日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「デジタル・デバイディング」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:鋏、病気、携帯電話】
本文は追記部分からどうぞ↓


 今日は、高度な情報化社会だと云われて久しい。
 しかしそれらは、所詮我々人間の作り出した一個のシステムであることに変わりはない。
 元より機械文明の興りから始まっていたことなのだ。
 我々は問い掛ける。現在人は、テクノロジーを“使う”のではなく“使われて”しまって
いるのではなかろうかと。
 技術は、善きコンセンサスの下に使われてこそ善きツールとなる筈である。
 しかし現状は、これらテクノロジーを不正に悪用する輩達の所為で電子の海は無法地帯と
化していると(残念ながら)言えるであろう。
 ただ我々は、もっと「自由」にセカイと繋がりたいだけなのだ。
 なのに……世の眼は少なからずそんな声に冷ややかだ。
 それはひとえに、このような輩が電子の海にのさばっているからであろう。
 一が悪なら十まで悪とは限らない。しかし人間という生き物は中々視座を細かくできない
生き物であるようで“穴の開いた靴下は駄目”と判じてしまう傾向にある。そしてそれらを
個別に“説得”するのは至難の業だ。下手をすれば彼らに我々もその“穴”の側の輩と指弾
されかねないからである。

 だからこそ、我々は此度立ち上がることにした。
 全ては……良きテクノロジーのために。
 今ここに、この時を以って、我々は悪しき輩(ユーザー)を駆逐する──。


「へぇ~? マジぃ? 超ウケるんだけどー?」
 では我々の闘い、その一部始終を此処に言及させよう。
 場所は地下鉄の車内だ。人々を分刻み秒刻みのスケジュールで運ぶ高速なる金属の長箱。
 時分によってはその内部は互いの存在によって窮屈になりかねない。だが全ては円滑なる
移動を実現させる為。たとえ“ラッシュ時”であろうとも、多くの人々は互いに物音を殺し
て目的の地に至るのを待つ。
「アハハハハハッ!! ひ~ひ~……ちょ、ごめん。腹捩れるって~マジで~!」
 だが、残念だが、そのような場所でも悪しき者は存在する。
 髪を小汚い茶色に染め、無数の装飾品で衣服をコーティングした若き女性──というには
あまりに慎みがないが──がそこにはいた。
 車内には老若男女、少なからぬ乗客らがいる。知覚できていない筈はないのだ。
 にも関わらず……彼女は先刻からずっと携帯電話を片耳に当て、ガチャガチャと装飾を揺
らして物音を立て、誰かとの通話に興じていた。
 それ“だけ”ならばまだ構わないという御仁も、もしかしたらいるやもしれない。
 だが問題は、彼女が周囲を省みぬ大声でその営みを続けているという点にある。
「──状況、開始!」
『イエッサー!!』
「え? ちょ……!?」
 遂行の前に周囲が被る迷惑(ひがい)を各自の目視と映像記録にて確認。我々は速やかに
この悪しき輩(ユーザー)の排除に移る。
 我々は一斉にこの女性を取り囲んだ。背後に窓はあるが、高速で走る電車の外へ飛び出す
など自殺行為だ。先ずこの女性(にょしょう)が取る行動ではあるまい。
 そして合図と共に、隊員(どうし)ら数人で彼女から携帯電話を没収する。
 当然彼女は驚き、抵抗しようとしたが、もう遅い。
「スーパーニッパー、用意!」
『イエッサー!』
 取り出したのは、鋼鉄もザックリと切断できる大型のニッパーだった。
 この日の為に我々が研究・開発した駆逐用ウェポン。勿論、この刃と切断力の前に掌サイ
ズの小さき電話が耐え切れる筈もない。開いた刃と刃の間にしっかりと固定し、操作をする
隊員(どうし)によって縦に真っ二つに。念の為、横にも裁断を加える。
「あぁぁぁぁッ……! あ、あんた達いきなり何すんのよ!?」
 彼女は憤っていた。当然だろう。悪しき輩(ユーザー)ほどこれらツールに依存し、そこ
から得られる不正に酔いしれているのだから。
「作戦完了。次へ往くぞ!」
 そして我々の作戦遂行を歓迎するかのように、電車は止まり、扉が開いた。
 まだまだ闘いは始まったばかりだ。
 我々は次なるステージへと歩を進めてゆく。

「……」「……」
 次なる作戦の場は、とあるオフィス街の一角にあった。
 現代社会の象徴ともいえる、無機質な半ガラス張りの建造物。
 その窓際にあるテーブルに対面し、一組の男女がいた。
 この状況で一昔前ならば、互いに会話に花を咲かせていても不自然ではないだろう。
 しかし……この二人はそんな語らいなど一切していなかった。
 同じ時、同じ場に居合わせながら、彼らは互いに自身の携帯端末を黙々と弄っていたので
ある。必然その視線は相手には向いていない。ただ自分の都合の良さにカスタマイズされた
情報の羅列にじっと目を通し、指先で静かに操作を続けている。
 テーブルの上には、書類が重なっていた。本来は打ち合わせの場だったのだ。
 しかし間が持たなくなり、こうして互いに端末内のセカイに篭もっている。それが我々が
傍目から目視・映像保存しても確認することができた。
「──状況、開始!」
『イエッサー!!』
「えっ?」「……ん?」
 意識が周りに向いていないというのは、ある意味我々にとって作戦遂行の追い風になって
くれる。我々が取り囲んだ時、彼らが顔を上げてこの状況を把握するには幾許かのタイム・
ラグを必要としていた。
「スタンロッド、用意!」
『イエッサー!』
 故にその間隙を逃すべくもない。
 我々が取り出したのは、一見警棒のようにも見える金属質の棍棒。
 だがそれだけではないのだ。この駆逐用ウェポンは手元にスイッチがあり、これをオンに
すると高圧の電流が発生するようになっている。
 今日のデジタル機器は、外部からの大きなエネルギーには無力なのである。
「うわっ!?」「な、何す──あぁぁぁっ!?」
 隊員(どうし)らが一斉に初撃の振り下ろしで彼らの手から端末を叩き落す。
 次いで二撃目で、今度は電流をオンにしてのインパクト。ものの数秒で彼らが先程まで拘
泥していたこれら端末は内部で焼き切れ、ただの鉄屑と化す。
「この野郎……! お前ら、何てことをして──」
「作戦完了。次へ往くぞ!」
 ツールに使われるな。リアルの他者がそこに居るのなら、直接語らうがいい。
 我々はすぐさまウェポンを仕舞い、また新たなステージへと赴く。

「ん~……。お? もうあの新曲がアップされてるや……」
 今度の現場は、昼間にも関わらず薄暗かった。
 カーテンも半開きなままで、部屋の照明も点いていない。
 代わりに室内を煌々と照らしているのは、パソコンのディスプレイの光のみである。
 その画面の前に座り込み、青年が独り、ぶつぶつと呟きながらマウスを操作していた。
「早速ダウンっと……」
 今日、電子の海には様々なコンテンツが溢れている。
 その奔放さが今日の「自由」さを象徴するのではあるが、一方でそのコンテンツの不正な
転載という問題もまた横行している。
 要するに、未だ“商品”として売り出されて程ないものを──或いは「自由」に「開放」
していないコンテンツを電子の海のユーザーが入手し流す。そしてそれらを他のユーザーも
入手することができる“海賊版”なるものが存在するのである。
 わざわざカネを払いたくない。タダで手に入るならそっちの方がいい──。それは欲望に
関して人間の否定できない到達点ではあろう。
 だが“フリーにしてくれないなら、自分達でフリーにしてやる”というロジックは、現状
この経済社会では許されていないのだ(製作元が事前に許諾している場合は別件として)。
「──状況、開始!」
『イエッサー!!』
「へっ? え? お、お前ら何処から……!?」
 ──リスペクトするなら、カネを払え。
 個人的にはその単一的手法は狭いと感じるが、それでも法は法なのである。
 実は、今回の作戦は少々厄介だ。
 他のケースに比べ、末端レベルにまで及んだ輩(ユーザー)には特定の解法は存在しない
と考えてよい。ただ単にメインツールを駆逐するだけでは、その行いを排除できないのだ。
「フルメタルハンマー、用意!」
『イエッサー!』
 しかしてその主力を攻めずして事は進まない。
 我々は駆逐用ウェポンを取り出し、この青年と彼のデスクトップパソコンを取り囲んだ。
 皆で手に握るのは、ずっしりと重い金属製の鎚。
 先端は棘付きの鉄球が装着されており、手元のブースター装置の加速力を伴うその振り下
ろしはどんな大規模なツールも破壊できる。
「うわぁぁぁッ!! や、止めろォォォ!!」
 数人掛りでこの主力機を排除する。残りの隊員(どうし)らで暴れ出す青年を羽交い絞め
にして押さえ込む。だが、それだけではまだ終わらない。
「見つけました! 外部保存用のツールです!」
「よくやった。それも同様に駆逐してくれ」
 隊員(どうし)らがその間に室内を捜索し、引き出しの中に隠された外部保存用のメモリ
を数個押収することに成功した。見た目は指一本ほどの長さしかないが、モノによっては旧
世代のメイン機器よりも遥かに大量のデータを保存することができる。
「や、やめ……ホント、マジでやめてく──」
「スタンロッド!」
 危ない所だった。これで彼も悪しき道から除外されてゆくだろう。
 我々は電流を迸らせたロッドを振り下ろし、この保存メモリも共に焼き切ったのだった。


 このように、我々の闘いは熾烈を極めた。
 しかしこの決起はすぐには終わらない。今や夕暮れで今日という日は終わってしまおうと
しているが、この闘いはこれから連日続くことだろう。
「──やれやれ……。やっと見つけたぞ」
「お前らだな? 今朝からあちこちで暴れ回ってる迷彩服姿の連中ってのは」
 だが……世は強き者の味方だというのだろうか。
 黄昏の中、次なるステージに向かおうとしていた我々の前に立ちはだかったのは、十数人
にも及ぶポリスメン。
 拙い……。嗅ぎ付けられたか。
 我々は散開して撒こうとしたが、既に彼らは四方八方から現れ我々を取り囲んでいた。
「器物損壊一八六件、傷害未遂七件。まぁよくも、これだけド派手にやらかしたもんだよ」
 じりじりっとポリスメンは包囲網を狭めてきた。
 我々は抵抗したが、闘いにおいて彼らは権力の庇護の下で訓練を詰んだ、我々よりも猛者
揃いのプロフェッショナルだ。……残念だが、我々の力では直接に敵う余地はない。
「さてっと……。とりあえず詳しい話は署で聞こうか。な?」
「おい。そこの野次馬連中をどうにかしろ! 出られないっての!」
 そして嵌められるは、金属製の輪状拘束具。
 彼らは、集まってくる群集らを掻き分けながら捕らえた我々を引っ張ってゆく。
 
 読者諸氏には申し訳ない。
 我々の闘いは、一時中断する以外になさそうだ。
                                      (了)

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  1. 2012/06/24(日) 18:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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