日暮創庵

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(書棚)感想:吉野匠『レイン 雨の日に生まれた戦士』

書名:レイン 雨の日に生まれた戦士
著者:吉野匠
出版:アルファポリス文庫(2009年)
分類:ライトノベル/ファンタジー

青き魔剣を携えて、その男は嗤う。
名をレイン。自称世界最強の男。
ネット発異世界ファンタジー、開幕──。


こんにちは。今回は吉野匠氏『レイン 雨の日に生まれた戦士』の読書感想です。
出版元の記載でお気付きの方もおられるかと思いますが、本作は所謂“ネット小説”という
タイプのものです。元々は同氏がご自身のHP上で連載していた作品で、それが好評を博し、
当記載より先んじ2005年に単行本化、次いで2009年に文庫化された経緯を持ちます。
実は僕個人、この小説には思い出があったりするのですが……それは追々。
物語の概要は、次の通りです。

舞台となるのは、異世界の大陸ミュールゲニア。
大昔の大戦から後、長らく平和が続いたこの世界だったが、その危ういバランスの上にある
まどろみは今まさに破られようとしている。
レイグル王率いる北の大国・ザーマインによる各地への侵攻。
その食指は今、大陸南端にある小国・サンワールにも伸びようとしていた。
元よりの国力の差、何より貴族偏重が招いた民の不信、失われたに等しい人心。この国は最
早滅びの道を辿るしかないだろうと思われた。
それでも、流れ流れてこの国に仕える傭兵上がりのいち将軍──自称世界最強の男・レイン
は、不遜に嗤いながらも策を巡らせる。
義に篤く、ザーマインとの決戦に加わってしまった同僚の友を助ける為。
その昔王城内で出会った、幼き少女と交わした再会の約束を果たす為。
何より彼自身が秘める、狂おしいまでの欲望(かこ)の為。
そして彼らが再会を果たす時、サンワールの、ひいてはミュールゲニア全土が大きく変わっ
ていくことになる──そんな内容。

さて、先ずは冒頭で述べた「個人的な思い出」について語ることとしましょう。
それは他でもありません。僕は以前、書籍化する前から同氏の作品らをそのHPで読んでいた
一人だったのですよね。
当時、僕は今よりももっと、物書きのモの字も覚束ないぺーぺーの素人でした。
それこそ創作人と名乗るのはおこがましい、今ほど執筆中毒者でもない黒歴史生産パーソン。
もう大分記憶は曖昧になっていますが、とりま他人の文章を見真似ていこうとネットで検索
を掛けた際にヒットした一つが同氏だった……筈です。
思い出すとこそばゆいですね。
今回に書籍化された同作を手に取って読み進めて、嗚呼、僕はあの頃この文章に「スゲー」
の念を抱いていたのだっけ。ポジティブに取ればあれから幾年、僕もいち物書きとして力量
を磨けた証左なのか。ネガティブの取れば、あの頃のような受け取り方ができていない分、
随分と捻くれてしまったのかなぁ?とも思う……。
あれから気付けばすっかり歳月は過ぎ、実は書籍化自体は前々から聞き及んで──それ故に
少なからずが氏のサイトから取り下げられたことも知っていて、今回。
僕も今やこの拠点『日暮創庵』を立ち上げて、もそもそと中毒者なままに創り続けている。
あの頃は思いもしなかった。自分のサイトは勿論、なろうに支部、ツイッタ。ここまであち
こちに活動領域を延ばすなんてこと──。

……いけない、脱線してきました。閑話休題。本題と参りましょう。
ざっと読んでみての第一印象は「嗚呼、ネット小説だな」でした。良くも悪くも。
それだけあの頃から比べて、僕も物の数を知ってきたからなのかもしれません。自分ももさ
もさと書くようになって、ただ“憧れ”だけで物語を見つめることから多少なりとも脱皮で
きた故の感慨なのかもしれません。
ストーリーは王道の異世界ファンタジー。界隈で言う俺TUEEE、主人公最強モノでしょう。
ハーレム要素を匂わす(妙に女縁があるとか)部分もありますし、界隈全体の時系列からみ
ても、同作はその走りの一つと言ってしまってもいいのかもしれません。
(尤も僕の経験がそう認識させているだけで、客観的な黎明期はもっと以前からある?)
そういう意味で、安易に繋げるべきではないかもしれませんが、やはり今日びのネット──
なろう系小説群というのは、あの頃からの系譜を受けている(n番煎じ)なんだなぁと思い
ますね。転生だの何だの、作品個々に凝った設定が作られるものの、分析的に観ればやはり
これらはざっくりと一つのカテゴリとして括れてしまいますから。

なので、はっきり言って僕は明らかに原作連載当時より冷めています。ここ数年、なろうで
同様な系列の作品がランキング上位に跋扈するさまを遠目に観ていたから、というのもあり
ましょうが。
故に結果的に今回の評価は厳しめになりました。思い出補正は、心を鬼にして自分の中から
排除したつもりです。
文章──決して悪くはない。読み易さでいえばイージーの部類と言ってしまって間違いない
と思います(まぁラノベですし)だけども、不意に難しめの語彙が出てきたり、シーンによ
って描出のムラっけがあるように感じました。
技巧──伏線と思しき部分は易い難易度でしたね。既読な者の前知識、という部分もあるの
でしょうが、主人公の無双ぶりだけで押し切るにはもう一声二声「華」が欲しい。一方で、
連載時にはなかった言及やエピソードの補完・差し替えで物語を“一巻に収める”スマート
さはやはりプロなんだなぁとは思いました。
物語──先も言ったように、本作は王道ファンタジーと言っていい。主人公最強モノだけど
そう露骨に俺TUEEEでもないし、後半独りでいる時の葛藤や過去語りでその強さの理由、動機
といったものはちゃんと(どだいファンタジーな設定とはいえ)説明されている。
王道をなぞっている分、所謂ネット小説「らしさ」を知る分、僕にはある種の物足りなさと
いう意味でのフラットさを感じました。だけど技巧の段でも述べたように、下手に奇を衒わ
ない物語──ごちゃごちゃと設定で装飾過多でない世界観は、僕自身も含め今日びのネット
小説が立ち返る価値ありとも思います。

そしてどうやら(ネット小説系の例に漏れず)このレイン~もシリーズ化、以降数巻が発行
されているようですね。
はて、自分が過去サイトの方で読んだ部分は何処までかしら? もし食指が伸びれば当時の
記憶を掘り起こして懐かしみつつ、読み解くのかもしれません。

……うーむ。思い出話やら、そこから反発しての辛口気取りとか。
それでも僕にとっては、ネットを介した創作という切欠をくれた作品だと思います。
願わくば、これからも表現の自由と、されど好み故に争う僕らが並立する為の、棲み分けの
なされた世界があらんことを。

<長月的評価>
文章:★★★☆☆(良くも悪くもネット小説的な?足取り軽めだがムラっ気が気になった)
技巧:★★☆☆☆(比較的低難易度の伏線やら戦術要素。原典にない補完描出が付加価値か)
物語:★★★☆☆(王道ファンタジー。スマートさは好感だが、故に一方で物足りなさにも)

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  1. 2014/06/12(木) 12:00:00|
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Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

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