日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「連綿と」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:赤色、糸、未来】


 光が静かに差している。眩しいばかりの光が遥か頭上から注いでいる。
 手を伸ばせば、届きそうそうな気がした。しかしそれはすぐに錯覚なのだと彼らは知る。
 むしろ逆なのである。差し込むこの光は決して仰ぐ者を温かく迎え入れるのではなく、そ
の強い眩しさで彼らを退ける。決して慈悲ではなく、先に往けと急かし強いる絶対者のそれ
であったのだ。
 そこから糸が垂れている。白いがくすんだ、無数の糸がその天上より垂れている。
 周囲は只々闇であった。その徹底された黒を払えるのは、他ならぬ頭上より差す光条達だ
けであった。光は差し込む。光はじっと、そんな闇の中へと伸びていく糸を映すように差し
込み続けている。
 彼らが居るのはまさにその糸だった。
 白ばむ眩さの中からずるりと、その脚が下りて来る。
 彼らに装飾の品はなく、男女問わずただ纏うのは粗末な布切れだけだ。それでも彼らの多
くは文句一つ言わず糸に掴まり、時に周囲の眩さと闇の対比をぼうっと眺めてから黙々と下
へ下へと降りてく。

 何故? 問うこと自体が意味を成さぬとされた。
 何故? 仮に問い掛け叫んでも、その声は決して他人には理解されない。むしろ先に降り
始めた先達らからは、貼り付けたような笑みばかりが返ってくる。
 だから、やがて彼らは諦める他なかった。そう問うことが間違っているのだと教えられ、
それが此処での常識(ふつう)だと認識するようになる。
 糸は無数に延びている。下へ下へと延びている。
 頭上から差す光条は確かに強かったが、それでも全ての闇を晴らすには足りないらしい。
遠く意識を向けて目を凝らせば、そこにはやがて眩さを失い、暗闇だけが糸を呑み込んでい
るさまがある。

 ……それでも、彼らは降りていくしかなかった。
 無論、中には途中で嫌だ、厭だ、戻りたいと上り直そうとする者もいる。
 だが全てにおいてそれは許されなかった。一つに彼らは降りてゆくべき存在であって、戻
ることは秩序に反するからだ。そしてもう一つは、先達──この手の逆走に及ぼうとする者
は概して相応に歳を取った者である──が後から来る者らを邪魔するからである。
 相応しくない。みっともない。迷惑だ。
 そうした逆走者は詰られる。後から降りて来る者らには疎まれ、或いは同じくしたり隣接
する代の者らに無数の憎悪をぶつけられる。
 こうなってしまえば、確かに“戻れなくなる”のだった。
 選択肢は三つある。一つは後生詰られ続けながらも、降りてゆく役目を再開すること。二
つは別の糸へ移る縁(よすが)まで待ち、やり直すこと。三つは……糸から手を離し、自ら
闇へと身を投げ入れることである。

 縁──そう、何も糸は一本ではない。
 それは限られるが、彼らは降りていくための糸を選ぶことはできた。尤もそれはいつ訪れ
るか、見通しの効かない中で見つかることが多いし、仮に移ってみたところで課された役目
が変わる訳ではない。
 それでも、彼らの少なからずがそこを見つけて足を降ろす。
 足場だ。糸に差すそれのように光に溢れてこそいないが、少なくともここにいる間は糸を
降り続ける役目から解放される……ような心地になれる。
 そう。ような、である。
 予告もなく点在する足場。だがそこに長々と留まることも、また許されなかった。
 彼らを見ている者達がいた。その者達はじっと、闇の中から彼らの怠慢を断罪する、その
瞬間(とき)を待っている。
 ぎろりと、円く寄り集まった赤の丸が身を休める彼らを睨む。
 彼らは戦慄する。薄から濃へ、丸の中の赤色の色調が移るのをみて彼らはそれらが眼だと
知る。闇の中に浮かび上がる、寄り集まった赤い眼──複眼だと知る。
 がさがさと、足場の土を削る音もする。
 そこで全く知らぬ者は悟り、ある程度聞き及んでいた者は確信に至る。
 蜘蛛だ。とてももなく大きな……蜘蛛が、こちらを狙っている。
 選択肢は二つだ。急いで何処かの糸へ戻るか、それとも奴らに喰われて終わるのか。
 折り続けろ。そう無数の眼は急かし、強いるのだ。

 加えて足場を使うことすら、彼らの間では忌まれていると言っていいだろう。厳密な表現
を用いるならば、自粛させ合った結果、萎縮している格好なのだが。
 足場を使うこと、それは即ち一時的とはいえ糸から離れることである。
 故にその選択は、尚も降り続けている者達からみれば酷く苛立ち、自身を不安定にさせる
外因なのだ。
 何故? そんなかつての問いが疼くからだ。
 何故自分達は、こうして延々と糸を降り続けなければならないのだろう?
 不満、恐れ、それらは黙々と役割をこなすことで辛うじて意識の外に追い出せている。な
のに一部の者達がひょいひょいと足場へ──役割から逃げ出そうとするから、その忘却に水
を差される。
 故に彼らは足場で身を休める者を罵って憚らない。休めた者の事情をさして考えない。
 逃亡者だ、怠け者だ、敗北者だ──そう言って烙印を押すことに躊躇しない。
 ……だがきっと、どこかで罵る彼らは気付いている。罵られる側も、そうされてようやく
解ることも少なくない。
 不安なのである。憤懣遣る方ないのである。
 故に彼らは攻撃するのだ。上辺では役目を果たさない者を糾弾する「正しさ」を代弁する
者として、しかし本心ではそんな者達を羨ましくも思っている。同時にそれを認めてしまう
こともできない、実行することもできない。……同じく、自身も罵られる側になる。
 知っているからだ。ほんの瑣末な慰みの為に、自分達は平気で──あろうとして足場に身
を休めた者らを責める。彼らが劣っている存在だと叫ぶことで、優越感を抱ける。それが如
何に一時しのぎでしかなくとも、永遠にも思える繰り返しの中ではその一瞬が彼らをある意
味で生き生きとさせる。
 たとえその正体が、自分の周囲を囲む闇色に負けず劣らぬ、どす黒い怨嗟であろうとも。

 故に彼らは一つになる。一つが二つに三つに、四つに五つに、いくつもの集団を作る。
 そして彼らは幾年も糸を降り続けてきた。途中、何度足場を休めようとしたことか、或い
は事実その選択を採り、移動せざるをえなくなったか。
 何があったかは可能な限り触れない。それが彼らにとっての暗黙の了解であった。
 どれだけ詰られたろう、詰っただろう、煩悶したろう、蹂躙されかけたろう。
 それでも……自分達は戻ることも止まることも許されない。
 それはひとえに、後から来る者達に譲るためである。自分達に役割以外の“意味”は認め
られず、仮に自身や誰かからの仮定を受けていてたところで、その時がくれば全てが終了さ
せしまれる。
 嗚呼、どれだけ折り続けてきただろう。何度糸を乗り換えて来たのだろう。
 糸の端が指先・足先の感覚から伝わってくる。
 差し込む光は殆どなくなっていた。
 最初の頃であれば、縁を失い錯乱していたかもしれない。……不安がない訳ではないが。
 それでも彼らの多くが落ち着いていられるのは、安堵しているからなのだろう。
 やっと、終わる。この役目が、終わる。
 全ては後に続く者達に残すため。その過程が自分という存在の全てであるとしても、もう
怨嗟ばかりを吐く気にはなれそうにない。
 いや、それは少しばかり違うか。厳密ではない。
 それは……哂っているからだ。自分の意味など無かった、それはきっと遥か頭上から降り
てくる後の者らも同じことなのだろうから。
 ざまあみろ。ある者はそう叫んで、全てを哂い飛ばすことでしか正気を保てなかった。
 やっと終わった。ある者はそう呟いて、全てを諦めて静かに己を溶かす。
 それでも未練というものがあるのは、ある意味で彼ららしさなのかもしれない。ある者は
逸早く手を足を離した。ある者は暫し躊躇し留まってから、或いはやがて力尽きて手を足を
離した。
 ようやく終わる……。やっと課せられた役目が終わる……。
 光は無く、闇の中に自分という存在が音もなくじわじわと融けてゆく。
 総じて在ることの不幸。
 それでも幸いであったのは、融ける中で無数の赤眼の接近を知れずにいたことで──。

 光が静かに差している。眩しいばかりの光が遥か頭上から注いでいる。
 そこから糸が垂れている。白いがくすんだ、無数の糸がその天上より垂れている。 
 云う、後から来る者。それとも……巻き戻されただけなのか。
 白ばむ眩さの中からずるりと、その脚が下りて来る。
                                      (了)

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  1. 2013/05/12(日) 00:00:00|
  2. 週刊三題
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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