日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「少年セイバー」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:空、パズル、高校】


 空にも地面にも澱んだ灰色ばかりが広がっている。
 栄太は教室の窓からぼんやりと外を眺めていた。耳には老年教師の講釈(さいみんごえ)
がゆるゆると届き、視界には教室の窓と、空へ必死に手を伸ばさんとするかのようなコンク
リートの高塔が点在しているのが映る。
(……暇だな)
 毎日の事ではあるが、栄太はこの日も気だるい時間を過ごしていた。
 繰り返される単調な日常、マニュアル通りのつまらない授業と高校生活。得意分野である
数学ならともかく、今のような古典を延々聞かされて一体何になるというのか……。
 しばしば栄太は“虚しさ”を感じてならなかった。
 どれだけ古典──過去の人物・事物を詰め込まれても、人間全体がそれらを「学んで」い
るとは到底思えない。むしろクソったれな現実から目を逸らすために“あの頃はよかった”
と嘯く材料でしかないし、そもそも過去が如何だったか、それ自体でまたあちこちで禍根と
争いに変換することに忙しない。
 でも、だからといって現在(いま)を突き進める──突き進めばきっとよくなる、という
信心もまた持てない。
 きっとそれは、自分だけの話ではないのだろうと思う。
 数学などの理系知識も一面では世の中に貢献しているが、もう一方では理解不能な暗号の
如く思われ、肝心の一般的(とされる)庶民には気持ち悪がられる。そのくせ、技術の恩恵
だけはしっかりと受けておいてそれが当然だと思い上がっている節さえある。
 ……やっぱりクソったれだ。
 栄太は、もう何度目かも分からない嘆息を胸奥の中でついた。
 甲斐がないではないか。どれだけ技術力を振るっても、どれだけああやって建造物を並べ
立ててみても、消費者(せけんさま)はどこまでも強欲で高慢だ。
 エンジニアが一グラムを軽くする為にどれだけ苦心しているかを、彼らは知らない。
 いやだからこそか。無知を恥じないからこそ、平気でゴテゴテと飾りを付けてその努力を
踏み躙る。みてくればかりで、注がれたクオリティを労力を深く考えようともしない。
『──はは、いいんだよ。僕は好きでこの道に入ったんだし』
 そんな技術者の端くれである、温和な父はそう語って微笑んでいたが、自分はやはり釈然
としない。
 ぼんやりとだが理科系に進むのだろうと思っている同類の一人として彼の子として、その
報われなさ──好きな事をしていていいだけ儲け物、みたいな扱いと強いられる自己完結は
どうにも不憫だと感じてしまうから。
 一体、何の為に……?
 ただ人間という集まりの欲望の為だけに地面を多い尽くしては空を目指す灰色に、やはり
覚えてならないのは、辛いようなしかし同情もしたくない、強烈な閉塞感で。
(……そういや昔、世界滅亡説ってのがあったんだっけ)
 そして、ふと思い出す。
 確か以前、巷が古代文明の暦から世界の終わりが訪れると騒いだ時分があったそうだ。
 尤もその頃は自分は生まれてもいなかったし、その日に特別何かが起こった訳でもなく、
しぶといながらもこうして世界は続いている。
 理解に苦しむというか、愚かなものだなと思ってしまう。
 これほど地上に空に食指を伸ばしている一方で、嗚呼、世界は滅んでしまうのだと喚く。
 どちらにしてもそういう輩は“信じて”いるのだ。
 この繁栄は自分達の力で以って何処までも往けるのだと疑わず、信心のセカイの中だけで
全てを完結させ「知った」気になっている。……自分はそんな高慢さが大嫌いだった。
「──おい、あれなんだ?」
「雲、じゃないよね?」
 もういっそ、望みの通りそのまま──そう栄太が嘆息をつきかけた、そんな時だった。
 はたと視覚が暗さを感じ取っていた。
 同時に何やら様子がおかしいことに教室内のクラスメート達も気付き、講釈が止まり呆然
としている教師を置いてきぼりにしてざわざわと窓の外に眼を遣り始めている。
(……。何だありゃ?)
 突如姿をみせたのは、見上げた曇天一面を覆う巨大な陰。
 雲間から窺えるその黒い巨体は、所々に人工的な照明が点っていた。


「──う~む……」
 校舎内は未だに混乱の最中にある。
 だが栄太はそんな状況を好機とし、そっと残りの授業をフケて一人屋上に来ていた。
 制服の内ポケットから携帯端末を取り出し、あちこちのサイトを巡ってみる。
 案の定、ニュース関係のほぼ全てがこの世界中の都市上空に突如姿をみせた巨大飛来体を
繰り返し報じていた。
 動画ではアナウンサーが専門家──を名乗っているが何のだろう?──に色々聞いている
様子が映っているが、当の彼らも明確な返答は示せていない。
 ただオカルト方面を探れば、あちこちで「宇宙人がやって来た!」「終末の日が来た!」
などと騒ぎ立てる書き込みが散見されている。
(終末ねぇ……)
 確かにこうして屋外に出て見上げてみれば、あの上空の巨体は何かしらの金属物であるよ
うにみえる。ただそのサイズがあまりに大き過ぎて一体何なのか、そこそこに時間が経って
いる筈なのに分からないでいるのが現状なのだろう。
 だからこそ、余計に過剰に想像力ばかりが膨らんでいく。
「……」
 だがそれよりも。栄太には気になることがあった。
 厳密には“興味深いもの”とでも言うべきだろうか。それは今、手の中の端末に映し出され
ている。
 飛来体騒ぎが始まるのに合わせたかのように、とある不可解なメッセージ──暗号らしき
ものがネット上に公開されていたのだ。
 作成者は現在の所不明、加えてその肝心の内容が誰にも分からないのである。
 画面上には、緑色の記号のようなものが並べられていた。
 複数行から構成されているその最初の行だけは刻一刻と変化しているが、残り部分は全く
そうした様子はない。栄太はネット上、それこそ世界中に散らばる友人・知人と先刻から何
度もやり取りをしているが、誰も知らない言語だという。
 ……だから、これは何かの「暗号」なのではないかと栄太は考えていた。
 普段なら、この類の怪文書は遠いものでしかなかった。所詮は一部の酔狂者の暴走だろう
と対岸から斜に構えてさえいればよかった。
 でも、現在進行形であんなバカみたいな飛行物(げんじつ)が上空で鎮座している──。
「もう……。やっぱりここにいた」
 そんな時だった。はたと近距離から聞き慣れた声が響いてくる。
 いつの間にか、開かれた屋上のドア前に一人の女子生徒が立っていた。
「……なんだお前か」
「なんだ、じゃないわよ。また教室抜け出してサボってたんでしょ?」
 幼馴染(くされえん)の里美だった。出入口なコンクリ小屋に背を預けていた栄太は、そ
の姿を認めるとこれまた慣れきったように面倒くさそうに一瞥を寄越すだけ。向こうもいい
加減分かっている筈なのだが、彼女の方は相変わらず生真面目に眉間を寄せて言う。
「その様子だし場所が場所だし、校内放送を聞いてないみたいね。今日は臨時休校になるっ
てさ。水嶋先生から伝えておいてくれーって」
「……そっか。ま、そうだろうなあ。あんなデカブツが頭の上にあるのにおちおち授業なん
てやってられないだろうし」
「あんたは普段からサボってるでしょうに……。大体今年はクラスが違うんだし、こういう
手間は取らせないでくれない?」
 売り言葉に買い言葉、いつものやり取り。
 里美は呆れ顔からふくれっ面へとコロコロと表情を変え、そんな優等生的台詞を一つ。
 なら頼まれて受けなくてもいいじゃないか、とは思ったが、そう口答えをするとまた機嫌
を損ねてしまうのは分かりきっているので栄太は敢えて作った苦笑いでその場を凌ぐ。
 そうして、二人はどちらからともなく空を見上げていた。
 やはり間違いじゃない。夢じゃない。
 あの巨大な金属の塊──飛行体は確かに今もじっと自分達の遥か頭上に鎮座している。
「……あれ、何なんだろうね」
「さあな。分かってりゃ、お偉いさんがもう何か手を打ってるだろ」
 なのにこの国の政府にはこれといって行動を仕掛けた、という報道はない。日和見という
か、例の如く「情報収集に尽力」などとおべっかを繰り返すばかりだ。
 ネットを巡ってみるに、一方既に欧州諸国などでは空軍が出撃して撃ち落そうと手探りが
始まっているらしいが、正直あの巨体を落とせるかは怪しいものがある。
『…………』
 どだい、自分達にはどうにもできない……。
 ただ二人は人々は、物理的に迫る不可解、そこからくる不安にじわじわと圧迫される。
「そういえばさ。さっきから手の中で光ってるそれ、何?」
「ん? ああ、これか……」
 だからだろうか。話題を変えようとするかのように、里美がふと共に仰いでいた視線を戻
すと、そう言って尚も点滅・変化し続ける例の暗号を指差して問い掛けてくる。
 何となく栄太は話してやった。ネットに流れ始めている妙な暗号……らしきものだとか、
在外の仲間達でも分からないのだとか。
「ふぅん……。変なことって続くもんだねえ」
 しかし、当の本人は自覚など微塵もなかったのだろう。
「それって案外宇宙人からのメッセージ、だったりしてね?」
 幼馴染から話された暗号の正体を、そう悪乗りしながら笑っていたのだから。
「……。里美」
「ん?」
「それだっ!」
「はえ? え……っ?」
 そんな言葉を受け、対する栄太は思わず叫んでいた。里美の目が驚いて点になっている。
 再び画面上の緑の記号群を睨む。
 相変わらず最初の行だけが刻一刻と変化し続けている。
「そうか……もしそうなら合点がいく……!」
 栄太は眉間に深く皺を寄せ、ガシガシと頭を掻いて何やら興奮し始めていた。
「ありがとよ里美! 俺、用ができたから帰るわ!」
「え? あ。う、うん……」
 そしてそのまま戸惑う幼馴染の少女を屋上に放置し、彼は端末を片手に飛び出していく。


 一旦自宅に飛んで帰り、気が付けば陽が落ちていた。
 帰宅後すぐ、栄太が部屋に篭もって取り組んだのは例の暗号を解読することだった。
 ──宇宙人からのメッセージ。
 里美は冗談半分でそう言っていたが、多分それは合っている。
 あんな巨大な飛行体を造り、何時間も滞空させている──何よりもそれに各国が気付けな
かったという事実。そんな技術はそれこそ地球外生命体でもなければ不可能だろう。
 だから、この暗号はどこの国の言語でもない。きっと彼らの言語なのだ。
 机の上に紙とペンを出し、刻一刻と変化する最初の一行を書き記していく。
 ……やはりだ。これは「カウントダウン」を示している。つまり数字の変化だったのだ。
 だとすれば、以降の行に書かれているのは何だろうか? 流石にそのメッセージの全文ま
では分からなかったが、最初に彼らの数字を把握できたことで一つ分かった事がある。
 文中にいくつか、数字の羅列があったのだ。
 見知らぬ空からの訪問者。人間のものではないと思われる言語。インターネット上に侵入
してまでメッセージを送り込んできたというこの状況。
 栄太はウェブ上に世界地図を広げた。先の数字群をそれぞれ照らし合わせる。
『……ビンゴ』
 推理と計算の末に導き出されたこと、それはこれらが地球上の座標──いわば住所を指定
しているらしいということ。
 状況からして、会いたいのだと思った。いくつかの場所を決めておき、このメッセージに
気付いた人間とコンタクトを取ろうとしているのではないかと。
 幸か不幸かその一つは比較的近い場所にあった。都内のとある大型霊苑──神社である。
 故に栄太は行動に移った。
 この解読結果をネット上の仲間達に伝え、自身はその指定された場所へと急いだのだ。
 パソコン越し、携帯端末越しにいくつかレスポンスは届いていた。その多くが半信半疑と
いった様子だったが、それでも栄太は既に自転車を全速力で漕いでいた。
 衝き動かされていたのである。
 単調だった日常を根っこからひっくり返してくれるこのイベントに。
 そしてここまで大規模な事件が起きている──その事実の理由(わけ)に想像を馳せてみ
た時に感じた薄ら寒さに。

「──っ、はぁっ!!」
 殆ど自転車を乗り捨てるようにして、栄太は夜の霊苑に到着した。
 普段ならこんな時間に、よりにもよって墓地などに来る物好きではないが、今はそんな事
を思って自嘲(わら)っている場合ではない。荒い呼吸をそのままに、栄太は一人敷地内を
進んでいく。
「ッ!?」
 異変は、その後ややあって起きた。
 警備上真正面から入れない為、抜け道を使って回り道をしていた栄太だったが、その足を
神社本殿内に踏み入れた次の瞬間、突如として身体が不思議な力で浮き上がったのである。
 空からの光だった。
 淡い、細かい粒子を伴った緑の光が自分へとピンポイントに振って来ていた。
 おいおい随分といきなりな歓迎じゃないか。
 幼馴染の一言で予想がついていたこともあってか、栄太はその瞬間も不思議と落ち着いて
いた。どだい逆らったとして撥ね返せるものでもなかろう。ただ彼はなされるがまま、光に
吸い込まれて夜闇の空の中へと消えていく。
「……ここは」
 やっと身体が自由になったと思った時には、栄太は見知らぬ場所に着いていた。
 やたらにだだっ広いドーム型の部屋。周りには見知らぬ機材がびっしりと接続されている
のが見える。だがそれらの画面らしき部分に例の緑色の記号群──異星語(仮)が表示され
ているのを確認して、ああやはりここは宇宙船なのかと把握する。
「◎▽◆△●□?」
 そんな時だ。はたと隣の部屋、らしき場所から明らかに人間ではない一団が姿をみせた。
 褐色気味の肌に牛のようなくねり曲がった角、幾何学文様のような刺繍が施されたローブ
らしき衣装はどう見ても布というよりは未知の素材が使われている。
「▼×◇◎●? □◆●!」
 最初何を言っているか分からなかったが、どうやら少しトラブルが起きていたらしい。
 一団のリーダーと思しき人物、銀色の長髪をした女性が何やら周りの男達に指示を出すと
彼らは慌てて手にしていた装置を操作し直す。
「──え、えっと。あの、私達の声が理解できますでしょうか? 私はスミスと申します」
「おおう!? ああ……分かるよ。それって、もしかして翻訳機って奴か?」
「ええ。すみません、この惑星(ほし)の言語設定が遅れてしまっていて……。でもあそこ
へ足を運んで下さったということは、私達のメッセージを見て貰えたんですね?」
「一応、な。数字らしいものが解ったから一番近いあそこに来てみたんだ」
 さて鬼が出るか蛇が出るかと思ったが、少なくともこの女性・スミスにそういった悪意は
ないように感じられた。
 栄太は思わず苦笑いをして、どう状況を把握したらいいものかと考える。
「……それで一体何のつもりなんだ? 空の上にあんなデカブツを出してきてさ? 他人の
事言えないけど、いきなりあんたらみたいな──宇宙人が来ちゃあみんなびっくりするだろ
うがよ」
「それは……分かっています。でも私達は急ががなければならないんです」
 いくら予想があったからとはいえ、随分と忙しないファーストコンタクトだなと思った。
 だが栄太が挨拶代わりに投げた問いに、彼女達の表情は深刻そのものだった。
「掻い摘んで要点をお教えします。……今回この惑星(ほし)に訪れたのは、まぎれもない
我ら銀河連合の艦隊です。それも攻撃用の軍事機体ばかりです」
「軍、事……?」
「はい。以前より我々はこの惑星(ほし)に知的生命体の存在を感知し、コンタクトを図っ
てきました。理由は二つ。連合の版図拡大と一定の文明レベルに達した惑星人の統制です」
 栄太は眉間に皺を寄せていた。
 軍用艦隊に文明レベル、統制──随分ときな臭い感じがする。なのに目の前の彼女はまる
でそういう荒々しい感じには見えず、困惑が強くなる。
「最初は評議院内でも穏便に接触を図って傘下に加えようとしていました。しかし何度とな
く試みは失敗し、使いに出した者らが捕虜となっていく中で、評議院内部で強硬論が大きく
なっていったのです」
「……ええと。よく分かんないんだけど、それって要するに地球のお偉いさんがあんた達か
らの接触を邪険にしたからそっちのお偉いさんが怒っちゃった、と……?」
「……」
 彼女が取り巻きの面々が頷いていた。栄太は思わず眩暈がするようで頭を抱える。
 冗談じゃない。もし彼女達の話が本当だとすれば──というより、この状況で今更全て夢
だ幻だという方が無理である──今自分達が抱えている状況は冗談抜きの「終末の日」では
ないか。
 なるほど、だとすればあのカウントダウンは警告の意味だったのだ。
 おそらくタイムリミット──件の宇宙人連合が攻撃を開始するまでの猶予時間なのだ。
「マジかよ……。でも俺に言われてもなあ。言っとくけど俺、権力も何もないただの学生で
しかないんだぜ? あんたらのお偉いさんと話し合うとか、そういう人間じゃ──」
「いいえ。私達は連合軍とは別の意思で動いています」
 だがスミスははっきりとそう言った。
 これは興味本位で手に負える問題ではない、そう弁解しようとした栄太の言葉を彼女は遮
って必死な眼差しを寄越してくる。
「私達は、止めたいのです。たとえ意図せず、貴方がた地球人が我々の存在を本気にせず邪
険に扱ってきたとしても、それを理由に武力平定など許されるものではないと思うのです。
……力による支配など、我々の歴史であっても野蛮であることに変わりありませんから」
 栄太はぱちくりと目を瞬き、固まっていた。
「ええと、つまりどういう事だ? あの暗号──メッセージは今から攻撃するぞって意味の
ものじゃなかったのか?」
「え? ち、違いますっ! あれは地球人の皆さんに何とか迫っている危機を知らせようと
貴方がたの使っているいんたーねっと? を介して送ったもので……」
「……ああ。なるほど」
 それでもこうして言葉さえ通じれば、意思疎通は図れるのだ。
 栄太は「翻訳が遅れてすみませんでした」と平謝りする彼女を宥めてから、ポリポリと髪
を掻いて考える。
 事情は分かった。そしてこの状況で動ける人間は、多分自分しかいない。
「それで? 俺は一体どうすればいい」
「えっ」
「止めたいんだろ? あんたのお仲間さんがこの星をボコボコにするのをさ」
「は、はい。勿論そうですが……先程貴方は権力の人間ではないと……」
「ああ。そりゃあな。でも」
 もやもやしていた思考が、ゆっくりとクリアになっていく気がした。
 確かに現実味のない夢のような話である。これはきっと嘘っぱちでその内ドッキリカメラ
が出て来て自分を嘲笑うのではないかとも考えた。
 だが──そうやって“逃げ”て、いいのか。
 そりゃあ今の世の中はクソったれだ。一度リセットしてしまえば、いっその事全くの別人
達に耕し直して貰えば、少しはマシな世の中になるかもしれない。

『それって案外宇宙人からのメッセージ、だったりしてね?』

 でも、たくさんいる。
 この世界には遠くの人近くの人、色んな他人がいて、それでも自分にとっては大切な仲間
なり何なりがいる。漠然とでしかないが、自分個人の抱える虚しさや憤り“だけ”を理由に
して、そんな無数の人々の心まで道連れにすることはないだろうと思った。
「俺だってこの世界の住人なんだよ。クソったれだけど、何も分からないまま滅ぼされるっ
てのは癪だかんな」
「……。はい!」
 彼女達は心底ホッとした表情を零した。
 実際何ができたかではないが、伝わった筈だ。だからすぐに栄太は行動に移る。
「あんたさっき、ネットを介してあのメッセージを流したって言ってたな? じゃあここか
らでもネット環境はある訳だ」
「え、ええ。でも使い方分かりますか……?」
「ん~……まぁ何とかなるだろう。今はこうやって言葉も通じてるし、教わってりゃ後は普
段の感覚でこっちの機材にも慣れりゃいい」
 そうして先ず取り掛かったのは、仲間を集めることだった。
 協力すると決めたとはいえ、自分はぺーぺーの庶民だ。だけどこのネットの海の向こうに
は国も年齢も性別も立場も多彩な仲間達が待ってくれている。
『宇宙人と一緒に地球を守るか……。ハハッ、なんてエキサイティングなんだ!』
『いいぜ、協力するよ。兄貴が官庁で仕事してるから何とかそっち方面に掛け合ってみる』
 全員が全員応えてくれた訳ではなかったけれど、ネットの仲間達はそう通信画面越しに勇
み受け入れてくれた。中には権力にコネのある人材もいる。初耳だが頼もしかった。
「じゃあこれから例のメッセージの全訳を送るよ。できる限りメディアの目立つ所に放り投
げてやってくれ」
『了解!』
 件のメッセージを、今度こそ確実に全世界へ発信する。
 これで以前のような“邪険”はなくなるだろう。あれだけのデカブツ達が世界中に展開し
ているのだ。国レベルの権力に関わる人間であれば、まともに戦うという選択肢を取ること
は自殺行為だと判断してくれる筈だ。そうして貰わないと困る。
「……」
 だがその前に、栄太はポケットから携帯端末を取り出していた。
 片手でこなれた手つきで操作し、呼び出した登録番号は里美(おさななじみ)のもの。
『ふぁ~い……。え? 栄太っ!?』
「よう。悪ぃなこんな時間に」
『ど、どうしたのよ一体!? あ、あの後家に行ったらおばさんに急に何処かに飛び出して
行っちゃったって言われたし……。今何処? 何してるの?』
「……そっか。まあ心配するな、ちょっと世界を救ってくるから』
『は? あんた、何か悪いものでも食べ──』
 驚くのは当たり前だろう。
 だが向こうの質問を遮るようにして、栄太は途中で通話を切った。
 何故このタイミングで電話なんてしたのか。
 ……分かっている。あいつもまた、自分にとっては大切な人間の一人なのだ。せめて事を
始める前に後に退けなくなる前に、一言声を届けておきたかった。
 再び端末をポケットに捻じ込み、栄太は場にいるこの穏健派の宇宙人達に振り返る。
「……で、あのデカブツどもが攻撃するって言ってるのはどれくらい先なんだ?」
「そうですね。私達の同志が交渉してくれているので厳密な時間はまだ隠していない筈です
が、この惑星(ほし)の単位で七十二時間ほどといった所でしょうか……」
「三日か……。間に合うかな……」
 告げられたリミットに、思わず苦笑する。だるんとした絶望感に襲われる。
 だが今投げ出しては水の泡になる。冗談抜きで、それも異星人によってこの惑星(ほし)
が終末の日を迎えてしまう。
 正義感、というのはちょっと違うけれど。
 でも──そんな荒唐無稽な理由でこの世界が終わるなんて、認める訳にはいかない。
 まだ自分は生きていたい。遠い余所者の蹂躙で終わらせてしまうのではなく、もっとテク
ニカルな抗いであのクソったれな世界を立て直したい、そんな夢があるから。
「……。じゃあ一丁見せてみますか、人間の足掻きってものを!」
 離反してまで言葉を伝えてくれた異星の者達と電子の海で繋がる仲間達。
 一度大きく深呼吸をして、栄太は制御卓(コンソール)のエンターキーに指を落とした。
                                      (了)

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  1. 2012/12/24(月) 18:00:00|
  2. 週刊三題
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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