日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-Ⅲ〔39〕

 その一撃が、また一人阻まれた生命を引き裂いた。
 振り下ろされた斧。その断撃を防ぐこともままならず、鉱夫が一人左右に真っ二つにされ
て崩れ落ちた。
 骨肉を貫き砕き、舞った血飛沫の鈍い音。辺り一面に広がった、惨殺体の山。
 そんな中でもヴァハロは快活な微笑を一つも変えず、ひゅっと斧を振って血を掃う。
 今彼がいる場所はフォーザリア鉱山の中腹であり、幾つかの昇降機が外への順路を求めて
口を開く場所──岩と土で出来た、だだっ広いバルコニーのような空間だった。
「そっち終わった~?」
 そうして佇んでいると、ふと後方から声が聞こえた。
 肩越しに振り返ってみれば、身体中血塗れ包帯塗れのアヴリルが笑顔でこちらに近付いて
来ているのが分かる。更にその背後では、無数の蟲型魔獣達が絶賛“食事”中だ。
「うむ、今し方な。そちらも片付いたか」
「見ての通り。まぁ雑魚ばっかりだからどうせ時間の問題だったろうけど」
 辺りには死が満ちているというのに、二人のやり取りは文字通り雑談するかの如き気安さ
にも思えた。どんよりとしてきた空模様へ抗議するかのように、大量の血色がくすんだ土色
に静かに広がっていく。
「しかしバカだよねぇ……。守るって言っておいて自分から見捨てるような真似してさ?」
 足元に転がっている死体の一つを頭から摘み上げながら、アヴリルは哂っていた。持ち上
げた元傭兵の身体を後方に投げ、即座に自身の魔獣達が喰い付いていく。
 骨を砕き、肉を咀嚼する音が暫し続いた。
 ボタボタと血も流れ落ちている。それでも彼女は平然と背を向け、ヴァハロと向かい合っ
たまま、緩んだ身体中の包帯を手馴れた様子で結び直している。
「……みすみす逃す訳ないじゃん? 鼻につくんだよねー、ああいういい子ぶりっ子は」
 計画通りに事が運んでいれば、今頃レノヴィン達は坑内で信徒と戦っている筈だ。
 わざと騒ぎを煽り、彼らを内部へ誘き寄せる。後は準備までの時間を稼ぎ、丸ごとを此処
終わらせる。
 ……これまでの行動パターンから、あの少年は何としてでも取り残された者達を助けよう
とするだろう。
 しかしそうはさせない。精々たっぷりと犠牲に、我らが敵達に大打撃を与える為の生贄に
なって貰う。摂理(あるべきすがた)に反逆する者には、死を与えなければならない。
「──お?」
 そんな時だった。はたと着信のバイブ音が岩と土のバルコニーに響いた。
 アヴリルが包帯の端で手の血を拭い、胸ポケットに忍ばせていた自身の携行端末を取り出
して応える。
「やあやあヘイト? ご苦労さん」
『ああ。ったく、相変わらず能天気な声しやがって……。そろそろ駒どもを動かす時間だ。
鼠の始末は済んでるか?』
「うんー、少し前に。そっちこそしっかりやりなさいよー?」
 言われなくても分かってら。導話の向こうのヘイトがそう憎まれ口で答えていた。
 それでも対するアヴリルは顔色一つ変えていない。逆に憎たらしいほど朗らかである。
 端末を耳に当て、彼女は笑っていた。何気なくぐるりと辺りを見渡している。
 勿論在るのは自身とヴァハロで始末した、脱走者(ねずみたち)の死体だ。だが彼女はそ
うした光景には何の興味示さず、蟲型魔獣達に喰わせるままにし、ふと気付いたように問い
を投げてくる。
「そういえばさー、クロムっちは何処行ったの? そっちで居場所探せない?」
「ん? あやつならば少し前に坑内(した)に降りて行ったぞ。信徒程度ではレノヴィン達
を押さえられるか不安が残る……などと言っておったが」
『はぁ? 何勝手に動いてんだよ……。巻き添えで死ぬ気か?』
 ヴァハロからの返答が聞こえて、ヘイトの声色が一層あからさまに不機嫌になった。
 端末越しに聞こえるのはため息──いや、冷笑。
 だが彼は、そんなクロムの単独行動をもっと別な側面から観ていたらしい。
『大丈夫かよ。ただでさえあいつはレノヴィン達と一度顔合わせしてるんだぜ? まさか変
な手心を入れるつもりじゃ……』
「別に問題ないわよ。裏切り者(もしそう)なら始末すればいいだけ」
 しかしアヴリルの返答は迅速で、かつ淡々と割り切ったものだった。
 自分達“結社”とて一枚岩ではない──それは事実だ。
 教主・使徒・信徒・信者、明確なヒエラルキーがあるのと同時に、組織に加わった経緯も
時期も動機も、皆突き詰めればバラバラなのだから。
 それでも、自分達は戦っている。摂理(あるべきすがた)を代行する、その為に。
「ふむ……」
 一方でそんな二人のやり取りを眺めつつ、ヴァハロは何やら思案顔をしていた。
 右手には肩に担いだ手斧、左手にはぶらりと下げた手槍。
 この二刀流が多くを斃(たお)してきた。彼の求道の為に贄となった。
「なぁに、そう心配することはなかろう」
 最強の古種族──竜族(ドラグネス)。そして使徒達の中でも無類の戦闘能力を有する、
一見して武人以外の何者でもない彼は、ややあって呟く。
「……そもそも我らに居場所というもの自体、そう多くは存在せぬのだからな」
 アヴリルが、導話の向こうのヘイトが押し黙っていた。加え魔獣達すらも急に大人しくな
ってそう語る彼の方を見遣っている。

 曇天に、血の匂いの風が吹き上がっていく。
 フォーザリアの地に“結社”の影が満ちていく。


 Tale-39.険しき坑地に悪華は咲いて

 仲間達が固唾を呑んで見守っている。
 そのさまを背景に、ジークは二刀を手に向かい合うクロムをじっと睨み付けていた。
 カンテラの灯りを静かに掃う紅と蒼の輝き、正面にかざされた左手と脇に引かれた右手。
両者の構えはつぅっと長く長く糸を引き絞るように持続している。
「──ッ」
 先に地面を蹴ったのはジークだった。
 二色の軌跡を描きながら、彼は一気に距離を詰めて先制の斬撃を叩き込もうとする。
 だがそれを、クロムは実に容易く受け止めていた。
 硬質にぶつかる甲高い金属音。ジークが二刀を振り抜くその軌道上ど真ん中に、岩肌の如
く硬化させた左腕を添え、多少のひび割れをきたしながらもその初手を封じ込める。
 ジークが眉根を顰めかける。だがクロムのモーションは続く。
 一瞬の早業だった。彼はジークが飛び掛ってきた勢いを利用するように防御した左腕をず
らし、まるでジークを誘導するように自身の拳正面へと体勢を崩させたのだ。
 来る……! いなされたのと直感が告げたのは、ほぼ同時。
 あたかも空間を抉るように、クロムの右手掌底が繰り出された。
 立ち位置はちょうどその直線上に倒れ込むような格好。ジークは思わず眉間に皺を寄せる
と、上半身を無理に大きく逸らすことでその一撃を辛うじてかわす。
 うねる風圧を感じた。武器もなく拳一つの筈なのに、まるで鋼鉄のように重い。
 真正面から受けていれば……きっと頭が吹き飛んでいた。
「ッ、ぐっ……!」
 限界まで身体を逸らし掌底が通り過ぎるや否や、ジークは今度は身体をぐるりと横に捻っ
て、地面に突き立てた右足を軸に立ち上がり直そうとする。
 しかしクロムは冷静に腕越しからその動きを見ていた。
 右足右手を突き出し、空を切った体勢。静と動。
 だが一瞬で彼はそこから転じ、硬化させた左脚をジークへと身を捻りながら振るってその
脳天へと叩き落す。
 間一髪、ジークはそれをかわしていた。僅かに彼の反応速度の方が勝っていた。
 地面と平行すれすれで回転、体勢を立て直したジークは一度大きく飛び退いてクロムの踵
落としをかわすと、目の前が土埃で不確かになるのも構わず再び二刀を振り出す。
 一撃目。紅梅の斬撃は最初よりも力を込めた筈なのに、それでもクロムは両手を交差させ
た硬化の腕で防ぎ、弾き返す。
 二撃目。右腕ごと弾かれ、それでもジークは左腕の蒼桜を放っていた。
 近距離からの飛ぶ斬撃。力を込め輝きを増した紅梅に対応した事で、クロムの脇腹はガラ
空きの筈だった。
 ……なのに、破れたのはその胴着のような服だけ。
 土埃が少しずつ晴れる中でジークは見た。蒼桜の一撃がヒットするその脇腹、そこにピン
ポイントで硬化された肌が見えた。
 即座に飛んでくる、クロムの蹴り上げ。
 硬化能力は身体の何処でも出来るのか……。もう一度ジークは飛び退き、お返しにと再び
飛ぶ斬撃を放ってみるが、やはり岩のようになった彼の両腕はダメージを拒む。
(拙いな……)
 マルタとリュカを気持ち庇うように前に立ち、サフレはもどかしさで唇を噛んでいた。
 あの時と同じだと思った。以前に彼を含めた“結社”の魔人(メア)四人と、夜の小村で
対峙したあの時と。
 またジークは、感情的になりつつある。
 元よりそんな性格で、何より父親を囚われた憎しみが先立つにしても、傍から見てこの戦
況はよろしくない。
 最初の一撃もそうだ。あの相手の僧侶──確かクロムと言ったか──は、十中八九かなり
の手練だろう。ジークの攻撃、その軌道を読み、最低限の動作でいなし続けている。力の流
れというものを熟知している戦い方だ。
 加えて、鉱人族(ミネル・レイス)としての硬質化能力。こと防御において、彼は圧倒的
優位にあることに間違いはない。
「……やっぱりあいつは、真っ直ぐ過ぎる」
 サフレは小さく呟いていた。そうしている間もジークとクロムの打ち合い──ほぼ一方的
にクロムの迎撃に喘いでいるさまは変わらない。
 ぎゅっと槍を握る。肩越しに振り向き、リュカとマルタの首肯を得る。
 そっと、サフレは槍先を遠く離れたクロムへと向けた。小声で詠唱を始めるリュカを確認
して、槍を小さく小さく縮めて威力を込める。
 ジーク。君だけじゃ──。
『……ッ!?』
 だが次の瞬間、射出された槍先はクロムを抉りすらしなかった。
 ジークと打ち合いになっていた筈だ。なのに彼はサフレの槍が飛んでくる寸前で岩のよう
に硬化した片掌をかざし、あっさりとその一撃を受け止めていたのである。
「……。逝き急ぐか、少年」
 サフレ達が驚きで目を見開いていた。直前、掌底で弾き飛ばされたジークが「やめろ!」
と叫びながら飛び掛かろうとする。
 しかしそれよりも早く、クロムはその手で槍先を握り締めていた。
 拙い。サフレは槍を引こうとする。だが彼の力は静かであり、凄まじく、引っ張ろうとし
ても微動だにしない。
 一旦手放す──そんな選択を採り直すには、既に遅かった。
 次の瞬間、ぐんとサフレは伸びた槍ごとクロムに引き寄せられていた。
 猛烈な加速をつけられ、軽々と上空へと飛ばされるサフレ。そして此処は広い空間とはい
え坑道の中。彼はその勢いのまま、激しく天井の岩肌に叩き付けられる。
「ッ! サフ──」
 ジークが地面を蹴り、クロムに向かって紅梅を放っていた。
 だがその一撃も、彼はもう片方の腕の硬化盾を使っていなし受け流すと、ジークをそのま
ま肘鉄で進行方向へと弾き飛ばす。
「……っ」
 同じく、サフレもぶつかった天井から落下を始めていた。
 額から鮮血が流れ出している。あまりの衝撃の強さで意識が飛びかける。それでも眼下で
は、落ちてくる自分を待ち構えるようにクロムがサッと拳を引いているのがみえる。
 前のめりにながら、ジークが叫んでいた。詠唱途中のリュカとハープを抱えたマルタが悲
鳴に似た声を上げていた。
 射程圏内。もう、逃げられない……。
 そう判断したのだろうか。サフレは落下しながらも、朦朧としながらも、咄嗟に襟元に巻
いた楯なる外衣(リフレスカーフ)を広げて──。
「ガ……ッ!?」
 霞む速度で、クロムの掌底が落下してきたサフレを捉えた。
 空気が絶叫のように震えた。カーフで身体を包んだや否やサフレはその直撃を受け、目に
も止まらぬ速さで吹き飛び、岩肌の壁に巨大な陥没を作って叩き付けられる。
 白目を剥いた。口から激しく血を吐いた。
 引き攣り、絶望するジーク達の表情(かお)。そしてサフレはそのまま力なく崩れ落ちて
動かなくなる。
「こ、のぉぉぉッ!!」
 ジークが咆えた。一層に紅と蒼に輝きを強め、うねる軌跡を重ねてクロムに襲い掛かる。
 だがその一撃もまた通用しなかった。防御さえされなかった。
『──ぇ』
 転移したのだ。場に薄く瘴気の靄だけを残し、次の瞬間リュカとマルタの至近距離へと身
を移していたのだ。
 空振ったジークが目を一杯に見開いて顔を向ける。自分と彼女達を遮るように、両手を岩
で念入りに硬化したクロムの背中が中空に在った。
「しまっ……」
 それが何を意味するか、リュカが悟ると同時に強襲は起きた。
 先ずクロムの硬化した手、その破片がまるで銃弾のように弾き出され、彼女の傍らにいた
マルタを撃ち抜き吹き飛ばす。胸や頭、オートマタの身体に穴が空き、彼女は生気を失った
眼と為り動かなくなる。
 間髪入れず、次いでその手はリュカの口元を捉えていた。膂力は勿論、身長差もあって、
彼女は彼に片手で持ち上げられる格好になる。
「マルタ! リュカ姉!」
 ジークの叫び声が聞こえていた。地面を蹴り、今度こそ止めようとする足音もする。
 だが……リュカは一方で何処か冷静だった。
 この男は解っている。魔導師の自分の、口を先ず塞いだ。これでは詠唱も再開できない。
尤もこの至近距離でそんな真似をした所で攻撃してくださいと言っているようなものだが。
 視界一杯にクロムの硬化した手が映っていた。
 岩のようにごつごつと上塗りされたような表面、静かに漂っている石粉。
 ごめんなさい……。
 リュカは喋れずともそう、駆けて来るジークの眼を見て言い、
「──“石罰(せきばつ)”」
 次の瞬間、そう呟いたクロムによって口から肩、四肢を岩に覆われ、ガコンッと落ちる。
「…………」
 間に合わなかった。ジークは半端な距離感で立ち尽くし、瞳をぐらぐらと揺るがせた。
 機能停止したマルタ、半ば石の衣に囚われたリュカ。背後の二人をそのままに、クロムは
ゆっくりとジークに振り返ると暫し黙してその絶望の表情を見遣る。
「お、おぉぉぉぉぉぉーッ!!」
 沸騰する。感情(こころ)が、爆ぜる。
 ジークはそんな彼の冷淡とも言える眼を浴びて、猛然と斬り掛かっていった。
 紅、蒼、紅、蒼、紅、紅、蒼……。
 何度も何度も二刀を振るい、いなされながらもそのズレを回り込む動きに変えては身を捻
るものの、クロムはその全てを硬化した腕だけで次々といなし、弾いてくる。
「……諦めろ。君は、私には勝てない」
 だが、それでも、ジークは彼の言葉に耳を貸さずに攻め続けた。
 お前が、お前達がいるから、俺は皆は──。
「うるせぇッ! てめぇらから父さんを取り戻すまで、俺の戦いは終わらねぇ!」
 再三の紅梅、増幅する斬撃。
 だがクロムはこの真横から切り込んでくる一撃を、またしても硬化した腕、盾のような岩
で防いでみせた。更にもう片方の手を掌底にし、この硬化盾を叩くように衝撃を伝え、対す
るジークだけを吹き飛ばしてみせる。
 直接物理ではないが、まともに入った。
 ジークは大きく地面を転がり、血反吐をはきながら両膝をついて咳き込む。
「戦鬼(ヴェルセーク)を、か……。なら君は、尚更ここで私と戦う必要はない。……尤も
逃がすつもりも無いがな」
 冷静に冷徹に。クロムはそんな希求する少年をじっと見下ろしている。
「星の導きとは……やはり残酷だな。あれはどうあっても絶望が好きらしい」
「……?」
 ジークが苦痛の表情のまま、頭に疑問符を浮かべていた。
 再びそんな彼を見下ろしてから、クロムはスッとその目を細めて言う。


「くそッ! 一体何なんだ、あいつは!?」
 転がるように執政館から飛び出す。
 レジーナとエリウッドを伴った傭兵達は、命辛々といった様子で煤けた顔を顰めていた。
 館を包み込んだ火の手は最早止めようがない。もう犠牲者を無しにこの一連の騒動が収ま
る事はないだろう。
 しかしそれでも“あれ”は突然過ぎた。圧倒的過ぎた。
 進行方向の壁をぶち破って現れた、禍々しい黒騎士。
 奴はこちらの存在に気付くと、その波打った手甲から巨大な投擲の刃を現出、躊躇うこと
なく投げつけてきたのだ。
 一瞬だった。ただ高速で迫ってくる漆黒の色とつんざく金属音が、辛うじて自分達に回避
すべしと本能に叫ばせた。
 その一撃だけだ。その一撃だけだったのに……隊の半分以上が逝った。亡骸すら確認する
暇もなく、ただ大量に舞った血飛沫と自分達がそこに巻き込まれずに済んだことだけを認識
し、慌てて方向転換──館から逃げ出したのだ。
「追っては……来ないみたいだな」
「畜生っ! あんなの反則だろ……!?」
 大きく声を荒げて、肩で息をして、傭兵達は燃え盛る館を見上げつつもそう口々に怨嗟の
叫びを吐き出していた。
「やっぱ、あれも“結社”の奴なんだよな……?」
「だと思う。やられた奴が多かった理由があれなら説明がつく」
「公爵は? 向かった隊は……?」
「……駄目だ、繋がらない。さっきから回線がいかれちまってる」
 その一方、状況を把握しようと何とか頭を回転させている者達もいるにはいた。しかし互
いを結ぶ連絡手段はストリームごと乱され、遮断され、間違いなく分断された状況にある。
「……力は尽くした、諦めよう。そりゃ給金はあのオッサンから出てたが、舞い戻って行っ
て死んじまったら元も子もねぇだろ……」
 故に、功利的といえばそうかもしれない、彼らの判断は程なくして固まる。
 政府に仕える武官であればまた忠義を発揮したのかもしれないが、自分達は冒険者。傭わ
れの兵力に過ぎない。
「そうだな……先ずはここから生き延びて、他の連中に伝えよう。今の俺達じゃあ墓の数を
増やすくらいしか貢献できねえ」
 疲労した各々の表情(かお)、力なく頷くバラバラの動作。
 煤けた頬を身体を引き摺り、彼らは一人また一人と動き出そうとする。
「……エリ?」
 そんな中でエリウッドは尚燃え盛る館を見上げていた。
 一見して冷静な印象。だが少なからず時を寝食を共にしてきたレジーナには、そんな沈黙
のさまが何を思っているのか、ここまでの経緯からしても想像がつく。
「……。レジーナ、僕は」
「あんたの所為じゃないよ。やったのは結社(やつら)さ。気をしっかり持って、ね?」
 彼女のはっきりとした言の葉に励まされ、エリウッドは物悲しくもようやく頬を緩ませて
いた。それでも内心の罪悪感はすぐには消えないだろう。そもそもジーク達をこの地に誘っ
たのは、他でもない彼なのだから。
「ねぇ傭兵さん達、ジーク君達のことはどうするの? まだ中にいるんだよ?」
「それは……」
「……何とかしてやりたいが、入口は連中が爆破して塞がれちまってる。救出隊が出張って
た筈なんだが、執政館に連中が攻めてきたとなると……」
 レジーナが歩き出す傭兵達へ小走りに近付き、問い質していた。
 しかし返ってくる反応は、概して少なからず鈍い。たとえ時の人となった皇子でも、自分
の身の安全がどうしても意識に上ってしまうのだろう。
『──ッ!?』
 ちょうど、そんな時だった。
 あちこちから火の粉と煙が上がり、視界すら分断される中、はたと周囲の物陰から黒衣の
オートマタ兵達がその姿をみせたのである。
「なっ……」
「くそっ、予想はしてたがやっぱり外(こっち)にもいやがったか!」
 反射的に傭兵達が剣を銃を構える。ばたばたっと、レジーナとエリウッドを庇うように外
側へ向かう円陣を作ろうとする。
 だが既に、一行の兵力は黒騎士(ヴェルセーク)からの一撃もあって当初よりもかなり減
ってしまっていた。にも拘わらず、一方の傀儡兵達は何処から沸いてくるのかと思うほど、
文字通り数で押してくる。
 ガチャリ。彼らの鉤爪が持ち上げられ、不快に鳴った。
 少しずつ間合いを詰められる。このままでは、自分達は──。
「……ッ」
 しかしその時、思わぬ動きがあった。エリウッドが単身地面を蹴ったのである。
 傭兵達は目を丸くした。思わず「危ない!」と叫ぶ者もいた。
 だが彼らはすぐにその言葉を収め、驚きを増すことになる。
 複数体の傀儡兵。エリウッドはその最初の一体の突きを半身を返してかわすと、伸ばされ
たその手を引き取りながら素早く足払いを放った。
 ぐらりと、腕を引っ張られ前のめりになった勢いも手伝ってこの傀儡兵は体勢を崩す。
 すると次の瞬間、エリウッドはこの傀儡兵の側面に回ると、懐から素早くガバメントを取
り出し──その首筋に押し当てて撃った。
 銃声。この傀儡兵が首を千切れかけさせながら倒れる。
 見ればエリウッドの手、握った拳銃に薄らとオーラが視えた。錬氣である。そしてその余
韻もそこそこに、彼は続いて迫る傀儡兵達も次々にかわしいなし、同じように急所──首筋
にもぐり込んで弾丸を撃ち込んでいく。
「あ、兄(あん)ちゃん……」
「戦えるのかよ……」
 同胞数体が一気に倒されたのを見て、他の傀儡兵達が慎重になったようだった。数で押し
切ることを一旦止め、間合いを取ったままこちらの様子を窺い始める。
 傭兵達も驚きを隠せないでいた。懐から出したマガジンを装填するエリウッドを見遣りな
がら、おずおずと話しかける。
「まぁ、エリはこれでも元軍人だからね」
 代わりに答えたのはレジーナだった。おおっ、と傭兵達が控えめながらわざめく。
「……昔の話ですよ。貴方達のような現役の者には及ばない。レジーナ」
 それでも淡々と、そして何故か心無し機嫌が悪そうにエリウッドは呟いてた。
 手早く装填を済ませ、右手でガバメントを傀儡兵達に向ける。その一方で左手で尻ポケッ
トを探り、レジーナにもう一丁のガバメントを投げ渡す。
「念の為に持って来ておいてよかった。微力ながら僕らも加勢します。無茶は承知ですが、
ジーク君達の所へ向かわせてください」
 先に語っていた通り、傭兵達はやはりまだ躊躇いがあるらしかった。
 互いに顔を見合わせる。だがエリウッドという戦力が増えたのも手伝い、彼らの中の責任
感が再び息を吹き返し始めていた。
「……分かった。鉱山(ここら)の状況確認も必要だからな。ともあれ、先ずはこいつらを
蹴散らすぞ!」
 承諾。そして傭兵達も、改めて得物を構えて踏み出す。
 兵力(かず)は、状況は、変わらず悪い。だけども……ここで潰える訳にはいかない。
(──ん?)
 そしてそんな最中、レジーナは銃を両手に包んで握ったまま、ふと遠くの山々を見た。
(何だろ、この臭い……。火薬?)

「──なん、だと……?」
 その話にジークは膝をついたまま両の瞳を揺らがせていた。
 視線の向こうには、たっぷり間合いが空いてクロムが自分を見下ろしている。元々の体躯
もあって、まさに彼の存在は巨大な“壁”であるかのような錯覚を覚えてしまう。
「嘘ではない。君の奮闘は、無駄だったということだ」
 クロムは淡々と語った。自分達は此処を終わらせに来たのだと。
 坑道の主だった出入口を爆破した後、逃げ出した者達はヴァハロ達が始末し、本丸である
執政館にはルギスの本隊が攻め入ったのだという。
 サザランド・オーキスは、抹殺した──。
 その言葉にジークは内心、そして傍から見ても激しく動揺している。
 無駄だった。その呟きの意味が、重く暗く圧し掛かってくる。
 守れなかった? 俺は、俺の所為で……皆を?
 視界にぐったりとした仲間達が映っていた。大部分を石化され動けないリュカ、あちこち
に弾痕を受けて倒れているマルタ、壁のクレーターの傍でうつ伏せになったままのサフレ。
皆、自分がしっかりしてないばかりにやられた……。
「……そこまでして、てめぇらは開拓を止めたいってのかよ」
 不甲斐なさと理不尽さと。ジークは肩を震わせながら言葉を吐き出していた。
 身体がまだ悲鳴を上げている。五月蝿い。そのダメージを、彼はバッと取り出した金菫の
治癒で押し込める。
 だがクロムはすぐには答えなかった。静かに眉間だけが顰められる。怒り、というよりは
思案顔のようだった。
「……組織の中には、その為に戦っている者達もいるだろうな」
 ややあって返ってきたのは、そんな台詞。
 荒く呼吸を整えながら、ジークは片眉を上げた。
「ただ私自身は、意味を探している」
 少なくともクロムという人間に関しては、その理由は別の所にあるらしい。
「開拓派だの保守派だの、それも全てはヒトの争いだ」
 一歩、二歩。尚も戦意を失わないと判断したのか、彼は両手にマナのオーラを漂わせなが
ら、ゆっくりとこちらに近付いてくる。
「私達は殺し合う為に生まれたのか? 種族によって差はあれ、元より限りある時間を無為
に潰し合う為に。そして死すれば冥界(アビス)から霊界(エデン)へ──次の生を受けて
も尚、ヒトはずっと繰り返す」
 何を言いたいのか、ジークにはピンと来なかった。
 転生。辛うじてその言葉だけが脳裏を過ぎる。嘘か本当かは知らないが、確か肉体が滅ん
でも魂は巡り回る。そんな話を教練場で聞いたような……。
「まるで檻だ。なのに何故、私達はそんなセカイに生れ落ちなければならない……」
 静かな口調だったが、そこにはどうしようもない闇があるような気がした。
 以前より生真面目というか、思い詰めたような表情をみせていた彼だったが、今語ってい
るこの瞬間吐露するこの瞬間は、直感的にこれまでの比ではないように思う。
「……」
 しかし、だからこそ、ジークはギリッと歯を食い縛って前髪に表情を隠した。
 自分は頭がそういい訳じゃない。坊さんの説法だって今もきっとよく分かっていない。
 それでも──。
「同じこと、何度も言わせるなよ……。俺は馬鹿だから難しいことは分かんねぇ。でもな、
そうやってグチグチ言ったって人殺しが許されるもんじゃねぇだろうが」
 傷付いた身体を起こす。落ちた二刀を拾い、再び紅と蒼の輝きを込めて叫ぶ。
「てめぇの勝手で、他人を殺す(まきこむ)んじゃねぇッ!!」
 猛然と。ジークは地面を蹴って再びクロムに迫っていた。
 先程よりも明らかに光量を増した二刀のオーラ。二色の軌跡が地面と水平に、真っ直ぐに
奔りながらこの気鬱の輩を狙う。
「……ッ!?」
 最初は、同じように硬化の防御で防げるいなせると思っていた。
 しかし今度の結果は違っていた。両腕の硬化盾と二刀がぶつかった瞬間、盾に大きな亀裂
が入りその硬化が砕かれたのである。
 クロムは四散する硬質の破片を視界に映しながら、目を見開いていた。
 ぐらりと相手の勢いを殺すこともできず、剣を振り抜いて前屈みになる彼の俯き顔を只々
スローモーションなセカイで見つめるしかない。
「おぉぉぉぉぉぉーーッ!!」
 ジークは怒涛の連撃をぶつけていた。
 初撃で防御を砕けた、その自身の驚きなど一瞬で吹き飛び、自身を支配するのは只々激情
であると、辛うじて意識の片隅で認識する。
 紅、蒼、紅、蒼、紅、紅、蒼、紅、蒼、紅、蒼、紅……。
 二色の軌跡が縦横無尽に、力任せにクロムを襲っている。押せている。あれほど苦戦して
いた筈の硬化の盾を、今自分は次々と砕いている。
 ──どうして、どうして、どうして!?
 だが冷静な眼はやはり意識の片隅で。ジークを突き動かすのはやはり激情だった。
 問う声に代えて剣を振るうように。その一撃一撃に抑え切れぬ憤り──哀しみを込めて。
 馬鹿野郎。何で悩んでるなら結社(そっち)に行った? 他にもやりようはあった筈だろ
うが。意味? それが見つからないから、お前は人を殺すのか?
 哀しかった。悔しかった。
 もしかして──あの時、嘆きの端で憂いの表情をみせていたのように──彼は根っからの
悪ではないのではないか?
 事実“結社”に加担していることまでを許す訳にはいかない。
 だが彼をそこまで突き動かしているもの……おそらく絶望の類に、自分は何もしてやれな
いと解ってしまっている。あの時深く考えずに答えてしまった。
 どうして……。
 どうしてこうにも、自分達の距離(みぞ)は、埋まらない……?
(──ぐぅッ!?)
 クロムは焦っていた。硬化能力が、利いていない。
 こちらも錬氣はたっぷり込めている筈だ。だがこの少年はそれを上回るオーラの量で自分
の防御を破壊し続けている。
 何なのだ。治癒の魔導具を使っていたのもあるが、確かに自分は一撃を入れた筈だ。
 なのに……何故こうも力が出せる? 最初のそれとは異質に映る、この威力を。
(……涙?)
 それに何より、おかしかった。
 まるで怒り狂って振るっているように思える剣。なのに時折見えるその表情は、少なから
ず悲しみを同居させてはいまいか。
 何度目ともしれぬ盾を砕かれつつ、クロムは視界の向こうを見る。
 フォンテイン公子は、直撃の瞬間防御用らしき魔導具を使っていた。
 竜族(ドラグネス)の魔導師は、口と手足こそ封じたものの致命傷を与えた訳でもない。
 オートマタの少女に至っては、既に少しずつ自己修復機能が動き出しているのが見える。
 仲間達の弔い……ではない筈だ。それとも単に、この少年が気付いていないだけなのか。
 だからこそ自分にはよく解らない。
 何故君は泣いている? 仲間の為ではないのなら、一体……。
(……まさか、私を?)
 はたとその可能性を思って、すぐに哂いを押し込めて、彼は眉根を寄せた。
 愚かというか、救いようのない馬鹿というか。はたまた私の自惚れか。
 “敵”の為に泣くというのか? これまで何度も殺生を続け、君の父を奪った組織の者で
あるというのに、それでも。
「ッ──!」
 いや、だからか。だからこの少年は危険なのかもしれない、そうクロムは思った。
 何十回目とも知れぬ斬撃が硬化の盾を砕く。ズザザッと大きく後退する。 
 そうか……。君はそういう人間なのか。
 他者を介在してしか己を許せぬ者、そのエゴを救いだと正義感だと曲解している者。
 だからこそ力を出せるのか。その内実を無意識に認めず、ひた隠しにして偽っていても、
それを“正しいと信じている”からこそ出し惜しむことがない。心を、燃やせる──。
(……危険だ)
 始末しなければならないと思った。此処で自分が、この者を抹殺しなければ止めなければ
ならないと思った。
 それにもし自分の仮説が正しければ、その“信仰”がもたらすこの力は、おそらく……。 
 クロムは尚も飛び掛ってくるジークを盾を犠牲にして阻止し、振り下ろされた剣が地面を
抉って土埃を巻き上げる勢いのまま、跳んだ。
 両手を再び激しく硬化させ、連続して硬質弾をはじき飛ばす。マルタを撃ったそれだ。
 その幾つかは、確かにジークの肩を腕を足を掠めていた。血が滲んでいた。
 ……なのにジークは止まることをしない。硬質弾の少なからずが、彼の猛烈な二刀捌きで
次々に叩き落され、切り落とされているのが見えた。
 痛みすら忘れる激情か……。
 跳躍は大きな後退で、クロムは彼と大きく距離を取り直してその突撃してくるさまをちら
と見遣る。
 眉根に寄せた皺が深く深くなっていた。場所が悪いが……やるしかない。
 ジークが迫ってくるまでの時間差を利用し、彼は素早く胸の前で印を結び始めた。オーラ
が色濃く滾り、周囲の岩肌がわななく。
「──“石修羅(いしゅら)”」
 次の瞬間だった。そう短く名を呼んだと同時、彼を周囲の岩が盛り上がって包み込んだ。
 暴れる地面に思わずジークも急ブレーキをかける。しかしその間も隆起し変形する巌は止
まることはなく、程なくしてクロムの姿は完全に組み上がった岩石の中に隠れしまう。
『……』
 岩石の巨人がいた。クロムの立っていた筈の場所に、イザークの時とは比べ物にならない
巨体と威圧感を持つ三面六臂の巨人がジークを見下ろしていた。
 その内部には、クロムが巌の舞台の上で深く息をついて、カッと瞑った目を開いている。
 巨人が、三対の血色をした双眸で吼えた。
 坑道内が、まるで戦慄するかのように激しく震えた。


 フォーザリア鉱山を揺るがすその強震は、ヴァハロ達のいる上層──岩と土のバルコニー
な空間にまで届いていた。
 足元が何度も小刻みに揺れる。肉片のような細かい亡骸は、それだけで左右に転がる。
 ヴァハロとアヴリルは揃って足元を見た。蟲型魔獣達も、のんべりと咀嚼をしながらぼう
っと突っ立っている。
「これは……」
「ちょっとーヘイト、もうヤったの?」
『違ぇよ。まだ駒達を動かしてる最中だって』
「ふむ……。揺れは下からのようだの。という事は、クロムがあれを使ったか」
 携行端末を耳に当てたまま、アヴリルと導話の向こうのヘイトが目を瞬かせていた。
 彼から届いたのは、あからさまな嘆息。彼女も、毛色は違いながらも共に良い印象という
様子ではない。
「まさかイシュラ? クロムっちったら、こっちで壊す前に壊そうっての?」 
『何やってんだよ……。戦闘能力で言えばあいつも中堅だろ……?』
「……存外、レノヴィンに手を焼いているのやもしれんな。或いはもっと別の動機か……」
 それでもヴァハロは、快活な微笑のまま立っていた。
 あの少年達が如何なる抵抗をみせたのか、それは当人が戻ってから訊けばいい。
 血の臭いが風に混ざっている。二刀の斧と槍をしまい、彼は二人に向き直って言う。
「ともあれ、こちらの下準備はもう済んでいるのだ。ヘイト、動かしてくれ」
『ああ。あの糞坊主には僕の方から声を掛けとく』
 アヴリルが端末の画面をこちらに向け、ヘイトの返事がした。
 じゃあ予定通りに。そうして彼の声は二・三のやり取りの後に回線と共に沈黙する。
 鉱山全体を見下ろせる高台にいた彼は、すぐに次なる行動に移った。自身の端末を介して
周囲のストリームに干渉し、うねるオーラをこなれた手つきで繰り寄せる。
『──』
 幾つもの目が光った。未だ坑道内に取り残されていた、ぐったりと倒れていた鉱夫達が、
一斉に狂気じみた眼で立ち上がったのだ。 
 ヘイトによる、ストリームを介した洗脳術。その虜と為った彼らは、自分達が開拓を続け
ていた坑道のあちこちに大量の爆薬筒を設置し始める。
「……さて」
 四散した亡骸だらけの岩のバルコニーで、ヴァハロがそっと瞑っていた瞳を開いた。蟲型
魔獣達を再び自分の体内に戻していたアヴリルも、肩越しにその声に反応する。
「我々も撤収しよう。“掃除”の時間だ」

 クロムの反撃攻勢は、結果としてそれまで激情のままに剣を振っていたジークの熱を一気
に削ぎ落とすことになった。
 そこそこに広さはあっても、高さには限りがある天井。
 そんなこの場の空間に、三面六臂の岩巨人は狭苦しそうに大きく身を屈めてジークを見下
ろしている。
「……ッ」
 胸奥を、全身を打つ熱が遠くに感じられていく。
 ジークは二刀を手にしたままその巨躯を見上げていた。最初何が起こったのか分からない
でいたが、どうやらクロムが自身ごと岩を纏って巨大化したらしい。
 なんて無茶な……。先刻までの自分を半ば無意識に棚に上げ、ジークは眉根を顰める。
 その間にも坑道全体が受けた衝撃の余波は続いていた。
 あちこちで崩れていく岩肌、砂の塊。このまま暴れられたら皆まとめて土の下になってし
まうではないか。
 だが、クロム──岩巨人はそんな憂いに全くの無頓着だった。六本の腕、その掌をぐぐっ
と広げる。すると今度はそれらに周囲の岩石が集まってゆき、実質鈍器に近い剣が形成され
ていく。
 巨人はそれらを、躊躇なく振り下ろしてきた。地面を坑道内を激しく揺らす衝撃が辺り一
帯に反響する。
 ジークは陰った感触を本能的に嗅ぎ取り、地面を蹴って何とか難を逃れていた。それでも
相手の腕は六本。巨体というリーチもあって次々に振り下ろされる攻撃に為す術がない。
「こんの……ッ!」
 それでも、小回りを活かして腕と腕の隙間を掻い潜り、渾身の二刀。
 だがそんな一撃はまるでこの巨体には通用していなかった。ガキンッ! と岩の筈なのに
まるで金属を叩いたような感触。勿論、叩き込んだつもりの斬撃は届いておらず、代わりに
手に伝わったのは、相手に弾かれた痺れるような感覚。
 また一発、巌の剣が薙がれ、ジークは風圧もろとも吹き飛ばされた。
 地鳴りのように、ゆっくりと巨人が迫ってくる。
 拙い……。ジークは衝撃による震えで悲鳴を上げる脳天に喝を入れながら、ぐっとその場
で両脚に力を込めた。
 これ以上退いてはいけない。仲間達が、まだ倒れている……。
「──うっ。げほっ、がほっ……!」
 そんな時だった。ジークの遠く後方壁際に倒れていたままだったサフレが、ようやく意識
を取り戻したのである。
 それでもダメージは相当であったようだ。瞳の力はまだぼやっと弱く、衣服もあの一撃で
随分とボロボロになってしまっている。
 ジークは肩越しに振り向いていた。言葉が出ずとも目は見開かれ、しかし無事だったこと
に束の間の安堵が過ぎる。
「サフレ!」
 ジークの呼び掛けに、サフレはのそっと顔を上げた。
 数拍。視界一杯に映る三面六臂の岩巨人。
「リュカ姉とマルタを!」
 できる事ならすぐに駆け寄り肩を貸してやりたかったが、この状況では叶いそうもない。
 幸いサフレは傷付きながらも、ややあって状況を理解したようだった。改めて岩巨人を見
つめた後、ジークに視線をやってコクと頷く。まだ痛む全身を引き摺りながらも、向こう側
に倒れているリュカとマルタの下へと駆け出していく。
 また巌の剣が降ってきた。転がるように横っ飛びをし、ジークは何とかそれを避ける。
『……』
 ゴゴッと音を立てながら、巨人がこちらの動きを追っていた。その度に周囲の岩肌が剥が
れ落ちていく。地面に激突して大きく土煙を舞わせる。
 そんな中、自ら毒を盛ったイザークがその崩落に呑まれるのを見た。
 リュカを守る為に命を張った傭兵達の亡骸も、何人か巻き添えになるのを見た。
 振り下ろされる巌の剣、その合間を必死で駆けながら、ジークは思わず眉間に皺を寄せて
眼を遣ってしまう。
(……待てよ)
 そうだ。相手はあのローブ野郎が使ってたようにゴーレムの類じゃないか。
 だったら同じ手が使えるのではないか? ただ巨体に半端な攻撃をぶつけるのではなく、
その力を元から断ってしまうような。
 更に一撃を飛び退きかわし、ジークは巨人を見上げた。
 空いている──持ち上げられたり、構造的にこちら届かない腕は残り五本。二刀のマナを
一度収め、ジークは機を見る。
 ほんの数拍で第二波がやって来た。今度は左側の腕の一つ。そこから振り下ろされる巌の
剣をギリギリまで引きつけ……避ける。
「白菊!」
 二刀を収めると同時に上着の内側に手を。取り出したのは白く輝く脇差の六華。
 反魔導(アンチスペル)の短剣。
 これなら、間違いなく魔導的な力で維持されているこの巨体も──。
「──なッ!?」
 しかしそんなジークの読みは、外れた。
 地面に深くめり込んだ巌の剣に跳び乗り伝い、腕の部分へと確かに解放した白菊の刃を突
き立てたというのに、またもや攻撃が弾かれてしまったのだ。
 反動で身体が宙に浮く。驚きとフッと過ぎる絶望がジークを打つ。
 確かに刃は当たった筈だ。なのに……なのにまた、まるで鋼鉄の膜に阻まれたかのように
一撃が届かなかった。
 それでも、ジークは目を凝らして見ていた。
 突き刺した部分、そこを包むオーラが一瞬くぼみ、そしてすぐに周りに補完されるように
元通りになっていったさまを。
(まさかあの野郎、このデカブツ全体に錬氣を……?)
 ジークは驚愕した。これは単なる使い魔ではない。
 何よりこれだけの巨体を覆うだけのオーラを、マナをあの男は練り出している事になる。
弾かれるほどの硬さもだが、これが魔人(メア)の導力なのか……。
「ジーク、避けろっ!」
「……ッ!?」
 しかし数秒の滞空、思考の後には反撃が待っていた。
 着地の直後、サフレが叫び振り向いた時には迫っていた。横薙ぎにされた別な巌の剣が自
分を狙って振り出されていた。
 爆音が響き渡った。濛々と土埃が舞い、暫しサフレが愕然とした表情でそのさまを見つめ
ている。まだ石に包まれたリュカは眼だけでジークの名を呼んでいる。サフレに抱きかかえ
られていたマルタも、自己修復が進みつつも、その為のマナの消耗によってまだ満足に動く
ことができない。
「ジークッ!」
「…………大丈夫、だ」
 もう一度サフレが名を呼ぶ。すると少し間があってから、土埃の中から片膝をついた格好
のジークの姿が確認できた。
 どうやら寸前で身を屈めて難を逃れたらしい。
 だがダメージ自体を防げた訳ではなく、岩巨人を見上げるその顔には額から大量の血が流
れ落ちている。
 仲間達は、何とか大丈夫そうだ。だがこのままでは皆まとめて土の下だ。
 ジークは強く強く唇を噛んでいた。
 “救い”が欲しかったんじゃねぇのか? 自分に“意味”が無いと嘆いていたんじゃない
のか? だったら何で、何で“結社”になんかに身を寄せる? もっと他にあんたの苦悩を
一緒に背負ってくれる人はいなかったのか……?
 敵に情を移すなんてサフレ達に笑われてしまうだろうけど、悔しかった。
 何でそんなに自分を追い詰める? 独りぼっちだと決め付ける?
 重なっていたのだろうか。幼さのまま、撥ねっ返りのまま、故郷を飛び出し冒険者の道を
選んだ自分と。
 でも……自分は知った。出会うことができた。クラン・ブルートバードという仲間達に。
 確かに世の中はくそったれかもしれない。でも逆にいい奴らだっているんだ。そこまで絶
望する必要はないんだ。だから、あんたも──。
「……!」
 声に起こせない思いだった。
 しかしジークは次の瞬間、見上げていた岩巨人の血色の眼を見てはっとなる。
 そうだ……魔人(メア)だったんだよな。結社(れんちゅう)って括りでばっかり捉えて
いたけれど、あんたも間違いなく、否応なしに不死身と迫害を強いられた一人なんだよな。
 ジークは脳裏に思い起こす。かつて自分達が助けたメアの少女のことを。かつてはその身
が故に心を閉ざし、レナ達の献身でようやく笑顔を取り戻せた彼女のことを。
「……。ど阿呆が」
 生き続けるという罪の意識。それが原因なのか? 終わらぬ繰り返しに絶望したのか?
 だけど──やっぱり、あんたのやっている事は許されない。正しい訳なんて、ない。
 ジークは大きく息を吸い、吐き出した。握っていた白菊の力を閉じ直し、そっと刃を鞘に
収めて無刀になる。
「ジーク……?」
 戸惑うサフレの声がいやにはっきりと耳に届いていた。実際は今も岩巨人──クロムが自
分を叩き潰そうと蠢いているのに。現在進行形でこの山が悲鳴を上げているというのに。
「止めるよ……あんたを。止めなきゃ、駄目だろ……」
 そう呟き、抜き放ったのは三本目の太刀だった。
 黒藤。六華中最大の火力を持つ、召喚系の聖浄器。
「よ、止せジーク! それではお前の身体が──」
 ああ、分かってる。こいつは特に燃費が悪いからなぁ……。
 サフレが叫んでいた。それでもジークは振り向きもしなかった。
 紅梅や蒼桜では威力が足りない。白菊の能力でも防御を崩し切れない。だったらもう自分
に残されている手は、これしかないじゃないか。
 それに……自分は彼を止めたい。
 “敵”だから倒す云々じゃなくて、ヒトとして彼を。
「……出番だぜ、黒藤」
 握り締めて力を込める。解放された刀身からは艶黒く輝く光がほとばしる。
 クロム──岩巨人と遜色ない巨体がまた一体、窮屈そうにしながらも場に現れた。
 黒漆の鎧武者。主であるジークと動きをシンクロさせる、巨大な使い魔。
 三面六臂の巨人が低く響くような雄叫びを上げ、六本全ての巌の剣を振り上げた。ジーク
もそれを見遣りながら、黒刃を大きく肩に担いで構える。その動きに鎧武者も巨大な太刀で
以って倣い、口元から煙を吐く。
『……。──!』
 引き伸ばされた緊張の糸は、そう長くは続かなかった。
 タイミングはほぼ同時。
 二つの巨体は、上下から互いに潜り込むようにしてその刃を解き放つ。

「──……っ」
 吹き飛ばされていた意識が駆け足のように戻り、自分を取り戻すべく発破を掛ける。
 どれくらいの長い時間か、或いはほんの数秒のことか。クロムは鈍い身体の痛みを遅れて
感じながらゆっくりと瞼を開いた。
 勝負は決していた。
 自身を覆っていた視界がにわかに明るい。即ち石修羅(いしゅら)の装甲がぶち抜かれた
ことを意味する。
 岩巨人の枢軸を担う内部の台座。その上に仰向けに倒れていたクロムは、そっと胸元に刻
まれた大きな傷に手をやる。
 自分の、魔人(メア)の身体がばっくりと深い斬り傷を負っていた。
 着古した僧衣が大きく破け、血で真っ赤に染まっている。例の如く不死身の代名詞である
再生能力は現在進行形で発揮されているが、それでもあの少年が放った一撃は聖浄器──自
分達メアの、魔獣化した者らの天敵だ。傷が塞がり切るにはもう暫く掛かりそうだった。
 静かに唸った後、少々鞭打つように身体を起こす。
 台座の上から見下ろしてみると、あの少年は刀を手にしたまま地面に倒れていた。
 額からはたっぷりと流血が、顎を突けたその表情はまるで生気を失くしかたのよう。両の
瞳も色彩を失い、少なくとも意識が大きく遠退いているのは間違いない。
(……導力が限界を迎えたか)
 あの鎧武者の姿はなくなっていた。石修羅の腕も、内四本が途中から斬り落とされている
のが確認できる。推測だが、お互いの一撃で消滅──こちらが辛うじて本体を討ち切れずに
力尽きたとみるのが妥当だろう。
 眼下では少年に仲間達が──竜族の魔導師を背負った少年と、回復したオートマタの少女
が駆け寄ろうとしているのが見える。
 安堵するにはまだ早いか。
 そうクロムは言葉なく判断し、台座を蹴って跳ぶ。
「……ッ!」
「は、はわっ!?」
「……。案ずるな、勝負は決している」
 当然ながら、サフレとマルタは眉を顰め、身を縮こめ警戒していた。
 それでクロムは構うことなく近付いていく。紡いだ言葉の通り、もう勝敗は明らかだ。
 なのに……サフレは魔導具の槍を呼び出していた。
 口が塞がったまま、それでもおそらく「止めて!」と叫んでいるらしいリュカのくぐもっ
た声が聞こえる。
 クロムは彼らと少し距離を置いた所で立ち止まり、そっと眉を顰めた。
「──ッ!?」
 そして、早撃ちの要領で右手をごつと硬化、その破片を弾丸のようにして飛ばす。
 弾はサフレの左頬を掠めて飛んでいった。つぅっと細くない赤い筋を垂らしながら、彼が
思わず硬直する。
「……どけ」
 一歩、二歩。静かに言い放ったクロムの歩みと威圧感に、サフレ達はじりじりと後退する
他なかった。槍を握り直すのもままならず、マルタはリュカを抱えるのが精一杯で、また仲
間達はジークから距離を置かされる。
『……』
 暫くの間、クロムとジークは互いに押し黙っていた。尤もそれは実際には一方的で、彼が
動けず意識があるのかも定かではないジークを見下ろしていた格好だったのだが。

『──止めるよ……あんたを。止めなきゃ、駄目だろ……』

 クロムは確かに聞いていた。あの時、声こそ大きくなかったものの、彼がそう自分を見上
げながら呟いていたのを確かに聞いていた。
 不思議な感触だった。
 単なる気のせいだろうか? 彼はあの時、まるで自分を“敵”として接さずに戦おう──
闘おうとしていたような気がする。
 拳を交えれば、剣を交えれば、というやつか。内心己を哂いながらも否定できない自分が
いる。自分を引きとめようとする彼の姿が、脳裏に浮かんでいた。
『──おい、クロム』
 ちょうどそんな時だった。はたと中空のストリームの一部が現出化し、その中ほどが人の
顔のように──ヘイトの顔の形になりながらクロムに呼び掛けてきたのである。
『お前、何勝手な行動取ってんだよ。計画を忘れてねぇだろうな?』
「……忘れてなどいないさ。私が懸念した通り、信徒イザーク(かれ)ではレノヴィン達を
止められなかったようだからな」
『そりゃ元から捨て駒だしな。……んでもって、そう偉そうに言ってる割には随分と苦戦し
てたみたいじゃんか』
 ストリーム越しのヘイトの表情(かお)が、心配の念とは百八十度逆の哂いに満ちた。
 半壊した岩巨人、生気を失って倒れたままのジークと、駆け寄ろうにも駆け寄れないでい
る彼の仲間達。相互を何度か見遣って、彼はふんと鼻を鳴らす。
「そうやって他人を侮るのがお前の悪い癖だ。……強いぞ、彼らは」
 淡々とクロムは言った。ヘイトも言い返されて癪なのかもう一度ふんとへそを曲げたよう
に唇を尖らせている。
『へいへい。でもやったんだろ? 残りの連中もとどめを刺してお前も撤収しろ。もうじき
片付けに入るぜ?』
「……ああ。分かった」
 あくまで淡々と。そんなクロムの態度に最後まで面白くないといった様子で、ヘイトの顔
はストリームごと消えていった。
 導話のようなものか? サフレ達が目の前で繰り広げられていた奇妙な術に少なからず唖
然としている中、クロムは暫し中空を見上げてから、もう一度彼らに向き直る。
「……。まだ結社(わたしたち)を追うつもりか?」
 ぽつりと、最初にそう訊ねられた。
 答え次第ではまた──。そうサフレ達は思い、同時に声自体が出てこず、黙っている。
 それを一体どう捉えたのだろう? クロムはサッと片手を岩巨人の方へと向け、その巨体
を一瞬にして岩礫の山に還すと、続ける。
「近々、大都(バベルロート)にて統務院総会(サミット)がある。会議の中心となるのは
トナンの内乱処理、そして何より“結社”への対応だ」
 岩巨人(の残骸)に手を向けたことで、半身を背けた格好になっているクロム。サフレ達
が急にそんな話を振られて目を瞬いているのを横目に一瞥すると、彼は一度たっぷりと間を
置いてから断言した。
「分からぬか? 私が知っているということは、即ち組織の上層部も既に開催の予定を把握
しているということだ。そして内容が自分達を排除する為の相談となれば……何も干渉、妨
害をせずに傍観するとは考え難い」
「……!? お前は──」
 ようやくサフレが、それでも怪訝な表情は崩れずに声を絞り出していた。
 まさか。思わず問い返そうとする。だがクロムは語るのはそこまでだと言わんばかりに口
を閉じると、先程の片手に力を込め始める。
 バキバキッと荒く盛り上がるような岩肌になっていく右腕。その周りを漂い始める無数の
石粉。返していた半身を戻し、彼はまたゆっくりとジーク──とサフレ達の下へと近寄り始
めていた。
「……」
 静かに持ち上げられる“石罰”の構え。身構えながらもどうしようもできないサフレ達。
 伸ばされる巌の手。
 ジークに続き、今度は彼らにその魔手が迫り──。

 フォーザリアの鉱山が、その根元から上層に至るまで次々に爆ぜた。
 坑内に設置された無数の爆薬が一気に点火され、その土と岩と金属の集合を無慈悲に破壊
していったのだ。
 鉱夫達が残っていた。
 ヘイトの洗脳を受けたままの彼らはこれら点火の為の人柱となり、最期まで狂わされたま
ま、加速度的な崩落の中へと呑み込まれていく。

 時を前後し、世界中の外交ルートを通じて統務院総会(サミット)開催を知らせる通知が
届き始めていた。
 連邦朝(アトス)、王国(ヴァルドー)、共和国(サムトリア)、都市連合(レスズ)。
 これら四大国だけでなく、クリシェンヌ教団や保守同盟(リストン)、勿論その他各地の
諸国もその情報を受け取る運びとなる。
 外交デビューとなるシノ、内乱終息後も終わらぬ争いにそっと眉根を寄せるハウゼン王、
彼女達の実質的な後ろ盾であるセドやサウルもじっと食い入るように書簡に目を通す。
 一方でファルケン王は秘密裏に指示を飛ばしていた。
 政治の大舞台が近い──せめてその間くらいは、今国内(フォーザリア)で起こっている
一連の騒動をその少なからぬ被害を、出来る限り隠すようにと厳命していた。
 証拠こそないが直感していた。
 “結社”はこの政治日程も知った上で、あのような派手な攻勢に出たのではないかと。

 広大無辺なストリーム──世界樹(ユグドラシィル)の只中からも、眼差しは注ぐ。
 “教主”は一人佇んでいた。周囲に点々と分厚いガラスのような足場が浮かぶ中、その淡
紫をした光球の巨体をマナの大流に委ね、只々押し黙っている。
 使徒達も思い思いの時間を過ごしていた。
 白髪の剣将は、硝子の足場の上で黙々と剣を振るい、その後黒いコートを翻して何処かへ
と立ち去っていく。
 魔獣人の男は、ストリームを遠景にした庭園の中におり、不器用ながらも同じく魔性に魅
入られた少女のお守りをしている。
 着流しに身を包んだ鬼族は、他人のいない、水音と深い緑のみが広がる辺境でじっと座禅
を組んでいた。滝の音だけがどうどうと聞こえてくる。
 そんな中「やぁ」と気安い声色共にやって来たのは、黒い翼を持つ鳥翼族の男。
 数少ない友──悪友だった。そして彼はその友から外の情報を聞かされる。
 ヴァルドー屈指の大鉱山が落ちたこと、レノヴィン達がその崩落に呑み込まれたこと、そ
して近い内に大きな任務が自分達に課せられること。
「……ったく。この世界は五月蝿過ぎるんだよ……」
 彼はため息をついていた。
 かつて破られた我が檻。何処まで究めて往けば、自身の望む静寂が手に入るのだろう。

 フォーザリアが燃えていた。山々は爆ぜ、館は轟々と炎上する。
 ルギスがいた。裏切り者(グノア)がいた。黒騎士(ヴェルセーク)がいた。
 紅蓮が全てを包み込んで壊し、虚無に均していく。
 そんなさまを彼らは哂い、見つめ、佇み、各々に瓦礫と亡骸の上に立つ。

 彼らが希求した(もとめた)先の……結末。
 世界はその日、幾度目かの節目を迎えようとしていた。

                   《鋼の希求心(ストロング・シーカー)編:了》

スポンサーサイト
  1. 2013/05/23(木) 18:00:00|
  2. ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<(雑記)蓋をしないという人間観 | ホーム | (企画)週刊三題「もう一度、咲いて」>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://higurasisouann.blog27.fc2.com/tb.php/318-e8a724a4
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
します。

訪問者累計

最新記事

最新発言

検索窓

月別履歴

09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -

分類/索引

【案内板】 (2)
【小説:短編】 (20)
本の蟲 (1)
硝子野不動産店 (1)
夏の日の幻影 (1)
四番線の彼女 (1)
夢視の宿 (1)
線を曳く町 (1)
炬燵の神様 (1)
三者三盗噺 (1)
色眼鏡 (1)
奴らは攻城戦師 (1)
詰め替える (1)
同じ籠の狢 (1)
二十年後の遺言 (1)
轍の先 (1)
水に流せば (1)
真夜中の御二柱 (1)
いつか見た夢 (1)
神様達の初詣 (1)
白い花束 (1)
丸の代償 (1)
【小説:長編】 (150)
Amethyst League (6)
アンティーク・ノート (3)
ユウキのヒカリ (5)
NIGHT GUNNERS (5)
レディ・ルーン-Bonds of RU'MEL- (6)
ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- (88)
死に損いのデッドレス (5)
Dear SORCERY (4)
サハラ・セレクタブル (28)
【企画処】 (344)
週刊三題 (334)
その他参加物 (10)
【資料庫】 (15)
【落書帳】 (6)
【詩歌帳】 (6)
【雑記帳】 (323)
【読書棚】 (30)
【遊戯倉】 (24)
path. (4)
decide: (3)
ユー録FW (16)

記事録

交友関係

このブログをリンクに追加する

(RSSリンク)

(QRコード)

QR

@long_month からのツイート