日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「目に遭う」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:役立たず、主従、五秒】


 振り返ったら白球(ボール)が飛んで来ていた。

 その日、夕陽が辺りを照らし始めた放課後、泰(やすし)は一人とぼとぼと何時ものよう
に下校する途中だった。
 昇降口で靴を履き替え、校舎の外へ。ぐるりと楕円形なグラウンド外周を回るようにして
石畳を通り、正門へと向かっていたその時、キィンと金属音がしつつ、誰かの叫び声が聞こ
えて来たのだ。
『危ねえ、避けろっ!』
『え──?』
 だがそんな言葉にも拘わらず、彼は災難にぶち当たった。
 耳に届いたまま振り向いた次の瞬間、目の前には重力に引っ張られて迫る白球(ボール)
が一つ。避ける暇など無かった。練習中の野球部員が打ったその球は、運悪く通り掛かった
泰の下へ、その左眼へとピンポイントに落下したのだった。
 ──直後の事は、泰自身よく覚えていない。
 ただ、そのまま石畳の地面に倒れ、向こうから汗臭い人間達の激しいやり取りや地面を擦
るスパイク靴の音、やや遅れて先生らしき人達の声が聞こえていたくらいだ。
 視界は、急に真っ白になった。多分衝撃で混線したせいだろう。
 ともかく、彼はにわかに人だかりが出来る中、ややあって救急車に運ばれる事となった。
 直撃。当時はかなり危なかったらしい。
 病院に着いてすぐ、医師達の見立てにより彼は緊急手術を受ける事になった。
 そこからは、更に泰自身記憶はない。麻酔もあった筈だし、当然と言えば当然なのだが。
 それでも医師らの懸命の処置は、辛くもこの不運な少年を救った。
 術後の数ヶ月間、彼は左目に眼帯をしたまま過ごさざるを得なかったが、それでも最悪の
事態──失明にはならずに済んだのだった。

(……参ったな)
 だがしかし。
 この少年の受難は、むしろその先に在ったのである。


 最初の内は、泰もすぐには気付かなかった。ただの偶然だろうと思い、あまり気に留めな
いようにしていた。
 されど、その彼の身に起こった性質上、それは“無視”するのは難しかったのである。
 異変。もとい覚醒だった。
 何の事か? 結論から言おう。
 彼の左目にある能力(ちから)が目覚めたのだ。
 それは、ある種の洗脳のようなもの。
 その左目で以って見つめ合った相手は、彼の命令(たのみ)に不思議と逆らえない。
 いわば“服従させる眼”である。

「泰、晩ご飯何する~?」
「ん~……? 別に何でもいいけど……」
 初めは泰自身も半信半疑だった。
 だが密かにその能力(ちから)を繰り返し試してみるにつれ、確信に至っていった。
 例えば自宅リビングにいた時。その日の夜、ソファに寝転がってゲーム雑誌を読んでいた
際に母にそう訊ねられ、彼は何となく視線を上げて彼女を見返した。
「……。じゃあ、唐揚げ」
「唐揚げね? 分かったわ」
 じっと互いに見つめ合い、何となく泰は自身の好物を言ってみる。
 するとどうだろう。母は二つ返事でそのリクエストに答えたのだ。
 おっ? 泰は思った。訊いてきた時の声色は明らかに面倒臭そうだったのに、自分の手間
の掛かりそうなメニューに快諾した。しかもその踵を返す動きは何となく緩慢で、それでい
て横顔から覗いた瞳は妙にとろんとしている。
(おかしいな。俺の見間違いか……?)

 例えば父が晩酌をしている傍。その日泰は酔いで多少口数も増え、加えて判断力も鈍って
いるであろう彼に、ある交渉をしようと思っていた。
「お、親父。ちょっといいか?」
「うん?」
 なみなみと注がれたビールジョッキを片手に、父がこちらを見遣ってくる。
 一秒、二秒、三秒……。
 たっぷり互いに相手の顔を見て間を置いて、泰は次のように頼んだ。
「物は相談なんだけどさ。今月分の小遣い、ちょっと先払いしてくれないかなぁって……。
前から欲しかった新作ゲームが出てさ」
 正直言うと、泰は駄目で元々な気でいた。
 息子からの評ではあるが、父は割と厳格な性格である。勉強に必要な品ならいざ知らず、
携帯ゲーム──彼からすれば子供を堕落させるもの、とうに理解の範疇外のものに気前よく
金を出してくれるとはあまり期待していなかったのだ。
「……いいぞ」
「えっ?」
「? 頼んでいるのはお前だろう? 財布を取ってくる。幾らだ?」
「あ。うん、えっと──」
 故に少なからず驚いた。次の瞬間、父はそう言って立ち上がると、隣の部屋に引っ掛けて
あった自身のスーツの懐に手を伸ばし始めたのだから。
 戸惑いながらも、泰は先述の新作ゲームの値段を言った。するとお釣りが出るほどの紙幣
ごと寄越してくれた。
「あ、ありがと……」
 うむ。呟いて、また父はふらふらと席に戻り、酒を飲み始める。
(な、何なんだ? 親父らしくない……)
 そっとポケットにその御札捻じ込みながら、泰は内心首を捻った。

 例えば、学校のクラス教室で。その日泰は、友人の丸岡と何時ものように取り止めもない
雑談をしていた。
「そう言えば玉木。お前、トレハン4買った? 昨日発売日だったじゃん?」
「あ、ああ。そうだな。まだ買ってねえや……」
「ふふん。そうだろうなと思ったよ。ほれ」
「おっ!?」
 彼とは趣味が似ている事で親しくなった。それはゲームに於いても例外ではない。
 苦笑する泰に、丸岡はにんまりを笑うと鞄からある物を取り出してみせた。
 それは今ちょうど話題に上っていた新作ゲームのソフト。思わず泰も声が出る。先日父に
前払いして貰ったものの、何だか後ろめたくて結局使えずじまいだったのだ。
「もう買ったのか。早いな」
「まぁな。事前予約してあったんだよ」
 へぇ……。彼の手の中にあるそのパッケージを眺め、泰は小さく息を吐く。
 だから言ってしまったのだ。雑談の中で何度も、彼とは視線を交し合っていた。
「俺もやりたいなあ」
「……いいぞ。なら貸してやる」
「えっ?」
「でも俺もまだだからな。ネタバレすんなよー?」
「……」
 流石に強張った。いくら何でも気前が良過ぎる。なのに丸岡はへらへらと、しかし何処か
瞳の色彩を欠けさせた様子でソフトを泰の手に乗せてくる。
(まさか。本当に、俺の眼……)

 やっと自覚して幾つか分かった事がある。
 一つ、相手に命令を聞かせる為には、少なくとも五秒以上、自身の左目で相手と見つめ合
わなければならない。
 一つ、洗脳状態の効果は案外短い。それまでに(できれば見つめ合った直後に)こちらの
お願いをしっかり言葉で伝えるのが好ましい。
 だが泰は……自身に目覚めたこの能力(ちから)が怖かった。
 多分、何でも出来てしまう。条件さえ満たせば多少の無理融通から、支配まで。
 内心恐ろしくて堪らなかった。
 ラッキー、なんで軽々しいものじゃない。元より彼はそう気の強い性格ではないのだ。
 なのにただ数秒目が合っただけで、口にしてしまっただけでその願望が叶ってしまう。
 恐ろしかった。思いもしない怪我の功名である以上に、事実これまで何となく実現させて
しまった“お願い”への後ろめたさの方が強かった。或いはこれ以上、己の欲望が肥大して
いったらと思うと怖かった。
「ひ、姫宮さん」
「? なぁに、玉木君」
「~~ッ」
 だからとんでもない! と思った。これでも健全な青少年である。
 そうなると、思いつく使い道なんてエロ目的しかない(きまってる)訳であって……。
「い、いや! 何でもないや。は、ハハハ……!」
 つい使おうとしてしまった。出来心だったんだ。心の中で弁明する。
 実際は話し掛けておいて、顔を真っ赤にして逃げ出していた。
 クラスの気になっていた女の子に──出来る訳なかった。大体、言いなりにしてナニしよ
うとしてたんだよ、自分はっ!?
「? 玉木、何でまた眼帯してんだ? あん時の怪我はもう治ったんじゃなかったっけ?」
「……色々あんだよ。男の子には……」
 ぐったり。
 翌日、泰は自分の席で、そう一人机に突っ伏し項垂れるしかなく……。


 それから、一月余りが経ったある日の事だった。
 左目に芽生えた能力(ちから)を自覚し以来、泰は改めて眼帯をつけたままの生活を送っ
ていた。言わずもがな、無闇に相手を操ってしまわない為である。
 明らかにこの力は左目を手術した後から発現しているものであり、周囲にはまた痛む感じ
がする──かといって病院に行く程でもないと言っておけば一先ず怪しまれずには済む。
(結構混んでるな……)
 その日、泰は市街地にあるコンビニに来ていた。先払いの件で味わった罪悪感もあり、始
めたバイトの給料日であった。
 週末ともあり、一つしかないATMには何人も人が並んでいる。まぁ自分だってそうなの
だから分からなくもない。真っ正直に銀行で下ろすと手数料が掛かるし、何より締まってい
る時間がある。その意味では(信用云々はともかく)こっちの方が何かと便利だ。
 財布を片手に、泰はゆらゆらと待っていた。
 のんびりとした昼下がりの時間である。眼帯に一瞥を寄越す客や店員もいるにはいたが、
もう慣れた。それでもつい見つめ合わないよう気を留めてしまうのは最早癖ではあるが。
「らっしゃ~……」
「動くな! 金を出せ!」
 ちょうど、そんな時だったのだ。ふと季節に合わぬニット帽と革ジャンの男が数人、店内
に入って来たかと思うと、あろう事かポケットからそれぞれにナイフを取り出してレジへと
詰め寄ってきたのである。
(強盗……?!)
 女性客の悲鳴が聞こえた。振り返る店内の皆々の視線があった。
 泰も顔を引き攣らせて理解した。気弱が脱力させる身体に鞭打ち、逃げ出そうとする。
 だが時間帯も時間帯、場所も場所だけあって犯人達も知恵が回っていたのだろう。レジで
店員を脅す者と出入口で行く手を塞ぐ者、既に役割分担がなされていた。
 加えて外を見れば仲間と思しき男が一人、入口傍に一台のワンボックスカーを停めて待機
している。逃走の算段もしているのか。
「ぐずぐずするな! 金を出せ!」
「余計な真似すんなよ? ぶっ殺すぞ!」
 ひいっ!? 若い店員はすっかり怯えてしまっていた。中にいた幾人かの──勿論ATM
が空くのを待っていた客達も、逃げ道を塞がれて少なからずパニックを起こしている。
「──」
 なのに、何故だ。何故自分はこうも落ち着いている?
 奇しくも泰の立っている位置は、レジと出入口との三点を結んだ視界内にあった。つまり
盗む側・見張る側双方の犯人らを一度に捉えられる位置取りである。
(あれ? これって、もしかして……使えるんじゃ?)
 そっと眼帯を押さえる。
 嗚呼、そうだ。自分なら出来るかもしれない。
 助けられるかもしれない。
 他ならぬこの能力(ちから)で、この場の人達を──。
「……ッ、おい。強盗!」
 迷いは当然あった。無茶だという日和見な自分がぎゃんぎゃんと泣き言を吐いていた。
 でもと思う。まだバレてはいないけれど、大きな被害を出してはいないけれど、自分は危
うくこの能力(ちから)を悪用していたかもしれないんだ。悪者になりそうだったんだ。
 償い。
 そう言ってしまえば安っぽいけれど、正義の味方な(こういう)使い方なら……許される
んじゃなかろうか?
「あぁ!?」
「何だ、ガキ。てめぇから死にたいか?」
 敢えてその汚名で。
 一瞬の判断とはいえ、犯人達は上手い事全員がこちらを向いてくれた。ゆっくりと、手に
したナイフをちらつかせて近付いて来る。
 そうだ。俺を見ろ。左目を見ろ。
 目を合わせる。一秒、二秒、三秒、四秒、五秒……!
「何馬鹿な事やってんだ! さっさと店員さんから離れろ! 家族が泣くぞ。今すぐ自首し
て来い!」
 故に周りには“ああ死んだな”と思われただろう。この状況下でそんな正義感を振りかざ
した所で、結局は犯人達の逆上を誘うだけでしかない。
『……。はい』
 だが泰以外の面々にとって、信じられない事が起こった。
 次の瞬間、それまで荒々しく襲い掛かっていた強盗犯達が、急にとろんと力のない瞳にな
って返事。そのままふらふらっと店の外へと出て行ってしまったのだ。
 こじ開けられたレジの中身もそのまま。待機してた残り一人の犯人も何が起こったのか分
からず、ただ連なって道の向こうへ歩いていく仲間達を見つめるのみ。
 暫しの間、店内に沈黙が流れた。先程までの騒ぎが嘘だったかのように、軽快なポップス
のBGMだけが流れ続けている。
「──や。やった!」
「た、助かった……」
「え? 何? どうなってんの?」
「分かんねえ。でも兄(あん)ちゃんが追い払ってくれた!」
 故に、爆ぜたような喜色を。
 次の拍子には、様変わりしていた。スーツ姿の男性が誰からともなく諸手を挙げると、次
から次へと他の客達にそれが伝染していく。
 泰は苦笑いをしながらその歓声に包まれていた。
 わたわた。ようやく我に返った店員が店の奥へ駆けて行き、おそらく強盗があった旨の通
報をしに行く。犯人の逮捕とかなんかは……本職に任せればいいや。
「……ぁ」
 だからこそ、泰は気付くのが遅れた。今自分がどういう状況にあるのかを。
 見られている。それこそ普段の比ではない人数に。
 目が合っている。ここ暫く眼帯で隠してきた、例の左目も合わせて。
「やべっ!」
 故に走り出した。逃げ出した。
 何故? 褒めた称えようとする客達の掛けてくる声もそこそこに、泰は次の瞬間、大慌て
でその場から逃げ出したのである。

「や、やめろぉ! 俺を見るなあーッ!!」
 眼帯を片手に、泣きそうになりながらも。一目散に。
 少年はもう、能力(ちから)故に、そんな視線には堪えられなくて。
                                      (了)

スポンサーサイト
  1. 2014/10/12(日) 00:00:00|
  2. 週刊三題
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<(雑記)強き光とネガティブパワー | ホーム | (遊戯)制作記録 その3 【道】>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://higurasisouann.blog27.fc2.com/tb.php/511-f35ad71a
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
します。

訪問者累計

最新記事

最新発言

検索窓

月別履歴

09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -

分類/索引

【案内板】 (2)
【小説:短編】 (20)
本の蟲 (1)
硝子野不動産店 (1)
夏の日の幻影 (1)
四番線の彼女 (1)
夢視の宿 (1)
線を曳く町 (1)
炬燵の神様 (1)
三者三盗噺 (1)
色眼鏡 (1)
奴らは攻城戦師 (1)
詰め替える (1)
同じ籠の狢 (1)
二十年後の遺言 (1)
轍の先 (1)
水に流せば (1)
真夜中の御二柱 (1)
いつか見た夢 (1)
神様達の初詣 (1)
白い花束 (1)
丸の代償 (1)
【小説:長編】 (150)
Amethyst League (6)
アンティーク・ノート (3)
ユウキのヒカリ (5)
NIGHT GUNNERS (5)
レディ・ルーン-Bonds of RU'MEL- (6)
ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- (88)
死に損いのデッドレス (5)
Dear SORCERY (4)
サハラ・セレクタブル (28)
【企画処】 (344)
週刊三題 (334)
その他参加物 (10)
【資料庫】 (15)
【落書帳】 (6)
【詩歌帳】 (6)
【雑記帳】 (323)
【読書棚】 (30)
【遊戯倉】 (24)
path. (4)
decide: (3)
ユー録FW (16)

記事録

交友関係

このブログをリンクに追加する

(RSSリンク)

(QRコード)

QR

@long_month からのツイート