日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「神様はお客様」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:コンビニ、ピエロ、犬】
本文は追記部分からどうぞ↓


 サービス産業ってのはよく「人仕事」だなんて云われる。
 ただ黙々とモノを相手に作業をしていれば何とかなる物仕事とは違い、この手の業種とい
うのは(自分で線引きをしておかないと)本当に“際限”ってものが無い。
 俺が思うに、今の世の中やたら仕事を辛くてしょうがない感じてならないのは、こうした
人仕事──自分の心身を削ってでも働くということが当たり前になっている風潮の所為だ。
 まぁ、そうやって自分自身を「商品」として労働者になることで金を得ている面がある。
 だけど……違うよなぁって思うんだ。
 だってそうだろ? 割に合わな過ぎるって思わないか?
 自分のカラダは中々替えが効かないってのに、その対価が申し訳程度のカネ──しかも何
かと理由をつけて結局は取り上げられるばかり──だけだなんて。
 それが仕事ってもんだ。そう諦めてる、説教してくる奴は何度も見てきた。
 でもなぁ……。やっぱりおかしいんだよ。
 今、俺はコンビニのバイトでレジ打ちをしているんだが、客の中には栄養剤の類をついで
に買って帰るサラリーマンのオッサンとかもいる。
 片手にはさっきレンジでチンした弁当が下がっている。もう夜も更けてきたし、大方家に
帰った後は寂しくコンビニ弁当を突付いてさっさと寝ちまうんだろう。
 生活する為に、仕事をする。金を稼ぐってのが本来の理屈の筈。
 なのに──どう見たって俺達は逆のことをやりながら毎日を潰しているんじゃないか?
 実際には、カネを稼ぐ為に生きているみたいな毎日で。
 家でゆっくりする事の方がオプションみたいな現実で。
 バーコードを機器で読み取りながら、思う。
 この栄養剤も、きっとこのオッサンの身体を無理くり持ち上げる為に使われるんだろう。
そしてまた翌日からも、彼を消耗させながらカネカセギに駆り立てるのだろう。
 まさしく「何やってんだろう」って気分だ。
 掘った穴をまたその場で埋め直す、みたいな。
 俺達を消耗品みたく使ってカネを稼ぎ、更に今度はその疲れた俺達を癒すと銘打ってこう
いうドリンクなんかを売ってまたカネを稼ぐ──やるせないというか、意味があるんだろう
かとため息ばかりが出る無限ループだと思うんだよなぁ……。
 
 それが経済ってもんだろ。
 金は天下の回り物って云ってな。
 愚痴ってる暇があったらキリキリ働け。
 しんどいのは、皆同じなんだよ。
 
 店長とかは、きっと分かったフリして鬱陶しげにそんな台詞を繰り返すんだろうな……。
 “お客様は神様だ”なんて言葉もある。……俺からすりゃあ、そんなもん糞喰らえだが。
 やっぱり、見合わない気がする。歪な気がする。
 こっちは人仕事で自分を削り、模範的な店員っていう道化を演じるよう強いられている。
 でもその「神様」だっていう客は全然そんなことにはお構いなしだ。
 ガキは店の中でギャーギャー五月蝿いし、オバはんはちょっと気に入らない事があれば手
前勝手にクレームを付けてきやがる。同い年の連中だってマナーが悪い奴も少なくない──
そしてそれを以ってまるで若者(おれたち)だけが悪人みたいな言われ方をする。
 俺は──店(ここ)の狗なんかじゃねえ。俺は俺だ。
『賃金(カネ)を払うんだから働け』
 そういう取り決めでこうしてバイトをやっている身だが、正直こう“負担”ばっかりで金
が削られる一方な世の中じゃ、もう動機付けになってるのか怪しいと俺は思う訳で……。


 事実、買ってくれる“お客様”だから喜べる……なんて経験はとっくに出来なくなった。
 少し前にも、食料の買出しでもする気だったのか、やたら品数をお買い上げな丸太みたい
に太ったオッサンがいた。
 でもその時の俺は「こんなに持ってきやがって。手間が掛かる……」なんて思い、少なく
とも「店の売り上げに貢献してくれてありがとうございます」なんて気持ちには全然なれな
かった。……まぁ店の一員っていう帰属意識を嫌ってる自分には無茶な心理なんだろうが。
 その後には、やたら色気のある姉ちゃんがふらりとやって来た。
 レジに持ってきたのは、お洒落なパッケージの菓子や飲料、あと本のコーナーに入荷して
あったファッション雑誌が一冊。
 前のオッサンに比べればなんて事はなかったが……正直この姉ちゃんには困った。
 さっきも言ったが、やたら色気があったからだ。
 加えてセクシーというか、服装も露出気味で、カウンターで向かい合っている俺はどうに
も目のやり場に困った。
 これが仕事中でなけりゃあ、一端の男の性が疼いて目の保養になったのかもしれない。
 だが……こんな時に意識を乱すような相手は、正直邪魔だった。
 ただでさえ人仕事な業種なのだ。こっちはできるだけ目の前の仕事を「作業」として消化
したい。無闇に自分を消耗させたくない。
 なのにこの女……まるで自分の色気を見せつけるようにし、ぽつぽつ話しかけてくる。
 見た目からして何処ぞのお嬢さんなんだろう。
 色々あれは何これは何と俺に訊いてきやがったが、実際の所対する俺はかなりぞんざいに
応じたり、或いは聞こえない振りをしていたと記憶している。
 我ながら酷い店員だ。
 だが一々客との会話に乗ってやれるほど、俺には余力が無い。
 さっさとレジ打ちを捌いて「まいどあり」の一声。それとなく、この面倒くさい女を店か
ら追い出すように仕向けていた。

「──君か? 僕の女に色目を使ったのは」
 だが、そんな対応が暫くしてから俺に災いを持ってきた。
 先の女を追い出すように応対し終えてから数分。店に乗り込んできたのは眼鏡を掛けた、
如何にもエリートですと言わんばかりの風体の男だった。
 客……ではない。
 俺も、ちょうど顔を出していた店長やもう一人のバイトの女の子も、すぐに彼が纏うその
剣呑な雰囲気を感じ取って眉根を寄せる。
「い、色目? 何の事でしょう」
「とぼけるな。本人から全部聞いたぞ。レジ越しにお前がしつこく口説いてきたってな」
 俺は思わず眉間に深く深く皺を寄せて「はい?」と驚き、何よりも沸いてくる不快感を隠
し切れないでいた。
「……そのような事実はありませんが。お客様の勘違いではありませんか?」
 とんだ言い掛かりだ。むしろ色目を使ってきたのは向こうの方……。
 だからもしかしたらと思った。あの女が、邪険にされた腹いせにこの彼氏(おとこ)に嘘
を吹き込んだのではないか?
「勘違いだと? お前、それでも接客業か? 僕に謝れ、誠意をみせろ!」
 かといってすぐに感情を客にぶつけてしまう程、俺は向こう見ずではない。
 あくまで冷静に、俺は穏便に彼もまた帰そうとしたが、当の男の方はすっかり眼鏡の奥か
ら自分を仇のように睨みつけてそんな叫びまで上げてくる。
「……おい。ちょっと」
 状況は、明らかに俺に分が悪かった。
 誰か無罪だと語ってくる証人がいればよかったのだが、店長も同僚の娘もあの時は確か二
人とも奥に引っ込んでいたと記憶している。なら他の客は……望むべくもない。第一そこま
で、見ず知らずのコンビニ店員の肩を持ってくれるほど奇特な人間は出て来る筈もなく。
 様子を見ていた店長が、ちょいちょいと俺を店の奥へと手招きをしていた。
 嗚呼、バッチリ疑われている。俺は内心「クソが……と」舌打ちした。
 同僚の娘も黙って成り行きを見守っていたが、怯えているあの眼が自分を擁護してくれる
とは思えない。そもそも彼女とはあまり面と向かって話した事もない。
「お前、やってくれたな?」
「違いますよ。あんまりに雑談を仕掛けてきて五月蝿かったんで、それとなく捌いてただけ
なんです」
「馬鹿。俺はそんな事を聞いてるんじゃない。いいか? 強情なクレームを呼び込んじまっ
たらそれで“負け”なんだよ。こっちは客商売なんだ。分かってんのか、お前は」
 すっかり悪人扱いの出来上がりだった。
 一応、俺は引っ張られたスタッフルームで本当の事を話したが、店長はその点にはもう関
心を持っていなかった。
 保身といえば、それまで。
 だが店の責任者としては(世知辛いが)仕方のない対応なのかもしれない。
(何が“お客様は神様”だ……。糞喰らえだぜ、ホントに……)
 俺が納得できないと無言で睨み返すと、店長は大きくため息をついて頭を掻いた。
 そしてややあって「待ってろ。話をつけてくる」と俺を置いて、すたすたと一人レジの方
へと戻っていく。
「──……」
「──! ──!!」
 店の方では、まだ先の男がご立腹のようだった。
 でも先程の口ぶりからして、店長も自分を庇い立てする気はないのだろうなとも思った。
 部屋の奥で聞き耳を立てる俺が、部屋の入口でビクビクと不安そうな同僚の娘が、暫くの
間店長と男のやり取りを見守る。
「……分かりました。では一両日中に彼に解雇を言い渡します。これで収めて頂けますか」
「いいでしょう。くれぐれも今後はこのような者出さないようにして下さい」
 やがて聞こえてきたのは、店長から口に出されたのは、そんな解雇宣言(ことば)。
 そこでようやく溜飲が下がったらしく、男は徐々に落ち着きを取り戻していた。スーツの
襟元を弄り直して正し、眼鏡のブリッジを押さえながらそう店長に念を押している。
(……。よりによってクビかよ)
 俺はぼんやりとそんな事を思った。どっちが大人気ないんだか。
 だがそれでも、客商売にとって経営(じぶんたち)へのマイナスイメージは、不真面目な
バイト君を切り捨ててでも払拭したいものであるらしい。
「…………」
 本来ならこのまま稼ぎ口が無くなると慌てたり、今からでも謝りに出向くのが“常識”な
のかもしれない。
 だが、俺はそうはしなかった。そんな気にはなれなかった。
 それは単に反骨精神──理不尽さにへそを曲げたからではなくて。
 “これで辞められる”という、妙に満ち足りた安堵の念を強く感じていたからで……。


 夜の街、その一角にあるコンビニから一人の男性が出てきた。
 先程バイト青年にクレームをつけていた男だ。だがその表情にはその時の剣呑さは微塵も
宿しておらず、むしろ冷静で知的な佇まいを感じさせる。
「幸福度が上がっとる……? おい、チベンや。一体どうやって……」
「なぁに。ちょっと頭を使っただけですよ。ちょうどアヤノさんがいい踏み台を作ってくれ
ましたので、それを利用させて貰ったまでです」
 街灯の灯り、それらの死角に当たる薄暗い部分に近付き、そこに立っていた仲間らしき二
人に──何故か驚きの様子で──迎えられる彼。 
 内一人は、丸太のように太った中年男性だった。
 もう一人は、やたらに色気のある──先刻バイト青年が内心鬱陶しがって早々に捌き追い
出した女性だった。
 中年男性の怪訝と疑問に、彼はフッと笑って答える。
「ホテイさんもアヤノさんも、やり方が古典的過ぎるんですよ。今の時代、商売をやってい
る人間が必ずしも売り上げを期待している訳じゃない。男だから必ずしも色目を使えば喜ぶ
訳じゃない」
「しかしのう……。儂は商いの神じゃ、それ以外で人の幸せを造るなど……」
「私だって恋愛の神だから……。やっちゃった事を責めたって仕方ないけれど、あれじゃあ
まるで逆効果じゃない? 仕事を失くしたら困るのはあの子なのに、何で……」
 彼らは──いや三柱は、静かな戸惑いと嘆息とに分かれて佇んでいた。
「まぁ、僕は知恵の神ですからね。他の方々に比べれば彼らの変化には耳聡いですし」
 密かにこなす、人を幸せにする為の彼らの行脚。
 ただ祭壇にふんぞり返るだけでは駄目だと悟った、彼らの密かな奮闘模様。
「……変わってしまったんですよ。人も時代も、神(ぼくら)を必要としていた価値観も」
 だがそれでもきっと、人は“神は死んだ”と言い続けてゆく。
                                      (了)

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  1. 2012/08/19(日) 18:00:00|
  2. 週刊三題
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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