日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(書棚)感想:夢枕獏『陰陽師』

書名:陰陽師
著者:夢枕獏
出版:文春文庫(1991年)
分類:一般文藝/伝奇モノ

──それは、まだ人と闇がすぐ隣に在った時代。
天才術師と実直武士、妖(あやかし)まつわる事件に挑むのこと。


思うに、小説を書く時だけでなく読む時も、始めの自ら手を付け始める一歩は不可欠だとし
ても、その後は物語の方からとんとんと進む背中を押してくれれば理想なんですよね……。

そういう意味では当たりだったと思います。今回は夢枕獏氏『陰陽師』の読書感想です。
僕が氏の名前を知ったのは、これの映画版からでした(尤もこちらは小説原作とは随分脚本
が違っている──新規書き起こし?であるようなのですが)
本作は現在方々のジャンルで活動する氏の代表作の一つ「陰陽師」シリーズの第一弾です。
舞台は平安時代、人と妖が同じ闇の中で息づいていた時代の都(平安京)。
なので作中、僕ら現代人には馴染みの薄い単語がしばしば出てきます。題材が題材ゆえ当然
と言えば当然なのですが、読み解く際にはググれる環境を前にしておくのをお勧めします。
物語の概要は、次の通りです。

平安時代。闇が闇として残り、人も鬼も物の怪も同じ暗がりの下に棲んでいた時代。
そんな世の中心地である都の一角に住むのは、天才陰陽師・安倍清明。
妖かしのものに精通した彼の下には、今日もまた怪異にまつわる話が伝わってくる。
親友である武士・源博雅が持ち込んでくる他、時には大内裏・陰陽寮に属する陰陽師として
清明自ら、彼らは常人の手には負えない怪異達と相対することになる。
人ならざるもの。しかし必ずしも彼ら全てが「悪」ではなく。
天才陰陽師(とその友)は、今日も鮮やかに難事件を解決していく──といった内容。

本作は、いわゆる連作短編という形を採っています(でも読んでみた限り時系列は順繰り)
収録されている話は六つ。
『玄象といふ琵琶鬼のために盗らるること』
『梔子の女』
『黒川主』
『蟇』
『鬼のみちゆき』
『白比丘尼』の六篇です。個人的には「鬼のみちゆき」が一番面白かったかな? 本全体は
三百頁弱と少し多めですが、一編辺りの分量はそう多い方ではないので、氏の書き口にさえ
慣れればあとはさくさくと読んでいけるかと思います。
各話全体の流れは、おおよそ一緒です。
清明の屋敷に、博雅がやって来る。肴と酒をつまみながら、これこれこういう事件があると
彼が清明に話して聞かせる。そしてお前の専門領域だ、何とかしてくれないか?と頼まれ、
「ゆこう」と解決に向けて乗り出す……とった感じ。流石に全編通し同じ流れではマンネリ
だと解っているのか、腰を上げるまでの流れには多少組み替えはありますが、そんな所では
ないかと。

正直、先述したように、最初はちょっと「ぬ?」と眉を潜めながら読んでいたのでした。
そもそも本作が古典を題材にしており、馴染みない単語がちらほら出てくるというのもあり
ましたが、何よりも本編に入っていく中でピーンと勘が告げたのですよ。

“うお。癖のある文章だなぁ……”

歴史を交えた小難しい文字運びだったかと思うと、いざ清明や博雅らが登場してくるように
なると会話文がポンポンと躊躇無く連続し、短く地の文が挟まっていく。かと思えば目に映
る自然をしっとりと、しかし為りがちなゴテゴテとした装飾だらけの文章にならずにさらり
と描き進んで、またフッとポンポンと会話の流れに抜けていく──。
分量フェチな部分がある僕はこれを「変則的」だと感じました。積極的にとれば、思い切り
を良くしてやり取りのテンポを軽量化している。消極的にとれば、紙面の割に書かれた文字
がスカスカして「勿体無い」なぁと思う時がある……。
だけど、言うほど厭にはならない。それは必要な描写はちゃんとそこに収めてあって、別段
“文章を軽んじている”訳ではないと同じく解ったからなのだと思います。
(まぁ当たり前と言えば当たり前ではあるんですけどね。全頁に渡ってびっちりと文字が埋
まっているよりは、少なくとも現代の僕達は充分に余白をとりながらのレイアウトの方が慣
れ易いのでしょうし)
あと、こういうオカルト?的な題材の創作にありがちな、人間=善・妖怪=悪みたいな図式
ではない各話事件の真相というのが個人的には好みでほっこりしんみりしたものです。
映画版だと結構、天才術師vs悪の術師&妖怪達!な展開がありましたが、この原作小説では
むしろ「人間の方に非がある」ケースがままあるのですよねえ。昔の女を忘れていたとか、
無闇な殺生をしたとか、人が人を謀り殺すとか……。勿論その対応というか、怪異という形
でアプローチしてくることは(理知的に)最善ではないのですけど、十把一絡げに勧善懲悪
という紋切り型に収め切れない──“ヒトって何だろう?”という余韻が、これら物語達の
読了感を「しみじみ」と演出してくれているように僕は思います。
他にも、分析的に観れば、これは古典を題材にしたオカルトミステリーとも取れますね。
天才陰陽師・安倍清明がホームズで、その親友・源博雅がワトソンといった立ち位置。
(その天才性故に?)飄々とした清明に振り回されつつも、実直な性格の博雅の言動は時に
彼の閃きを後押しすることもある。清明にして「おまえはよい漢だ」「おまえは優しいな」
と言わしめ、作中二人のんびりと酒を酌み交わす場面が結構な割合で在る(というか、その
やり取りの後に事件の本題がという流れ)個人的には現場に二人して出掛ける前の、

「ゆこう」
「ゆこう」
 そういうことになった。

という言い回しが何気なくほぼ毎回あるのが、妙に韻を踏んでて気持ちいい(笑)
あれこれ暑苦しい小賢しい「議論」をせずとも、二人の間柄というものがふいっと滲んでい
るような気がする。言っておくがアッー!じゃない。友情です(迫真)

正直氏に関しては“妖怪ばっかり書いてる人”という認識で手に取るのを躊躇っていた節が
あったのですが、これなら僕でもまた楽しめそうだなぁと思います。
また機会が巡り合せがやってくれば、続編?の方やらも手に取ってみたいですね。

<長月的評価>
文章:★★★★☆(思い切りの良い会話のテンポあり、しっとりと自然の描出あり)
技巧:★★★★☆(謎解明部分をスマートに収める技量、癖持ちながらもくどくない文章)
物語:★★★★☆(人=善、妖=悪という図式に阿らない物語達など。ご馳走様です)


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Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

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