日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-Ⅳ〔44〕

 突如、街の中心部から絡み合う藍と紺の光が延びて来た。
 強烈な光量に思わず眩しがる。その間にもそれらはまるで蜘蛛の巣のように大都中に奔っ
てゆき、サミットに際し詰めていた人々を瞬く間に巻き込んでしまう。
「……ッ」
「な、何が起きたんだ……!?」
 数分のことだった筈だ。やがて人々はゆっくりと、瞑ってしまった目を開け始める。
 身体に伝うのは大量の魔力が駆け抜けていった余韻、風となってゆく圧力、搔き回された
大地のざわめき。
 半ば無意識のまま、顰めっ面気味に中空を仰いだ彼らは……次の瞬間、一様に驚愕の表情
で立ち尽くすことになる。
「──こ、これは、冗談でも合成映像でもありません。今起こっている……事実です」
 大都(バベルロート)上空を旋回する、メディア各社が保有する飛行艇達。
 各取材クルーらも同じく驚愕に打ちのめされていた。だがそれでも報道を続けようとした
のは、ひとえにその職務遂行の使命感からか。
 レポーターがカメラマンが、空中で開け放ったドアから地上に時折眼を遣りながら中継を
試みている。息を呑んで映像機のレンズを向けている。
「大都(バベルロート)が……消えました」
 紡いだ言葉、深刻な声色。
 眼下には大都の街並みが見えている、三重の同心円状に広がっている筈だった。
 しかしどうだろう。先程の眩い光が一しきり去った後、そこにはもう在った筈のそれらは
無かった。まるで果実の中身をくり抜いたかのように、この顕界(ミドガルド)最大の都市
は最も外側の第三隔壁を残し、忽然と姿を消してしまったのである。
『……』
 メディアが伝えるこの映像とメッセージは、即座にセカイ中に伝わった。
 そしてそれは、顕界(ミドガルド)──地上世界だけに留まらない。暗がりに溶ける地下
世界、マナの霧にむける天上世界を含めた各地にこの報は伝わり、人々はめいめいに衝撃と
困惑のまま画面に釘付けになる。
「街が……消えた?」
「ど、どういう事だ? み、皆はどうなったんだ!? 王や議員達はご無事なのか?」
「いや、それよりも住民達だ。さっき映像……まさか六百万の人と建物が一瞬で消えたって
ことじゃあ……?」
 それは壁外で警備をしていた守備隊らも同じだった。
 光の奔流が巻き上げた土埃の中、彼らは押し殺す事もできない不安に駆られて空を見上げ
ている。第三隔壁、最も大都の外側を囲む高い城壁。普段はそこからはみ出し天へと延びる
建物群が見える筈なのだが、今は一つとてその姿は確認できない。
 彼らは取り残されてしまっていた。開発途中の第四隔壁を傍らに、彼らは何とか都市内へ
のコンタクトを試みようとする。
「駄目だ……回線が繋がらない! ストリーム自体がおかしくなってるみたいだ」
「ストリームが?」
「……となると、状況からして空間結界か」
「そ、そんな事あり得るのか? 大都(バベルロート)だぞ? 大都市を丸々結界の中に閉
じ込めるなんて大技、誰が──」
 兵の一人が頭を振りかけて、ハッとなる。皆が青褪めて互いの顔を見合わせる。
 そうだ、いる。こんな馬鹿で常識外れのことをしでかすような、今回のサミットでも最大
限の警戒を向けていた連中がいる。
「楽園(エデン)の眼……」
 改めて軋むような緊迫感が面々を包み込んだ。らしきその事実に、今この眼前の現実に、
気を抜けばすぐにでも押し潰されそうになる。
 上空で、メディアの飛行艇達が旋回を続けていた。地上でも遠巻きにこちらを撮影してい
る取材クルーらが何組か確認できる。
「あんた達、急いでここから逃げろ! もう何があるか俺達にも分からん!」
「で、ですが……」
「守備隊の皆さんはどうなさるおつもりですか?」
「それは……」
「……隔壁の向こうへ行ってみる。とにかく本部と合流しなければ。他のゲート方面にいる
隊にも連絡を取り突入準備を整える。外(こちら)同士なら回線はまだ生きてるな?」
 コクコクと頷く部下を確認して、隊長格の守備兵らを中心に態勢が再構築され始めた。
 目の前にそびえるのは、尚も土埃が舞っている第三隔壁。
 この向こう側は、メディアが上空から捉えたように空っぽになっているのだろう。改めて
携行端末から確認してみても、やはり本部との連絡が取れない。サミットの最中だった王や
議員達、大都で暮らす六百万の市民らも“結社”に捕らわれてしまったと考えて間違いない
と思われる。
「総員、気を引き締めていけ」
 一斉に銃剣を構える。
 だがそうしてさあ突入をという……そんな時だった。
「!? 待て。何かいる」
 にわかに土埃の向こう、城壁の真正面に黒が差した。
 人影である。それも一人や二人ではない。今この場に集まり、後方で逃亡の判断をしかね
ている取材クルーらを庇うように隊伍を組む、彼らよりもずっと大人数の人影がそこに突如
として確認できたのだ。
「あわわ……」
「ちっ。やっぱりそう簡単には通してくれない、か……」
 徐々に、長らく漂っていた土埃も晴れていく。
 そこに立っていたのは、黒ずくめのオートマタ兵や覆面の荒くれ達。
『──』
 ずらりと並び行く手を阻む“結社”の軍勢だった。


 Tale-44.正義の集いに彼らは哂い(後編)

『──ごきげんよう。邁進者諸君』
 石塔の摩天楼の空中に、巨大な光球が浮かんだまま言う。
 声は老人のように思えた。発音に合わせてその淡い紫色も点滅している。
 アルス達は呆然としてそのさまを見上げていた。そんな自分達を“結社”の魔人(メア)
達がじっと見下ろしている。
 ……捕らわれたのだ。自分達は、この殺風景な結界の中に。
「なん、で……」
 そんな中だった。
 最初に口を開いたのは四魔長の一人、鬼族(オーグ)の首長・セキエイだった。
「何であんたが、何であんたがそこにいるんだよ……? リュウゼンさんッ!」
 アルスは他の王達と一緒になってその言葉に目を丸くした。彼のその豹変ぶりに思わず目
を瞬いてしまう。
 自分の記憶が正しければ、総会(サミット)中の彼はもっと不敵な笑みを浮かべた兄貴肌
のような人物だった筈だが……。
「……ぎゃんぎゃん騒ぐな。制御の邪魔だろうが」
 石柱の上で、もう一人の鬼族(オーグ)がセキエイの言葉に応え、呟いていた。
 リュウゼン──着流しに身を包み、今は魔導具・天地創造を動かしている魔人(メア)達
の一人。頭と両腕、互いに鎖で繋がれた輪の形状をしたそれを装備し半眼を保ったまま、彼
はちらと眼だけを眼下のセキエイに遣る。
「久しぶりだな。そういや、今の長はお前だったんだっけ」
 懐かしむような、しかし敢えてそんな感傷を自ら突き放すような。
 彼のそんな呟きにセキエイはぎりっと唇を噛んでいた。
 知り合い……なのだろうか? そう思考が過ぎったのは何もアルスやエトナに限ったこと
ではなかっただろう。
「……やれやれ。よりにもよってこんな大仕掛けを」
 だが事態は、そうのんびりしてはいられない。
 次の瞬間にはファルケンがついと頭上──光球と魔人(メア)達を見上げ、ぎろりと睨み
を利かせていた。
「だがまぁ、ようやくおでましって訳か? 結社の“教主”さんよ」
 やはり。じわっとアルスらの表情が強張る。他の王達もそれぞれに驚き、強張り、そして
動揺していた。無機質な空間にざわめきが走る。だがそれら不安の声も、すぐに広大な空間
の中へと吸い込まれるようにして掻き消されていく。
「あ、あやつが“結社”の親玉……」
「まことか、ファルケン王!?」
「だが何なんだ? 人ですらないのか……?」
「いや、あれはおそらく幻影の類でしょう」
「そ、そんな事はどうでもいい! 貴様、一体何のつもりだ!? このような暴挙、決して
許されるものではないぞ!」
「すぐにこの珍妙な空間を元に戻せ! 我々を誰だと思っている!?」
 しかし“教主”以下魔人(メア)達はすぐには答えなかった。
 代わりに飛び出すのは、王達による確認・疑問・罵倒。
 先の言葉の通り騒音なのだろう。リュウゼンはイラつき舌打ちをしながらも掌の光球から
目を逸らさず、他の魔人(メア)達も冷たく蔑んだ視線を送っている。
「脅しのつもりかい? ついさっきまで年甲斐もなく睨み合っていただけの分際で」
 やれやれと肩を竦め、フェイアンが言った。その言葉に王達は思わずぐうの音も出ずに黙
り込んでしまう。視線が痛い。悪者は──あちら側の筈なのに。
「……落ち着かぬか。貴公らもこの状況をよく観よ。奴の肩を持つ訳ではないが、今私達は
圧倒的に不利な状況にあるのだぞ」
 言い負かされた他の王らを一瞥するでもなく、ハウゼンが口を開いた。
 じっと“教主”達を見上げていたその老練の瞳。それがふと、遥か石柱の摩天楼の眼下へ
と向けられる。
 ──何かがいた。いや、何か達がいた。
 アルス達が目を凝らしている。それらは人のようだった。
 老若男女・種族を問わず。
 彼らは皆、一瞬にして様変わりした無機質な大地を大いに戸惑いながら彷徨い、巨大な人
の波を形成して助けを求める叫びを合唱している。
「先程の術の規模……。貴様ら、大都(バベルロート)を丸々結界の中に閉じ込めたな」
 サァッと王達の顔がにわかに青褪めるのが分かった。それが何を意味しているのか、彼ら
とて流石に解らない訳ではない。
「街全体が、人質……」
 アルスは小さく呟いた。夢なら醒めてくれと思った。
 だが魔人(メア)らの何人かがほくそ笑むのが見えたし、何より眼下の様子を確認してし
まった以上、この現実に目を背けられる筈もない。
 あの光──魔導エネルギーの奔流は、やはり大都全体を網羅していたのだ。
 アウルベルツ執政館での襲撃事件を思い出す。あれを、奴らは大都市丸々一つのスケール
でやってのけたことになる。そんな巨大に過ぎる罠を、奴らは掌握している。
 人質にされてしまったのだ。
 自分達、サミット出席者──世界各国の要人達を。
 そして大都(バベルロート)に暮らす、およそ六百万の人々をも。
『然様。今我々は、この都市の全てを手中にしている』
 横柄な“教主”の声が響いた。ゆらり……。周囲のオートマタ兵が、命令一つですぐにで
も殺戮に入れるようその両手の鉤爪を光らせている。
 アルス達は動けない。
 下手に動けば、六百万プラスアルファの人命が犠牲になりかねないのだ。
 それでもハウゼン王やファルケン王は、まだ平静を装い、じっと彼らを注視しているよう
に見えた。ウォルター議長は軽く目を閉じ何やら思案をしている。ロゼ大統領はスーツの胸
元を掻き抱き、四魔長らはウルを中心に、尚も血の気が滾ったセキエイを押さえている。
『だが、それだけではないぞ』
 しかし絶望的状況は連鎖していた。
 もし人の顔をしていれば口角を吊り上げていただろう。次の瞬間“教主”がそう言い合図
とすると、突如として中空に無数の映像(ビジョン)が映し出されたのである。
『──ッ!?』
 アルス達は己の血が沸騰するような衝動に襲われた。
 そこには映っていたのである。
 王都クリスヴェイル、グランヴァール、水都フォンレーテ、首都サムトリアン・クーフ。
これら四大国の首都を含めた大よそ全ての主要都市が、今まさに魔獣と黒ずくめの軍勢に襲
撃されていたのである。
「まさか貴様ら……」
「我々やバベルロートだけでは飽き足らず、本国までも……!」
 王達の血相が変わった。怒りと手出しの出来ない、効かない今の状況に唇を噛み、発狂し
そうな程の絶望感。
「あぁ……」
 それだけではない。含まれていた。
 自分達の帰りを待つ仲間達がいる梟響の街(アウルベルツ)、血脈の故郷・皇都トナン、
打金の街(エイルヴァロ)に輝凪の街(フォンテイム)──レノヴィンゆかりの地まで。
 流石に母(シノ)が酷く蒼白になり、後ろに倒れかけた。
 アルスは自身も強いショックを受けながらもこれを慌てて受け止め、激しく胸を打つ鼓動
を自覚しながらぐらりぐらりと両の瞳を揺らす。
『我々が命じるのは、ただ一つだ』
 淡々と“教主”が言った。
 命じる。要求ではなく、命じる。
 そう、そんな言葉を敢えて選んでいること自体が既に、自分達がお前達との上下関係を叩
き込んでやるぞと言わんばかりのものであって……。
『全ての王器──聖浄器を差し出せ』

 梟響の街(アウルベルツ)は今三度目の災いを迎えていた。
 街中に鳴り響く警報。人々は逃げ惑い、それを街の守備兵らが避難所へと誘導している。
「来たか。ブルートバード」
 一方で守備隊の大半と街の冒険者達は城壁──に守られた防衛ラインへと次々に集まりつ
つあった。
 それはハロルドらクラン・ブルートバードの留守番組も例外ではない。
 グノーシュやミア、そしてリカルド。残存兵力を率いてハロルドは城壁内の詰め所へと駆
けつけ、同業者達と合流する。
「……状況は?」
「そこの窓から覗けば分かるが、わんさかとお出ましだ。魔獣だけじゃない。オートマタ兵
や覆面の野郎どもも見える。まぁどっちも結社(れんちゅう)の中じゃあ雑魚の部類なんだ
ろうが」
 ハロルドが向けた言葉に、代表してバラク──クラン・サンドゴディマの団長が答えた。
 促されて覗き窓から外の様子を見る。確かに迫っていた。使役された魔獣を前衛に、その
後ろをオートマタ兵達に守られた覆面の荒くれ達が進んでいる。城壁(こちら)に到達する
のも時間の問題だろう。
「出撃し(で)なくていいのか?」
「まだみたいだな。先ずは城壁上からの砲撃で応戦するようだ。だがそれも張り付かれたら
死角になる。俺達はその少し前に出るつもりだ」
 グノーシュの確認、バラクの返答。ハロルドは眼鏡のブリッジをそっと触りつつ、その瞳
を静かに光らせていた。
 妥当な判断だろう。今回は……以前の時とは状況が違う。
 ──少し前、メディア各社に“結社”からの犯行声明が届いた。導信網(マギネット)上
にも発表された。
『大都は我々が完全に掌握した。王達と市民の命が惜しくば各国は速やかに降伏し、王器た
るアーティファクトを差し出すべし』
 こちらに駆けつける寸前まで、映像器にはその光景が映っていた。
 上空から捉えられた映像。最外周の隔壁を残して綺麗さっぱり消え去った大都の姿。
 その一部始終を観ていたハロルド達も、それが大都が丸ごと結界の中に閉じ込められたと
すぐに気付いた。加えてリカルド曰く、あの魔導の光からするに異相結界も混じっているの
ではなかろうかという意見も。なるほど、人質とするならば結界内の時間が狂っている──
分からないという心理的圧迫も、閉じ込められた面々に対する攻撃力になる。
「まさか、大都丸々人質に取るなんてな……」
「ああ。無茶苦茶しやがるぜ」
「……」
 仲間達(みな)はどうなっているのだろう? アルス君はシノさんは、イセルナやダン、
シフォンを始めとした遠征組の皆は?
 だがハロルドはそれでも一見、落ち着いている。表情(かお)には出さない。
 確信があった。結社(やつら)の目的が各国の王器──聖浄器・アーティファクトにある
のなら、あくまで人質ならば、すぐには殺さないだろう。おそらく暫くは、自国の王や要人
らが捕らわれた、その事実で以って各国政府にプレッシャーを掛けながら目的の代物が差し
出される──折れるのを待つ気なのだろう。或いは在り処の情報・有無が判明すれば上々と
いったところか。
 ちらと弟(リカルド)を見ると、彼も似たようなことを考えていたのか、深く眉間に皺を
寄せてじっと考え込んでいるようにみえた。
 ……こいつはどうするか。本質は教団の間諜であるのだから、大方目下の──街の防衛よ
りはアーティファクトの危機について思案しているものと思われるが……。
「うぉっ!?」
「砲撃が本格的になったな……」
 どうんっと、詰め所内にも砲撃の振動が伝わってくるようになった。
 激しく、頻度が次第に増していく。
 これでどれほど敵戦力を削ることができるだろう? 弾薬はもつのか? いや、そもそも
相手は“結社”だ。以前のように余剰兵力があるとみて間違いない。
 完全武装した冒険者(どうぎょうしゃ)達が、そわそわと覗き窓から何度も外の様子を確
認していた。魔獣と人形と狂徒の軍勢が迫って来ている。耐久戦だ。果ての見通せない戦い
になる──お互いに解っている筈なのに、その災禍は足を止めようとしない。
「え、援軍はまだなのか?」
「伯爵が周辺の基地に要請は出すには出したそうだが……厳しいだろうな。今回は王都や他
の街まで一緒に襲われてるだろ? 向こうも手一杯になってるんじゃないか」
「それは……」
「だけど妙だよな。クリスヴェイルは王都だからまだ分かる。だが何で他の──この街が狙
われてんだよ? 王器みたいなのがある訳じゃ……ないよな?」
「それなら、理由は幾つか考えられる」
 厳しい表情をしながら話している面々に、ハロルドが答えた。
「一つは君達が言ったように、こちらの兵力を分散させる為。魔獣やオートマタ兵を駆り出
しているにせよ“結社”の兵力とて無限ではないだろう。攻城のセオリーから言っても、手
薄になった所を叩けるに越したことはない」
「まぁ、どれだけ本気で落としに来てるかははっきりしねーがな。人質を取ってても脅す相
手をぶっ潰したら意味ねぇんだし」
「……ああ。あとは、揺さぶりだ。知っての通りこの街はジーク君とアルス君、レノヴィン
兄弟に縁が深い街になった。打金の街(エイルヴァロ)や輝凪の街(フォンテイム)も襲撃
されているそうだから、間違いない。都だけでは地方の人間達には危機感が薄い。本来の狙
いであろうアーティファクトが無いと分かっていても、人々の不安や保身が刺激されそれら
が暴発すれば、その分だけ結社(やつら)にとっては有利になるからね」
「ちっ……」
「要は見せしめってことかよ……」
 面々が悔しがる、憤るのがはっきりと分かった。中には実際に手近の壁を殴り、その情動
と必死に闘っている者も少なくない。途中でグノーシュが多少楽観材料を挟んでくれたもの
の、被害の類はもう避けられないだろう。
 ハロルドは、むしろこちらの側面を恐ろしく感じていた。
 前回──魔人(メア)の少女率いる魔獣の群れによる襲撃のあと暫くの時でも自分達は把
握してきたつもりだ。あの一件、そしてもしかしなくても注目の的であるレノヴィン兄弟が
この街に関わっていることで、住人らの中には自分達を邪魔者扱い──忌み嫌う者もいなか
った訳ではなかった。
 不安や保身を刺激された末の、ベクトルの間違った憎悪。
 それはきっと……良くも悪くも、世界を変貌させてしまうだけの素地を持っている……。
「──お父さん達、大丈夫かな? ミアちゃんも……」
「だ、大丈夫だよっ。皆強いもん」
「そうだね……。私達が、信じてあげないと」
 少なくとも、この街には以前より変わった事がある。
 地下避難所(シェルター)だ。エクリレーヌ襲撃事件の後、伯爵らの立案で街の各所にこ
のような施設が作られていたのだ。
 レナやクレア、ステラなど戦闘に向かない・できない人々は守備隊らによって誘導され、
狭く暗い地下の中で身を寄せ合っていた。
 沸き続ける不安。それを掻き消すように信じてみようとする。
 その間も、街の城壁には砲撃の雨霰を受けながらも迫ってくる“結社”の軍勢が在る。

「──聞いとらんぞ!」
 時を前後し、アトス連邦サヴィアン領執政館。
 その執務室で、館の主たるサヴィアン候は激しくデスクを叩いて叫んでいた。
「何故“結社”の兵になっておる? 儂が雇ったのはただの賊だった筈だろう!?」
「そう……申されましても」
 理不尽に怒鳴られ、側近の官吏も困惑の表情を浮かべていた。
 皺が目立ち始めた候の表情(かお)に、明らかな焦りと恐れが噴き出している。
 予定ではこうだった。
 かの憎たらしいセオドアの青二才に一泡吹かせてやるべく、自分は密かに手を回していた
のだ。今回のサミット、そこに対トナン特命大使として陛下達に同行する奴の留守を狙い、
雇ったごろつきにその領地・打金の街(エイルヴァロ)を狙わせる。
 事前に裏ルートで奴らの警備情報を買い取ってあった。後はその穴をついてごろつきども
を潜り込ませ、奴の財産をごっそり盗ませる。それで意趣返しは成功の筈……だった。
「ぐぬぬ……」
 なのに、いざ蓋を開けてみれば全然違うではないか。
 打金の街(エイルヴァロ)に侵入したのは雇った筈のごろつきではなかった。時を同じく
して同街に攻め込んできた“結社”の先行分隊。先程の報告では、自分が明かしたこの警備
の隙を突いて侵入を果たしたのだという。
(拙いぞ……。拙いぞ拙いぞ……!)
 こんな筈ではなかった。確かにあいつは気に入らない男だが、物理的に潰してしまおうな
どとは思っていない。そんなことが政争で罷り通ってしまえば国の秩序など簡単に崩壊して
しまう。何より陛下からの叱責は間違いなく強烈なものになる。
 もしあの侵入が自分の所為だと明るみになってしまえば、自分が“結社”と結託していた
と見られてしまえば、実際そのつもりはなくとも最悪御家取り潰しなんてこともあり得る。
「旦那様、おられますか? クリスヴェイルより第二波の援軍要請が──」
「ああ。分かってるよ! サインだな!?」
 ふとドアがノックされ、部屋の向こうから事情を知らない別の官吏が呼び掛けてきた。
 くわっと、サヴィアン候は殆ど怒鳴りながら応え、彼を通した。勿論彼は何故主がこんな
に苛立っているのか知る由もない。精々、王都を襲撃されたショックで感情が昂ぶっておら
れる──激しくも篤い忠誠心だなどと勘違いをされているという具合か。
 そう勝手に感動されている官吏から書類を受け取り、手早く事務書類にサインを記す。
 彼は一度胸元に手を当て深く低頭をし、敬礼のポーズをみせるときびきびとした足取りで
部屋を出て行った。
「侯爵様……」
「わ、分かっておる。この事は決して口外するな。取り引きの書類もすぐに処分しろ」
「……はい」
 側近は何か言いかけたが、結局何も言わずに拝承し部屋を後にしていった。
 ぽつねん。執務室にはサヴィアン候だけが残る。
(……要するに、儂は謀る側と思わされておいて謀られたということか。儂の計画をどこぞ
で知って“結社”がごろつきどもを買い直したのか、それとも始めから奴らは“結社”の手
の者だったのか……)
 落ち着いて思考した。だがそれが故に猛烈に戦慄を覚えた。わなわなと震えて唇を噛む。
 悔しさ、愚かさ。今更ながらに彼は悟った。自分が、何と小さな眼でしか過ぎゆく情勢を
見ていなかったことを。

「──そうですか。はい、はい。お願いします」
 執政館の中にいても、砲撃の音がつんと耳に届く。
 シンシア達が不安げに見つめる中で、シルビアは関係各所と連絡を取り合っていた。
 王都の状況、援軍要請、大都での夫らの安否。事態が突如として始まり、且つそれらが同
時併行していることも相まって、案の定情報はまだ交錯している。
「どうですの、お母様?」
「……厳しいわね。今はクリスヴェイルもクリスヴェイルでてんてこ舞い。国軍の兵力もか
なり分散させられてる。あの脅しも含めて、それも結社(れんちゅう)の狙いではあるんだ
ろうけど……」
 シンシアにそう答え、シルビアは壁に掛かった映像器を改めて見遣った。
 突如消失した大都。取り残された第三隔壁。そこで残された外周の残存兵力が“結社”の
軍勢を交戦し始めたこと。何より──内部、夫達の様子が全く分からないこと。
 メディアの伝える緊迫は事実だった。しかし一方で、眼前の危機がその遠い(同じ筈の)
事件をむんずと意識の外へと遣ろうとしてくる。そんな自身の保身や非情っぷりに腹が立っ
てくる。
 打金の街(エイルヴァロ)もまた、襲撃を受けていた。
 更に悪い事に、どこから漏れたのか知らないが、一部の敵兵が城壁を越えて街の中へ侵入
したとの報告も届いている。勿論すぐに対応に兵を割いたが、頭の中で「何故?」が膨らん
でくるさまは否めない。
「報告します! 先刻侵入者の一団を発見、傭兵らと共に討伐に当たっております!」
「数はおよそ五十。確証は見つかっておりませんが、侵入経路から逆算するにこちらの警備
計画を知っていたとしか……」
「何ですって? 内通者がいた、ということ?」
 わ、分かりません……。
 報告に飛び込んできた兵が敬礼のまま、苦渋の表情で首を横に振っていた。
 シンシア達と顔を見合わせ、シルビアは口元に手を当てて考える。
 この街には王器──聖浄器の類は無い。なのに現にこうして狙われている。通信では東の
輝凪の街(フォンテイム)、夫の盟友サウル氏の領地も似た状態だという。
「……突破された城門は?」
「はっ、既に再封鎖してあります。警備体制も予備プランに変更、実行中です」
「そう……。なら、相手は少数だし割いた兵力で何とかできる? もうこれ以上街の中に敵
を入れないようにして頂戴。予備も全部出して、砲台を追加。魔導兵も配置して装填の合間
に術撃を組み込むの」
「りょ、了解!」
「ただちに!」
 考えながら、脳内では別のタスク。
 テーブルの上に広げた地図にざっと目を走らせ、配備を済ませた箇所にはマーキング、と
にかく防衛・迎撃の布陣を指示し、彼らを現場に戻らせる。
「……やっぱ見せしめ、なんでしょうね。対外的にも伯爵はレノヴィン一派な訳ですから」
「ええ」
 たっぷりと間を置き、視線をしっかりと合わせることもできず、キースが呟いていた。
 シルビアも同じことを考えていたと首肯する。娘(シンシア)の表情が更に曇った。
 先刻から集まってくる情報の中には、梟響の街(アウルベルツ)や皇都トナンも“結社”
の襲撃に晒されているとあった。
 ──心配が三段重ねなのだ。
 父、学び舎、思い人。この娘はもしかしたら自分以上に内心、不安で不安で叫びたいので
はないかと思うのに……。
「……っ」
「? お嬢?」「どちらへ?」
「決まっているでしょう、私達も戦うのよ。このままじっとなんてしていられないわ。この
街はお父様達が帰ってくる場所よ。どこも自領の防衛で手一杯な以上、自分達で追い払うし
かないじゃない。……心まで檻の中に甘んじたら、本当に私達の負けよ」
 なのに、そのシンシアはぎゅっと唇を噛み踵を返したかと思うと、一人部屋の出口へと歩
き出していた。
「いや、お嬢が出ちゃ拙いでしょ。公女だとバレれば格好の的になりますよ」
「お気持ちは、痛いほど分かりまするが──」
「……いいのよ。行かせてあげなさい」
 勿論無茶だと、従者二人(キースとゲド)は止める。
 だがそれを許す声があった。他ならぬ母シルビア当人である。
「で、ですが」
「貴方達だってこの子の従者をして長いでしょう? ああなると梃子でも動かないわよ」
 彼女は苦笑して(わらって)いた。ちらと肩越しにこちらを見遣った娘と視線を交わし、
そのままドアの向こうに消えていくのをさせるがままにして言う。
「それにあの娘は学院(アカデミー)の次席なのよ? 戦力にはなると思うわ。……どこぞ
のただ貴族なだけの女とは違ってね」
「奥方……」
 キースはそう促して自嘲(わら)うシルビアをはっきりと見ていた。
 妬みであろう筈ではない。だが額面通りのこと、自身の力については概ね嘘偽りを言って
いる訳ではないだろうと思う。
「追うぞ。キース」
「ええ。……失礼します」
 ぽんとゲドに叩かれ、キースとは相棒と共にシルビアに深く頭を下げた。そしてそのまま
身を返し、足早に先を往ったシンシアを追う。
「……よろしかったのですか」
「ええ。あの子の言う通り、心まで屈したら本当に私達は潰されてしまうわ。尤もあの子の
場合、ああやって行動してないといてもたってもいられないんでしょうけど」
 傍らで控える官吏の声にシルビアはフッと笑った。
 街の地図、現在進行形の攻防を記号の上で眺めながら紅茶を一口。
 一度深く静かに呼吸を整えると、
「兵達に伝えておいてくれる? うちのお転婆姫がそっちに向かいますよってね」
 彼女はそう彼らに振り向き、言った。


「おっ……らぁッ!」
 丸太のような両腕に力を込めて、ダンは戦斧を振り抜いた。
 襲い掛かろうとしていたオートマタ兵や覆面の戦士達がその一撃で叩き伏せられていた。
同じくシフォンは軽やかなステップを踏んで距離を保ち、次々とその矢をオートマタ兵らに
命中させていき、一方でリンファは迫る覆面達をすれ違いざまに霞むような抜刀、その一閃
の下に斬り捨ててしまう。
「す、凄いな……」
「ああ。伊達に国を一つ救った者達では、ないよっ」
 そんな奮闘ぶりに、キサラギ父娘(おやこ)ら期せずして場に居合わせた味方達は驚きと
心強さを同居させながらこれに続いていた。
 ユイは不可視の剣を、サジは必中の技を秘める槍をそれぞれ振るい、突如大挙して襲って
きたこの“結社”の兵達を捌いてゆく。
 そう、サジが槍でオートマタ兵らを薙いだ頃合だった。
「戻ってきたか」
 ダンが皆がちらと振り返る。そこにはイセルナが立っていた。
 足元には、霜が降りたように凍り付いて動かなくなった“結社”の兵達がごろごろ。
 そんな中で、彼女は剣を片手にもう片方の手をそっと空に向けると、遠くからこちらへ帰
還してくるブルートをその甲に留まらせた。
「どうだった? ブルート」
「駄目だな。どれだけ飛んでも上層に辿り着けぬ。おそらくこの結界の術者がこちらの動き
を感知して距離を弄っているのだろう」
「……そう」
 蒼い光を纏って、梟型の持ち霊・ブルートは応えた。
 そう簡単にはいかないか……。イセルナは言葉少なく呟き、じっと思案顔になる。
「最短距離で飛んでいくみたいな真似は無理そうか」
 ややあって、場の敵兵を片付けたダン達も集まってきた。
 然り。イセルナとブルートは頷く。ここに顔を揃えているのは自分達ブルートバードと、
リンファ及びキサラギ父娘を始めとしたトナン皇国近衛隊の面々である。
 一同は、誰からともなく空を仰いだ。
 殺風景な灰色の空、空間。そこに無秩序に建つ無数の高き石塔。
 ……あの時、藍と紺の魔導の光によって自分達は分断された。眩しさから回復して目を開
けるとそこには議場もシノ達の姿もなく、代わりにさっきの“結社”の兵らが取り囲んでい
たのだ。
 空間結界を張られた──その事は程なくして理解した。
 それは即ち緊急事態でもある。
 シノやアルスを含めた王や議員、各国要人らが同じくこの摩天楼の何処かにいる。奴らは
大胆不敵極まりない方法でまんまと自分達を人質に取ったのだ。
「となると、歩いていくしかないね」
「歩くって……ここを地味にか? ただでさえごちゃごちゃしてるし、相当時間掛かるぞ」
「だが現状それしか方法がないのも事実だろう? ブルートに実証して貰った通り、術者が
直行を阻んでくる以上、向こうの術中の上を滑ってでも救出に向かうしかない」
「……んだな」
 石の摩天楼を見上げるシフォン、じっと焦燥を堪えているリンファ。ダンはぼりぼりと髪
を掻き、大きくため息をつく。
 この場所──仮に中層とでも呼ぼうか──までなら、石塔同士は回廊で繋がっている。
 但しその道のりは遠目で確認する限りでも煩雑そうだった。くねくねと何度も左右に曲が
り、あちこちへと分岐している。結社(れんちゅう)に捕らわれているとすればここよりも
ずっと上──最上層辺りにシノ達はいると考えられるが、そこへ至るまでには相当骨が折れ
ることが予想される。
 おそらく、これも連中にとっては時間稼ぎの一つなのだろう。
 勿論王達(ひとじち)を簡単に手放さない、邪魔者を排除するという意味合いもあるのだ
ろうが、これまでの犯行とその目的を振り返るに今回は……。
「だけど、もう一つ何とかしないけないことがあるわね」
 敢えて皆は語らない。何となく脳裏を過ぎってもそれらはまだ推測の域を出ない。
 そんな中でイセルナがぽつと言った。その視線は自分達の立つ回廊の眼下──この摩天楼
の下層へと向けられている。
 人の波があった。自分達のような傭兵でも軍人でもない、雑多な多くの人々が“結社”の
兵に追い立てられ逃げ惑っていた。そんな彼らを守ろうと守備隊や諸国の傭兵達がこれに立
ち向かい、奮戦しているさまが窺がえる。
「大都(バベルロート)の市民……だろうか」
「あの大人数からしておそらくは。多分だけど、もしかしてこの結界は大都を丸々閉じ込め
たものなんじゃないかしら」
「丸ごと……!?」
「あり得なくはねぇな。市民も一緒くたに人質にしちまえば、少数切り捨てなんて言い草も
通じなくなる」
 ブルートとイセルナ、そしてダンの思案顔を横目にしてユイらが顔を引き攣らせていた。
 どこまで卑劣なのだろう。ここまで多くの人々を巻き込んでまで、奴らは一体何をしよう
というのか。
「二手に分かれましょう。一方は上へ、もう一方は下へ。他にも動いている人達がいるだろ
うから、彼らと協力してこの状況を打破するの」
「分かった。じゃあ……」
 手早く話し合い、班分けを決める。
 上層へと登る──シノやアルス達の救出にはイセルナ、リンファ、サジを中心とした面々
が、下層へと向かう──市民らの保護及び結界からの脱出方法の模索にはダン、シフォン、
ユイを中心とした面々がそれぞれ担うことになった。
「アルス達を頼むぜ」
「ええ。そっちもしっかね」
「もしそちら側にイヨがいたら、私達が陛下やアルス様の救出に向かったと伝えてくれ。私
達がここに飛ばされたように、彼女も何処かに厄介払い(とば)されているかもしれない」
「分かった。伝えておくよ」
「……父さん」
「分かっている。そっちもマーフィ殿らを全力でサポートして差し上げろ」
 そうして一同は二手に分かれた。
 くねくねと登っていく石回廊と下っていく石回廊。その道に沿って駆け出し、彼らはそれ
ぞれの目的の為に動き始める。
(……ジーク。もし君なら、こんな時どうする……?)

「せいっ!」
 ダグラスの突き出した槍先が、オートマタ兵をその手甲の防御ごと貫いた。
 ぐらり。この人形兵は大穴を空けられて目に光を失い、崩れ落ちる。
 石塔の摩天楼中層。イセルナ達とはまた別なそこで“結社”の兵と交戦していた、彼以下
正義の盾(イージス)の面々は、少数ながらややあってこの襲い掛かってきた敵を一先ず全
滅させるに至る。
「お怪我はありませんか、長官」
「ああ、大丈夫だ。問題ない」
 ふぅっと深く一呼吸。すると副官であるエレンツァが近寄ってきた。纏うローブは静かに
はためき、その周りには薄っすらと紫がかった雲が渦巻いている。
「長官。これからどうしましょう?」
「先程の魔導で、隊の大半が散り散りになってしまいました。これでは……」
 あの藍と紺の光──自分達を分かつ空間結界のエネルギーの後、気付けばここにいた。
 僅かに残った部下達が眉を顰めながら言う。不安と闘っているのは明白だ。ダグラスは槍
を払って石突から地面に置き、肩越しに彼らを見遣りながら訊ねた。
「連絡は取れそうか? 王達でも部下達でもいい。まだまだ情報が足りない」
「いえ……。回線は先程から軒並みダウンしています」
「この空間結界によってストリームが歪められた所為だと思われます。一応、一本一本を解
析して復旧させることもできなくはないですが……」
「……そうか」
 ダグラスは眉間により皺を寄せ、短く呟くと口元に手を当て思案顔をした。
 復旧させることは可能だが、それにはかなりの時間が掛かる。ただ漫然と待つ訳にはいか
なかった。エレンツァの見立てではこの結界は相当大規模なもの──それこそ大都全体を呑
み込みかねない規格外の魔力だという。
 つまり自分達を含め、そうであれば王達と六百万の人民が一挙に“結社”の人質になって
しまったことになる。では何の為に? ……十中八九、サミットの妨害と各国政府への脅し
だろう。トナン内乱での暗躍を振り返るに、今度は世界規模で聖浄器を奪わんとしているの
かもしれない。
「できるだけ急いでくれ、その間に精霊伝令も試してみよう。結界主が黙って見過ごすとは
思えんがな……。だがもし、このふざけた石塔群の中で部下達を見つけることができれば、
私の言葉を伝えて欲しい」
 頷き、魔導兵やエレンツァがぽぅっと掌に光を──精霊に呼び掛けた。それらを確認する
とダグラスは遥か上空、石の摩天楼の上層を見上げながら言う。
「総員、柔軟に自身の周りにある危険から人々を守れ。私はエレンツァとこの場にいる者達
を連れて上層へ──おそらく王達が捕らわれているであろう方面へ救出に向かう。各自眼前
の防衛が済み次第、我々に続け」
 数体の精霊が淡い光を纏いながら空へと飛んでいった。
 だが……おそらく彼らは、散り散りになった部下達には届かないだろう。先ずここは通常
の空間ですらない。結界主に感知され消されるか、再転送されるのが関の山だろう。
「……行くぞ。何としても王達をお守りする。おそらくはこの結界の中心におられる筈だ」
 それでも、自分達がただ立ち尽くす理由にはならない。
 自分達は「盾」なのである。こんな時にこそ王達を守れずして、何が正義か。
 私の部下達は優秀だ。きっと各々に応じた最善を尽くしてくれると信じている……。

 好戦的な掛け声と共に、大振りの大剣が“結社”の覆面を真っ二つにした。
 生が断ち切られる。鮮血が溢れ出す。だが彼らは一度「敵」とした者らに容赦はしない。
「一丁あがり……っと」
 身の丈近くある大剣を片手で軽々と払って血を拭い、グレンは不敵に笑った。
 積み重なるオートマタ兵や覆面、或いは信徒(エージェント)の亡骸。同じく兄ヒュウガ
や妹ライナも、長剣で結社達(かれら)を刺し貫いたり魔導の雷球で上半身ごと撃ち抜いた
りして、その数をどんどん積み上げていく。
「まったく、統務院も舐められたもんだよね。こりゃあ一息ついたら大騒ぎだよ?」
「結界外(そと)では既に大騒ぎになっていると思うけどね。“結社”も随分と派手な手を
打ってきたものだよ。まぁ、お陰で退屈せずには済みそうだけど……」
 長剣を斃した信徒の身体から引き抜き、暫し刀身に伝う血をじっと見つめる。
 ヒュウガがそうして剣を払い、一旦その刃を鞘に収めると、グレンが鍛え上げられた半裸
の腹筋を掻きながら言った。
「んで? これからどうするよ、兄貴。上に下に、捕まった連中はわんさかいるが……」
「そうだね……」
 殺戮の跡に平然と立ち、ヒュウガは少し思案した。
 統務院直属軍の片輪・正義の剣(カリバー)。
 魔人(メア)の三兄妹を頭目とした、世界秩序の敵討伐に特化した懲罰部隊──。
「俺は上に行ってみるよ。グレン、ライナ。お前達はこいつらを連れて下にいけ。遠目にだ
があっちには大都の市民が逃げ回ってるっぽいしな」
「みてぇだな。んでも」
「一人で大丈夫? 相手はあたし達と同類でしょ?」
「負ける為に行く訳じゃないさ。それに正義の盾(イージス)──ダグラス達なら真っ先に
王達の救出へ向かっているだろうからな。こっちが民草を守ってちょうどいいバランスじゃ
ないかと思ってさ」
 ついでにはぐれた連中も回収しといてくれ──。
 あくまでヒュウガの語り口は飄々と、そして辛口だった。
 実は言うと彼自身、王達を優先して守ろうとはあまり考えていなかった。
 口にしたようにそうした任務はあくまで正義の盾(イージス)の本分だ。自分達は基本、
敵を斃すことに専念すればいい。
 王といえど、たかが数百人で六百万の市民の命と恨みを贖える──同等な訳もなかろう。
 それに同胞のおいたに灸を据えるのも……統務院では自分達が適任だ。
「グレン、ライナ、お前達」
 ヒュウガは一人こつこつと石回廊を歩き出し、一度立ち止まってから弟妹達に命じる。
「連中の駒はわんさかといる。……殺せ」
 部下達が、特にグレンが食事を前にした犬のように高笑いし、吠えた。彼らは嬉々として
大挙し、自分とは逆方向──摩天楼の下層に向けて出発していく。
 元より息の掛かったメンバーの多くは荒くれあがりの猛者達なのだだ。普段が“お利口”
を強いられている分、こうした事態であっても戦いを存分に愉しむ精神がある。
(さて……どう転ぶかな)
 軍服を翻し、再び前へ。
 皆とは逆向きに背を向けて、ヒュウガは一人歩き出す。

「──大都(バベルロート)が、消えた?」
 ルフグラン・カンパニーの作業場を飛び出し、ジーク達は鋼都(ロレイラン)の路地裏を
走っていた。その途中でリュカから携行端末を見せてもらい、今この瞬間世界で起こりつつ
ある状況を確認する。
「メディアが流している再生映像を確認したけど、あの光は界魔導と刻魔導の複合技ね。要
は内と外の時間軸が食い違っている空間結界だと思ってくれればいいわ」
「空間結界……」
「嘘でしょ? 大都を丸ごと結界の中に閉じ込めたってこと?」
 レジーナが信じられないといった表情をしていた。だがちらと向くリュカのそれに全く冗
談の気配は無い。彼女も、その傍をゆくエリウッドも、それぞれに青褪め顔を顰めていた。
 そんな馬鹿げた規格外のことをやってのける……それが“結社”なのだ。
「犯行声明も出されたみたいね。“大都は我々が完全に掌握した。王達と市民の命が惜しく
ば各国は速やかに降伏し、王器たるアーティファクトを差し出すべし”」
「あいつら……!」
 ジークは砕けてしまうのではないかというほど歯を食い縛り、唇を結んだ。
 アルスは? 母さんは? 皆は?
 そうすがるように放った問いに、端末を手にしたリュカの顔色は優れない。
「だい、じょうぶ。人質にして王器を手に入れようとしている以上、そうすぐに手を掛けら
れることはない筈よ」
 その口ぶりも、何処か断定を避けてしまっている。
 彼女も仲間達も、悔しがり不安がるさまはジークと同じなのである。
「……っ、鋼都(このまち)も……」
 クロムがあの時語っていたことは、こういうことだったのだ。
 路地裏を駆け抜け、表通りに出てみたジーク達の目に飛び込んできたのは、あちこちを火
に巻かれ“結社”の軍勢に逃げ惑う鋼都(ロレイラン)の人々だった。
 可能な限り最悪の事態──そんなフレーズが、奴らの悪意が脳裏を過ぎった。
 サミットに対し何かしら妨害を企てる、それは分かっていた。
 なのに、分かっていたことなのに、何もできていない。
 自分の判断が間違っていたのだろうか? もっと上手く強かに、奴らの魔の手から人々を
守ることができたのではないか?
「俺がいるのがバレたからか……? いや、この街が開拓派だから……?」
 ふらふらと、ジークは路地の物陰から表通りに出ようとしていた。
 両の瞳に燃え盛る火と家屋が映る。逃げ惑う人々と“結社”の兵達が映る。
 ぎりぎりと歯を噛み締め、ゆっくりとその手が腰の得物に──。
「ちょっ……。だ、駄目ですよ、ジークさん! 落ち着いてください!」
「マルタの言う通りだ。憤るのは分かるが落ち着け。ここで連中に見つかったら、何の為の
作戦なんだ? 激情に任せて動いてはならないと言ったのはお前だろう?」
 だがそれを、すんでの所でマルタがサフレが飛びついて止めた。
 彼の最後の一言。その言の葉にジークはハッとなり、肩越しに彼ら仲間達に振り返る。
 勿論誰もが見捨てたい訳ではない。しかし各地で“結社”が猛威を振るい始めている中、
此処で交戦するメリットはあるのか? 道向こうではちょうど、守備隊が追いついてきて応
戦を始めている。
 わなわなと震えていた。ジークは叫びたくなる声をぐっと呑み込み、怒りで止まらぬ身体
を無理やり押さえ込む。
『──!』
 だがその時にはもう、運悪く気付かれてしまっていた。
 黒衣のオートマタ兵や覆面の荒くれ達、共に“結社”の雑兵と思しき面々の一部がふと、
こちらに目を遣ってその存在に気付き、攻撃の矛先を変えてきたのだ。
 舌打ちして、サフレが槍を取り出して前に出る。エリウッドも上着の胸元からガバメント
を抜いてこれに倣う。
 ジークも女性陣を背後に庇い、二刀をざらりと抜きながら身構えた。
 ……やるしかないか。
 報告させずに全滅させれば、或いは──。
『──?』
 だが、ちょうどそんな時だった。ふと距離を詰めてくる兵達に大きな影が差した。
 彼らがスローモーションの世界で斜め背後を見上げる。こちらに振り下ろされようとして
いる金属の拳が見える。
 本来の速さ、知覚して避ける前にその一撃が彼らを丸ごと叩き潰した。
 舗装された石畳の道が大きく陥没する。ある人形(もの)は二つ折りに砕け、またある者
は鈍い音と血を噴き出して宙を舞う。
「……手動機兵(ライドウォーカー)」
 最初にレジーナが呟いていた。それが、この突如割って入ってきた者達の正体だった。
 一見すると戦闘用の大型キジン。だが本来自我を連想させる甲冑姿の顔はそこにはなく、
代わりにあるのは斜めにはめ込まれている頑丈な蓋……のようなものだ。
 この大型キジン──ライドウォーカー達はその後すぐさま残りの“結社”掃討に移った。
 先程の(文字通りの)鉄拳、指先から放つ機銃に大砲。
 その働きは明らかに守備隊を援護するようで、つい遠巻きになったままのジーク達をよそ
にぐいぐいと場の前線を押していく。
「──よう。やっぱり生きてたんだな」
 その蓋もといコックピットのハッチを開いて降りてきたのは、機巧師協会(マスターズ)
の会長・ドゥーモイだった。
 機体の中、計器とホログラム画面が満載のコックピット内が見える。
 彼はそこから足を掛けられるワイヤーを地面に垂らし、部下達がまだ戦っている中を悠然
として着地する。
「……まぁ、あんた達に一泡吹かせるまでは死んでも死に切れないからね」
「相変わらずの減らず口だ。まぁいい。お前らが戻って来てるって報告は受けてた」
 レジーナがつんけんとした、しかし前に本部内で会った時のようには余裕を持てずに頬を
引き攣らせ、ジーク達が互いの顔を見合わせた。
「皆まで言うな。大体の事情は政府──王から聞いてる。ここまで足を運んだのも、ただ単
にこいつの憎まれ口を聞きに来た訳じゃねえ」
 助けられた手前、ぐぅの音も出ないレジーナとそれを宥めるエリウッドを横目に一瞥する
とドゥーモイは言った。
 見据えるのは他ならぬジーク。
 世間的には“結社”のテロに巻き込まれ、死亡したとされる人間……。
「持っていきな。北の第二滑走路だ」
 すると彼は懐から数枚綴りの書類を取り出し、ジークに握らせた。
 しかしその意図が分からない。目を瞬き、先程までの怒りがスパッと削がれたジークの手
の中に収まったそれを、仲間達が覗き込んで確かめる。
「……これ、管制の」
「ああ。手を回して準備させた。機体も航路も、現地への直行弾丸ルートだ」
 レジーナが言う。それは飛行艇のパイロットに渡される航行情報の書類だった。
 ドゥーモイ、それら飛行艇を含む機巧技術の元締めがそう語るということ。
 即ちそれは自分達に(ファルケン王からの命があったにせよ)便宜を図ったということ。
「もたもたしてんな。向かうべき場所が、あるんだろ?」
「──ッ」
 ジークの瞳が大きく見開かれた。顔を上げてドゥーモイの強面を見返す。
 そういうことか。ジークも仲間達も理解する。
 またしても掌の上だったという訳か。自分達の動静はしっかりとヴァルドー側に監視され
ていたという訳だ。……そもそも、救護を受けた場所が同軍の駐屯基地だったのだから当然
といえば当然の成り行きではあったのだが。
「……いいのか? この街も“結社”に襲われてるだろ」
「心配は要らん。政府の援軍も来始めている。ここは俺達機巧技師の街だ。今も昔も、自分
達の居場所は自分達の力で勝ち取ってきた」
「……そうね。ジーク君、ここはこいつらに任せて急ぎましょう? 癪なのは癪だけど、今
は乗っかれるものには乗っかっちゃった方がいいわ」
 ドゥーモイの言葉、この街の人々の矜持、レジーナの促し。
 ジークは仲間達と改めて顔を見合わせ、頷いた。
 ならば彼らの威勢に甘えよう。身体は一つしかない。一番守りたい人達は……ずっと遠く
の地に捕らわれている。
「──ああ。行こう」
 深呼吸。
 眉間に深く皺を寄せて、ジークは手の中の書類をぎゅっと握り締めた。


 自分達が捕らわれの身となって、どれだけの時間が経ったのだろう?
 石柱の摩天楼の上で互いに身を寄せ合い、高みからこちらを監視する“結社”らの視線を
折につけ感じながら、アルスはぼうっと霞む意識の中で座り込んでいた。
 殺風景な世界が広がり過ぎて、感覚が麻痺してしまっている……。
 エトナも目がしょぼしょばとして辛そうだ。アルスは懐から懐中時計を取り出して時刻を
確かめようとしてみたが、三本の針はぐるぐると進んだり戻ったりを繰り返している。到底
当てにはなりそうになかった。
 やはりここは、空間だけなく時間も捻じ曲げられている……。
 何度確かめてもその事実は変わらず、アルスは再び深いため息を漏らす。
「……」
 奴らが映し出した、世界各地の様子を移す光球も今は全て消されていた。魔人(メア)達
が時折何かを“教主”に伝えているのが見えたが、言葉までは聞き取れない。
 閉鎖された空間、各国政府への脅迫(こうせい)、そして何よりも終わりの見えない人質
状態──。
 元よりここにいる大半の者は貴族や高官なのだ。直接的な労苦には、弱い。
 見渡す限り、方々の石柱上にへたり込んでいる彼らは、その多くがぐったりと疲弊の色を
濃くしていた。母も今はイヨら家臣達と共に座り込んでしまっており、尚も“結社”達を見
上げて立ち続けているのはファルケン王や四魔長などごく限られた者に留まっている。
(兄さん、皆……)
 寂しかった。悔しかった。今頃この摩天楼の何処でどうしているのだろう?
 涙が溢れてきそうなのを必死に堪えた。何度もこっそりと袖で拭った。兄さんならこんな
時どうするだろう? 義憤のままに戦うだろうか? それともこの場にいる皆の為に剣を抜
くこともできなかっただろうか?
 ……いる。あそこに、いる。
 黒の鎧騎士ヴェルセーク。囚われの父さん。兄達がその正体を知り、あの日自分達の前で
取り返すと誓った相手。旅立っていった、その最大の目的。
 せめてそれだけでも伝えられたら。アルスは遠くの彼を見つめながら思った。
 隣には痩せぎすの白衣の男が立っている。確かトナン王宮で父をそんな異名で呼び、召喚
してみせ張本人だった筈。
 あいつらだけでも──そんな思考が過ぎった自分に驚き、アルスは強く己を戒めた。
 何を考えている。仮に可能だったとしても、今この場にいる王達にもし犠牲者が出たら誰
が喜ぶというのだ? 少なくとも哀しむだろう。母も仲間達も、そしてまだ安否すら知れぬ
兄や当の父自身もきっと……。
(──うん?)
 そんな頃だった。
 密かに首を横に振っていたアルスの視覚が伝えたのは、今までよりもはっきりとその場か
ら動き始めようとしていた魔人(メア)達だった。
 黒コートを羽織った白髪の剣士と、鎧を纏った戦士風の男。
 片方はトナンでアズサ皇を斬った男だった。もう一人は……自分は初めて見る顔だ。
「ま……待ってくれ!」
 しかしそうして遣った眼がいけなかった。はたと他のある王が“結社”達に向かって叫び
始めたのだ。
 見捨てられるとでも早合点したのかもしれない。アルスの横顔を見遣り、彼らの動きに気
付いた彼のこの一言によって、王達は連鎖的に悲鳴を上げ出す。
「い、いい加減もう此処から出してくれ! もう限界だ!」
「そうだ! 大体、我が国の王器は聖浄器ではない。ただの壷なんだ!」
「そんなに欲しいならくれてやる! だから……っ!」
 まごう事なき保身だった。アルス達がぽかんとする、或いはその悲痛に呑まれて追従して
いく。そんな彼ら──同じく王である筈の彼らを、ハウゼン王やセド、ロゼ大統領は冷たい
眼で見つめ、ファルケン王に至ってはあからさまに舌打ちをしてさえいる。
 見下す。その一点においては“結社”達も同じような反応だった。
 剥げ落ちたな……。そう哂うように、この瞬間を待っていたかのようにそれぞれ口元に弧
が浮かぶ。或いは変わらず淡々としたまま“教主”に何やらを仰ぎ始める。
「だ、駄目だ……そんな、肝心な部分で口を割っちゃ……」
 アルスは悪寒を感じたように震え上がった。ふるふると首を横に振る。だけども自分にで
きた反応はそれだけで、もう彼らの叫びを止めることもできない。
「──阿呆が。……いや」
 だがちょうどその時だった。
 ふとアルスの耳に届く、ファルケンの呟き。
 しかし彼らへの悪態はややあってなりを潜め、次の瞬間、アルスが半ば無意識に彼を横目
で見遣った時には、にたりとその横顔は笑ってすらいたのだ。
「──」
 お前も動け。そう彼に視線で語られたような気がした。
 心持ち前屈みになり、ファルケンは左腕の袖を大きく捲くる。
 そこには黒鉄色の、ルーンが刻まれた手甲が嵌められていて……。
「ぬわッ!?」
 一瞬の早業だった。
 彼はその手甲──魔導具を展開すると、これを腕を振る間に組み換え、多節棍よろしく石
柱の上にいるリュウゼンへ向けて発射、叩き付けたのである。
「危ねぇな……。制御の邪魔すんじゃねぇよ」
 尤も、その一撃はすんでの所で回避されていた。頭と両手、鎖で繋がれた『天地創造』の
魔道具がガチャリと動きに合わせて揺れる。
 他の魔人(メア)達も驚いていた。だが……その驚きようは何だかおかしい。
 アルス達が舞い散った石埃に目を凝らしていると、その違和感の答えを最初に口にしたの
は他ならぬ“教主”だった。
『……鎧戦斧ヴァシリコフ』
「ああ。やっぱてめぇらは把握してんだな。そうさ、これがうちの王器だ。その昔、大戦士
ベオグが使ったとされる聖浄器──」
「なっ……!?」
「な、何故貴公が持っている!? いくら自分が国王だからといって……」
「今そこを言ってる場合か? 聖浄器を狙ってることは分かってたんだ。なら他人に任せず
自分で守ってた方が安心だろうが」
 王達が驚きで目を見開き瞬き、そして次々に非難の声を飛ばしていた。
 だが当のファルケンはむしろ開き直るように言い、多節棍のように長く長く延びた中空の
それを引き寄ると、もう一度──今度は“教主”に向かって攻撃を放つ。
「そうは」「させぬよ!」
 その飛んでくる戦斧の本体(刃)に、ジーヴァとヴァハロが飛び出してきた。
 “教主”を守るように間に割り込む二人、長剣と手斧・手槍の二刀流。激しいエネルギー
のぶつかり合いが起きた。だが結局ファルケンの一撃は、ヴァハロが力を込めて得物に纏わ
せた半透明の球体によって弾き返され、彼らの立つ石柱の足場を激しく穿つだけに留まる。
「ファ、ファルケン王!」
「我らを皆殺しにする気か!?」
「んな訳ねぇだろ!」
 王達が真っ青になって叫んでいた。だがその声を掻き消すようにセドが否定し、パチンと
文様(ルーン)を縫い込んだその手袋で指を鳴らす。
 紅い電流が宙を走り、次々と自分達の周囲で刃を構えるオートマタ兵を爆発に巻き込んで
いった。一本、二本、三本……石柱の上が間髪入れず黒煙を上げ、彼らがばらばらと地上へ
と落ちていくのが見える。
「サウルさん!」
「ああ! 銀律錬装(アルゲン・アルモル)──戦馬車(チャリオット)っ!」
 連携してサウルが動いた。懐から取り出した銀の丸ペンダントが大量の水銀に変わり、瞬
く間に巨大な戦馬車(チャリオット)の姿となる。
「皆さん、早く中へ!」
「全員、同じ広い場所に集めるぜ!」
 勿論戸惑いこそしたが、王達もようやく彼らの目的に理解が及び始めたようだった。
 慌てて乗り込む彼ら。それを数セット、サウルの操る銀の馬車は繰り返して近くのより広
いスペースを持つ石柱へと誘う。
 アルスとエトナもこの流れに倣っていた。母やイヨ、トナン代表団の皆を乗せ、自分達も
強化(コーディング)を施した樹木の鞭でセドら“結社”の雑兵達を叩く面子に加勢する。
「援護するぞ、ファルケン王!」
 そして同じく、ファルケンに加勢する者もいた。四魔長の一人・ウルだった。
 彼は右腕を“教主”達の方へと向け力を込めると、何とその腕に突如として器械仕掛けの
大砲を装着させたのだ。
「……おっと」
 そうして連射された巨大な砲弾。だがそれに対抗する魔人(メア)があった。
 地面を蹴り、抜き放ちながらの一閃で先ず一発、そして左右に振った斬撃で数発。砲弾は
それぞれ真っ二つになり、断面が何故か溶かされながら爆発する。
「ヒルダ!」
 加えて彼の背後から、巨大な百足──の身体を持つ女性が飛び出しきた。
 持ち霊……いや、魔獣か。ウルはそう思考を過ぎらせ砲撃を放ったが、彼女は触れる砲弾
全てをまるで酸を浴びせたかの如く細かく溶かしてしまう。
「……貴様ら。そのマナ自体が瘴気か」
「ふふっ、ご名答」
「ウル・ラポーネだな? お初にお目に掛かる。俺は“侵将”セシル。そして彼女は持ち霊
のヒルダ」
「よろしくね? ダンディなおじさま?」
「……ふん」
 ウルも遅れて退却・合流し、アルス達は近場のより大きな石柱の上へと移動を完了する。
 魔導を使える者が前列に出て、王達を守るように障壁を重ね合わせていた。
「……これで一先ず、皆をフォローできる環境が整ったか」
 その中には衣を翻し、これに加わるアトス国王・ハウゼンも含まれている。
 だが──彼らは知らなかったのだ。
 彼らが防御を固めているのは前方、例の足場に尚も立つ“教主”達と対峙する向き。
『殺れ』
 次の瞬間だった。“教主”が短くそう言った直後、フェ二リアが放った炎がぐんと不規則
な軌道を──狙い済ましたように一同の真横を狙うように飛び、王の一人を一瞬にして爆発
と共に消し炭にしてしまったのである。
『……ッ!』
 皆は驚いた。アルスはしまったと強く唇を噛んだ。
 そうだ。あの赤髪の魔人(メア)は、確かかなり機動力の高い使い魔を操って──。
「落ち着け。このまま戦闘を続けるのが目的じゃない」
「でも……っ!」
「あいつは自分で自国の王器について喋ってた。奴らにとっちゃ、もう用済みだ」
「……」
 アルスは投げられたファルケンの言葉にハッとなった。
 冷静さを、失いかけていた。ぐらぐらと両の瞳が揺れながら、他の王達が後退るそこに残
った人型の焦げ跡を見る。
 急いで陣形を円状に組み直した。これで全方向から攻撃されても大丈夫……な筈だ。
 ファルケンがヴァシリコフ──可変する戦斧型の聖浄器を肩に担いで“教主”達の様子を
見ている。ハウゼンも同じくだった。だが自身も障壁作りに加わっていたこともあり、その
横顔には彼ほど割り切った気色は感じ取れない気がする。
「ほ、本当に殺すなんて……」
「おしまいだぁ……。もうおしまいだぁ……!」
「お、落ち着いてください。もう大丈夫ですから……」
 王達はすっかり怯えてしまっていた。そんな彼らをシノが気丈に励ましている。
 否応なく理解できてしまったからだ。させられたからだ。
 ファルケンが口にした通り、やはり自分達は人質──奴らが各国の聖浄器を手に入れる為
の材料なのである。その状況で自分は自国だけは違う(から見逃してくれ)というのは、今
し方実演された通り自殺行為に等しいと解ってしまったのだ。
『……愚かな』
 足場に燻っていた黒煙がゆっくりと薄くなっていき、傷一つない“教主”が呟いた。
「さて……どうかね」
 だが、あくまでファルケンは強気な姿勢を崩さない。
 にやり。聖浄器(ヴァシリコフ)を肩に担いだまま、彼はそう不敵に笑う。

 時を前後して、彼らは見た。石塔の摩天楼、その最上部から轟音が上がり一部が崩落して
いった一部始終を。
 王達の救出の為ひた走る者、捕らわれた市民らの保護に向かう者、或いは状況が把握し切
れず動けていない者。その大よそ全ての者達がその瞬間、同じ理解をするに至る。

 最上層(あそこ)に、王達がいる……。

「だ、団長!」
 七星が一人“黒姫”ロミリア率いる傭兵達もその例に漏れなかった。
 響いてきた轟音。遠目ながら、上層部にて崩れ落ちていく石塊が見える。
「最上部で爆発がありました。王達や“結社”はきっとあそこです!」
「俺達も行きましょう!」
 ローブ姿をの魔導兵を中心とした、ロミリアの部下達。
 そのさまを自分達の理解を、彼らはロミリアに報告し、決断を迫った。
 だが……彼女は動かない。
 ちらりと彼らを見こそしたが、先程から彼女はずっと占札(タロット)を空中に並べては
捲り、またセフィロト型に配置しては捲りをゆっくりと繰り返している。
「……まだよ」
「えっ?」
「で、でもいきなり足場がぶっ壊れたんですよ? 連中と交戦があったとしか……」
「やばいですって。大統領だってあそこにいるんです。もし王や議員の誰かが無茶して反撃
を受けたとしたら……」
「落ち着きなさい。確かに破天荒な彼が一発打って出たようね。だけど……まだ足りない。
この敵のテリトリ内で真正面からぶつかるのは下策よ。それこそ彼らの人質──連中にとっ
ての抑止力という価値が意味を薄め、今以上にその生命を脅かしかねないわ」
 そんな彼女の言葉に、部下達は一人残らず押し黙った。
 だがそれは、論理的に言いくるめられたからだけという訳ではない。
 彼女だからだ。星の導き(ストリーム)を読み取り、目的の為に最善の策を練り上げる大
将だと知っているからこそ、彼らの態度はあくまで従順で、時に敬意すら含まれている。
「大丈夫よ」
 また一枚、占札(タロット)を捲ってからロミリアは部下達を見た。
 そんな面々の足元には、彼女らにことごとく撃破された“結社”の兵らが転がっている。
「必ず勝つわ。その為の準備を、私達は怠らずにきたんですもの」

「──隊伍を崩すな! 可能な限り前線を維持しろ!」
 自分達は、あれから一体どのくらい戦っているのだろう?
 第三隔壁外周。辛うじて空間結界に閉じ込められずに済んだ者達は、ややあって出現、襲
い掛かってきた“結社”の軍勢との交戦を続けていた。
 盾役と銃剣持ち、傭兵をワンセットで。隔壁の前に立ちはだかる彼らを突破する為、そう
した組み合わせの兵を横一列、縦にもずらりと並べてぶつける。
 兵力数でも、守備隊らは劣勢に立たされていた。
 故に取り回しの効く運用を。敵前衛に攻撃を加え押し出すことができれば、すぐさま後ろ
のワンセットと交代、続けざまに攻め立てる……という戦法だ。
 だが、そんな必死の奮闘にも拘わらず、隔壁に立ちはだかる“結社”達の兵は厚い。
「ぐわっ!?」
「畜生ッ、またやられた!」
「……」
 場の軍勢を指揮することになった、外周警備の守備隊長──ベテラン将校はそう何度とな
く聞こえる部下・同胞達の苦戦にぎゅっと唇を噛む。
 正直言って、侮っていた。
 今まで“結社”の兵といえば黒ずくめのオートマタ兵、及び一部のエージェントから構成
されているとばかり思っていた。実際それは間違っていないし、敵軍を占めるあの黒もこの
量産兵士が多数配置されているからだろう。
 しかし、それだけではなかったのだ。奴らはもっと柔軟であった。
 一つに、このオートマタ兵にも色々な種類があるらしいことが、既にこの交戦の中で明ら
かになっている。
 自分達が突破しようとしている前衛、そこに立ち塞がるのは大柄の、分厚い鎧を着込んだ
オートマタ兵達だった。おそらくはこうした集団戦に際し、盾役として運用する為のタイプ
なのだろう。彼らはズンと横一列に仁王立ちし、時には手にした矛を振り下ろし、こちらの
攻撃をものともせずにゆっくりと前進してくる。
 そうした隙間を縫って、押し返した勢いを伴って、更に奴らは攻めてくる。
 黒ずくめ(ちじょう)だけではない。空中からもだ。
 もう一種類厄介なのは、鳥型のオートマタが何波となく現れては襲ってくることにある。
 前後を忙しなく入れ替える戦法を見て対応してきたのだろう。このタイプのオートマタは
手薄な空中から前線を越え、後方に控えるこちらの軍を狙ってくる。
 急降下しての鋭い爪、或いは握り締めた爆弾の投下。
 こいつらにも随分と被害を出された。すぐに銃撃や砲撃で落とそうとしたが、悔しいなが
ら、向こうの方が圧倒的に小回りが利く。
 そしてもう一つは、何よりも“奴らとの戦いが人形相手だと思い込まされていた”点だ。
 今回の一連の襲撃。そこには覆面で素顔こそ見せずとも間違いなく生身の人間──組織に
属する下級兵もが雑じっていたのである。
 勿論、王達を奪い人々を脅かす敵に容赦するつもりはない。
 だが正直、自分達には心持ちの上で隙があったと認めざるを得ない。
 最初、覆面の戦士達がオートマタ兵らと共に襲い掛かってきた時、部下達の少なからずが
驚き、戸惑いをみせてしまっていた。そしてそんな数拍の迷いが彼らにとっては結果致命傷
となり、最初手の敗北を呼ぶ一因となってしまったのだが……。
「隊長! ファヴロ、ルカニディア軍が合流しました!」
「分かった。すぐに戦況を伝達し、加勢を頼んでくれ」
 慌しく部下達が、伝令に来ては駆け出していく。
 将校はそんな彼らをちらと見送り、大挙してぶつかり合う敵味方両軍のさまを見遣った。
 ……最初、自分たち守備隊は多方向から大都内への突入を試みていた。
 この街にはこの北正面を始め、東西南北四つの城門(ゲート)が設けられている。できる
ことなら何処か一つでも、少しでも突破し、早く王達・市民らの安否を確認したかった。
『た、助けてくれぇ……!』
 なのに、そんな願いも奴らは嘲笑うように打ち砕いてきた。
 東西と南のゲートから逃げ込んできた同胞達。彼らの話では見た事もない黒騎士の猛攻に
よって部隊があわや壊滅、命辛々本隊(こちら)に合流してきたというのである。
 自分達は耳を疑った。
 まさか情報にある“結社”の魔人(メア)──上級幹部では? そう思って改めて斥候も
放ったが、間違いなく各城門前にはその黒騎士が立ち塞がっていた。幸いなのは、そんな化
け物じみた強さの奴らがこちらまで追撃に来ていないということだが……。
(……時間稼ぎ、か)
 将校は眉間に深く皺を寄せて、強く唇を結んだ。憤りと悔しさが胸の奥でねちっこく入り
混じる。敵の目的は各国の王器──聖浄器だという。その為にはできるだけ長い間、各本国
の責任者らが屈服するのを待つ必要がある訳だ。
 そもそもに、互いの兵力差は明らかなのである。
 今でこそ大都周辺に待機していた同僚、各国の軍といった友軍が合流しているが、その気
になればとうに自分達は壊滅させられていた筈だ。自分達は……間違いなく弄ばれている。
「……」
 じろっと、肩越しに遠く背後を見た。
 多数の映像機のレンズがこちらを映している。レポーターがひそひそと何やらそこに向け
て喋っていた。
 ……大したプロ根性だ。いや、こんな大事件、撮らずにのこのこ逃げ帰る訳にはいかない
というのが本音なのか。
 何度も避難するよう警告はした。実際に逃げ帰ったメディアも少なくない。
 だが命知らずというのはああいう連中のことを言うのか。彼らは尚もまだこの場に残り、
現在進行形のこの戦いを報じ続けている。

「──随分と粘るな」
 城壁内の詰め所──だった場所に陣取り、三人の信徒が丸テーブルを囲んでいた。
「向こうも人質を助けようと必死なのだろう。無駄な足掻きだがな」
 一人は六本腕、蟲人族(インセクト・レイス)の剣士だった。
 二人目は少々狭苦しそうにしている、巨人族(トロル)の戦士だった。
「まぁねぇ。でもいいの? 何だかあいつら、外にいた兵力を結集させようとしてるみたい
だけど……」
 残る三人目は、そう問いを投げ掛ける古仰族(ドゥルイド)の少女だった。
 報告に来た覆面の戦士のそれを受け、まだあどけなさを残す彼女は二人に問う。一方でこ
の下級兵は他の同胞に場を任せ、そそくさと部屋を後にしていく。
「ふぅむ。人形達の換えならいくらでもいるが、それはあまり宜しくないな……」
「一気に攻めず、メディアどもが居残る──この危機感を演出する状況を作る。上層部から
はそう命じられているが……そうだな」
 巨人の戦士の呟きを継いで、蟲人の剣士がのそっと立ち上がった。
 窓際に肘をついて覗いてみるに、確かにこちらの軍勢に向かって方々から兵力が合流して
いるさまが確認できる。
「……もう一度、掃除しておこうか」

「あいつらは……」
「やべぇ! またあの三人が出てきたぞ!」
 守備隊を始めとした混合──救出軍は、その少なからずが青褪め、慄いた。
 占領されてしまった城壁の中からまた一部隊が出てくるのがみえる。しかもそれは、これ
まで何度かこちらを突いては大損害を出し、また帰っていくという嫌がらせ以外の何物でも
ない攻撃をしてきた三人組であったのだ。
「じ、陣形変更! 盾役全員を前線に固めろ!」
「砲撃準備! やられる前にやり返せ!」
 にわかに救出軍の面々が慌しくなった。そんな同志達を眺めながら、将校も深く深く眉間
に皺を寄せて押し黙っている。
「……信徒、か」
 覆面の戦士達よりも強く、魔人(メア)らには劣る。いわば中級エージェント。
 統務院から回ってきた事前情報にはそうあったが、そのレベルでも自分たち末端の兵にと
っては脅威以外の何物でもない。六本腕の剣士はざらりと剣を抜き、巨人は斧を担ぎ、黒み
掛かった銀髪──古仰族(ドゥルイド)の少女は短めの杖を取り出す。
 皆が絶望でその表情(かお)を塗りたくっていた。
 また、蹂躙される……。兵達が今度こそと取材クルーらを逃がそうとしている。各々に武
器を構えてその瞬間に備えようとしている。
 三人の信徒は哂っていた。彼らを“掃除”する為に。
 将校達は震える心を必死に抑えつけていた。ここで逃げれば、きっと後悔する。
『──?』
 ちょうど、そんな時だった。ふと上空から、何かが音を立てて近付いてくるのが面々の耳
に届いたからだ。
「何だぁ……?」
 激突する前である。両軍が信徒の三人が空を見上げていた。
 雲を掻き分け、ぐんぐんと迫ってくるものがある。
 ずんぐりむっくり、だが丈夫な機体。あちこちに付けられ激しく回転しているプロペラ。
そしてギラッと陽の光を反射した、その下部にぶら下がった機銃──。
「避けろッ!」
 蟲人の剣士が叫んだのと、ほぼ同時だった。
 その機体──突如乱入してきた一機の戦闘艇は両軍の前線、その“結社”側へと向けて機
銃を乱射し、次々と鎧のオートマタを始めとした兵らを吹き飛ばしていく。
「ぐっ……」
「な、何? 何なのあれ?」
 戦闘艇は横殴りにそう掃射するとそのまま上昇、再び旋回しながらこちらへ向かって来て
いた。信徒達を始め、一挙に隊伍を崩されて空を見上げる“結社”達、突然の援軍らしきこ
の機体に驚いている救出軍の面々。
 そうしていると、ややあって上空のそれにまた変化があった。
「──盟約の下、我に示せ。風紡の靴(ウィンドウォーカー)」
 戦闘艇の横、機体の横っ腹のドアが不意にスライドして開いた。
 そこには数名の人影。すると内の一人が魔導を唱え、彼らの足元に風が纏う。
「……! こっちに来るぞ!」
 そのまま、彼らは飛び降りていた。
 しかし飛行の魔導がそのまま落下死させることはなく、彼らはぐんと風に乗って降下、真
っ直ぐに“結社”の軍勢へと近付いてくる。
「どっ、けぇぇッ!」
 彼らが、その姿を視認した時にはもう遅かった。
 次の瞬間、彼らの視界いっぱいを過ぎったのは、紅色に輝く一閃。その斬撃は巨大で、こ
の人物の滑空線上にいた者達は一挙に薙ぎ倒されてしまう。
「ととっ……」
 斬り裂かれてばらばらになり、或いは白目を剥いて宙を舞い、オートマタ兵や覆面の戦士
達が次々と崩れ落ちた。その間にも、この一閃を放った人物は勢い余りながらも空中で全身
を使ってぐるりと方向転換、旋回するとズザザッと大きく地面に擦れながらも着地する。
『……ッ!?』
 救出軍が“結社”達が、一様に目を丸くして驚愕していた。
 何故ならそこには彼が立っていたからだ。
 ジーク・レノヴィン。
 世間的にはフォーザリア鉱山でのテロにより、仲間もろとも死亡した筈の……。
「そんな、馬鹿な……。だって貴様は──」
「死んだ筈、だろ?」
 三人の信徒もまた驚愕は等しく、蟲人の剣士が顔を引き攣らせていた。
 だがジークは笑っていた。尚も紅色の輝きを失わない抜き身の紅梅を片手にしたまま、背
後に次々と着地してくる仲間──サフレ、リュカ、マルタ、オズと共に笑い、そしてキッと
その表情を引き締める。
「ところがどっこい、生きてるよ。俺達は……此処に!」

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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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