日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(書棚)感想:入江君人『神さまのいない日曜日』

書名:神さまのいない日曜日
著者:入江君人
出版:ファンタジア文庫(2010年)
分類:ライトノベル

神様は、日曜日に世界を捨てた──。
生まれることも死ぬこともできなくなった世界。
『墓守』の少女は何を想う? 何を成す?


今回は第21回ファンタジア大賞受賞作です。此度読了したのは一巻だけですが、これも他の
ライトノベルの例に違わずシリーズ物になっており、現在七巻まで発行されているようです。
大まかなお話の粗筋は、次の通りです。

物語は、十五年前に神に捨てられた世界。
それまで普通に文明を営んでいた人々も、神の関与が薄れてしまったことで「新しい生命が
生まれない」「死者が死ねない(アンデット化)」状況に陥り大きく衰退しています。
そんな中で神が使わす『墓守』と呼ばれる存在だけが、死者を埋葬して“死なせられる”。
主人公の十二歳の少女・アイもそんな一人。だけど彼女にはある秘密があって……。
緩やかな破綻への道。それを一気に駆け抜けさせたのは、ある日姿を見せた、死ねない
死者らを駆る少年・自称“人喰い玩具(ハンプニー・ハンバート)”。
この出会いが、アイを外の世界へと押し遣り、彼女の成長を促す──といった内容。

ジャンルは(世界観からしても)ファンタジーなのですが、一通り読んでみて僕はむしろ
謎解き(ミステリ)色が強い作品だなと思いました。
一応、冒頭からちょっぴり──いや大分“異質”なセカイであることは度々示唆されます。
ですが本作は、それらを全面に押し出すという感じにはなっていません。あくまで世界観は
エッセンスとして。中心として描かれるのはメインのキャラクタであるアイとハンプニーの
二人の抱く思想や感情の変遷です。
村人から託された『墓守』としての責務を果たそうと、しかし年相応の幼さと豊かな感情が
冷徹を許さないアイ。
死ねない死者──徐々に“腐って”ゆく生きる屍達を忌み嫌い、せめて動けなくなるまでに
破壊して回る、自分勝手なまでに真っ直ぐな「正義」と「願い」を抱くハンプニー。
最初は村を滅ぼされた者・滅ぼした者として衝突ばかりの二人ですが、それでもアイは亡き
母が語っていたのと同じ名であるハンプニーを捨て切れることができず、そして彼らとの交
流と旅路の中で自分に隠された秘密に気付くことになります。
(ここの、秘密に“気付く”のがいい味です。誰かに“教わる”のではなく。そうしたプロ
セスに敢えてした事で彼女の成長がよりリアルに描かれているような気がします)

作中、ハンプニーはこの世界の破綻についてある仮説を語っています。
曰く「神は面倒臭くなったんじゃないか」「大雑把だけど人の願いは叶えている」と。
僕らの現実世界は、それこそ神様が全て緻密に計算したかのような物理法則が多くの事象を
支配しています。
でも……そんな彼の者が本当に世界を“捨てる”時、そんな緻密な理(ルール)は曖昧に
なってしまう。更に「不死」という人類永遠の夢を(まこと歪ながら)付け加えて。

彼の推測では『墓守』もまた、後発的に沸いた“生ける屍は嫌だ”という願いを叶える為に
使わされるようになったのではないか? そうも語られています。
これは僕個人の感慨ですが、生=善・死=悪というステレオタイプな価値観は「違う」と常
日頃思っています。単に生死の有無ではなく、尊ぶべきはその在り様である筈で……。
本作は割と緩やか(でも真面目な)テイストが一貫しています。
ですが──これは僕の印象なので確証はありませんが──著者はきっと、この物語の中で紡
いでいる以上に激情を胸奥抱いているのではなかろうかと思うのです。
物書きとは、ある種精神的な“飢餓感”がなければ務まりません。そもそもものを書こうと
すら思わないでしょう。何かを強く考える、想う、それらを吐き出し書き付ける──そんな
営みであると僕は考えます。経済的にはエンターテイメントの色合いがどうしても濃く目立
ってしまいますが、創作の本質とはもっと“利己的”で内発的なエネルギーである筈だと。
だから、一読して僕は考えさせられました。
ただ想いをストレートに物語に叩き込むだけでは……芸が無いのかなと。
入江氏のように想いの激情をぐっと堪え、物語の上ではより研磨したスマートなものに落と
し込む──表現者のより良い姿の提示を僕は見たような気がします。
“こんなセカイ、糞喰らえだ”
“生きていることは……本当に幸せか?”
しばしば僕は、想いの衝動に身を任せて叩き付け過ぎてしまっているのではないかと。
創作物は価値観を示すだけ。でも、その示す言の葉が暴力的では……思うほど誰かには響か
ないのかなぁって。

本作の分量は決して多くはありません。文体も割合淡白で、サクサクと読めました。
だけどリズム良く小気味良く綴られる言の葉はしっかりと残滓を描きながら進みます。
アイの正体、ハンプニーの願い。それらを互いが知り、叶えた時には……もう遅くて。
だけど彼女は乗り越えようと決心します。破綻した世界を救う──そんな目標を掲げた余韻
で以って、この物語は一先ずの幕を下ろしています。
謎解き要素があるので、あまりキャラクタ達の仔細は、ネタバレ的な事は語れません。
なので胸奥を刺す思惟とチグハグ感を、そっと愛でながら読んでみて下さい。
そして読み終えた後は、目を瞑ってじっと人の営みについて想いを馳せてみて下さい。

ただ只管に生という営みにあくせくしない、束の間のニチヨウビを。

<長月的評価>
文章:★★★☆☆(分量は多くないですが、内面描写と文章リズムの按配等は見習いたい)
技巧:★★★☆☆(謎解き要素がやや濃いめ。緩急をつけて駆けてゆく展開が好感触)
物語:★★★★☆(独特の、だけどある筈の悲壮感を緩やかに包み込むセカイも好感触)

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  1. 2012/09/07(金) 10:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

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