日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「越境」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:野菜、風船、悪】


 昔々、ある所に自然豊かな平野の国がありました。
 仮にこの国を≪緑の国≫と呼ぶ事にしましょう。
 緑の国は、その国内に肥沃な土地を多く抱えていました。
 それ故にこの国は古くより豊かな自然に囲まれ、四季折々の草木が咲き、独自の生態系が
生み出されていました。
 そしてそんな土地柄は、この地に住む人々にも心地よいものでした。
 何より豊かだったのは農産物です。
 瑞々しくほんのりと甘い果物、野菜、或いは主食になる小麦──パンの原料。
 緑の国の人々は、その豊富な食料を背景にのんびりと穏やかな日々を過ごしていました。

 でもある時、この国の一角に住む子供達は気付いたのです。
 この国は豊かだけれど、遠く離れた他の国は必ずしも満足な食事にありつけていないと。
 彼らは幼いながらに考えました。
 何とか、皆に笑顔になって欲しい。自分達と同じ年頃の向こうの国の子供達にも、自分達
のように空腹が満たされる幸せを感じて貰いたい。
 しかし、当初彼らはそれを実現する術を持っていませんでした。
 どれだけ“善意”を抱いたとしても、彼らは所詮子供。余所の国へ出向く体力もお金も持
ち合わせていません。仮に出発できたとしても、向こうに着く頃には届けた筈の食べ物は痛
んでしまいます。
 そこで……子供達は別な知恵を絞りました。
「僕達がいけないなら、食べ物だけでも届ければいいんじゃないかな?」
 決行の日、彼らは国一番の高台へと集まりました。
 その両手いっぱいに抱えられていたのは、小さな袋。その中にはこの国で取れる農作物の
種が数個ずつ入っています。更に袋の口を縛っている凧糸は、一つ一つ膨らませる前の風船
と結ばれています。
 これこそが、子供達が考えた方法でした。
 幸い、この国は国境を隔てる大河に沿って大きな風の流れがあります。彼らはその流れに
乗せてこの種入りの風船をたくさん飛ばせばいいと考えたのです。
 早速、子供達は一生懸命になって全ての風船を膨らませ、ぎゅっと口を縛りました。たち
まちそれぞれの手には、凧糸で結ばれた色とりどりの風船がふわふわと浮かびます。
 そして、それらを一斉に風の吹く方へ、大河とその向こうに見える山々に向けて彼らは投
げ放ちました。色とりどりの風船は、彼らの想いと種を乗せながらどんどん遠く小さい姿に
なっていきます。
「何処まで届くのかなあ?」
「皆がお腹一杯になるといいねっ」
「……そもそもちゃんと育つ、よね?」
「いってらっしゃーい!」
 そんな遠景を見つめながら、口々に言葉を漏らしたり、叫んでみたり。
 子供達は善いことをしたと信じていました。

 子供達の託した風船──種はそれぞれに空の旅を続けました。
 それでも膨らませたゴムの膜はやがて力尽きます。
 空気が抜けていった末の終着は勿論、鳥に突付かれてのドロップアウト、或いは木々や家
屋といった障害物によって落ちていったりとその終わり方は様々でした。
 お隣の≪水の国≫の川辺に落ちた種。
 その隣に広がる≪丘の国≫や≪鉄の国≫の丘陵、山野の緑に紛れていった種。
 はたまた中には更にその向こう、荒野の広がる≪砂の国≫に落ち、枯れてしまった種等。
 子供達の思いつき、善意がもたらした小さな旅行者達は、たくさんの終着を運びます。
 それは──少なからず彼ら自身の想像を超えて、物理的な距離も越えて。
 始まるのです。

 異変は、それから何ヶ月もした後に目立ち始めました。
 ちょうどそれは、空の旅を終えた種達が地面に降り立ち、それぞれに芽吹きの時を何度か
経験した頃から。水の国、鉄の国、丘の国では、ある問題が起こっていたのです。

 一つは、水辺に生い茂ったたくさんの植物でした。
 本来はか細い草木が生えている程度だった水の国の川辺に、気付けばまるで誰かが畑をこ
しらえたようにたくさんの野菜や果物が育っていたのです。
 水の国の人々は最初、怪しみながらも喜びました。食料が勝手に生えてきたのですから。
 ですが……その幸運は長くは続きませんでした。
 豊富な食べ物がある。それは何も人間だけが知ることではなくて。
 いつしか、水の国の川辺には水と食料を求めて、内陸部から多くの草食動物が訪れるよう
になりました。それは即ち、やがて彼らを餌にする肉食動物を引き寄せる事にもなります。
 少しずつ、しかし日を追うごとに居合わせた水の国の人々が肉食動物に襲われる事件が多
発するようになりました。
 水の国の王様は皆に注意するように呼び掛けましたが、元より水の国は水資源の国です。
多くの人々は川から採れる魚介類や海藻を売る漁民でした。
 ……水の国の人達は、酷く困りました。

 二つは、元々分布していた自然が壊されていくことです。
 緑の国とそれ以外の国は、国境線を兼ねる大河によってお互いに異なった生態系を形成し
ていたのです。しかしある時空から落ちてきた種は、そんな両者のバランスを崩しました。
 総じて緑の国の植物は繁殖力が強く、僅かな土地でもすくすくと育ちました。これは緑の
国の人々が長年掛けて品種改良に取り組んできた成果でもあります。
 しかし、それが結果的にこの異変を深刻にしました。
 緑の国の“外来種”は、丘の国や鉄の国に自生する植物を、ひいては動物達を大混乱に陥
れました。それまで緩やかに調和を保っていた山の自然が崩れ出しました。人々はこの突然
の外来種に怯えました。
 食べる、という選択肢は殆どの人々にとって頭に上りませんでした。既にこれらの新種達
は彼らにとって外敵とみなされていたのです。
 ……丘の国の人達は、酷く困りました。
 
 更に三つ目は、地面の奥深くにまで及びます。
 この変化に一番頭を悩ませたのは、鉄の国でした。
 元々緑が少なく、代わりに鉱脈が多いこの国では、鉄を始めとした金属の採掘が大事な産
業となっていました。実際にその資源を活用し、鉄の国は強い軍隊を持っています。
 ですが、緑の国の強く逞しい植物達は、更に更にとその根を地中深くまで伸ばしていきま
した。故に固く結びついていた地盤は徐々に緩み始め、鉄の国のあちこちで鉱山内の落盤事
故が相次ぐようになりました。
 生き残った鉱夫達は口を揃えて証言しました。
「坑道の中に、でっかい根っこが生えてたんだよ」
 鉄の国の王様は、短い顎鬚を擦りながら気難しい顔をしました。
 これほどの強く逞しい植物は、この国には存在しない。あるとすれば──緑の国だと。
 このままでは国の大事な産業である鉱山開発が出来なくなってしまいます。それは即ち鉄
などの金属が自前で調達できなくなる事であり、同時にこの国を強くしていた軍隊の弱体化
をも意味するのです。
 ……鉄の国の人達は、酷く困りました。

 それから何年の歳月が経ったでしょう。ある時、水の国・鉄の国・丘の国の三国の王様達
は緑の国に押し寄せ、王様に詰め寄りました。
 曰く、このままでは民が漁をできずに死んでしまう。
 曰く、このままでは国中が見知らぬ緑に壊されてしまう。
 曰く、このままでは殆どの鉱山が使い物にならなくなってしまう。
『それもこれも、全て緑の国(おまえたち)の所為だ!』
 そんな激しい文句をつけられた緑の国の王様は、ほとほと困りました。
 何故なら、自分達は自国の植物をばら撒いた覚えがないからです。百歩譲ってこの国の誰
かがそれを実行したのだとしても、国同士の揉め事に発展すれば、その責任はやはり王であ
る自分に押し寄せてきます。
 ですが、王様は彼らを宥めることしか出来ませんでした。
 もう元に戻す術を、誰も持っていなかったのです。何よりこうして揉めている間も、強く
逞しい植物達はぐんぐんと三国のあちこちで増殖を続けています。
「……ならば、こちらにも考えがある」
 やがて鉄の国の王様が痺れを切らしました。水の国の王様も、丘の国の王様も頷きます。
「これは緑の国による侵略行為に等しい。我々は国を守る為、緑の国に宣戦布告する!」

 戦争が始まりました。
 しかし、結果は始めから目に見えていたと言っていいでしょう。
 何せ相手は強力な軍隊を持つ鉄の国と、水の国・丘の国の連合軍です。農業にこそ長ける
緑の国でしたが、のんびり穏やかな国民性は争い事にはまるで向いていなかったのです。
 更に状況は、砂の国の連合軍参加によって一層悪化に一途を辿りました。
 とはいえ、砂の国はその土地柄、緑の国の植物の悪影響は受けていません(そもそも種が
芽吹かずに終わっていたのですから)。
 理由は──緑の国の豊かな土地でした。
 元より荒野ばかりで厳しい自然。しかし一方で山一つを越えれば、こんなにも豊かな土地
が広がっている……。内心、砂の国の人々は憧れ、そして恨んでいたのです。
 鉄の国はこの参戦を歓迎しました。そして『勝利の暁には、緑の国をくれてやる』と約束
していたのです。
 戦いは凄惨を極めました。
 先ず水の国の軍艦が大河を渡る橋代わりとなり、鉄の国の軍隊を中心とした連合軍を緑の
国の領内へと誘いました。
 あとは、数に任せた殺戮が始まります。
 何とか追い返そうとした緑の国の兵隊達は勿論、四ヶ国は女子供も含めて皆殺しにしてい
きました。何よりもこれまで散々自分達を苦しめてきた、緑の国の植物を一つ残らず焼き払
っていきました。
 戦いは一月足らずで終わりました。緑の国は、呆気なく滅んだのです。
 かつて緑豊かだっ土地は、その土壌を残して焼け野原になり、代わりに瓦礫と死体の山が
あちこちに転がりました。生の匂いは消え去り、むせ返るほどの死の臭いが充満しました。
 ≪緑の国≫は、こうして≪灰の国≫に為ったのです。

 ──全ては、些細なことから。
 しかし一度燃え上がったチカラは、中々止める術を持たなくて。
 これは「領分」を超えたが故に起きてしまった、とある国々の物語。
                                      (了)

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  1. 2012/10/14(日) 18:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

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