの魔物、竜族」
「皆の者、気を張れ! 半端な覚悟では奴の覇気にやられるぞ!」
 神官騎士達が言う。だが既にばたばたと、何人もの部下たちが白目を剥いて倒れていた。
 ざわざわ……。周囲の木々がまるで慄くようにざわめく。
 加えてそれまであちこちの物陰に隠れていた他の魔物達も、これはいかんと思ったのか、
密かに我先にと逃げ出すという始末だった。
『Uoreg, Esarasinis!(死にさらせ、下郎!)』

 震撼。再びの咆哮。
 彼らはきっと交わらない。
                                      (了)

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  1. 2014/12/08(月) 21:00:00|
  2. 週刊三題
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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