日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「楽園の種」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:種、少女、兵士】


 その日もレンはいつものように起床し、いつものように身支度を整え、いつものように兵
舎を出て仕事に出掛けた。
 とは言っても下っ端の兵士の彼のそれといえば、専ら雑用と見回りである。
 先に夜通しの番をしていた他の同期らと労をねぎらう言葉、引継ぎの言葉を交わして交替
し、温かみも何もない城内を巡回するのだ。
 だからだろう。兵役に就いてからというもの、レンは気付けばそこが気に入っていた。
 元々実家が農家だから、というのもあるかもしれないが、そこだけは他の場所よりも心を
和ませることができた。
 庭園であった。巡回コースの途中、中庭に整備された庭園である。
 そこには四季折々の観葉植物を始め、城内で自給自足をする為に野菜や果物が多数栽培さ
れており、自分達も主に食堂でその恩恵に預かっている。
「……今日も一日元気にいこうな」
 厳密に言えば、此処まで見回りをしなくてもいい。
 だが中庭もコースに含まれているのだから。うんそうだ。レンは毎回そう言い聞かせ──
言い訳をして複数並ぶ温室もチェックする。
 朝の光を受け、作物達が静かに佇んでいた。一つ一つ眺め、手に取り、我が子のように微
笑みを向けてやりながら挨拶をする。今日も一日頑張ろうと思う。
(──ん?)
 そんな最中のことだった。
 ふと自身が立つ畑の列、畝(うね)の向こう、温室の奥窓の方に何か物陰があるのに気付
いたのだ。
 まさか……侵入者? 思いもしなかった、思考の中からとうに追い払ってしまっていた可
能性を慌てて引き寄せ直し、腰に下げた剣に手を掛ける。そっとそっと、相手に気付かれな
いように物陰の方へと近付いていく。
 もしそうなら逃しはしない。
 明朝から王城に忍び込む不届き者──いや、俺のささやかな楽しみに水を差す輩め。
「……は?」
 だが、レンは次の瞬間呆気に取られることになる。
 そこには曲者などはいなかった。少なくとも敵意ある存在は。
「つぼ……み?」
 そこにはでんっと在ったのだ。
 明らかに異様な大きさの、ぷっくりとぱんぱんに膨れ上がった花の蕾が。

「──惚れ薬?」
 それは十日ほど前のことか。レンは兵舎で同室の友人・リオンからこっそり、小さな薬瓶
のようなものを渡された。
「ああ。魔道研の知り合いから仕入れた一品だ。お前にやるよ」
「な、何でそんな物を俺に……」
「なんでってお前、親友が背中を押してやろうってんじゃねぇか。メアリさん、狙ってるん
だろ?」
「ばっ──!」
 慌ててレンはこの友の首根っこを掴み、ぐいと引き寄せた。そのまま廊下の物陰に引っ張
り込んで周囲に誰も来ていないことを確認する。
「馬鹿言ってんじゃねえ。メアリさんとは庭園の手入れで知り合いになっただけの……」
「その割には随分と仲良くなってるみたいじゃんか。可愛いし、ちいっと大人しい所はある
がいい娘だし、お似合いだと思うけどなぁ?」
 からかわれているのは重々承知だった。だがレンは顔を真っ赤にしたまま言葉にならず、
口をぱくぱくとさせている。
 メアリは自分と同じく王城に仕える者達の一人──メイドの少女だ。
 特に庭園での作物栽培の当番もしているようで、ある時巡回ついでに作物達に声を掛けて
いる所を見られ、以来農家の出としての知識や経験でしばしば彼女の相談に乗っている。
「いいからいいから。国民の義務とか何とかで無理やり来させられてんだ、ちょっとくらい
いい思いしてもばちは当たんないと思うぜ?」
「……」
 だから、迷った。
 使うべきか、使わないべきか。
 いや、そもそも彼に突き返すべきだったのだ。確かに彼女のことは……いい子だなとは思
っているが、そういうやり方でハートを射止めるなんてのはやっぱりおかしいと思う。
(まぁそこで押し留まってたりするから、何かにつけていつも貧乏くじを引かされるのかも
しれないけど……)
 結局、件の惚れ薬──と紹介された小瓶をレンはポケットに突っ込んだままこの日の巡回
に来てしまっていた。
 友人からのお節介とはいえ、またも断り切れなかった自分がどうにも情けない。
 また例の如く庭園の中。いつもなら自然に囲まれホッと一息をつける空間の筈が、この日
に限ってはそうもいかなかった。
 そっと、小瓶を取り出す。無色透明……いや、よく見ると少しだけ桃色がかった液体。
 まさか使おうなどとは思わなかった。効くか効かないか以前に、そんな怪しい代物を彼女
に使うなんて危険過ぎるではないか。
(……いや、そもそもこれどうやって使うんだよ)
 ハッとその事に気付いて苦笑いし、そして大きく脱力した。
 自分が飲むのか相手に飲ませるのか? そんな事も訊いていなかった。或いはあいつは話
していたけれど忘れてしまったか。
 だが好都合だと思った。卑怯な思考だとは自覚していたけれど、これで──。
「あ、レンさん」
「……ッ!?」
 ちょうどそんな時だった。ふと温室の入り口が開き、メイド服姿の女性──メアリが穏や
かな笑みを浮かべてこちらにやって来ようとしたのだった。
 それだけなら、いい。だがレンはこの時とんでもないミスをしでかした。
 彼女の登場に驚いた拍子に、手の中の瓶をうっかり落としてしまったのである。
 土の上でも容赦なかった。パリンと小気味良く瓶が割れる音がし、気付いた時にはもう、
薄桃の液体がすぐ足元の野菜の花を濡らしてしまっていたのだ。
「どうかしました、レンさん?」
「あ……いや」
 まさかレンは惚れ薬の瓶がなどと言える筈もなく。
 その場を言葉を濁し、こっそり後でとりあえず破片だけは綺麗に掃除したのだが……。

(──どうしてこうなった)
 よもやあの薬を浴びた花が、こんな明らかに異常な生育をするとは思ってもみなかった。
 正直、レン自身も忘れかけていた。友人の要らぬお節介だった、彼女とはこのまま良い友
達でいられれば充分自分は幸せなのだとそう言い聞かせていた。
「元からこういう野菜……な訳ないよな。俺だってみたことのない形だし……」
 なのに目の前の現実は遠慮なく突きつけてくる。やたらめったらにぱんぱんに膨れた巨大
な蕾が、がっちりと固く閉じて真下の畝(うね)すら押し潰さんとする勢いだ。
 レンはちょんちょんと蕾を指先で突いてみる。結構しっかりしていた。
 堅さで連想すればカボチャだが、そもそもあれは実の部分だ。何よりこの蕾の大元で同じ
く伸び放題になっている花も、黄色ではなく鮮やかな桃色をしている。
(まさか……)
 レンは故に目を見張り、全身が強張るのを感じた。
 いや、他にどんな理由があるというのか。
 こんな見た事もない花にしてしまった原因は、やはりあの──。
「どど、どうしたんですか? これ!?」
 そんな時だった。ざりっと土を踏む音がしたかと思うと、レンの後ろから聞き慣れた声が
驚愕の声が響いてきた。
 振り返れば、やはりメアリだった。水をやろうとしていたのだろう。その手にはジョウロ
が握られている。
「……俺が知りたいよ。さっき来てみたら、こんなことになってて……」
 まさか惚れ薬の話はできないしな……。
 目をぱちくりとさせて隣にしゃがみ込んでくるままにし、レンは彼女が同じくつんつんと
この巨大な蕾をおっかなびっくりに突いてみるのを見守っていた。
 わっ……。存外の堅さと独特の温もりに彼女は驚く。何故か頬をほうっと染める。
 それから暫く、彼女は再度突いてみたりそっと撫で回してみたりと、色々この蕾を検めて
いた。もしかしたら驚き以上に好奇心が勝っているのかもしれない。そしてレンは、そんな
純朴な横顔をする彼女に、内心ドキドキしてしまう。
「一体何なんでしょうか? 私達、特別な肥料を与えた覚えはないんですけど……」
「あ、ああ。そうだね。突然変異とか育ち過ぎとか、なのかなぁ……?」
 至って真面目に、メアリは小首を傾げて考え込んでいる。そんな彼女の隣で、レンは内心
慌てながらもそう取り繕っていた。
 こんな過剰生育なんてあるもんか。思いこそすれど、自分がしでかしたかもしれない事と
断言できない現状を鑑み、結局言葉を濁したまま苦笑いをする。
(リオンの野郎……。部屋に戻ったらこってり搾んねぇとな……)
 こんな言い方はよくないかもしれないが、ぶちまけた相手が作物でよかった。もし彼女に
ぶちまけて、おかしなことにでもなったらと思うと……。
 レンはこの後振りかかるであろう面倒事を脳裏に描くと内心嘆息をつき、そうかの友も道
連れにしてやらねばと考え始める。
「──ぁ」
 だが彼のその想像は、ややあって全く足りなかったのだと思い知らされることになった。
 はたとメアリが小さく声を上げた。レンもハッと我に返ってその視線に倣う。
 ……ひび割れ始めていた。あれだけ丈夫な蕾が、少しずつ勝手に割れ始めていたのだ。
 唖然。二人は放り出すことも逃げ出すこともできず、只々この状況を見つめるしかない。
どんどんひびが入っていく蕾。それはまるで、殻を破らんとするひよこのような──。
『──』
 そして、砕けた。丈夫な蕾という名の殻を破り、中から何かが出てきた。
 二人は目を丸くしてその場で腰を抜かした。彼女だけはと半ば無意識に腕を突き出し、庇
うように抱き寄せて身構えた。
 しかし予想外過ぎたのである。
 中から現れたそれは吐き出された種子でもなければ、ビックサイズなひよこでもない。
 生まれたままの──そう、生まれたままの姿の……小さな女の子。
 頭には綺麗な桃色の花が咲いていた。厳密には、濡れ髪の頭頂部から生えていた。
 レンもメアリも唖然としている。彼が咄嗟に抱き寄せる格好になっているにも関わらず、
二人はその事にも気付かず驚きの余り硬直している。
「……ぱ」
「ぱ?」
「……パパ。……ママ」
『えっ?』
 にっこりと笑顔。ぼうっと互いを見つめてからの第一声。互いの顔を見る二人。
『えぇぇ──っ!?』
 するとこの女の子は、確かにそう二人を見つめてから笑うと、言ったのだった。


 こうなると、成り行きは必然、てんやわんやになる。
 その日は一先ずメアリが女子寮に連れて帰り、世話をする事になった。
 勿論、それで騒ぎにならない筈がない。レンが後々で聞いた所によればそれは黄色い声の
オンパレードだったらしい。
 確かに頭に花が生えている以外は普通の女の子だ。何より無垢で、人懐っこい。
 メアリの女子寮の同僚達は、一晩でこの謎の幼子の魅力に虜となってしまったらしい。大
らかというべきか、それとも彼女達の母性が刺激されたのか、少なくともこの件に関しての
味方は得られたと楽観できるのかもしれない。
 ずっと名無しの娘という訳にもいかないので、名前をつけることにした。
 最初の発見者だからか、その大役はレンに委ねられた。リオンや男性側の同僚も野次馬よ
ろしく集まる中で、レンは唸った末に……「ハナ」と名付けた。
 捻りも何も。少なからず場の面々は思ったようだが、当の幼子・ハナ本人は気に入ったら
しかった。自分も子供が出来たらこんな感じなのかな……? つい悪くないなと思いながら
レンは無邪気に擦り寄ってくるこの幼子にぎこちない笑いと撫でを返してやる。
『よかったじゃねぇか。まさか娘っこまでこさえるとは思いもしなかったが』
『んな訳あるか! 大体お前の所為だぞ? 今はメアリや他のメイドさん達が世話してくれ
てるが、このまますんなり城の一員にって訳にはならんだろう』
『まぁな……。お前らの話からするに、おそらく偶発的に生まれた魔法生物ってところなん
だとは思うが……』
 勿論、そのまま状況に流されていいとまでは考えなかった。
 親友(リオン)など一部の者にだけは真実を打ち明け、ハナが生まれた、その原因究明と
今後の対策を何度となく話し合う。
 そうしている内に日々は過ぎていった。ハナも持ち前の愛くるしさで城内の自分達下っ端
に大いに愛された。庭園で作物と会話しその恵みに感謝する際の相方が、これまでの一人か
ら二人に増えた。
 幸せを感じていなかった、といえば嘘になる。だが不安はあった。
 この子は魔法生物の一種だという。メアリに抱かれ笑い、泣き、眠り、頭の花さえ見なけ
れば人間と何一つ変わらないその子は、一体何故自分達の前に現れたのだろう?
『──まさか、リオン君に提供したあの惚れ薬が子種になるとは』
 くくく。暫くして友人に案内された魔道研究所でレン達を迎えたのは、そう掴み所のない
感じのする研究者の女性だった。
『こ、こだ……!?』
『……真剣にお願いします。あり得るとすれば、俺があの日ぶちまけてしまった貴女の薬が
原因以外に考えられないんです』
 最初こそ代物が代物だけに話せなかったが、状況が状況だけにずっと隠し続ける訳にもい
かなかった。メアリは顔を真っ赤にし、ハナは周りの様子が飲み込めずにきょろきょろして
いたが、レンが大真面目にこの女学者に詰め寄ると、彼女はスッと目を細めてから言った。
『……乗り掛かった手前、いち研究者として、勿論真相究明には協力させて貰うさ。だがね
レン君、メアリ君。少なくともその子は君達を親(マスター)として認識している。……私
は、彼女がより多くの人々にとってよき生命となることを希望するよ』

 それでも、やはりささやかな幸せはすぐに壊れるものなのか。
 ハナという娘のような存在が“生まれて”から暫くして、ある事件が起きた。
「お? ハナちゃんも一緒か」
「おいおい……流石に場所は選べよ。あんまり見せつけてくれちゃうと──」
「違うって。城でパーティーがあるとかで、今夜はメアリ達も忙しいからさ。留守番してろ
って言っても聞かなかったんだよ……」
 季節は秋を終えて少しずつ冬を迎えつつあった。
 レンは語る。王宮では今日も贅沢な宴が催されるらしい。
「……お偉いさんは何を考えてるかねぇ? よりにもよってこんな時に」
「言うなよ。こっちはこっちの仕事をこなすだけだ」
 だがレンら王城の兵士はその夜、対極的な場に置かれていた。
 ──最近、城下で猛威を振るっている盗賊団を討伐せよ。そんな指令が、ほんの先日に発
されていたのだ。
 城内勤務の兵まで駆り出されないといけないほどなのか? レン達は最初こそ疑った。
 しかし兵役の期間にある自分達にそれらを撥ね付けることなど到底できる筈もなかった。
 結局、自分達はお上の駒でしかない……。
 どうにも心許ない防寒着の襟をぎゅっと立て、レン達は寒空の下、夜の街を数班交替で巡
回し始めた。ハナはその間、詰め所で休んでいるメンバーに見てもらうことにする。
「パパ、何処行ったの~?」
「レン──パパはお仕事中だよ。戻ってくるまでお兄さん達と遊んでような~?」
「やだよぅ……」
「ははは。お前、嫌われてるな」「……。ショックだわ……」
「だって……パパが危ないの。皆が鳴いてるの」
「あん? 何を──」
「おい、大変だ! 賊が、賊が出やがったぞ!」

 レンは寒空の下、意識が朦朧とし始めていた。
 バテたからではない。──胸を刺されたからだ。
「まだ立ってやがるな」
「仲間を呼ばれる前に始末しちまうぞ」
 目の前にはいかにもという風体のごろつき達がいた。今レンは、そんな彼らに路地裏へと
追い詰められ、ざらりと人数分の得物をちらつかされている。
(……ったく。ついてねぇな……)
 こんな所で正義感を発揮したのが間違いだった。巡回ルートの途中、ふと物陰を目に捉え
た気がしてこちら側にそれてみたのだ。
 そうしたらどうだろう、ちょうど彼らがでっぷりと太った商人を押し倒し、その胸に刃を
突き立てていたのだ。傍にはこの男が運ばせていたらしい売り上げ金が転がり、仲間達が金
貨一枚逃さないと言わんばかりに回収していたのである。
 件の賊であることは言わずもがなだった。
 だがこちらは一人、向こうはざっと十数人。多少訓練を受けた程度の下っ端兵士では敵う
筈もない。気付けば目撃されたことに焦った彼らによるリンチが待っていた。加えて自分が
王国兵であると知るとその攻撃の手は三割増しに激しくなったような気がする。
「悪く思うなよ。それもこれも、お前が王国側の人間だからだ」
「心配するな。この金はしっかり庶民に配分し直す。お前の死だって俺達の名を知らしめる
のに一役買ってくれる」
「……」
 義賊気取り、か。
 レンはだらだらと、胸から流れる血に触れ続けながら思った。
 そりゃあこの国は決して裕福とは言えない。貴族連中だって今夜もまた宴を開いてやがる
し、庶民との差ってのは確かにあるだろう。
 だが……だからってこんな末端の兵士一人殺して、何になる? それで玉座にふんぞり返
ってる奴らが痛がるとでも思ってるのか?
 見当違いだ。全く別の相手を苦しめるだけだ。手段と、目的が──。
(親父、お袋、兄貴……。メアリ……ハナ……)
 ハッと崩れ落ちそうな身体を支えるものがあった。
 故郷に残してきた家族? いや、それ以上に彼女だ。あの娘だ。
 いなくなる訳にはいかないじゃないか。まさかハナを彼女に押し付けたまま、自分だけ逝
くというのか? それだけは駄目だ。彼女には彼女の人生がある。訳の分からないまま、俺
の尻拭いをさせ続けるなんてさせちゃならない。
「……む?」
「反抗的な眼だ。王の狗の癖に」
「はん。お望み通りぶち殺して──」
「だぁぁめぇぇ!!」
 そんな時だった。レンの耳に、本来聞こえてはならない声がしたのだ。
「パパを、いじめるなぁぁぁ!!」
 だがレンや賊、そしてハナの後に続いて駆け付けて来た同僚の兵士らは次の瞬間、驚愕の
体験をすることになる。
「ぎゃっ!?」「な、何だこりゃあ!?」
 蔦だった。根っこだった。石畳と薄い積雪で覆われている筈の地面の下から、無数の巨大
な植物が賊向けて飛び出してきたのだ。
 吹き飛ばされ、打ちつけられ、絡み取られ。賊達は瞬く間に倒されていった。それはまる
で“父”の危機に怒ったハナの魂に応えるように……。
「パパぁ……!」
「おわっ!?」
「レン、大丈夫か?」「ってうわ、酷い怪我じゃねぇか」
「誰か医療班呼んで来い、大至急だ!」
 明らかに常人の仕業ではない攻撃で一網打尽にされた賊達。
 その傍で、レンはぼろぼろと泣いて自分の胸に飛び込んでくる、血で汚れるのも厭わない
ハナをきゅっと抱きしめ返してやる。
 同僚達は最初呆然としていた。だがややあってレンの負傷に気付き、慌てて仲間を呼びに
何人かが走っていく。
「ハナ……。お前……」
「ひっぐ、えぐ……」
 これは──お前が? それは状況が言わずもがなと語っている。
 やっぱり、只者じゃない。
 レンは娘のような泣きじゃくるこの子を抱いたまま、そう暫く寒空を仰いでいた。


 故に、ハナの事をただの下働き達のマスコットとするには収まりがつかなくなっていた。
 事件が数週間、レンはハナ同行を指定された上、怪我が癒えるのもそこそこに国王直々に
呼び出しを食らっていた。
「……ほう。それが報告で聞いた魔法生物か」
 玉座の上の、絨毯敷きの階段の上の年老いた王の第一声に、そっと面を上げたレンは険し
い表情になった。
 ハナはきょろきょろとしている。それでも自分達が好意的な眼で見られていないことには
敏感なようで、既にぎゅっとこちらの袖を握り締めて陰に隠れようとしている。
「先ずは礼を言おう。城下の不穏分子討伐、ご苦労であった」
 言葉とは裏腹に、王は肘掛にもたれたままそうじっとこちらを舐めるように見つめてくる
ばかりだった。
 やはりか……。レンは抱いていた予感があながち間違っていないことを感じ、すがり付く
この子をこちらからも抱き寄せながら言う。
「きょ、恐縮です。それで、陛下がわざわざ自分のような者に謁見を許可なされたのは」
「無論、そこの魔法生物じゃよ。ええっと確か」
「ハナ……ですね」
「うむ。ハナと名付けられたその幼子じゃ」
 側近の貴族の一人が補足し、さも知っていましたよと言わんばかりに王が言う。
 レンはこの感情の正体を知っていた。いや、知っていてもずっと気付かぬように考えぬよ
うにしていたというのが正しいのか。ただ少なくとも、それらはこの子と出会った最初の頃
に比べれば確かに自覚していた。ずっと自分のものだと認め始めていた。
「……単刀直入に言おう。その者をこちらに引き渡せ」
 こちらが警戒の眼差しを向けているのは分かり切っているのだろう、王はあくまで上から
目線でそう「命令」してきた。
 しんと場が静まり返る。貴族達の視線が一斉に向けられ、近衛兵らは対照的に見ぬ存ぜぬ
を貫こうとしているかのように思える。
「……理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「貴様っ! いち上等兵の分際で陛下の下知を──」
「よい。そう簡単に手放さぬことくらい、儂も理解しておる」
 レンは遠回しに言った。否と言った。多分予想している通りの事だ。友らからの話を聞い
て覚悟していたことだ。側近はすかさずこちらへ怒鳴ってきたが、それでも王は尚も淡々と
している。
「お主、この国が今どのような状況にあるか、分かるか?」
「……苦しい状況だと思います、元々土地が肥沃な訳でもなければ、かつてあった西部の鉱
山も掘り尽くしました。加えて西の皇国、南の共和国との国境争いが今も続いている。正直
言って民は疲弊するばかりです」
 ハナの一件以来、友や魔道研で知り合った者達から授かった知識だった。勿論、南部農家
の子としての実体験も織り込んである。
 貴族達が歯軋りをしているのが分かった。それでも今度は怒鳴らなかったのは、何一つ間
違ったことを言われていない所為だ。自尊心を傷つけられてもそこで怒れば余計に面子を汚
すことだと本能的に理解しているからだ。
 王は目を細めていた。見直しているのか、或いはもっと別の感情か。
 この老人はゆっくりと背筋を伸ばし、より上から見下ろすようにして、言う。
「一応学はあるらしいの。……分からんか? だからこそじゃよ。その魔法生物、魔道にも
似た不思議な力で賊を圧倒したと聞く。もしその者を国家として量産できれば、現在この国
が抱えている多くの問題が解決できよう。地域紛争に勝利し、より肥沃な土地を手に入れ、
衰えたこの国を再生に導くことができるのだ」
「お言葉ですが陛下、それは間違っている。勝った所で本当に平和ですか? 軍とは国を守
る為のものです。少なくとも自分達から攻めていく為のものじゃない。……いや、そもそも
貴方のやろうとしてることは許されるもんじゃない。ハナは兵器なんかじゃない! 俺達と
同じで、笑って、泣いて、眠って、食って、歌って……心を持った、人間だ!」
「黙れ若造! 貴様ごときに政の何が分かる!? 強き国に導けぬようで王が務まるか!」
「分かんないですよ、俺は農家の次男坊です。だけど力づくで奪った土地を耕して、血の流
れた土地から作物を取って、それで安穏としてられる精神なんざ持ってない!」
 びりびりっと、玉座の間が二人の叫びで震えていた。
 貴族達は驚いて唖然としていた。まさかレンがここまで王に楯突くとは思っていなかった
のだろう。だからこそ、余計にレンはぎりぎりまで耐えて感情を爆発させた。そんなやり方
じゃ誰も幸せになれないと力説した。
 差し出せる訳がなかった。ハナを兵器になんてさせられる筈がなかった。
 量産。要するにハナという魔法生物(ばけもの)を一から調べる──もしかしたら解剖も
したりするかもしれない。そんなこと……まがりにもパパと呼ばれる自分が許せる訳、ない
じゃないか。
「……」
 眉間にぎゅっと皺を寄せ、レンは息を荒げていた。多分ここで首を落とされるんだろうな
と思った。分かっていたことだけど、これだけは叫ばずにはいられなかった。
 もし自分の身に何かあれば、ハナは号泣するだろう。あの力で暴れるだろう。
 親心──と表現してしまうのはやはり小恥ずかしいが──としては望まぬ結末だが、それ
でこの堅物達の考えが改まってくれればいいと思う。ここに来る前にリオンや宿舎の仲間達
に何かあったらメアリとこの子だけでも逃がしてやってくれと頼んでおいた。……本人達は
驚くだろうし、迷惑ばかり掛けてしまうけれど、最期くらい男の矜持ってものを分かってく
れれば幸いだと思う。
「よい」
 だが、次に王から出た言葉はレン達にとって以外なものだった。
 大きく息をつき、そっと瞼を伏せる。そうして再び彼は、レンとハナを見つめると言った
のである。
「……一旦下がるがよい。よーく、頭を冷やして考えることだな」

「──まさか見逃されるなんてな」
 貴族達の、まるで仇をみるかのような視線の雨霰を受けながら、レンとハナは皆が待つ兵
舎へと帰っていった。
 レンとリオンの部屋。そこに同僚達がわらわらと大挙して集まってきている。
「でもあの言い口からすると諦めた感じじゃなさそうだぞ? 猶予をくれてやるって感じに
俺は思えたが」
「いや、まぁよかったじゃないか。お前が断るつもりだって言った時、俺達は間違いなく首
が飛んじまうって思ったもんよ」
 緊迫した状況が続いていることは変わらなかった筈だ。
 それでも何となく腰を落ち着けていられるのは、こうして気の置けない仲間達に恵まれた
からか。レンは苦笑し、傍らの荷物を引き寄せる。
「……やっぱ、行くのか」
「ああ。遅かれ早かれ俺もハナも確保されちまうんだし。それならさっさととんずらこいて
しまった方がいいだろ。親父達が心配だけど……」
「おいおい、メアリちゃんもだろうが。きっと悲しむぞ? あんだけ夫婦みたいに仲良くし
てたのによぉ」
「ハナがいたからだよ。俺は告白すらしてない。……でもそれでよかったんだ。彼女は成り
行きで一緒くたになっちまったけど、俺達が離れちまえば危害は及ばない」
 筈だ、という言葉は敢えて飲み込んだ。仲間達もそれは理解しているようだった。
 必要最低限の荷物を背負い、ついでに兵役で受け取った剣も拝借していく。夜はすっかり
更けていた。この時間なら夜闇にさえ紛れれば何とかなるのではと思う。
「で……肝心のハナちゃんは?」
「いつも通りメアリの部屋だ。今夜俺が直に連れ込んだら向こうも警戒するだろうし……」
「……」
 そこまで言って、リオンが眉を顰めるのが分かった。
 拙いぞ、相棒──そう言っているのが解るようで、サァッと全身から血の気が引く。
「ッ! 何だ!?」
「地震か!?」
 ちょうど、そんな時だった。
 兵舎が激しく揺れた。まるで砲撃を受けたかのように強く。
 だがそれはすぐに違うと明らかになる。城内の様子を探りに言っていた仲間達が、大慌て
で部屋へ飛び込んできたからだ。
「た、大変だ! じょ、女子寮が近衛兵達に囲まれてる!」
「んでもってハナちゃんがまたしでかした! あの力でばっさばっさなぎ倒してる!」


 相棒(リオン)の悪い予感は当たっていたのだ。王はこちらの動きを予想し、兵舎ではな
く女子寮を包囲したのだ。
 あの時レンの首を斬り落とさなかったのはこの為だったのである。まがりにも戦闘の心得
がある自分よりも、一介のメイドでしかないメアリと共にいる時分のハナを狙う。
 ……だが結局、そんな裏を掻く策もハナの持つ不思議な力の前にはあまり意味を成さなか
ったようだ。報せを受け大慌てで女子寮方面へ向かったレン達が見たのは、先日の賊討伐と
は比べ物にならない──石塔丸々一つを握り潰しかけている巨大な植物の群れと、そこに守
られたメアリ以下王宮メイドの面々だった。
「うひゃあ……」
「ハナちゃん、頑張り過ぎだろ……」
「メアリ! ハナっ!」
 だがレン(パパ)の声に彼女達は敏感だったようだ。レンが誰よりも近く近く駆け寄りな
がら名を叫ぶと、ハナと彼女に操られた巨大植物に抱かれたメアリ達がするすると降り立っ
てきたのである。
「パパ!」「レンさん……!」
 二人は、ぼろぼろと涙を流し抱きついてきた。何だか以前にもこの光景があったな……。
レンはそう一瞬呑気な思考を過ぎらせながら、これを受け止める。
「大丈夫だったか? ごめんな。俺が至らなかった所為で……」
「ううん、大丈夫。パパにそうしたみたいに、私がママも守るの」
「……準備は、できているんですね」
「ああ。……って、メアリ?」
 思わずやり取りの中で頷きそうになったが、レンはハッとなって彼女を見た。
 何としっかり支度を整えていたのだ。荷物を纏め、メイド服から私服の──正直これもま
たいいなと思ってしまう、シックないでたちで。
「私も行きます」
「えっ。でも、君は」
「私も行きます。ハナちゃんは、わ……私と……レンさんの子……ですから」
 かぁっと熱したヤカンのように彼女の顔が真っ赤になった。ついと逸らしがちになった横
顔がまた可愛らしい。
 レンもまた顔を真っ赤にして目を瞬いていた。見れば彼女の後ろでは他のメイド達がにや
にやと親指を立てており、振り返れば同じく男衆がにやにやしたり、大仰に悔し涙を流した
りしている。
「……惚れ薬、必要なかったみたいだな」
「う、うっせえよ……」

 それからはハナを含め、三人での逃避行となった。
 巨大植物に蹂躙された王城をどさくさ紛れに抜け出し、昼夜を問わずひたすら南下、とり
あえずはレンの故郷へと足を踏み入れた。
 父は呵々と笑っていた。
 王に逆らって逃げ帰ってきたという大事よりも、そんな胆力のある男に育ったお前が誇ら
しいと、かねてより王侯貴族に頼らないポリシーの上でそう励ましてくれた。
 母もうふふと笑っていた。
 王に逆らって逃げ帰ってきたという大事よりも、息子が嫁や娘までこさえてきたのがめで
たいよと上機嫌だった。そんなんじゃ……。レンとメアリはぼそぼそと呟いたが、二人の手
は互いにしっかりと結ばれていた。
 ちょうど当時病気を患い、兵役を逃れていた兄は言った。
 自分達のことなら心配しなくてもいい。共和国に学生時代の友人らがいるから、一先ずそ
の辺りを当たってみよう……と。
 勿論、それからの家族揃っての亡命生活は決して楽なものではなかった。慣れない土地や
文化の中での暮らし、もしかしたら国を越えて追っ手が来るかもしれないという恐怖。
 それでもレン達は互いに力を合わせて生き抜いた。幸い土壌は祖国のそれよりも豊かだっ
たのだ。何よりもハナの力は敵を討つだけにあらずだった。
 とにかく自然と共に在る。この辺りの土は元気だ、元気じゃない。この苗はどこそこに辛
さを抱えている。そして遥か遠くの風の音、土の匂い、人々の息遣い、それらを本能的に感
じ取ってはレン達に伝えてくれた。
 故郷がクーデターに遭った、そうリオンより連絡があったのはそうして亡命生活を続けて
いたある年の暮れのことだった。
 曰く、かねてより王の無茶な国力増進策に不満を抱いていた貴族・庶民らが結託して反乱
軍を組織し王城を包囲、王とその取り巻き達を確保することに成功したのだという。
 そして王国は滅び、新しく共和国となった。
 故にもう逃げなくても大丈夫だ。どうか戻ってきて欲しい、と……。

「──よう。久しぶりだな、相棒」
「ああ、久しぶり。七年か……お互い歳を取ったな」
 手紙を受け、早速レン達は故郷の地を踏むことにした。場所はかつての王城の一室。そこ
で一行は礼装姿のリオンとその部下達らしき面々から歓迎を受けた。
「手紙を読んだ時はびっくりしたよ。結局、あの王はどうなったんだ?」
「処刑された。俺はあまりああいうのは趣味じゃないんだがな。ああでもしないと民衆の不
満ってのは収まらないらしいとかでよ……」
 固く親友(とも)と握手を交わし、レンは促されて白いクロスの敷かれたテーブルに向か
い合って座った。過ぎ去った歳月。短いといえば短いが、長いといえば長い。その間にお互
いが歩んだ時間や労苦の類は、確かにその表情(かお)に刻まれている。
「親父さん達はどうだ? 元気か?」
「ああ、今は宿でゆっくりしてる。一緒についてくるとか言ってたんだけど、お袋が旅疲れ
で休んでるから、ついててやれって言っておいた」
「そっか」
 こつこつ、二人分の足音が近付いて来た。
 見ればそこには歳月を経ながらも可愛らしさを残した女性──メアリが笑みを浮かべて佇
んでいた。その隣にはいかにも快活そうな一見二十前後ほどの少女の姿。二人はリオンに向
かってぺこりと頭を下げる。
「お久しぶりです、リオンさん」
「久しぶりー。今はおじさんじゃなくて、先生って呼ばないといけないのかな」
「おいおい、折角の再会の場でそんな堅苦しいのはよしてくれよ。……久しぶりだな。メア
リちゃん、ハナちゃん」
 リオン──現評議会議員は苦笑していた。そんなあの頃と変わらない姿を見て、二人は微
笑み返す。くすくすと口に手を当て、メアリはゆったりとしたローブを揺らす。同じく七年
の間に幼女から少女にまで成長したハナは、けらけらと笑うと帽子を取り、より大きく美麗
になったその頭頂部の桃色花を見せつける。
 それからは、思い出話とこれからの話、その過去と未来が同じ場に繰り返し現れては交替
していった。
 話題は尽きない。いつまでだって話していたい。
 だけども今日は何も懐かしむ為だけに来たのではないのだ。やがてリオンは少し咳払いを
して雑談を切ると、スッと真面目な面持ちになって語り始める。
「それで……お前らの今後のことなんだがな。住居は俺が持っている付近の土地を一つ譲渡
しようと思う。その上でお前らには、ある仕事を頼みたい」
「仕事? そりゃあ、くれるんならありがたいが……」
「ハナ族に関する国法制定。その諮問機関の委員長になって欲しいんだ」
 レンの笑みが不意に翳った。予想していなかった訳ではない。事前に“ハナ達”も連れて
きてくれと頼まれていた手前、何かあるとは薄々感じていたからだ。
「そっちからの手紙もしっかり目を通させて貰ってる。だからこその要請なんだ。お前だっ
て忘れた訳じゃないだろう? ハナちゃん──及びその種子から生まれた眷族、ハナ族はそ
の力で一個師団に相当する力を秘めている」
 レンとメアリが不安そうに後ろを見遣った。
 そこには別テーブルに用意されたお菓子やジュースに舌鼓を打つ、ハナと何処となく似た
感じのする様々な女の子達がいる。
「? あれ、どうしたんですかー?」
「ねぇねぇ真祖(おかあ)様も一緒に食べましょうよ。美味しいですよー、これ」
 彼女達は、リオンの語る通りハナと同じ存在だ。正確には毎年実りの時期に彼女の花から
落ちた種が孵化し、生まれた子孫。それがこの亡命期間の中で三代・四代とネズミ講的に広
まったのである。
「……勿論、あの王のように軍事利用をしようなんて気は毛頭ない。だが放置していればい
ずれ他国がその力を狙うだろう。だからそれよりも早く、俺達は彼女達をこの国の種族とし
て迎え入れ、将来的にはその保護特区を作ろうと考えている。お前には、その最高責任者を
任せたい。次席はハンクス女史──彼女達の起源となったあの惚れ薬の製作者だ」
 メアリはただ佇み、ハナは「おぉっ」と嬉しそうに彼女の肩を抱いた。
 リオン曰く、まだ王国が健在の頃、王は彼女達にハナのような魔法生物を生み出せと命じ
たらしい。
 だが結局その研究は実を結ぶことはなかった。やがて王は死に、王国は滅びたからだ。
 そして何よりも、どれだけオリジナルの発生条件──庭園の植物と件の惚れ薬成分と合わ
せても、生物のせの字すら現れなかったのだそうだ。
『──学者がこんな事を言うと変に思われるかもしれんがね。私はこう思っているんだよ。
あの花の少女は彼と彼女だからこそ生み出せることができたのだ……と。又聞きでしかない
が、彼らは温室の作物らに深い愛情を注いでいた。だからこそ、あの子は生まれた。二人の
愛に応える為に。それと真逆の目的の為に生み出そうとしても……生まれる訳がないのさ』
 テーブルの上に出された紅茶を一口・二口と啜る。
「……そういうことなら、喜んで」
 ああ、お前らしい……。レンはそう静かに静かに呟くと、友に顔を上げて快諾した。
 ふっと肩の荷が下りた気がした。ずっとずっと、自分と妻(メアリ)で背負い込んできた
このちょっとばかり不思議な子供達、その未来をどう守っていけばいいのか。
 道筋が見えた。心強い仲間達がいたのだ。
「それにもっと……俺は甲斐性をつけないといけないからな」
 とても温かな眼差し。レンのそれに倣い、リオンもまた視線をメアリにも向ける。 
 はにかんだ親友(とも)の妻。
 そのぽっこりと膨れたお腹には、今回で三人目となる新しい命が宿っていた。
                                      (了)

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  1. 2013/11/12(火) 01:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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