日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「ノスタル=ジン」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:湖、テレビ、時の流れ】


 ここ一月ほど、街に妙な噂が立っている。
 何でも怪物が出るんだそうだ。そいつらは夜な夜な街の一角に現れ、道行く人間に問うの
だという。
『──タヨタノ高級車ノ代名詞トイエバ、ク○ウンダロウ?』
『──不朽ノ歌姫トイエバ、美地ひおりダロウ?』
 ここ数日、僕らはその遭遇談を集めているのだけど、そこには一つの共通点があった。
 古いのだ。とにかく投げ掛けられる質問──話題のネタが古い。
『おぅ? いきなり何か思えば……。はは。気が合うな、お前』
『は? 誰それ? 常識的に考えて東野カヤっしょ?』
 だから遭遇した人間は大きく分けて二通りの反応を取る。肯定か、否定かだ。そしてこの
際に応じた内容次第で、彼らが被害者になるかならないかが決まったらしい。
『ソウダヨネ。ウン。アリガトウ……』
『……知ラナイ、忘レテ恥ジナナイ。──許サナイ!』
 前者はそのまま、目の前から消え去ってしまったそうだ。何をされた訳でもない。不可解
な出来事で首を傾げたという。
 後者はその後、この相手から突然暴力を受けたという。中には打ち所が悪く、重症を負っ
て入院中の人もいるそうだ。通り魔。彼らはその被害者になった。
 分かった──微笑んだ(こうていした)のは、総じて年配世代だった。
 分からなかった──嘲笑った(ひていした)のは、総じて若年世代だった。
 だから巷に、一連の連続通り魔事件の噂が広まるのに、そう時間は掛からなかった。

 夜道を歩く時は気を付けろ。若い奴ほど気を付けろ。
 奴らは突然、現れる。奴らは突然、試してくる。
 奴らは怪物だ。明らかに人間じゃない姿形をした、機械の怪物達だ。
 懐古主義者の……怪物だ。

「──さぁ、調査開始よ!」
 正直言って気が進まなかった。何で僕らが折角の休日を使ってまでこんな事をしないとい
けないのか? もう毎度の事だけどため息をつかずにはいられない。
 場所は街の少し外れにある湖。周りは鬱蒼とした雑木林で覆われていて、地元の人間でも
知らなかったり気付かなかったり、そもそも足を踏み入れないような場所だ。
「うぃ~ッス」
「お、おー……?」
「……」
 そんな場所へ、僕達四人は来ている。
 朝も早くから元気に、そう昴はぐっと右手を上げて、一人威勢のよい声を放っていた。
「なぁに? 皆そのテンションの低さー! もっと気合い入れていかないと。それでも栄え
ある暁高(あかこう)新聞部ー?」
「無茶言わないでよ……。休日に呼び出しておいて」
 なので当然、僕ら三人の士気は低い。
 そもそも自分達は同好会への格下げを回避する為に名前を貸した程度、実質の幽霊部員な
訳で。今回だってそうだ。確かに例の連続通り魔の件は今巷を騒がせているけど、だからと
いって僕達がわざわざ首を突っ込む理由にはならない。
「ま、あれだけ騒ぎになってるからなー。天城先輩が食いつかない訳ねぇよ」
「そりゃあ……。うん」
 だけど同じ状況に立たされている親友は案外気楽そうだ。僕がこれで何度目になるか分か
らない小言を彼女に言ってみても、こいつの方はへらへらとしている。
 思えばこいつ──と亜輝ちゃんは、そもそも昴と直接的な接点はなかった。
 ただ僕という友人を介して、その年上の幼馴染である当人に目を付けられた格好だ。肩に
肘を置かれてそう笑われる。……何だかんだでこの兄妹は、僕にとっても良き緩衝材になっ
ているのだろうか。
「あ、あの……部長さん。聞きたいんですけど、そもそも何故此処なんでしょう?」
「おっ、いい所に気付いたねぇ亜輝ちゃん。そう、そこなのだよ!」
 そうして(やっぱり僕の嫌味など聞いちゃいなくて)昴は上機嫌になっていた。きょとん
と小首を傾げて訊ねてくる亜輝ちゃんの質問に、びしりっ! と指をさし示して言う。
 ごそごそ。すると昴は肩に引っ掛けていた鞄に手を伸ばし始めた。
 中には自前のカメラ──本人曰くジャーナリストの命──の他、付箋だらけのメモ帳やら
お菓子やらが詰め込まれている。
 遠足かよ……。それでも彼女が最終的に手を取ったのはそれらではなく、地図だった。
 近くの手頃な切り株の上に広げて見せてくるに、どうやらこの街一帯の地図らしい。更に
目を凝らしてみると、そこには点々と赤マジックでいくつものバツ印が書き込まれている。
「……何これ」
「え? 分かんない? 現場だよー。通り魔事件があった現場。このITの時代にあっても
一番信頼できる情報を得るのは足な訳よ。あ、ちゃんとご本人達から承諾は取ってるから無
問題だよ? 問題ナッシング」
 びしりっ! 今度は親指を立てて僕に無駄に満面な笑みを浮かべてきた。
 嗚呼、そういう事か。
 まぁこれでも新聞部の部長だし、唯一熱心に取り組んでいる人物な訳だし、内心はその熱
意に感心はするけれど、あくまで表情には出さないように努めておく。
「ほわ~……凄いですね。全部部長さんが調べたんですよね?」
「そうだよ~? ね? もっと褒めていいんじゃよ?」
「……」
 だけどそんな僕の“配慮”とは裏腹に、亜輝ちゃんはとっても素直だ。それがこの子の良
い所ではあるんだけど……ほら、そうやって甘やかすとまた図に乗る。ああっ、だからドヤ
顔してこっち見んな。鬱陶しい……。
「はは。まぁ先輩の頑張りは一先ず置いといて。それで、これが何だって言うんです?」
「おっと、そだね。話を戻そう。陽輔君には見えないかな? この印、一個一個は一見バラ
バラだけど、全体を繋げて見てみれば──」
「あっ! 円になってます。全部、一つの円の中に収まってるように見えます!」
「ご名答~。そうなんだ。あたしも地図と睨めっこしてて気付いたんだけどね。少なくとも
あたしがアポを取った──まぁ実害を受けてない人も結構いたんだけど──被害者達はね、
皆ある場所を中心とした円の範囲内で被害に遭ってるの。それが……この湖って訳」
「……。はあ」
 だからわざわざ僕達を連れ出した訳だ。休日の、家でゆっくりとしていたい日に。
 僕は改めてため息をついていた。もう今に始まった事じゃないけど、昴が嬉々として僕に
声を掛けてくる時っていうのは、大抵こうして厄介事に巻き込んでくる時な訳で……。
「だから、通り魔の犯人──怪物ちゃんはきっとこの辺りを生活拠点にしていると思うの。
今日は皆で痕跡を捜索、あわよくば本人を捕まえちゃおうと思いまーす!」
 そして、また性懲りもなく宣言してくる。亜輝ちゃんだけが、純粋にぱちぱちと控え目な
拍手をしてながら、そう立ち上がった昴を見上げている。
「……大丈夫、なのか? それって」
「……僕に聞かないでよ」
 流石に物騒なワードが混ざってきて、そう親友もこっそり僕に訊ねてきた。
 またため息をついてしまう。やれやれだ。……何も、知らない癖に。

 結局それから、僕らは手分けして湖周辺を探索することになった。
 僕、昴、陽輔と亜輝ちゃん。流石に亜輝ちゃんを一人で行かせるのは、昴の無茶ぶりに巻
き込んでしまうのは忍びなかったからだ。そこは実兄である陽輔にも賛同を貰えた。ただ昴
には「星司って、亜輝ちゃんには甘いわよねー。……そういう趣味?」と、他に人がいなけ
れば拳骨の一発でもお見舞いしていた口撃を受けてしまったけれど。
(はぁ。めんどい……)
 それでも僕は渋々、もう腐れ縁だと半ば諦めて皆と一旦別行動を取っていた。がさがさ。
伸び放題の草木が足元を見え辛く、邪魔をしてくる。
(何でまた来なきゃいけないんだよ……)
 実はと言うと、僕は以前からここを知っている。それは趣味と実益を兼ねた、あまり他人
には自慢もできないことなのだけど。
 ──最初は、偶然の発見だった。その日は用事があって夜、自転車でこの近所の道を通っ
ていた帰り道だったのだけど、そこで一人、夜闇に紛れてこっそりこの雑木林に足を踏み入
れようとしている人影を見つけてしまったのだ。
 結論から言えば、不法投棄だった。
 いつからそんなスポットになっていたのだろう? 僕には分からない。だけど少なくとも
その頃には既に、この湖と林周辺は処分に困った家電などが捨てられていく場所として認知
されていたらしい。
 あの日の夜も、その男性はトラックで運んできた古いテレビを、雑木林に持ち込んで捨て
去って行った。僕はただそれを正義感を発揮して咎める訳でもなく、なのにこっそり後をつ
けて一部始終を目撃するだけ目撃して、その日は足早に帰ってしまったのだ。
 ……だからだろうか。気付けば僕は、折につけてこの場所に一人、こっそり足を運ぶよう
になっていた。
 念のため言っておくが、自分も不法投棄をする為──ではない。やましい事には多分変わ
りないのだろうけど、一応僕はそういう連中とはむしろ逆のことをやっているのだと思う。
 要するに、ジャンク漁り。捨てる神あれば拾う神あり、とでもいうべきか。
 このご時世、テレビや冷蔵庫、電子レンジなどといった家電製品は実際処分に困る。それ
は今や家電だけに限らずPC関係、オーディオ機材などにも関係してくるから、持っている
使っている人には少なからず頭の痛い問題だろう。
 だから、とでも言うべきか、僕はここに足を運んでいた。こっそりとこの湖に周囲に林に
踏み入っては捨てられた機械類を物色し、使えそうなパーツを持ち帰るのだ。素人には大き
過ぎるゴミかもしれないけど、僕のような機械弄りを愛好する人種にとってはこういう場所
は宝の山でもある。元々の所有者は捨てる気で置いていったのだから、僕が有効活用したっ
て文句を言われる筋合いはない筈だ。……あまり他人に自慢できないというのは、つまりそ
ういう内容だからで。
(あ。これまだ使えるな。こっちも──)
 だから正直、義憤を抱くような資格なんてないことくらい重々承知しているけど、腹立た
しく思う。
 捨てることなんてないじゃないか。昔はさておき、今は買い取りサービスなり中古屋なん
て探せばいくらでもある。資源の循環という意味でもそこに処分を頼む方がよっぽど世の為
人の為になると思うんだけど……中々どうして素人にはハードルが高いのかもしれない。こ
れは例だけど、以前PCに詳しくない伯父さんが「何処の馬の骨とも知らん相手に気安く渡
せるもんか」と不機嫌になっていた。行政に連絡して引き取って貰う、その手数料をケチる
ことと並んで、この手の不法投棄がなくならない原因の一つだと僕は思う。
「……」
 そもそも、何でそんな簡単に捨ててしまうんだろう?
 確かに古くなればガタは来るし、色々時代の変化に追いつけなくなるのは分かる。いやら
しい言い方をすれば、ずっと同じ物ばかりを使われていては、商売にならないってのもある
けれど。
 それでも……刻んできた筈だ。少なくない時間を一緒に過ごして、僕らの人生に喜怒哀楽
を添えてきてくれたもの達の筈なんだ。
 機械に感情なんてない。所詮は道具だろうって言われればどうしようもないのだけど。
 だけどものを捨てて何も感じないという事は、それまで一緒に刻んできた記憶(おもい)
も一緒に棄てて、さも始めから無かったことにしてしまうに等しい──新しく、彼らに都合
の良い記憶で歴史を上書きしてしまうような乱暴さでもある訳で……。

 そうして気付けば、結構長い時間をぼんやりと湖周辺の探索、もといガラクタ漁りに費や
してしまっていたらしい。
 昴の「おーい。一旦集まろっかー」の呼び声で我に返り、僕達は合流した。
 大方お互いの成果を確認しようと思ったのだろう。だけど趣味と実益がこっそり兼ねてい
る僕はともかく、陽輔はとうに暇を持て余していたようだ。亜輝ちゃんも、陽輔の袖をちょ
こんと取って瞼がとろん。まぁ朝早くからだったから無理もない。
「で? どうだった? 何か見つかった? 犯人のアジトとか、足跡とか」
「ないッスねぇ。あるのはあっちこっちに転がってる粗大ごみくらいですよ」
「うん……。人が住んでいそうな感じではないです。隠れ家のような場所も、見た限りでは
なかったですし」
「……ま、そうだろうな」
 昴が希望を託して訊ね、されど対する二人からは期待したような回答はない。
 むーっと、彼女は不服そうだった。ちらっと僕の方を見てくる。
 確かに使えそうなパーツの目星などはつけていたけど、まさか今日ここで持って帰る訳に
もいかないだろう。……疲れた様子の亜輝ちゃんの言葉に同意する体で、そう呟くだけに、
例の如くスルーするだけにしておく。
「おっかしいなあ。あたしの勘が告げてるのに~。ここが臭うって言ってるのに~」
「ああ、先輩のいつもの……」
「……ジャーナリストを名乗ろうが何だろうが、勘ってだけで根掘り葉掘り訊かれちゃいい
迷惑だよ」
 うんうんと唸りながら、昴はその場をうろうろしていた。
 とんっ。そうして何気なく前に出した手に触れたのは……大きな一本の樹だった。湖の中
少し行った浅瀬小島に生えている樹。だけど、季節の所為もあるのかもしれないけど、その
あちこちに広がった枝には蕾の気配をみることはできない。
「この木……ばっくり割れちゃってますね」
「ああ、本当だ。てっぺんからかち割られたみたいな……」
「だねぇ。雷、かあ。何もなしにこんな風になるとは思えないし」
「……」
 湖のほとり。陽輔や昴の言うように、大きく引き裂かれて痛々しい焦げ痕を残す古木。
 僕らは暫くその場に立っていた。この木をぼうっと見上げていた。
 そうだ。その見立ては合っている。
 これはあの日、僕がここで──。
『──?』
 そんな時だったのだ。不意に背後から、ばしゃっと大きく水音がしたのは。
 ほぼ同時に僕らは振り返る。そして……その物音の主を見て、驚愕で立ち竦む。
『……』
「でっ──」
「出たぁぁぁーっ!?」
 怪物だった。単なる都市伝説だと哂い、侮っていた人間なら間違いなく後悔するだろう。
狼狽するだろう。
 それらは明らかに人間の姿形をしていなかった。
 いや、ざっくり括れば「人型」ではある。だけどその身体を成しているのは、おおよそ人
とは呼べないもの。
 冷蔵庫に扇風機、或いはぬいぐるみ。
 打ち棄てられたと思われる汚れてあちこちにガタの来た、それらジャンクがさも合体した
かのような身体の怪物(それ)が、今僕らのすぐ向こう、水面から起き上がってこちらに近
付いて来ようとしていたのである。
「おいおいおいおいおい! マジかよォ!?」
「ほほ、本当に、お、おお、お化け……」
「~~ッ!? ~~ッ!」
 なのに、なのにこの幼馴染(ばかやろう)だけは感動していた。
 事態が普通じゃないと顔を引き攣らせ、或いは恐怖で震えだす陽輔や亜輝ちゃんにも気を
留めず、この好奇心の塊はぱぁっと瞳を輝かせて一人ずんずん、こいつらの方へ近付こうと
さえしている。
「先輩!?」
「ぶ、部長さん、危ないですよ!」
「あはは。大丈夫大丈夫。あたしは間違ってなかったんだ。噂通り、怪物達(はんにん)は
実在したのよ」
 二人の叫びも聞かずに、昴はニッと笑ってこの怪物達の前に立ちはだかっていた。
 古い冷蔵庫やらレンジが組み合わさったような真四角な怪物。
 扇風機から無数のコードが延び、触手のように手足を作っている怪物。
 或いは古びたぬいぐるみ同士が合体し、人間サイズの不気味なテディベアとなった怪物。
 そんな三体が迫ってくる。
「それに、今までのケースから考えるに、先ず──」
「避けろ! 昴!」
 だから僕は叫んでいた。
 嗚呼、やっぱりか。同じ通り魔の犯人なら、問い掛けてくる古臭いネタを否定さえしなけ
れば危害を加えられることはないと踏んでいるんだ。
 だけど……間違ってる。だって此処は──。
「え? って、わぁっ!?」
 ばしゃんと大きく水飛沫が上がった。だけど今度のそれは怪物達のものではなくて、驚い
て転がった昴のものだ。
 質問なんて投げ掛けられなかった。
 ただ一発、間合いに入った瞬間振り下ろされたのは、三体からの攻撃で。
「侵入者ヲ発見」
「我々ヲ再ビ、葬ル心算ト考エラレル」
「排除スベシ」
「えっ? えっ? ちょっと、話が違うじゃない!?」
「当たり前だ、ここは奴らの巣なんだぞ! これが普通の反応だろうが!」
「……星司、先輩?」
「お前、何でそんな事を」
 亜輝ちゃんが、陽輔がきょとんとした顔で僕を見つめていた。だけど悪いがもう一々応じ
ていられない。本当はさっさと形だけ満足させて帰したかったんだけど……仕方ない。
「──ッ!」
 駆け出していた。
 前へ、昴の方へ。もう一度、彼女を攻撃しようとしている怪物達の下へ。
「来いっ、ジン!!」
 取り出したのは……箱。小さな黒ずんだ箱だ。
 それを僕は駆けつけながら懐から取り出し、その名を呼んで投げ付ける。
『──』
 後は、一瞬だった。
 ようやく恐怖を、自分の置かれた状況を理解して身を縮め、目を瞑った昴。その頭上に投
げ付けたそれは瞬時に展開──本来ならあり得ない体積の変化を経て、巨大な人型に変形、
彼女に襲い掛かる怪物どもを殴り飛ばしたのである。
「……?」
 水と泥が混じって叩きつけられる音が辺りに響き渡る。目を瞑っていた昴が、恐る恐ると
目を開けてこの瞬間、何が起こったのかを把握しようとする。
「全く……。僕はただ好きな事をして、平凡に暮らせればそれで良かったんだ。なのに」
 ばしゃりっ。くるぶし辺りまで水に使ってしまった。やって来た僕の隣で昴が目をまん丸
に開けて見上げてくるのが分かる。後ろにいる陽輔も亜輝ちゃんも、同じように“僕ら”を
見ているのが気配で分かった。
「せ、先輩?」
「お前……何だよ、それ……」
「……」
 幼馴染と親友とその妹と。面倒臭いけど、守らなきゃいけない奴らがここにいる。
 僕は立っていた。傍らで一緒に立つ、無数のジャンクで出来た鋼鉄の戦士と共に。
 ベースは多分、テレビだ。ブラウン管型の古いテレビ。それが頭部分になっていて、今も
アナクロでデフォルメな──いわゆる顔文字のキリッとした表情(かお)になってそっと両
腕を拳を構えている。
「せ、星司」
「全部、お前の所為だからな。全く……世話かけさせやがって」
 ざぱり。一度は盛大に吹っ飛んだ怪物達が起き上がり、こちらを睨んでくる。どう見たっ
て臨戦態勢だ。嗚呼、やっぱり面倒臭い。
 幼馴染(すばる)の恐る恐るといった声も、今の僕には集中を乱すものでしかない。
 ただ僕らは構える。今までそうしてきたように。誰にも褒められる訳でもない。
 だけど自分達にしか現状、できそうにないのなら、やるっきゃないんだろうと思うから。
「──行くぜ、相棒。また頼むよ」

 それはずっと前、この湖でジャンクを漁り、懐古主義者な通り魔の噂が立つ前のこと。
 僕は出会ってしまった。暗がりの空、大木に落ちた雷。瞬間辺りに散らばるジャンクに迸
った不思議な力、次々と動き出し叫ぶ、ジャング仕掛けの怪物達。
『私、ハ、マダ動ケル──』
『哀シイ……。モットズット、一緒ニ居タカッタ──』
『嗚呼、悔シイ。モウ要ラナイノカ。私達ハ、棄テラレルベキ過去ナノカ──』
 蠢き出した怪物達。確かにその時は何が何だか分からなかった。
 だけど、知った。やがて彼らは街の人々に求めていった。在りし日々──今や過ぎ去って
しまった「当たり前」の記憶、それらを再び人と共有すること。だけどもう……時代は彼ら
を忘れようとしている……。

「──了解シマシタ。マスター」
 そんな時、僕は出会った。
 あの日偶然、使えるパーツを引っ張り出そうとしていた中古のテレビが、同じように突然
変形して、目の前でこんな継ぎ接ぎだらけのロボットになってしまったんだ。

 僕らは身構える。多分、お互い罪滅ぼしにでもする気なんだろう。
 捨てられたもの達を戻すこともせずに、こっそり泥棒みたいなことをしていた僕。
 そんなある意味同胞なあいつらを、自らの意思で止めようと“思った”ジャンクの戦士。

 だからあの日、僕は知ったんだ。
 モノにだって……きっと心は宿る(ある)んだってことを。
                                      (了)

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  1. 2014/03/30(日) 18:00:00|
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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