日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(書棚)感想:奈須きのこ『空の境界』

書名:空の境界
著者:奈須きのこ
出版:講談社文庫(2007年)
分類:ライトノベル/伝奇モノ

言わずと知れた?新伝綺の怪作。
長き昏睡から目覚めた少女、そして彼らは一体何を“見る”──。


型月ファンの皆さん、お待たせしました(何
今回は奈須きのこ氏の『空の境界(からのきょうかい)』の読書感想となります。
同氏はゲームブランドTYPE-MOONを起点としたシナリオライター、作家として知られており、
本作に加え『月姫』『Fate』シリーズなどがそれら代表作と言えるでしょうか。
尚、この講談社版ノベライズは上中下巻の三冊立てで構成されているのですが、自分はつい
「とりあえず」と上巻のみを買って帰ってきた(基本的にまとめ買いはしないのです……)
ので、感想自体はその部分──作中区分で「俯瞰風景」「殺人考察(前)」「痛覚残留」の
エピソードに限ったものとなります。予めご了承ください。
では、物語の概要は次の通りです。

二年の昏睡状態から目覚めた主人公・両儀式。
彼女を待っていたのは昏睡前からの友人であったという黒桐幹也、そして自身の記憶喪失。
他ならぬ自分自身、だがかつての記憶をなぞるだけの生活に式は内心苦悩する。
加えて記憶喪失によって得てしまった「ものの死(終わり)を視ることができる眼」が彼女
とその周囲の者達を様々な怪奇なる事件へと誘っていく。
幽霊、魔術師、超能力、血筋の異能──。生きていながら「死」に傾斜する“異常者”達と
対峙しながら式は何を思うのか。そして式が昏睡状態に陥った“事故”の真相とは──?

正直言って、読み始めた最初十数ページで思ったことは。
「嗚呼、これはいい厨二病ですね(褒め言葉)」でありました。
何と言っても表現回しが臭い。敢えて捏ね回した描写、台詞とでも言うべきか。けれど全体
の文体はゴテゴテしている訳でもなく、読み易いといえば読み易い部類。強いて言うならば
キャラクタらが推理をし合う場面で長台詞になるくらいで、まぁそれはミステリ要素がある
物語である以上、特段マイナスだとは思わない──自分の中でネガティブとポジティブな評
が拮抗しぐらぐらと終始揺さぶってくる、そんな印象でした。
それでも、結局一晩で丸一巻分を読み切ってしまったのは奈須氏の描く世界観か。
僕も最初の段階で気付いたことなのですが、本作は“時系列を敢えてバラバラにしてある”
のですよね。加えて視点・場面の切替が他の小説群に比べて多く、ものを読み慣れていない
人間にとっては十中八九それだけでストレスになると思います(※注意喚起も兼ねて記述)

『多分、それが足切りを兼ねてるんだと思う。ほう読み進めてきたか、なら続きを教えてや
ろう──そんな感じで作者は書いてるんじゃないか』
とそんな返答をくれたのは(ずっと以前に既読であるらしい)とある物書き仲間さんの弁。

どうやら、僕はそこで足切りに遭わずに済んだようです。確かに順繰りでないのはむず痒い
のでしょうが、同じくらい続きを読もう・読み取ってやるという気を起こされたので。
実の所、本稿の最初に明記した通り、上巻だけでは物語の──特に両儀式の昏睡するに至っ
た真相がはっきりとしません(少なくともただの“事故”によるものではなさそうですが)
……とにかく混ぜこぜなのですよね。
良く言えばスマートに、悪く言えば不親切に、ただならぬ世界観。幹也が勤める?人形工房
の主は「魔術師」であるらしく、式も女性と男性の二重人格(解離性同一性障害)者だった
という設定つき。それだけではなく登場する各事件の黒幕?達は何かしら“異常”な心や力
を持て余している。──そんな奴らを、式は殺そうとする。自身の空虚な生を実感する為に。
こうして感想をばと筆を執っていますが、正直言いましてさてどう纏めたものかと考えなが
らの本稿です。
それだけ煩雑としているのか──いや、それでも文章はサクサクとしている部類。医学的な
アプローチからのやり取りも節々にあり、とかく言い回しが(呑む込むに)難しい……。

なので、とりあえず印象に残った・気になった部分を列挙していくことで今回は感想記事に
代えたいと思います。
一つ、場面の切替が多用されている点。きのこ節というそうですが、僕はまだ慣れ切れない
感がつきまといました。読み易さ(文章全体のリズム性)が確保されているものの、一人称
における独白──思うことを記す部分でこちらを置いてけぼりにしている、キャラの価値観
で突っ走って斜に構えてという格好が目立った気がします。
(故に厨二病と称される訳ですが。でも自分も通ってきた(いる)道なので棚上げして哂う
こともできないと自覚できてしまう分、何とも決まりが悪いですね……)
一つ、これも先述ですが、時系列が意図的にバラバラにされている点。曰く足切りではない
かとの弁でしたが、あまり僕個人は(食い付いた一人なれど)感心はしませんね。長い物語
だからこそ惹き付ける技巧を……とでも思ったのでしょうが、散在する独白的文章と相まっ
て無闇に「(分からない)読者を切り捨てる」ことをやっているような気がして僕は宜しく
ないなぁと思ってしまいました。
(いわゆる型月信者と言われるファンとそうでない人達の差が出る一因かな?と。勿論厨二
的なテイストと個々人の精神的年齢がどれだけ符合するかという面もありましょうし、文化
芸術ってものも「解る奴だけ解ってろ」な精神がなきにしもあらずではありますけど……)
一つ、これはほう巧いな思った点ですが“異常者”に対する作中のアプローチです。
常識というチャンネル以外で生きてる人間がそれ(常識・一般社会)で生きている人間によ
って異常者とされる。チャンネルが違うから前提(共通認識と人々が信じ込んでいる)価値
観がそもそも違っている。多くはその複数の──「常識」と「その他」のチャンネルを使い
分けてるから見分け難いのであって、それらその他チャンネルには常識にはない法則・力学
がある為、それが傍からみれば異能となる……僕の頭程度でざっくりと理解しようとすると
こんな感じです。
仮にその他チャンネルしか持って生まれなかった人間は、常識が通用しない。厳密には元か
らそんなものがない。チャンネルに流れる番組(ルール)が違うから。だから精神異常者と
して見られ、扱われ、監禁されたりもしてきたし、狂人──作中表現曰く“存在不適合者”
である。社会に「存在してはいられない」存在……。暗澹というか、普段ぼんやりと考えて
いる諸々の人々や世界の抱える齟齬というか、そういうものに一つの型が示された気がして
僕は「おお……」と思ったのでありました。

間違いなく、曲者。
だけども上巻だけでは明らかにされないこの物語を──残る中・下巻もまた買って来ようと
思っている自分が、乗せられてるなぁと思いながら、今はいます。
(※追記:12/12 中巻読了
     01/21 下巻読了、および技巧評価・物語評価に星+1)
 面白かった。でもやっぱり難解?だった。ただ人を選ぶのは間違いないだろう。
 長大というのは、こういうさまを云うんだろうなぁ……(自省→苦笑)


<長月的評価>
文章:★★★☆☆(リズムの良さで+、言い回しの衒学さで-。だが総じては読み易い部類)
技巧:★★★★☆(図的な時系列崩しなどに耐性を以って臨めば、がっつり伝奇系ミステリ)
物語:★★★★☆(多めな独白・価値観にどれだけ共鳴できるか。個人的には中下巻に期待)

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  1. 2013/11/17(日) 15:00:00|
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Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

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