日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「魄宙夢」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:昼、白、主従】


「ちょっと待ってくださいよ、先輩!」
 依頼主の家を出てから、数歩も経たずにシンジが呼び止めてくる。憤りを隠せぬ声だ。
 リョウは辟易した。背中に飛んで来たその声を無視したまま、無精髭を擦りつつもう片方
の手で口の煙草を携帯灰皿に押し付ける。歩みが少しゆっくりになった。ちょうどそこで、
家の垣根を曲がった所で、この後輩が追いついて来る。
「先輩!」
「五月蝿ぇな。仕事は済んだ。事務所に戻るぞ」
「済んだ? 済ませた、でしょう?」
 リョウがようやく反応して吐き出した言葉──邪険な態度に、対する彼も意固地になった
ようだ。
 相変わらず青いな……。リョウは思った。
 どうせまた同じ事を抜かすのだろう。小言は聞き流す方向で。なのでその間に使った仕事
道具を今の内に再装填しておくことにする。
「どうして“消意弾(くろだま)”を使ったんですか!? あの方はまだ正気を保っていま
した。枕元で泣いているご家族の事も認識できていました。“弔意弾(しろだま)”を使う
のがセオリーでしょう? なのにいきなり──」
「だからてめぇはいつまでも未熟なんだよ。正気? んなモン、時間の問題だったさ。あの
眼はショックを受けてた眼だ。家族が泣いてる、自分の装束──“自分が死んだ”と信じら
れないって類のな。ありゃあすぐにでも狂い出したぜ? 俺達がいながら死人を増やちまう
なんざ悪手も悪手だろうが」
 カシャリ。リョウが懐から取り出したのは、一本のリボルバーだった。
 その色彩はグリップから銃口の先までびっしりと真っ黒。
 彼はシリンダーをスライドさせ、弾倉の内空いていたものへと一つ、同じく真っ黒な銃弾
を──全体にびっしりと小さな経文が刻まされた銃弾を込め直す。
「どのみち“弔い”には変わりねえ。後は事務方がいつものように収めて終いだ」
「……っ」
 案の定、後輩(シンジ)は不服そうだった。後ろからカツンカツンと付いては来るが、例
の如く自分を恨むような眼で睨んでくる気配は今回も健在だ。
 勘ですか。そう哂って非難したくて堪らなさそうな表情(かお)だ。
「ただ処分すれば(けせば)いいってものじゃ、ないでしょう」
 それだけ。思う所は明らかに色々あるのに、この若造は結局そんな台詞を絞り出した後は
口を噤んでしまった。
 やれやれ……。リョウは振り向きもせずに密かな嘆息をつく。
 所長の野郎、何でこんな時代遅れの夢想家なんぞを俺につけた?
「お前もいい加減に学べっつーの。処分するの(それ)が、俺達の仕事なんだよ」

 一世紀以上も前だ。その日世界は……蓋をされた。
 最初はちょっと辺りに靄が掛かっているな、程度の認識で人々はいつものように生活して
いたらしい。だがそれも半日も経てば事態の異常さに皆が気付き始めた。薄灰の靄はこの世
界に遍く充満し尽し、程なくしてその本当の意味を知らしめることになる。
 ──死者が、死なない。
 言葉がおかしいと思うかもしれないが、それがあの日から今日にまで至る世界の事実だ。
あの日、世界中が一年を通し薄灰の靄に覆われる事になった日以来、人々はどれだけ肉体的
に死亡していても、死なずにこの世に留まり続けるようになったのだ。
 “閉塞の日”。
 後にそう呼ばれる事になるその日以来、この世界に生きる全ての命は、死んで霊魂になる
ことが出来なくなった。
 正気を保った状態の死人達(かれら)から話を聞くに、死後脳裏に映り込んできた眩しい
何者らから『もうこれ以上捌き切れない』と言われたのだという。
 当時の世界の混乱は、それは酷いものだったそうだ。
 何せ空想上の「生ける屍」が突如として世界中に溢れ始めたのだ。最初こそ大切な人との
死別を免れたとか、神と霊界の存在証明だと歓喜する者がいたが……実際に現実に始まった
のはきっと絶望の類だった。
 狂っていくのである。死者は死んだのだ。なのに朽ちていく器から出て行けない。
 リアルゾンビ達の誕生だった。
 本来、一度死して消えていく筈の者が消えない。消えられないという事態。生者としての
理性を失った彼らは、次々に身近に寄り添っていた人々に襲い掛かっていった。そして襲撃
を受けて絶命したその者達も……また同じく生ける屍と化す。
 各地の人々は、公権力は、全くといってよいほど無力であった。ただ日が経てば経つほど
にゾンビ達の数は増え続け、街を覆い尽くす。その狂気は、かつてあった文明を荒廃させる
には充分だった。
 ……採れる方法は二つ。発狂(ゾンビか)する前に、その肉体を再起不能なまでに粉砕し
て回ること。そして無闇に新しい命を産まないこと。
 ヒトは多くを殺し過ぎたのだ──そんな言葉が、何時しかまことしやかに囁かれるように
なった。
 だがリョウ自身は、そんな感傷的(センチメンタル)な云いなど意味の薄い気休めでしか
ないと思っている。事実として死者が死ねない。放っておけば生者を道連れにする。ならば
処分するしか無いではないか。自我こそあれ、相手は“死んでいる”のだ。感傷に流されて
やるべき事を逃せば……次は自分がああなるかもしれないというのに。失うばかりなのに。
 故に現在において、従来の“弔い”は意味を成さない。
 “閉塞の日”を境に、それまでの日々は「旧世紀」と呼ばれるようになった。
 死者への追悼は何ら救いにならない事が明らかになり、自分達“葬儀屋”の仕事は大きく
変貌して現在に至る。
 死者を弔う。その標榜は変わらないが、やり方は酷く物理的だ。
 社によって多少セオリーは違うが、基本的には故人が発狂(ゾンビか)するまでに遺族が
落ち着くのを手伝い、いざ故人に理性が無くなった──生者に危害を加える危険性が高まれ
ば“処分”を開始する。
 そして自分達“葬儀屋”が今日、旧世紀以上に大きな役割を担っているのは、この段階が
存在するからだ。未だに霊魂などという観念的なものが実在するかは照明されていないが、
たとえ物理的に故人の身体を灰燼にしてしまっても、死した者の意思は暫く周囲に残存する
らしい。下手をすれば他人に乗り移る、なんて事態も起こるのだ。
 故に長い試行錯誤の末、特別な装備が開発された。白と黒、二種類の拳銃と弾丸である。
 名を弔意弾と消意弾。通称・白弾と黒弾。
 これらはそれぞれ死者を鎮める、及び「消滅」させる効果を持っており、共に専用の経文
が刻まれている。そんな経緯から、死後の現出によって信仰という旧時代の概念がいよいよ
もって錆び付いてしまった現在、専ら坊主の類とはこれら経文を弾丸に刻む職人と化しつつ
ある。
 因果なものだな……。リョウはつくづく思う。
 目の前には人を襲う人だった者、そんな現実があって。
 一方で、彼らの脅威を確実に取り除くには旧時代のオカルトに頼らなければならなくて。
 時に、不意にふわふわとした感覚。
 この時代に生まれ育った一人として、今日の“葬儀屋”として引き金をひく。
 現実(かくじつ)と虚構(ふかくじつ)が、交差する──。

(ったく……)
 車が見えてきた。今回の依頼主宅近くの空き地に停めておいたのだ。
 内心、苛々してしまう自分に苛立っていた。こいつとのこの手の問答だって、もう何回繰
り返してる?
「……分かってますよ。でも先輩は、あまりに故人や遺族の方々を無視し過ぎています。人
はモノじゃないんですよ? 確かに死者は大昔と違って脅威だけれど、弔う気持ちまで忘れ
てしまったら、僕らは何の為に“葬儀屋”なんて名乗っているのか」
 だからまた苛々した。青みかかった白の乗用車の天井をコツンと叩き、彼に振り返りなが
らリョウはシンジを睨む。
 自分は知っている。本人からも聞いたし、こいつの教育係にさせられた時も所長から直接
その経緯は聞かされている。
「何度も言わせるな。“葬儀屋”の仕事に誇りなんて必要ねぇよ。ただ死体処理が前面に出
るようになった、祈りが無意味だと判った、それだけだ」
 何でもこいつの父親は同じく“葬儀屋”として働いていたらしい。そして職務中、発狂し
た死人に襲われて亡くなったのだと。
 おそらくこいつにとって父親は美化されているのだろう。そしてその彼が最期まで務め上
げたこの仕事に憧れ、ある種の理想すら抱いた。
「貴方はまたそうやって……」
 死者を送り、生者を守る。これは崇高な仕事なんだ──。
 大方、そんな使命感。正義感。
 何よりそれを自分が為すことで父の死を「無駄」にさせない──させて堪るかという想い
がそこにはあるのだろう。本人がそれを自覚しているかはどうかまでは、定かではないが。
(俺もあと二十年若けれりゃ、或いは……)
 鍵のボタンを押して車のオートロックを解除、リョウは苦虫を噛み潰したようなシンジに
見向きもせず運転席に乗り込んだ。
「……確かに弔いってのは生きてる人間の為にやるものだ。死人の為じゃねえ。でもだから
って、みすみすそいつらが道連れになるのに立ち会う事はねぇだろ。お前の場合、プライド
の使い所がおかしいんだよ。クライアントを危険に晒してまでお祈りをさせんのか? そん
なのは一流の“葬儀屋”じゃないね。自分に酔ってるだけだ」
「──ッ」
 ちょうど、そんな時だったのである。
 至極冷静に、この後輩の綺麗過ぎる理想を改めて論破してやり、彼がぐうの音も出ず立ち
竦んでいる所へ直後、事務所からの無線連絡が入ってきたのだった。
『リョウさん、シンジさん。おられますか? 応答願います。──お仕事です。ルート75
の下弦(しもつる)付近にて玉突き事故が発生、多くの死傷者が出ています。至急現場に向
かい弔い(しょり)に当たってください』


『そちらに最短ルートと、現状手に入った画像を送ります。どうかご無事で』
 オペレーターからそう二・三追加の情報を車内の端末に送信してもらい、リョウとシンジ
は事故現場へと急いだ。
 閉塞の日から一世紀以上、あちこちにガタの来たコンクリの街並みを走る。
 空は宙は相変わらず薄灰の靄に覆われている。それでも今日は比較的クリアな方だろう。
まだ運転中の視界は確保できている。それでも……事故は起きるという事か。
「かなり規模の大きな案件みたいですね。僕達より、救急車の方が先ですよ……これは」
「ああ」
 ハンドルを回しながらの生返事。
 さっきの説教が効いたかな? リョウはそう別のことを考えていた。
 オペレーター(かのじょ)の話では、既に“公社”が自分たち複数の“葬儀屋”に死者の
処理を依頼したという。
 許可云々の方は大丈夫そうだ。だがそれは即ち、当局がこの時点で生存者捜索よりも死人
達による二次災害防止を優先している事を意味する。
 随分と……「守り」に偏重しているじゃないか。
 まぁこのご時世仕方ないとはいえ、役人という人種は変わらないなと思う。
「シンジ」
「? はい」
「お前、事故災害(ハザード)系の現場はまだ経験してなかったよな」
「は、はい。ずっとお宅訪問(みとり)の方ですね」
 一般道から、現場に続く幹線道路に入る。この後輩の返事に、リョウは軽く閉じていた唇
から内心、嘆きのような吐息を漏らした。
 ガチャリ。運転席の横に置かれた、四角いアタッシュケースに手を掛ける。
「なら今回、お前は撃つな。生存者の避難誘導に加われ。あの手の現場は……キツいぞ」

 現場は既に地獄絵図の様相を呈し始めていた。
 道路の両者線を斜めに突っ切るように広がる玉突きの惨状。大小へしゃげた乗用車やトラ
ックはその場に取り残され、怒声とクラクションが鳴り響く中、方々で火の手が上がり始め
ている。
(チッ……。こいつは想定以上にヤバいな)
 少し遠巻きの停車帯に車を停め、シンジと共に駆け出していくリョウ。
 手には先の四角いアタッシュケース、懐には死者を鎮める二丁拳銃。視線の向こうにある
幾つもの火の手は、彼に厭な記憶を呼び起こさせるには充分だった。

『サカキ!』
 もう二十年近く前だ。リョウは当時の相棒と共に、とある火災現場へ出動していた。
 ……だがそれが彼らの運命を狂わせたのである。その現場は、相棒の妻が通っていた手芸
教室が開かれていた家だったのだ。
『俺は、大丈夫だ。それより、アスカを……』
 その日妻がこの家に来ている知った相棒は、リョウが止めるのも聞かず一人水を被って火
の中へ飛び込んで行った。
 そして暫くして出てきた彼が背に負っていたのは……明らかに致死レベルの火傷を負って
焼け爛れたその妻。
『……すまん。彼女は、もう』
 ゴーグル型の検査器越しに彼女を見、リョウは静かに首を横に振った。もう彼女からは、
生体反応は検出されなかった。
『そう、か』
 どさり。ぼうっと虚ろな瞳でアスファルトの地面に倒れる妻から這い出し、相棒はにわか
に失意の色を帯びてその場に座り込んでしまっていた。
 リョウがゴーグルを取る。二人を見下ろす。
 動く余力が無いか。
 ならば、今の内に──。
『ァ、アぁぁぁああッ!!』
 その直後だったのだ。それまで文字通り死んだように動かなかった彼女が、急にビクンと
痙攣したかと思うと瞳に映っていた自身の夫を確認、そう奇声を上げると襲い掛かったので
ある。
『ぐっ──?!』
『サカキ!』
 懐へ伸ばしていた手は、白いリボルバーだった。
 だがその状況を見て、リョウはすぐに黒いそれへと手を移す。
 ガチリ。素早く取り出し、銃口を揉みあう二人の──彼女のこめかみに。
『……』
 なのにリョウは撃てなかった。手元が、震えている。
 相棒の、友の妻だ。自分もかねてより面識がある。
 嗚呼そうだ。これが俺達の仕事だ。
 でも、もう死んでいると判っていても、今ここで引き金をひけば……。
『いいんだ』
 なのに、微笑(わら)っている。職務を躊躇った相棒に、気付けば彼は覚悟を決めたよう
に穏やかだった。
『くじ運が悪かったんだよ。よりにもよって身内とはなあ。すまないな、お前まで巻き込ん
じまって。……応援を呼んでくれ。他人なら、撃てるだろ』
 ふるふる。リョウは顔をくしゃくしゃにしながら首を横に振っていた。
 それじゃあ間に合わない。お前の妻──だった死人が、今まさにお前の首筋に噛み付こう
としているじゃないか。
『アナタ、アナタ、アナタアナタアナタアナタ……ッ!!』
 壊れたように繰り返される呼び声。刹那、相棒の首筋から飛び散る鮮血。
 眉間に皺が寄った。心臓を鷲掴みにされた気がした。
 半ば自棄になる。黒いリボルバーに、引き金に力がこもる。
 ……すまない。
 言葉にならない懺悔と共に、リョウは二人に向かって──。

「た、助かっ──何だお前ら!?」
 リョウとシンジは未だ混乱続く現場へと入って行った。
 既に周囲には当局が非常線を張って厳重に通行規制を敷いていたが、リョウが見張りの警
官達に“葬儀屋”の身分を示す写真付きカードを提示してみせるとすぐに通してくれる。
「喪服……。まさか、葬儀屋っ?!」
 中にはまだ少なからず生存者が残されていたようだ。
 その内の一人に二人は近付いていく。最初はこの男性も助けが来たと、ぱぁっと顔を上げ
たのだが、すぐに彼らが救助隊ではないと知り、愕然とする。
「ま、待ってくれ! まだ死んだと決まった訳じゃない。血こそ出てるが、救助隊さえ回っ
てくれば……」
 彼のものと思しき大破した車の傍には、彼が必死になって引き摺り出したその妻子が、頭
や胸に大きな血染めを作ってぐったりとしている。
 一歩彼に近づき、シンジは落ち着かせるように務めて微笑み掛けようとしていた。
 その一方でリョウは動かない。ただ足元にアタッシュケースを置いて開き、そこから二対
のゴーグル型装置を取り出して装着、じっと彼らとその遠巻きの周囲を眺めている。
「だ、大丈夫ですよ。生きてさえいれば──」
 しかしこの後輩のそうした言葉を遮るように、次の瞬間リョウは黒いリボルバーの引き金
をひいていた。
 救助を待つ男性が、シンジが、ぽかんとこちらを見て……次に射線上に倒れ込んだ血塗れ
の誰かを見遣る。ゴーグルを付けたまま、リョウはもう一つのそれをひょいとこの後輩に投
げて寄越した。
「先、輩?」
「さっさと付けとけ。相手は一人じゃねぇんだぞ。使い方は研修でやってるな? 医療用の
本物に比べりゃ雑だが、それで生体反応の有無(あいてのいきしに)は判る」
 見れば撃たれた誰か──十中八九この事故の犠牲者が、じゅうじゅうと蒸発するように身
体ごと消えて無くなり始めていた。
 これが消意弾(くろだま)の効果である。ただ単に凶暴性を抑える弔意弾(しろだま)と
は違い、その破壊力は折り紙つきだ。
 ごくりと息を呑み、シンジは検知ゴーグルを装着した。視界は緑を基調としたデジタル画
面になるが、辺りに立ちぼうけ座りぼうけになる人々の「生死」が次々にターゲティングさ
れては判別されていく。
「事故ってのは突然のモンだ。死んだ本人も死んだ事に気付かない、受け止められないって
ケースが少なくない。だから……その分、狂い易い」
 言って、リョウは大破した車に寄りかかる男性の妻子へと近寄って行った。
 その視界は同じくゴーグル越しの緑のデジタル画面。すぐさま判別が走らされた二人から
は……生体反応は無い。遠巻きでは散発的にリボルバーの銃声がし、どさりどさりと人が倒
れていく物音がする。
 他の葬儀屋(どうぎょうしゃ)だろう。やはり既にゾンビ化は進んでいるか。
「お、おい。止めろ! 止めてくれ!」
「先輩、貴方また……」
「まだ言うか。視えてんだろ? もう死んでる。放っておけば今度はその兄(あん)ちゃん
がゾンビになるぜ」
 懐から迷いなく白、ではなく黒いリボルバーを引き抜いた。銃口は真っ直ぐこの死した二
人へと。男性が悲痛な面持ちで叫んでいた。シンジが白いリボルバーに手を掛けながら止め
ようとしてくる。
「……阿呆が。今さっき襲われたろう? 俺が気付いてなきゃ殺られてたぞ」
 そんな時だったのだ。この後輩や男性の声に揺り起こされたのか、或いはこちらの敵意を
感じ取ったのか。
 血塗れの妻子がくわっと濁った眼を見開いて顔を上げた。ひっ!? 身内である筈の男性
が思わずそう声を上げる。
 もぞっと起き上がり、奇声。
 どちらか? 一瞬狙いを決めあぐねたその隙を逃さず──撃つ。
「ああっ!」
「サチ……コウタ……」
 どうっと、ゾンビ化した直後の死人達は倒れた。
 これは特殊な弾丸である。詳しいメカニズムまでは専門外だが、これに撃たれた死人から
新たに血が飛び散ることは少ないという。
 おそらく体内(うち)に留まる設計なのだろう。
 その代わり、確実にゾンビ化した肉体を蒸発──消滅させる事ができる。
 シンジが反発しようとして、でもこちらの判断に分があると瞬時に理解して口を噤んだ。
男性も最初はカッとなったようだが、直後消意弾(くろだま)によって消滅していく妻子を
見てもう手遅れだったことを悟ったらしい。
「……悪く思うなよ。俺だってまだ生きてると判りゃあ、救助隊に託すさ。逆に生体反応が
無ければもう駄目なんだ。死んだ人間はもう元には戻らない。見た目こそややこしくなった
が、今も昔もそれは変わらない事実なんだぜ?」
『──』
 薬莢が落ちる。シリンダーをスライドさせ、弾を補給しつつリョウは言った。
 じりじりっ、見れば四方八方からゾンビ化した死人達が近づいて来ている。さっきの二発
と周りの葬儀屋(れんちゅう)に刺激されたか。
 安寧な最期など此処にはない。
 やっと車内で言われたことを理解したのだろう。この若き夢想家な部下はようやくこの場
に自分がいることの恐ろしさを悟り、震え始めていた。だがそれでも尚、彼は己を奮い立た
せ男性の肩を抱くと、その場から避難させようと駆け出していく。
 仮にも使命感に燃える葬儀屋見習いといった所か。まぁ、今はそれだけ動ければ充分だ。
(……さて)
 黒だけでなく白いリボルバーも取り出し、二丁拳銃。リョウは周りをゆっくりと取り囲ん
でくるゾンビ達に先ず弔意弾(しろだま)を撃ち込んでいった。必然、鈍いくぐもった彼ら
の声と共に、その動きが抑え込まれる。
 そして向けるは黒のリボルバー。消意弾。
 何も白弾はモルヒネ的な使い方しかない訳ではないのだ。こうした多くの危険性を相手に
する実戦において、弔意弾は補助用として大いにその力を発揮する。

 それから暫く、葬儀屋たちの銃声が事故現場に響いた。ゾンビ達が処理されていった。
 シンジや各社の下っ端が避難誘導を、当局が場を封鎖して生者(ひとびと)から此処を切
り離しておいてくれる。
 リョウも他の葬儀屋らと同じく、黒弾を撃ち込んだ。一人一人確実に。此処から外に出て
いき、新たな犠牲者を出さないように。
「──」
 車の陰に一旦隠れて空になった弾丸を再装填。ふぅと、一度深く静かな息をつく。見上げ
る空は、相変わらずの薄灰の靄。
 数は減ってきている。もう暫くの辛抱だ。
 彼は物陰から飛び出し、再び彷徨う死せぬ死者らに銃口(とむらい)を向ける。

 ……何も変わっちゃいないさ。
 今も昔も、人間(ひと)は何時も何処かで他者(ひと)を殺してきた。
                                      (了)

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  1. 2014/11/23(日) 18:00:00|
  2. 週刊三題
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
します。

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