日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「アマゴモリ」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:雨、ヤカン、屋内】


 休日だと思って油断していたら、がっつりと二度寝してしまった。

 むくり。戸田は丈の低いベッドから、布団から這い出るように起き上がった。
 まだ意識がぼうっとする。瞼がしっかりと開いてくれない。
 寝癖でぼさぼさになった髪をガシガシと掻きながら、ベッドの上で胡坐と欠伸を。
 ぶるっとにわかに肌寒さを感じた。季節は秋に入って一月ほど経つが、いい加減半袖・半
ズボンの格好で寝るのはよした方がいいらしい。
「……雨か」
 窓の外を覗く。肌寒さの理由はすぐに分かった。
 しとしと。外は激しくはないが、一旦出れば濡れることが避けられないであろう地雨が降
り続いてるようだった。
 何となく部屋が暗いのもそのためか。道理でだらだらと寝てしまったものだ……。
 勿論、それはただの後付けでしかないのだが。
 ぱぱっと軽く、ベッドの上でブランケットを半分に畳み、戸田は素足のまま床に降りた。
 フローリングの感触が中々どうして冷やっこい。すぐにカーペットの方へ足を向け、壁際
の収納空間から服を一セット、適当に引っ張り出して着替える。
 嗚呼、面倒臭い。戸田は心底そう思った。
 どうせ今日は休みだ。雨も降っているし予定もないし、出掛けることはないだろう。なの
にこうして形だけとはいえ着替えねばならない。誰が見ているという訳でもないのに……。
「……いかんな」
 自分でも駄目人間じゃねぇかと、戸田は静かに自嘲(わら)った。
 大学進学で田舎から出、一人暮らしを始めて七年。
 何か大きな困難がある訳でもなく、何となく卒業はしたものの、結局定職に就くことはで
きなかった。気付けば……フリーター生活。自由気ままといえば事実そうではあるが、はて
さてこんな生活を続けていて大丈夫だろうかと思う。
 いけない。戸田はふるふると首を横に振って雑念を払った。
 どうしようもないじゃないか。食えているだけでも感謝しなければ。大体、そんな漠然と
ながら大きな問題を考えたって──1DKの安アパートの中であーだこーだと捏ね繰り回し
て、何かを誰かを批判してみるだなんて、何の意味もない。
 棚の上に、充電器ごと挿しておいたスマホを手に取り、戸田は時刻を確認した。
 十一時二十七分。今回もまた、朝昼一緒の食事が確定した。
 部屋の真ん中に突っ立ったままじゃ馬鹿らしい。戸田はメインスペースである居間から戸
を一枚開け、ユニットバスな浴槽傍でさっさと身支度を。
 少々乱暴に水を顔にぶっかけ、タオルで顔を拭う。髪は手櫛で充分。……そういや櫛って
何処に置いたっけ?
 口の中を数度ゆすぎ、コキコキと首を鳴らしながら外に出る。使い古したヤカンに冷蔵庫
から取り出したミネラルウォーターをたっぷり注ぐ。ガツン。そのままそれをコンロに乗せ
てガスを。何にしても先ずは湯を沸かさねば。
「あー、ぼちぼち買出しに行かねぇと……」
 流し下の収納口を開けてダンボール箱を引っ張り出すと、戸田はぶつくさそう面倒臭そう
に呟いた。
 中には焼きそば、うどん、ラーメン──所謂レトルト食品が残り五つ六つ。基本的に食事
はこれらとコンビニや近くのスーパーで買ってくる惣菜、たまに米を炊いて済ませている。
冷蔵庫の中のミネラルウォーターも大半が空になっていたし、補給の時は着実に近付いてき
ているようだ。
 まぁ、いいや……。
 焼きうどんの包装ビニルを破ってごみ箱へ。すっかり手馴れた手際で中身の調味袋を取り
出してキッチンの上に放り出しながら、もう片方の手で食器乾燥機の中から菜箸を。まだ沸
騰しない、ゆるゆると火に炙られている水に箸先を突っ込んで、発破をかけるように中を掻
き回しておく。
 それから、数分。湯が沸く。
 そのあと、数分。注いだ容器から湯を捨て、調味袋の中身と混ぜ合わせて完成。
 いつもの箸を引っ張り出して軽く「いただきます」の直後、テーブルに着く訳でもなく誰
が見ている訳でもなく、ただ半ば作業的に出来立ての焼きうどんを一心不乱に啜った。中身
はあっという間に空になる。もきゅもきゅと口の中を片付けると、戸田はさっさと容器を蛇
口の水で洗い、穴空きのステンレス板の上に放置する。

「……ふぅ」
 雨は、嫌いじゃない。
 むしろ戸田は、適度な雨音が好ましくすらあった。
 いい具合に膨れた腹をそっと擦りながら、リビングに戻ってテーブルに着き、片膝を伸ば
した胡坐の格好でぼうっと昼下がりを過ごす。
 掻き消してくれるからだ。雨音は、周囲の騒々しい雑音をその水音の中に包み込んで中和
してくれる。まぁそれでも通り過ぎる車がざばっと、小走りの誰かがびちゃびちゃと水溜り
を蹴り飛ばしていくが、遠巻きに部屋の中で聞いている分には……さほど気にならない。
 面倒臭い、というのもあるのだろうが、何より隔ててくれるからなんだろうなと戸田は思
っていた。
 家はオアシスである。
 他の誰にも邪魔されない、自分だけの城。やって来るにしたって扉がある。応えなければ
いい。自分から招くような誰かも……現実(ここ)にはいない。
『こんにちはー。戸田さん、いらっしゃいますかー?』
 そうしてどれだけ待っていただろう。昼下がりもとうに過ぎ、程なくして夕暮れになるで
あろう頃、ふと玄関のチャイムを鳴らす者が現れた。
 来たか! 戸田はサッと振り向いてその場から立ち上がっていた。その表情はそれまでの
気だるさから一転、何処となく嬉しそう。チェーンを引っ掛けたままの扉の隙間から顔を見
せたのは、大きなダンボール箱を持った配達員の男性だった。
「お届け物です。こちらにサインを」
 チェーンを外し、戸田は彼を迎えた。一緒になってこのダンボール箱を支えてやり、指し
示された伝票の一角にさらっとペンを走らせる。
 どうもありがとうございましたー。配達員は去っていく。戸田は残されたダンボール箱を
抱えて笑っていた。待ちかねたぜ。そう言わんばかりに中に戻り、鍵を閉め直してリビング
へと戻っていく。
 箱の中身は、真新しいノートPCだった。
 BTO(受注生産)。こちらが予め指定したスペックで機体を組み、送ってくれる。勿論
代金はこちら持ちな訳だが、一度こういうサービスに慣れしまうとヘヴィユーザーの一人と
してはもう市販のそれは魅力の欠片も無い。
 戸田は早速この新調したPCを解封してセッティングし、複数のUSBメモリに保存して
いた先代機のデータ諸々を移植する作業に入る。
 しとしとと降り続く雨音と合わさるように、暫しキーボードを叩く音が室内に響いた。
 慣れたものだった。戸田にとっては今回が初めてではない。だがPCが使えない時間とそ
れが戻ってくるこの瞬間は、いつも密かな高揚感を覚える。
「……よしっ」
 夕暮れ。次代機の設定が終了した。再起動の後、インターネットに繋ぎ、通話ソフト上に
浮かんだ何人もの“友人”達と、戸田は数日ぶりの再会を果たす。

“ういッス。PC復帰したよー(^o^)”

 打ち込まれたメッセージ欄から、そう彼の第一声が送信された。
                                      (了)

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  1. 2014/04/20(日) 18:00:00|
  2. 週刊三題
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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