日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「刀銃戯画」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:犠牲、剣、時流】


 時代の転機とは常に光を影を生むものである。
 さる戦乱の世、無数の剣戟が舞うこの時代に発明されたものがある。銃だ。
 形状は片方が鈍角に折れ曲がった長い筒状。この中に弾丸を込め、引き金と連動する撃鉄
を叩くことでその底部に衝撃を送る。それにより内蔵された火薬粒が爆発して弾の本体部分
が敵に向かって飛んでいくというものだ。
 一体、何処の誰が生み出したのか?
 定かではないが、少なくともこの「銃」の出現は、長らく続いた乱世の構図──特に戦い
において大きな影響を与えたのは間違いない。
 その威力たるや強力である。何せしっかりと狙いを定めて撃ち込めさえすれば、それは鎧
甲冑など容易く貫いてしまうのだから。
 故に群雄割拠する諸国の領主は、その力と技術を欲しがった。戦はそれまでの剣や槍を振
るってぶつかり合う白兵戦から、如何に銃(もの)を、それを扱う頭数を如何に揃えるかと
いう方向性に移っていった。事実、拮抗が続いていた各地の版図は、逸早く銃による戦術を
確立した者へと染まっていく。少しずつ、世の中が変わろうとしている。
 ……だが、それは常に影をも生み出すのである。
 即ち放逐され始めたのであった。それまで戦場の主役だった、剣や槍を振るう武人達がそ
の立場を無数の銃──それを使う没個性の兵士らによって代替されていくさまであった。

 時代(とき)は移ろっていく。
 それでも、人と人の間に燻る火種は、中々どうして消えることはない。

「むぐ……」
 そこは街道沿いにある小さな茶屋だった。中はそう広くはないながら、行き交う人々の多
さ故か、席がほぼ埋まるほどの繁盛をみせている。
 そこの一角に、男二人連れの客がいた。
 一人は、ややつん立ったぼさぼさの髪をし、衣の下に鎖帷子を着込んでいるのが見える。
 一人は、さらりと下ろした少し長めの髪をし、やはり衣の下に鎖帷子を着込んでいる。
 加えてその傍らには、それぞれ長物と思しき布包みと二本の刀が立て掛けてある。
 故に店内を動き回る給仕の女子(おなご)も、奥で料理をする板前も、或いは周りの客達
も、皆何処か不安そうな面持ちを少なからず浮かべていた。
 ……間違いなく、武者だ。
 そう。このご時世、彼らはしばしば戦場という居場所を失い、遂には荒くれ者へと慣れ果
てるといった事例が少なくなったのである。
(兄貴)
(うん?)
(僕達、周りに見られているみたいだよ)
(ま、そうだろうな。俺達みたいなモンは、このご時世、爪弾き者だ)
 この男達はどうやら兄弟らしかった。
 最初のぼさぼさ髪な槍持ちの方が兄で、後のやや長髪をした剣士が弟である。
 二人は、客や店の者達がちらちらとこちらを気にしているのを気取りつつも、すぐには離
れなかった。むしろ兄の方は、弟に言われながらも尚、マイペースに団子を頬張っている。
「お嬢ちゃん、羊羹一つ。あとお茶おかわり」
「あ、はい……ただいま……」
 加えて彼は、さも気にしないといった様子で追加注文をする。弟からジト目が飛ぶ。
 給仕の女子は、苦笑いながらも何とか愛想を忘れなかった。
 確かに武者がいるというのは物騒だ。だけど、少なくとも彼ら二人はまだ自分達に実害を
出している訳じゃない……。
「おい! 酒はまだか? さっき頼んだろーが!」
 そんな時だった。その実害は、結局彼らではなくもっと別の人物が起こすことになる。
 店の奥にある座敷席。その一つで呑んだくれていた男がずいっと、襖から顔を出してきて
そう店員らに怒鳴りつけてきたのである。
「は、はい! 申し訳ございません。もう暫しお待ちを」
「ったくうす鈍ぇなあ。さっさとしやがれ! さっきから手足が止まってるぞ?」
 慌てて厨房に駆けて行こうとする女子。それを横目に、ふいっと男の視線が店先で菓子を
摘まんでいた先の二人に向いた。
 つぅ。場にいた面々に緊張が走る。
 男の表情が不快になるのが手に取るように分かった。
 ひっく……。どれだけ飲んだのか、酒で赤らんだ頬のままに、彼はそのまま店の土間へと
降りてくる。
「……てめぇらか。俺の酒を遅らせたのは」
 因縁だった。腰の太刀を揺らし、着崩れた衣を纏って、男は先の兄弟の方へと歩いて行っ
ていた。
 弟の方は、湯飲みを両手に静かに見返すだけだった。
 そして兄は──相変わらず団子と、あと別の給仕がそっと出しをした羊羹を口に頬張り、
さも他人事のように一瞥を遣っただけである。
「何処の誰だか知らねぇが、いい気になってんじゃねぇぞ? あア? 俺だって、俺だって
なあ……お前らと同じで、武者だったんだよ。それが、あんな訳の分かんねぇ代物が出てき
やがったモンだから……!」
 何も言ってはいない。だが同業者と分かる格好が、彼の過去を刺激してしまったらしい。
 明らかに客達が怯え始めていた。わなわなと震える男の手が、何度も何度も腰の太刀を握
ろうとしている。
「……」
 弟の方が、目を細めていた。
 だがそれは同情ではなかったのだろう。とても冷静な、故に酷く冷めた眼だった。
 ややって彼もまた、程なくして傍らの二刀に手を伸ばす。
 何があったかは大体察しがついた。この時勢だ。
 だが、この場でお前が、ここの人達に迷惑を掛けようというのなら──。
「リュウ」
 しかしそれを止めたのは、他ならぬ兄・ナガトラだった。
 リュウ。そう愛称を呼ばれた弟・リュウノスケはゆっくりと臨戦態勢を解き、代わりに皿
の上の菓子を食い終わって、ナガトラが茶をくいっと飲み干して立ち上がる。
 や、やるのか? やってしまうのか?
 故に客達が、店員達が、男に近づいていく彼を固唾を呑んで見つめ──。
「おい、勘定頼まあ。釣りはいいや。迷惑料ってことで」
 客達が一様にガクッとなってその場にコケかけた。太刀に手を掛けようとしていた男も同
様にだ。給仕の女子が一人、言われてナガトラから言葉通り請求よりも多い銭を受け取り、
目をぱちくりと瞬かせている。
「行くぞ、リュウ」
「……うん。ご馳走様でした」
 そしてそのまま、布包みを拾いながらひらりと踵を返して街道の本線へ。リュウノスケも
二刀を腰に差し直しながら、一度面々に軽く会釈をしてその後に続き、歩き出す。
『──』
 暫く唖然としていた。
 茶屋の面々は、このあぶれた元武者の男も含め、暫し肩透かしを喰らった格好になってし
まって動けない。
「……ぁ」
 でも、ややあって気付いた。給仕の女子がはたとはにかんで顔を上げる。
「あ、ありがとうございました!」
 要らぬ面倒を回避してくれて。
 すると遠くで、背を向けたままの兄の方(ナガトラ)が軽く手を振っているのが見えた。

 事件は、それから数日後のことである。とある夜の宿場町を舞台に、二つの軍勢が激しく
ぶつかり合っていた。
「奇襲だー!」
「皆、早く銃を! こいつら、げふっ──!?」
 夜闇に紛れ、幾人もの影が町に詰めていた領主の兵を襲う。
 彼らは為す術もなかった。勿論夜襲を受けて体勢が整わないからというのもあるが、何よ
りも、彼ら一人一人の錬度は“敵”に比べるとどうしても劣らざるを得なかったからだ。
「……順調だな。だが気を抜くなよ? 必ず一人に対し二人以上で仕留めろ。奴らに銃を使
わせるな。水桶も順次投入。状況を見て、私が救出開始の指示を出す」
 宿場町の外に広がる林野の向こう。そこに敵(かれら)はいた。
 最初こそ、夜闇に紛れて見えない。
 だが、時折差す黒灰の雲間──月明かりが照らす彼らの姿は、剣や槍、完全武装した武者
達であった。
 宿場町を囲む棘丸太の柵辺りでは、あちこちで兵達が倒されている。
 放ち刺さった火矢も、こちらから見ればちょうどよい按配の照明だ。騒ぎを聞きつけて出
て来る新しい兵らを、リーダー格と思われる武者が次々に指し示して合図を出し、仲間達に
襲わせる。但し成る丈殺さず、銃を水浸しにして使い物にさせなくし、戦力を削ぐ。
「これは、私達の存在を賭けた戦いだ。武者の魂をみせろ!」
『承知!』
 彼の名はトウゴウ。かつてはこの国を中心に多くの戦場で活躍した武者だった。
 武者だった。
 そう、今彼はもう武者とは呼ばれない。仲間達ともども、御役御免になってしまった。
 銃である。あの発明が、自分達の居場所を奪った。
 しかし……それ自体を恨むほど彼は単純ではない。ただ許せなかったのだ。自分達のよう
な誇り高き武人を爪弾きにしても、領内の素人を集めて兵とする。諸侯らのそんななりふり
構わぬ掌返しが。
 故に、彼は同じ志を一にする元武者の仲間達と共に立ち上がった。
 もう全く同じような、剣戟の戦は難しいだろう。無くなってしまうのかもしれない。
 だがせめて最後の最後まで戦いたかった。職業としての武人として、ひいてはその名が民
らを守るのだと自負していたあの頃の誇りだけでも……認めて欲しかった。
「トウゴウさん。牢の守りが薄くなって来ました。好機です」
「……よし、行こう。皆、奴らが捕らえた同胞達を助け出すぞ!」
 だから、この戦いには正義を以って臨んでいた。
 ただ認めて欲しい。それだけで、皆で陳情しただけで同志らを投獄した、領主から彼らを
取り戻す。……もうこの国に仕えるのは、不可能なのだろう。
 応ッ! 林野の中からトウゴウ達は飛び出していく。剣や槍、或いは弓など。武者の甲冑
に身を包んだその姿で、彼らは素人同然の筈の敵軍を突破しようとする。
「そこまでだ」
 だが、次の瞬間トウゴウらはその見立てがまだ甘かった事を知った。町の防壁寸前まで足
を踏み入れた直後、突然側面から出て来た兵らに銃口を向けられたからである。
 トウゴウらはつぅっと冷や汗を流した。見ればそこには、指揮官らしき武将が一人、顎鬚
をしごきながらこちらをあからさまに見下ろしている。
「馬鹿め。前にあれだけ抵抗されたんだ、何かしら報復行動を取ってくるだろうことは想定
済みだ。儂が詰め所にいないことで、油断したんだろう?」
「……」
 反論する意味も、余裕もなかった。その間にも、じりじりっと生き残っていた兵らも合流
して合計数十の銃口がこちらに向けられることになる。
「同じ武人として悔しい気持ちは分からんでもないがな。だがこれも時代の流れって奴だ。
生き残るため、御館様は銃の導入を急がれたのだ。……安心しろ。お前達がいなくともこの
乱世は必ず治めてみせる」
「……っ」
 その為に、民を前線に出すのか? それをさせない為の、武者(わたしたち)でもあった
のではないのか?
 トウゴウはギリギリッと手にしていた太刀を握り締める。仲間達も、少なからず同じよう
に俯き加減な表情の下に憤りを漏らしている。
「る、ものか」
「ん?」
「出来るものか。人を銃のお供(どうぐ)としてしか見ていない者に、戦いを終わらせる事
なぞできん!」
 ぶんっ。叫んでトウゴウは太刀を振るった。その威勢に、少なからぬ兵らの、銃を握る手
が震えたのが分かる。
「こうなってしまったら仕方ない……。君達には恨みはないが、押し通させて貰う!」
 そうして、彼ら元武者の面々が吼えた。銃口が向けられているというのに、一斉に得物を
引っ下げて突撃してくる。
 おい、撃て。殺れ! 指揮官の将が慌てて命じる。
 旧くなっていく剣戟と、昨今持てはやされる銃撃。
 二つの戦い方が、真正面からぶつかろうとして──。
「ほいっと」
『な……!?』
 止められていた。次の瞬間、いつの間にか柵の上にいたらしい人影の飛来によって、この
激突は寸前の所で食い止められていたのだった。
 一方は、二十人近い人数の剣や槍を、たったの腕一本──大矛で軽々と受け止めてみせて
いるナガトラ。そして。
「──」
 もう一方は、兵らの第一射をことごとく二刀の刀身で弾き飛ばし、涼しい顔をするリュウ
ノスケであった。
「……え?」
「今、銃弾(たま)を」
「嘘だろ……?」
 兵と指揮官の将、武者らの双方が唖然としていた。彼ら二人は自分達の間に流れるように
割って入り、どちらの攻撃も一切合財無力化してみせたのだ。
「大矛と二刀流の妙技……。まさか、お前達が“虎竜兄弟”か!?」
「多分な。他人がどう呼ぼうと知ったこっちゃないが。それよりてめぇら、もうこれ以上の
戦いは止めて貰うぞ?」
 記憶の切れ端を辿っていって、トウゴウが改めて驚いたように問うた。だが当のナガトラ
やリュウノスケ本人はそんな異名にはまるで関心がないようで、次の間には大矛一振りで武
者達を弾き飛ばし、そう言ってのける。
「止める……? いきなり割り込んで来て何かと思えば。邪魔をするな。私達は捕らわれた
仲間達を助けようとしていただけだ。大体、君達も武者なんだろう? 奴らを庇い立てする
気なのか? こいつらは、武人の誇りを──!」
「誇り、ねえ」
 怪訝なトウゴウの、だが程なくして首を左右に振り、語る正義。
 だがナガトラはそんな熱い彼とは対照的に、だらりと肩に大矛を引っ掛けて哂う。
「じゃあ訊くがお前、そのホコリとやらで腹は膨れんのか? 膨れねぇだろ? そんなもん
ばっか食ってたら腹壊しちまうっての」
「なっ──」
「あんたはそうかもしれねぇけどな。俺達は違う。飯の為だ。それ以上でも、それ以下でも
ねえよ。命張って、結果を残して、その危なっかしさを差っ引いても得になるくらいの金を
受け取る。それだけだ」
 故にそんな淡々とした主義(ことば)に、武者達も兵達も目を丸くして見入っていた。
 トウゴウが「でも」と言いかけては、反論の言葉が見つからずに口篭る。ナガトラはさも
面倒臭そうにため息をついてみせた。小指の先で耳を穿りながら、言う。
「……そっちの詳しい話は聞いてねぇが、受け入れろよ。銃はこれからもっと広まる。今で
こそ使ってるのは寄せ集めの素人ばっかりだが、いずれ銃版の専門家(おれたち)が出て来
ることになる。そこで本当に、俺達みたいなのは御役御免って訳だ。だから精々、あんたら
もこんな金にもならないドンパチをやってる暇がありゃあ、残りの歳月で稼ぐか、新しい商
売を見つけることを勧める。こっちは……ま、ギリギリまで稼ぐつもりだけどよ」
『……』
 ぐうの音も出なかった。トウゴウらは悔しさと、しかし無力感に打たれてその場で呆然と
している。兵らも互いの顔を見合わせていた。彼らとて、自分達──銃による戦術の広まり
が既存の武者達に及ぼしている影響を知らない訳ではない。
「な、なら何故儂らにまで剣を向ける? 貴様らが割って入らずとも、この者達の掃射によ
って片付ひあっ!?」
 だが、そうやってナガトラに皆の意識が向いていたのが大きな隙だったのだ。
 唖然からの復旧が遅れること暫し、ようやく言葉を発し、ヒステリックに問い詰めようと
した指揮官の将の首に、気付けばサラリとリュウノウスケの刀が添えられたのである。
「お、お前っ!」
「あ。動かない方がいいよ? 首と胴体が離縁することになるからね」
「そそ、その刀を放せ! 儂に何かあれば、お、親方様が……」
 慌てて銃口を向け直そうとする兵らと、涼しい顔で刃にじわじわと力を込めてみせるリュ
ウノスケ、青褪めた顔でもがいている指揮官の将。
「知らないよお。そもそも僕ら、この国とは縁もゆかりもない訳だし」
「それにあんたらは両方、元から仕事の対象だしな」
『えっ?』
 そして何より、ナガトラの一言に一同が揃った声を上げた。
 ついっと町の方を見遣りつつ、彼は何の気なしに言う。
「俺達の依頼人は、この町の人達だ。そんでもってその依頼内容は“領主の手下も、町の近
くをうろうろしている武者だった奴らも、町から追い払ってくれ”。……あんたらはとうの
昔に、領民から見放されてるんだよ」
「まぁ、兵として無理やり徴集されてちゃあ無理もないだろうけどねぇ」
『……』
 見れみれば、町の中から物陰から、いつの間にか事の成り行きを心配そうに見つめている
人々の姿があった。そういうことだったのだ。版図だの誇りだの、彼らには関係ない。彼ら
が望むのは理不尽な力に蹂躙されずに日々を営めること、ただそれだけだったのだから。
「リュウ、そのデブから兵を退かせる言質を取れ。俺はこいつらを追っ払う」
「了解~」
「……」
 そして、この兄弟はただその仕事(いらい)を受けて、ここに来ただけ。
 向こうでリュウノスケによって指揮官の将の悲鳴が上がっている。兵らが、先ほど銃弾を
弾かれしまったこともあり、互いに困ったように顔を見合わせながら戦士を喪失していくの
が見える(元より素人に忠誠心を求めること自体無理があったのだ)。
 ナガトラが矛を地面に立てる。トウゴウらは息を呑んだ。
 先ほど、ほぼ全員で掛かった一撃を易々と受け止め、弾き飛ばしたこと。それだけの膂力
を持っている事実。
 ……敵わない。悔しいが、この男にはきっと……。
「? 何だよ。ヤる気か?」
「いや……止めておくよ。そもそもこれは、彼らに捕らわれた仲間達を助け出す為に仕掛け
た戦いだったんだ。その目的さえ果たせば、私達はもうこの国を出るつもりだった」
「そっか。そりゃあ好都合だ。おい、リュウ。牢の場所と鍵探せ。それで終いだ」
「了解~」
 トウゴウの言葉に、あっさりとナガトラは後方で指揮官の将を気絶させたリュウノスケに
再び指示を出す。トウゴウは苦笑(わら)った。あれだけ使命感に燃えて戦おうとした自分
達なのに……酷く馬鹿馬鹿しい気がしてきた。
 その間も、兄弟の作業は続く。
 暫くして牢から出されたトウゴウの仲間達が連れて来られ、彼らはその目的を果たすこと
ができた。本来ならそうはさせぬとするのが兵らの立場だが、二人の強さは目の前で見てし
まっているし、何より指揮官が吼えないのだ。もう皆、積極的に動こうとも思わない。

『──では、私達はこれで。できればこんな出会い方ではなく、戦場(いくさば)で相見え
たかったものだが』
『よせやい。面倒臭い。……あんまり長居はするなよ? あのデブが死んだと知れりゃあ、
この国の手下があんたらを捕まえに動くぜ?』
 トウゴウ達は仲間達の手当てを済ませた後、町を去って行った。去り際にそんな武者根性
全開の発言をされるが、ナガトラにとっては全く嬉しくない言葉である。
 彼らの後ろ姿を見送った。それと、例の指揮官は結局最後まで屈さなかった。その点だけ
を言えば武人らしいとも言えなくもないが……それで首を刎ねられては元の子もない。

 あんたらを捕まえに動くぜ?

 ナガトラは見送ったままの町の門前で、そう静かに自嘲(わら)っていた。
 彼らだけじゃない。自分達もだ。町の人々が黙り通してくれれば話は別だが、この国では
もう仕事はできないと考えるべきだろう。
「兄貴」
 そうしていると、町の方からリュウノスケが歩いて来た。
 その手に握られているのは、ずっしりと金が詰まった布袋。十中八九、今回の報酬だ。
「……撒いてきたか?」
「うん。予想通り、町の連中は引き留めたがっていたけどね。でもこの通り、もう支払いは
済んだから」
「ああ。さっさと出発しよう(でよう)」
 支度は整えてある。そもそも荷物はいつも必要最低限だ。
 二人揃って、この宿場町を出る。弟曰く、やはり町の人々は引き続き自分達を“用心棒”
として置きたがっていたようだ。だが依頼の内容を聞く限り、分かり切っていたこと。自分
達は誰かさんみたいに、国や何処ぞの集団と心中する気なんて更々ない。

 二人して歩く。宿場町は随分と遠くなる。風に乗って、耳に町の者達の足音や声が微かに
聞こえていた。
(……この分だと、戦い(しごと)自体は早々なくなりはしねぇか)
 感情的な諦観というよりは、あくまで淡々と事実として認識するように。
 背に負った大矛(あいぼう)をちらりと見つつ、ナガトラはそろそろ銃の使い方も覚えた
方がいいかな? などと、そんな思考を巡らせていたのだった。
                                      (了)

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  1. 2014/09/02(火) 18:00:00|
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
します。

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