日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(書棚)感想:来楽零『哀しみキメラ』

書名:哀しみキメラ
著者:来楽零
出版:電撃文庫(2006年)
分類:ライトノベル

その日、俺達は“ヒト”ではなく“モノ”に為った──。
これは唐突なまでに人間と異形の狭間に落とされた四人の男女の、揺れ動く心と
その先を選ぶ選択の物語。


今回は第12回電撃文庫大賞金賞受賞作「哀しみキメラ」の読書感想です。
実は発行された当時、個人的に目を惹いた(受賞作という点もですが、何よりも萌え媚びた
作風では無さそうという理由で)一作だったのですが、結局今回まで手が伸びていなかった
のですよね……。大まかな粗筋は以下の通り。

物語は矢代純、十文字誠、水藤深矢、早瀬綾佳の四人がある日偶然居合わせたエレベーター
の中で閉じ込められてしまうことから始まります。
戸惑う四人、そこに襲い掛かってきた謎の異形。しかし気が付けば異形の姿は無く。
しかしその日を境に、四人の身は不気味な変化が現れ始めます。
突然の視力回復、明らかに尋常ではない治癒力、幽霊が見えるようになる、そして……幾ら
食べても満たされない飢え。
そんな中、現れたモノ祓い師(退魔師の類)を名乗る男・七倉。
実は四人の身に起きた異変は、彼が寸での所で逃がしてしまった瀕死の“モノ”──物の怪
の類によるものだという。モノは生き延びる為に見つけた人間──四人を魂ごと喰らおうと
したが、既に弱りきっていたが為に逆に四人に取り込まれてしまったのだと。
謂わば四人は人間(ヒト)と異形(モノ)が綯い交ぜになった状態──キメラ。
故に、もう彼らは通常の食事では飢えが満たせない。モノとして他のモノを捕食しなければ
ならない身になってしまった。
戸惑いながらも、半異形と化した選択肢の無い四人は七倉の庇護の下、モノを狩りつつ喰い
つつ共同生活を送ることになるのだが──という内容。

本作を読んで思ったことは『人間が複数いれば物語は作れる』という言葉を、改めて思い起
こされたことです。
この物語には所謂「萌え要素」のような、世界観を装飾する華美さはあまり見られません。
一応、モノ(物の怪)といったオカルトチックな設定が根っこにありますが、描かれている
のはその大半が“人間の姿をした異形”に為ってしまった四人の心の揺らぎ──動揺は勿論
ながら、何よりも人外の身である事実と如何向き合うのか──に費やされています。
僕自身を始め、今日びストーリーを組む際にはどうしても世界観にゴテゴテをと設定を組み
込んでしまいがちなように思うのですが、こうして只管人物同士の心の動きを描いて物語と
するスタンスには正直感心しきりでありました。
自分も見かけの派手さ(設定で着飾ること)に引っ張られぬ、心理を文字に起こせるという
小説媒体最大級のメリットをもっと活かし、磨かないとなあと襟を正した次第です。
(尤も、それが今日のニーズに合っているかは疑問符ではありますが……。登場キャラ達を
深読みする余力というか、真面目さよりも娯楽としての性格を求められているように、僕自
身は思い、しょんぼりとしてしまう所がありますから……)

日々モノに近付きつつある自分を自覚しながらも、人間として在りたいと願い迷う矢代。
目的の為には手段を選ばない──その為にしばしば矢代と衝突することになる──十文字。
恵まれた環境の中にいたかつての自分と現在を見比べ、密かに苦悩する医者の息子・水藤。
一見可愛らしい容姿ながら実は結構跳ね返りが強く、しかし人恋しさも抱く紅一点・早瀬。
加えて、自身の不手際で四人を半異形にしてしまった自責の念に苦しむ七倉、矢代の幼馴染
で恋人もである紗也、善良な水藤の妹・涼子などが加わり、物語はゆっくりと、しかし確実
に季節を進めながら彼ら四人を“人外”の苦難へと押し進めていきます。

強いて言うなら、もっと異形としての「飢え」の描出にもっと言葉を割いてほしかったなぁ
という感想がありますね(その土台があって、人外としての苦悩もリアルになる筈で)。
ですが全体的に心理描出を始め、筆致は僕の好みのテイストです。
本作は決して明るく前向きな物語・結末──所謂ハッピーエンドな大団円とはいかない物語
なのですが、それもまた良き余韻なのだろうと考えます。
『せめて物語の中では救われて欲しいんだよ』
そんなかつての友人の言葉が今も時折頭の片隅を過ぎるのですが、やはりそれでも僕はただ
“明るい光”よりも“闇に差す光”を描きたいなと思うのです。一時の安寧に資することも
いいですが、やはり誰かを豊かにする、その一助を提供したいなあと欲するのです。
(余計なお世話なんでしょうけどね……。所詮はエゴじゃないかというか)

人の心というものは複雑怪奇で、言葉で理解できるものには……中々出来ない。
それでも、やっぱり僕は書くんだろうな。書きたいと思うんだろうなぁと。
迂遠な方法かもしれませんが、誰かの心に光を差し込ませるには、むしろ闇をよくよく知ら
ねば、考え続けそれらを晴らす本質(のようなもの?解?)を探らねばと思うのです。

たとえ人外にならなくとも、誰の中にも“怪物”はいるのですから──。

<長月的評価>
文章:★★★☆☆(心理描写を中心に力有り。文体が変な詩人になっていないのも好感触)
技巧:★★★☆☆(四人+αの群像的展開、その書き分けは自分も勉強の余地ありです)
物語:★★★★☆(全体として淡白に進むストーリー。それでも着飾らない世界が好印象)

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  1. 2012/09/24(月) 16:00:00|
  2. 【読書棚】
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:4
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コメント

この作品を比較的最近読んだ人間がここに一人。
これ、話の核となる登場人物達の想いってのは読んでてひしひしと感じさせられて好印象だったのですが、ラノベたらしめている妖魔やら何やらその辺の伝奇要素がむしろ不純物のように感じられてしょうがなかったですね。
登場人物たちの想いが純粋だっただけに。
  1. 2012/09/26(水) 01:38:35 |
  2. URL |
  3. 4E #-
  4. [ 編集 ]

おお、此方ではお初になりますか。お久しぶりです。レスポンスありがとうございますm(_ _)m
(というか、読書感想でレスくれたのは4Eさんが初めてな気がする)

仰る通り、この手の小説は別にラノベじゃなくてよくね?という感はありますねぇ……。
それだけ人間にフォーカスを当てて描かれているということなんだと思います。一々説明口調に
もならず、感情を「悟れよ」という態で書き進められているのを見ると、昨今の分かり易さ・娯楽性
に力点が置かれたラノベとは毛色が違うなぁと思いますね(僕はこっちの方が断然好みなんですが)
だからこそ4Eさんも、物の怪が要素として組まれていることに引っ掛かりを覚えたのではないかと。

まだまだ、人間を描くそれ自体の修行が足りない。
いや、人間というものをもっとつぶさに観るようにしないと……φ(・_・;)

  1. 2012/09/26(水) 09:28:35 |
  2. URL |
  3. 長月 #oOZ748FU
  4. [ 編集 ]

 長岡さんの感想文を見て、とある作品を思い出したので、失礼ながらコメントさせていただきました。
 思い出した作品とは二つあり、ストーリーが似ているお勧め作品と、長岡さんの『人物同士の心の動きを描いて物語とするスタンス』というコメントについてのお勧め作品です。

 前者の作品については原作がアニメなのですが、GONZOが出している『RED GARDEN』という作品です。原作はアニメですが、漫画でも小説でも出ています。ストーリーは、四人の少女が何の関係もない二つの勢力争いに巻き込まれ、ある日突然死んでしまいます。だけど、片方の勢力に助けられ、仮の肉体で生きられる事に。しかし、生きるには敵対勢力の化物と戦わなければならず、そうしなければ死んでしまう。四人の少女達は『生きる』という事に悩みながらも、敵対勢力と戦うというもの。自分の死んだ事に対する動揺と自分とは何なのか、『生きる』とは何なのか、疑問を模索する少女達。そういう日常から非日常に行き、その地点で日常をどう捉え、今の自分を違った視線から見てどう考えるかが中々面白いのでお勧めです。

 後者の作品については、第16回日本ホラー小説大賞長編賞を受賞した三田村志郎さんの『嘘神』という作品です。角川ホラーから出ています。ストーリーは単純に密室からの脱出。それもある人物とのゲームをして脱出するというものとなっています。この本の構成が登場人物の感情や思い、考えのみで時間経過が繋がれています。つまり、特定の誰かでも無く、神様視点でも無く、登場人物を一人一人、一人称で描き物事を進めていく、群像劇となっています。その物語の描き方は非常にスムーズで読むのに全くブレーキがかかりません。群像劇の特徴は別々の人物が描ける所にありますが、欠点は二つの物語が交差する感じになるので、若干の読みにくさを感じる所です。それも人数が増えていけばいくほどややこしくなります。しかし、この作品はそれが一切ありません。その書き方が中々に興味深いものです。勿論、物語も面白いのでお勧めです。

 正直、久しぶりに文を書いたので伝わり難い書き方だと思います。すみません。また、あまり多くの本を読んでいないのに語ってる口調になってしまい、すみません。本当はスカイプでチャット出来れば良かったのですが、長岡さんが中々INしていないようでして、コメントで書かせていただきました。
 拙く汚い文章ですみませんでした。
 コメントを書かせて頂いて有難う御座いました。
  1. 2012/09/30(日) 22:30:09 |
  2. URL |
  3. こっくん #-
  4. [ 編集 ]

レスポンスありがとうございます。お手数を掛けましたm(_ _;)m

実は先日、相棒機(10年来のノートPC)が遂にマザーボードから天寿を全うしたようでして……。
現在は家族のPCを間借りして使っているので、その本人が帰ってくる夜には基本的に使えないという環境
にあるのです。スマフォも持っていないですし、その所為でIN率はどうして落ちてしまっていて……;

お勧め作品について、確かに拝読しました。あまり読書頻度は多くありませんが、今度書店に足を運んだ
際には探してみようと思います。僕も他人に比べそう多くの本を読んでいる訳ではないですよ。謙遜は
お互いさまです。情報をやり取りして、各々の知層を積み重ねればいいのです(・ω・)b

INしている間は、出来るだけチャネルを開けておく事にしますね。
スカイプを始め「出没先」は、このブログの頭記事の追記内──更新履歴の前に記載してありますm(_ _)m
  1. 2012/10/01(月) 09:36:01 |
  2. URL |
  3. 長月 #oOZ748FU
  4. [ 編集 ]

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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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