日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)レディ・ルーン-Bonds of RU'MALE-〔6〕

「……どうして二人がここに?」
 予想外の人物らの登場に、陽は思わず目を瞬いて呟くように口を開いていた。
「それはこっちの台詞だよ」
「陽君こそ、どうしてここに?」
 耀金と妃翠。二人はめいめいに言いながら陽の傍まで近付いて来た。
 怪訝を隠さずに眉根を上げている耀金の傍で、妃翠はちょこんと小首を傾げて言う。
「う、うん。小野寺先生──図書委員会の顧問の先生なんだけど、その先生から今度委員会
の会議で使う資料を水上に届けてやってくれって頼まれて……。僕も水上も同じクラスの委
員をやっているんだけど、どうも先に帰っちゃっててさ……」
「ああ……そう、だったの」
 鞄から預かってきた資料をちらっと見せながらの応答。
 そんな陽の言葉に、妃翠は若干ホッとしたような様子だった。
 それでもやはりばつが悪いのか、静かな苦笑は消えていない。ちらりと傍らの友の顔を見
上げつつ、彼女はもそっと胸元に抱えていた何か──大きな茶封筒を抱え直す。
「でも妙なんだよねぇ。さっき水上、玄関から出てきたんだけどそのまま一目散に何処かに
走って行っちゃって……。僕が立ってたのに気付かなかったのかなぁ」
「え? じゃあナギちゃんは今いないの?」
「うん。お家の人は中にいるかもしれないけど……。水上に何か用事でもあったの?」
「それは……」「……」
 陽が自身の事情を説明しつつ訊ねたが、二人は答える代わりに互いの顔を見合わせて少々
思案顔をみせるだけだった。
 そんな反応に陽も頭に疑問符を浮かべる。
 そもそも妃翠が水上と顔を合わせたのは数日前に弁当を届けに来てくれた時、しかも偶然
に限りなく近い形の一回きりだった筈だ。なのに一体何の用があったのだろう……?
「ヨウちゃん……」
「……ま、いいんじゃないか? 手順は逆になっちまうけどさ」
「? 何の事?」
 そう陽がちらと思考を巡らせている間に、二人は何やら覚悟を決めたようだった。
 まるで了承を得るように耀金が気だるっぽく言うのを確認すると、妃翠は一歩陽の前へと
進み出た。
「……陽君。とりあえず、これを見て」
「? うん……」
 彼女から渡されたのは、先程までその胸に抱えられていた大きめの茶封筒。
 陽はいまいち状況が掴めないまま中を検めてみた。入っていたのは何枚もの書類らしきコ
ピーされた紙。色々と難しい独特な表記が並んでいるが、どうやら役所の文書であるらしい
事は辛うじて分かった。
「……これが、何だっていうの?」
 だがそれでも陽は二人が何を言いたいのかピンと来なかった。
 その様子に少しじれったくなったのか、今度は耀金も傍に寄って来ると書類の中の数枚を
ピックアップしてみせると言った。
「ま、ややこしいのは分かるけどね。じゃあここを読んでみな」
「ええと、何々……? 養子、縁組?」
 耀金に指差された部分にざっと目を通してみるとそこにはそんな文言が読み取れた。
 それにそこに記されている苗字は“水上”とある。陽はまさかと、思わず顔を上げた。
「そうなの。ナギちゃんはね、貰われっ子なのよ」
「この家の水上徹郎・晶子夫妻の養女としてな。だがまぁ、重要なのはそこじゃない。この
書類にその凪って奴の名前が載ってるって事自体がでかいんだ。少年、その名前の下の所、
よ~く見てみな」
「下……?」
 言われて、陽は頭に疑問符を更に重ねて再び書類に目を落とした。
 正直この手の書類は難しくて一介の小市民たる自分にはよく分からない。
(……!?)
 だがそんな陽の目にも、確かに「水上凪」の表記欄すぐ下に「真名・蒼凪」という文字が
印刷されているのが映ったのである。
「真名……? え? 水上は偽名を使ってるっていうの?」
 陽は、少なからず驚いた。
 事情はともかく貰われっ子なのは別にいい。驚きはするが養子自体は珍しい事ではない。
 だがそれ以上に、この公の物らしき書類に凪の二つの名前が載っているという事実が陽の
心の中を強く揺さぶり始めていた。
「偽名、というのはちょっと違うのかな。でも水上凪って名前は……間違いなく通名よね」
「通名……? それって本名じゃないって事?」
「……ああ。しっかしスイが言ってた通り、やっぱ気付いてなかったのな。まぁいいや。こ
の際だから教えておいてやるよ」
 妃翠はどうしたものかと、まだ迷いがあるように苦笑を見せていた。
 耀金も陽がまだピンと来ていない事に少なからず驚きと呆れを抱いているらしく、コホン
と軽く咳払いしてみせると、
「……その水上凪ってのは本名じゃない。ここの夫妻に貰われた時にでも作った通名──今
の世の中で生きていく時に名乗る為の、仮の名だ」
 フッと神妙な表情(かお)を作り直してから言った。
「そいつの本当の名前は“蒼凪(アオナギ)”──あたし達と同じ、ルーメルさ」


 STORY-6「水司、決心ス」

 夕陽の茜色が差す繁華街沿いを、凪は縦断するようにひた走っていた。
 何処か緩慢な雰囲気を漂わせる街の人の波。その中を多少強引に掻き分けるようにして、
彼女は一人、必死の形相を浮かべている。

 ──事の発端は陽が訊ねて来る少し前、凪が帰宅した直後に遡ることになる。
 凪は馴染みの古本屋で暫し立ち読みを堪能した後、何時ものように自宅の玄関を普段持ち
歩いている合鍵で開けようとしていた。
「……?」
 しかし今日は様子が違っていた。
 合鍵を挿してみたものの、手応えがない。つまり始めから開いていたのだ。
 不用心だな……。凪は僅かに眉間に皺を寄せて思った。合鍵を抜いて鞄の中にしまい直し
つつ、そろりと家の中へと入る。
「ただいま」
 ぽつりと紡いだ一言。だが返事はない。
 人の気配も感じられず、家の中は静かだった。しかしよく耳を澄ませてみると、リビング
の方から何やら音が漏れてきているのが分かった。
「……お母さん、いるの?」
 リビングへと足を向けて覗き込んでみる。
 だがそこにも母の姿は無かった。
 ざっと室内を見渡してみた。どうやら先程の音はつけっ放しになったままのテレビだった
らしい。家人の居ないまま、画面には延々と夕方のニュース番組が流れている。
 凪は部屋の隅に畳まれ積まれた洗濯物にちらと目を遣ってから、心持ち小首を傾げる。
 おかしい。確かに自分の声は小さい方だが、何時もならお母さんからの返事はあるのに。
 リビングを抜けてもう一度廊下に出る。その途中でもしやと思いトイレを覗いてみたが、
そこにも母の姿はなかった。
「ここにもいない……」
 ならばと更に抜けてキッチンへ。
 夕食の準備──換気扇の音で聞こえなかったのかもしれない。
 だがそんな凪の憶測は、実際に足を踏み入れると即座に否定される事となった。
 キッチンにも母の姿はなかった。
 もしかして買い物? それとも父の店の手伝いに行ったのだろうか?
 そう凪は思ったが、すぐにそのどちらの可能性でもないと結論付けるに至った。母は普段
から温厚だがしっかり者な人だ。出掛けているとしても、テレビをつけっ放しにしたり玄関
の鍵を閉め忘れたりなどといったポカを連発するようには思えなかった。店の手伝いにして
も、そもそもその際には事前に予定を組み、朝の内や電話で自分にもその事を知らせておい
てくれるのが常だ。更に言い忘れも加わっているとというのは考え難い。
(それに……)
 何よりも凪の怪訝を大きくしたのは、コンロに置かれていたままの深鍋だった。
「……まだ、少し温かい……」
 蓋を開けてみると中には今夜の夕食と思われるシチューが作りかけの状態で残っていた。
 しかもそっと手を翳してみれば、まだほんのりと温かさも残っている。流石に火は消して
あったが、夕食の準備中にふらっと出て行ったとは……到底考えられなかった。
(一体何が…?)
 何時しか胸の中の怪訝は不安へと変わっていた。
 明らかに何時もと違う様子の家。そして母の不在。凪はごくりと一度息を呑んでから何か
手掛かりはないのかと辺りを見渡す。
「……ん?」
 すると、そこには手掛かりが──いや、確証が残されていた。
 キッチンのテーブルの上。そこに何かメモ紙が一枚、重石代わりのコップの下に置かれて
いたのである。
 やや早足で近寄り、メモ紙をもぎ取る。
「──ッ!?」
 そしてそこに書かれていた内容に、凪は思わず眉間に深い皺を刻んで絶句していた。
『紋女(ルーメル)・蒼凪に告ぐ。お前の養母は預かった。返して欲しければ十八時までに
荒坂工業最東の廃倉庫まで来い。もしこのメモや内容を他の誰かに漏らせば、この女の命は
無いと思え』
 誘拐。そのワンフレーズが頭に過ぎり、凪の中で猛烈な怒りが渦巻いた。
 誰が他人に頼るものか。この安息の日々は……自分の力で守り抜く。
 ぐしゃりとメモを握り締めて。次の瞬間、凪はキッチンから飛び出していた──。

(お母さん……)
 様々な思いが脳裏を過ぎり、凪はギリッと唇を噛んだ。
 まさか自分が狙われるなんて。しかも直接ではなく、よりによって母が人質に取られてし
まうなど。だが……よく考えてみれば可能性が無かった訳ではないのかもしれない。少し前
には宮座町で通り魔──実際は紋女狩り(ハンター)達による騒ぎがあったばかりなのだ。
少なくとも奴らがまだ街に潜伏している事は予想できた筈なのに。
「……」 
 フッと口元に漏れる笑い。だがそれは可笑しさではなく、自嘲のそれだった。
 真崎(たにん)に気を掛けていたのがこの様だ。自分の落ち度としか言いようがない。
 そして同時に凪はピリリと意識を引き締められる心地も覚えていた。
 やはり自分は、人間と同じようにはいられないのだなと。
 どれだけ静かにこの世界で暮らそうとしても、自分がルーメルである事は変えられない。
 そしてそれは、ルーメルという種族に敵意を向ける者達にとって自分達が“攻撃対象”に
他ならないという、一向に変わろうとしない現実でもあった。
 自嘲から再び憤りに近い思い。凪は静かに眉間に皺を寄せながら思う。
(お前達は、ボクらが静かに暮らそうとすることすらも許さないというのか……)
 往来と通りを突っ切って細道へ。
 その歩を緩める事なく何度も入り組んだ路地裏を駆け抜けていく内に、凪の周囲の風景は
段々と変わっていた。
 開発の進んだ賑わいのする街並みから一転、まばらな廃墟のような建物の佇む荒れた風景
へと。そこはあの日以来、政府──特保の介在を契機に一挙に進んだ都市開発の波に乗り損
ねた者達の夢の跡とも言える忘れられた星峰の一端だった。
 凪は駆け足を若干緩め、周囲の廃ビルや倉庫を一軒一軒確かめるように視線を巡らせた。
 剥がれかけた外装や看板の文字色。点々と並ぶそれらには繁華街のような鮮やかさも人の
介在も感じ取れない。時折吹く風すらも、何処か寒々しく思える。
(…………此処か)
 そして凪は指定された廃倉庫の前に辿り着いた。
 視線をついっと上げ、もう一度確認してみる。外壁に残っている元業者の名義、そして背
後の夕陽の位置。
 間違いない、此処だ。それに何よりも……中から人の気配がする。
 急く気持ちを抑えつつじっと感覚を集中させれば、伝わってくるのは“敵意”のそれ。
 真剣な面持ちで大きく深呼吸をすると、凪は意を決し、ぐっと目の前の扉に手を掛けた。
「……来たか」
 重い扉の先、廃倉庫の中は縦に奥まった構造になっていた。
 その奥にはアウトロー風な紋女狩り(ハンター)達──西岡ら数名の姿。そしてその傍ら
には両手を縛られ、ガムテープで口を塞がれ拘束されている壮年の女性が一人。
「お母さんっ!」
 その身動ぎしている養母の姿を認めた瞬間、凪は叫んで駆け寄ろうとした。
 だがしかし、その挙動に合わせて既に待機していたと見られる他のハンター達が左右から
わっと躍り出て来ると、一斉に凪に銃口を向けてその身動きを封じる。
「おっと。無駄な抵抗はするなよ?」
 眉間に皺を寄せて足を止めた凪に、西岡は静かに得意げな笑みを浮かべていた。
 懐からゆたりと自身も黒光りする拳銃を取り出し、その銃口をもがき続けているこの壮年
の女性・晶子夫人のこめかみへと向けて言う。
「お前だけじゃない。このオバサンも無事じゃあ済まなくなる。……分かってるよな?」
「く……っ!」
 ザワッと、力が滾るように凪の髪が怒りの眼と共に浮き立った。
 だがそれも束の間、またもう一歩踏み取り囲んでくるハンター達の挙動と、何よりも母に
向けられた銃口がピタリとこめかみに密着したのを見て、凪は下手に手出しなどできる筈も
なかった。
「……お前達、紋女狩り(ハンター)か」
「ああ、そうさ。分かっているのなら話が早い」
 念の為確認するように口を開いてみたが、西岡らの返答は予想通りだった。
 奴らは既に自分の正体を知っている。それでいてこんな真似をするのはハンター以外に考
えられない。
「ルーメル・蒼凪、俺達と来てもらうぞ。拒否すればどうなるか……分かってるよな?」
「……」
 西岡はついっと指を折って招いたが、凪はすぐにその場から歩み出す事はなかった。
「お母さんを解放しろ。そうじゃなければそっちには行かない」
「……ハァ。お前阿呆か。自分の状況ってものを理解してねぇのかよ。まぁいい……」
 彼女からの返答に、西岡は眉間に深めの皺を寄せたが、次の瞬間には面倒臭そうに心底見
下すような声色で呟いていた。すると拳銃のグリップをトントンと指で軽く叩きながら、彼
はついっと顎で仲間に合図を送る。
「困った奴だ。おい説得しろよ。お前の“娘”なんだろう?」
 すると拘束していたハンターの一人が晶子夫人の口のガムテープを剥がした。
 ぷはっと大きく呼吸を一息。だが彼女は複数のハンター達の押さえ込まれながらも西岡を
睨み付ける強気を失う事なく叫ぶ。
「……お、お断りよ。それよりも凪をどうする気なの!?」
「はぁ? 売り払うに決まってるだろうが。ほれ、さっさと奴をこっちに呼べよ」
「嫌よ。誰があんた達なんかに渡すものですか……。凪は……子供のできなかった私達夫婦
の所にやって来てくれた子なの。もう家族はできないんだって諦めていたのに……。あの子
がルーメルだろうが何だろうが関係ない。凪は誰が何と言おうと私達の子供よ!」
「お母、さん……」
 凪は両の瞳を揺るがせ、西岡は不機嫌に小さく舌打ちをした。
 それでも晶子夫人は捕らわれの我が身をよじり訴えようとしたのだが、
「凪っ、私の事はいいから早く逃げて! 早く警察を──ぐぶっ!?」
「……五月蝿いんだよ、糞ババア。全く……揃いも揃って状況をまるで理解してねえ」
 次の瞬間、西岡に首根っこを掴まれてそのまま加減も何も無く地面に叩きつけられる。
「お母さんっ!!」
 凪は叫んだ。再び怒りが身体中で滾って暴れる。
 しかしまた周りを取り囲むハンター達の銃口が一斉に向けられ、近づけられ、下手に動く
事はできなかった。
 悔しくて、ギリッと唇を噛む。
 何とかして助けたい。でもここで力を使おうものなら、こいつらは母に何をするか分かっ
たものじゃない……。
「おい。そいつに例のブツを使え。さっさと済ませるぞ」
 すると西岡は他のハンター達に晶子夫人を再び拘束させると、凪の周りを包囲する仲間達
にそう何か指示を飛ばした。即座に短い返事が数人分。彼の指示を受け、ハンターの一人が
腰に下げていたポーチから何かを取り出そうとする。
「……? くっ……!」
 凪は反射的にその方を見遣ろうとしたが、同時に迫り自分の両手や肩をぎゅっと掴んでき
た他の面々に妨害された。顔を僅かに顰め振り払おうとしたが、視界の向こうに拘束された
母の姿を見るとどうしてもそうした動きさえ阻まれてしまう。
 そしてガシャンと、その隙を衝くように、重量感のある音と感覚が凪に届いた。
 後ろ手にされた両手に……手錠が掛けられた、のか? まだ押さえ付けてくるハンター達
の人影の隙間から、凪は一体自分に何がされたのかを確認しようとしたのだが……。
「──……ッ!?」
 刹那、ぐらりと世界が揺らいだ。
 いや違う。突然何かの限界を迎えたように身体中から力が抜けたのだ。
 凪は驚きで目を丸くした。振り解こうとしていたハンター達の掴む手が、今度は立ってい
られない程の急激な弱体化を引っ張る楔になっていた。
 経験こそは無かった。だが、ルーメルである自分の力をここまで奪えるものとなれば一つ
しかない。
「……まさか、吸霊銀(ロスヴァー)……?」
「ご名答。お前らルーメルの唯一無二とも言っていい弱点、ロスヴァー製の手錠だよ」
 西岡がフッと虐げるように哂う。
 自分の中から力──エーテルが搾り取られていく心地がした。本能に訴えてくるような危
機感が自分の感覚全体を逆撫でして止まない。
 苦しげに見遣った自身の後ろ手には、鈍い銀色の手錠が掛けられていた。
「いくらこっちには人質がいるといっても、所詮は赤の他人だからな。いつその化け物じみ
た力で反撃してくるか分からねぇ。今の内に抵抗力を奪うに越した事はないだろう? 暴れ
てくれるなよ? それ、結構高いんだからな」
 お母さんを見捨てる訳なんて無い。
 凪は反論しようとしたが、もう叫ぶ気力すら残っていなかった。
 刻一刻と削られていく我が身の力。ふらつきながらも、周りを固めるハンター達に掴まれ
たままでは膝を折る事も許されなかった。
「さてっと……」
 すると西岡は凪が大人しくなったのを確認するや否や、両手を縛られたまま雑多に積まれ
た資材の上に腰掛けさせられていた晶子夫人に、再び銃口を向ける。
「!? お前、何を……! もうお母さんは関係ないだろっ」
「……何言ってやがる。俺達の顔を見てるんだ、このまま生かして帰す訳ねぇだろうが」
 凪は弱る身体から力を振り絞って身動ぎ、叫んだ。
 だが西岡はそれすら嘲笑うかのように淡白に口にするだけ。
「まぁそれに……このババアはお前の“お袋さん”なんだよなぁ? なら、ここで撃ち殺し
ちまえば、お前は絶望するって訳だろう……?」
 しかし、次の瞬間に西岡──いやハンター達が浮かべたのは、悪意と敵意に染まったした
り顔。こいつら……本気だ。凪の身体中に再び怒りの大波が込み上げて来た。
「や……やめろぉっ!!」
 もう気を窺う余裕は残されていなかった。凪はハンター達が食い止めてくるのも構わずに
必死に母の下に割り込もうとする。
 だが吸霊銀の手錠で力を奪われた凪に、大の大人数人がかりの組み付きを振り払う余力は
残っていなかった。もがき取り押さえられる彼女に殺気と敵意の眼差しを遣って、西岡は拳
銃の引き金にそっと指を掛けようとする。
「……気持ち悪いんだよ。娘だあ? ふざけるのも大概にしけよ。化け物と家族ごっことは
馬鹿げた趣味をしてやがる。そうさ……。お前らみたいな半端者どもが……何も考えちゃい
ねぇ平和ボケした阿呆どもがいるから、俺達は……っ!」
 そして晶子夫人にも向けられる、敵意の眼。
 彼女は恐怖と理不尽に言葉を失っていた。力の限り叫ぼうとする凪、それを取り押さえて
身柄を拘束しようとするハンター達。
 西岡は殺気立った表情(かお)でゆっくりとその引き金を──。
『!?』
 だが、そんな時だった。
 突如として倉庫内の中ほど、ちょうど西岡らと凪の位置を分断するように壁が爆音と共に
吹き飛んだのである。
 敵も味方も。凪やハンター達、西岡も皆がその手を止めて唖然とその突然の光景を見遣っ
ていた。濛々と立ち上る土埃と瓦礫の崩れる音。ぶっつりと断ち切られた緊張感。
 それから暫し、一同がその眼前の破壊の惨状に目を向けていると、
「……あ~、やっちった。また加減ミスったな……」
 濃く広がる土埃の中から何もかの声が聞こえくる。
「だ、誰だっ!?」
 晶子夫人に向けていた銃口をすっかり離してしまったまま、西岡が目を凝らして叫んだ。
 コツコツと。足音聞こえ、ゆらりと土埃の中を人影が移ろっていく。
 すると先ず出てきたのは、いや投げ飛ばされてきたのは、ボロ雑巾のようになったアウト
ロー風の男達が二人。
「み、宮元、笹野!?」
 そんな彼らの姿を認めて、西岡は思わず目を丸くしていた。
「ま、一応とっちめといたよ。こいつらは張らせていた監視役なんだろう?」
「……。お前は……」
 西岡は答えなかったが、それは無言の肯定でもあった。
 彼の焦る声色に対し、フッと笑う声。凪もまた目を見開いてその場に立ち尽くしている。
「なぁに……」
 そうして土埃の中から姿を現した人物。
「ま、差し詰め……通りすがりの正義の味方って所かね」
 それは紛れも無く、身の丈ほどもある“戟”を片手にした耀金だった。


 一同は唖然としていた。
 吹き飛んだ側壁から立ち上る土埃と、余韻を残す破壊の衝撃。それらに煽られるようにし
て耀金のコートが静かに靡いている。
「くっ……!」「貴様っ!!」
 そして数拍の間の後我に返り、思い出したように銃口を向けるハンター達。
「おい、止めろ! 味方に当たったらどうする!」
 だが西岡はそんな仲間達の反射的な行動を諫めていた。
 位置関係からして距離置いているこの状況で撃てば、向こう側の仲間達に被害が及ぶ可能
性が否めない。何より土埃で向こう側がよく見えないのだ。この状況ではリスクが大きい。
 そう仲間達を制した彼を、耀金は静かに見遣っていた。
 そして次の瞬間、フッと口元に描かれた弧。
(こいつ……! 始めからこうなる事を計算づくで……)
 その微細な変化を見て、西岡はハッとする。
「……お前が蒼凪で、間違いないね?」
 そんなハンター達に警戒をしっかり残しつつも、耀金は土埃の隙間から覗くように背後で
唖然としていた凪を、肩越しにちらりと見遣って言った。
「どうしてその名前を……。何故……」
 初対面の相手にいきなり真名で呼ばれた事に、凪は驚きを隠せないようだった。
 何故知っているのか。そして何故この場所を知っているのか。二つの意味での疑問。
 いや、それよりも彼女から受けるこの感じはもしや……。
「細かい事情は後だ。それに……同胞を助けるのに理由なんて要るのかい?」
 敵意は無い、自分は味方だ。
 そう示すように耀金はフッと微笑んでみせ、そう言った。
 その言葉に、凪はややあってコクリと小さく頷いた。やはり彼女は自分と同じ──。
「さてっと」
 すると凪に遣っていた目をサッと戻し、吸霊銀のナイフや警棒に装備を持ち替えて隙を窺
おうとしていたハンター達を牽制するように、耀金はブンッと戟を片手で軽々と大きく振り
回してみせた。ビクついて思わず仰け反り後退する彼らをニヤリと見ると、凪らに背を向け
たまま彼女は合図するように叫ぶ。
「──スイ、少年。そっちは任せたよ!」
 次の瞬間だった。
 ハンター達、そして凪が見たのは、突如として地面を這うように広がってきた澄んだ翠色
の光の渦、その奔流。
 温かい光を放ちながら広がるそれはさながら陽だまりの大樹が根を伸ばすそれのようで。
「…………ま、まさか」
 土埃越しに垣間見えるその光景に西岡はデジャヴを感じ、顔を引き攣らせていた。
 そしてその反応が合図となったかのように、コォッと光が弾けた。
「うわっ!?」
「お、おい。これって……」
 根のように地面に広がった奔流から舞い上がったの無数の光の“種”達。
 するとそれらはそれぞれが意思を持つ魂のようにハンター達に次々と取り付くと、彼らの
身体の自由を操り人形よろしく奪いだす。
「はぁぁっ……!」
 そして彼らのそんな体勢の崩れを待っていたのかのように土埃の中から飛び出してきたの
は、陽だった。奮い立たせるように気合の掛け声を叫びながら、思い切り振りかぶるその手
に握られているのは一本の金属棒──耀金の『錬装』で設えて貰った金属質な模造刀。
 その得物を握り締めて、陽は操られ、混乱するハンター達の懐に飛び込んでいく。
 土埃の中から顔を出した、無数の“種”を指揮するように手を翳している妃翠。
 彼女と息を合わせて、陽はハンター達一人一人の得物を叩き落としては鳩尾を中心とした
腹部に強烈な薙ぎ払いや突きを叩き込んでいく。
「うぐぅ……!?」
 得物が特殊なものだからか、それとも陽自身がしばしば姉の稽古に付き合わされて剣の心
得を持ち合わせていたからなのか。少なくともその技量はハンター達の武器を取り払い、昏
倒させるのに充分なものだった。
 小柄な体格を活かした小回りの効く立ち回り。テンポ良く妃翠が操り作ってくれた隙を衝
く形で、陽はものの見事に凪を囲んでいたハンター達を倒してしまう。
(……やっぱり、いくら相手が悪者だって分かっていてもいい気分じゃないな……)
 揺らぐような両の瞳でその様子を見つめている凪の目の前で、陽はそう内心で晴れぬ痛み
のような罪悪感を覚えながらも、辺りに倒れ込んだハンター達の中でヒュッと汚れを掃うよ
うに軽く模造刀を振った。
「……大丈夫、水上?」
「えっ……? う、うん……」
 ふぅと深く息をついて真剣な表情が緩み、陽は無意識な柔らかい微笑みで凪に向き直って
いた。ぼうっとそんな彼を見ていた凪は思わず弾かれたように我に返ると、か細く頷く。
 土埃が徐々に晴れてきていた。
 凪の傍らには模造刀をぶらりと提げた陽と、ローブを翻して近付いて来る妃翠の姿。
 溢れていた翠の光の奔流は静かに収束し、残り幾許かの“種”達が周りを見張るようにふ
わふわと空中を漂っている。
「そっか。もう大丈夫、今助けるからね。全く手錠なんて……。妃翠、これ開けられる?」
「う~ん……ちょっと無理かも。これは吸霊銀(ロスヴァー)で出来ているようだから、私
の“命種”を憑かせても開ける前に丸ごと吸い取られちゃうわね」
「そうなの? う~ん……じゃあ、鍵を探さなくっちゃいけないのか……」
 弱りふらつく凪の身体をそっと優しく支えながら、妃翠と陽はそうやり取りを交わした。
 すると陽は少し考え込んでから「よしっ」と短く呟き、彼女の傍らを離れる。
「妃翠、水上をお願い。……待っててね、すぐに鍵を探して来るから」
「ええ。任せて」
「う、うん……。ありがと……」
 にこっと笑って陽は駆けて行くと、地面に倒れているハンター達の懐や服のポケットなど
を一人一人弄り始めた。言った通り凪に掛けられた手錠の鍵を探しているのだろう。
「ナギちゃん、大丈夫? 随分とエーテルが消耗してるわ……ちょっと待ってね」
 ぼうっと緩慢な意識の中で、凪は自分を抱き寄せてくれている妃翠の心配そうな声色を聞
いた。
 そして次の瞬間、彼女の掌から現れた一際大きく強い光を放つ“種”。
 すると妃翠はそれを凪の胸元にそっと押し当ててくる。
(温かい……)
 光る“種”が自分の身体の中に染み入っていくに従って、凪は苦痛が癒されていくのを感
じた。優しく温かい、包み込まれるような感覚だった。
 これも彼女の能力の一つなのだろうか? 凪はそうぼんやりと思った。
 いや、この力もエーテルによるもの。だとしたらこのホッとする温かさは、彼の──。
「……どう? これで少しは楽になったかしら?」
「うん……。ありがとう。大分楽になった……」
 ゆっくりと取り除かれていく疲労感と、同時併行的に起こる戸惑いと。
 凪は静かに目を瞬きつつも、礼を述べるその言葉に在るべきほどの力を込める事ができな
かった。
「えっと……。どうして、ボクを?」
 そして何とか代わりに紡いだのは、そんな戸惑い気味の疑問。
 おそらく彼女も自分に、ルーメルである事や真崎が誓約者(リンカー)であると勘付かれ
ている事には気付いている筈だ。ならば何故わざわざ事態がややこしなるのに、こうして助
太刀に来たというのか。
「どうしてって……。同胞を助けるのに理由なんてないわよ」
 それでも妃翠はくすっと、優しく笑っていた。
「そうねぇ。強いて言うなら……陽君がそれを望んだから、かな?」
「……えっ?」
 続いてそう少し茶化すように答えてみせる妃翠に、凪は短い驚きを見せた。
 優しい微笑み。思わずちらりとハンター達から鍵を探している陽を見遣った凪に、妃翠は
事の次第をそっと静かに話し始める。

「…………水上が、ルーメル?」
 時は、陽が水上邸を訪れていた頃に遡る。
 陽は不意に姿を見せた妃翠と耀金が差し出してきた公文書のコピーに何度も目を落とし直
して、その事実に静かに目を丸くしていた。
「それって、本当なの?」
「ああ。こいつは信頼できる伝手から用意して貰った特保の公文書……のコピーだ。間違い
なくそこに書かれてる内容は本物だよ」
 陽は確認するようにぽつりと言ったが、耀金は割合ぞんざいというか、気持ちあっさりと
した口調で答えていた。暫し黙って目を瞬いている陽の姿に、彼女は何処か眉根を上げて小
さな怪訝をみせているようにも見える。
「……というか、スイから聞いたがそいつとはクラスメートなんだろう? 何で今まで気付
かなかったんだよ? お前はスイの誓約者(リンカー)だろうが」
「えっ? そ、そんな事言われても……。まさか同じ学校にルーメルがいるなんて思いもし
てなかったし……」
「そうかぁ? 別に珍しい事でもないだろ。人間の戸籍を取って市井に紛れて暮らしてる同
胞ってのは結構いるんだぞ? あたしも旅先じゃあよく──」
「まぁまぁ、ヨウちゃん。仕方ないわよ、陽君はリンカーになってくれて未だ日も浅いし。
霊素(エーテル)を読む力もついてないでしょうから。それに元々の先入観もあった筈よ。
気付く方が難しいわ」
「ふぅむ……。そんなものかねぇ……?」
 たじろぐ陽に妃翠はやんわりとフォローを入れてくれた。
 陽から書類を返して貰う友の傍らで、耀金はそう呟きながらぽりぽりと髪を掻く。
「でもどうして二人はそんな事を?」
 そして続けて陽が紡いだのは当然の疑問だった。
 一度互いの顔を見る妃翠と耀金。ややあって小さく顎で促され、妃翠が静かな苦笑を漏ら
しつつ答える。
「その、ね……。この前、陽君のお弁当を届けに学校まで行って、そこでナギちゃんと知り
合ったじゃやない? それで……」
「水上が──ルーメルが何で僕と同じ学校に通っているのか気になった、ってこと?」
 妃翠は何処か躊躇い気味に、苦笑のままコクリと頷いた。
 つまりはその時点で彼女は凪がルーメルである事に勘付いていた事になる。
(う~ん……。妃翠はああフォローしてくれたけど、僕って鈍いんだろうか……?)
 別にこそこそ調べていた事を責める気は無かったものの、知り合って一年近くも経ってい
る相手の事を本当に何も知らなかったのだなぁと、陽は心持ち嘆息をつきたくなった。
「ま、それであたしがスイにその水上凪──蒼凪について調べて欲しいって頼まれててね。
それでようやく情報も纏まったし、一度どんな奴か実際に見に行ってみようかかと来てみれ
ば、こうして少年と居合わせたって寸法さ」
「……なるほど」
 ぽつりと陽が一言。
 そして次の瞬間にはふいっと、三人は揃って水上邸を見上げていた。
「でも、そのナギちゃん本人は出掛けちゃってるのよね?」
「うん……。何だか凄く急いでるみたいだったけど」
「……」
 妃翠と陽はちらりと互いの顔を見合わせた。その友の横で、耀金は一人不意に黙り込んで
静かに眉間に皺を寄せ始めている。
「まぁ、とりあえずプリントを届けないと。親御さんにでも渡せばそれでいいから」
 言って陽は改めて門柱の呼鈴を押した。
 やや遅れて、僅かに家の中からチャイムが響いている音が聞こえる。しかし……いくら待
てども誰一人出てくる気配が無い。
「……? 誰もいないのかしら」
「みたい……だね。不用心だなぁ」
 仕方ないと陽は腰ほどの高さの門を押し開けて玄関先へと歩いていった。妃翠もちょこん
とその後について様子を窺おうとしている。
「すみませ~ん、誰かいませんか~?」
 鍵が開けっ放しになった玄関ドアから家の中へ向けて大きめの声で呼び掛けてみる。
 だがそれでも反応は全くといっていいほど無かった。
 頭に疑問符、いや怪訝を表情に強く宿す陽。傍らの妃翠も同じく妙だと感じていたようで
二人は頷き合うと、
「あの~、入りますよ……?」
「お、お邪魔しま~す」
 気持ち遠慮気味に家の中へと足を踏み入れていく。
 水上家の中は少々不気味なほどしんと静まり返っていた。ただ夕陽の茜色だけが静かに屋
内の所々に差し込みその色を染め上げている。
 物音がすると思って覗き込んでみたリビングもただテレビがつけっ放しになっているだけ
のようだった。その不自然さに首を傾げながら、陽はキッチンにいた妃翠と合流する。
「作りかけのシチューはあるけど……。ナギちゃんの親御さん、何処にもいないわね」
「うん。どうしたんだろう? 水上に直接聞けば分かるんだろうけど、ついさっき出て行っ
ちゃったしなぁ……」
 ぐるりと辺りを見渡してみる。小奇麗に整理整頓された台所回りだった。
 テーブルの上には固めて置かれた食器と、何故かぽつねんと陶器のコップが一つ放置され
ているだけ。陽は妃翠と同じく、首を傾げた。
「……とりあえずプリントを置いて帰ろうか? ああ、妃翠。出る時に“命種”でここの鍵
を閉めておいてあげてくれないかな」
「ええ。分かったわ」
 だが手掛かりが見つからない以上、本来部外者の自分達にできる事などない……。
 陽は釈然としない気持ちを抱えつつも、そう自分の中で意識を切り替えると鞄の中から件
の資料冊子をテーブルの上に置くと、
『水上へ:小野寺先生から預かった今度の図書委員会の会議資料です。不在なようなので、
とりあえず置いておきます。開いていたから入っちゃったけど、ごめんなさい。──真崎』
 そう電話の傍から拝借したメモ紙にそう書き残し、そっと資料冊子の上に添えた。
「……じゃあ戻ろっか。あまり居座ってご近所さんに通報とかされても困るし……」
「そ、そうね……」
 確かにそれは困ると思わず苦笑する妃翠と共に、陽はキッチンを出て玄関先へと戻ろうと
した。すると、
「お~い、スイ、少年。ちょっと来てくれ」
 不意に外から耀金が自分達を呼ぶ声が聞こえてくる。
「? 何かしら?」
「さぁ? っていうか、何時の間に……」
 呼ばれてそそくさと水上家を出、再び家の前の道路へと出る。
 妃翠が“種”に家の鍵を閉めさせている間に陽は辺りを見渡すと、耀金は何故か近くの生
垣の物陰からこちらに手招きをしていた。
「どうしたんですか、耀金さん?」
「……ま、見てみなよ」
 妃翠と共にそちらへと歩み寄ってみる。
 陽が訊ねると耀金はスッと神妙に目を細めてからくいっと自分の背後を指差した。
 ──そこにいたのは、昏倒して倒れているらしき男が二人。
 その印象は共にいかにもアウトローといった風体。どうやら耀金がシメたらしい。
「この人達は……?」
 陽は恐る恐るといった感じで気を失っている彼らを見下ろし、訊ね返していたが、内心で
はざわっと嫌な予感を──ある既視感を覚えていた。
 ちらりと傍らに目を遣ってみると、それはどうも妃翠も同じであったらしい。
 心なし怯えたように両の瞳が揺らいでいる。
 やっぱりそうなのか。この人達はやっぱり……。
「ヨウちゃん。もしかしてこの人達って……」
「ああ。紋女狩り(ハンター)だよ。こんなのも持ってやがった」
 半ば答えの見えていた質問を妃翠が代弁すると、耀金は気だるげに、しかし静かな殺気と
共に答えた。ひらひらと手にとって見せたのは、吸霊銀(ロスヴァー)製のナイフと拳銃が
二つずつ。そんな普通では手に入らない代物を持っていた事が何よりの証拠だった。
『…………』
 陽と妃翠は思わず互いの顔を見合わせていた。
 想いは間違いなく同じ。思い出されていたのはあの時のハンター達からの襲撃事件。
 また出たのか? 何故こんな所に?
 二人から漏れ出てくる無言の疑問符の群れ。
 耀金は「ふぅ~……」と一度深く息を吐いてから呟いた。
「やれやれ……。どうもこれは、きな臭い気配がプンプンするねぇ……」

「──という訳で。ヨウちゃんがその監視役をしていたハンター達の口を割らせてみたら、
ナギちゃんが危ない目に遭おうとしてるって分かってね。それで皆で駆けつけたの」
「……」
 まだ少し弱ったままの身体を支えられながら、凪は妃翠の語りに耳を傾けていた。
(ボクがルーメルだって知ったのに、わざわざ関わりに……?)
 消えてゆく土埃辺りでぐったり倒れたボロ雑巾な男二人──その自分の動向を監視してい
たらしいハンター達の姿をちらと見遣り、凪は静かに唇を噛み締めて押し黙る。
 危険だと分かっているのに、何故彼女達はやって来たのだろう?
 同胞のよしみという理屈は分かる。種族柄、同朋意識の強い自分達ルーメルにはよくある
理由と言ってもいい。だが……真崎は人間なのだ。
「……ごめんなさいね」
 しかし、その沈黙を妃翠は別のものと解釈したようだった。
 フッと微笑みが苦笑混じりに変わり、彼女は静かにそう頭に疑問符を浮かべる凪の目を見
ながら謝罪の言葉を紡ぐ。
「コソコソと、貴女の事を調べて回っていて。でも知りたかったの。もしかしたら、貴女に
なら私のいなくなった後の陽君を任せられるんじゃないかと思ったから」
 最初それが何を指すのか、凪には分からなかった。
 だが“いなくなった後”というフレーズと、以前の彼女が狙われた例の襲撃騒ぎの事を思
い出して、凪はややあってその意図する所に気付く。
「……特保に、目を付けられているの?」
「……ええ」
 頷き返される小さな首肯。同じルーメルとして、それだけで事情を悟る事ができた。
「その後に、陽君は家に残って欲しいと言ってくれた。珠乃さんや美月ちゃん──陽君のお
母さんとお姉さんもその意思に協力すると約束してくれた。でも……相手はこの国の権力そ
のものだから。何時それも引き裂かれるか分からない。……だから、貴女に彼の事を託せな
いかなって思ったの。時間の長さで見れば、ナギちゃんは私よりもずっと長い間陽君と一緒
に過ごしてきたんでしょう?」
「それ、は……」
 既にある程度の話は聞いているらしい。
 だが、凪は一抹の期待を込めた妃翠の問い掛けに頷き切れないでいた。
 確かに出会ってからの長さで言えば彼女よりも長いだろう。しかし、実際の“距離”は果
たしてそれに比例しているかというと、正直自信が持てなかった。
 何よりも、自分がルーメルである。それを理由にずっと自分は真崎との距離を取り直そう
とさえしてきたというのに……。
「そんなこと、ない……」
 だから凪はふるふると、小さく首を横に振った。
「ボクは、そんなに真崎と仲良くなんて……」
「そうなの? でも、ナギちゃんが危ないって知って真っ先に助けに行こうって言い出した
のは、他でもない陽君なのよ?」
「……ぇ」
 詰まるように漏れた驚き。
 妃翠のその言葉を耳にして、思わず凪は、手錠の鍵を探して昏倒したハンター達の間を行
き来している陽を見遣っていた。
 あくまで他人で、よくても委員仲間でしかない──そう言い聞かせていた筈の彼は、今も
自分を弱らせるロスヴァーの手錠の鍵を探し回っている。
「どうして……」
 順繰りに、点々と倒れているハンター達の懐やポケットを弄っては収穫なしと移動する。
「どうして……ボクなんかに、そこまで……」
「……?」
 その呟きが耳に入ったのだろうか。
 近付いて来ていた陽はふと顔を上げると、頭に疑問符を浮かべて凪を見返してきた。
 じわりと胸の奥が沸き立つようだった。
 チクリというレベルではない。それはまるで決壊寸前の堤防のように、それまでずっと自
分の中で溜め込んでいた感情が爆発しそうになる。
「真崎、どうしてボクを助けようとするんだ。ボクは、ルーメルなんだよ。……君の父親の
命を奪った種族の一人なんだ……!」
 それはかつて耳に挟んだ彼の過去。あの日の“遺族”の一人であると知った瞬間。
「なのに、ボクはずっと君に黙ったままで……ずっと、君を騙し続けていたのに……!!」
 だから余計に言い出せなかった。
 もし自分から、或いは何かの切欠で正体がバレてしまったら……きっと真崎はボクを見放
すだろう。憎むだろう。ずっと……そう思っていたから。
「……なんだ、そんな事か」
 しかし──陽は笑っていた。とても優しく穏やかに。
 言葉を失い、目を丸くしている凪。陽は鍵を探る手をそっと止めるとはっきりと言う。
「人間だからとか、ルーメルだからとか。そんなに気にする事なのかな? 確かに父さんは
血の遭遇の時に死んだよ。でも、それって僕が生まれる前の事だから。どうしようもないん
じゃないかな?」
 凪は分からなかった。
「……確かに水上がルーメルって聞いた時にはびっくりしたよ。でも、だからって別に嫌だ
とか、裏切られたとか、そういう事は考えなかったなぁ……。実際問題、僕は現在進行中で
妃翠のリンカーをやってる訳だし。今更って感じなのかも」
 どうして肉親を殺されて、そんな穏やかでいられるのか……。
「それにさ。ルーメルだろうが何だろうが、水上は水上でしょ?」
「──ッ!?」
 そして微笑みと共に何の迷いも無く言い切った彼の姿に、凪は瞬間、胸の奥を強烈に衝か
れたかのような感覚に駆られた。
 心臓が、バクバクと激しく鼓動を刻んでいる。
 ぎゅっと胸元を押さえる。もやもやとした気持ち。凪は再び鍵を探し始める陽の横顔をた
だじっと揺れる両の瞳に映す事しかできない。
「……分かったでしょう? 陽君は、ああいう子だから」
 半ば呆然としていた凪を、妃翠は同じく優しい微笑みで見遣っていた。
 表情を隠していた筈の前髪がサワサワと揺れているかのようだった。凪は最早隠し切れな
くなった自分の感情に、ただただ戸惑うばかりだった。
「──『彼女達を憎まないでくれ』」
 そうしていると、ふと妃翠から紡がれた呟き。
 その言葉に、凪はフッと顔を上げるように彼女を見遣っていた。
「星太郎さん──陽君のお父さんが亡くなる前に遺した言葉だそうよ。自分が私達の過ちで
命を落とそうとしていたのに、彼は最期まで“共存”できる可能性を諦めなかった──」
「……。それって“皇(マザー)”と同じ……」
 目を瞬く凪に、妃翠は黙したまま頷いた。
 つうっと陽へと映すその視線。凪もまた導かれるように、同じく自分がルーメルと知って
も変わらずに受け入れてくれた彼へと眼差しを向ける。
「……これは私個人の解釈だけど、陽君はきっと星太郎さんの遺志を継いでいるんだろうと
思うの。人間だとか、ルーメルだとか、そんな事を関係なくただ困っている人がいれば持ち
うる全ての力で手を差し伸べたい──そんな子だから」
「…………」
 妃翠の言葉を、凪はただ黙って受け止めていた。
 そしておそらくその推測は間違ってはいないのだろう。自分の父親を殺した種族の者を救
う為、ただその為に尚もハンター達から手錠の鍵を探してくれている陽の姿を見れば。
「うぅ、ごめん。見つからなかった……」
 それでも、当の陽はそんな視線には微塵も気付いていないようだった。
 一通り昏倒しているハンター達を調べて手錠の鍵が無いかを探ったものの、収穫は無し。
 自身が“僕に任せて”的な意気込みでいた分、結果が空振りに終わってしまった事に気恥
ずかしさを見せつつ、陽はそう苦笑しながらとてとてと二人の下へ戻ってくる。
「う、ううん……。気にしないで」
「いや、そう言われても。その手錠を外さない訳にはいかないし……」
「だとしたら鍵は……」
 ほうっと顔を赤く染めて俯き加減に言う凪に、陽はごくごく普段の態度。
 実際問題、ルーメルである彼女をロスヴァーの枷で繋いだままにすれば生死に関わる事に
は間違いなかった。
 さてどうしたものか……。
 ややあって、ぽつりと呟く妃翠を合図とするかのように、三人の視線はスッとこの場のも
っと奥へと──耀金の後ろ姿へと向けられる。
『…………』
 一方で、耀金は一人西岡ら残りのハンター達を相手にしていた。
 吸霊銀の銃からナイフ、警棒まで。様々に得物を手に取ったアウトローの集団。しかしそ
のような状況にあっても肩に戟を乗せて佇む耀金の威圧感に、彼らの誰もが下手に動けずに
硬直状態になっているようだった。
(さて、と。どうするかねぇ……?)
 トントンと戟の竿部分で肩を軽くリズムを刻んで叩きながら、耀金はじっと押し黙って目
の前のハンター達に睨みを効かせて思案していた。
(普段の旅先でならさっさと殺っちまって解決って所だが……スイや少年らのいる手前、そ
れもあまりしたくはないんだが……)
 沈黙は威圧に。しかしその内面は余裕綽々。
 耀金は“戦士”の眼付きで一先ず相手の出方を待つ。
「……ねぇ。耀金さん一人に任せて大丈夫だったのかな?」
 そんな様子を遠目に見遣りながら、ふと陽は心配げに言った。
 相変わらず凪に掛けられた手錠も解けない。結局鍵も見つからなかった。
 せめて、合鍵でもあればよかったのだが──。
「ああ。それなら大丈夫よ」
「えっ?」
 だが対する妃翠は、予想していた以上に実にあっさりと断言してきた。
 思わず拍子抜けして、凪の後ろ手の手錠から手を話してしまう陽。そんな三人のやり取り
を肩越しにそっと視線を遣ってきた耀金。
(──今だっ!)
 そしてまるでそれが合図であったかのように、じりじりと構えていたハンター達が一斉に
耀金に向かって気合の叫び声と共に襲い掛かっていった。
「だってヨウちゃんは──」
 妃翠が言い掛ける。
 同時に耀金が見せたのは……一刹那の挙動だった。
 確かに余所見をしていた筈の彼女。だが既にこのタイミングで仕掛けてくる事などお見通
しであったかのようにフッと口元に弧を描き、握り締めた戟の鞘。
 だがハンター達が気付いた時には、もうそれは軌跡を描いた後だった。
 霞む神速で身を捻りながら振り抜かれた戟、一閃。それらは確実に的確に、バラバラのタ
イミングで襲い掛かってくる彼らの得物を弾き飛ばし、すかさず身をもう一回転させた間髪
入れぬ二閃目で急所だけを薙ぎ倒す。
 ハンター達の短い悲鳴が重なった。彼らの身体と多数のロスヴァー製の武器が宙を舞う。
 西岡は、その目の前で起きた出来事にようやく理解が及び始める。
 さながらの槍舞。淡い金髪の髪とコートが揺れている。まるでスローモーションのような
世界の錯覚の中で自分のすぐ傍を仲間達が吹き飛んでいく残像が見える。
「──兵部院の七番隊隊長を務めていた子なんだもの」
 遅延する世界が終わった。
 西岡ら、晶子夫人らを拘束する残り僅かなハンター達の耳に響いたのは、為す術もなく壁
に叩き付けられてどうっと地面に倒れていく白目を剥いた仲間達。
 そして、車輪のようにギュルンッと頭上で回転させ、振り回された戟に刻まれ、粉微塵に
なって床に次々と落下してゆくロスヴァー製の元・武器の残骸達。
「……」
 はしっと、握り直された戟がピタリと彼女の手の中で静止する。
「………。な──ぁっ!?」
 ほんの一瞬で仲間達が全滅した。
 その理解がやっと及び驚愕する西岡ら。
『……』
 そしてそれは、その一瞬の殺陣模様を見ていた陽と凪も同じ事だった。
「…………す、凄い」
 ぽつりと陽がようやく紡げたのはそんな一言だった。
 呆気に取られているのは凪も同じようで、コクコクと頷いている。そんな二人の反応を、
妃翠はくすくすと柔和な笑いを浮かべながら見つめていた。
「あ、でも……。隊長さん? それって、そんなに凄い事なの……?」
「……兵部院は共同体(コミューン)の守護と秩序維持を司る部門。その隊長を任されてい
たという事は、ボクらの中にあっても間違いなくその戦闘能力は最強クラス……」
「……マジですか」
「ふふっ……。そうなのよね~これが♪」
 そして次に浮かんだ疑問は、やや色々と落ち着きを取り戻した凪が答えてくれた。
 再び驚愕の様子を浮かべ、目を瞬く陽。妃翠はそんな親友を誇らしげとでも言うかのよう
に、妙に上機嫌になってうんうんと頷いている。
「さぁて」
 ぶんっと戟の切っ先を振るい西岡の顔面へ。
 耀金はゆっくりと歩き出しながら、晶子夫人を盾に取る彼ら残りのハンター達との距離を
詰め始めた。
「く、来るなっ! この女がどうなってもいいのか!」
 西岡は近付いて来る耀金に銃口を向けると上擦った声で叫んでいた。
 しかし銃を握るその手は既に震え始め、晶子夫人を拘束している二人のハンターも最早逃
げ腰な体勢になりつつある。
「殺るつもりか? やれるもんならやってみろよ。……それよりも早くてめぇら全員の首を
刎ねる事くらい造作もねぇぞ?」
 殺気の篭った眼でじりっじりっと詰め寄っていく耀金。
 西岡達は言い返そうとしてもできなかった。先程の一瞬で仲間達を薙ぎ払った一閃。あの
ような早業を見せ付けられた今、そして再び戟を振るう事も辞さない彼女の殺気がひしひし
と感じられる今、彼らに彼女の言葉を否定する材料など見つかる筈も無かったのである。
「……ま、その必要はなくなったみたいだが」
「? 何を──」
 ちょうど、そんな時だった。
 耀金がふと足を止めてそんな事を呟き、西岡が怪訝を見せた瞬間、隣にいたハンター残り
二人が突然後ろへ吹き飛んだのである。
「……何だ?」
 目を丸くして振り返ろうとする西岡。
 その瞳には何故か宙に四散していこうとする“水飛沫”が。
「ぶっ!?」
 すると今度は最後の仲間達を吹き飛ばした衝撃が西岡自身に襲い掛かった。
 あまりにも重い一撃。手から滑り落ち、宙を舞って落ちる拳銃。そこで彼はようやく突如
自分達を襲ったものの正体に辿り着く。
(……み、水?)
 水撃。それも人一人を軽々と吹き飛ばす程の威力を持つ集約された流水だったのだ。
 水浸しになってゴロゴロと床を転がり、慌てて身を起こす西岡。
 そしてガバッと前を向いた視線の先には、
「…………」
 自らの周り、中空に渦を巻くような水の流れを形成してこちらに手を翳す怒気満々の凪の
姿があった。
「な、馬鹿な! 手錠はどうしたんだ、どうやって外した!?」
 凪の両手は何時の間にか自由になっていた。もう彼女の力を削ぎ、抵抗力を封じる銀の枷
は掛けられていない。西岡は半ば無意識に自分のズボンのポケット──手錠の鍵をしまって
おいた先へと手を遣った。だが鍵は間違いなく収まっていた。なのに彼女は今や自由の身に
なっている。
「手錠だったら、外したよ」
 ガチャンと、地面に開錠された鈍い銀の枷が落ちた。
 言い放った陽の手には、くにゃりと曲がった──まるで鍵のように変形した丈夫な針金が
一本。その傍らで妃翠が身構え、目の前にはじっと睨むように凪が立つ。
 陽はフッと笑って言った。
「確かにロスヴァーの手錠じゃ、妃翠の“種”で直接は開けられない。でも、結局は鍵にな
る物さえ用意できればいいんだから、針金でもなんでも、鍵穴に通る物に“種”を憑けて差
し込んだ瞬間に形に合うように変形して貰えば『合鍵』の完成だ。ここが資材倉庫で助かっ
たよ。針金一本くらいなら掃いて捨てるほど落ちてるしね。……まぁどのみち憑けた“種”
はロスヴァーに吸い取られちゃうけど」
「なっ……!?」
 しまった。まさかそんな手があったとは。
 ギリギリと歯軋りをして、西岡は陽達を睨み付ける。
 そうだ、こいつらだ。あの時も今回も、こいつらが俺達の邪魔を──。
「……悔しがってる所悪いが」
「あっ」
「人質は、保護させて貰ったぜ?」
 だがそんな湧き立つ憎悪は、結果的にはただの隙にしかならなかった。
 気付けば既に、耀金は不安げに瞳を揺るがせる晶子夫人を軽々と“お姫様抱っこ”して跳
躍の準備に入っている。
「ま、待──」
 必死に止めようと駆け出そうとしたが、既に時遅しだった。
 ぐっと力を込めた耀金の両脚。次の瞬間には彼女達は大きく跳躍し、二度三度倉庫内の積
み資材や迫り出している鉄柱などを経由して陽達の下へと合流を果たしていた。
「……」
 唖然と中空に向けた視線をゆっくりと陽達へ。
 西岡の視界には、眉間に皺を寄せて立つ凪とその左右に展開する面々が映っていた。
「よくも、お母さんを酷い目に遭わせたな……」
 皆、ボクの後ろに下がってて。
 そう静かに告げて凪は淡々と、しかし明らかに強い怒気を含んだ声色で西岡を睨み付けて
言葉を紡いでいた。
「う、あぁ……。ま、待て……」
 味方が全滅しているのは明らか。西岡は言葉にならない力弱い静止の手を翳すが、もう凪
に聞く耳など無かった。
 ゆっくりと、彼女が片手を上に挙げる。
 するとどうだろう。それまで緩やかな一条の流水だけだったその空間が、急速に轟く水音
を立て始めたのである。
 周囲の水分を抽出して凝縮する力の──水撃の塊。
 陽はその光景を「凄い……」と見上げ、妃翠は「ご愁傷様」と苦笑いし、耀金は珍しく感
情を露わにしている娘をおろおろと見遣る晶子夫人に「ま、大丈夫ですって」と軽い感じで
慰みの言葉を掛けている。
(……摂理系“水司”──水を自在に操る能力、か)
 耀金は取り寄せてもらった例の公文書の内容を思い返していた。
 流水操作。それが凪のルーメルとしての能力。幾つかの系統に大別される自分達の能力の
中でも、とりわけその技量と応用次第でとんでもない戦闘能力に化ける系統。
(ま、運が悪かったな。加減しろ、なんて言っても多分聞く耳持たねぇだろうし……)
 その間にも凪の頭上の水球はどんどん巨大になっていた。
 もう直径数十メートルはあるだろうか。そんな大質量の水が今、彼女の力によって一箇所
に集約されている。
「ま、待て。こ、こんなの……!」
 次にどうなるかなど、西岡は悪寒全開で勘付いていた。
 紋女(ルーメル)。それはやはり紛れも無く常人を遥かに超える力の持ち主で……。
「……潰れろ」
 ふいっと、凪がそれまで挙げていた手を前に下ろした。
 するとそれを合図にするように、それまで球を保っていた大質量の水が彼女の頭上をまる
でバケツの水をぶち撒けたが如く西岡向けて降下してくる。
「ぁ、あぁぁぁぁ……ッ!!」
 目の前があっという間に激流ばかりになり、彼の悲鳴すら掻き消す水の轟音が荒立ち、
「──『海鳴(うみなり)』」
 どどうっと、その技の名前の如く。
 次の瞬間、廃倉庫はそんな巨大な水撃によって押し潰されて──。

「──お~い、こっちにも一台寄越してくれ!」
 それから一時間程して。
 辺りは何処から嗅ぎ付けて来たのか、特保の事後処理部門の作業員でごった返していた。
 廃倉庫だった建物は、ちょうど凪があの時立っていた位置を境に大破。いくら放置された
ままの倉庫とはいえ、彼女の放った大水はそれを半壊させるという目に余り過ぎる痕跡を残
して辺りを水浸しにしている。
 暮れなずんでいた空も、今はすっかり太陽が星峰の山へと隠れようとしていた。
 もう暫くすれば辺りは夜闇の中に沈むだろう。それでも作業員達は複数の重機などで以っ
て四散した瓦礫の整理・除去に追われている。
 因みに──。西岡らハンター達はずぶ濡れになって気絶していた所を特保に発見・確保さ
れ、早々に連行されている。
「……」
 そんな彼らの忙しなさを、耀金は辛うじて残った物陰の一角に潜みながら窺っていた。
 エージェント連中ではないようだが、それでも特保には違いない。ここで不用意に姿を見
られてしまえば後々面倒にもなりかねないだろう……。
 一段落ついた後、陽から回収しておいた模造刀を片手にトントンと軽く肩を叩きながら、
彼女は彼らが撤収するのをじっと待っていた。
「……ッ!」
 そうしていると、ふとザリッと微かな足音と気配がした。
 気だるい表情だった耀金はほぼ認識したと同時に、反射的に手にした模造刀を振り抜いて
その気配の方向に切っ先を向ける。
「うわっ!? わ、私ですよ。隊長」
 だがそこにたのは見知った顔──白早と高須だった。
「……なんだ、お前か」
 耀金は呟いて、ヒュンと彼女の顔面ギリギリに突き付けた切っ先を下ろす。同時に金色の
奔流が模造刀を包むと、その手の中には再構成されて元に戻った複数の金属棒が残った。
「僕もいますよ?」
「うるせぇよ」
 相変わらず飄々とした表情でそんな事をのたまう高須。
 それを耀金はバッサリと切り捨てながら、金属棒を腰のベルトへと収め直す。
「で? 何の用だ? 交渉は決裂したろう? それともお前らは案外野次馬に来れるくらい
暇してる仕事なのかよ」
 遠回しに自分達を遠ざける気色。白早は哀しい眼でかつての隊長を見遣った。
 ザリッと、高須と共に一緒に物陰に耀金同様身を潜め、少し間を置いてから言う。
「……少し前、内の局にハンター達が暴れているという通報がありました。その通報をして
きた人物は私達のよく知る女性だったそうです。……隊長、貴女ですね?」
「……何でそうなるんだ?」
「通報を受けたのは……局の同僚、同胞です。その彼女から『あの声は耀金隊長に間違いな
かった』とこっそり私に伝えてくれて……」
「……。余計な事しやがって……」
 耀金は認める代わりにそう小さなため息を漏らした。
 淡い金髪をポリポリと掻き、横目で二人を一瞥して背後で撤去作業を続ける特保の作業員
らの気配を窺う。今度は高須が口を開いた。
「まぁそれでこっそり様子を見に来たって訳さ。安心しなよ、チーフ達上層部には秘密だ」
「……お前が言っても信用ねぇんだがな」
「ほ、本当です。むしろ私が文彦さんに無理を言って出てきたので」
「……。そうかい」
 信用無いんだねぇと高須がわざとらしい苦笑いをみせるのを一瞥し、耀金は両手をコート
のポケットに突っ込んでいた。
 もう用件は伝えた──そして平行線を辿った相手にこうまでして顔を見せに来るとは。
 やはりハヤ、お前は……。
「あれかい? 蒼凪の市民化戸籍の謄本を手配した見返りに、性懲りも無くあたしに軍門に
下れとでも言いに来たのかい?」
「え。そ、そんな事は……」
「悪いがそんな口車には乗らないよ。謄本の件は感謝してる。だが、それとこれとは別問題
だ。今回の通報、それで貸し借り無しって事にしておいてくれよ」
「隊、長……」
 白早は見るからにしょんぼりとしていた。耀金もその反応を予想していたからこそ、敢え
てそうした台詞を放っていた。
 今も自分を慕ってくれているその気持ちは吝かではない。
 だが、もう自分達はあの日の頃の自分達ではない。今はもう、むしろ──。
「いいや。こちらにはまだ貸しがあるんだよね、これが」
「……?」
 だが高須はそう得意げに口を挟んできた。
 遠慮も何もなく、怪訝や不信の眼で見返してくる耀金に、彼はフッと演技臭い微笑をみせ
て言う。
「……数日前、特保の外部窓口に一人の弁護士が書類申請に来たんだ。請求事項は『誓約者
認定証書』。気になって追跡調査してみれば……その弁護士の依頼主は、真崎美月だった」
 眼鏡の表面を光で反射し、表情を隠したまま静かに告げる高須。
 その言葉に耀金はちらと一瞥こそやったが、否定の言葉も肯定の言葉も放たない。
「もしかしたら、入れ知恵をしたのは君じゃないかと思うんだが。……どうなのかな?」
「……見当違いも甚だしいな。あたしはそこまでてめぇらの流儀に詳しいつもりはねぇよ。
それにそういう雑務は昔っからハヤの方が得意だろ? ……あたしはただ、スイに“自分の
気持ちに正直になればいいんじゃないか?”って言ってやっただけさ」
 言って、耀金は可笑しくなった。
 自分で言っておいて、これほど矛盾している発言は無いなと思った。
 ただ友の意思を尊重したいという思いから出た言葉だったが、あまりに自分には似合わな
過ぎるではないか……。
「そうか」
 当てが一つ外れたと分かったものの、高須はそれ程痛手には思っていないようだった。
「だとすれば、真崎美月が自分の伝手で弁護士の助力を得たという可能性が大きいね。何せ
その弁護士も星峰大学のOB……それに一般的に親ルーメル派と目されている一人だ。彼ら
の事情を知れば、自分の株を上げる為にも協力を惜しまないという事は充分考えられる」
「……だからなんだ。そんな事を一々説明する為に来たってのか」
「ふふっ。せっかちだな、君は。勿論、そんな理由じゃないさ」
 重ねて微笑む高須。だが反対に耀金の怪訝は濃くなっていた。
 一度何処かハラハラして二人のやり取りを見ていた白早にちらりとアイコンタクトし、彼
はたっぷりと焦らすように間を置いてから言ったのだった。
「……今、その証書申請の情報は、僕の所で止めてある。チーフや上層部には今の所知られ
ていないんだよ」
「……何だって?」
「だ~か~ら。真崎家が正式にルーメルを抱える、その申請を上が邪魔しないように、僕の
裁量で時間稼ぎをしてあげているんだよ。分かるかな?」
 それは思わぬ情報だった。
 だが耀金は喜びの感情よりも不信の眼を強めて、この高須の微笑を睨み付けている。
「あぁ、勘違いしないでよ? 白早に頼まれたからそうしただけだ。まぁこれで君に貸しを
作れるというも大きいけどね。……ただ僕の所で情報を止めておくにも限界がある。君から
も、彼らに申請は早めに済ませるように言っておいて貰えると確実かな?」
「……」
 睨む眼差しを念押しして向けてから、今度は緩めて白早へ。
 高須の傍らに立つ彼女は心配のような、ビクつきのような、複雑な苦笑を浮かべていた。
「後々で思い出したんです。ルーメル・妃翠……彼女は、隊長の無二の友である方だと。昔
隊長も折に触れて話してくれましたよね? でも本人に実際に会ったのは今回が初めてでし
たので……」
「……。やれやれ……」
 若干緊張気味に、しかし昔を思い出しているのか何処か朗らかな様子で白早は語る。
 暫し耀金はそんなかつての副官の言葉に耳を傾け、その表情(かお)を見遣っていたが、
ややあって大きく静かな嘆息をついた。
 どうやら最後の最後で“負けた”らしい……。
「ハヤ」
 髪をポリポリと掻いてから、耀金は懐に手を入れつつ短くその名を呼んだ。
「……持ってけ。但しこれで貸し借りはゼロだからな?」
「ぁ……。はい……」
 そしてピクンと反応した白早に、そっと例の手帳を差し出す。
 少しだけ目を瞬かせて驚いたようだったが、彼女はコクと頷いてそれを受け取った。
 眼鏡のブリッジをそっと押さえながら静かに口元に弧を描く高須。受け取った手帳を握り
締めながら上手く言葉を返す事ができずに佇んでいる白早。
(リンカーだけあって、ハヤの頼みには弱いって事か? それとも単にこの見返りが欲しか
っただけか……。どちらにせよ、やっぱり気に食わねぇや……)
 そんなふらふらとした思考を過ぎらせながら、耀金は内心で再び嘆息をついていた。
 表で撤去作業をしている面々に気付かれないようにそっと。
 耀金はコートを翻しながら、そのまま場を立ち去ろうとする。
「ハヤ。一つ言っておく」
「は、はい……?」
 そして去り際、彼女は背中を向けたままかつての副官に忠告を残した。
「お前は、真面目な見た目の割には情に流され過ぎる。まぁ今回それであたし達は得をした
わけだが……。でも、あまり流され過ぎればお前自身の身が危うくなるぞ? 何せ今のお前
は特保──政府の手先だ。あたしみたいな“反目”してる連中に肩入れしていると……今度
こそお前は、居場所を失くしちまう事になる」
「……」
 白早は答えなかった。応えられなかった。
 だがじっと、そう忠告してくるかつての上官の背中を哀しげに見つめている。
 振り返らなかったが、耀金はそんな彼女の反応を感じ取っているかのようだった。一度歩
き出していた足を止めて暫しその無言の視線を受け止めると、彼女は再びゆっくりと歩き出
してゆく。背を向けたまま、軽く片手を上げて簡素な別れの挨拶とする。
(隊長……)
 きゅっと胸に抱えた手帳を掻き抱き、白早は心の中で力なく元上官を呼んでいた。
 その傍らで、高須(リンカー)は何も語らなかった。ただ静かに苦しんでいるパートナー
をそっと見守っているかのように。
「──……本当に、助けて頂いてありがとうございました」
 一方、陽と妃翠は晶子夫人に深々と頭を下げられていた。
「い、いいえ……と、とんでもないです。頭を上げてください。あの、それよりも怪我とか
は大丈夫ですか? 何処か痛んだりはしませんか?」
「はい。大丈夫ですよ。そちらの……妃翠さんにも手当てして頂きましたし」
 遥かに年上の相手に畏まられて、陽は逆にあたふたとしながら言う。
 すると晶子夫人はにっこりと微笑んで応えてくれた。とはいえ、頬には西岡に叩きつけら
れた際に出来たとみられる擦り傷が赤みを帯びおり、少々痛々しい。念の為、妃翠に“種”
による回復を頼んだが、どうもそれ以外に傷らしい傷はなかったようだ。
「そうですか。よかった……」
 その返事を貰って、陽達は心底ホッとする。お互いに顔を見合わせて微笑んだ。夫人も凪
も大事に至らずに済んだ。これで駆けつけた甲斐もあったというものである。
 あの後、何処からか駆けつけてきた特保によって西岡らハンター達は(ずぶ濡れのまま)
連行されていった。
 そして自分達にも暫し事情聴取が行われ、事件として取り扱うかどうかの承諾を求められ
たのだが……晶子夫人は応じなかった。
 曰く『自分や娘も無事だったのですし、これ以上事を荒立てることもないでしょう』と。
 だが陽達はその本音に気付いていた。
 娘、つまり凪は養女であり且つルーメルだからだ。もし被害届を出して裁判沙汰となれば
その事を明るみになる可能性が高い。そうなれば、今までの“家族”としての日々に大きな
支障が出る──即ち凪の正体を知った事で周囲の反応が変わるであろう事態を防ぎたかった
からなのだと。
 同じく妃翠(ルーメル)と関わり合う者の一人として、その心情は分からない訳ではなか
った。それにあくまで自分は助太刀をしたとしても第三者であり、彼女らの判断に口を出す
べき立場ではない。
(……結局は、泣き寝入りになっちゃうのかな……)
 しかしそれではルーメルに対して辛く当たる“現実”が微動だにしないような気がして。
 陽は、内心では歯痒いような、何処となく悶々とした気持ちを拭い切れないでいた。
「…………」
 そんな彼を、晶子夫人の傍らに立つ凪はじっと見つめていた。
 いや、じっとという表現は厳密ではない。今の彼女の様子はむしろぼ~っと瞳に彼の横顔
を映しているような、心浮ついたような印象だった。
「……水上?」
「ッ!?」
 ややあって陽も向けられた視線に気付いてそろっと声を掛けてみる。
 すると凪は明らかにビクッと驚いたような反応を見せ、心持ち俯き加減になる。伸びた前
髪で表情の全体像は相変わらず見えにくいが、その頬は何処かほうっと赤くなっているよう
にも見える。
「どうか、したの? もしかして力使って疲れた?」
「……そうじゃ、ない。平気……」
「そう。でも無茶はしないでね? エーテルの消耗って大変な事みたいだしさ」
「うん……」
 陽はそれを明後日な方向に、しかし当人は至って真剣な様子で捉えているらしかった。
 実際陽はエーテルを消耗し過ぎて倒れた妃翠という実例を目の当たりにしている。だから
こそ、この時凪がまさか“物凄く照れている”とは予想だにしていなかった。
(ぅぅ……)
 凪は、内心の動揺に激しく戸惑っていた。
 胸の鼓動が強く強く脈打って止まらなかった。体全体が熱を持ったように感じる。西岡ら
に一撃をぶつけた前後は養母(はは)を酷い目に遭わせた彼らへの怒りが先行していたが、
それも一段落つき陽にあれこれと心配の声を掛けられるとそんな憤怒などあっとう間に吹
き飛んでしまっていた。
(……ボクは、ボク……)
 あの時、陽がはっきりとそう迷いなく言った言葉と、その笑顔。
 先程から凪の脳裏には、その時の映像が自分の意思とは無関係に何度も何度も再生され続
けていた。
 一言で言えば杞憂でしかなかった。彼は自分を一人の仲間として見てくれていた。
 嬉しさやら恥ずかしさやら。今自分の胸の中では経験した事のない感情が大波を打ってそ
の存在を強くアピールし続けている。
「……やっぱり何だか変だよ。本当に平気?」
「だ、大丈夫……。何でも、ないから……」
 しかし当の陽はまるで気付いていない。
 一方で、今のこの感情が何なのかを凪はぼんやりとながらも自覚し、勘付いていた。
「そう……?」
 陽は少々怪訝に小首を傾げ、その隣では妃翠が何やら“分かっていますよ”と言わんばか
りの静かな微笑みでこちらを見ている。
「…………。お母さん」
「? なぁに?」
 そんな長い沈黙をたっぷりと取った後で。
 やがて凪はゴクリと息を呑んでから、か細くも何かを決心するかのように母に呼び掛けて
いた。穏やかに顔を向けてくる母。すると凪はやや逡巡を見せた後で、何やらひそひそと彼
女に耳打ちをし始める。
「…………そう。いいんじゃない? 貴女がそうしたいというのなら」
 娘の言葉に晶子夫人は心なし驚きを見せたようだったが、すぐにフッと優しい笑みを零す
と、そう静かに送り出すように応えていた。
「……?」
 おそらくこの場でただ一人だけ、何が起ころうとしているか分かっていない陽とその頭上
の疑問符。もう一度緊張気味なたっぷりとした間の後、凪はゆっくりと数歩前に足を踏み出
してから宣言する。
「あ、陽」
「何? ……ん、陽? 水上、いきなり何で──」
「凪で、いい。ボクもこれからは陽って呼ぶから……」
「……?? うん。まぁ別にいいけど……」
 そこでようやく陽も、何だか場が──いや凪が妙な雰囲気になっている事に気付く。
 だがその時には既に彼女は目の前にまで詰め寄り、はしっと自分の左の二の腕を掴んでい
たのだった。その指先は、軽く肩の少し下の辺りに当てられている。      
「──我が両手に携えるは変幻自在、流水の司。善き者には清らかなる潤いを、悪しき者に
は其の悪しきの全てを洗い落とす浄罪を。形定めずたゆたう水気の術(すべ)なり。導き手
の名は蒼凪。今此処に、汝とその誓約(リンク)を望まんとする者……」
 次の瞬間、ぽつぽつとしかし確かに紡がれ始めた言葉。
 陽は一瞬驚きを見せたが、あの時の記憶がフラッシュバックするように、すぐそれが何な
のかを認識していた。
「我が誓約を是とするなら承諾を。善き縁を築くに値すると思わばその御心を……」
 間違いなくそれは誓約(リンク)を望む言霊だった。
 妃翠の時と同様に、それは目の前の彼女──ルーメル・蒼凪が自分とのリンクを望む証。
「…………陽。ボクの水源に、なって欲しい」
 かぁっと顔を赤くしながら凪は言い切った。その前髪に隠れた瞳からは、揺らぎながらも
じっと返答を待っている彼女の胸の内が窺える。
 陽はそんな彼女を暫し見つめた。ぱちくりと、何度も目を瞬く。
 もう答えは決まってはいた。だがそれでも一度確認するように、陽はちらりと傍らの妃翠
に視線を向ける。
 そして彼女が微笑みの下で小さく頷いてくるのをしかとその目に映すと、
「……うん。僕で良ければ」
 陽はフッと、微笑んで応え。
 次の瞬間、辺りに光が満ちた。
 お互いの同じ箇所──凪の半紋が在る左肩を中心に、鮮やかなコバルトブルーの輝きが静
かにしかし強く瞬き、拡散する。
 少し離れた所から歩いてくる耀金が、作業員達が、そして何時の間にかやって来ていたら
しい白早と高須が、それぞれに驚きの目で一斉にこちらに視線を向けてきていた。
「……誓約完了(リンク・エンド)」
 やがて呟く言葉と共にそんな青い光は徐々に終息し、陽と凪の左肩には袖越しに同じ青い
文様がゆらりと浮かぶ。
 そんな誓約者(リンカー)の証をそっと撫でて確かめる陽の姿を、凪は揺らぎつつも熱の
篭った瞳で見つめていた。
 陽が、妃翠が、そして晶子夫人がそれぞれに微笑んでいた。
 静かな、言葉要らずの祝福。俯き加減になってほうっと赤く染まったその両頬。
「…………もっと早く」
 そしてそんな皆の視線に対し、恥ずかしそうに前髪をもそもそと弄ると、
「もっと早く、こうしていれば良かったのかな……」
 凪はフッと嬉しそうな微笑みを漏らして、確かにそう小さく呟いたのだった。


 それから、数日の時が流れた。
 その日は晶子夫人の誘拐事件があってから、初めての休日。
「……ほらそこ。人偏じゃなくて行人偏」
「えっ。あ、ホントだ」
 だが陽は朝早くから美月監視の下、リビングでとある責務と格闘していた。
「……」
 その正体は……テーブルの上にこれでもかと積まれた白紙書類の山。
 それらよく見てみれば、中には全く同じフォーマットのものも少なからず含まれているの
が分かる。陽は下書き用のシャープペンを握る手を止めると、今日何度目になるかも分から
ないため息をついた。
「ねぇ、姉さん。一体これ、何枚書けばいいの……?」
「ん? ここにある分全部に決まってるじゃない」
「で、でも見た感じ同じ書類が何枚もあるんだけど……?」
「ああ。それは単に提出する先が複数あるからってだけ。特保や市役所の戸籍課に裁判所、
あと私達や今回協力を頼んだ先輩──弁護士先生の控えも分もあるしね」
「……ぐへぇ」
 陽は思わずテーブルの上に頭を垂れて突っ伏していた。
 自身、学業はそこそこにこなしている方なのだが、流石にこの分量と煩雑さには正直言っ
てうんざりする。
(だけど、これも妃翠の為だしな……)
 ──だったら私に任せておきなさい。
 特保来訪の一件の後、陽と妃翠が改めて彼らの通告を拒否したいという意思を伝えると、
美月はそう自分達にそう言った。
 そしてそれから何日か奔走したらしい彼女が持ってきたのが、この書類の山──誓約者認
定証書なるものの申請用書類だった。
 曰く、これを関係機関に提出し審査が通れば公式に自分が妃翠の誓約者(リンカー)とし
て認められる、即ち特保──門倉達にこの前のような狼藉一歩手前のような真似をされなく
なるのだという。
 流石は現役の法学部生。そう言いたい所だったが。
『でもそんな制度があるなんて初めて聞いたよ。よく知ってたよね?』
『……まぁ、私も調べてみてやっと見つけたって感じのものだしね。それに、政府としては
可能な限りルーメルは自分達の支配下に置きたいって考えだから、形の上でこういう制度を
整えていても実際は国民にろくな周知もしていないのよ。故意の不作為もいい所ね』
『むぅ……。それって、何だか卑怯じゃない?』
『確かにね。でもこういう恣意的な運用なんてのは何処の国でも、何処の役所でも常態化し
てるのが現実だから……。一々そういう事にに噛み付いていたらきりが無いわよ? まぁそ
れでもたまにそういうのを口実に裁判沙汰にしている連中もいるけど、私から言わせて貰え
ば、訴訟沙汰にするリスクの大きさの割にリターンが小さ過ぎる。はっきり言って限りなく
徒労に近いでしょうね』
『……そう、なんだ』
 ふとそんな権力の実情を知って、陽は内心かなりげんなりしたものである。
 そして次に思ったのは──凪の事だった。
 誘拐事件の後、成り行き(妃翠の場合もそうではあったが)とはいえ彼女のリンカーにも
なった自分。だとしたら彼女の分の認定証書も出さなくてはならないのでは?と思い、その
質問を凪にぶつけてみたのだが、
『……それなら大丈夫。ボクはお父さんとお母さんの養子になる時に市民化戸籍を取ってい
るから。ルーメルだけど、形式上はボクも一般市民と同じ扱いになる』
 という返答。
 やはり素人なので分からない事だらけだったが、本人がそう言うのなら大丈夫なのだろう
と、陽は一先ず彼女の件に関しては心配ないと結論付けたのだった。
「はいはい。へばってる余裕があったらペンを動かす! 連中が言ってた期限は待ってくれ
ないのよ。それまでに申請を済ませて先手を取るの。でも誤字脱字、記入の不備なんかがあ
ればそれこそ要らぬ抵抗の口実にされちゃうから確実に仕上げるのよ? でもまぁ、その辺
は私が見てあげるから心配しないでいいわ。……ほらっ、キリキリ書く書く!」
「ふぇ~い……」
 正直作業量に心が折れそうだったが、美月は容赦なかった。
 それも自分や妃翠の為だと頭では分かっていても、実際に目の前に積まれた書類の山を目
の当たりにすると陽はやはりどっと疲れるような心地になる。
「おはようございます~。あら? それは……」
「おはよう、妃翠さん。認定証書の申請書類ですよ。前に皆に話した奴です」
「ああ。例の……」
 そうして書類と格闘していると、ひょこっと妃翠がリビングに姿を見せた。
 始めはテーブルの上に積まれた書類に小さく目を丸くしていたが、美月が挨拶と共にそう
話すと、思い出したようにポンと両手を合わせて納得した様子になる。
「大変そうね。陽君、私も手伝おっか?」
「あ~……いいんですよ、そんなの。元々こいつが持ち込んだタネなんですから。妃翠さん
はどうぞゆっくりしてて下さい」
「うぅ……。酷い姉だ」
 加えて美月は妃翠のそんな心遣いにも「お構いなく」と辞退。反応するよりも前にびしり
と断言されて陽はペンを走らせながらちょっと涙目になる。
「ふふっ……」
 それでも、妃翠は両手を合わせたまま優しく微笑んでいた。
 その微笑みに静かに笑い返す美月。何処か穏やかな雰囲気すら感じられる二人。
(……??)
 そんな彼女達の様子に、陽はゆたりとペンを止めて一抹の怪訝を以って目を遣っている。
「……どうしたのよ?」
「え? あぁ、いや。何となくなんだけど……姉さん、妃翠と何かあったの? 知らない間
に随分丸くなってる気がするんだけど」
「なっ……!?」
 だが陽がそう何の気なしに言うと、美月は言葉とは裏腹に明らかに動揺をみせた。
「な、何でもないわよっ。普通よ、普通っ。そうですよねっ、妃翠さん?」
「ええ……そうね。“美月ちゃん”は何時も通りよ?」
「……そう、なのかなぁ?」
「そうなのっ! ほら、手を休めない。さっさと書く!」
「うっ。は~い……」
 何処か八つ当たりのような口調で以って喝を入れられ、陽は渋々再び書類の山と格闘し始
めた。そんな姉弟の様子を、妃翠はとても穏やかな眼差しで見守っている。
 玄関の方から来客を告げるチャイムが鳴ったのは、ちょうどそんな時だった。
「あ。私が見て来るわ」
 チャイムのする方を見遣った陽と美月に先んじて、妃翠はそう言って身を翻して行った。
 そして暫しその体勢のまま、二人は固まり様子を探っていると、
「陽君~お客さんだよ~!」
 そんな玄関先からの彼女の声掛けが聞こえてくる。
「僕に? 誰だろ……」
「また特保ってオチじゃないでしょうね。まぁあの声色からしてそうじゃないっぽいけど」
 陽は小さな怪訝を見せ、美月を見遣った。
 彼女もまた同じく「一体誰だろう?」といった様子で呟いていたが、
「……行って来なさい。客なら仕方ないわ」
「うん。分かった」
 流石に弟に来客があると分かったまま書類書きを続けさせる訳にもいかず、そう促す。
 リビングを抜けて玄関先へ。
 陽が足を運んでみるとそこには妃翠と、同じくチャイムを聞いて出てきたらしい珠乃の姿
があった。そして彼女達と話しているのは……見知った顔を含む三人の親子連れ。
「……水上?」
 三和土に立っていたのは、凪と壮年の夫婦──晶子夫人と、あの時の公文書に目を通した
際の記憶が間違っていなければ、おそらくは彼女の夫である徹郎氏。
「……。凪」
「えっ?」
「……水上じゃなくて、凪」
「あ。そ、そうだったね。何だか未だ慣れなくて……」
 付け加えれば、ぽつりと呼ばれ方の訂正を求めてくる凪は(当然と言えば当然だが)普段
学校で目にする制服姿ではなく、私服のそれだった。
 灰色のトレーナーに黒いぴっちり気味のズボン、その上にはフード付きの淡い水色の上着
を羽織り、頭にはちょこんと半ずらしの帽子が乗っかっている。
「…………」
 陽は静かな訂正要求に苦笑していたが、既に凪の意識は別の方向に向けられていた。
 微笑む自分の誓約者(リンカー)の顔を直視できずに、気恥ずかしげに視線を逸らして心
なしかそわそわと髪を弄っている。 
「ねぇ、陽君。この子の服、どうかしら?」
「……ッ!?」
 妙な沈黙が流れようとする。するとその合間を縫うようにして、晶子夫人は何処か茶化す
ように陽にそんな事を聞いてくる。
「? どう、というのは……」
「ふふっ。今日こちらにお邪魔するって話になって、この子ったら随分部屋で悩んでいたみ
たいなのよ。私は折角なんだからもっと女の子らしいフリフリなのにしたら?って言ったの
に、結局普段着にしちゃってね……」
「……だって。スースーして、ああいう服は苦手だから……」
 かぁっと顔を赤くして俯いて、凪は母の言葉にか弱い反論しかできずに口篭もった。
「ん~、いいんじゃない? その格好も似合ってると思うよ。というか、凪の私服って初め
て見るしさ。そんなに気負わなくたっていいんじゃないかな?」
「……そうかな」
 だが当の陽はその赤面の意味をよく分からずに、ただ正直な感想と意見を口にしていた。
 似合ってる。するとそのフレーズをぶつぶつと呟き、凪は更に顔を赤くしてすっかり沈黙
してしまう。
(……初対面って訳でもないのに、何を今更悩むんだろ?)
 そんな彼女に妃翠や珠乃、水上夫妻はそれぞれに温かい視線を送っていたが、やはり当の
陽だけはいまいちその意味する所が分からずに、妙に明後日な方向に思考を遣っていた。
「あ、えっと。それで今日はわざわざどうして家に……?」
「はは。何、当然の事ですよ」
 そして考えても仕方ないやと陽がそう凪達に問い掛けると、帽子をそっと取りながら徹郎
氏はフッと笑った。
「真崎陽君、妃翠さん。先日は妻と娘の危ない所を助け頂いて本当にありがとう。今日は改
めてその御礼に伺ったんですよ」
「そ、そうなんですか……。わざわざ御足労かけて頂きまして……」
 その様はまさに絵に描いたような紳士のようだった。
 陽は見た目以上に丁寧な物腰の彼に思わず恐縮となり、ぎこちなく頭を下げ返す。
「本当にわざわざすみません~。あの、うちの子に粗相は御座いませんでしたでしょうか?
何せ、何処かぼ~っとしている子ですので」
 ちなみに例の誘拐騒ぎの一件については、珠乃や美月も知る所となっている。
 流石に事が大きいだけに黙っているのもいけないだろうと、ざっくりとだが一段落がつい
て帰って来た後にすぐ、妃翠を介して説明して貰っていたのだ。
「……母さんが言っても説得力無いと思うんだけど」
「? 何の事?」
 その隣で珠乃も同じく恐縮ですと頭を下げて言い、思わず陽がその言葉に突っ込んだが、
どうやら彼女自身に自覚はないらしい。
 疑問符を浮かべる母と、そんな反応に「いや……。まぁいいやもう……」と小さなため息
をつく息子。そんな二人の様子を妃翠は微笑ましく見守っている。
 それから暫し、水上夫妻と珠乃の間には互いに謙遜し合うやり取りが続いていた。
「……そういえばさ、凪」
「ん?」
「そもそも家の場所って話した事あったっけ?」
「ううん、無い。でも……耀金から聞いた」
 そんな親達の応酬を横目にふと陽が思い立ったように訊ねてみると、凪はふるふると小さ
く首を横に振って答えた。
「あぁ……そうなの」
 そういえば誓約(リンク)の後、二人とも何か話していたようなないような……。
 日が経ち少し曖昧になりつつあったあの事件後の様子を記憶から掘り返しつつ、陽はフッ
と妃翠に顔を向けて言う。
「ねぇ妃翠、そういえば耀金さんはどうしたの? 今朝から姿を見かけてないんだけど」
「え? あぁ。それなら……」
 すると問われた妃翠も思い出したようにポンと両手を合わせると、もそもそと上着のポケ
ットから一枚の紙切れを取り出した。
「今朝起きたら、枕元にこれが置いてあったの」
「……?」
 そうして差し出された紙切れ。
 陽は小さな怪訝と共にそれを受け取ると、そこに書かれていた文言に目を通す。
『スイへ:今日朝一番に星峰を発つ事にした。女将や少年達には代わりに宜しく言っておい
てくれ。短い間だが世話になった。また気が向いたら顔を見に行くよ。──耀金』
「……随分と急だなぁ」
「う~ん、そうねぇ……。でもヨウちゃんは昔から中々一箇所に腰を落ち着けられない子だ
ったから。大丈夫。書いてあるようにまたその内戻ってきてくれるわよ」
「うん……」
 書かれていたのは突然の旅立ちを告げる旨。
 陽は正直ちょっと水臭いなと思ったが、当の親友(とも)である妃翠はさほど深刻には考
えていないようだった。
 思えば結局、彼女とは妙な隔たりのあるままで終わってしまったような気がする。
 それが陽にとって、後悔と言えば後悔になるのかもしれない。
「そうだと、いいんだけど……」
 別れにしては少々あっさりとした文面の置き手紙を手にしたまま。
 陽はそう小さく呟きながら、何処か遠い外へと視線を遣る。

 ──時は少々遡り、星峰山中某所。
 真崎家と友が眠ったままの宿を密かに後にして、耀金は一人草木生い茂る星峰山の獣道を
黙々と歩いていた。
 時折吹き過ぎる風はまだ冷たい。季節は初春の筈だが、まだ陽も昇り切っていないこの時
間帯と木々がその光を幾許か遮る環境にあってはそれも随分と阻害されるらしい。
「……」
 複雑に入り組む木々の間、その眼下からは朝ぼらけに溶ける星峰の街が広がっている。
 急な出立を決めたが、果たしてこれで良かったのだろうか?
 耀金の脳裏をそんな思考が掠めていく。
 だが彼女は来た道を戻るという選択肢を採る事はしなかった。
 友の枕元には置き手紙も残しておいた。目を覚ませば事情は汲んでくれるだろう。その友
も、今では良き理解者──と表現するには個人的にはまだ抵抗があったが──に巡り会え、
尚且つその絆が担保される段取りもつこうとしている。
 もう大丈夫だ。自分があの場を離れても、彼女はやっていける。
 そして何よりも……。自分にとってあの場所は“矛盾に満ちた場所”過ぎるから……。
(……結局、あたしは何も変えられなかったんだな……。無二の親友(ダチ)すらも)
 自身の無力。そして記憶が反芻する、友の語った真崎家と人間達への想い。
 あの日の彼らの罪は許せない。許してはならないと信じていた。
 なのに彼らは、友はそれすらも超えて結び合っているように見えた。満ち足りた友の微笑
みを見れるに越した事はない。だが、それを認めてしまえば今まで自分達が“戦ってきた”
意味は同時に大きく薄れていってしまう。
(あたしは、一体何をやってるんだろうな……)
 大きく静かに、ため息に近い吐息。
 一瞬だけ空気の冷たさに触れて白くなったが、それもすぐに見えなくなる。
 それはあたかも……『明確無欠な善悪など無い』のだと言いたいかのような──。
「……」
 だがそんな思惟も、次の瞬間には消え失せていた。
 コートが靡く。静かに寄せた眉間。その眼つきが凝視する視線の先。
『…………』
 そこには道なき道を行く彼女の行く手に待ち構えるかのように、白早と高須、二人の姿が
あった。
 山歩きには不相応なスーツ姿で眼鏡のレンズからこちらを窺っている高須。その傍らには
灰色のコートと黒の革ズボンを纏い、自身の得物である長太刀を腰に差した白早。その佇ま
いは少なくとも和気藹々に雑談に来たという筈もない。耀金はコートのポケットからそっと
片手を出すと、再びゆっくりと足を踏み出していく。
「……お待ちしていました。隊長」
「おう。夜も明け切らない時分からご苦労さんなこったね」
 言いながらもお互いの距離は十数メートル近くは離れていただろうか。
 会話はできる。しかし決して相手の間合いには入らないように留意した互いの距離感。
 そう第一声を交し合って、耀金達は暫し黙っていた。
「まぁ何となく予想はついてるけど……。用があるのならさっさと済ませて欲しいんだけど
ね? あたしはもう星峰を出るからさ」
「それは困ったねぇ……。ねぇ、白早?」
「……」
 すると今度は高須が口を開いた。
 相変わらず飄々とした上っ面を崩そうとしないいけ好かない男。耀金は心底鬱陶しいと言
わんばかりの表情で二人を見遣る。
「……隊長。無理を承知でお願いします。共同体(コミューン)に、戻って来て下さい」
 ややあって、バッと白早が深々と頭を下げた。
 だが耀金は「やっぱり」といった表情を零しつつ、ため息をついて明後日の方向を見る。
「分かってるんだろう? あたしは政府の手駒に成り下がるつもりはない」
 耀金は改めて宣言した。ゆっくりと、白早が哀しい顔で面を上げる。
「確かに“帰るべき場所”を建て直そうって志は分からなくもないよ? だけど、現状今の
コミューンはこの国の政治屋どもの傀儡組織なんだ。あくまで紋女(あたしたち)の母体と
しての形を取り戻さない限りは、加わる気はないよ」
 反論もできず押し黙る白早の傍らで、高須は眼鏡のブリッジを押さえつつ声なき笑いを浮
かべていた。大方「君みたいな武人に政治の何が分かる?」とでも言いたいのだろう。耀金
はそんな彼を鼻で笑い返し、続けた。
「……それにね。こそこそと兵士で取り囲ませながら話し合いなんてのは“説得”とは言わ
ないだろう? そいつは“脅し”以外でもなんでもない。……余計な小細工は無駄だぜ」
「……。やはり、気付いていましたか」
 言われて、白早の顔色が曇った。
 元自身の上官でもある。気付かない筈はないとは内心思っていたのだろう。それでも彼女
は何時か耀金が戻って来てくれる、その可能性があればそれに賭けたいと思っていたのだ。
「──やれやれ。とんだ茶番じゃないの」
 するとそのやり取りを合図にするかのように、白早の近くの茂みから門倉と数名の武装し
た特保の戦闘要員らが姿を現した。
 もう隠れている必要はないとの判断なのだろう。門倉が出てきながらパチンと指を鳴らす
と正面だけではなく、左右や背後の茂み・木々の陰などからも次々と戦闘員らが現れ、その
隊伍を組み直し始める。
「全く……。白早、貴女が彼女の元副官だというからチャンスをあげたというのに……」
「すみません……」
 そう小言は言いつつも、門倉はこの展開は予想していたらしい。
 既に周囲を、耀金を包囲する戦闘要員らは銃──おそらくはロスヴァー弾を込めた──を
構えて臨戦体勢を取っている。
(やれやれ……。結局力ずくってか? 学習しねぇ連中だぜ……)
 耀金はちらりと横目でそんな没個性な戦闘員の位置取りを確認すると、内心うんざりした
気持ちをくしゃっと丸めて捨てた。そんな彼女に、門倉は中央に陣取って言い放つ。
「では改めて。特質系“錬装”のルーメル、元兵部院七番隊隊長・耀金──別名『金軍』の
耀金。貴女を紋女特別措置法第十二条に基づき、コミューンへ招聘します」
「拉致・軟禁の間違いじゃないのか? まぁ、そう言われてはいそうですかとは言う気はな
いけどね」
 門倉及び彼女が率いる戦闘員達と耀金の間に火花が散るようだった。
 心配そうにその様子を見遣っている白早と、その傍らで心持ち一歩退いて静観の構えを見
せている高須。
(…………。隠れてる狙撃組も含めて、ざっと三百前後って所か……)
 そんな間にも、耀金は周囲の気配を読み取り、相手方のおおよその兵力を計り取る。
「まさかこの程度の兵力で捕縛しようなんてね……。笑わせてくれる。あんた達人間が隊長
級(あたしら)と本気でやり合いたいってんなら、せめて一個師団は持ってこないと話にな
らないよ?」
 ある意味正直に耀金は言い放ったが、対する門倉達は反論もせず、ただ自分を睨むように
押し黙っていた。
 それは十中八九、彼女達も承知の上なのだろう。耀金はその反応を見ながら思う。
 十六年前の血の遭遇。その時に自分達ルーメルの持つ戦闘能力は痛い程に思い知らされて
いるのだ。たとえ彼女らが前線にいた経験を持たずとも、その一人当たりの圧倒的戦力差は
火を見るよりも明らかだと知っている筈だ。
 なのにこの程度の兵力しか連れていないというのは……おそらくは“これが限界”だとい
う事情があるのだろう。
 星峰本局の総兵力自体は決して少なくない訳ではない。内閣官房直属の組織である特保は
国防隊との連携基盤もしっかりしている。とすれば、大方「他の事案で兵力が分散せざるを
得ない状況」か「下手に兵力を失いたくないという上層部の引け腰」、或いは「本隊が別に
いてこちらに向かっている最中」なのか……。だがいずれにせよ、この場を突破すればもう
面倒臭い追っ手に囲まれる可能性は低い。
「……フッ」
 耀金は、哂った。その反応に門倉の表情が明らかに不機嫌になる。
「おっと悪いね。そちらさんの事情に関心なんてないが、これじゃあ到底その任務は果たせ
ないよ。……あんたらは“本気の紋女の戦士(あたしたち)”を見くびらない方がいい」
 ザワヮヮヮッと。
 次の瞬間、耀金の全身から悪寒になる程の殺気が湧き出た。
 まるでその気迫に怯えるように周囲の木々が大きく揺さぶられ始める。一層眉間に皺を寄
せる門倉の背後で、白早と高須がそれぞれに静かな驚愕を見せていた。
「この前はスイや少年達が居た。だから“軽~く身体を動かしただけ”なんだよ。まさかあ
の子らに血塗れの死屍累々を見せる訳にはいかないしねぇ……」
 ポケットに突っ込んでいたもう片方の手をそっと出す。
 その時点で、既に戦闘員達の中には意思とは別に身体が震え始めている者が出始めた。
「でもここは人も寄らない山の中だ。それに相手はあんたら特保。……遠慮する理由なんて
何処にもないよなぁ?」
 その時だった。
 耀金が言い、門倉が一抹の怪訝を見せた瞬間、何かが猛烈な速さで飛び出していった。
「──ぎゃはっ!?」
 数秒も経たずして遠くから聞こえる短い悲鳴。
 そして、ぎゅんっと手繰り寄せるように耀金の下に戻ってきたのは……長い鎖に巻き取ら
れた一人の狙撃ライフルを手にした戦闘員。
 その姿を見て、初めて門倉と戦闘員達は認識することができた。
 今この瞬間、自分達の目の前で耀金が鎖を“錬装(トランズ)”し、確かに彼女の死角に
構えていた筈の狙撃手の一人を引っ張り出したのだと。
 その早業に、門倉達は絶句した。そして再認識する。
 ──やはりこのルーメルは、この程度の兵力では抑える事などできないと。
「あ、ぁぁ……」
 霞むような速さで崖上から引っ張り出された狙撃手は、そのダメージからまだ立ち直れず
に地面の上でもがいていた。
 息を呑む門倉達。崖の上で構える事すら忘れてしまった仲間の狙撃手達。
 ザリッとした足音が、彼の身体に影を差した。
「ひっ──!?」
 本能的な恐怖。それは間違いなく“捕食される側”の感じ取る原初的なそれ。
 だがそんな短い声にならない声も虚しく、
「ふぁぁ……」
「あっ、がっ!? あ、ァァァァァァ……ッ!!」
 彼は耀金に首根っこを掴まれ持ち上げられると、そっと首筋にその開いた口を向けられた
のである。
 もわっと立ち上る靄のような何か──霊素(エーテル)。
 それが耀金の口の中に吸い込まれていくに従って、この狙撃手の顔はみるみる精気を抜か
れていくように真っ青になっていく。
「…………ふぅ。ご馳走さん」
 そして限界まで吸い込まれたエーテルと同時に、狙撃手は絶命し、地面に倒れた。
 呆然とする白早を含めた特保の面々。
 だがそんな彼女達の驚きなど一切意に介す事もなく、耀金はきゅっと食事を摂った後の仕
草のように口元を拭う。
「さて。当面のエーテルも補給したし……」
 一歩二歩と進みながら、耀金はジャラリと腰の革ベルト達を取り外した。
 そこに収められていたのは、数え切れない程の金属棒。
「……!? 皆さん、逃げてっ!!」
 それが何を意味するか逸早く悟った白早の叫び。だが、
「────殺ろう(おどろう)か」
 次の瞬間、そのベルトを握り締めた耀金自身から凄まじい金色の奔流が迸った。
 それは単なる火花というよりは巨大な放電に限りなく近かった。
 爆風のような風圧と金色の強過ぎる光。辺りは一瞬にして彼女の放った“本気”に為す術
もなく蹂躙され、激しくはためく他なかった。
『…………』
 何分もの長きのような、だが実際はほんの数秒の出来事。
 ただそれまでと違っていたのは、その震源地に立つ耀金の姿が『金色の鎧』に身を包んだ
見た目通り武人へと変わっていたという事。
 “錬装”で作り出した胸当てや肩当、具足。そして得物であるより巨大に鋭利になった戟
を悠々と右の肩に乗せ、刃先とは逆の末端からは頑丈な鎖鉄球が延びてジャリジャリと唸り
をあげている。
「……あれが『金軍』の──」
 その変化に大きく目を見張った門倉。
 だがこの場に起きた変化はそれだけではなかった。
「──ッ!?」
 ガクンと。自分の意思とは関係なく、突如として自分の身体が崩れ落ち、膝をつきそうに
なる。全く意識していなかったその変化。門倉は半ば反射的に両膝にがしっと手をつく事で
何とか崩れ落ちてしまう事態を回避する事ができた。
「……。これ、は……?」
 しかし、部下達は必ずしも自分のようにはいかなかったらしい。
 ハッと顔を上げて見渡してみれば、部下の多く──ざっと見ても軽くその半分以上──が
力なく白目を剥いてその場で昏倒していたのである。
 辛うじて倒れずに済んだ者達ですらも、皆一様にまともに立っていられないという様子で
大きく息を荒げている。
「…………流石は兵部院の隊長クラスですね。とんでもない覇気だ……」
「隊長……。本当に、本気で私達を……」
 その中で唯一無事そうなのは彼女の元副官である白早と、そのリンカーである高須くらい
だった。鏡面を反射させた眼鏡のブリッジを押さえたまま呟き、じっとしている高須の傍ら
で、白早はこれから起こるであろう事態に陰鬱な、鎮痛な面持ちを隠さない。
 門倉達は激し過ぎる後悔を覚えながらも、そろりと佇む武装済みの耀金を見た。
「……。死にたくない奴は、さっさと失せな」
 ブンッと。
 強化され巨大化した戟を軽々と車輪の如く回転、ビシリと門倉達に向かって突き付けてみ
せながら、耀金は凛とした確かな声色で宣言する。
「……今から此処は、屍の山になる」

「──うわぁ~……。す、凄いね……」
 玄関先で立ち話というのも何なので、陽達は水上一家を自宅の客間(和室)へと案内して
いた。そして彼らが持ち込んできた梱包木箱の中から取り出されたのは、壷や掛け軸といっ
た所謂アンティークもとい骨董品の数々。
「ほ、本当ねぇ……。何だかどれも高価そうで……。あの、本当にこれ全部頂いてしまって
も宜しいんでしょうか?」
「はい。これも妻と娘を助けて頂いたお礼です。しがない古物商の贈り物として受け取って
は下さいませんか」
 テーブルの上に並んだそれらは、全て徹郎氏が今回の感謝の証として用意してくれた品々
だった。室内で帽子を取った白髪の目立ち始めた毛髪の後ろをそっと撫でて照れを見せなが
らも、彼はそう丁寧な物腰を崩さずに言う。
「……分かりました。そこまで仰って下さるなら、ありがたく頂戴致します。ですが……何
分私達はこういった代物には素人なので、どう扱ったらいいものなのか……」
 流石の珠乃も、目の前の骨董品の山には戸惑いを隠せないようだった。
 徹郎氏など“鑑定眼”のある者ならともかく、自分達一介の素人にはその本来の価値すら
分かりはしない。
「扱いに厳密な流儀などなくてもよいのですよ。高くとも安くとも、道具は人に使われてこ
そ意味のあるもの。大切に、真心込めて扱って頂ければそれで充分です」
「そんなもの、ですか……」
 何度かそれとなく個々の値段を訊いてみたのだが、徹郎氏は曖昧なままで正確な値を答え
る事はしなかった。まさか安価な粗雑品を持ってきたとは考え難いが、だからといって目の
前の品々は素人目にも数十、数百万単位の代物なのではないかと勘繰ってしまう。
 これだけ仮に売り払ったらどれだけの現金になるのだろう……?
 ドキドキしながら骨董品らを検めている母を横目にしながら、陽はふとそんなちょっと失
礼な事まで考えてしまう。
「何なら試しに少し使ってみましょうか? そうですね……。この花瓶でも」
 あまり恐縮されっぱなしなのもどうかと思ったのだろう。
 徹郎氏はふと思いついたように、テーブルの上の骨董品達の中から一本の陶磁器の花瓶を
選んで手に取った。
 陽ら素人には分からなかったが、繊細な絵付けが施された白地に淡い青を含んだ花瓶。
 多分、これも相当な金額になると思われる。
「あ、はい。じゃあお花と水を──」
 そして珠乃がそう言いふらっと立ち上がろうとした、次の瞬間。
 その花瓶の中に、水が溜まった。
「……水なら、これで大丈夫」
 その正体は言わずもがな凪のルーメルとしての能力──流水操作。
 ふいっと立てた人差し指の周りには、ふよふよと浮かぶ一条の水。
 皆が一斉に視線を向けた中で、彼女はそう淡々とした様子で呟いてみせる。
(……?)
 だが、それがまさかこんな事になろうとは陽は想定もしていなかった。
 不意に陰った自身。何だろうと、陽は何気なく背後──客間の障子の方を見たのだが。
「…………」
 そこには、驚きやら怒りやら色んな感情が綯い交ぜになって顔を引き攣らせている美月と
その少し後ろで何とも言えぬ苦笑を漏らしている妃翠の姿。
「姉、さん!?」
「……陽の、お姉さん?」
 驚愕と認識と。陽と凪の、同じだが全く別の心情を込めた台詞が零れる。
(マズイ……。さっきの凪が力を使っている所を見られた……!)
 補足しておくと、誘拐事件について陽と妃翠は凪がルーメル・蒼凪であるという事実はま
だ伏せていた。
 それはただでさえルーメルに対して複雑な感情を抱いている彼女に、包み隠さずその事も
告げてしまうのはマズイのでないかという(主にとばっちりを受けるであろう陽の)意見で
あり、そして何よりも下手に事を広めて凪自身に風評被害が及ばないようにとの配慮を受け
て下していた判断であった。
「さっきの何!? 今、その娘から水が出たわよね?」 
 しかし、それも決定的瞬間をバッチリ見られてしまっていた事で最早崩れそうになる。
「あ、えっと。それは……」
 手品とか何とか。うんそれで誤魔化そう。
 陽は内心物凄い勢いで回転して慌てふためく思考を過ぎらせ、何とか場を凌ごうとした。
 したのだが……。
「初めまして。ボクは水上凪──陽の、ルーメルです」
 何を思ったのか、その斜め隣で突然そう美月に自己紹介を始めた凪によって撃沈される。
「ちょっ……!? な、凪? 何でいきなりバラして……」
 思わず超高速で凪に振り返り、陽は時既に遅しな制止を図ろうとしていた。
 しかしその一言は、もう隠し様もない一押しだった。
 目の前で起きた何も無い所から水を出してみせた凪の芸当。今も指先からふよふよと普通
ならあり得ない状態で一条の水が浮かんでいる事。
 そして何よりも、凪自身が自分を“陽のルーメル”だと告白した事。
「……」
 陽はサーッと文字通り青ざめた顔で、まるで錆びの来た人形のようにゆっくりと恐る恐る
再び姉の方へと振り向いてみる。
 そこにあったのは、どう見ても噴火寸前な美月の俯き加減の震える肩。
「……あ~、き~、らぁぁぁっ!!」
「うひゃぁっ!?」
 ギチギチと限界まで引き伸ばされていた緊張が弾け、美月が怒号をあげた。
 最早条件反射の域に達した反応速度で、陽は悲鳴を上げて飛び上がる。
「一体どういう事!? この子って水上さんなのよね? あんたと同じクラスで委員も一緒
だっていう水上さんなのよね? 妃翠さんから家族揃って例の件のお礼に来てるって聞いた
から私も顔を出しておこうかなって思って来てみれば……どういう事なのっ!? ルーメル
だなんて、それも“あんたのルーメル”ってどういう事!?」
 美月はハンター達も真っ青な形相で陽に詰め寄っていた。感情に身を任せているように見
えながらも、それでいて妙に断片的な情報を整理しているその思考回路。
「ま、まさかあんた、妃翠さんだけじゃ飽き足らず、クラスの女の子にまで……」
「は!? いや、ちょっと待って。それなんか妙に誤解して──」
 陽は必死に弁解しようとしたが、もう聞く耳など無かった。
 次の瞬間には美月は二度目の噴火を起すと、「ひぃっ!」と悲鳴を上げて隣の部屋へと転
がり込むように逃げ出していく彼を追いかけ始める。
「コラァ、待て陽ぁっ! ちゃんと説明しろぉ!!」
「だ、だったらその拳下げて、下げてっ! うはっ!? 死ぬっ! 空手・剣道段持ちな姉
さんの本気とか死んじゃうからっ、ホントに死んじゃうからっ……!!」
 ドタンバタンと隣の和室にフィールドを映し、バイオレンスな姉弟の追いかけっこが始ま
っていた。流石に唖然としている水上夫妻に、珠乃は「大丈夫ですよ~。あの子達には何時
もの事ですから~」と呑気に止める気もない一先ずの声掛け。
「……バラしちゃってよかったの?」
 そんな突然始まった騒ぎを横目に、妃翠はそろ~っと室内に入り、そうぼうっと隣室の方
を眺めていた凪に話し掛けていた。
「……うん。陽の御家族には、今後もお世話になるだろうから」
 それは陽と誓約(リンク)を結ぶルーメルの一人として、という意味なのだろう。
 だとしても、ちょっとタイミングが悪かったんじゃないかしら……?
 断続的にドタンバタンと追う者と追われる者の騒音が聞こえる中、妃翠は思わず苦笑いを
浮かべる。
「それに……。ボク、決めたから」
「え?」
「……ボクは、もう逃げない。自分がルーメルだって事に怯えないで暮らしていきたい。陽
も言ってくれた。人間だろうがルーメルだろうが、ボクはボクだって」
「……。そう……」
 凪がぽつぽつと紡いだその決意に、妃翠は優しく微笑んだ。
 そう、きっと彼女も自分と同じ。そんな彼の分け隔てない真心に惹かれたのだから。
 妃翠と凪はどちらからともなく互いを見合わせて、笑った。

 確かに現実は自分達に厳しい。今も自分達を憎む人間も少なくない。
 だけど……人間だから、ルーメルだからと線引きさえしなければ、きっとお互い共感でき
る部分だって見つけられる筈。たとえ良くない所に目が行ってしまったって、そんな弱さも
お互いの力で補い合っていければいい。
 それはきっと難しいだろうけれど。少なくとも自分達から始めれば……ゼロじゃない。
 幸いにも自分達はその真心を得られた。共に安息できるパートナーを得られた。
 誰にだって……きっと何処かに自分と“繋がり合う”事のできる誰かがいると思うから。  
 妃翠はフッと微笑んで縁側を見る。
 今日もまた日は昇っている。
 世界がそうなように、人間とルーメルにだって、明けない夜はない。
(……大丈夫)
 理想論過ぎるかもしれないけど、それでも現実を言い訳にしたくもない。
 だから私達は進もう。少しずつでもいいから、信頼できる仲間達と共に。
(……きっと大丈夫。何時かは、きっと──)
 今日も人々を照らす光の導きはゆっくりと天頂へと向かっていく。
 星峰の街にまた一つ、新たな『絆』が生まれた。
                                      (了)

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  1. 2011/04/28(木) 20:30:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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