日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「スウィーパー」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:花、地雷、幼女】


 その国はかつて、長く内戦状態にあった。
 民族紛争であった。北部から東部にかけてと、南部から西部にかけて。国内における主要
な二つの民族が、互いにその主導権を巡って争った。
 初めは……ただそれ以上でも、それ以下でもなかった筈だ。
 なのに事態は時を経るごとにややこしくなった。紛争の飛び火を嫌った周辺国がこの国へ
の介入を始めたのだ。
 加えて彼らの多くは──ある意味それが政治というものなのかもしれないが──自分達に
とって都合の良い側を応援する、という形を取った。戦いを終わらせるのではなく、どちら
が如何勝てば自分達の利益になるのか? そればかりを考えていた。どうせ台頭するなら隣
接するなら、けだし友好国の方がいい。
 何よりも事を大きくしたのは、時の大国らがそこに加わったことだ。国と地域を越えて、
やがてこの紛争は世界という名のパワーゲームの餌食になっていく。
 北方民にはとある大国が支援した。
 南方民にはそれとは別の大国が支援した。
 両者はそれぞれに同盟国を率い、かの国を激しい戦地に変えていった。紛争はこの時最早
民族対立ではなく、イデオロギーと版図という概念の下に行われるようになった。
 長い年月が経った。
 さりとてずっと殺し合いをできる筈もない。外から中から、この争いを止めるべきだとの
叫び声が上がった。民族の自決を尊重すべきだと彼らは説いた。
 しかし……事実としてこの後、戦争は終わる。だがそれはきっと、彼らの平和への願いが
通じたからではなかった。政治・経済共に各国が疲弊した。ただそれだけの事だ。後は潮が
退くように呆気ないものだった。後ろ盾を失った両陣営の戦いは急速に散発なものとなり、
やがて終戦の条約(おそすぎるピリオド)が結ばれる。

 国は、隔たれた。
 心身は疲れ果てても、憎しみは消えなかった。そう簡単に亡くした者達をなかったものに
などできぬからだ。
 国は、二つになった。
 北部から東部にかけてと、南部から西部にかけて。結局、当初対立していた二つの民族が
それぞれ自分達の国を新たに建てることで十数年にも及ぶ内戦は幕を閉じた。
 ──いや。
 本当の意味では、終わっていない。殺戮はまだ残っている。
 北部から東部、南部から西部。即ち両者のぶつかる最前線だったのは……国の内陸部。
 そこは現在も尚、当時の両軍が仕掛けた無数の地雷が埋まっている。血を流し、土地を分
かつことで得た彼ら双方の発展も、此処までには及ばない。
 無数の地雷が埋まっている。
 それだけで此処は、著しく価値の低い土地になっていた。

「……」
 その日も、レイモンは南北境界区域の現場にいた。
 かつて一つだったこの国を引き裂いた内戦。その両者の敵意の多くが当時ここでぶつかっ
ていた。そんな場所が今の自分の仕事場だ。当時生意気盛りの子供だった自分が聞けば、大
層驚くに違いない。
 土と草しかなかった。伸び放題だった。
 何せここは地雷原。下手に手を入れようとすれば、即刻命に関わりうる。
 だからこそ南北の二つの首都が経済成長に猛進している中、この内陸部だけは寂れる一方
なのだが。
(……今日も頼むよ。メアリ)
 そうして暫くぼうっと地雷原の前に佇んでいたレイモンは、この日もまた、ゆっくりとそ
の場に片膝をつき始めた。
『うん、パパ』
 それのさまはさも大地に低く低く身体を寄せ、祈るよう。
 すると不意に、何もなかった筈の空間から一人の幼い少女が姿をみせる。
 粗末なワンピースと日差しで程よく焼けた肌。だがもうこの少女は──彼の娘は、二度と
周りにその笑顔をみせることはできない。
 死んだのだ。……他ならぬ、地雷の被害によって。
『~~♪』
 少女がふわり、心持ち地面から浮くようにして地雷原の方へと歩いていく。それを父たる
レイモンは祈りの姿のままじっと見つめていた。
 舞うように、微笑(わら)うように努めるように。もう触れることのできない愛娘が人の
手に余ってしまったその場所でステップを踏む。
 するとどうだろう。彼女がくるくると道を行くその途中に、にわかに可愛らしい桃色の花
が点々と咲き始めたのだ。
 瑞々しい緑の葉にちょこんと乗せられたように、艶めく花びら。
 やがてある程度の範囲をぐるりと行って戻って来た彼女を迎えて──されど決して触れる
ことはできず、はにかみながらスッと消えていく彼女を抱き締め、レイモンは立ち上がって
いた。手には小さめのスコップと頑丈そうな金属の小箱、そして装着済みのヘルメットや安
全ゴーグル、気休めではあるが専用の防弾服。ザリッ、彼は一人ゆっくりと地雷原の中へと
足を踏み入れいていく。
「──おい、レイモンが動き出したぞ」
 そんな彼の後ろ姿を、同じ装備に身を包んだ、しかし明らかにおっかなびっくりで進む男
達が目ざとく認めていた。
 だが少なくとも、彼らのその眼に親愛のそれはない。代わりにあるのはやっかみ──強い
嫉妬からくる憎悪の念ばかりだ。
「また今日も“お告げ”を受けたみてぇだな」
「ああ。またボロ儲けされちまう……」
 レイモンも含め、彼らはこの境界区域での地雷除去を請け負う作業員だった。
 勿論、運悪く地雷を刺激して爆発、命を落としてしまうリスクは決して少なくない。それ
でも彼らがそんな作業に従事するのは、ひとえに金が欲しいからだ。リスクが高い分、この
仕事は並みのそれよりもずっと高い基礎手当てが約束されている。
「分かんねぇなあ……。こっちは探知機を地味に走らせてようやくってなのに、何であいつ
はそれもせずに地雷の場所を見つけられるんだろう?」
 使い込まれたハンディタイプの金属探知機をゆっくり左右に振りながら、男達はぶつくさ
とそんな、もう何百回と繰り返された言葉を漏らしていた。
 ──彼らは知らないのだ。
 レイモンが愛娘(メアリ)の霊から花咲くという形で地雷の埋まっている場所を教えて貰
っていることも。その彼女が他でもない地雷によって亡くなり、彼がその無念から、この地
の地雷撤去に自ら飛び込んできたという経緯(りゆう)も。
「ずりぃよ。なんで、あいつだけ……」
「あ、また一個掘り出したっぽいぞ。また成功報酬(ボーナス)だ」
「チッ。止めてくんねぇかなあ? あいつ、俺達の食い扶持を盗り尽くす気じゃねぇの?」
 勿論彼らに、メアリの姿は視えない。
 自分の為に危険に飛び込んでしまった父を憂いた彼女が、せめてと示す花も視えない。
 彼らには毎度、レイモンが有能だが不気味な作業員としてみえていた。
 毎度、シフトが入る度に現場の前で跪いて祈りを捧げ、次の瞬間、さも神の加護でも受け
ているかのように次々と地中に埋められた地雷を探し出していく。理由は未だに全くといっ
て分からないが、事実彼は最も有能な作業員だった。
 故に同僚達(かれら)は憎々しかった。レイモンという男が、疎ましかった。
 この仕事の基本手当ては確かに高い。だがその本質は他──実際に地雷を発見・除去した
個数に応じて加算される成功報酬(ボーナス)にあるのだ。
 それをレイモンという男は、次から次へと見つけてみせる。
 即ち……それは他の作業員が「儲ける」ことのできる可能性を潰す行為なのだ。
(おつかれさま。ありがとう、メアリ)
『ううん。パパこそ無理はしないで? もう止めてって言っても、聞かないんだろうけど』
(……ああ。ごめんな。私は──)
 南北両国が共同運営する事務局へ、レイモンはこの日回収した地雷を渡す。傍には、やは
り触れられぬが愛娘の霊が彼に漂い絡みつき、そうとは知らない事務局の担当者が淡々とし
た様子でこの日の成果を確認している。
「ご苦労様でした。では、局の方へ。本日の報酬をお渡しします」
 ぺこり。レイモンは折り目正しく物静かに頷き、事務局の車に乗って去っていった。
 ギロリ。そんな彼の後ろ姿を横顔を、他の作業員達は憎悪の眼差しで睨む。

 だからこんな結末は、ある意味必然の結果だったのだろうか。
 それから別の日、彼ら作業員らの何人かが境界区域郊外にある酒場で一時の安息を過ごし
ていた。猥雑。発展目まぐるしい南北の首都圏に比べ、この辺りはスラムといって半ば差し
支えのない雰囲気と実情を放っている。
「……なあ。あれってレイモンじゃねえか?」
「ん? おお、本当だ。あいつ、こういう所にゃあまり来ないと思ってたんだが……」
 ふと、仲間の一人が見覚えのある顔に気付いて皆にそう呼びかけた。
 面々が頭に疑問符を浮かべ、じっと示された方向を見る。
『──』
 間違いなかった。彼らのいる間仕切りを点々と置いたテーブル席とは逆、カウンター席の
一角にレイモンが座っている。
 それにどうやら、隣には彼の知り合いなのか、一人の東洋人の姿が見える。二人は酒を飲
み交わし、何やら熱心に話し込んでいた。
『ええ。レイモンさんのお陰で、こちらへの進出準備も進んでいます。今本社で最終調整が
行われている所でして。来年の夏辺りには稼動できるかと』
『そうですか。ああ、よかった。これでこの国ももっと平和なる……』
 作業員の男達は互いに顔を見合わせ、間仕切りの陰からこの会話を盗み聞いていた。
 進出? 稼動? この国が、平和なる?
『なるといいですね。私も、何としても成功させたいと思っています。我が社渾身の一機、
メタルスウィーパーを使えば、今までよりもっと効率的に地雷を除去できる筈です』
『──ッ!?』
 そして、彼らは次の瞬間この東洋人が(自分達の言語で)語ったその言葉に、激しい衝撃
を受けて暫しその場に固まっていた。
 スーツ姿の外国人、商売人。
 レイモン──事務局からも信頼厚い有能な現地作業員のお陰という先ほどの言葉。
 そして何より、地雷を除去する為の……機械。
「……おい。これって」
「ああ。もしかしなくても……そうじゃねぇのか?」
「レイモンの野郎……! この期に及んで、まだ俺達から食い扶持を奪うつもりかよ!」
「あんにゃろう、許せねぇ!」
「クッソ! 今更普通(ほか)の仕事に就ける訳ねぇだろーが!」
「……やべぇぞ。このままじゃ──根こそぎぶん盗られる」

 彼らの決起は早かった。それから一週間と経たない内に、彼らは徒党を組んでレイモン宅
に押し入ったからだ。
 それはレイモンにとっていつもの夜だった。一般の会社員をしている妻の帰りを待ち、共
に夕食を摂ってほっと人心地をついているそんな時だった。彼らは突然、来訪客を装って扉
を開けた妻を先ず襲い、次に異変に気付いてやって来たレイモンを取り囲んだのである。
「ネイミー! くっ……お前達がやったのか!? 誰だ? お前達はいっ──ぐっ!?」
「おいおい。あんまり騒ぐなよ。通報されたらどうするんだ」
「安心するといい。すぐにさっきの女と一緒の所に送ってやる」
 男達は黒いタオルを頭に巻き、厚布で覆面とし、各々に得物を握ってレイモンをぐるりと
包囲していた。
 重量たっぷりの棍棒、大鉈、妻を刺したと思われる幅広のナイフまで。
 レイモンはぐらりと霞む意識の中で狼狽した。殴られた。頭からだらだらと血が流れてい
るのが分かる。妻(ネイミー)は──玄関で腹を刺され、首筋を斬られ、もう既にぴくりと
も動いていない。
「ぐっ……そぉっ!!」
 何が何だか分からない。それでも彼は必死に立ち向かおうとした。顔半分を流血で汚しな
がら、それでも男の一人に体当たりを喰らわせる。
「がっ!? こんのッ……!」
 だが相手は十人以上。軍人でもない素人なレイモンが勝てる訳もなかった。
 程なくして四方八方からの殴打、殺傷。その一撃一撃は間違いなく理由不明の敵意で、彼
は遂にどさりとその場に崩れ落ちてしまう。
「……な、ぜ……?」
 虚ろになった両の眼で、血だまりを作りながら、レイモンは弱々しく問う。
 愛娘の霊(メアリ)が悲鳴を上げ、怒りに叫び、男達に飛び掛っていた。
 だがやはり彼女は触れられない。彼らには視えていない。懸命な反撃も虚しく、その振る
う拳は繰り返し、嫉妬に狂う生者達の身体をすり抜けるだけだ。
「何故? 自分の胸に聞いてみろ」
「全部てめぇが悪いんだよっ!」
「そうだよ。余計な事をしやがるからだ」
 薄れ掻き消えゆく意識の中、血塗れのレイモンは彼らに見下ろされる。
「──ああそうさ、他でもねえ。お前は“地雷”を踏み抜いたのさ」
                                      (了)

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  1. 2014/04/03(木) 00:00:00|
  2. 週刊三題
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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