日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「怪物」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:雪、赤色、冷酷】


 ちらちらと雪が舞い、辺り一面が白銀に染め上げられている。
 兵士達は研究所から逃げ出した“彼ら”を追跡していた。無垢のような白に二種類の足跡
が刻まれていく。
 ザクザク。一方は彼ら兵士の靴の跡だった。
 もう一方はそんな彼らが追う者達のそれ。しかしその形・大きさは人間のものとは大きく
異なっていた。
 一つにかなり大きかった。一つに靴跡ではなく素足──足裏と五本の指の跡であった。
 近い。白を被る木々、遠く同じ色で染まりその頂を霞で隠す山々。兵士達は長銃を片手に
辺りを見渡していた。……間違いない。奴らの足跡は確実にあちらへと続いている。
「いたぞ! あそこだ!」
 そしてややあって、一人の兵士が林の向こうで逃げていく“彼ら”を発見する。
 ざらりと“彼ら”に向けて長銃が構えられた。その左右を、より距離を詰めるべく他の兵
士達が駆け抜けていく。
『──ッ』
 彼らは、明らかに人間の姿形ではなかった。
 言うなればいわゆる雪男という奴か。全身は雪に紛れる為か白銀の体毛で覆われており、
こちらに気付いて振り向き、見開いた瞳は深い青色をしている。
 ざっと数えて、十体ほどだろうか。遠目に足跡が分からない、林の中を通って逃げようと
したらしいが、そこへ辿り着くまでの足跡でその目論見は容易く看破されてしまった形だ。
「確保には生死問わずとの命だ。せめて原型だけは留めておけよ」
 パァンッ! 重なり合うように銃声が鳴った。
 雪降る以外の音に疎かったこの山に、狂ったようなわざめきが響き渡る。
 鳥が慌てて空に逃げていた。林の中の鹿や兎達が弾かれるようにして奥へと駆けていく。
 どうっ。雪男のような“彼ら”の内、半分ほどがその場に倒れていた。残りの仲間が慌て
て駆け寄り、自身の肩に担ぎ起こそうとする。
 真っ赤だった。
 白をじわじわと染める、鮮やかな赤だった。
『オリフシー、アッキス、アクブオユジアダ? イウォ!』
『アダウニ、エタタッチソ、ウィナナガイータ、テロ! オロソゥクッ!?』
 吼えていた。白銀の大男達は、仲間達が撃たれたと理解したのか、鋭い犬歯を剥き出しに
して兵士達に吼える。
 だが彼らにその言葉は伝わらない。そもそもあれが言語なのかすら怪しい。
 兵士達はむしろ大男達が足を止めたことをチャンスと捉えた。まさか銃弾一発で死ぬよう
な軟な身体はしていないだろう。リーダー格の合図で彼らはじりじりと、念には念をと円形
に、この大男達を追い詰めていく。
『ウォヤ、スキートッ!!』
 するとどうだろう。生き残っていた大男の内の一体が、その豪腕を振りかざし、地面を蹴
って兵士の一人に飛び掛かってきた。雪のクッションがあった──筈だが、この兵士はその
恩恵を受けることなく、この白銀の大男による一撃で頭を握り潰されてしまう。
『エタタテラッド! オココレマーユ、イウォ!』
「くそっ、やられた!」
「撃て! 撃ち殺せぇ!」
 そこからが怒涛だった。別の大男が何か吼えたのとほぼ同時、同僚を目の前で殺された兵
士達は一斉に銃口を向け、引き金をひいた。
 一発、十発、二十発……襲い掛かった大男はその場で鮮血を撒き散らしながら踊り、青い
目に生気を失いながら倒れた。白い地面が、首から上を潰された兵士のそれとも混ざりなが
ら汚れていく。そして銃口は更に残る四体──いや、九体に向けられた。

 暫くの鳴り響く銃声。
 その日そこに出来上がったのは、銀毛を汚された亡骸。しめて十(とお)。

「急げ! 早く林の中へ!」
 彼は仲間達と共に必死に逃げていた。
 慣れ親しんだ故郷、常冬の山。だが今は此処すらも自分達にとっては安住の地ではなくな
ってしまった。あいつらは突然やって来たのだ。
「分かってる! が……足跡が残っちまうぞ。追ってくるんじゃないか?」
「だから樹の上を通るんだ。里には遠回りになっちまうが……どうやら奴らは俺達ほど地の
身体能力は高くないようだしな」
 突然やって来て、捕らえれた先にあったのは冷たい金属の入れ物。
 どうやら奴らにとって家屋とはああいうものらしい。尤もあそこのそれは、どう考えても
自分達を捕まえておく目的に特化された──そう、家畜を飼う檻のようなものに思えたが。
 彼は時折、訊ねてくる仲間に肩越しに振り返りながら言った。
 白銀の毛が風で揺れる、皆の青い瞳がこちらを見ている。
『Got it! They're over there!』
 そんな時だった、遠く後ろから声がした。奴らだ。
 身体の上に、頭の上に黒いもふもふとした皮を着込み、長く片方が曲がった筒を握る奴ら
の姿。数はこちらの三倍以上はあるだろうか。
「拙いぞ……。やっぱり足跡を追ってきたんだ」
 自分達は知っている。どうやらあれは、奴らの使う武器らしい。あの筒の中で火を熾し、
その勢いで金属の塊を相手にぶつけるという恐ろしい代物だ。あの冷たい檻の中で、一体ど
れだけの仲間があれの犠牲になったことか。
『It is life regardless of life and death for security. Keep only the model at least』
 すると奴らは、何やら言いつつあの筒を構え始めたではないか。彼らは拙いと思った。
 半分はその場で、もう半分は左右を抜けてこちらへ。間違いなく獲りに来る気だ。
「ギャッ!」「ぐぁっ!」
 そして次の瞬間、またもや仲間達が餌食になった。白銀の毛をも貫き、身体にめり込んで
破壊する塊。その激痛に、その半数ほどが血を流してその場に崩れ落ちる。
「おい、大丈夫か? しっかりしろ!」
「くそっ! 俺達が何をしたって言うんだ!?」
 彼らは慌ててこの仲間達の下に駆け寄り、肩に彼らを担ぎ上げようとした。仲間の一人が
そう忌々しく奴らを睨みつけながら叫んでいる。
 重かった。元々自分達は体躯の大きい民ではあるが……意識の飛んだヒトの肉体とは、こ
うも重力に従順なものなのか。
 なのにだ。なのに奴らは止めなかった。じりじりと、例の筒をこちらに向けたまま、四方
を取り囲みながら近付いてくる。
「……畜生ッ!!」
 だからかもしれない。止める暇がなかった。次の瞬間、仲間の一人が自棄になって飛び出
し、奴らの一人を頭から鷲掴みにして地面に叩きつけ、握り潰したのだ。
 あっ。止める暇もなかった。怒りに任せたこの仲間の一撃は、この皮被りの筒持ちを木の
実のようにぐしゃりと潰し、辺りに白を汚す赤を飛び散らせる。
「おい、止めろ! ここで暴れたって……!」
『Damn it!』
『Shoot! Shoot up!』
 だがそこからが悲劇だった。彼が遅れて叫び、止めようとしたの同時、奴らもどうやら怒
りに駆られたらしく、一斉に筒から火を吐き出してきたのである。
 飛び出た仲間は、目の前で何十発ともしれぬ塊を受け、血を撒き散らし、その瞳に力を失
いながらどうっと倒れていった。なのに終わらない。奴らは更にその狙いを自分達に、いや
もう倒れている──まだ助かるかもしれない仲間達をも一切合財含め、向けてきたのだ。
(どうしてなんだ……? 俺達はただ、自由になりたかった……だけなのに……)

 彼の、仲間達の意識が赤く染まり、消し飛ぶ。
 そして二度と、彼らのそれが舞い戻ってくることはなかった。

 事の始まりは十数年ほど前のことだ。これまで厳しい環境、常冬の秘境とされてきた山岳
地帯に分け入った調査隊が、とある未開の新種を発見したのである。
 ここでは仮に、彼らを《雪猿》とでもしておこう。彼らの姿は、古くからの伝承にあるよ
うな、まさに雪男のそれととてもよく似ていたのである。
 人間よりも二回り以上は大きいであろう体躯、全身を覆う白銀の体毛、そして深い青色の
瞳が特徴的だ。当初は一部のオカルト好きを喜ばせるだけのニュースであったが、その存在
が明るみにされ、次第に帝国上層部がある考えを抱くようになる。
 ──これは、使えるかもしれない。
 何せ世界的に気温が下がり続けるこの時代、ろくな文明も無しにその身体一つで今日まで
生き延びてきたのだ。体毛か、体躯か、或いはその身に秘めたもっと我々の知りえない秘密
が故か? 帝国は強い興味を示した。この山岳地帯に、軍隊と学者からなる調査部隊を派遣
する決定を下したのは、そんな期待が膨らんでから程なくしてのことである。
 ──徹底的に《雪猿》達を調べよ。
 故に調査団は、山に潜む彼らを捕まえては現地本部敷地内に造られた研究所に送り、日々
細胞のサンプル採取と様々な実験に明け暮れた。

 少なくとも存亡を懸けた一大計画だった。
 年々寒波が押し寄せるこの世界で、彼ら人類が生き残る為の。

「もう我慢できねぇ! やっぱり力ずくでもあいつらを追い出すべきだ!」
「このままじゃ俺達、あいつらに何もかも壊されちまう!」
 石窟を利用したその中で、血気盛んな若者を中心とした一団が皆に訴えかけていた。
 そこは酒場。所々に竹網に包まれた灯りを下げた、丸太のカウンター席やテーブル席が並
ぶ店内。彼らは勿論、そのカウンター内で困ったような表情(かお)をする女性も、各々席
に着いて難しい表情(かお)をする中年・壮年・老人らも、皆同じ白銀の体毛と青い瞳を持
っていた。
「……落ち着いて。戦ってどうなるものじゃないでしょう? 虚しいだけよ」
「な、なんでだよ女将さん!」
「だって、だってあんたの旦那さんは……奴らに……!」
「止めんか」
 女性──酒場の主がそうまるで諦観のように言う。若者達の一団はそれにくわっと噛み付
き、彼女が自分達に与するべきだと言わんばかりの理由を口にしたが、それを老齢の男性が
ぴしゃりと制止する。
「気持ちは分からんでもない。じゃが、勝てる見込みもなかろう。あの妙な筒は脅威じゃ。
無駄にお主ら若いもんに血を流させる訳にはいかん。女将がいい顔をしないのも……分かる
じゃろう?」
「……」「でも……」
「とにかく暴発は許さん。先ずは多くを守れ、身を隠すんじゃ。地の利はこちらにある。奴
らはそう山の気候に慣れてはおらぬらしい。疲弊した所を見計らって、話し合いの場を持つ
ことができれば」
「話し合いって長老。そもそも俺達、あいつらの言葉分かんねぇぞ?」
「そうですよ。向こうだって、こっちの言ってること伝わってないみたいですし」
「うぅむ……」
 それでも、大人達も賛否両論だった。いや懐疑的だったと言うべきか。
 穏便に出て行って貰えるに越した事はない。だがその方法が、意思疎通が、そもそも自分
達も彼らにも不可能らしいということが、一同を繰り返し絶望の淵へと追い遣るような心地
さえする。
「──たっ、大変だ!」
 ちょうどそんな時だった。バタンと、酒場の木扉を開けて別の男性が転がり込んでくる。
「や、奴らが来た! また俺達を捕まえる気だ!」
 一同が目を見開き青褪めた。
 それみた事か! やっぱりぶっ倒すしかねぇんだ! そして、まるでそれが引き金となっ
たかのように、長老らの制止も虚しく、若者達はそれぞれ得物を片手に飛び出していく。

 この日、奥地の雪山は凄惨な戦場と化した。
 人間達は定期的な《雪猿(サンプル)》確保の為にやって来たつもりだった。先日新たに
彼らの集落を調査部隊が発見した事により、その内実も確認しようとしたのだ。
 だがこの日は違った。彼らを待っていたのは、鉄の鈍器や刃──人間達からすれば鈍らと
いうレベルだが明らかに武装した、若い個体らによる反撃だったからである。
 我らノウマンの民に栄えあれ! 彼らは一斉に叫んで鼓舞したが、人間達にはただの獣の
雄たけびにしか聞こえない。少なくとも敵意だと解釈した。帝国の兵として、彼らは一斉に
銃口を向ける。
 一方的な収奪から、殺し合いに変わっていた。帝国兵らの一斉射撃に倒れる白銀の大男達
だったが、それでも痛みを仲間を置き去りにしてでも、彼らは次々にこの兵達に襲い掛かっ
ていった。鈍器を振りかざし、刃を振りかざし、脳天をかち割り、首筋を刎ねる。兵士達は
刺激された。これは──闘いだ。全身に殺意を込めて、叫び、引き金をひく。

 一体どれだけの時間が経ったのだろう? 一体そこで何が起きたのだろう? 少なくとも
後日現場を訪れた追加の調査団の面々が見たのは、両者とも死屍累々の惨状であった。
 殴り殺された帝国兵、斬り殺された帝国兵、或いは何発も銃弾を撃ち込まれ白銀の体毛を
真っ赤に染めた《雪猿》達。
 住処と思しき中も荒らされていた。逃げようとしたのだろうか? だがそこには何処にも
誰も生存者はおらず、在るのは無数の弾痕と、事切れた老若男女の《雪猿》達、或いは返り
討ちにされたと思しき帝国兵であった。
 何より痛手だったのは、本部の研究所である。どうやらこの大規模な暴動に人員を駆り出
したことを切欠に、サンプルとして収容していた《雪猿》達までがその反撃に加わって──
故にやむなく射殺されたらしい。
 追加の調査団は都に詳細な報告書を送った。そして一連の計画を一旦見直すべきだとの進
言も添えた。肝心の《雪猿》達を徒に殺すような体制では、我々は得ようとするものすら得
られなくなるでしょうと……。

 秘境の山に、ようやく静けさが戻り始めていた。
 しかしもうそこに“彼ら”は見当たらない。白を汚した大量の赤の上に、またしんしんと
新しい白が降り積もるだけである。
                                      (了)


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  1. 2014/09/14(日) 18:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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