日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「星雲雑貨店」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:買い物、星、スーパー】
本文は追記部分からどうぞ↓


 遠い未来。人々は故郷から更に広大な世界を目指した。
 銀河という大海原。その開拓には膨大な時間と労力が費やされた。その邁進の途上で、少
なからぬ犠牲も出さざるを得ないこともあった。
 それでも、彼らは進んだ。全ては膨れ上がった同胞(なかま)達を養う為に。
 それでも、彼らは進んだ。たとえその開拓の旅路を異邦の者らに歓迎されずとも。
 時代がどれだけ変わっても“喰うこと”から人は逃れられないのだから。

「──やぁやぁ奥さん、どうだい? ちょっと見ていってはくれないかい?」
 とある星の雑貨店(スーパー)に立ち寄っていた彼女は、店内の中でふといつもとは違う
様子にはたと目を留めていた。
 ずらりと並ぶ陳列棚。その空きスペースに従業員らしき一人の男性が陣取り、行き交う客
達に(商売人の笑顔で)そう声を掛けていたのである。
 叩き売り。今の時代は随分と珍しくなった──もしかしたら絶滅危惧種ではないかとさえ
思われる手法だった。
「珍しいわね。こんな古典も古典な商売人さんなんて」
「ははっ、そうかもですねぇ。だけども奥さんみたいなお客もレアケースでしょうに」
「ふふ……。それもそうね。私、もう古い世代(オバサン)だし」
 尤も、こうして店に足を運んでいる自分達というのも希少ではある。
 大抵の物は銀河通販で注文すれば即日配達される今日なのだ。それでもわざわざ足を運ん
でいるというのは、ひとえに実際に手に取って確かめたい──穿った言い方をすれば商売人
側の宣伝文句を信じ切れない疑心があるからだとも言える。
「とんでもないですよ~。まだまだお若いじゃありませんか」
「あらあら。お世辞なら結構よ? でもまぁ、折角だから見せてくれる?」
 たとえ上っ面だけの会話でも、こうして生身のやり取りができる。それだけで彼女として
は足を運んだ甲斐があるというものだった。
 叩き売りの男性のお世辞に苦笑を返ししながらも、彼女がスペースの前に立ち止まってそ
う言うと彼は「毎度あり~」と少なからずほくそ笑んでいた。
「今回は『地球セール』をやっていましてね。まぁ掘り出し物を見つけて下さいと、そうい
う趣旨のモンでさぁ」
「地球? とっくに死んでる、あの?」
「そうですよぉ。確かにもうあそこはとても住めた場所じゃないですけど、当時は中々に繁
栄していたそうで。ええっと、確か……」
 言いながら、男性はドカドカと詰まれた箱の中を探り出すと先ずは掌サイズの商品を取り
出して見せてきた。
 そこには、掌で掴み切れるか否かといった大きめの光る塊。
 綺麗……。そう彼女は思ったが、はてこれは何だろうとも眉を寄せた。
「これはホウセキと云いましてね。地球の地の底から取れた鉱物だそうです。どうです? 
綺麗でしょう? 元はもっとゴツゴツしているんですが、当時の職人達がこうして削って磨
いて、輝きが増すように加工した上で売られていたそうです」
「へぇ……。随分とマメなのねぇ。でも、これが何の為に売られていたのかしら? 売られ
ていたってことはこれがお金になるって訳でもないのよね?」
「そうですね。えぇっと……うん、そうですね。多くは着飾る為の材料にしたり、富の象徴
として重宝されたみたいです。種類にもよりますが、どうやら掘り出せる量に限度があった
らしくて、それが裕福さに結び付いて捉えられたみたいですねぇ」
「なるほどねぇ……」
 男性は時折、傍の作業テーブルに置かれていたメモに目を落としつつ彼女の質問に答えて
いた。その間も白く透明なホウセキは緻密に削られた互いの表面を反射させ、店内の照明を
浴びて、キラキラとそこはかとなく己が輝きを主張しているかのようだった。
「……でも、結局はただの石な訳よね。それに大金を払う気は、しないわねぇ」
「……そうですか。じゃあ、別の物を出しましょうか」
 もしかしなくても始めに高い代物を売りつけようという魂胆だったのかもしれない。
 何処となく、笑顔の裏でしょぼんとしている彼を観察し、彼女は内心で緩みかけていた警
戒心を改めてピンを張り直していた。
「では、これはどうでしょう? 地球人(かれら)が愛用していたという端末です」
 次に彼が取り出したのは、またもや掌サイズの代物だった。
 といっても、今度はそこに輝く細工が施されている訳でもなさそうだった。掌に収まる程
の大きさ。形はやや縦長の長方形。その枠の中には暗い色をした鏡面……にも見えなくない
パーツが嵌め込まれている。
「端末? 随分と古いわねぇ……。ディスプレイは何処? この暗い所からホログラムする
のかしら?」
「まぁ何せ地球人の愛用品ですからねぇ。自分達にとっては骨董品(アンティーク)以外の
何物でもないですわな。えーと、どうやらこの凸凹を押したり、暗い部分を撫でたりする事
で操作していたようです。ディスプレイはこの暗い部分がそうだと書いてありますね。動力
が来たらここにデータが表示される仕組みだったみたいですね」
「へぇ……。随分とせせこましいのね。何でわざわざこんなに小さなモノに収めようと思っ
たのかしら? 見難いだけじゃない。たださえホログラムが無いんでしょう?」
「そう、ですね。まぁ大昔の技術ですから板切れにデータを出すだけでも大変だったんじゃ
ないですかね? だけども中にはこの手の熱心な蒐集家もいますし、それでなくともバラし
て部品だけを売り払っても──」
「ん~……別に私、蒐集癖(そういうの)無いから。それよりももっとちゃんとした物はな
いのかしら? 珍しい食べ物とか」
「……食べ物ですか。分かりました。ええと……」
 ホウセキからランクを落としたガジェットも、主婦には無用の長物であった。
 再び高説を遮られた男性はより一層しょぼんとしつつも、すぐにごそごそと別な箱を探り
始めた。そして彼女がふと視線を遣ると、先程までの自分達のやり取りを耳にしたらしく、
他の客達も少し距離を置いた様子見状態で周りを囲んでいることに気付く。
「じゃあ、これなんてどうです? クジラという魚の肉なんですが」
 そしてややあって男性が積み上げて缶詰の山に、彼女が周囲の客達が、先程よりもしかし
明らかに「おぉ?」と興味を引かれていた。
 男性も、そんな面々のようやくの好印象にホッとしたらしく、心なし声に力を込めて叩き
売りを再開する。
「何でもこのクジラという魚は当時の地球人よりも遥かに巨大だったようでしてね。彼らは
その巨体に果敢に挑んだといいます。こうして肉を食べるのは勿論、身体から取れる油も含
めてとことん丸々一匹を利用したそうですよ」
「へぇ……。でもそんなデカイのをどうやって捕まえてたんだろ?」
「そりゃあ浅瀬に追い込んだんだろう。デカイっつっても魚だからさ。身動きできなくなれ
ばあとは大昔の連中でも寄って集ってすれば殺れたろうよ」
「ご名答。実際、船団(ととう)を組んで、入り江に追い込んで倒したという記録が残って
いるみたいですね。当時の彼らも一匹捕ればかなり潤ったことでしょう」
 男性のメモ片手の解説に、彼女は勿論、周囲の客達もいつの間にか聞き入っていた。
 在りし日々の地球を、今は誰も知らない。
 伝聞では、地球人は比較的小柄だったそうだから、当時の漁は尚の事大変だったろう。
 そんな記憶の片鱗を、こんな場所で知ることができるとは……儲けものかもしれない。
「……でもさ、問題は味だよな。地球人が美味いと思っても俺達もそうだと限らねぇぞ?」
「確かに、そうだな」
「ねぇ店員さん。試食とかできないの?」
「えっ」
「そりゃあいいな。いいよな? これだけ数があるんだし少しぐらい」
「何なら試食代くらいは出すからよ。珍しいものを食えるんならさ」
「あ……はぁ、まぁ……」
 逞しさというものは、何処の星の庶民であろうと変わらぬのかもしれない。
 元より一対多数、売り手と買い手の関係だ。男性が突っ撥ね切れる筈もなかった。
 彼が曖昧ながらに頷くしかない、その反応を合図とするように、客達はわらわらと積まれ
た缶詰の前に集まってくる。
「お。思ったよりずっしりしてる」
「つーか缶切りないのか? 開けられねぇじゃん」
「あ、はい。今出しますので……」
 少しぐらい。その筈だったのだが、わらわらと寄って来た(そして地味に増えていた)客
達によって缶詰の山の三分の一近くが開封される結果になった。
 もぐもぐと。霜の走った赤みが彼らの口に運ばれる。
「お……? 結構美味いじゃん」
「そうかぁ? 肉の割にはあんま肉って感じがしないぞ?」
「それだけサッパリしてるって事でしょ? 私は好きよ、これ」
「……。今更だけど賞味期限大丈夫なのか、これ。まぁもう食っちまったけど……」
 評価は様々ではあったが、味自体は概ね好評であったようだ。
 物珍しさも手伝ったのであろうが、客達の食は進んだ。それに合わせ、売り手である男性
の表情は「拙い」を必死に隠したハラハラとしたものになっていた。
「? どうしたんだよ、オッサン」
「えっ。あ、いいえ……」
「まぁ寄って集って食い過ぎたかもなぁ。悪ぃな。何個か買うよ」
「お? そうですか。毎度ありがとうござ──」
 そんな時だった。営業スマイルを立て直そうとした彼の後ろ手から、客の一人が解説用の
メモをひったくったのは。
「あ。ちょっと」
「ん~……何だよ、賞味期限メモしてないのか。……? ハンホゲイ?」
 試食中、はたと賞味期限を気にしていた青年だった。
 彼は隙をついて男性からメモを掠め取ると、その記載を探した。
 だが彼が見つけてしまったのは、もっと“マズイ”内容だったのである。
「ホゲイ。クジラを捕まえること。当時の地球人の中にはクジラを知能の高い生き物だとし
て殺すことに強く反対していた。その強硬さはしばしば彼らの争いの元となり──」
「あ、あわわっ!?」
 思わず、試食していた客達の手が止まった。
 そしてその視線は自然とつい今し方まで自分達が口にしていた赤い肉、何よりもそんな歴
史を敢えて語らなかった──ネガティブな印象を与えまいと隠していたらしい──売り手の
男性へと向けられる。
「……何か、食う気失せたな」
「ああ。俺も」
「美味いけど、曰く付きってのはなぁ……」
「オッサン。流石にやり方があくどいんじゃねぇか?」
「ま、食っちまった手前、多少の手心は出してやるけどさ……」
 男性が冷や汗を書く中で、試食会は早急にお開きになっていた。
 食べるだけ食べてそそくさとその場を後にしてしまう者もいれば、白眼視を男性に向ける
者、或いは情け程度の代金を置いてゆく者もいた。
 再び『地球セール』の場周囲は静かになり始めた。
 残っていたのは若干名の客らと、最初やり取りをしていた女性だけである。
「ぬぅ……」
 男性は、バツが悪そうにしていた。
 もうバレてしまっているのだろうと思われた。彼が敢えて高い珍しいものから売りつけよ
うとしていた、その魂胆が。
「……ねぇ。もっと普通なものはないの? 一般の食品は」
 だが、場を繕うようにそっとそんな質問を投げ掛けたのは、他ならぬ先の女性だった。
 男性は数度目を瞬かせていた。
 これは、猶予なのだろう。挽回のチャンスなのだろう。
 彼は「はぁ~」と大きく息を吐き、呼吸を整え直していた。そしてゴトンと、箱の山の中
から一際大きな瓶漬けをテーブル上に並べて声を張る。
「負けたよ、奥さん。こいつが一番お買い得だ。“地球人の切り身”各種安売り! 肉の淡
白さと栄養価はもう説明するまでも無いですよね? 在庫一斉処分だ。安いよ安いよォ!」
「ふふっ。待ってました。じゃあ四パック下さる? 今夜のおかずにしますわ」

 時代がどれだけ変わっても、ヒトは喰うことから逃れられない。
 人間を食糧にしてしまう、遠い星々の宇宙人(じゅうにん)達であっても、それは例外で
はないのである。
                                      (了)

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  1. 2012/08/01(水) 18:00:00|
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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