日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「メイカブル・ヘイト」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:ロボット、業務用、見返り】


 ある町に、地元の人間なら大抵は知っているであろうとある企業がありました。
 いわゆる中小企業です。オフィスこそありますが基本的にものづくり。町内の小高い丘を
買取り、その一部斜面を切り崩してそこに広々と工場を建てていたのでした。
 よくありがちな請け負い形態です。幾つかの大きな、或いは中級の会社から注文を受けて
部品を仕入れつつ、工場内で大量に製品を組み立てるのです。
 故にこの会社では、事務方以上に多くの従業員を雇っていました。よくある光景です。彼
らは日々出勤し、受注の多寡で柔軟にその勤務時間を変えられ、朝早くから日暮れ、日暮れ
から夜遅くまでひたすらラインに流れてくるパーツ達を組み立てる作業に明け暮れます。
 ですが……そんな作業量と社の業績は、必ずしも一致しません。
 むしろ悪いと言ってしまっていいものでした。尤も多くの企業はその綱渡りの中で走り続
けるものなのでしょうが、その歪みは多かれ少なかれ現れずにはいられません。
 この会社も、その例に漏れずでした。従業員(作業員)達はまだ、あからさまに高らかに
口に出す事はしていませんでしたが、不満を抱いていました。

『……マジか。シフト、また十連勤かよ』
『きついよなぁ。その割には残業渋るし、給料も足りないしさあ……』
『おーい、文句言ってる暇があったら休憩上がれー。まだまだ箱(パック)はたんまり残っ
てるぞー』

 忙しくさせる割には、薄給。それが工場内ラインで働く従業員達のほぼ共通した認識と言
ってよいものでした。
 特に若い世代、中年に至る年齢層に多かったようです。年季の入った従業員達はそれこそ
そんな時折漏れる不満に「だらしない」等と苦言を呈することもありましたが、内心彼らも
思う所がなかった訳でもない筈です。
 ピリピリと、少しずつ少しずつ現場の空気は悪くなっていました。
 しかし誰もその状況を如何にか出来る訳ではありません。只々、彼らは取引先──業界の
都合に右往左往しながら、日々のリソースを傾ける他なかったのです。

「──紹介しよう。今日から皆のサポートに加わって貰う作業支援ロイド、TG達だ」
 変化は、そんな日々の中で突如もたらされました。
 社長らが直々に生産ラインに顔を出し、始業前に皆を集合させたかと思うと、彼はそう思
いもせぬ新入りを連れて来たのです。
「TG1です。よろしくお願いします」
「TG2です。皆さん、お困りのことがありました何なりと」
「TG3です。社長命令により、本日から当ラインに配属となりました」
 ずらり。同じ機械仕掛けの身体、表情(かお)が何体も。
 新入りはロボットでした。見た目こそ明らかに機械と分かるフォルムをしていましたが、
両肩にサブアームを持ち、生身の人間と並んでも遜色のない、優れたAIを搭載した作業用
ロボット達でした。
 従業員らはぽかんと立ち尽くしていました。まさか自社(うち)にこんな最新鋭の機械が
導入されるとは思ってもみなかったからです。
 ですがこのロボット──TG達の愛嬌のある笑顔に、彼らは一人また一人と頬を緩めてい
きました。
 人員が増える。サポート要員がやって来た。
 これで今までよりもずっと楽に仕事ができるだろう。
 それは従業員達(かれら)にとって、喜ばしい知らせの筈──でした。

『……』
 しかし状況はそう上手くは転んでくれなかったのです。
 新しく人手が増えた筈でした。もっと楽に作業を回していける筈でした。
 にも拘わらず、作業員達(かれら)は次第に思うようになったのです。
 ──TG達(あいつら)は、本当に自分達にとって喜ぶべき存在なのかと。
 事実、ラインにおける作業は飛躍的に能率・成果共に向上したと言っていいものでした。
 何せロボットなのです。彼らは精密で、その身体が故障をきたさない限りは同じ作業を寸
分の狂いもなく仕上げていきます。それに、人間と違って疲れ知らずでした。動力源さえ維
持してやれば──始業前の充電をしっかり行ってやれば、彼らは従業員達がくたくたになる
中でも熱心に生産に勤しみました。
 何より……豊かでした。彼らはその搭載された優れたAIで、人間の作業員達一人一人の
様子をつぶさに察知、ただ作業をこなすだけでなくメンタル面でのフォローも欠かすことが
なかったのです。
 故に……眩しく映るばかりだったのです。作業員達は自分達と、彼ら支援ロイド達との能
力の差を痛感するしかなかったのです。

「ちっ。また声掛けされちまったよ。大丈夫ですか? 疲労していますか? じゃねぇよ。
お前らの所為でノルマが上がってるんだっつーの」
「ただのロボットならまだマシだったのかもしれねぇけどな……。だがなまじ表情があるわ
完璧超人だわで妙に気を遣っちまう」
「だよなぁ……。もう俺達、ここにいる意味あんのかって思う……」
「ああ。それにちょっと前に聞いたんだ。近々賃金が下がるんだってよ。実際仕事はあいつ
らの方が出来るし、そもそも人じゃねぇから金を払う必要もねえ。払ってるとすりゃあ充電
代とかメンテ費用なんだろうけど、それとこれとはぶっちゃけ別モンだしな」
「……支援なんかじゃねぇ。俺達は、あいつらに取って代わられるんだよ……」

 日に日に募る不満と劣等感。
 始めこそ歓迎していた彼らの美点も、今となっては憎々しい。
 従業員達は、気付けば毎日のように休憩所に集まってはそう互いに怨嗟の声を漏らし合っ
ていました。
「お、おい皆! た、大変だ!」
 そうして、程なくして引き金はひかれます。
「……。賃金引下げ?」
 現場にもたらされた社の方針。曰く価格競争に伴う、賃金体制の見直し。
 彼らは通達の書類と、それを片手に転がり込んできた同僚をぐるりと囲んでその非情な文
面にじっと目を通しました。
「……なぁ。俺から、皆に相談がある」
「なんだ、お前もか」
「奇遇だな。私もだ」
 殺気の篭った眼。
 彼らの意思は、この時一つになったのです。

 決行はそれから数日後の日没でした。外はすっかり日が落ちて闇に染まり、工場内は尚も
残業に勤しむTG達が規則正しく並んでいます。
 皆さんが残業をし過ぎるとお身体を壊しますから──。
 骨組みの髄まで“人”に奉仕するようにプログラミングされたその笑顔に、確かに従業員
達は一足先に切り上げて帰って行った……筈なのですが。
「? あれ、どうかしましたか?」
「忘れ物でしょうか。よろしければ私達も探しましょう」
 従業員達(かれら)は再び工場内に現れました。ぞろぞろ、ざっと数十人。それでもTG
達はあくまで朗らかです。機械のパーツ群が形作る人工の笑顔を向けて、AIを働かせて、
作業を続けつつも彼らの困り事に対応すべく人員を割こうとします。
「いや、その必要はねぇよ」
「ただ……そこでじっとしてりゃあいい!」
 いきなりでした。従業員達(かれら)が一斉にこちらに襲い掛かってきたのです。
 TG達は驚きました。そもそも彼ら人を今傷つけるべきか、その判断に迷いを生じさせた
ことが決定的となりました。
 手当たり次第に殴られました。
 鉄タイプ、金属バット、或いは工具。TG達は寄って集って彼らに攻撃を受けました。
 成す術がありませんでした。元よりこのTG達は作業用であり、攻撃能力は皆無に等しい
のです。一体また一体と、ボディというボディが大きく凹み、破損し、瞳のランプから光が
消えていきました。機能を停止していきました。
 夜の工場で、暫くの間ひたすら暴力の鈍い音が響き渡りました。一角に鬼気とした人垣だ
けが見られました。
「……ふん。思い知ったか」
「優等生ぶって騙そうとしてもそうはいかねぇ。俺達も生活が掛かってるんだ」
「しかしまぁ、こうしてみると呆気ないもんだな。所詮は“モノ”か」
「さて……ぼちぼちずらかるぞ。見張り班と工作班に連絡を。くれぐれも、慎重にな」
 そしてその跡に残ったのは……見るも無惨に一体も残らず粉々にされてしまった、TG達
の姿だったのです。

「──社長。先程、工場内に侵入者が出たとの報告が。居残り作業中のTG達が何者かに破
壊されたようです」
「そうか。……こちらの想定よりも早く事が動いたな」
 一方、夜でありながら煌々と灯る社長の執務室に、秘書が少なからず緊張した声色を紡ぎ
ながら訪れていました。
 デスクの上でノートPCを叩き、ぶ厚い書類と睨めっこしていたオールバックの社長は、
しかしながらこれを平然とした様子で受け止めます。
「予定通り、警備担当にはまだ動くなと伝えろ。従業員達(かれら)が立ち去ったのを確認
してから事後処理に当たらせる。いいな」
 はい。秘書は小さく頷いて一礼をし、社長室を去って行きました。
 また社長は部屋に一人になります。くるくると手の中で万年筆を回し、もう片方の手で擦
った顎に、その口元にゆっくりと弧を描きます。
 ──実に計画通りだ。少々上手くいき過ぎた気もするが。
 TG達の導入。しかしその目的は、額面通りの従業者支援ではなかったのです。
 言うなれば捌け口を作ること。ややもすれば酷使することになりがちな労働者達の、その
不平不満のエネルギーを、会社にではなくもっと別の──願わくば個のレベルに集束させる
こと。
 その為のTGでした。その為に優秀な作業能力で、されど無駄に人の言語を解するTG達
を選んだのでした。
 社長はほくそ笑みます。計画通りだと。ヒトですらなければ……いくらでも使い潰せる。
 ですがそんな表情も束の間のこと。彼は次の瞬間には真面目な、冷徹な頭脳を働かせ、再
び経営状態を示すPC画面内のデータ群に目を凝らします。
(さりとて、この手は繋ぎだ。何度も、短期的に使える手段じゃない)
 TGの導入費用もタダじゃないしな──。
 もう一度、でもほんの一瞬でしかなくフッと彼は自嘲(わら)い、たんたんと数度、キー
ボードを叩いて呟くのです。
「……今の内に、再建計画を詰め直さねばな」
 あくまでこれは、使い捨ての策。
 そう社長(かれ)は誰にともなく呟き、夜長の灯りの中へと、その密かな嘆息を吐き出し
たのでした。
                                      (了)

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  1. 2014/07/06(日) 21:00:00|
  2. 週刊三題
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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