日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-Ⅲ〔32〕

 その日、アウルベルツ近隣は勿論、世界中のマスコミがにわかに色めき立った。
 各社に送付された書面。そこには領主アウルベ伯とクラン・ブルートバードの連名により
記者会見を開く──『皆さんに大事なお知らせ』があるとの旨が綴られていたからだ。
 十中八九、先日の件だと誰もが直感した。
 アルス皇子歓迎の晩餐会、そこに現れた“結社”の刺客(しゅうげきしゃ)達。
 逃走した犯人らは程なくして遺体で見つかっており、捜査当局も結社内(みうち)による
“処刑”が行われたらしいとの見解を示したばかりだ。
 そんなタイミングからして、今回の会見はほぼ間違いなく一連の事件に区切りを付けよう
とするものなのだろう……。そう推測を並べると、彼らはセッティングされた会見の場へと
馳せ参じる。
「──お揃いでしょうか。では、これより会見を始めさせて頂きます」
 場所はアウツベルツの執政館だった。
 その一室に白布を被せたテーブルや椅子がずらりと設えられ、司会役の役人が既に大挙し
て集まった記者達を見渡しながらそう切り出す。
 正面の席には、アウルベ伯とブルートバードから正・副団長のイセルナとダン──そして
記者達が静かに驚いたことにアルス皇子本人やリンファら侍従衆までもがいた。
 控えめにざわついていた場。
 だが次の瞬間、その面々がはたと席から立ち上がったのを認めて、記者達は押し黙る。
「……先ずはこの場を借りて皆さんにお詫び申し上げます。先日の晩餐会にて襲撃者の侵入
を許したこと。これはひとえに我々の不手際と言わざるを得ません。誠に……誠に申し訳あ
りませんでした」
 代表して晩餐会を主催したアウルベ伯が謝罪の言葉を述べ、イセルナやダンが彼の頭を垂
れる所作に倣っていた。
 だが、記者達が戸惑ったのは、それ故ではない。
「僕からもお詫びを申し上げます。今回、僕の所為で多くの方々に迷惑をお掛けしました。
本当に……すみません」
 アルス当人だったのだ。
 皇子自身が彼らと共に──映像機や写姿器を通し民衆に、自ら頭を垂れて謝罪したことに
驚いていたのだ。
 確かに、結社の狙いは彼だ。
 しかしそれを負い目に安易に謝ることは、果たして彼らにとりプラスになるのか。少なく
とも皇族としての面子は、結社という暴力の前で崩された格好になるのではないのか。
 だが……記者達はややあって理解出来た気がした。
 皇国(トナン)内乱の一件の頃から各々に取材を続けてきた故に、彼らにはぼんやりとで
はあるものの、確信していたものがあったからだ。
 それは謙虚さだ。或いは少々歪なまでの自己評価の低さとでも言うべきか。
 ──皇子(かれ)は、優し過ぎるのである。それも「貴族」にあらざるほどの。
 彼にとって格式や面子を重んじるといった貴族的な性質は皆無と言っていいほどであり、
代わりに備えているのは儚くも繊細な“皆と同じ視線”なのだと。
 アウルベルツに帰還したことで“結社”から狙われる──様々なリスクをもたらす、その
弁明以上に、彼という人柄が今回の件で強く自責の念を抱いたのだろうとは想像するに難く
なかったのである。……尤も、周囲で彼を支える者達は、そんな優しさも計算に入れた上で
今回の記者会見を用意した──噴出するであろう自分達への非難をかわしたいと目論んだの
かもしれないが。
 会見の最初の内は、皇子同席の中の謝罪・弁明の場となっていた。
『今後とも再発防止に努めます』という常套句を多用した、しかし記者達にも政治的立場に
ある者達にも慣れきった言の葉。
 だからこそ、記者達は一度忘れかけてしまっていたのである。
「イセルナ団長」
 ややあって、代表して謝罪の弁を述べ終えたアウルベ伯からイセルナへとマイクが手渡さ
れていた。きゅっと握り直し感度を確かめ、彼女は一度深呼吸をしてから、語り出す。
「……今回は皆さんへの謝罪に加え、あるお知らせを用意してきました。今後の私達クラン
の方針に関してです」
 記者達はにわかにざわめいた。
 来た。送られてきた書面にあった、核心に触れられようとしている……。
「今日まで、私はブルートバードの代表として冒険者を続けてきました。でもそれ以上に、
私は自分の下に集ってくれた団員達を“家族”だと思って接してきたつもりです。そしてそ
の思いは、ジークやアルス君──両皇子とて変わることはないと思っています」
 記者達は少し怪訝な表情をみせた。
 公から私へ。はたと語られる言葉の毛色が変わり始めている。
 だがイセルナは終始真面目に語っているのは明らかで、面々も──特にアルスやエトナは
申し訳ないとでも言いたげに苦笑を零し──ここ一番と言わんばかりに唇を結ぶ。
「お二人の在籍は、全くの偶然でした。ジーク皇子がまだ自身の出自を知らない頃、私達と
出会い、のちにアルス皇子もまた兄を頼ってこの街のアカデミーに入学を果たした……その
辺りの事情は皆さんも多かれ少なかれ取材などで知りえている事とは思われますが」
「今まで俺達はあくまで“仲間”の為に戦ってきたつもりだ。なのにこうも話がデカくやや
こしくなってるのは、実はその相手が“結社”だったからに他ならない。そこん所をあんた
達には理解しておいて貰いたいんだ」
 イセルナの後を引き継ぎ、ダンが言葉を続ける。
 記者達の怪訝はまた一層濃くなった。
 開き直りか? いや、それにしては彼らから感じ取れる雰囲気には違和感がある……。
「ですが、敵が──仲間(かぞく)を付け狙う者達が強大であることは、事実です」
 再びイセルナが断言した。記者達も誰からともなく頷く。
 立場はどうあれ、かの“結社”は長らく世界最大級の不穏分子であることに相違はない。
「だからこそ、私達はもっと強く大きくならなければならない。大切な人達を守り抜く為に
も、人々の安心と安全の為にも。そう私達は今回の一件で意見の一致をみました」
 再びイセルナは語る途中で、そっと静かに深く息をついた。
 ピンと、前兆のような緊迫感が場を包んでいくのが分かる。
「……皆さんに大切なお知らせがあるというのは他でもありません。私達クラン・ブルート
バードは、今回の件を経て大規模に新たな団員(なかま)を募ろうと思います」
「ジークとアルス、レノヴィン兄弟を護る剣に盾になってくれる同志を広く募集する。日程
などは調整中だが近い内に選考会を開く予定だ。あんた達マスコミには、この情報を出来る
だけたくさんの冒険者達に発信して欲しい」
 拒む理由などなかった。記者達はざわめく。──間違いなく、それは話題性抜群のトップ
ニュースに化ける発言だった。
 皇国(トナン)内乱の終息に関わり、皇子警護の任に就いている冒険者クランの発表。大
規模な戦力増強の報せ。
 映像機が一斉にイセルナとダンに向けられ、写姿器のストロボが激しく焚かれた。
 眩しさがにわかに会場に満ちていく。騒然となり始めた場を、執政館のスタッフらが慌て
て宥め始めている。
「皆さん静粛に! それでは質疑応答を始めます。時間はたっぷり設けてありますので順に
挙手をお願いします!」
 司会役が大きめの声量で言い、会見は次の段階に移った。
 その日、会場でひっきりなしに記者達からの質問が相次いだことは言うまでもない。


 Tale-32.風集う街、仲間(とも)募る街

 頭の上から雨のように水量が落ちてくる。
 蛇口を捻って調節してやると、裸体を伝う温度はようやくほんのりと熱を帯び始めた。
 アウルベルツの一角にある教会。リカルド率いる『史の騎士団』の一個小隊はここを当面
の滞在先としていた。
 時刻はまだ夜も明けきらない明朝。リカルドは眠気覚ましも兼ね、一人風呂場でシャワー
を浴びている。
「……」
 ぬるま湯が肌を伝い落ちるのを感じながら、リカルドはスッと上げていた顎を引き、黙し
て俯き加減になった。
 濡れた体表面。そこには──背中を中心にびっしりと刺青が彫られていた。
 それもただの刺青ではない。見る者が見れば、すぐにそれらが身体中の至る所に刻まれた
呪文(ルーン)の群れであると知れる。
 これこそが、彼の力の秘密だった。
 調刻霊装(アクセリオ)──本来は時の流れに干渉し、自身の速さを何倍にも高めること
の出来る高位の刻魔導具である。
 しかしリカルドは、その術式群を道具にではなく己の身体に刻んでいた。
 故に、彼の操る刻魔導は限りなくノンウェイト──無詠唱で発動が出来る。魔導具という
詠唱省略の特性に加え、発動媒体が自分自身なため、マナ注入のプロセスすらも大幅に短縮
が可能だからだ。
 しかしそんな強い力は、同時に彼にとって大きなリスクでもある。
 元より魔導具を道具(ツール)としているのは、魔導の力を全てヒトの身で受けることを
避けるという目的もある。
 要は“器”の問題なのだ。
 ヒトの身体は一朝一夕で変えられるものではないが、モノならばより高度に練磨した代物
を媒体にすればいい。
 にも拘わらず、彼はそのリスクを背負う選択をしている。
 言い換えれば、彼はそんなリスクを負ってでも力を得なければならなかったのだ。
(兄貴……)
 記憶が再生される。リカルドの脳裏には、夜の病院でダン・マーフィに“結社”に関する
推測を語る兄ハロルドの姿が映っていた。
 昔から、あまり感情を表に出さない──しかし優秀な兄ではあった。
 しかしそんな兄が、両親も誇りとしていた兄が、あの日突然聖都(クロスティア)を出て
行くと言い出した。
 勿論、両親は止めた。教団関係者というステータスを捨てるなどとんでもないと。
 だが兄は聞く耳を持たなかった。レナちゃん──成り行きから引き取った養女を連れ、彼
はそのまま一族(じぶんたち)と半ば絶縁する形で出奔してしまったのだ。
 あれから……十年。
 自分達は随分と変わった。
 次代の担い手を失った両親は親戚は、大いに戸惑い怒り狂った。
 そしてそんな時になって、ようやく自分は何故兄があそこまで教団から離れることに拘っ
たのか分かったような気がした。
『なぁ、リカルド。私達の祈りは……本当に人々の助けになっているのだろうか?』
 いつだったか、珍しく兄はそんな事を自分の隣で呟いていたっけ。
 その時は「神官がそれ言っちゃあ駄目だろ」と苦笑して受け流していたが、もしかしなく
とも、兄は既にあの頃から教団という組織に疑問を持っていたのかもしれない。
 ──教団は人々の救いの為ではなく、自分達の利益の為の組織に為り下がっている。
 きっと、そういうことを言いたかったんだと思う。
 皮肉にも兄という存在が欠けた事で、自分は気付かされた。
 両親や親類は兄を誇っていたのではない。ただ教団司祭の一族というステータスに酔って
いただけなのだ。
 だが……それが分かったとして、兄の“穴”は放置できなかった。
 やがて後継に弟である自分が、半ば強制的に選ばれ、今ここにいる。
 教団本部直属アーティファクト保護機関・史の騎士団の部隊長として。
 因果なものだなと、自分でも思う。
「隊長」
 そうしていると、はたと扉の外から隊士の声が聞こえてきた。
「……どうした?」
 リカルドは遠くの記憶に足を伸ばしていた意識を現実に手繰り寄せ、キュッと蛇口を締め
てシャワーを一旦止めると、声色も心身も改めて引き締めて言う。
「本部より通信が入っております。教皇様直々のようですので、謁見の準備を」
「分かった。すぐに行く」

 手早く濡れた身体を拭って黒法衣の制服に袖を通すと、リカルドは部下達と共に教会内の
一室に足を運んだ。
 教会の人間も広義には教団の傘下にあるとはいえ、部外者だ。
 既に彼らは部下達によって別室へと人払いされている。
『入浴中でしたか。少々間が悪かったでしょうか』
「いえ。ただの眠気覚ましに浴びていただけです。お気遣いなく」
 その部屋の中央には、ほうっと魔導の光球が浮かんでいた。
 遠視の魔導。そこにストリームを繋いで通信の機能も付け加えてある。原理的には導話と
同じだ。
 光球の映像には、美麗な装飾が施された玉座に座る、鳥翼族(ウィング・レイス)の女性
が映っている。
 エイテル・フォン・ティアナ三世。現在のクリシェンヌ教団のトップ──教皇である。
 純白の法衣と静かにアクセントを加える金の刺繍。ふんわりとした亜麻色の長髪と大きな
コウノトリ系の翼。齢はまだ三十にも満たないながら、五年前新たな教皇に就任したうら若
きリーダーだ。
 開口一番、エイテルはそう穏やかに切り出していた。
 しかしリカルドは部下と共に片膝をつき、頭を垂れた最敬礼を崩さず応えるのみだ。
 映像の向こうには教皇の取り巻き──年季の入った枢機卿達の姿もある。断じて和やかな
談笑をしている場合ではないし、そんな余裕も端から存在しない。
『報告は受け取っています。予想はしていましたが、本当に刺客が放たれるとは……』
 そんな内心を知ってか知らずか、それでもエイテルの声色は終始穏やかだった。リカルド
の寡黙さに心持ち居住まいを正すと、彼女はごく自然に話題を本筋へと戻していく。
『そして随分と勝手な真似をしてくれたそうだな?』
『報告では、君自身の手で“結社”の一人を撃ち殺したとある』
 控えめにだがはっきりと、言葉を継いでそう苦言を呈してきたのは枢機卿達だった。
 とはいえ、リカルドにとっては想定の範囲である。彼は頭を下げたまま、
「はい。アルス皇子の──護皇六華の手掛かりを失う訳にはいきませんでしたので」
 予め用意していた返答を紡ぐ。
『それは報告書で読んだ。分かっているのか? 君達は我々教団の──』
『およしなさい。彼の判断は間違ってはいませんよ』
 枢機卿の一人が苦々しい表情(かお)と声色で追求しようとした。だがその言葉を、他な
らぬエイテルが制止する。
 ピタッと止む声。そしてじりっと小さく頭を垂れて引き下がる彼を横目に認めながら、彼
女は若干トーンを落とし気味に続ける。
『……任命時に話した通り、昨今の“結社”の動きは看過できないものがあります。もし彼
らの目的が単に政治闘争であれば、我々も中立の立場を変えなかったでしょう』
 はい。リカルドは小さく呟いていた。
 そもそも教団はその歴史が長く、故に総じて保守的である。
 これまで多くの国際的懸案が現れても、組織としての教団はあくまで“博愛の精神”で以
って「遺憾の意」を示し、結局は傍観者であることが殆どだったと言っていい。
 だが今回、こうして自分達神官騎士が派遣された──教団が事態の介入に舵を切り始めた
のには相応の理由がある。
『聖女様は仰いました。真実を集め、災いに備えよと。祈りとは閉じるのではなく拓く為の
ものだと。……私達は知らなければなりません。聖女様の意図した“真実”を知った上で、
人々の安寧に資するのが我々の存在意義なのですから』
 神に委ねよ、そう言わなかったことこそが聖女(かのじょ)の真骨頂なのだとリカルドは
思っていた。
 おそらく彼女は当時から知っていたのだろう。
 神々──神格種(ヘヴンズ)達もまた、セカイの枠に囚われたに過ぎない“不完全な者”
であることを。だからこそ彼らに頼るばかりでなく、己の眼で足で前へ進めと云ったのだ。
 天上層・地上層・地底層──三界間の往来が一般的になったのは大戦よりずっと後の事だ
から、我らが開祖は相当な先見の眼の持ち主だった筈だ。全くもって恐れ入る。
『楽園(エデン)の眼は“世界を在るべき姿に戻す”ことを標榜しています。それに加え、
トナンでの一件を始めとして聖浄器を──世界中のアーティファクトを強奪している……。
もしかしたら、彼らは何か我々の知らない“真実”を知っているのかもしれません』
「……」
 そう、焦りだ。
 教団を──その只中にいる権威を借る者達を駆り立てるのは、出し抜かれることへの惧れ
なのである。
 表向きはアーティファクトの保護や歴史研究と銘打っているが、実際の所は組織の威信の
ためだ。成り行きとはいえ、神官騎士としてのキャリアを積む中でこの機関に配属されるよ
うになって、いつか兄が呟いていたことは当たっていたのだと今では思っている。
『その為にも、今クラン・ブルートバード──レノヴィン兄弟との接点は何としても維持し
なさい。彼らは間違いなく、今日最も“結社”や聖女様の憂いた何かに近い者達です。そし
てまた一歩、彼らは大きく動き出そうとしています』
「先日の新団員募集の件ですね」
『ええ。今回通信を繋いだのは他でもありません。──教皇エイテル・フォン・ティアナが
命じます。神官騎士リカルド・エルリッシュ以下小隊は今後、クラン・ブルートバードと共
闘関係を結びなさい。彼らに力を貸しながら、救いの為の“真実”を集めるのです』
 リカルドは思わずちらと顔を上げていた。
 最初は護皇六華を回収すればよかった筈だが、知らぬ間に随分と大きな役回りを押し付け
られたらしい。
 命じるエイテルの反面、枢機卿達の表情は浮かない様子だった。
 当然だろう。これは最早中立ではない。
 何より自分は、教団にとって“裏切り者”の弟なのだから。
(いや……だからこそ、か……)
 しかしふと思い直して静かに眉を顰める。
 見方さえ変えれば、ブルートバード──兄との接点を確保するのに自分ほど態の良い駒は
いない。少なくとも教皇自身にとっては織り込み済の人選だった訳だ。
『宜しいですね? 件の兄弟とその周囲は今後も様々な変化があるでしょう。報告はこまめ
に、怠らないように』
 ……いいだろう。引き受けてやろうではないか。
 祈りだけでは救われない。力だけでも、きっと救えない。
 どんなものかは知らないが、突きつけてやろう。求めて止まぬ“真実”とやらを。
 元より自分は──遊び人だった時期もあり──それほど信心を持ち合わせてはいない。委
ね過ぎないことは、両親・親類の背中を横顔を観て学んできたつもりだ。
「……はい。確かに承りました」
 再び顎を引いて俯き加減に。片膝をついたままの最敬礼で。
 部下達と共に、リカルドはこの組織の長らへ深々と恭順のポーズを取ってみせていた。

 その日は講義スケジュールが半ドンになっていた。
 しかしこの時期──定期試験も近い空き時間を漫然と過ごす訳にはいかない。
 アルスは講義を消化すると、すぐその足で宿舎の自室に帰り、じっと机に向かっていた。
 勉強ならば図書館でもできる。実際そういう学院生らも少なからずいる。
 しかし……アルスはそこに平然と混ざれるほど図太くはなかった。
 どれだけ一介の学生であろうとしても、周囲は自分をトナン皇国第二皇子─先の“結社”
襲撃の遠因としてみてくる。
 そんな視線に、負い目に晒されながら試験勉強に励むというのは……無理があった。
 同行するリンファに「皆がいる方が落ち着きますから」と言って帰って来たものの、静か
に頷いてくれた彼女自身は、もしかしなくても気付いているかもしれない。
 ポーカーフェイスの下手な皇子とは。
 我ながら情けないような、暗澹とした気分がねっとりと胸奥の表面をなぞっていくような
感触を覚える。
(……ああ、駄目だ駄目だ。集中しなきゃ……。申し訳が立たないよ……)

「あっ。それってもしかして猫のねーちゃんの……?」
 時はミアに解毒剤が投与された後日に遡る。
 昼休み。アルス達はルイスとフィデロ、いつも仲良しグループでテーブルを囲み、昼食を
摂ろうとしていた。
 鞄から取り出し、包みを開いた弁当箱。
 そんなアルスを見て、フィデロが心持ち嬉しそうな表情(かお)でこちらを見てくる。
「うん。そうだよ。ミアさんが作ってくれた──いつものお昼ごはん」
 アルスがはにかんで答えると、彼の喜色がより明るくなったようにみえた。隣席のルイス
も、既製品のパスタをくるくるとフォークに巻きながら小さく頷いている。
「そっか。退院したんだよね、彼女」
「うん。ついこの前にね。まだリハビリはしているみたいだけど……」
 久々の“お袋の味”に味覚が喜んでいるのを感じつつ、アルスは苦笑交じりで言った。
 キースが調合してくれた解毒剤は効果覿面だった。
 目を覚ましたミアはその後順調に回復し、今ではホームに戻ってこうしてまた弁当を作っ
てくれたり、他の団員達(みんな)と交替で酒場の当番もこなしている。
「皆のおかげだよ。……ありがとう」
「はは、いいって事よ」「ああ。中々に興味深い経験になった」
 申し訳なくも、良い仲間を持ったと思う。負い目という火傷の中で、フッと見える清々し
い水場であるような。アルスは穏やかに笑い、改めて礼を述べる。
 友人達に、エトナ(あいぼう)に。
「……」
 そして自分達の輪から少し外の木陰に背を預けたまま、もきゅもきゅと握り飯を頬張って
いるリンファに。
 どうせなら一緒に食べればいいのに……。そうは思っているし、実際何度か誘ってみてい
るのだが、彼女は「仕事中ですから」とやんわりと断ってくるのが常だった。
 おそらくこれが公私の区別、彼女なりのけじめという奴なのだろう。
 そういえば、前任者(シフォンさん)も似たようなスタンスだったなと思い返す。
「む──」
 そんな時だ。ふとアルス達の方へ近付いてくる気配があった。
 振り向いてみれば、シンシアだった。見た所いつものお付き二人は別行動中らしい。
 彼女は密かに眉間に皺を寄せ、アルス──が広げている弁当を見遣っていた。同時にサッ
と腰の方に何かを隠してしまったのだが、当のアルスはそれに気付かず笑みを返している。
「シンシアさん。そちらもお昼ですか?」
「え、えぇ……まぁ、そうですわ」
 じりっと、シンシアは近付きかけて止まり、何処となく緊張した様子をみせる。
 アルスは一瞬頭に疑問符を浮かべながらも「どうぞ?」と空いた席に彼女を促した。コク
と頷き、シンシアはややあって席に着く。配置としてはアルスとフィデロ、ルイスと彼女が
それぞれに向き合う格好だ。
 改めて談笑をしながら、四人(と一体)は昼食の一時を過ごした。
 しかし、アルスとしては知らぬ仲ではない──先日の件に関してはミアの解毒剤に一助を
くれた恩人であるのに、当のシンシアが一人ぎくしゃくしているのが気になって……。
「……シンシアさん?」
「は、はいっ!?」
「大丈夫、ですか? すみません。もしかして迷惑だったんじゃ……」
「そ、そんな事はありませんわ! だ、大丈夫ですから!」
「……。は、はい」
 だから心配で声を掛けたのに、彼女はそんな妙に上ずった大きな声量。
 周囲の学院生らがちらっとこちらを見てきた。ルイスやエトナが彼らに「気にしないで」
とアピールするが、二人とも向け直した──そのシンシアへの視線には何処か妙というか、
ニヤニヤとした薄ら笑いがある。
(……?)
 シンシアはやや駆け足で自身の弁当にフォークを伸ばしていた。
 そういえば彼女って弁当派だっけ? アルスはそんな疑問を一瞬抱いたが、すぐに霧散し
思考は別の方向へと流れてゆく。
 ミアが目覚めて皆で安堵した後、アルスは逸早くキースの所──エイルフィード家別邸を
訪ねた。勿論、仲間に救いの手を差し伸べてくれた彼らに礼を述べる為だ。
『と、当然の事をしたまでですわ。私だってあの場にいたのに、負傷者を出すような不手際
をしたんですもの……負い目があったのは、貴方だけではありませんのよ?』
『まぁそういう事です。お気になさらず』
『ははは、うむ。良きかな良きかな。これで改めて、シンシア様もアプ──』
『わぁぁぁッ!? おバカっ、こんな所で言うんじゃありません!』
 相変わらず騒がしいというか、でも嫌いじゃない温かさというか。
 彼女もまた良き従者(なかま)を持っているなぁと、アルスは思ったものだ。
(何にしても、一段落かな……)
 もきゅもきゅと、焼き魚のかけらを白米に乗せてから頬張る。
 一難去ってまた一難なのかもしれないが、このまま自分が折れてしまってはいけないのだ
ろうと思う。夜の病室でダンが語っていた言葉を思い出しつつ、アルスはもっと皇子として
魔導師の卵として頑張らなければと思う。
「ふむ……。ま、何にしても」
 そんな内心の思考を予想していたのか、してないのか。
「猫のねーちゃんも元気になったし、これでアルスも試験勉強に集中できるって訳だ」
 ふとフィデロがそう言葉を切り出した。鶏肉(チキン)の骨をゴリゴリと噛み、白い歯を
みせて笑う。
「僕らにとっては入学試験以来、初めての試験だからね。……期待してるよ、主席君?」
「あ、はは……」
 それは今に始まった事ではない。友人達との間では使い古されたある種のジョークだ。
「……」
 だが、そんなやり取りをじっと見つめていた面子がいた。他ならぬシンシアである。
 もぐもぐと。彼女は暫く咀嚼をしながらアルス達の談笑を傍観していたのだが、
「そうね。もうあれから三ヶ月が経とうとしてるのよね……」
「? ええ。四半期ごとですし」
「……決めた。アルス君、貴方今度の試験で私と勝負しなさい」
 はたっと口の中身を飲み込んでフォークを置くと、いきなりそう言ってびしりと指を突き
つけてくる。
「別に、構いませんけど……」
「おいおい。まだ根に持ってるのか? アリーナの模擬戦で決着付けたんじゃねぇのかよ」
「そうですけど……。でもそれとこれとは、別なのですわ」
 フィデロが眉間に皺を寄せて、しかしむしろ呆れたような表情で彼女を見遣っていた。
 一方でルイスは何かを見出していたようで、先と同じく片肘をついて頬を手に乗せ、何や
らニヤニヤと傍観の構え。
 そんな中で、シンシアは一度ごくりと息を呑むと、更にアルスに向かって宣言する。
「履修科目が違いますから、勝負は平均点にしましょう。そ、それで……もし私が勝てば、
ひ、一つだけ言う事を聞いて貰いますっ」
「勝てばって……。別にシンシアさんの頼みの一つや二つ──」
「まぁまぁ、いいじゃない。何事も競争相手がいる方が燃えるしさ?」
「……? うん……」
 アルスは言いかけたが、他ならぬ相棒の──何故かニヤニヤした横顔と割り込みに押され
て受諾する格好になる。
 妙なことになった。まさかエトナも、未だ彼女にしこりを残しているのだろうか?
 それにしては、彼女の様子はどうにも……。
「き、決まりですわね? 約束ですわよ?」
「あ……はい。あの、大丈夫ですか? 何だか、さっきから顔が赤──」
「よーし、そうと決まればしっかり準備しなきゃ。主席の実力、見せてあげよう?」
「う、うん……。勿論手を抜くつもりなんてないけど……」
 フィデロと共に頭に疑問符を。しかしエトナとルイスはニヤニヤとほくそ笑み、シンシア
は何を考えているのか沸騰しそうな赤面で。
 アルスはなし崩し的に、また一つ妙なイベントを背負う事になって──。

(ん……?)
 眼で穴を開けるように、魔導書を何度も読み込んではノートにペンを走らせること暫し。
 ふと、アルスの耳に何やら物音が聞こえてきた。
 どうやら部屋の外、廊下に誰かが訪ねてきたようだ。外で見張りをしている筈のリンファ
や団員が「勉強中だよ」とその訪問者に話しているのがぼやっと聞こえる。
「アルス……?」
 ややあって、扉をノックしてひょこと顔を出してきたのはミアだった。アルスはエトナと
共に振り返ってペンを置き、殆ど習慣的な反応で仲間への微笑を返す。
「あ、ミアさん。どうしたんですか?」
「お昼出来たから、来てって。……勉強の区切りが付いた時でもいいけど」
「大丈夫ですよ。分かりました、すぐ行きます」
 アルスが応えると、ミアは少しもじっとドアの影で手を揉んでから去って行った。
 気のせいかもしれないが、病院で目を覚ました辺りから何処か雰囲気が変わったような気
がする。とはいえ、相変わらず言葉少なげでクールな少女(ひと)なのだが。
「んんっ……。行こっか? お昼休憩って事で」
「そだねー。気分転換もしないと頭に入るものも入らないし」
 仮に教材を片付けて部屋を出て、リンファ達と共に宿舎を出る。
 食堂──もといホーム内の酒場『蒼染の鳥』には既に団員達が集まり、思い思いに席に着
いて昼食を取り始めていた。
 時間帯もあって、入口側のスペースにはそこそこ一般客が来ているようだ。
 だが、自分という人間が滞在していることもあり、以前のように自由気ままとは必ずしも
言えない。カウンターを境界線に店内は分厚い間仕切りが設置され、自分達クランの関係者
は基本的にその奥側、宿舎に近い裏口側のスペースで食事を摂るようになっていた。
「よう。来たかアルス」
「試験勉強はいいの? そっちの都合でいいんだよ?」
「大丈夫です。それに、あんまり根を詰めると肝心の本番前にダウンしちゃいますし」
 アルスは宙に浮かんでいるエトナを伴い、クランの仲間達とそんなやり取りを交わしなが
らカウンターに顔を出した。中では名義上の店主であるハロルドと娘のレナ、そして今日が
当番の団員数名が忙しなく動き回っている。
「はい。お待ちどう」
「ありがとうございます」
 アルスは早速自分の分の昼食をトレイごと受け取ると、適当な席に着いて手を合わせ、他
の団員達に交じって食べ始めた。
「……勉強、捗ってるか?」
「はい。お陰さまで」
「そっか。ならいいんだけどさ……。ほら、この前の会見からうちもドタバタしてるだろ」
「ええ……」
 そんな中で、同席や周囲の団員達がぽつぽつと話し掛けてくる。
 この前の、と言えばあの新団員募集の記者会見のことだ。予定ではアウルベ伯とクラン代
表のみが顔を出して一連の襲撃事件の区切りと謝罪を述べるものだったが、アルスは敢えて
無理を言ってあの場に加えてさせて貰っていた。
『ですが……。アルス様が、当の皇子が安易に頭を下げるのは如何と存じます。街の人々だ
けではなく世界中の諸侯がアルス様を見ているのですよ? 解釈によっては“結社”に敗北
したとも取られかねません……』
 イヨら侍従衆らはそう難色を示したが、それでもとアルスは押し通した。
 面子がどうこうじゃない。誠意の問題だ。
 アルスはあの時はっきりと自分の中の軸を見出していた。
 過分な負い目は時折言われることではあるが、それでも迷惑を掛けたことは事実だ。それ
らを無視して隠れるような真似は……自分の魂が許さなかった。
「こちらこそすみません。僕の所為でまた一つ、ご迷惑をお掛けして……」
「いやいや! いいんだって」
「アルスを護るってのが俺達の仕事だからな。表向きにも本音でも」
「そうさ。お前はどーんと構えてればいい。肝心がブレるな?」
 言いながら、大盛りの炒飯を頬張っていたのはダンだった。
 見れば彼の席にはシフォンやイセルナもいる。何より目を惹いたのは、その机上にどんと
積み上げられた書類の山だ。
「……はい。気を付けます」
「それって~、やっぱり……?」
「ええ。うちのクランに応募してきている冒険者達の履歴書よ」
 ペラリと一枚を捲ってイセルナがこちらに紙面を見せてくる。確かにそこには顔写真と、
細々と経歴などの必要事項が書かれているようだ。
「選考会を開く前に一通り目を通して篩を掛けているんだよ。まさか全員が全員をうちに迎
える訳にはいかないしね」
「ま、これもまたほんの一部なんだよな……。おまけに今日もまた追加で増えてたし……」
 ダンがそうぼやくように遠くを見る。
 確かにこの量が何セットもとは無理もないなと、アルスは苦笑するしかなかった。
「……でも恐縮です。僕らの為にそんなにたくさんの冒険者さんが応募してくるなんて」
「だよねー。敵はあの“結社”だよ? 命知らずというか何というか……」
「なぁに、殺到することは多かれ少なかれ予想はしていたさ」
 ぐいっと茶を飲み干し、ダンは言った。その声色は少々斜に構えている気配がある。
「要するに功名心なのさ。確かに敵は厄介極まりない連中だが、まさか自分がサシでやり合
うなんて思ってねぇんだろう。それ以上にトナン皇子の護衛役っていう看板に目が眩んでる
輩が大半なんだろうぜ」
「だからこそ、しっかり見極めなければならないな。アルス様をお守りする事よりも野心に
忠実というのは、裏を返せばそれだけ内部から崩れ易くなる間隙とも言える」
「……そうね。募っておいて始めから疑って掛かるのは、正直いい気はしないけど……」
 アルスの斜め向かいで、自身の料理を平らげたリンファが茶を啜りつつ言う。
 それは間違いなくこの場──クラン全体の抱く危惧だ。団長(イセルナ)こそそう静かに
応えているが、この退くに退けない組織強化には皆相応の不安も抱えているのだろう。
「……すみません」
「だ~か~ら、そうホイホイ謝るなって。大丈夫、俺達が選ぶんだ。きっともっと強くて居
心地のいい場所にしてみせるからよ?」
「……。はい」
 ダンがそう笑い──強がってみせ、アルスがエトナが苦笑する。
 そっとミアがやって来て茶のお代わりを持って来てくれ、ありがとうございますと受け取
ると改めて喉を潤し直す。
「選考会当日は、面接の後に私達が分担して各戦闘スタイル別に実技を観るつもりよ。だか
らその間何日かは、どうしてもこっちが手薄になっちゃうけれど……」
「それなら心配ないさ。アルス様もおられればいい。私達がお守りする」
「……そうね。お願いするわ」
 試験勉強でつい視界が狭まりがちだが、皆も一生懸命頑張っている。
(……僕だって、皆の為に頑張らないと……)
 間仕切りの向こう、アウツベルツの街並みになだれ込み始めている野心(ぼうけんしゃ)
達の気配に想像力を馳せながら、アルスは静かに眉根を寄せると湯のみの中に浮かぶ茶柱を
見つめていた。


 風都、というネーミングはなるほど、的を射ているなとジークは思った。
 この街に近付けば近付くほど──聞こえてくるのだ。
 四方八方、あちこちから聴覚に、全身の感覚にじわじわと届き響いてくる風の音……のよ
うなもの。
 サフレやリュカの講釈によると、これらは風ではなく魔流(ストリーム)だという。大量
のマナの流れが、本来知覚できない者にすらその存在を教えているのである。
 顕界(ミドガルド)の中央域に位置し、世界中のマナを大流として一手に集束させる巨大
ストリーム──“世界樹(ユグドラシィル)”に最も近い街。
 そこが此処、風都エギルフィアである。

(……暇だな)
 一見質素ながらその実、ふっくらと自分を受け止めてくるベッドに身を任せて、ジークは
ぼんやりと仰向けに寝転がっていた。
 ヴァハロ達“結社”との交戦に割って入ってきた、七星が一人“万装”のセロ。
 曰く『君達を保護させて貰う』と。そう言って自分達をここ風都まで秘密裏に連れてきて
既に三日目になろうとしている。
 トナン皇子をあのまま殺されてはならない──七星連合(レギオン)がそう考えたのは、
まぁ分からなくもない。正直言って皇子だから、という理由は解せない気もするが。
 それよりも。
 ずっと気になっているのは、今のこの待遇だ。
 保護、というのは方便だとジークは思っていた。これは……実質の「軟禁」なのだ。
 風都に着いた時も、そのまま馬車ごとこの何処かもよく分からない屋敷に搬入させられた
のも、向こうの一方的な独断専行で行われている。
 表向きはゲストルームだと言っていたが、実際は違う。
 感覚を集中させて気配を探れば、四六時中外に見張りの兵士らがいると分かる。事実、外
に出てみようと何度か部屋の扉をくぐったのだが、彼らに「ご自愛下さい」と表面だけの慇
懃さで押し返されている。
 ……確かに、自分がこの街に居ると市民に漏れてしまえば混乱するかもしれないが。だと
してももっとやり様はあったろうに。
 うとうとと、マルタが日光浴よろしく窓辺に座ったまま転寝をしつつある。
(せめて、もっと自由に観光ができる状態で来たかったな……)
 そもそもの旅の目的、自身の出自が故に叶わない事だと分かってはいても、ジークは仲間
達をまた一つ厄介事に巻き込んでしまったことを密かに悔やんでいた。
「あっ。マスター、リュカさん」
 そんな最中だった。ふとマルタが顔を上げて入口の方を見遣るのに倣うと、ドアを開けて
サフレとリュカが戻ってくるのが見えた。
「今回は随分長かったな。やっぱ出れねぇのか?」
「ああ。吹き抜けから見下ろしてみたが、階下にも見張りが巡回しているようだ」
「そっか……。ったく、いつまで閉じ込めとくつもりだよ……」
「でも、収穫がなかった訳じゃないのよ?」
 何度目かの脱出へのトライ。
 それ自体は功を奏しなかったようだが、付け加えるリュカは妙に得意げだった。
 言いながら取り出してみせたのは、彼女の携行端末。確かここに来た時、セロらによって
取り上げられていた筈だが……。
「返して貰えたんですね。これで外の情報も得られます」
「だな。……でも、どうやって? まさか忍び込んで──」
「君と一緒にしないでくれ。ちゃんと“オトナな方法”を使ったまでさ」
 問うたジークに、サフレは苦笑いをして答えた。片手の裾をもう片方の手で撫でてみせ、
そんな気取った言葉を口にする。
 ……ああ、袖の下(わいろ)か。
 目を瞬いてから、理解する。だがジークの表情は決して晴れたものではなかった。
 実際、そうでもして崩していかないと取り返せないままだったかもしれない。
 だが正直な所、そういった手段を取らなければならないというのは……どうにもこちらが
“落ちた”ような気がして。
「もう……。気持ちは分かるけどそんな表情(かお)しないの。それよりもほら、観て?」
 そんな反応を、内心を長い付き合いから悟ったのか。
 サフレが後ろ手でドアを閉める横で、リュカが言いながら端末をサッと操作した。
 そして画面に映し出されたのは──映像機の再放送と思われる、アルス達が記者会見を開
いた際の姿だった。
『僕からもお詫びを申し上げます。今回、僕の所為で多くの方々に迷惑をお掛けしました。
本当に……すみません』
『……皆さんに大切なお知らせがあるというのは他でもありません。私達クラン・ブルート
バードは、今回の件を経て、大規模に新たな団員(なかま)を募ろうと思います』
『ジークとアルス、レノヴィン兄弟を護る剣に盾になってくれる同志を広く募集する。日程
などは調整中だが近い内に選考会を開く予定だ。あんた達マスコミには、この情報を出来る
だけたくさんの冒険者達に発信して欲しい』
 ジークとマルタは、その映像に目を丸くしてリュカをサフレを見返した。
 二人も先に観たようで、黙したままコクリと深く頷きを返してくる。
「この前の執政館襲撃を受けてクランの増強をするみたい。導信網(マギネット)で検索を
掛けてみたけど、既にあちこちで参加表明している他のクランもいるわ」
「……。ブルートバードが……」
 連絡手段の確保と現状の把握。
 リュカから話を聞かされ、流されているメディアの映像を見て、ジークは深く深く眉間に
皺を寄せると唇を強く結んでいた。
 また、迷惑を掛けている──。
 急激に胸奥が刺々しく痛むのを感じた。
 結社(れんちゅう)を引き付ける筈だったのに、先に向こうに被害を出してしまった。更
にその痛手を、弟は仲間達は敢えて引き受けながら、尚も立ち向かおうとしている。
(すまねぇ……皆……)
 地図上では、世界樹(ユグドラシィル)を挟んでこの風都からひたすら北へ向っていけば
大都(バベルロート)に突き当たる。更にそこから北へ霊海を抜ければ北方──皆が奮闘し
ようとしているあの街に辿り着く。
 大まかにだが、皇国(トナン)への遠征を含め、この地上を半周した計算になる。
 だがそんな数字的な事実よりも、ジークはその歩んできた距離の“遠さ”を一層強く感じ
てしまい、ついつい陰鬱になる。
「そんなに気に病まないで。ああすると決めたのは、他ならぬイセルナさん達の意思よ?」
「全く気にするなというのはお互い無理な注文かもしれないがな……。それよりも、今僕達
が考えるべきは今後のことだろう?」
「……そう、だな」
 リュカと手の中の端末を囲んで、四人は新たに気持ちを持ち直す。
 ベットから身体を起こして胡坐をかいたままのジークは、一度目を瞑って乱される心を落
ち着けてから言った。
「とりあえず“万装”にもう一回会わない事にはどうしようもねぇな。多分、ここを押えて
るのはあいつなんだろう?」
「おそらくな。だが……正直な所、あの男は胡散臭いと思う。あの手の笑顔は腹黒いものを
隠していると相場が決まっている」
「だな。それに関しては俺も同じことを思ってた」
 陰口になるが、おそらく含んだものがあるのは相手も同じだろう。そうでもなければ、徒
らに自分達を軟禁するようなこともないだろうから。
「じゃあ、風都(エギルフィア)に連れて来られたというのは何か意図があって……?」
「少なくとも、何の考えもなしにということはないでしょうね。私達と“結社”の間に割っ
て入ってまでも成したいことがある、と考えるのが自然だけど……」
「……」
 参謀(リュカ)が、そうぶつぶつと顎に手を添えながら呟いている。
 ジークは一旦“万装”の意図を彼女に任せることにした。
 それよりも。
 今自分達が最優先で知りたいことは“結社”──に囚われた戦鬼(ちち)のことだ。
 折角彼を知る者を捉えたというのに、肝心な事は分からずじまいなのだから。
(何とか、奴らから居場所を聞き出せないものか……)
 あの竜族の男はルギス──白衣の男を捜せばいいと言っていた。これまでの断片的な情報
からしても、奴を捉えることこそが一番の近道であると考えていいだろう。

『事前に来ると分かれば、私でも防げない事はない……か』

 すると、フッと脳裏に蘇ったのは……あの僧侶・クロムだった。
 もしかしたら、あの嘆きの端で物思いを抱えていた彼なら、そう思い始めた──自身を否
と律して押し込める。心の中でぶんぶんと首を横に振る。
(いや、駄目だ。あいつは……“敵”なんだぞ……)
 仲間達は引き続き端末からニュースを観ていた。寸断された分の情報を取り戻そうと。
 ジークはそこに交じって、ぶすっと黙り込んでいた。
 ──“敵”に情を向けてはいけない。そう自分自身に言い聞かせながら。

「さて……。どういうつもりか説明して貰おうか」
 一方その頃、同じ館の一室で。
 緻密な模様をびっしりと施した絨毯を一面に敷いた、古風な調度品の並ぶその部屋で彼ら
はテーブルを挟んで向き合っていた。
「どうといいましても。先日連絡した通りですが?」
「しらばくれるな。あの文面で儂らが納得するとでも思うたか」
 一人は七星“万装”のセロ。もう一人は凄みのある眼力で彼を睨み返す老人だった。
 目深く被った、裾に文様をあしらったローブ。複雑な鍵を思わせる錆鉄色の長い杖を片手
にした、大柄で矍鑠そのものな姿。
 ミカルディオ・マ・モルモレッド。
 この風都の領主にして、衛門族(ガディア)達の頂点に立つ首長でもある人物だ。
 あくまで飄々として応じるセロに、モルモレッドの苛立つ声が飛んだ。よほど神経が図太
いか或いは大物でない限り、その眼光一つで人一人くらいは軽く射殺せそうなほどである。
 実際、彼に付き従う他のガディアが何人か、心配そうな表情を漏らしている。
 その眼には「これ以上逆撫でしないで下さい」といった懇願が含まれていたが、セロは彼
らの視線をちらと認めても全く意に介す様子はない。
「何故あの皇子(わざわい)を連れてきた!? あの者どもは以前、我らが同胞を巻き込ん
でおるのだ。今更協力など出来ぬ。面倒は、見れんぞ」
「……。でしょうね」
 帽子を触り、セロはフッ笑った。
 それも含めて既に調査済みのことだ。レノヴィン一行が皇国(トナン)に渡る際、郊外の
導きの塔を利用したことも、その転移の最中に“結社”の妨害に遭ったことも。
(予想通り。権威と自身を同一視したままの旧世代の人間、か……)
 そっと脱いで、テーブルの上に置く。
 濃い黒褐色の髪がばさりと流れ、含みを持つ笑みと眼に影を作る。
「僕らはただ“確保”してきただけですよ」
 ぴんと指を一本立てて、セロは言う。
 それを合図にするように、彼の部下──傘下の傭兵達がこの二人を囲う陣形を詰め、それ
となく圧迫感を加える。
「全ては彼らに出て行って貰うための処置です。南方(ここ)から、ね……」


 そのさまは、あたかも一種の祭りのようだった。
 クラン・ブルートバードの新団員選考会初日。
 会場となったアウルベルツ郊外の空き地は、今世間の注目を浴びるクランで名を上げよう
と目論む冒険者(しがんしゃ)達でごった返していた。
「はいはーい、ちゃんと受理番号順に並んで下さーい!」
「こちらは魔導師タイプの方になります。白兵タイプの方は向こうの受付から──」
「え? ああ、当日組の方ですか? では先ず面接用の書類に記入をお願いします。受理番
号の割り振りはそれからですので。ええっと、用紙は……」
 当然ながら、そんな人ごみの対応には相応の人手を要する。
 事前の応募件数の多さから、予めアウルベ伯や街の他クランにも応援を頼んで回っていた
イセルナの判断は実に正しかったといえる。
 ちなみに、既にその段階でブルートバードの傘下に加わりたいと希望した中小のクランも
いくつかあった。
 大方、長い物には巻かれろ、といった所か。
 尤もそうした要請は総じて保留され、この日の志願者の一部へと──平等を期すためにも
──編入されたのだが。

 この日、これからの数日間の為に、イセルナ達クランの面々が話し合って決めた手筈は以
下の通りである。
 先ず事前に送られてきた履歴書順に受理番号を振り、個々の経歴を掻い摘む。これがいわ
ゆる受験番号に相当する。
 次の選考会の前半日を使い、この志願者達を面接する。
 効率のために手分けこそしたが、少なくともイセルナ・ダン・ハロルド・シフォン・リン
ファの創立メンバーの必ず一人は入り、その選択眼に責任を持つようにした。
「──皆さん、お待たせしました」
 そして後半日は、いよいよ実技による選抜(ふるいがけ)に移る。
「会見映像を観た方もいるでしょうけど、初めまして。魔導師志望者担当のイセルナです」
「同じくハロルドだ。クラン内では支援部門の隊長を務めている」
 会場の一角に、魔導師タイプの冒険者達が集められていた。
 そこに姿を見せたのは、団長イセルナとハロルド。志願者達も、既にイセルナ・カートン
の名は何度も耳にしていることもあり、少なからず驚きざわついている。
 実技選考は、各人の戦闘スタイル毎にそれぞれ面々が担当する手筈になっていた。
 魔導師タイプはイセルナとハロルド、射撃タイプはシフォン、そして白兵タイプはダンと
リンファという分担だ。
「受付で説明があったと思うけれど、この実技は敷居を高くするよ。勿論、面接段階で不穏
な素性の者は弾くつもりだけどね」
 ハロルドが敢えてそう口にしたのは、牽制を込めての事だった。
 面接、という態を取っているが、実際はクランの一員に──アルスの警護を任せるに値す
る人材かを判断する場である。そう暗に匂わせる意図だ。
「イセルナ」
「ええ」「準備は出来ている。始めてくれ」
 ちらとイセルナと、彼女の肩に乗っているブルートを見遣り、ハロルドが短く呼んだ。
 二人がその視線と呼び掛けに応え、頷くと、ハロルドは傍に控えていた魔導具を装備した
団員達に合図を飛ばす。
 次の瞬間、一面短い芝の生えた地面が消えていた。
 代わりに現れたのは、真っ白でだだっ広い空間。志願者達は一様に空を仰いだが、そこに
呪文(ルーン)の羅列が延々と流れているのを見て、すぐに彼らが空間結界を張ったのだと
理解する。
「流石に呑み込みは早いみたいだね」
「それじゃあ、早速貴方達の実力を見せて貰おうかしら?」
 ハロルドがそっと経典らしき書物──魔導具なのだろうか──を取り出し、イセルナはそ
の横でスッと目を細める。
「内容はシンプルよ。これから、貴方達にはいくつかのグループに分かれて貰います。そし
てその集団単位で、私達二人に一撃を入れることができれば丸々全員が合格。逆にそれがで
きなければ、一撃を入れられた者から脱落とします」
「一班辺りの制限時間は十五小刻(スィクロ)。それまでに短期決戦で私達を落とすか、そ
れとも耐え切ることを選ぶかは君達の自由だ」
 志願者達は、またもざわついていた。戸惑い気味に互いの顔を見合わせ、ややあってその
内の若手何人かが確認するように言ってくる。
「そ、それでいいのかよ?」
「いくら何でも二対何十人はアンフェアじゃ……?」
「……阿呆が。それも含めて観られておるんじゃろうが」
 だがそんなルーキー達の戸惑いに、別の老練な風体の魔導師が哂うように言葉を重ねた。
 ゆったりとしたローブの中でぎゅっと杖を握り直し、イセルナ達に向けた視線は真剣その
ものだ。
「戦術としての魔導師はチームプレイが前提。肝となるのは個々の力量以上に、如何に互い
の能力を補完し合うかじゃ。当落が“連帯責任”なのもそうした現実を踏まえてのこと……
じゃろう?」
「……ご明察。話が早くて助かります」
 語り、試すような眼光。その眼にハロルドは反射して瞳の見えない眼鏡で見返して、僅か
に口元に弧を描いて肯定する。
 敷居を高くするとは、そういうことか。
 若手を中心に志願者達がごくりと息を呑んだ。
 それは即ち、彼女達二人が自ら実戦における敵──多くの場合魔獣──を演じてみせよう
ということになる。そして同時に、二人は自分達がある程度束になって掛かってきても平気
だという概算を弾いている訳で……。
「そういう事。それじゃあ、グループを組んで?」
 微笑んで言って、イセルナの肩に止まっていたブルートがばさりと、その蒼く大きな翼を
広げて中空に舞った。
 彼女が“蒼鳥”の異名をとる理由である、その持ち霊。
 彼はやがてその蒼い輝きを増してイセルナと融合すると、次の瞬間彼女達の全力を示す強
化形態──飛翔態へと変ずる。
「……始めましょうか。言っておくけど、手加減はしないわよ?」
 美しくも、圧倒的な力の波動。金色の魔法陣を足元に輝かせる元神官。
 見惚れるように畏怖するように、志願者達はごくりと息を呑んだ。

 見上げた空は、呪文(ルーン)の羅列が並ぶ無機質な白とだだっ広さ。
 団員達が張った空間結界の中で、射撃タイプの志願者らは暫しぼんやりとざわざと辺りを
見渡している。
「さて……。これで心置きなく撃てるね」
 面々の前に立っていたのは、シフォンと数名の団員だった。
 声を掛け、視線を向けてくる彼らに、シフォンはふっと微笑んで改めて名乗る。
「一応初めましてかな。僕はシフォン・ユーティリア。ブルートバードの中衛──遊撃部門
の隊長を務めている者です」
 志願者達の反応はまちまちだった。
 身構えつつも「ど、どうも……」とぎこちなく応答する者もいれば、何故ここにエルフが
いるんだと疑問符を浮かべている者もいる。
 それでも、シフォンは慣れているのか表情に出さないだけなのか、終始穏やかな表情を貫
くと団員達に合図を送る。その指示で、彼らは指や腕に装着した魔導具に力を込めた。
「……お?」
「何だ……あれ?」
 すると、何もなかった中空に突如として無数の光球が出現した。
 志願者達が各々に空を仰ぐ。よく観察してみれば赤と青の二種類があるようだ。更にその
数は時間を経るごとに加速度的に増えていき──やがて一旦止まる。
「では今回の実技内容を説明するよ。君達には制限時間内にあの光球を可能な限り撃ち落し
て貰う。但し狙うべきは赤の光球だけだ。青に当ててしまうと減点の対象になるよ。あと、
赤は青を襲って消滅させる性質を加えてある。要するに、君達は可能な限り青の光球を守り
ながら赤の光球を攻撃する訳だ」
 なるほど。志願者達はそれぞれ手持ちの銃器(えもの)を片手に、そうシフォンからの説
明に聞き入っていた。
 つまり、可能な限り実戦をシュミレートした内容なのだ。
 射撃タイプの戦闘要員は、如何に前列の仲間を援護するかが大きな仕事になる。青の光球
はそういった仲間、或いは救出対象であり、赤の光球は魔獣などの攻撃対象を想定している
のだろう。
「では最初のグループ分けを発表します。三十二番、四十番、四十七番……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺達は連番で応募したんだ。何で相棒と別々なんだよ?」
 そんな中で、団員らが書類の束を挟んだボードに目を落としながら場の志願者たちをいく
つかのグループに分け始めていた。すると、ふと互いに相棒らしき銃士らがその発表に割っ
て入るように口を挟んでくる。
「……それも、選考の一部だよ。実戦では必ずしも気心の知れた相手と組むとは限らない。
僕ら遊撃部門は戦列の中でも特に入れ替わり──機動力を重視される立ち位置だからね。だ
から当然、観るべきは連携よりも個々のレベルなんだ」
「な、なるほど……」
「そういうことなら……」
 その問いに、シフォンは予め予想していたと言わんばかりに滑らかに語る。
 あまりにあっさりと答えてくれたことも、既に勘付いていたベテラン勢からの半眼を向け
られつつあったこともあり、ややあって口を挟んで来た若手コンビらはすごすごと抱えた銃
身を揺らして心持ち集団の後ろに下がってしまう。
 中空では、無数に増えた赤と青の光球が蠢き始めていた。
 それぞれに光の軌跡を残しつつ、個々が不規則にすばしっこく、動く的としてのウォーム
アップを始めているかのようだった。
「さて……じゃあ始めようか。Aグループに指定された志願者は位置に着いて?」
 もしかしたら──いや、もしかしなくても、これはかなり難易度が高いのではないか?
 志願者達はそう思いつつも、シフォンの合図と共に一斉に銃口を中空へと向ける。

「……イセルナ達も始めたみたいだな」
 戦斧を肩に乗せて、ダンが別班の会場の変化を嗅ぎ取る。
 白兵タイプの志願者達は、その大柄な体躯と威圧感に心持ち寄り固まって選考開始の時を
待っているかのようだ。
「ふむ……。ではアルス様、私も行って参ります」
「はい。頑張って下さいね」
 だが面々が緊張している理由は、他にもある。
 会場内の連ねて設営されたテント。その一角の席に護衛の団員らを伴って皇子アルスが先
ほどからこちらを見ているのだ。予めダンが予見していたように、功名心を煽られた志願者
にとっては良くも悪くも強い薬となっている状態なのである。
 面々の前に立つダンが動き出したとみて、それまでアルスの傍らにいたリンファも一言を
残して彼に合流する。
 ピリピリとした緊張が、ざわめきが淀んでいた。
 そんな一同をざっと見渡してから、ダンは横に並んだリンファと共に口を開く。
「んじゃ、こっちもそろそろ始めるぜ。俺はダン。ブルートバードの副団長と戦士部門の隊
長をやっている」
「同じくリンファだ。語らずとも、もう皆には私の素性は知られていると思うが」
 志願者達はごくりと息を呑み、少しずつ心と体を実戦(たたかい)色に染めていった。
 目の前にいるのは“蒼鳥”の片腕。もう一人は、皇子アルスの護衛を担う侍従衆の重臣。
 共に口調は穏やかだったが、いざ彼らが本気を出せばどうなることやら。
「俺達の部門は文字通り、戦列の最前線で敵に斬り込む役回りだ。場合によっては──むし
ろ防御の為に自身を肉壁にすることもある」
 少なからぬ志望者達が、ちらと向こうのテント──の席に座っているアルスに横目を遣っ
ていた。彼の背後にはふよふよと翠の光を纏うエトナもこちらの様子を眺めている。
 自分達は、彼を最も至近距離で護る役目を負う……かもしれないのだ。
「だから、今回の選考内容も細かい縛りはしない。基準は単純だ。俺達二人に一撃を入れる
ことができれば合格、逆に俺達に一撃入れられたら脱落だ」
「更に私達を防ぎ、耐えることができればそれでも合格とする。攻守の両方を見せて貰うと
考えてくれ」
 再び、志願者達はざわついた。少なからぬ者が互いの顔を見合わせている。
 ダンは既に戦斧を肩から下ろしていた。リンファも腰に長太刀を差した状態でゆったりと
その場に佇んでいる。
「じゅ、順番は……?」
「ん? 言ったろ、縛りはしないって。気概のある奴から好きに掛かって来いよ」
 面々が思わず表情を歪めた。
 警戒心か、或いは自信を持って言い放たれた挑発と受け取ったのか。
「なら──」
「入れされて貰うぜ!」
「おぉぉぉッ!」
 少なくとも、その発言をゴングとみなした一部の戦士達が地面を蹴っていた。
 抜き放たれた剣や斧、槍。それら得物の切っ先が錬氣をまとって一斉に発言の主・ダンへ
と襲い掛かる。
 ──だが。
『ッ!?』
 勇んで飛び出した者達は、見た。
 ダンがにやりと笑い、瞬間的に自身のマナを一気に滾らせたのを。
「がっ……!?」
「あ、熱ッ……!」「や、焼けるぅあぁぁぁ!!」
 しかしそれだけではない。
 そのダンが纏うマナは、彼らの攻撃が触れる寸前に燃え立つ炎の如く変質していたのだ。
 分厚いオーラの壁と帯びた高い熱量。
 ある者は得物を切っ先から焼き落とされ、またある者はまともにその熱で防具を身体を貫
かれ、ゴロゴロと地面を転がる。
「……ああ、言い忘れてたな。俺達もそう簡単に一撃は入れさせないからそのつもりでな」
 早速脱落した志願者らを見下ろし、ギリギリ踏み止まった残りを一閃の下に沈めて、ダン
は不敵に笑った。そのあっという間の早業に、他の面々は思わず息を呑んで立ち竦む。
「なるほど……マナの形質変化、錬氣の応用技か。流石は副団長殿だ」
 だが、まだ諦めるのは早いと呟いた者もいた。
 全身に分厚い鎧を纏い、身長大の戦鎚を担いだ大男が一人、そうじっとダンのやってのけ
たテクを吟味しながらゆっくりと集団の中から歩き出していた。ガチャガチャと音を鳴らし
て数歩、彼はある程度ダンと間合いを計るとぐぐっと持ち上げた得物に力を込める。
「確かに迂闊に近づけば自滅するが……要は相応のマナを込めた一撃で以って破ればいい」
 ごうっと、男の全身にマナが滾った。
 確かに語る通り、そのオーラ量はダンのそれと引けをとらなかった。
 片眉を上げたダンがゆっくりと斧を持ち上げていた。パワー勝負。男には自信があった。
「──……?」
 だが、その自信は文字通り切り崩されることになった。
 フッと何かが男の眼前を潜った次の瞬間、男は鎧も武器も装備丸々が斬り砕かれ、白目を
剥いてその場に崩れ落ちたのである。
「……言った筈だがな。“私達”に一撃を与えれば、と」
 いつの間にか、倒れた男の背後に立っていたのはリンファだった。
 既に抜刀は終わり、刀身はチンと鞘に収まる音だけを残す。ゴロゴロと、包丁を入れられ
た豆腐よろしく、綺麗にサックリと斬られた鎧が鎚が地面に落ちていく。
「ま、パワーは評価するがな。……鈍重(とろ)過ぎだ。リンの反応速度の前じゃわざわざ
攻撃して下さいって言ってるようなもんだぜ?」
 面々は、そこでようやく彼女が一瞬で彼の懐に入り込んで連続の剣閃、あの巨体を沈めた
のだと理解するに至る。
「つ、強ぇ……」
「入れられる、のか? 一撃……」
 少なからず志願者達は物怖じしていた。少なくとも功名心で参加した者は悔いただろう。
 彼らは、本気だと。
「お父さん」
 新たな面子が加わったのは、ちょうどそんな最中。
 ダンとリンファが振り向くと、ミアがこちらに向かって近付いてくるのが見えた。
「ミア。どうした? 警備先(もちば)でトラブったか?」
「ううん……。ボクも一緒に選抜側に回ろうと思って。皆には言ってきてる」
「お前も? や、止めとけ。お前まだ……」
「だ、大丈夫なんですか? まだ病み上がりじゃあ……」
 父親(ダン)とテント席の皇子(アルス)、双方がほぼ同時に難色の反応を示していた。
「大丈夫。……いつまでも休んでたら、鈍るばかりだし」
 確かに退院して日は経っているが。
 ダンとリンファはどうしたものかと顔を見合わせた。ついでテントの方のアルス達に視線
を向けてみるが、向こうは向こうで自分達で判断は下しかねるといった様子だ。
「……仕方ねぇな。でもあんまり張り切り過ぎんなよ?」
「うん」
 まだ歳若い──副団長の娘。加えて病み上がりらしいという断片的情報。
 故に、油断したのだと言っていいだろう。
「ほほう? じゃあ君に一撃を入れても合格扱いってことになるんだね?」
 志願者が何人か、指ぬき手袋をギュッと引っ張りながら二人の横に立ったミアへと近付い
てきた。既に武器は抜き放たれ、彼らはこれはチャンスだと踏んでいるとみえる。
「君に恨みはないけど、これも合格の──」
 しかし次の瞬間、そう言いかけた男の姿が霞んだ。……いや、吹き飛んだのだ。
 志願者達が大きくざわつき目を丸くする。先程まで少女相手に余裕をかましていた男が、
白目を剥いて遠く地面に転がっていた。見れば装備していた鉄製の胸当てが貫通寸前まで陥
没している。
 面々はゆっくりと、その視線を男から倒れた直線上──ぐっと脚を踏み込み腰を落とした
正拳突きを終えたところのミアへと移した。もうっとその拳には、白い煙のようなものが立
ち上っている。
「……」
『ひいっ!?』
 ギラリと志願者達を睨む娘の眼。
 その後ろ姿を見ながら、ダンはやれやれと肩を竦めて苦笑していた。
「まぁそういう訳で油断大敵だぞ? うちの娘は拳士なんでね。武器はなくとも強いぞ」
 嗚呼、あの眼は本気だ。そう父親としての経験がダンに告げている。
 歓迎会の一件で今まで以上に使命感に燃えているのか──或いはもっと別の感情か。
(……この人達が、もしかしたらアルスの横に立つかもしれない……)
 思わず気圧される志願者達を見、ミアはギチギチと全身に力を込める。
 手を抜くなんて、できない。自分と一緒に彼を護るというのなら──妥協なんてしない。
(……まったく。一旦火が点いたら止められやしねぇ。一体、誰に似たんだか……)
 娘と父、或いは侍従の女剣士。
 こりゃあダース単位で脱落者が出るな……。そんなことをぼんやり考えながら、ダンは斧
をガチャリと肩に担ぐ。
 
 そしてそんな予感は当たらずも遠からずだった。
 一切の妥協を自分に許さないミアの拳は、ごちゃまんといた功名目当ての雑魚を次々と殴
り飛ばし、脱落者に変えていく。
「せいっ!」
「ぐっ……!」
 故に、篩を掛けられても尚残ったのは、ダン達の太刀筋にも耐えうる相応の腕利き達だ。
 ダンの大上段からの一撃を受け止め、障壁を形成する魔導具の盾を操るのは、一人の端麗
な容姿を持つ青年で。
「おわっと。ほっ……」
「……ちょこまかと」
 リンファがその連続の突きをかわしながら距離を詰めようとするのは、身長大の長刀を手
足のように振るう風来よろしくな格好をした男性で。
 障壁と分厚い盾。二重の防御で青年は何とかダンの攻撃を弾き返して後退り、リンファと
切り結んだ男性は互いに──彼女の切っ先の方が彼の首元を捉えていたが──相手の急所を
寸止めの状態で静止する。
「ほう……? よく耐えたな、合格だ。七十三番、いや……“聖壁”のアスレイ」
「百二十五番、合格です。見事な槍捌きでした。“傾奇(かぶき)”のテンシン殿」
「は、はは……。ギ、ギリギリですよ……正直……」
「へへ。侍従長からのお墨付きたぁ、ありがたいねぇ」
 そうしてダン達の出した条件をクリアしてみせたのは、事前の予想通り、以前からある程
度名の通った者らに絞られているようだった。
 三柱円架の文様を帯びた盾をガチャリと下げ、青年は大きく肩で息をしている。
 リンファから賛美を受けた着流し風の男は呵々と笑い、長刀をそっと肩口に抱え込む。
 見渡せば、多数の──疲弊して思い思いに倒れ込んでいる脱落者達の中に交じって、ぽつ
ぽつと合格を言い渡された者の姿がある。
「……ふむ。大分片付いたな。おーい、まだ決まってない奴はいねぇか? 怖気づいてても
終わらねぇぞー?」
 一応団員らが各志願者を(履歴書と胸に付けた番号紙で)随時確認はしているが、どうも
まだ掛かって来ずに躊躇っている者も残っているようだ。
 仕方ねぇな……。
 もうその中で有望株は残っていないとは思うが、全員を観ないと公平性に関わる。
 一旦武器を引き、闘気を収め、ダン達はそんな彼らを引きづり出そうと足を踏み出す。
「──うわ……。何? なんかもう既に全滅しかかってる?」
「ははっ、こいつは容赦ねぇなあ。ま、変わってなさそうで何よりだけどよ」
 赤毛の男率いる一団とエルフの少女。
 振り返る面々に靴音を鳴らし彼らが姿を見せたのは、ちょうどそんな時のことだった。


「よう。暫くだな、ダン!」
 リーダー格と思われる男は蛮牙族(ヴァリアー)だった。
 彼らの特徴である赤毛に褐色の肌。肩からは首周りにもふもふした毛を持つ茶色のマント
を引っ掛けており、後ろ腰には幅広の長剣が鞘に収められている。
 ニカッと笑って覗く八重歯。
 彼はそう気安い感じで、ダンに向かって声を掛けてきた。
「……まさか。グノか?」
 突然の事にぽかんとする面々。だが目を瞬き彼を凝視していた当のダンが、ふと思い出し
たように言葉を漏らす。
「おうよ。相変わらずみたいで安心したぜ」
「……はっ、お前こそ元気そうじゃねぇか。くたばってなかったみてぇだな」
 そして互いに近付いて交わしたハイタッチ。次いで握り拳をカチン合せ、笑い合った。
「ダン、彼は一体……? さっきグノと言っていたが」
「ああ……。そうだったな、お前らにはたまに話してた程度だし……」
 どうやら全くの初対面ではないらしい。その様子を見ていたリンファが数歩進み出て二人
に近付いて問い掛けると、ダンは笑った表情のままでポリポリと顎を掻く。
「こいつはグノーシュ・オランド。俺が北方(こっち)に来る前、南方(じもと)にいた頃
コンビを組んでた相棒さ。で、確かあの後……」
「俺は俺でクランを立てたんだ。クラン・ジボルファング──今はその代表をやってる」
「って訳だ。ミア、お前も覚えてねぇか? 向こうにいた頃の“赤毛のおじちゃん”だよ」
「……あ」
「ジボルファング……。ということは、貴方が“狼軍”のグノーシュ……?」
 ダンはそうかつての相棒、グノーシュを紹介した。
 赤毛が揺れ、彼のニカッとした笑顔が団員らを見渡す。父にかつての記憶を呼び起こされ
たミアは小さく瞳の奥を揺らがせ、リンファは名乗ったクランから彼についた二つ名と武名
を脳裏から引き出している。
「ミア? おおっ、誰かと思ったらあのミアちゃんか! ははっ、暫く見ない内に大っきく
なったなあ。かっこよくなったじゃないか」
「……。久しぶり、おじさん」
 一方グノーシュもグノーシュで、久々の再会を喜んでいるようだった。
 かつてそうしたように、変わらず、気のいい猛犬よろしく友の娘の頭をわしゃわしゃと撫
で回す。当のミアは確かに驚き嬉しかったが、内心彼からの一言が「可愛くなった」ではな
かった点に地味にショックを受けていたりする。
「にしてもどーしたよ、普段あっちで暴れてる筈のお前がこんな所まで……?」
「おいおい……どうも何もねぇだろ」
 そんな中グノーシュは、呵々と笑ってさも当然と言わんばかりに答えた。
「勿論、ブルートバードに加わる──お前の力になる為さ。俺以下クラン・ジボルファング
一同、先方の傘下に入りに来た」
 ダン達が、場の志願者達が目を見開いていた。
 長い物に巻かれろと、媚びるように軍門に下ろうとする諸クランにはこれまで何度か対面
している。だがグノーシュは、一介の業界人としては、二つ名のつく腕利きの一人だ。そん
な面子がかつての友情を理由に協力を申し出てくれる事に、ダン達は驚きと心強さの両方を
じんと覚えたのである。
「……ありがとよ。お前がいりゃあ百人力だ」
「事情は分かりました。ですが、他の志願者との公平性もありますので──」
「あ~……分かってる分かってる。流石にそこらを馴れ合いで押し切りはしねぇよ。此処に
着いたのはついこの前だったから俺達は当日組だが、必要な書類ならさっき受付で書いて渡
してきたよ。団長さんからも、面接は後日に回すから今日は先に実技を観て貰ってくれと言
われてな」
「イセルナが? そうか。なら手筈に問題はねぇな」
 言って頬を緩め、ダンは大きく斧を持ち上げた。グノーシュも八重歯をみせて笑い、ザッ
と腰を落とした姿勢を取ってから腰の幅広剣を抜き放つ。
「リン、皆を下げてくれ。こいつは俺が観る。久しぶりに手合わせしてみたいしな」
「ほほう? 余裕だな。あんまり油断してると後悔するぜ?」
 言うや否や戦いが始まろうとして、リンファやミアは頷き半分で他の志願者達をその場か
ら遠くへと誘導する。
「道すがら説明は聞かせて貰った。要はお前に一撃与えるか耐えればいいんだよな?」
「ああ。だが手は抜かねぇぜ? お前との仲でもな」
「当然だ。久しぶりの挨拶がそんな腑抜けじゃあこっちも収まりがつかねぇよ」
 自分達だけじゃない。耐え残った合格者レベルなら、予感しているだろう。
 この二人……間違いなく。
『──』
 彼らは同時に地面を蹴っていた。
 ダンは大上段から鋭角に、グノーシュは抜き放った位置からすくい上げるように。戦斧と
幅広剣、渾身の一撃が激突する。
 ドンッと、周囲の空気が地面が震えた。
 ただ軽くマナを込めただけなのにその衝撃は凄まじく、その余波に周りの志願者(の中で
も脱落した)者達が煽られ、転びそうになっている。そんな彼らをリンファやミア、合格組
の面々がくいっと支えてやりながら、一同はこの始まった二人の戦闘を見守るしかない。
「ほう。その馬鹿力は健在か!」
「お前の膂力もな!」
 叫びながら、二人は互いに武器を打ち合い続ける。
 一旦弾き、横薙ぎ同士から上下、入れ替えて上下左右。繰り返し。
 共にかなりの重量である筈の得物は残像を残すほどのスピードで空間を掻き、何度となく
ぶつかっては火花と衝撃を散らす。
 周りの面々にすれば突如暴風に見舞われたような心地だったが、当の二人の表情は暫くぶ
りに再会した友と交じわせる刃を心から愉しんでいるそれであると見受けられる。
「……っと」「はっ……」
 それから、何度目の剣戟があっただろう。
 ダンとグノーシュは、互いの得物を弾いて大きく距離を取り直した。
 二人を中心に地面は大きく削れて凹み、設営されていた厚布の間仕切りもあちこちで吹き
飛んで転がってしまっている。
 それでも、二人は愉しそうだった。斧を、剣を、掲げて笑っていた。
「やっぱ、一筋縄じゃいかねぇな」
「当たり前だろ。俺もお前も、あれから鍛錬は怠らなかったってことさ」
「……じゃあ?」「おうよ」
 そして、再び力二つがごうっと滾り出す。
 ダンを覆うマナはそのエネルギーを大量の熱に替えて炎の衣とする。
 一方でグノーシュは剣を両手持ちに持ち替え、深く深呼吸。
「来い、ジヴォルフ!」
 叫んだ瞬間、自身の周囲に落雷と共に狼──雷獣型の精霊達を呼び出して使役する。
 これこそが彼の“狼軍”の所以だった。
 彼は魔導師ではない。だが蛮牙族(ヴァリアー)という狩猟民出身が故に彼はこの精霊の
狼達と幼少より心を通わせ、持ち霊(とも)としてきた。
 故に、狼軍。
 雷撃を纏う持ち霊の群れと共に突撃するその戦いぶりは、まさに一人一軍で……。
 リンファ達が、志願者達が、テントの下のアルスら団員が、息を呑んだ。
 大技が──来る。熱の衣と雷獣の疾走。決して生半可な威力では済まない力を、より本気
に近い一撃を、あの二人は今ここでぶつけようとしている。
「止せダン、もう……!」
 だがもう止まらない。耳に入らない。
 二人は愉悦の笑みを口元に宿し、深く深く地面を蹴り──。
「そこまでッ!!」
 しかし、新たな破壊は起こらなかった。
 両者がぶつかるその寸前、場をつんざく鶴の一声が二人の太刀筋を止めていたのだ。
 二人が、面々が視線を向けた先には、イセルナが立っていた。普段中々見せないむすっと
した表情と眼光を彼女はみせ、傍らに立つハロルドは眼鏡のブリッジを軽く触って静かに苦
笑を漏らしている。
「……イ、イセルナ……」
「そ・こ・ま・で。ダン、貴方らしくないじゃない。久しぶりにお友達と再会して嬉しいの
は分からなくもないけれど。加減しなさい? 周りが滅茶苦茶じゃない」
「ぬぅ……。す、すまん……」
 ダンがグノーシュが、急に借りてきた猫──実際ダンに至っては猫系獣人な訳で──よろ
しく大人しくなり、ガチャリと武器を下げる。狼(ジヴォルフ)達も、戦闘が終わったと感
じ取ったようで、殺気を消し去りダンという久方ぶりの仲間にすんすんと鼻を鳴らしてじゃ
れつき始めてさえいる。
 リンファ達面々がホッと胸を撫で下ろした。娘(ミア)に関しては半眼をみせていたが。
 これで人為型暴風は止んでくれるだろう。落ち着いた二人にイセルナらが靴音を鳴らして
歩み寄り、じと目のままに語る。
「グノーシュさんが来たって聞いて顔を合わせて、それでそっちに遣ったのだけど……。何
とか間に合ったみたいね。こっちが一通り片付いたと思ったら、急に大きなマナの膨らみを
感じたんだもの」
「まったく……。お前らは会場ごと吹き飛ばす気か」
 イセルナとブルートに「お説教」される格好となり、ダンはへこへこと申し訳ないと謝る
しかなかった。体格は圧倒的に彼の方が勝っているのだが、これだけでも実際の力関係が正
副団長にきちんと割り振られていることが窺える。
「はは……っ、なるほどなぁ。何でお前が副団長なのか分かった気がするよ」
「笑ってる場合か。お前だって共犯だろーが」
 そんな様を暫しぽかんと眺めてから、グノーシュが涙目になって大笑いしていた。すると
ダンはぐぬぬと眉根を寄せ、そう言いながらこの友の肩をがっしりと組んであーだこーだと
言い争い始める。
 勿論、それは本気の喧嘩ではなくて。いい歳こいた、だからこそ大事にしたい戦友同士の
じゃれ合いのようなもので。
 リンファ達だけでなく、イセルナもややあってクスリと微笑ましさを零していた。
 もう大丈夫だろう。突発的な嵐は、去った。
「はいはい。もういいから。でもちゃんと周りの設営は直しておいてね? グノーシュさん
も同じくです」
「あ、はは。そうッスね、すみません。……で? 俺の実技はどうなるんでしょう?」
 グノーシュもまた、イセルナの器というものを認めた後のようだった。
 頬をポリポリと掻いて苦笑い。しかし念の為というように、続けていち志願者としての力
量の程はどうだったかと訊ねてくる。
「勿論、合格です。うちの副長とここまで打ち合ったんですもの。流石は“狼軍”といった
所でしょうか」
 イセルナが最初に答えて、リンファやダン達も満場一致で頷いていた。
 するとその間に、先程の一戦が会場の他ブースにも届いたのか、遅れてシフォンらが駆け
付けて来るのが見えた。何があったの? そう訊ねる彼らに、ハロルドが苦笑のままに事情
を説明し始める様子が背景に重なってゆく。
「そっか……よかった。なら」
 言って、グノーシュがバサリとマントを翻した。
 心持ち向き直って視線を遣ったのは、彼が連れてきた部下達──クラン・ジボルファング
の団員達。
「こいつらも観てやってくれよな。俺が目をつけた連中だ。実力は保障するぜ?」
 彼が宜しくと威勢よく得物を掲げて笑顔を見せた。イセルナ達も、勿論と応じて笑う。
「──あっ。いた!」
「……?」
 そんな時だった。
 クランの集団からぴょこっと抜けて駆け出したのは、栗色の髪を短いサイドポニーに結わ
った妖精族(エルフ)の少女。グノーシュ達がその道中、道に迷っている所を拾って同行者
の一人とした少女・クレアだった。
 彼女はそれまでにこにこほわほわと立っていたのだが、ふとシフォンがやって来たのを認
めると、とてとてと小走りで彼の下に駆け寄っていく。
「君は……? 同族のようだけど……」
「はい。無理もないですよねぇ、実際にこうして会うのは初めてですから」
「そうか。ええっと──」
「こんにちは。初めまして、おじさん。私はクレア・N(ニロップズ)・ユーティリア──
ハルト・ユーティリアとサラ・ニロップの娘ですっ」

 かくして、新団員選考会の初日は幕を下ろした。
 会場の点検・修繕を済ませてホームに戻ると、アルス達の緊張の糸はぷつと切れ、代わり
になだれ込むような疲労感と安堵──苦笑いを拭えない奇妙な高揚感が全身を駆けた。
 まだ、全日程が終わった訳ではない。
 しかしクラン・ブルートバードという集団、その空気は基本的にアットホームさを是とし
ている。明日以降の英気を養うためという方便も、すぐに皆から出る。
「皆、選考会初日お疲れさま。おかげで特に滞りもなく進められたわ」
「まぁそういう訳だ、ご苦労さん。景気づけにパーッとやってくれ!」
『乾杯ーっ!』
 故に、人心地ついた後の夕食時は自然と総出の宴会へと相成った。
 酒場『蒼染の鳥』に集まった団員達が、思い思いにグラスを鳴らし合わせて開宴とする。
 そうやって態を変えても、やる事は同じで、宴が大好きで。
 でもだからこその我が家(ブルートバード)でもあって……。
「……いい場所を見つけたんだな」
「何他人事みたいに言ってんだよ。お前らも今日からその一員だろうが」
 そんな彼らの姿を眺めながら、グノーシュが静かに呟いていた。
 しかしそうしたしみったれた表情(かお)は要らないぜと言わんばかりに、ずいとダンが
隣に腰を下ろしてくると、彼はこの友の杯になみなみと酒を注いでやる。
 こちらでもカチンと、酒杯を鳴らして。
 先ずは一杯と二人は同時に杯を空にした。……たまらん。互いににんまり、かつて毎日の
ようにそうだった笑顔を向けると、彼らはテーブル席の一角で語らう。
「ま、とりあえず合格おめでとさん。またコンビを組めるたぁ心強いよ」
「へへっ。そう言って貰えりゃこっちも足を運んだ甲斐があるってもんさ。まぁ大変なのは
選考会が終わってからになるんだろうが……」
「端から覚悟の上さ。そうでもしないと護れない、それがうちの団長(イセルナ)の決めた
方針だからな」
 二杯目以降はちびちびと呑み、テーブルの上の肴がテンポを刻むようにゆるゆると二人の
胃袋に収まっていく。語らう中ふっと深刻さを茶化すようにしたダンに、グノーシュは横目
で数拍押し黙った。
「……よかったのか? まだ選考会も始まったばかりで俺達を採用しちまって」
「妙な事を言う奴だな。そうされるつもりで来てくれたんじゃねぇのか? それとも何か。
お前、別な腹があってここに来たのか?」
「そういうんじゃねぇよ。仮にそうだとしても、あの団長さんや神官に見破られてら。……
ただ、ちょっとな」
「……?」
 こいつにしては珍しい。ダンは少しばかり眉を顰めた。
 離れていた歳月が自分達をややこしくしたのか。
 あり得る、とは思っても……正直侘しい。
「……お前、南方(あっち)に一回も戻ってねぇだろ?」
「ん? ああ。北方(こっち)でイセルナ達とクランを立ち上げてからはずっと掛かりきり
だったしな」
「だろうと思ったよ。じゃああれからアリアさんとは一回も顔を合わせてないんだな?」
 ガタンッと、明らかにダンが狼狽した様子で椅子ごと身を退きそうになっていた。
 団員達──レナ達とテーブルを囲んでいたミアが、小さな疑問符を浮かべてこちらを見遣
ってくる。
「な、なな、なんであいつの事を」
「……図体はデカくても色事に経験薄なのは変わっちゃいねぇなあ。ま、俺も他人の惚れた
腫れたをどうこう言える身でもねぇけど」
 ダンはグノーシュをぐいっと肩から抱え込み、ひそひそ話の要領で応えていた。
 そんな友に、グノーシュは苦笑のような嘆息のような、自身でも複雑そうな感情を込めて
語る。
「お前と離婚した(わかれた)後の彼女のことを教えてやろうと思ってさ。今は引っ越して
導都(ウィルホルム)に住んでる。ヒューネスの男と再婚して、一緒に花屋をやってるよ。
娘さんも一人生まれてる。ミアちゃんにとっては義理の妹になるか」
「…………」
 目を見開き、暫くの間ダンは返す言葉を見つけられないようだった。
 それでもやがて、水がゆっくりと染み入るようにハッと我に返り、彼は肩越しにこっそり
と娘(ミア)の横顔を見遣る。
「……まさか。お前そのためにわざわざ……?」
「それも含めて、だ。あくまで目的は参戦の方だよ。土産のつもりだったんだ。でも実際に
こっちへ来てみて、お前らが前に前に進んでるのを見て、昔の女を思い出させる余裕なんぞ
あるのかと思っちまってさ……」
「グノ……」
 訂正しなければ。こいつは、変わってない。
 自分がアリアに惚れてアタックしていた時も、今回の選考会開催でも、こいつは常に他人
の力に為れることを望んでいる。功名心とか下心とか、そんなものは二の次にして、一度は
離れていった自分の事を変わらず友だと思ってくれていた……。
「……。そんな顔すんなよ、らしくねぇ。俺達はいつでも不敵に笑っているのが一番だ。心
も体も繋がってる。笑ってりゃあ、きっと何処かで繋がってくる」
「……そうだな。本当にそうだ」
 言って、お互いに笑った。そうだったなあと、記憶が蘇る。
 色々無茶をした──ことでアリアには逃げられてしまったが、あの頃だって自分達はいつ
も笑って、このクソったれな世界の中でも幸せを見つけようとしていた。
「ありがとよ。また改めて、これからよろしくな」
「こちらこそだ。お前らが認めて大切だと思ったものを、また俺達の手で護ってやろうじゃ
ねぇか」
 再び互いの杯を満たして。
 二人は静かに不敵に笑うと、それらを交わし鳴らしてくいっと呷る。

「──へぇ。じゃあクレアはシフォンさんの従妹になるんだね」
 その一方で、別なテーブル席ではグノーシュ一行の一人、妖精族(エルフ)の少女クレア
を加えてレナ・ステラ・ミアの三人娘が会話に華を咲かせていた。加えて場にはざっと事情
を聞き、親戚関係にあると判明したシフォンも物静かな佇まいで同席している。
「うんっ。シフォンさんパパと私のパパが兄弟なの。……といっても、私達が生まれた頃に
はおじさんは里を出て行ってたから、写真でしか知らなかったんだけど」
 クレアは人族(ヒューネス)換算で十七になるという。
 だが小柄で愛くるしいその雰囲気は、彼女を良くも悪くも幼く見せている節がある。
 実際、数え年では一つ下のステラも彼女には既にタメ口だ。尤も当の本人にも──という
よりエルフ自体が長命だからか──気に留める様子はなかったのだが。
「私、達?」
「クレアは、きょうだいがいるの?」
「うん。双子の弟と妹、妹、弟。これでもお姉ちゃんなんだよー」
「つ、つまり五人姉妹(姉弟)?」
「……子だくさん」
 レナ達が思わず驚き、目を瞬かせていた。
 ミアの呟きの通り「多い」こともだが、それ以上にその長子がこうも明るい──ほわほわ
としているのが意外だという感慨は、お互いが暗黙の了解の内に黙っておく。
「伯父さんとサラさんは昔から仲が良かったからね。結婚してもからもそれは変わっていな
いんだね……」
 その中にあっても、シフォンは尚も控えめだった。
 フッとかつての故郷を思い出すように、彼はちらりと何処か遠くを見遣ってから視線を再
び落とし気味にする。
「ええ、そりゃあもう。ラブラブですよー。私が覗いてる限り、大抵はママが押して押して
してるみたいですけどね」
「押しっ!?」
「の、覗いてるって……」
「……。大胆……」
 その間も三人──いや四人娘達は留まることを知らず。
 両親の睦まじさぶりに頬を緩めるクレアに、レナやステラは妄想力で頬を赤くし、ミアは
眉間に皺を寄せて小さく呟く。もしかしたら片親な自分と対比しているのかもしれない。
「……そうか」
 だが、シフォンは彼女達の輪の中にいてもあまり多くを語らない。
 それは元より穏やかな人柄だから──というのではなく、今はむしろ別の理由があった。
『シフォン君へ』
 彼が手にし、先程からじっと目を落としていたのは、クレアが初顔合わせのすぐ後に手渡
してくれた、両親から預かってきたという二人からの手紙。柔らかい丸字と達筆。伯父夫妻
が交互に言の葉を紡いだ便箋が何枚も重なっている。

“この手紙が君の下に届いている頃には、コーダスの息子さん達はどんな環境に置かれてい
るのだろう? 皇国(トナン)での一連の件、ちゃんと見ていたよ。セド達とも折につけて
連絡は取り合っていた。……僕らが力を貸せないままになってしまって、すまない”
“だから私達は話し合って、何とか貴方達の力になれないかと考えました。
 娘のクレアを、私達の代わりとして行かせます。正直そそっかしい子だから心配だけど、
可愛い子には旅をさせろと言うし……何よりクレア自身が自分で手を挙げたから、その意思
を尊重してあげたくて”
“まだ経験は浅いけど、付与術(エンチャント)が得意だからサポート役には向いていると
思う。勿論前線に出さずにという判断でも構わない。僕達のわがままと思って、そちらに置
いてやって欲しい。君が選んだ居場所だ。きっと娘も気に入るだろう”
“こちらも、ハルトと一緒に何とか戻れる環境を作ろうと試行錯誤しています。一番懸案な
のはやはり長老さま達。何度もそれとなく世界の現実を見せて説得はしてみているけれど、
中々聞き入れて貰えなくて……。あの事件の跡はとうに見えなくなっているけど、長老さま
達にとっては今の世の中の方が悪いんだって頭なのでしょうね”
“だから、少し手を変えてみている。流石に反発もあるから、僕らの里に開明派──という
表現はあまり使いたくないんだが──をすぐ迎え入れるのは現実的に難しいだろう。でも、
だったらそういった者達を別な場所に集めてはどうだろう、住み分けることで解決できない
だろうかと模索している。他の部族長らとも相談しながら今その新しい集落を作る準備をし
ている最中だ”
“だから……もし、貴方が戻りたいと言えば、遠慮せずにクレアに言って? 貴方を含めた
新しい時代の同胞達とそこに移り住めばいい。集落が実現すれば、またすぐにクレアを介し
てそちらに伝えるから……”
“勿論、強制はしない。だけど覚えておいて欲しい。確かに君らを疎んだ者達はいた。でも
同じくらい、今を憂い未来を拓こうとする者達も、僕達エルフの中にもいるんだって事を。
 レノヴィン兄弟と──仲間と共にこれから進む道はきっと平坦ではないと思う。でも僕ら
は応援しているよ。必要とされれば、セド達と同様協力は惜しまないつもりだ。
 遠く離れた里からではあるけど……君達の幸せな未来を、祈ってる。
                  
                  ハルト・サラより。我が甥っ子達に親愛を込めて”

(伯父さん、サラさん……)
 何度も何度も読み返す。その視界が濡れたようにぼやけていた。
 ぽたぽたと、紙に湿気が落ちてインクが所々で滲む。導信網(マギネット)のメールでは
なくわざわざ手書きの便箋を寄越してきたのは、きっと二人の──その背後で憂いてくれる
者達の気遣いなのだろう。
 きゅうっと。胸奥がじわじわと締め付けられるようで、温かく熱を帯びるようで。
「おじさん?」
「……。何でもないよ」
 そんな様子に、ふとクレアが気付いて顔を見上げてくる。便箋の封は切られていなかった
から、彼女が手紙の内容を知ってる訳ではない。
 だからシフォンは親指と人差し指で目頭を押さえ、涙をぐっと押し込める。
 ──ありがとう。
 でも今は、此処が僕の居場所だから。
 代わりに向けるのは、笑顔でなければ。そう思ってこの姪っ子に──その背後で変わらず
情愛を向けてくれる伯父夫妻らに、微笑む。

(……ふふっ)
 アルスはそんな酒場全体の、クランの皆が醸しだす雰囲気に笑顔を溢しっぱなしだった。
 やはりいいなぁと思う。
 兄が何だかんだといいつつ長くこのクランに留まり続けたのも、このアットホームさに類
する空気故なのだろう。
 元々の団員達も、グノーシュの部下──第一弾の新団員達も、同じ“豪傑”の上司を持つ
がためか打ち解けるのにそう時間は掛からなかったようだ。
 大丈夫だとは思っていたが、一安心。イセルナやリンファ、イヨらもアルス達が着く席の
すぐ隣のテーブルを囲い、ちみちみと呑みながらこの空気を微笑ましく見守っている。
 まだ選考会は続く。気は抜けない。
 だけど……こうして楽しい一時を過ごしたって、罰は当たらない筈だ。
(……。あの子がコーダスさんの息子さん──王子さまのアルス君かあ……)
 だからこそ、アルスは気付いていなかった。
 ホットミルクのコップを口につけ、こきゅと喉を潤した俯き加減。その横顔をふとクレア
が見遣っている。
(映像器で観たよりも可愛いかも♪)
(──!?)
 そしてクレアが密かにそんな感想を抱き、
「? どったの、ミア?」
「……。何でもない……」
 ミアの第六感が、新たな恋敵の予感を刹那の寒気として彼女に伝える。
 酒場の正面ドアを叩く音が聞こえたのは、ちょうどそんな時だった。
「んぅ? 誰だ?」
「おかしいな……。もう今夜は閉めてるのに」
 少なからぬ団員達が怪訝な様子でドアの方へと目を遣る。
 酒場の営業は、選考会の間当分休むことになっている。主立った常連達には事前に伝えて
あるし、表の下げ札にもその旨は書き記してある筈なのだが……。
「静かに。私が出よう」
 皆のざわめきを、カウンターにいたハロルドが抑えていた。
 タオルで濡れた手を拭い、そっと忍び足で彼はドアのすぐ横の壁へと身を潜める。
「どちら様ですか。表に張っているように、事情で店は閉めているのですが」
『分かってるよ。じゃあまた裏口から入れってのか? 兄貴』
 ハロルドを始めとした面々がにわかに表情を硬くした。
 ドア越しの声だったが、間違いない。
 リカルド・エルリッシュ──ハロルドの実弟にして教団直属『史の騎士団』の神官騎士。
 どうする? そう言わんばかりにハロルドがこちらを見返してきた。団員達はその視線に
即答する術を持たなかったが、代わりにややあってイセルナとダンがそれぞれに頷いてドア
を開けてやるように促す。
「……お前達は呼んでいない筈なんだがな」
「つれない事言うなよ。土産(さけ)だって持ってきたんだ」
 開いたドアからリカルドと、部下の黒法衣達が店内に入ってきた。
 その足取りを壁際に立ったままのハロルドは少なからず睨むようにしていたが、当のリカ
ルドの方はあくまで気安さを演出しようとしている。
 彼から渡された酒瓶、その銘柄を見て、ハロルドが片眉を上げた。ふっと笑い、リカルド
が警戒心を解いてくれない団員達にやれやれと肩を竦めてみせながら、言う。
「聖都(クロスティア)で一番美味い葡萄酒(ワイン)だ。兄貴も飲んだことあるだろ?」
「……おべっかはいい。今夜は何の用だ。ジーク君の動静なら、語らないぞ」
「……いい加減、敵愾心くらい取っ払ってくれよ。本山を嫌ってるのは分かってるけどさ」
 同じ血縁同士でも、こちらは冷え切っていた。それとも……元より誠実に溝を埋める気が
ないからか。
 黒法衣の一人が後ろ手にドアを閉め、リカルドはがしがしと金髪の頭を掻いていた。
 そして兄の言う通り、変に本音を隠すのは逆効果だろう、そう判断した彼はフッとその表
情を“仕事モード”に切り替えて懐から一枚の書簡を取り出す。
「今夜は他でもない。俺たち史の騎士団小隊一同、クラン・ブルートバードとの共闘を提案
しに来た。ここに教皇からの親書もある。……兄貴なら真贋の見分け、つくよな?」
 はっきりとした言葉こそなかったものの、団員一同に動揺が走ったのが分かった。
 いや、厳密には戸惑いというべきか。
 史の騎士団を遣ってくるということは──その核心は十中八九、アーティファクト絡み。
即ちジーク、護皇六華ではないのか?
 だが皆、それを口には出さない。ハロルドが書簡の封蝋を、三柱円架を中央に据えた教団
のシンボルマークを見つめたまま黙っていることからも、少なくとも書簡は本物だ。
 だとすれば尚更、ここで下手に反抗すれば、間接的にクリシェンヌ教団という大組織を敵
に回すことになりかねない。
「……どうする、イセルナ? 私個人としてはあまり気が進まないが」
 たっぷりと間を置いてから、ハロルドが再びイセルナ達を見遣った。
 個人的には突っ撥ねたい。だが組織人としての攻防を考えれば、そのいち感情を皆に強い
ることは宜しくないと、そう考えたのだろう。
「……いいですよ。共闘のお話、受けましょう」
 だが、暫し両手をテーブルの上で組んでいたイセルナは、そうリカルドに返事をした。
 当然ながら団員達が戸惑いのざわめきを響かせる。ハロルドも、珍しく眉間に深い皺を寄
せて数歩彼女の方へと進み出る。
「本当にいいのか? 彼らはジーク君やアルス君の情報を抜いていくつもりだぞ。スパイを
身内に引き込むなんて……」
「分かってるわよ。でも今は少しでも戦力が欲しいわ。それに、彼は実際に“結社”の一人
を撃ち殺してる。少なくとも向こうにとって彼は“中立”の人間ではありえないもの」
 実力だって、それ相応の筈でしょう?
 言ってイセルナは、そう含みのある微笑をみせていた。
「はは。やっぱり只者じゃないね、団長さんは。ではお互い、精々ギブアンドテイクの関係
といこうじゃないか」
「……。それが団長としての判断なら、従うまでだよ」
 たとえスパイだとしても、タダでは転ばない──しっかり利用してやろうという訳か。
 リカルドもハロルドも、強い女性(ひと)だと苦笑し、或いは私情を押し込めてクランの
メンバーとしての立場に準じる。
「……それに、いい機会だと思うの」
 そして兄弟(とうにん)らが団員(なかま)達が、徐々に落ち着き状況を呑み込んでいく
のを眺めながら、
「いつまでも仲違いする“家族”なんて、哀しいじゃない?」 
 イセルナはそう、ぽつりと静かに付け加えて。

 夜は更けてゆき、宴もたけなわを過ぎていく。
 大人達はまだ散在として呑んでいたが、アルスは先に暇し風呂を頂くことにした。
 宿舎での入浴は、他の雑事と同じく輪番制を採っている。
 帰還当初は団員達とは独立したサイクルでもいいのではないかとの声も上がったが、他な
らぬアルス自身が辞退した。
 一緒がよかった。皇子という事実は消せなくても、せめて可能な範囲ではその身分が故に
無闇な距離を作りたくなかった。
(ふぅ……。さっぱりした……)
 結果、今もアルスは基本、他の同組な団員達と生活のサイクルを共にしている。
 尤もその輪番で代わる代わるなメンバー編成は、水面下でクランや侍従衆らが計画を立て
る、それとない護衛の一環であるのだが。
「……ん?」
 そうして風呂から上がり、一緒に入った団員数名と入口傍で合流したリンファを連れ、部
屋の並ぶ廊下まで戻ってきた時のことだった。
 自室の前でおろおろと。イヨが落ち着かない様子でうろついていたのだ。
「イヨ?」
「あの……どうしたんですか?」
「! ああ、アルス様。その、ジーク様から導話が……」
 見物している訳にもいかないので、近付いて声を掛けてやる。
 するとホッと、ようやく手渡せたといった感じで答える彼女の言葉に、アルスは内心胸が
ざわめくのを覚えながら急いで差し出された携行端末を受け取った。
「もしもし? 兄さん?」
『おう。悪ぃな、風呂入ってたのか』
「ううん、大丈夫。今上がった所だから。こっちこそ待たせてごめんね」
 イヨやリンファ、団員達がアルスを囲むように四方から聞き耳を立てていた。頭上ではそ
れまで(入浴中ということで)顕現を解いていたエトナもほうっと姿を現し、月明かりの廊
下にそっと淡い翠が混じる。
「それで……どうしたの? 何かそっちで変わったことがあった?」
『ん……。まぁあるにはあるが。それよかお前の方だよ。ニュース見てたぜ。確か今日だっ
たろ、選考会の初日』
 アルスはわっと胸奥からこみ上げる想い──心配を矢継ぎ早に紡いだが、対するジークの
方は少し言い淀んだ風にも聞こえた。逆にこちらの様子を訊ねられる格好になる。
「う、うん。思ってたよりもたくさんの人が来たよ。ダンさんは功名目当ての輩が大半だっ
て言ってたけど、今日だけでもいっぱい仲間が増えたし」
 苦笑して、でもすぐにほっこりと微笑んで。アルスは話して聞かせた。
 グノーシュのことクレアのこと、そして先刻共闘することになったリカルド達のこと。
 自分のために申し訳ないなと思いつつも、クランが賑やかになっていくのが嬉しいという
自身の本心も。
『……副団長の元相棒にシフォンの従妹、ハロルドさんの弟で史の騎士団、ねぇ。なんつー
か一気に大所帯になったなあ。大丈夫なのか、そんなペースで? まぁ俺やサフレは名義を
外してるし、どうこう言える立場じゃねぇんだけど』
「そんな事ないよ。僕だって皆だって、兄さん達が帰ってくるのを待ってるんだから」
 暫く話に耳を傾けて、ジークがぽつと自嘲めいて呟く。
 そんな言の葉をアルスは聞き逃さなかった。ムッと心なし本気になって──事実本気で願
うその言葉をぶつけ返す。
 ジークは気圧されたのか、導話の向こうで気まずそうに押し黙ったようだった。
 ややあって、力弱く「……そうだな」というフレーズだけが返ってくる。
『……ま、それだけ元気がありゃ充分だろ。お前の事だからここまで大事になって気に病ん
でるんじゃないかと思ってさ。それだけだ』
 言って、ジークが導話を切ろうとする気配があった。
 アルスが小さく声を漏らす。だが代わりに端末を取り、その切断を留めたのは、あくせく
と使命感と忠義に動かされたイヨだった。
「ジーク様? せ、せめて今何処におられるのかを教えては頂けませんか? 私どもは心配
で心配で……」
『あー……。やっぱり言わなきゃ駄目か?』
「はい。お願いします」
「僕からもお願い。一方的に心配されるなんて、ずるいよ」
 再びイヨと交替したアルスが、そう静かに懇願していた。
 導話の向こうでジークが躊躇っているのが分かった。しかしこのまま切り逃げても掛け直
されるだけだと観念出したのだろう、彼はぽりぽりと頬を掻きながら言う。
『……風都(エギルフィア)だ』
「エギルフィア……?」
 アルス達は顔を見合わせていた。
 妙だ。これまでの定期連絡、その時々の現在地を頭の中で地図化していくと、今回はやけ
にそのルートが急カーブの線になっている。
「随分とハイペースだね。方針を変えたの? それとも一旦大都市に入ってから行き先を絞
るってこと?」
『あ、ああ……。まぁ、そんなとこだ』
 一応ジークは肯定したようだった。
 だがその歯切れの悪さに、じとっとアルスの目が半眼になる。
「……怪しい。兄さん、何か隠してるでしょ?」
『な、何の事だ? 俺はいつも通り──』
「じゃあ何で最初そっちのことを教えてくれなかったの? それにさっきからリュカ先生や
サフレさんマルタさんが出てこないもの。いつもはリュカ先生に難しい話を任せてるのに」
『う……っ』
 ジークが文字通りぐうの音も出ずに間を作っていた。
 兄さん。アルスは間違いないと思い──兄弟だからこそ、心配だからこそ──問い質す。
『分かった、分かったよ。その……何日か前に“結社”とドンパチがあってな。で、そこに
割って入ってきた“万装”に連れられて、今俺達は風都のどっか屋敷みてぇなとこ……多分
あいつのアジトか何かに軟禁されてるんだよ』
「なっ……!? 何でそんな大事なことをすぐに言ってくれなかったのっ!?」
 そして、予想以上の兄達の状況に、アルスの怒声交じりの叫び声が響く。
 イヨ達周りの面々もざわついていた。ジークも、普段穏やかな分、その弟をお冠にしてし
まってたじたじになっている。
『わ、悪い……。向こうが向こうだし俺の立場が立場だし、下手にそっちに助けを呼んでも
事態が拗れるって、もっと自由になったら連絡しようってリュカ姉がさ……。それにこの端
末自体、つい前まで連中に取り上げられてたんだよ。リュカ姉とサフレがこっそり金を渡し
て取り戻して……で、本人達が寝てる間に……こっそり……』
「…………」
 ぼそぼそと、最後の辺りは小声にトーンが下がって。
 だがアルスはそんな兄の声色を聞いてようやく落ち着きを取り戻していた。
 心配してくれていたのだ。リュカの目を盗んでも早く自分の声が聞きたくて、兄は導話を
してくれた。
「……そうだったの。分かった。でもリュカ先生達にはちゃんと話して謝るんだよ?」
『はい……』
 兄弟の逆転現象よろしく。一旦二人はそうお説教する側とされる側になっていた。
 イヨ達も少々(アルスの放った怒声を中心に)呆気に取られて、その様子をぱちくりと見
つめている。
「……こっちの助け、要る?」
『いや……まだいい。さっきも言ったけどそっちに負担は掛けらんねぇよ。話の出来ない相
手じゃねぇし、会って何の腹積もりか問い質してやるさ。……悪いな、迷惑ばっか掛けちま
って。歓迎会で襲われて今度は選考会で……。お前をここまで巻き込みたくなかったのに』
「その気持ちだけで充分だよ。兄さん達こそ、いくら父さんを捜す為だからって無茶はしな
いで」
『で、でも、狙いをこっちに向けるようにしたのは俺の──』
「無茶は、しないで」
 二度目の言葉に、ジークはハッと押し黙っていた。
 導話の向こうの弟が……泣きそうな声になっている。
 だからこそ、ジークは「すまん」と一言だけを返した。
 一方的に心配されるなんてずるい──。弟が語った優しさと過分な思慕が胸奥をくすぐっ
て言葉が頭の中で形を成さなくなる。
 兄弟は暫し黙っていた。イヨ達が見守る中、月明かりとアクセントの翠だけが夜の暗さを
静かに照らす。
『……そういやアルス』
「うん?」
『そのさ、端末を使って他人を操るってのは、誰でもできるもんなのか?』
「端末で……操る? どういうこと?」
『あー……そのな。やり合った結社(れんちゅう)の中に、端末を使って村の人間を丸々操
り人形にしてきた奴がいたんだ。もしかしたらそっちにも似たようなことでスパイとかがで
きるんじゃねえかと思ってさ。リュカ姉の話じゃあ洗脳魔導の一種だとか言ってたが……』
「そういう事。そうだね……それって多分、端末の魔流(ストリーム)を利用した洗脳の術
式だと思う。うん、理論的にはかなり強力になる筈だよ。息を吸って肉体(からだ)が潤う
のと同じで、マナを取り込むことは精神(こころ)を潤すことだから。ストリーム──マナ
の束に術式を貼り付けられるなら、きっともの凄くダイレクトな精神干渉になる……」
『ふーむ……そっか。分かったような、分からんような……』
「はは。流石に難しいかもね。僕だって実際を見てみないと確かなことは言えないし」
 兄弟はそんな話題を交え、暫し語らっていた。
 兄は弟を慮り、弟は兄を慮る。
 それは優しくも、共に“己を手放しながら”の歪でもある……。

「──もしもし。そろそろ掛かってくる頃だと思っていたわ」
 その頃、サムトリアン・クーフ大統領公邸の一室。
 首長ロゼッタが横目で見遣っている中、“黒姫”ロミリアはベルを鳴らした目の前の導話
器に素早く優雅に応じていた。
『やあ“黒姫”。その予知能力は相変わらずだね』
 相手は、同じ七星が一人“万装”のセロだった。
 彼女はこちらも相変わらずの飄々とした言葉遣いをさらりと受け流し、静かに笑う。
「予知という言い方はあまり好きじゃないわ。私はただ星々の瞬きを観ているだけ」
『それを人は予知だの何だのと云うのだけどね』
 一見して優雅、しかし本質は火花に限りなく近く。
 二人は開口早々にそんな会話を交わしていた。妙な威圧感が頭をもたげ、離れソファに腰
掛けていたロゼの表情はすぐれない。
「それで? 用件は何?」
『まぁどうせ分かってるんだろうけどねぇ。……ジーク・レノヴィン及び同行者三名を確保
した。今風都の僕のアジトで“待機”して貰っている。そこで君には、こっちの事が済むま
での間、保守タカ派(よけいなひとたち)を抑えていて欲しいんだ。そこにいるロゼ大統領
の助力も期待したい』
「なるほどね。いいわよ。お互い利害は一致している訳だし、そもそも貴方のことだから仮
に断ろうとしても二重三重にそうさせないように意趣返しを用意しているんだろうし」
 セロはその言葉に直接返答はしなかったが、導話の向こう、夜闇の中ぽつんと灯った明か
りの中で静かに微笑んでいる。スリットから伸びる脚を組み直して、ロミリアは言った。
「……一番の厄介者は保守同盟(リストン)でしょうね。そこは大統領の出番かしら」
 言われて、ロゼは片眉を上げていた。
 彼女もまた、この二人──に関わる権謀をよく知る一人である。
『ああ、頼むよ。お互いの為に……ね』

 暗き闇の中に点々と光が見える。風が吹いている。あれが風都の文明の灯だ。
「おーい、ヘイトっちー。早く行こうよー。任務はまだずっと向こうだよー?」
「分かってるよ。すぐに終わるから」
 そんな空を街を、人知れず見下ろしている者達がいた。
 ヘイト、アヴリル、クロムにヴァハロ。ジーク達が小村で対峙した“使徒”達である。
 離れた──それもかなり高所の塔先にひょいひょいと立つ中で、一人ヘイトは自身の携行
端末に目を落として弄っていた。
 画面からの照明。その小さな光に照らされた横顔は、幼さ若さが故の残忍さを思わせる。
 カチカチとディスプレイ上のキーを連打し、素早く文字列を打つ。
 開かれているのは通称・掲示板。導信網(マギネット)上で人々が情報──特に生の声を
やり取りするページだ。そこにヘイトは、以下のような一文を書き込み、煽り立てる。

“ジーク・レノヴィンは今、風都にいる。
 真なる摂理の徒らよ。立ち上がれ!”

『……』『──』
 送信ボタンを押した瞬間、マギネット上の“保守派”がディスプレイと閉ざされた部屋の
明暗の中で次々に目を光らせていた。中にはそっと真っ白な仮面を手に取り、己が顔に装着
する者もいる。
 “災いがやって来た”“除かねばならない”
 書き込みは書き込みを呼び、ストリームを介したアンダーグラウンドは沸々とした怨憎の
大合唱に染まってゆく。
「……あの村じゃ“万装”に邪魔されたけど、それで大人しく引き下がる僕じゃない」
 ククッと、ヘイトは嗜虐的に哂っていた。じわじわと瞳が高揚で血色の紅に染まり、彼を
魔人(メア)だと知らしめる。
「レノヴィン──この僕に泥を塗った罰だ。精々、掻き乱されろ」
 紅い眼と白の発光。
 止む事を知らない災厄(あくい)は、尚も闇より迫っていた。

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  1. 2012/11/10(土) 18:00:00|
  2. ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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