日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「ミドリの海から」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:人間、扉、燃える】


 今日も今日とて釣り糸を垂らし、ぼうっとのんびり時間を過ごす。
 糸が沈んでいる先は水面だ。但しその色は濃い緑。それも所謂生物的な藻のような緑では
なく、集積回路の基盤を思わせるような硬質の緑である。
 此処は──電子洋(うみ)。現実とは違うようで本当は内包されていて、沈んだ先に在る
ようで浮上した先に在りもする場所。
 水面にじっと目を凝らしてみる。
 大体膝下くらいの深さからその様子は徐々に変わっており、黒い点と線が繋がりながら複
雑に走っている。更にもっと深く、水底には灰色をした無数の鉄塔群──現実(リアル)が
静かに佇んでいる。
 ……思えば、随分とあちらとこちらが近くなったものだなぁと思う。
 以前はもっと緑が色濃かった。もっとその濃さで、あちらとこちらを頑なに隔て、此処を
きちんと別世界にしてくれていたように思う。
 個人的な意見を述べさせて貰うならば、自分は両者の融合というスローガンの類は歓迎し
ていない。はっきり言って余計なお世話である。確かに“便利”にはなったのかもしれない
が、結局のところそうした押し付けがましい変化はインテリ連中の自己満足(オナニー)だ
と自分は思ってさえいる。
 そもそも、此処を住処に選んだ根っからの民というのは直接的なリアルから距離を置きた
いが故にこの海を選び、仮の名を人格を演じているのではないのか?
 勿論そうした傾向が全員であるとまでは言わないけれど、そういう彼らなりの安寧に連中
は『ほら、スタイリッシュだろ?』の一言で以って上がり込んでくる訳だ。
 分かっていない。何も分かっちゃいない。
 世の中はそんな性善説みたいな前提じゃ動かないんだ。もっと私的で情動的で──性悪説
的なバイオリズムの中で動いている。
 革新だの何だの、そういうのは結局カネなんだ。新しいツールを先取りして蔓延させて、
そこから新しい金づるを発掘する。
「……。またハズレか」
 釣り上げた機械仕掛けの魚(データ)達を見て、もう何度目にもなる嘆息だった。
 またわらわらと纏わり付いている。元々自分が仕掛けた検索語(えさ)に、探していた魚
以外にも余計な魚がわんさかと喰らい付いてきている。
 金属質なその体表面にはびっしりと広告が打たれている。やれ健康飲料の宣伝、やれ英会
話の教材、やれ結婚活動しませんか──? 特に最後、何処の誰とも知らん奴に言われたか
ねぇっての。
 ぺいぺいっと、そんな余分な広告魚どもを引き剥がし、捨てる。
 中には真っ当な魚……のように見せかけて、実は中に一段小振りなスパイ魚が入っていた
りするから気が抜けない。ほぼ毎回これだ。探しているものの十倍くらい、要らないものが
もれなくついてくる。
 一通り選別を終えて、ようやく目的の魚(データ)を確保する。
 魚が呑み込んでいるチップを抜き出しては傍らの端末へ。運んでくれた魚本体はきちんと
キャッチアンドリリース。ややって端末が映し出す情報を確認できて、ようやく一段落。
 広いこの電子洋(うみ)──と繋がるリアルの様々な事象を、蓄える。
 さっきのような広告付きは言わずもがな、それでもチップの中身、その嘘真は半々の気で
いた方がいい。本来なら直接大元に当たれればいいのだが……それが中々実践できないから
こそ、自分達は此処に来ているのであって。
『──○○、──○○!』
 なのに……どうにも五月蝿くてげんなりとする。
 濃緑の水面を、自分が乗っているのと同じ四角い船があちらこちらと滑っていく。それら
の少なからずがやはり広告の類であり、あたかも選挙カーの騒音よろしく自身・自社の名を
叫びながら闊歩しているのが見える。
 水面をざわめかせる、だけではない。何よりこの電子洋(うみ)を訪れた人々を不快にさ
せてまでそう喚く必要性が何処にあるというのか。
 今でこそ、個人でもこうした丈夫な船を得てこの海をたゆたうことができる。
 だがそれでも銀の円盤──小振りの舟でたゆたう者達も、まだまだ多い。彼らは気付いて
いるのだろうか? そうやって喧しく走り抜けていく中で波を立たせ、そうした人々の航海
を妨げていることを。

“こんな所に来るんじゃなかった……”

 そんな後悔を彼らに強く刻み込ませてしまえば、金づる以前にそもそもの人が此処から遠
退いていってしまうではないか。
「……」
 波に合わせゆっくりと船体が上下している。
 思いながら、何となく遠くこの海の全景を見渡していた。
 確かに此処はリアルと繋がっているようで、繋がっていない。
 地域、時間、思想、権力。一見迂遠にみえるそれらも活用次第で、本来あちらではあり得
ない者同士を結びつけることができる。それが魅力であり、有用とされる点なのだと思う。
 ……だが、やはりそれだけを見て賛美するのは一面的なのだ。
 喧伝で海を埋め尽くすのが人間であるように、この海を厭なものにするのも、また人間以
外には存在しない。
 水面にはいくつもの船が浮かんでいる。大抵は皆、それぞれ好みを同じくする所で集まり
を作り、微妙な距離感で以ってその船体くっつけ合っている。
 目を遣れば、耳を澄ませば、本当に色々な彼らがいる。
 ただ雑談をしに集っている者達もいれば、一人のカリスマを中心に合いの手を叩いている
者達もいるし、ひたすら自分達の趣味を語り合っている者達もいる。
 それは……いい。水底(リアル)に比べそれが気軽にできる、それが此処の魅力だ。
 だが、何なのだろう。
 自分の目を惹くのはそんな和気藹々とした雰囲気よりも、はたと見せる「余所者」への攻
撃性であったりする。
 事情は様々だ。ただの趣味なのに、ああだこうだと求道者のように眉を顰めてくる相手に
反発したり、或いは逆な構図であったり。喧伝への辟易もまたこれらには含まれるが、何よ
り人と人の繋がりが荒れるのは、もっと緻密で「内」と「外」に隔たれたセカイにおいてで
あるのだなと自分は常々思う。
 ……嗚呼、また今日も一つ揉めている連中がいる。
 見遣れば思考を過ぎらせている通りの光景がそこにはあった。遠巻き。だがそこでは多く
の船──に乗った者達が、他の幾つかの船に罵声を浴びせ、その場から追い出そうとしてい
るさまがあった。
 原因は、何だったのだろう?
 一瞬考えたがそれはあまり意味の無いことだ。直に彼らのところへ近付いてみれば分かる
のだろうが、自分はやはり自分が可愛い訳で。そこまでリスクを負ってまで見知らぬ誰かの
仲裁に入ろうとは思わない。
 ……尤も、それが長い目でみればやはりこの海を汚し尽くすことに加担しているに等しい
のだ、という認識自体はある。
 後ろめたさ──を認識することで自分が善人であるかのように振舞ってみせる卑怯さ。
 見れば、追い出された者の何人かが離れた場所で何やら叫び始めていた。おそらく理不尽
を訴えたいのだろう。……だが、すぐに何処からともなくやってきた他の船からは、口撃に
始まり投石、火炎瓶すら投げ入れられる始末で。
 嗚呼、燃えていく。
 吐き出した言の葉が、振舞ったその姿が油をぶちまけるようなもので、後は寄って集って
赤の他人達を中心とした面々がそこに次々と点火、延焼させていくのである。
 自分以外にも、電子洋(うみ)の一角で上がった火の手に目を遣る者達がいたようだ。
 殆どは自分のように遠目に眺めているだけだったが、中には嬉々として──頼まれてもい
ない“正義”を振りかざして火付けの加勢に行く。
 そんな彼ら、渦中の面々に、中には賢者の如く理性を訴える人間もいるが……結局は同類
なのだろうなと自分は思っている。
 ──真の賢者とは、そんな火を点ける人間にも賢者を名乗る人間にも、同じく遠巻きな眼
で内心寡黙に見下しているような人間なのだ。
「……」
 次の釣り(検索)の準備をしていた手がサァッと止まっていき、目を細めていた。
 不快だった。いや、もどかしいというべきなのか。或いはそんな訂正すら結局は善人ぶっ
ているだけなのだろうか。
 長い目でみれば、やはり良くはない。この海が汚れるのを見てみぬふりをしているのと同
じことだ。
 本来なら「攻撃」ではなく「教育」すべきなのだ──そう頭では理解している。
 あちらでもこちらでも、やはり何かしらのルール・不文律は在る。それを教え諭し、でき
るだけ穏やかな自治を。それが上手く回れば、きっと不満を抱いたままこの海を去っていく
人間は減っていく筈だと思うから。
 だが……それはあくまで理想であって、現実はそれらを駆逐するからこその現実で。
 はたしてどれだけの彼ら──新参者なり弁えを知らない者を、自分達は冷静に導き続けら
れるのだろう? ややもすれば誰もが怨憎を正義にすり替え、拳を振り上げ彼らを燃やす。
 加えて諭される側、問題児とされる側も今、徐々に変貌しつつある。
 ──そもそも「知らない」のだという。水底(リアル)と電子洋(うみ)が繋がっている
ということを当たり前の予備知識として持ち合わせていない。
 だから反発するのだ。彼らは自分達が見ているセカイが全てだと思い込んでいるし、それ
がごくごく一部であると諭されることにすら不快感を覚えうるのだという。
 ……時代は変わっていくのだな、と初めてその話を聞いた時には驚かされたものだ。
 生意気な新参者、智なきプライドという奴なのか。
 だが付け加えて語られるに、一番の対応とはそんな電子洋(うみ)が当たり前となってい
る彼らのような世代の感覚に“共感”してやることが先ずなのだという。
「……。はぁ」
 嘆息が漏れた。
 便利を突き詰めた先なんて、所詮そんなものなのか。
 まだ彼らは燃えている。諭すべき者らが諭さず、弁え謙虚であるべき者が大きな顔をして
いる。こんなに広い世界の上にいるのに、まるでそのちっぽけさを理解しようともしない。
何よりそう考えていても、結局傍観者でいるままの自分が許せなかった。
(もう、今日は帰ろう……)
 随分と気が塞いでしまった。釣竿と検索語(えさ)のプレートを筒に箱にしまい、のそり
と甲板から席を立つ。そのまま、荷物を下げて船尾楼のドアノブに手を掛ける。
 ガチャリと硬木と金属の音が自分を迎えてくれた。この中には船室がある。
 誰にも邪魔されない、誰の邪魔もしない──自分だけの空間だ。
                                      (了)

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  1. 2013/08/25(日) 00:00:00|
  2. 週刊三題
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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