日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(書棚)感想:水鏡希人『ハーレムはイヤッ!!』

書名:ハーレムはイヤッ!!
著者:水鏡希人
出版:電撃文庫(2010年)
分類:ライトノベル

何かと誤解される少年と、誤解されやすい少女達の四苦八苦。
……とりあえず主人公君は爆発すればいいと思うよ?


どうも。書棚カテゴリでは凄く久しぶりな気がします。
前回の日付を確認してみればざっと半年も経っているんですね……。自身の創作に没頭して
いたとはいえ、意識的に読まないとすぐに視界狭窄に陥りそうな。

今回は第14回電撃文庫大賞金賞受賞者・水鏡希人さんの一作「ハーレムはイヤッ!!」の読書
感想をお送りします。
大まかな物語は以下の通りです。
主人公・上月慧は、自身が通う学園にて「ハーレム王」なる(不名誉な)称号を与えられて
しまっている。生徒会長で名家のお嬢様・綾乃やモデルをしている美柚と妙に仲がいい事を
嫉妬・揶揄されてのものだからだ。
しかし慧と彼女達の関係は、実は中々おおっぴらには話せない複雑な事情がある故で。
だが更に慧が思いを寄せるクラスメイト・詩織、その性格ゆえ孤立しがちな彼女を何かと気
にかける佳奈子、詩織にきつく当たる女子グループのリーダー格・貴子までがアクシデント
と周囲の誤解により慧の魔手にかけられたと囁かれ、遂には……というお話。

そもそも、堅い部類である自分が何故ラブコメを敢えて手に取ったのか?
今回に関してその理由は実は明確にあったりするのです。
一つは普段「硬い幻想色」の物語を中心に書いている自分ですが、やはり今日びのエンタメ
小説界隈で大きな版図を占めているライトでコメディ調な作風も書けるようになった方がい
いのでは?という、挑戦欲とでもいうべき思いを片隅に抱いているからです。
勿論、硬く真面目なお話を好んでくれる読者さんだっているのですが、常に「それだけ」と
いうのはいずれ表現の貧しさにぶち当たるような気がして……。
そんな中、本屋の片隅で目に留まったのが本作でした。
何よりも先ずタイトルがラブコメ系を連想させるド直球。更に作者さんの名前を見て、はた
と「確かこの人って版元と揉めてた人だっけ……」という──下手するとご本人からすれば
嫌味にも映りかねない──動機、覚えていた記憶もあって手に取る運びとなったのでした。

さて肝心の感想についてですが、一つ僕からもし本作を手に取ろうかなと思った方に言って
おきたいことがあります。
それは「所謂よくあるラブコメの類を思って手に取ると火傷するぜ?」というもので……。
ぶっちゃけてしまいますが、このお話、重いです。コメディになっていません。
文体自体はごく硬めの、丁寧なものだとは思うのです。
ですが如何せん、ラブコメというジャンルと合わさった時の、調整し切れていない不協和音
感が結局拭えなかった──そんな感慨が自身、このお話を手に取った中でありました。
具体的に言うと、全体的にくどいのです。
(程度差はあれど)何処か斜に構えた主人公による語り部的構成。それ自体はラブコメ作品
群を見渡せばそう斬新という訳ではないのでしょうが、僕が慣れてないという事情もあるの
やもしれませんが、残念ながらネガティブな印象に一役買ってしまっています。
何というか……「所謂リア充をリアルにしたこうなる」のだろうなぁ、が文章にされたお話
と言うべきなのでしょうか。
終始、物語の語りは主人公・慧の視点で進みます。彼のよくも悪くも真面目な人となりから
何故「ハーレム王」などと呼ばれるようになったのか?その原因と事情、そして思慕を寄せ
る少女への不器用な「ありがとう」の試行錯誤──。作者の重きを置いた部分は(あとがき
でも言及されていたので)きっとその人間同士のもどかしさだったのだと思います。
しかし、なまじ慧の語り口が全体を通して“嘆き節”で彩られていることがそんな意図を、
少なくとも僕に対しては、見事に吹き飛ばしてくれました。

先も言ったようにこのお話は所謂ラブコメ的な軽さとは一線を画している部分があります。
それは単に文体の話に留まらず、物語が進む因子の一つに「現実的な周囲の怨嗟」が繰り返
し描かれている点に集約されると思います。要するに「くっそーwこいつめ爆発しろw」な
ライトなやっかみではなく、ガチの「嫉妬」です。尤もそれが主人公の語り口を鬱々とした
ものにさせている面はあるのですが、よくあるラブコメかな?と思って手に取ってしまった
自分としては存外メンタルにダメージを受ける結果になったのでした。
だからこそ──これもまたある種私怨になってしまうのかもしれませんが──結果、今回の
感想は総じてネガティブな方向に傾いてしまっています。
テンプレなラブコメを打破しよう、という意図は分かるのですが、僕からみると奇を衒って
却って失敗したかのような印象が強く残ります(題名やビジュアルがもっと真面目だとこう
はならなかった?)。自分もラブコメ的に書こうとしてコケた経験が少なからずあるので、
尚の事痛手が増して感じられた、という嫌な相乗効果もあるのでしょうけど……。

故に、僕は残念だなという思いを持ちます。
文章は決して悪い訳じゃないのに、毛色の違いでこうも悶々とした感覚を残すものなのか。
自身、厭気を覚えた「リアルな嫉妬」の描写も作者からすれば確信的に用いた選択肢だった
のかもしれませんが、結果僕が手に取っている間、終始その陰湿さに読む楽しみが足を引っ
張られてしまった感が否めません。その為の合間合間に挟むコメディ的なやり取りも、その
暗澹さを軽減してくれるほどの威力が足りず……。結果、火傷したなーという印象が強く。
(慧が自身の状況を能動的に解決して〆られていれば印象は違っていたかもしれませんが、
少なくともこの巻でそれらは果たされず、此方がもやもやした点も大きかろうと思いますが)

それでも「コメディを描くこと」という点においては自省を込めた参考図書になりました。
一つ、コメディに“長い”説教は要らない。笑わせることを主力にすべし。
一つ、現実(リアル)の威力は時往々にして人を竦ませる。落とし込む比率には細心を。
一つ、文体と毛色には相性がある。上手く互いを噛み合せることを怠るなかれ。

……やはり、僕にはライトな雰囲気は難しそうです。
それが自分の畑(フィールド)に閉じ篭ることを良しとするものではありませんが、自身の
領分というもの、自身の特性が持つ長所短所──を如何色々な方面で活用できるのか──は
分析し過ぎてもし過ぎることはないのかもしれません。


<長月的評価>
文章:★★★☆☆(自体はやや硬めで丁寧。されど全体としてくどい印象があるか)
技巧:★★☆☆☆(お話の展開上仕方ないとはいえ、込み入ったトリックはさほどない)
物語:★★☆☆☆(動的な変化よりも静的──内心描出に割かれた構成。人を選ぶやも)

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  1. 2013/04/17(水) 21:30:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

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