日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「迷宮街の少女A」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:墓標、桜、記憶】


 私は、桜が嫌いです。
 遠く東の国ではむしろめでたい、国を象徴する樹として愛されていると聞きますが、この
街に生まれこの街で育ってきた私にとっては……嫌な思い出しかありません。
 その昔、遥か古代において“大賢者”と呼ばれた人がいたそうです。
 彼は常人では到底思いつかない多くの知恵を持ち、数々の魔法を操り、時に世界の危機す
らも救ってみせたといいます。
 ですが、書物を読み解く限りこの大賢者さんは必ずしも人間が大好きという訳ではなかっ
たようで……。
 これは私の推測ですが、巻き込まれ続けた人生だったのかなと思っています。
 なまじ天才が故に。彼の意思とは無関係に、きっと人々は何かにつけて彼を頼ったのでは
ないでしょうか。だからこそ──そうして頼まれ力を貸したのに、周りの人達が皆劣ったよ
うに見えて──彼は晩年、徹底した人嫌いになったのかもしれません。
 余生、彼はこの街を隠居の地に選びました。
 当時この街は街ではなく、今よりもずっと小さな村だったといいます。自然のままに時が
ゆったりと流れ、人の数よりも獣や緑の方がずっと多い──彼は村の外れにある小高い丘の
上に小さな庵を建て、そこで隠居暮らしを始めました。
 でも、老いても尚その身は大賢者。人々が見逃す筈もありません。
 彼の静かな暮らしはそう長くは続きませんでした。ある時には教えを請いに、またある時
は彼を公の場へと連れて行こうと多くの人達がやって来たといいます。
 ──故に辟易しました。怒りすら覚えました。
 ある日彼は強力な魔法を使い、自身の住む庵を巨大な迷宮へと変えてしまったのです。
 人々は困り果てました。これでは、大賢者様のお力を借りることができない……。
 それでも彼は二度と姿を現しませんでした。そして歳月だけが過ぎ、いつしか侵入者を阻
む迷宮と化した庵の周りには、巨大な桜の木と無数の花々が咲き乱れるようになります。

 “ケリウスの地下迷宮”

 何時からか、この丘はそう呼ばれるようになりました。
 もうずっと昔の事です。とっくに当の大賢者さんも亡くなっていることでしょう。
 ですが、人々はそこに新たなアプローチを見出しました。
『古の大賢者が造った難攻不落の地下迷宮。そこにはきっと彼の叡智の全てが眠っているに
違いない──』
 まことしやかに語られ始めた噂、伝説。
 村には、今度は迷宮を制覇せんとする冒険者達で溢れ返るようになりました。
 その事が……現在、この街が村ではなく街になった理由。皮肉な事に彼が他人を寄せ付け
ないようにと造り出したものが、結局は人々を惹き付ける結果になってしまったのです。
 当然人が多く訪れ、逗留するという事は、それだけ街の経済は潤います。
 迷宮にほど近い街。
 そして気付けばこの街は、多くの浪漫と欲望が渦巻く大都市へと成長したのでした……。

「おはようさん、エミリーちゃん。薬草を二十個くれ」
「あ、こっちは白ポーション五つ」
「朝から精が出るねえ。いいねえ、若いのに大したもんだよ」
 店を開けると、半刻も経たずにお客さんがやって来ます。
 私は現在、この街の一角で小さな薬屋を営んでいます。今は亡き両親から受け継いだ、大
切なお店です。
「……合わせて薬草の方は二百コルン、白ポーションの方は二百五十コルンになります」
 いつものように。平常心平常心。お世辞を言ってくるおじさん冒険者さんの言葉は基本的
に無視して、早速お会計を済ませます。
 何となくは分かっているんです。私がまだ若いからなんでしょうね。
 下心。本音を言うと、そんな浮ついた気持ちでここに来て欲しくない。この街には居て欲
しくない……。
「よし、じゃあ今日も潜るか」
「何層くらいまで行く?」
「十五層かな。あのくらいの魔物なら先ずやられる事はねぇだろ」
「だなー。今五十五層だっけ? 攻略組みたいにあそこまで命張ってらんねーし」
「……」
 パーティーらしき冒険者(おきゃく)さん達のグループが、そんな会話をしながら店を出
て行きます。私は努めてネガティブな表情を出さないよう、カウンターでぺこりと頭を下げ
てその後ろ姿を見送りました。
 色々な、人がいます。
 未だ誰一人踏破した事のない迷宮を攻略しようとしている人達。
 そんな高いリスクまでは犯さず、迷宮内の魔物狩り財宝探しで日銭を稼ぐ人達。
 或いはそうした冒険者さん達を相手にする、商人。
 自分もきっとその商人の部類に入るのだと思います。こうして街の人だけでなく、むしろ
迷宮に潜る冒険者さん(かれら)に薬を売っているのですから。
 でも……本音を言うとああいう人達の為に商売をしたいとは思いません。
 薬とは人の命を助ける為のものです。潜り方にも色々あるとは知っていますが、迷宮とい
う死と隣り合わせな場所へわざわざ出掛けていく人達の為に売り捌くのは……あまりいい気
持ちではありません。
 ──大賢者、ケリウスの地下迷宮へ降りる入口は今も昔も街外れにある丘の上です。
 当に彼が棲んでいたという庵はなく、地元の管理局が地下階段を囲うように石造りの小屋
を建てているのですが……そのすぐ後ろに育った桜の木は非常に色濃く、一年を通して全く
枯れることなく咲き続けます。
 曰く大賢者様の魔力がこの地に留まり続けている。
 でも私は、別の、迷宮内で息絶えた者達の魂を吸い続けているからという説の方がそれっ
ぽい気がします。
 少なくともあんな大木はあり得ない。本で読む限り、本来桜という花は春の一時期にしか
咲かない筈なのです。
 だから私は桜が、あの丘の桜がどうしても好きにはなれません。
 まるで亡者を掻き集めたような、咽返るほどの桃色。
 その丘へ向かうまでの道両側に広がる、無数の犠牲者達の墓。
 私が桜と聞いて思い出すのは、そんなどうしようもない人間の欲望とその成れの果てであ
るから……。
『おい、ごめんよー! 退いてくれー!』
『重症患者だ! 道を開けてくれ!』
『医務院まで間に合うか……? しかしこの兄(あん)ちゃん、深く潜り過ぎたな……』
 外でばたばたと石畳の上を駆けていく人達の声がしました。どうやらまた迷宮でこっ酷く
やられた冒険者さんが見つかったようです。
 でも、これがこの街の茶飯事(にちじょう)。騒がしくはありますが、耳を澄ませる限り
周りの人達はさして慌てた様子はありません。
「……」
 がらんとした小さな店内で、私は静かにため息をつきました。
 やっぱり、嫌いです。


『──じゃあさ、俺が終わらせてやるよ。要するにあそこが制覇されて何があるのかはっき
りすれば冒険者も減るんだろ?』
 かつて、幼馴染の男の子は言いました。
 迷宮は嫌い。人がたくさん死ぬから。なのに人がいつまでもやって来るから。
 そう言った私に、彼はそんな事を言ってニカッと笑ったのです。
 子供の頃の戯言とはいえ、止めるべきでした。
 数年後、成人した彼は本当に冒険者になってしまったのです。本当に一から剣や探索の心
得を学んで、出会った仲間達と迷宮に潜り始めたのです。
 でも彼はもういません。ある日、迷宮攻略に加わってその後、二度と街に戻って来る事は
ありませんでした。
「……」
 夕方、少しお店を早めに閉めて街外れの丘へ。私はそのくねくねと曲がり上下する道中に
広がる墓標の一つを訪れ、小さな花束を手向けていました。
 材木を十字に縄で重ねただけの墓。そこに雑にあの子の名前が彫られています。
 遺体はありません。厳密には襲い掛かる魔物達の群れの中、持ち帰れなかったそうです。
でもそれはこの迷宮においてそう珍しくはないこと。実際この無数に立つ墓標の殆どが、遺
骨すらなくただ帰って来ないこと、死んだのを第三者が目撃したことのみ理由にして立てら
れているのですから。
(ホント、馬鹿なんだから……)
 月命日でした。あの何処か憎めない笑顔は、もう二度と見る事はできなくて。
 だから心の中でそう膨れっ面になって、ただそう呟いて足早に立ち去らないとまたどうに
かなってしまいそうで。
「──?」
 そんな時でした。ふと私は、他にも自分と同じような人がいる事に気付いたのでした。
 道を挟んで向かい側。自分には背中を向けて。
 一人の男の人がとある墓標の前に立っていました。肩には荷物が入っていると思しき絞り
紐付きのズタ袋。上半身にはあちこち痛んだマントを羽織り、背中には五角形の長盾と剣が
掛けられています。
 冒険者さん、のようでした。
 なのに何故でしょう? 彼は、その墓標にそっと触れている手付きで横顔で、私をその場
から離してくれません。
「……あの」
「うん?」
 呼び掛けていました。何となく気になってしまって、ごくりと一度息を呑んでから呼び掛
けていました。
 彼はざりっと、ゆっくりと振り返ります。
 一瞬妙な違和感を覚えました。でもその正体は程なくして理解します。知りました。
 哀しげな、しかしぎゅっと内側の押し込めた意志の強さから一転、ふいっと私を見て優し
くなった表情。この人は──何だか違う。
「も、もしかして冒険者さん、ですか? やっぱり迷宮に潜りに……?」
 おずおず。だけど彼はすぐには応えませんでした。
 数度、瞬いた目。多分私の、同業者ではない身なりを見て、街の子かなとでも考えていた
のだと思います。
「そうだよ。有名だからね。ここは」
 風が、鳴り始めていました。遠く丘の上の化け桜が濃い桃色を揺らしてその花弁を散らし
ています。
 冒険者さんは私と一緒に、暫くその光景を眺めていました。
 細い線。でも無骨な戦士の身なり。次の瞬間開かれた口からは、やはりというべきか半分
予想通りの答えが返ってきます。
「昼過ぎ、この街に着いたんだ。とりあえず宿を取って明日明後日、軽く情報収集を済ませ
ばすぐにでも潜りに行くつもりだよ」
「……どうしても、行くんですか?」
「ああ。どうしても。親友(こいつ)を……見つけなくっちゃいけないからね」
 えっ──? 私は一瞬頭の中が白く眩しくなった感じがしました。
 ぽんぽん。彼は傍らの墓標を軽く叩いています。
 どういう事だろう?
 つまり彼は、男のロマンやら一攫千金の為にここに来たのではない……?
「……三年前になるかな。親友がこの迷宮に挑んでね、二度と帰って来なかった。長く脱出
してもいない連絡も取れないとなると、街のルールでは死んだとみなすんだそうだ。でも僕
はそれでお終いにはしたくなくてね……来ちゃったんだ。流石にもう遺体は無くなってるだ
ろうし分からないとは思うけど、せめて遺品くらいは持ち帰りたい。その為に僕はあの迷宮
に潜って、あいつの足跡を見つける。ただ、それだけだよ」
「──」
 強い眼でした。殆どの冒険者さんが持っているような、邪まな感情なんてものが何一つ感
じられない。ただその言葉通り、大切な人を弔う為に、彼はあの迷宮に潜ろうとしている。
「そう……でしたか」
 もじもじ。何だか嬉しくって、気恥ずかしくって。
 でも、言おう。私が本当に応援したい人というのは、きっと……。
「あの。私、西区で薬屋をやっているんです。よろしければ来てください」
 君が? 彼はちょっと驚いていたようだったけど、すぐにフッと笑って「ありがとう」と
言いました。

 さわさわ……。強過ぎぬ風が吹き、濃過ぎる桜色が舞っています。
 きっと彼は、名も無き一介の挑戦者。
 でも貴方は、一体どんな物語を紡ぐのでしょう?
                                      (了)

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  1. 2014/12/01(月) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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